tag:blogger.com,1999:blog-23438105586918644152024-03-28T10:23:32.932+09:00人生論的映画評論Unknownnoreply@blogger.comBlogger425125tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-32824573182737668092012-01-27T13:38:00.001+09:002013-10-25T15:20:19.390+09:00浮雲('55) 成瀬巳喜男<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<br /></div>
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcoLSUvxnEqSg-qfCVWmdF7nBDxET-kuzW7f9BveWR7nz7FTvYvda_NJPpuUGjDBNFzCmsDs4_XdmWd-dzluLj_yw90K1tdBrPZsGzp-ZGXgoYOmK1WppSn7wsH5XjDdMy_29ehqHDQ3g/s1600/img_1506953_60087687_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcoLSUvxnEqSg-qfCVWmdF7nBDxET-kuzW7f9BveWR7nz7FTvYvda_NJPpuUGjDBNFzCmsDs4_XdmWd-dzluLj_yw90K1tdBrPZsGzp-ZGXgoYOmK1WppSn7wsH5XjDdMy_29ehqHDQ3g/s400/img_1506953_60087687_0.jpg" width="333" /></a></div>
<b><投げ入れる女、引き受けない男></b><br />
<br />
<br />
<br />
序 成瀬巳喜男との、偶然性の濃度の稀薄な邂逅が開かれて<br />
<br />
<br />
<br />
映画を観に行くことが最大の娯楽であった時期が、私にもあった。<br />
<br />
その経験は青少年期の記憶の内に深々と灼きついていて、そこで得た様々に刺激的な情報は、今でも私を新鮮にしてくれる何ものかになっている。<br />
<br />
私の映画三昧の生活は、脳内のアドレナリンを分泌させた、あの東京オリンピックをリアルタイムで観た1960年代半ばに始まった。高校時代だった。<br />
<br />
それまでも、祖父が地元の場末の映画館で清掃夫の仕事をしていた関係で、小さい頃から私は子供が普通に熱狂する類の娯楽映画に親しんでいた。<br />
<br />
その中心は、何と言っても東映時代劇。中村錦之助、大川橋蔵といった花形スターがスクリーン狭しと暴れまわる格好良さに、殆ど釘付けの状態だった。<br />
<br />
<br />
映画と言えば、ハッピーエンドの娯楽劇しか知らない私の内側に、風穴を開けるような衝撃が走った。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
二本の映画が、私の内面深くを突き刺してきたのである。<br />
<br />
その映画の名は、「動乱のベトナム」(注1)と「日本列島」。<br />
<br />
そこに描かれた世界は、私の日常と完全に乖離していた。<br />
<br />
だからそのインパクトが大きかったのである。<br />
<br />
世はまさに、ベトナム反戦のグローバルなうねりが時代を呑み込みつつあった頃だ。<br />
<br />
それまでテレビで、「判決」、「七人の刑事」、「人間の条件」などのシリアス・ドラマを好んでいた私は、社会に対する問題意識の萌芽があったので、映画の衝撃はストレートに突き刺さってきた。<br />
<br />
私も「何かやらなくてはならない」などと思いつつも、何をしていいのか分らなかった。<br />
<br />
だから暫くは単なるノンポリで、無教養な少年でしかなかった。<br />
<br />
観る映画も娯楽と社会派のごった煮で、何でもありだった。<br />
<br />
<br />
(注1)1965年に、新理研映画社が製作し、大映が配給した長編記録映画。ベトナム戦争の只中で、サイゴンを舞台に記録した映像の中身は、仏教徒の焼身自殺やアメリカ大使館爆破、ベトコンに対する壮絶な暴力や殺戮など、刺激的な内容に溢れていた。監督は赤佐正治。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
(注2)1965年、日活。吉原公一郎の原作(「小説日本列島」)を、当時デビュー二作目となる熊井啓が脚色、監督した反米プロパガンダ色の強い社会派ムービー。キネマ旬報第二位の評価を受けた。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgDDDS08AGUOPdL7_c_D6GQgq86DN7DA7ZMJZr6WdvXfRPt4W0mJYGC9q8RCk_EO_IlwriVfI4PMUBLMlUaacOMcweNaWp_ofaTF3UqUIw2iMUZym6qfN-tyO-mYz-zdseUS93JfdQHZBM/s1600/img_1480448_44921643_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgDDDS08AGUOPdL7_c_D6GQgq86DN7DA7ZMJZr6WdvXfRPt4W0mJYGC9q8RCk_EO_IlwriVfI4PMUBLMlUaacOMcweNaWp_ofaTF3UqUIw2iMUZym6qfN-tyO-mYz-zdseUS93JfdQHZBM/s1600/img_1480448_44921643_0.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「日本列島」より</span></td></tr>
</tbody></table>
そして私の観念もやがて左傾化していくが、それでもごった煮の映画三昧は変わらなかった。<br />
<br />
私が「浮雲」という映画と最初に出会ったのは、ちょうどそんな時だった。<br />
<br />
成瀬巳喜男という名も、その作品の名も知っていたが、しかしその知識は、当時、他の多くの映画愛好者がそうであったように、「『浮雲』の成瀬巳喜男」という範疇での理解を越えるものではなかった。<br />
<br />
しかし映画の内容は、ズブズブの大人の恋を経験したことがない私にとっても感銘深いものであった。その映画のどこに感動したか、今となっては不分明だが、とにかく心に残る印象深い作品であったことは間違いない。しかしそこまでだった。<br />
<br />
まもなく私の網膜には、「通俗映画」を遮断する幾重ものバリアが築かれて、そんな狭隘な社会的感性が認知する映像は、当然の如く、「社会派」作品に限定されるに至ったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhp9iF86Vm2C7wuuLH8jrYfMhzFDN1h_m5So01keA42DPrylQ5qvh1x88ENS0uxZRUNbRSNAb9HUYpRPMmUSrKwsx6bkvak5gG0-BZfbNCwqZ-KZl2OLS1JIeXgZ73PS_3-_AUbqjKrWre3/s1600/395px-Kim_Il_Song_Portrait-2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhp9iF86Vm2C7wuuLH8jrYfMhzFDN1h_m5So01keA42DPrylQ5qvh1x88ENS0uxZRUNbRSNAb9HUYpRPMmUSrKwsx6bkvak5gG0-BZfbNCwqZ-KZl2OLS1JIeXgZ73PS_3-_AUbqjKrWre3/s320/395px-Kim_Il_Song_Portrait-2.jpg" width="211" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">金日成の公式肖像画<span style="color: black; font-family: "MS 明朝","serif";">(<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">ウィキ</span>)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
「金日成伝」(白峯著 雄山閣刊)という分厚く赤い本(無論、当時、この手の著作が「トンデモ本」の類であることを知る由もない)を愛読する当時の私には、東映のヤクザ映画や大映の「座頭市」映画は許容できても、小津や溝口の映画は通俗の極み以外の何ものでもなかったのだ。<br />
<br />
そんな私がアルバイトを続けながら、30代に入ってなお企業への就職を厭悪(えんお)して、東京練馬区の片隅で補習塾を細々と経営する生活に入ったが、そこで経験した様々な事柄が、私の中に澱んでいた奇麗事の観念を払拭するに至ったのである。<br />
<br />
そこで何かが壊れ、何かが修正されつつ、未だ「確信」に届き得ないという不快な気分を延長させた状態で、自分の内側に温存されていった。<br />
<br />
それでも、壊れたものは内実がなく、無力なるイデオロギーであり、温存されたものは、それでも捨てられない人間学的、且つ、実存的な思いの束だったに違いない。<br />
<br />
30代半ばになって、私は再び映画三昧の生活に入っていった。<br />
<br />
しかし、今度は逆に娯楽映画を観ることができなくなってしまった。単に時間潰しだけの、面白いだけの映画に私の心は全く振れなくなってしまったのだ。<br />
<br />
それと同時に、それまで「通俗映画」と観念的に片付けていた作品の中に、珠玉のような輝きを放つ映画が存在することを知って、私は自分の中で何かが大きくシフトする流れを感じ取ったのである。<br />
<br />
成瀬巳喜男との、偶然性の濃度の稀薄な邂逅が開かれた。衝撃的だった。言葉に出せないほどだった。<br />
<br />
小津や黒澤は嫌というほど観てきたが、成瀬についての情報が表面的なものでしかなく、しかも「浮雲」以外の作品を観ていない自分の不明を恥じたほどである。<br />
<br />
素晴らしかった。観たものを人に話さざるを得ないような、名状し難い感動が私の中に溜まっていったが、それを話す相手がいなかった。<br />
<br />
成瀬について多くのことを知りたくて文献を求めたが、それもなかった。信じられなかった。当時、誰も成瀬のことを多く語っていなかったし、その作品を観る者も少なかったのである。<br />
<br />
そんなときに出会った一冊の本。<br />
<br />
「成瀬巳喜男 日常のきらめき」(キネマ旬報社)。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhu_OEaXuBt23L4zjF-ZDCfjDQKJfxm-M4Q4eS52tupPkPBmfXnWt6AfCyOlul72sAE0bSrmoRN-CzeFvXm6_nF2F8CkfKFLGFpziLFJ3dobc77C9WSB9soZ3VxrJbCD0x0yc0cSBvl-f7u/s1600/susanne.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhu_OEaXuBt23L4zjF-ZDCfjDQKJfxm-M4Q4eS52tupPkPBmfXnWt6AfCyOlul72sAE0bSrmoRN-CzeFvXm6_nF2F8CkfKFLGFpziLFJ3dobc77C9WSB9soZ3VxrJbCD0x0yc0cSBvl-f7u/s1600/susanne.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">スザンネ・シェアマン</span></td></tr>
</tbody></table>
その著者はスザンネ・シェアマン。<br />
<br />
日本在住のオーストラリアの研究者だった。それにも驚いた。しかし、私の行きつけの市内の図書館では、結局、この本しか置いていなかったのである。<br />
<br />
これほどの映像作家の解説本の少なさに、正直、驚きを禁じ得なかった。<br />
<br />
その理由が全く分らなかった。私は意地になって、成瀬の作品を繰り返し繰り返し観続けた。舐めるようにして、吟味するようにして観続けた。<br />
<br />
「井の中の蛙」とはよく言ったもので、私は知らなかったが、成瀬の再評価は当時既に始まっていて、都内の各館でも彼の作品の上映会が地味ながらも継続していたようだ。私は少し安堵した次第である。<br />
<br />
成瀬との出会いがなかったら、私はこの国の50年代映画の隠れた傑作と出会えなかったかも知れない。まして、戦前のサイレント映画まで鑑賞の対象を広げようとは思わなかったはずである。それもまた、成瀬の「夜ごとの夢」という作品のお陰である。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
成瀬は私にとって最高の映画監督であり、その作品は、私の曲線的な人生の、その細(ささ)やかなる糧になっていると断言できる。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHNFeNynjl5YuAvSGU4DaWDvnjIWlAkcBvz2-oy5NHmYcrHK2-ylbIxmZ2uPn6gX-XuHNULsUDkSL12HiicmHc6tk3p1m5CKwVsFXK39YuPg_lzSFUHnm2jRf3PIc32JeLSn1VlSWT3yo/s1600/o0579040010421943033.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="221" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHNFeNynjl5YuAvSGU4DaWDvnjIWlAkcBvz2-oy5NHmYcrHK2-ylbIxmZ2uPn6gX-XuHNULsUDkSL12HiicmHc6tk3p1m5CKwVsFXK39YuPg_lzSFUHnm2jRf3PIc32JeLSn1VlSWT3yo/s320/o0579040010421943033.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「稲妻」より</span></td></tr>
</tbody></table>
中でも、「浮雲」は、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/11/53.html">稲妻</a>」とともに私が最も愛好する作品である。<br />
<br />
その作品の完成度の高さに於いては、「流れる」という抜きん出た傑作に及ばないと私は勝手に思っているが、好みから言えば、私には「浮雲」しかないのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
1 終りが来ない滅入るような描写の連射 ―― その天晴れな表現宇宙<br />
<br />
<br />
<br />
―― 長い前置きになったが、その「浮雲」についての雑感から書いていくことにする。<br />
<br />
<br />
「浮雲」―― それは多分に諧謔性を含んだ一連の成瀬作品と明らかに距離を置くような、男と女の過剰なまでに暗鬱なる情念のドラマである。<br />
<br />
大体、ここまで男と女の心の奥の襞(ひだ)の部分まで描き切った映画が他にあっただろうか。<br />
<br />
時代がどのように移ろうと、男を求める女の気持ちが変わらないばかりに、時には冷笑し、弄(もてあそ)び、突き放し、惰性に流されていく小心で凡俗な男に縋りつくことを止められず、どこまでも狂おしいそんな自我を曝(さら)して生きた、痛々しいまでに哀切な女の振幅の記録。<br />
<br />
映像の大半は、この男と女の遣る瀬無い表情と、発展性のない会話に埋め尽くされる。<br />
<br />
滅入るような描写の連射に終りが来ないのだ。そんな天晴れな表現宇宙に脱帽する外なかった。<br />
<br />
<br />
女の死によって初めて知る女への深い愛、という安直な解釈で括るのは止めよう。<br />
<br />
男はただ、どこかで予期していた女の突然の死に狼狽(うろた)えただけなのかも知れぬ。<br />
<br />
男はいつもどこかで降りたかった物語の呆気ない結末に安堵しつつ、集中的に襲ってきた女へのノスタルジーに慟哭したのだろうか。<br />
<br />
一切が真実であるとも言えるし、何もかも幻想であるとも言えるのだ。<br />
<br />
時代の多少の制約を受けつつも、男と女の問題の闇の深さは限りなく普遍的だ。<br />
<br />
この映画は特別な人間の、特別な展開と軌跡を映し撮ったものではない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBrZLsKPWVU96anOxflZrNe_L62RdABpaOGuG4sUlvVG1nehd-1Buc6bKRKF-uq_-S-Y0Ee4AqZoI1N0WYMad3DBTGnYzA2FKCXSmN00E0W_9vtbTcEXwSeXN_vFUV-uvQWYm5TFwV_Jrf/s1600/012750.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="282" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBrZLsKPWVU96anOxflZrNe_L62RdABpaOGuG4sUlvVG1nehd-1Buc6bKRKF-uq_-S-Y0Ee4AqZoI1N0WYMad3DBTGnYzA2FKCXSmN00E0W_9vtbTcEXwSeXN_vFUV-uvQWYm5TFwV_Jrf/s400/012750.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">仏印での富岡</span></td></tr>
</tbody></table>
或いは、富岡とゆき子は私であり、あなたであり、その友人であるに違いない。<br />
<br />
だからこそ、多くの者は了解し得るであろう。愛はときめきである以上に、しばしば最も苦しくストレスフルなものであることを。<br />
<br />
ゆき子の哀しさにどこまで迫れるか。<br />
<br />
それは観る者の人生の色彩と、その微妙な濃度の差異によって決まるだろう。<br />
<br />
完成度の高さは別にして、この映画に対する評価はゆき子への感情移入の度合いによって分れるとも言える。<br />
<br />
少なくとも私にとって、この映画は世界でナンバーワンの超一級の作品である。<br />
<br />
ゆき子を演じた高峰秀子の演技は完璧すぎて、他の追随を許さない。<br />
<br />
全篇を通して流れる気だるさ含みの叙情的音楽もまた、映画の完成度を高めている。<br />
<br />
この日本映画史上の最高傑作を、私はこれからも幾たび観ることになるだろうか。<br />
<br />
繰り返し観ていく中で何かを新鮮にし、何かを補っていく。それはもう、殆ど私の趣味である。<br />
<br />
<br />
<br />
2 泣き崩れる女、俯く男<br />
<br />
<br />
<br />
―― 私の心の襞(ひだ)に永遠に灼きつくであろう「浮雲」のストーリーを、詳細に追っていこう。<br />
<br />
<br />
昭和21年初冬。<br />
<br />
一人の女が仏印(仏領インドシナ=現在のベトナム)から単身引き揚げて来た。<br />
<br />
まもなく女は、代々木上原にある男の家を訪ねていく。<br />
<br />
焼け跡の東京の風景は、この国の他の都市の多くがそうであったように、あまりに荒涼としていた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6863d6cwoQqHwboOn2NPyLDI2hKPwF1OnhqI8gjOU1BRqKay-7wlI0iPjWAxR9eQH7YYlc564n68s1EOuJIKAujKOX7wzV-Wh4Rnyl1j2F0uoPPkPb4fSsrigbKtjxVdAQOsYDfJP7N0/s1600/c0179469_7242712.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612408907538773826" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6863d6cwoQqHwboOn2NPyLDI2hKPwF1OnhqI8gjOU1BRqKay-7wlI0iPjWAxR9eQH7YYlc564n68s1EOuJIKAujKOX7wzV-Wh4Rnyl1j2F0uoPPkPb4fSsrigbKtjxVdAQOsYDfJP7N0/s400/c0179469_7242712.jpg" style="float: right; height: 254px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 337px;" /></a><br />
そこだけが何とか戦災から逃れたらしい、古寂(ふるさび)れた木造の一軒の平屋の前に女が立ち、玄関を開けるのを躊躇(ためら)う気持ちを振り切って、女はどの硝子にも筋交(すじか)いにテープの貼ってある格子戸を開け、「富岡さんいらっしゃいますか」と、玄関に出て来た50年配の上品な女性に向かって尋ねた。<br />
<br />
「ちょっと、お待ち下さいませ」<br />
<br />
言葉遣いも上品な婦人に促されて出て来たのは、これも上品だが、地味な出で立ちの30過ぎの印象を与える女性だった。<br />
<br />
明らかに、着の身着のままで訪問した女とはコントラストの外観を際立たせているが、映像に映し出された相手の女の生気のない印象は、この女の色気のなさを露呈しているようでもあった。<br />
<br />
その作った笑顔から鈍く光る金歯の造型が、いかにも婦人の年輪を感じさせるものがあったからだ。<br />
<br />
映画の冒頭のこの訪問シーンを、林芙美子の原作から検証してみよう。<br />
<br />
「電車で見る窓外の景色は大半が焼け野原で、何も彼も以前の姿は崩れ果ててしまっているような気がした。<br />
<br />
やっとその番地を探しあてて富岡の名刺の張りつけてある玄関を眼の前にして、ゆき子は妙に気おくれがしてならなかった。同居しているらしく、別の名札が二つばかり出ていた。荒れ果てた家で、どの硝子にも細かいテープでつぎたしてあった。<br />
<br />
夜来の雨で表われた矢竹が、箒(ほうき)のように、こわれた板塀に凭(もた)れかかっている。細君に顔をあわせるのが厭(いや)であったが、電報を打っても返事が来ないところをみると、自分で尋ねていくより方法がない。<br />
<br />
ゆき子は思い切って硝子のはまった格子戸を開け、農林省からの使いだと案内を乞うた。五十年配の品のいい老婦人が出て来て、すぐ奥へ引っこんだが、思いがけなく着物姿の背の高い富岡がのっそり玄関へ出て来た。富岡はさほど驚いた様子もなく、下駄をつっかけて外へ出ると、黙ってゆっくり歩き出した。ゆき子も後を追った」(「浮雲」林芙美子集 新潮日本文学より/筆者ルビ・段落構成)<br />
<br />
実は原作には、このとき富岡夫人は玄関に現れない。<br />
<br />
映像の中で、ここに夫人を登場させたのは、恐らく夫人の生気のない印象を観る者に、ストーリーの伏線として与えるためだろう。<br />
<br />
閑話休題。<br />
<br />
訪問した女の名は、幸田ゆき子。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLSSowUl466oU1BiDuZq5ZJtOAY467tE-Mv-sQILSAGsCbTR56BxRx9r8C1f5N1RmRqzGZlhrk14Nudy8iyB5dOi5FXrm_xoFwkI9EtLXDtsFgLi2LnpSQ4Wp3mkdsJrp3CU_wdo_g-LNW/s1600/8e585e29a174248e54b364d0063834a9.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="245" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLSSowUl466oU1BiDuZq5ZJtOAY467tE-Mv-sQILSAGsCbTR56BxRx9r8C1f5N1RmRqzGZlhrk14Nudy8iyB5dOi5FXrm_xoFwkI9EtLXDtsFgLi2LnpSQ4Wp3mkdsJrp3CU_wdo_g-LNW/s320/8e585e29a174248e54b364d0063834a9.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">幸田ゆき子</span></td></tr>
</tbody></table>
彼女は戦時中富岡の愛人であり、「妻と別れて君を待っている」という言葉を信じて、男を訪ねて来たのである。<br />
<br />
世紀末のようなまるで生命の律動を感じない風景の中を、二人はその律動に合わせるかのように、ゆっくりと、寄り添って歩いていく。<br />
<br />
映像全体を象徴する、いかにも気だるい音楽が、二人の後姿を包み込むように追い駆けていく。<br />
<br />
成瀬の映画音楽を担当した斎藤一郎のエキゾチックだが、しかし叙情的なメロディが、ここではまさに一級の「メロドラマ」の雰囲気を漂わせて、作品の中に完璧にフィットしていた。<br />
<br />
「元気だね。仏印のことを思うと内地は寒いだろう」<br />
「電報着いて?なぜ、返事くださらないの?」<br />
「どうせ東京に出てくると思った」<br />
<br />
男はわざわざ自分を訪ねてきた女に対して、初めからかわしていく態度を覗かせる。<br />
<br />
男が着替えに戻っている間、女は全く人いきれのない寂れた風景の中で、仏印で富岡と最初にあった日のことを思い出していた。<br />
<br />
二人は、今度は闇市のごった返した雑踏を潜り抜けて安ホテルに落ち着いた。<br />
<br />
「内地も変わったわねぇ。こんなに変わっているとは思わなかったわ」<br />
「敗戦だもん。変わらないのがどうかしてるさ」<br />
「遥々(はるばる)、引き揚げて来て・・・・」<br />
「君だけじゃないよ。引揚者は」<br />
「男はいいわ」<br />
「呑気だよ、女は」<br />
<br />
ゆき子は、まじまじと富岡の突き放したような表情を覗くだけ。<br />
<br />
そこには、明らかに愛し合った、ほんの少し前の関係との隔たりを感じさせる寂しさが映し出されていた。一切は幻想だったのか。<br />
<br />
「いつまでも、昔のこと考えても仕方がないだろう」<br />
「昔のことが、あなたと私には重大なんだわ。それを失くしたら、あなたも私もどこにもないんじゃないですか」<br />
<br />
終戦が、二人の関係を切ってしまった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi05Car1zbnDuSLolvteIlhD24Gp-XjZ-tUJnqY9oLzHPWA1BmmBfatIY-N9ize2X5Un6fPgDzoiKTZ4tBTvTyE4L-QUyPASH8Z9qpNSJGbvl_67OKCh1-BD7mymqljqvuRolqMbVy7VOs/s1600/37440f2fe95b89cac37fff1c4ee5a06b.jpg" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612408398453895986" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi05Car1zbnDuSLolvteIlhD24Gp-XjZ-tUJnqY9oLzHPWA1BmmBfatIY-N9ize2X5Un6fPgDzoiKTZ4tBTvTyE4L-QUyPASH8Z9qpNSJGbvl_67OKCh1-BD7mymqljqvuRolqMbVy7VOs/s400/37440f2fe95b89cac37fff1c4ee5a06b.jpg" style="float: right; height: 242px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 322px;" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">仏印でのロマンス</span></td></tr>
</tbody></table>
仏印での出来事は、富岡にとってどこまでも旅先でのゲームであり、日本に戻った生活こそが現実そのものの世界に他ならない。<br />
<br />
ゆき子には、それが心のどこかで理解できていたとはいえ、やはりどうしても消すことができない大切な記憶に他ならなかった。<br />
<br />
彼女には旅という観念がなく、それ以上に終戦という未曾有の歴史的出来事で、時間を区切っていく観念が全くなかったのである。<br />
<br />
富岡はそんなゆき子に、現金を包んだ封筒を徐(おもむろ)に差し出した。<br />
<br />
「いや!いらないわ。逃げてくの?私を捨てるつもりなのね。あなたに会いたい一心で戻って来たのに」<br />
<br />
「君に気の毒だと思うからだよ。正直に言えば、僕たちはあの頃夢を見ていたのさ。こんなこと言うと、君は怒るだろうが、日本へ戻って丸っ切り違う世界を見ると、家の者たちをこれ以上苦しめるのは酷だと思ったんだ。とにかく戦時中をだな、僕を待っていた者に、ひどい別れ方はできなくなってしまったんだよ。別れるより、仕方ないよ」<br />
<br />
「嫌よ!それじゃあ、あなたたちさえ良ければ、私のことはどうなってもいいの?そんな簡単なものなの」<br />
「君は疲れているんだ。自分のこと、よぅく考えてごらん」<br />
<br />
「初めっから、家や奥さんが大事なら、真面目に通したらいいのよ!・・・・・・別に奥さんを追い出したいなんて思わないけど、君が帰るまでにはきちんと解決して、奥さんとも別れて、さっぱりして君を迎えるなんて。そんなら玄関で会ったとき、奥さんたちとの前で、はっきり宣言したらいいのよ。日雇い人夫をしてでも二人で生きようだなんて!帰ってみれば虫けらのように、叩き捨てられるのね。勝手なもんだわ!」<br />
<br />
女はここで泣き崩れた。<br />
<br />
男は終始無言で、俯(うつむ)いているだけ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhq1otFR3aePZtgN0_fIvwSvfmth6oJQdlzRKZu-ouIYohxCw7hyphenhyphenQD1aDeeruWS-JBHQxGt1m_iZNF9cRL8fkMEgveOu_Sml-FKPtS8lyu2_-XsA0RqOOuqS8h3jjfTqhCoxzrUxmPDGMhR/s1600/101006_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhq1otFR3aePZtgN0_fIvwSvfmth6oJQdlzRKZu-ouIYohxCw7hyphenhyphenQD1aDeeruWS-JBHQxGt1m_iZNF9cRL8fkMEgveOu_Sml-FKPtS8lyu2_-XsA0RqOOuqS8h3jjfTqhCoxzrUxmPDGMhR/s400/101006_02.jpg" width="400" /></a></div>
ここに、男の側から別れを言い出したときの定番的な会話がある。<br />
<br />
捨てられることを予感しつつも、女の側からなお身を投げ入れていくどうしようもない感情のうねりがあって、男はただこの一時(いっとき)を耐えればいいという身勝手な思いによって、女の前でひたすら恭順するように座り続けているのだ。<br />
<br />
こんなとき、男の心中では大抵、他のことを考えることで遣り過ごしている。<br />
<br />
遣り過ごすことだけが、男にとって今、最も不可避なる態度であるからだ。<br />
<br />
その態度を陰鬱な表情を添えて、女の前に見せていればそれで済むことなのだ。<br />
<br />
重い債務的なものを引き受けない男の典型が、ここで存分に映し出されていた。<br />
<br />
<br />
<br />
3 男を追う女、皮肉を捨てる男 <br />
<br />
<br />
<br />
富岡と別れたゆき子は、生活のために娼婦になっていた。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIVA3Esxf0YW4IUeU8IkCe_eiuDOgCQSx9tNEuMG17Jciv1mP5ePKDEihHUs9h_aVOk0vrM2NlA_f1J-w1GIHfPnFActyFh9dg002-4Fsf-HSHpP-oLbtGuRUheDQnuWvs0ZoPO_2iyTY/s1600/a6f86704.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIVA3Esxf0YW4IUeU8IkCe_eiuDOgCQSx9tNEuMG17Jciv1mP5ePKDEihHUs9h_aVOk0vrM2NlA_f1J-w1GIHfPnFActyFh9dg002-4Fsf-HSHpP-oLbtGuRUheDQnuWvs0ZoPO_2iyTY/s400/a6f86704.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
それでも彼女は男を忘れられないでいた。ゆき子からの手紙を受け取った富岡は、外見的に殆ど娼婦と見間違えることのないゆき子を、そのバラック建ての粗末な造りの家に訪ねた。<br />
<br />
「幸福そうだね」<br />
「そう見える?」と睨むように言った後、「日干しにならなかったっていうだけね」と続けた。<br />
「羨ましいなあ」<br />
<br />
これも男の言葉。その言葉の内には、屈折した思いが隠されている。<br />
<br />
「何言ってんのよ。何が羨ましいの?こんな暮らしのどこが羨ましいの」<br />
<br />
当然、女は反発する。<br />
<br />
「・・・・何もかも上手くいかないとね、惨めに人の暮らしだけ羨ましくなるんだ」<br />
「人を馬鹿にしてる。男って勝手なもんだわ」<br />
<br />
自分の暮らし向きの不調を訴えながら、男はここでもまた、何とか工面した金を渡そうとするのだ。<br />
<br />
「もう遅いわ」<br />
<br />
女は男に視線を合わせずに、そう答えた。<br />
<br />
「ダラット(注3)に残って、あっちで一緒に暮らすんだったね」<br />
<br />
男はそれとなく未練を残すような反応をした。そこに、ゆき子のパトロンのような米兵が訪ねて来て、ゆき子は相手を中に入れずに、大男を抱えるようにして街路に消えて行った。<br />
<br />
富岡はそこに一人残されて、女の帰りを待っている。<br />
<br />
まもなく女が戻って来て、暗い室内に蝋燭(ろうそく)を灯して、米兵との経緯を話した。「どうして知り合ったんだ」という富岡の、未練を含むような問いかけがあったからだ。<br />
<br />
その米兵がまもなく帰国することを女が話したとき、男の反応には毒気があった。<br />
<br />
「また、次を探すんだね」<br />
<br />
ゆき子から、その米兵が如何に「いい人」であるかということを聞かされた富岡の皮肉は、明らかに嫉妬感の裏返しだった。<br />
<br />
「あなたって、そういう人よ」<br />
<br />
ゆき子には、そんな富岡のニヒルな態度の奥にあるものが透けて見える。そんな男に魅かれる自分の気持ちの説明し難さもまた、百も承知である。<br />
<br />
「今夜、泊まってもいいかい?」<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPoQgG-_RLcAlC89L9BP1h7aab1z4S0IdbBCMS_gNem0EedQtw2ah_jjCWVrM5WkNgDQmvgxjr4E0wA7XrTz56qFdfehS2wSwWjSyMNbz_EGzK9woEPw0nAaLq9Gb-y8YFcKNe5DD4UhLa/s1600/img_137897_12748286_8.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="189" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPoQgG-_RLcAlC89L9BP1h7aab1z4S0IdbBCMS_gNem0EedQtw2ah_jjCWVrM5WkNgDQmvgxjr4E0wA7XrTz56qFdfehS2wSwWjSyMNbz_EGzK9woEPw0nAaLq9Gb-y8YFcKNe5DD4UhLa/s320/img_137897_12748286_8.jpg" width="320" /></a></div>
この男が本音に近いところを剥(む)き出しにするのは、常に関係が作る空気を測って得た時宜に嵌った場面に於いてである。<br />
<br />
男はいつもどこかで計算しているのだ。女もそれを分っているから、相手の誇りを傷つけない程度の皮肉で返していく。<br />
<br />
しかし今、女は内側でプールされた感情を吐き出さざるを得ない心境にあった。<br />
<br />
「泊まるつもりで来たんじゃなかったの」<br />
「そのつもりさ」<br />
<br />
「嘘言ってる。急に泊まりたくなったんでしょ。分るわ。あたし一つ利口になった。あなたってやっぱりそんな人だったんだわ。あたしをすっかり眩(くら)ましたつもりで、女を甘く見ちゃいけないわ。まるで何一つできもしないで、あたしを馬鹿にしないでちょうだい。自分の都合のいいことばかり考えて、その程度で女をどうにかする気持ちって、貧弱なもんだわ」<br />
<br />
「君は逞しいさ。敬服するよ」<br />
「あなたの力じゃどうにもならないんでしょ。あたしと一緒に暮らすことができなければ、あたしの生活はあたしでやっていくんだから、そのつもりでいて下さいね」<br />
「邪魔はしないさ。邪魔はしないが、時々は遊びに来てもいいんだろ?」<br />
「いや!そんなの!」<br />
<br />
女はもう、それ以外にない激しい感情を返していく。 <br />
<br />
「営業妨害かね?」<br />
<br />
相手はどこまでも喰えない男なのだ。 <br />
<br />
「まあ・・・それがあなたの本心なのね」<br />
<br />
気まずい沈黙の後、男はそっと立ち上がり、静かに女の前から姿を消した。女は恐らくここまで言うつもりはなかったのだが、しかしその心の奥にあるものを、このときばかりは吐き出さざるを得なかったのである。<br />
<br />
それでも、女は男が恋しい。だから女は男を追った。急いで追った。しかし、そこに男はいなかった。女の表情に悔いの念が刻まれていた。<br />
<br />
<br />
(注3)フランス人によって開発されたベトナムの観光的な高原都市で、今や避暑地となっている。<br />
<br />
<br />
<br />
4 時代と接続しない男と女<br />
<br />
<br />
<br />
まもなく別れた男から連絡があり、女は嬉々として男を待った。<br />
<br />
千駄谷の駅前である。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhP3TZdz9Y2-XWP26Y9FtbYiTLFcQPNVC0LUFBPPI8cqHYXrQu-Vc3qm2PwzEpUVUPlTygADiY00ooklO3s2PuUh5QtOaeQ4RQ7173d86klzWT-fyjJr6LW1WFQgmxtXJSvpTNy4kYDFf8/s1600/14-3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhP3TZdz9Y2-XWP26Y9FtbYiTLFcQPNVC0LUFBPPI8cqHYXrQu-Vc3qm2PwzEpUVUPlTygADiY00ooklO3s2PuUh5QtOaeQ4RQ7173d86klzWT-fyjJr6LW1WFQgmxtXJSvpTNy4kYDFf8/s400/14-3.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">赤旗の行進・(イメージ画像・沖縄「5・15平和行進」)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
そこに赤旗を掲げた労働者たちの、まるで魂を解き放ったかのような力強い行進が列を組んで進んでいく。画面に収まり切れないエネルギーが駅前を澎湃(ほうはい)し、うねりを上げて空間を支配しているようだ。<br />
<br />
しかし全く時代と接続しない男と女が、その隊列を横切るように物憂げに歩いていく。<br />
<br />
世界がどれほど変わろうと、時代がどれほど移ろうと、その流れにクロスできない男と女。自分の内側に抱えた澱んだ感情に翻弄されて、二人は眩いばかりの陽光を背に浴びながら、そここだけは舗装されてある道路の定まったラインの上を、凭(もた)れるようにして歩いている。<br />
<br />
因みに、赤旗の行進の描写は原作にはない。<br />
<br />
しかしこの描写こそ、映像を通して最も印象的なシーンの一つであると言っていい。映像の固有の表現力が際立つ描写だった。<br />
<br />
「ねえ、どこまで歩くのよ」<br />
「渋谷にでも出てみようか」<br />
「あたしたちって、行くところがないみたいね」<br />
「そうだな・・・・どこか遠くへ行こうか」<br />
<br />
毒気をお互いに意識的に抜いた何気ない会話の中に、既に二人の関係の有りようを見事に映し出していた。<br />
<br />
「行くところがない」二人の関係世界だったが、取り敢えず、二人は旅に出た。<br />
<br />
<br />
<br />
5 空疎な浮遊感の中に ―― 置き去りにされた女、世俗と切れない男 <br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4KT7m2AuatmRpge_xtbYErjErahyphenhyphenkJtLDF_KQbhI0X9oMtL9Yh6_IDZx3K5Cu-z04aqTHgdIMTQXXJVFBV_qM3c6Jradc6O3bb3ex5YCOdRaL1-A0z4-sMe5vFfzny6exLc4y_GfwxVA/s1600/20110607110522.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="287" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4KT7m2AuatmRpge_xtbYErjErahyphenhyphenkJtLDF_KQbhI0X9oMtL9Yh6_IDZx3K5Cu-z04aqTHgdIMTQXXJVFBV_qM3c6Jradc6O3bb3ex5YCOdRaL1-A0z4-sMe5vFfzny6exLc4y_GfwxVA/s400/20110607110522.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
群馬県伊香保温泉。<br />
<br />
それが彼らが選択した「遠く」の世界だった。<br />
<br />
特急列車も満足に走っていないこの頃の人々にとって、伊香保への旅は、それなりに世俗と切れる精一杯のユートピアだったのだろうか。<br />
<br />
しかし二人は、どこへ行っても世俗とは切れなかったのである。<br />
<br />
伊香保温泉。正月である。<br />
<br />
しかし、二人がこもった部屋には、正月の厳粛な空気とは無縁な空疎な浮遊感があった。<br />
<br />
「・・・・あたし諦めちゃったの。気が向いたときがあったら、こうして会ってもらえばいいことよ」<br />
<br />
それには答えず、富岡はゆき子に切り出した。<br />
<br />
「・・・・君は死ぬとしたら、どんな方法がいいの?」<br />
「そうねぇ。青酸カリが一番楽なんでしょうね」<br />
「僕は君と榛名にでも登って、死ぬことを空想していたんだがね」<br />
「偶然だわ。あたしもそんなこと、この間考えたことあったのよ」<br />
<br />
一瞬、富岡はゆき子の顔をまじまじと見て、眼を逸(そ)らし、沈んだ表情で酒を飲み注いだ。<br />
<br />
「あなたそれで来たの?ここへ」<br />
<br />
冗談交じりに反応していたゆき子は、男の沈鬱さを前に表情を強張(こわば)らせた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEinisQjfdkpJ1XIwvInWmh6i8eEeJ3sm1Fdffd8-tCN3yrKw8ifusylANt25wx316prpFW_Lne1CcfejbvxJcxDdS0_mdhT_n8lnGWYDHP1kupoSGQJBad4VCZa5eJQq3UWYOh1SsLINdE/s1600/f0147840_23594629.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612441725685425458" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEinisQjfdkpJ1XIwvInWmh6i8eEeJ3sm1Fdffd8-tCN3yrKw8ifusylANt25wx316prpFW_Lne1CcfejbvxJcxDdS0_mdhT_n8lnGWYDHP1kupoSGQJBad4VCZa5eJQq3UWYOh1SsLINdE/s400/f0147840_23594629.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 251px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 315px;" /></a><br />
伊香保の温泉の湯に、二人は浸(つ)かっていた。<br />
<br />
「ねえ、あたし、あなたをもっと生きさせてあげたいのよ。いっそお正月をここで暮らしていかない?」<br />
「明日帰るよ。君とは死ねないよ。もっと美人じゃなくちゃ駄目だ」<br />
<br />
帰るつもりの富岡は、偶然出会った飲み屋の主人、清吉に時計を買ってもらって、おまけに主人の誘いでもう一晩温泉に泊まることになった。<br />
<br />
富岡はここで、清吉の年の離れた女房のおせいと知り合って、忽ちの内に男女の関係に発展してしまう。<br />
<br />
上京してダンサーになることを願うおせいにとって、富岡の存在は東京に誘ってくれる使者でもあった。<br />
<br />
ゆき子には、そんな関係の展開は疾(と)うに見透かしている。全て分っていても、男を恋うるゆき子は、そんな自堕落な男の前で嗚咽してしまうのだ。<br />
<br />
「どうしたんだい」<br />
「どうもしないわ」<br />
「疑っているのか・・・・少し歩いてみようか・・・・僕は神経衰弱なんだよ。寂しいんだ。どうにも遣り切れなくなるんだ」<br />
「・・・・あなたって大変な方なんだから」<br />
<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxq9dVzdPXY5D8iRVPKBozPUMZ1VV1ZkaQuymKiXvZlI04bq7afryF19JpHUKNg3o4h5Sq77QzoyUy5lEovyd6HpWLWoeeAj8kAiGQt28cF5wSN-mM8YS3D6EYnT-5VBFxmjHeU1aap2w/s1600/naruseukigumo6.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxq9dVzdPXY5D8iRVPKBozPUMZ1VV1ZkaQuymKiXvZlI04bq7afryF19JpHUKNg3o4h5Sq77QzoyUy5lEovyd6HpWLWoeeAj8kAiGQt28cF5wSN-mM8YS3D6EYnT-5VBFxmjHeU1aap2w/s400/naruseukigumo6.jpg" width="383" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">おせい(左)</span></td></tr>
</tbody></table>
ゆき子の涙は最後まで止まらない。既に諦めている。<br />
<br />
<br />
<br />
6 暗い線路沿いの道を、夫婦のような歩調を刻む男と女<br />
<br />
<br />
<br />
結局、二人は伊香保での滞在を切り上げて帰郷した。<br />
<br />
「まだ気にしているのか」と男は、ゆき子の粗末な家で、その引き摺っている思いを確かめる。<br />
「あなたって怖い人だわ。自分のことばかり可愛いんでしょ」<br />
「可愛いいから生きるのに未練があるんだ。死ぬのは痛いからな。もうそんな勇気もないね」<br />
「しょうがない人ね。それで他人にはよく見えるんだからいいわ。見栄坊で、移り気で、そのくせ気が小さくて、酒の力で大胆になって、気取り屋で・・・・」<br />
「気取り屋か、それからまだあるだろ?悪いところが」<br />
「ええ、人間の狡さは一杯持って、隠している人なのよ。そのくせ、事業の方にはてんで頭が働かないところはお役人的なんでしょ」<br />
<br />
こんな気だるい会話しか、二人は繋げない。<br />
<br />
それでも別れられない。男の感情も捨てられてないが、女のそれはもっと捨てられてないからだ。伊香保に残したおせいへの嫉妬感も、当然捨てられていない。<br />
<br />
そこに女が触れたとき、男はきっぱりと言った。<br />
<br />
「もう遅い。捨ててきた。人生は別れ際と勘定時が大切だからな」<br />
<br />
しかし、男はおせいと別れていなかった。<br />
<br />
上京したおせいはアパートを借りて、そこに富岡も同棲していたのである。<br />
<br />
何もかも分っているゆき子だが、それでも浮気者たちの仮の巣を訪ねていく。おせいはそこにいた。<br />
<br />
富岡が留守であることを知って、部屋で待たせてもらうというゆき子の態度に、おせいはきっぱりと言い切った。<br />
<br />
「あの人、奥様の方にお帰りになってるんです。昨日いらしたばっかりだから、当分ここにはいらっしゃらないんですけど。奥様もお具合が悪いもんですから」<br />
<br />
そんな若い娘の嘘を見抜いたゆき子は、外出したおせいに入れ替わるように、一人寂しく他人の部屋で待っていた。裏切られてもなお諦めきれない感情が、女の中で哀しいまでに澱んでいる。<br />
<br />
その女の心に合わせるように、男は部屋に戻って来た。<br />
<br />
「いつ来たの?」<br />
<br />
男は、いつものように全く驚く素振りを見せない。<br />
<br />
「おせいさんに会いましたわ」<br />
<br />
拗(す)ねるように帰ろうとした女を、男は引き留めた。この状況では、それ以外にないという嗅覚のような判断で、常に男は女とクロスしてきたに違いない。<br />
<br />
女もそれを分っている。それでも男の話を聞いてしまうのだ。<br />
<br />
「君は僕を嫌な奴だと思っているだろう」<br />
「ええ」<br />
「しかし伊香保から帰った日、君とはもう・・・・」<br />
「そうよ。どうせあたしは捨てられたんだから。何も方々探し回ってくる必要はなかったのよ」<br />
<br />
グダグダと言い訳をする男に対して、女は自分が富岡の子を宿していることを告げた。子供のいない男はそれを聞いたとき、懐妊している子を是非産んでくれ、と女に頼んだのである。女は迷っているようでもあった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIWGvLAmwp0nCoHUCsIjqjCdaOHqdsIQomEgWEyHxzsHvupHQ7Y1MxdlqtkMXhTb0VB8kjNaYZaNqX6Doa_kkNbzctUDOsjKrwn1A8DahXrRBM5bYF0vGqwjOA1h50324yRyx3KE0lvdI/s1600/201101081651479dd.gif"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612413956740382962" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIWGvLAmwp0nCoHUCsIjqjCdaOHqdsIQomEgWEyHxzsHvupHQ7Y1MxdlqtkMXhTb0VB8kjNaYZaNqX6Doa_kkNbzctUDOsjKrwn1A8DahXrRBM5bYF0vGqwjOA1h50324yRyx3KE0lvdI/s400/201101081651479dd.gif" style="float: right; height: 314px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 264px;" /></a><br />
暗い線路沿いの道を二人は、まるで夫婦のような歩調で歩いていく。<br />
<br />
声高の会話のない静かな律動が、まるで予定調和のストーリーで流れていくような印象的なシーンである。<br />
<br />
自分の子を産んでくれと再び頼む男の思いが、女の心に優しく寄り添っているからであろう。<br />
<br />
<br />
<br />
7 無邪気な子供の世界と、ドロドロとした大人の世界の、その見事なコントラストの構図<br />
<br />
<br />
<br />
ゆき子の心は決まっていた。<br />
<br />
彼女は新興宗教を立ち上げて荒稼ぎしている義兄の伊庭(いば)を訪ねて、金を借りたのだ。<br />
<br />
伊庭はゆき子の最初の男であり、帰国直後、彼の留守宅を間借りしていた経緯もある。<br />
<br />
かつて自分をレイプした憎むべき男だが、ゆき子にはこんな男しか頼るべき伝手(つて)がなかったのだ。<br />
<br />
ゆき子は富岡との子供を堕した病院のベッドの上に、暗鬱な気分で沈んでいた。<br />
<br />
この女の虚ろな視界に、突然侵入してきた衝撃的な情報。<br />
<br />
女の眼に映った新聞の片隅に、「女給殺しの夫自首」という記事が、そこだけが独立したスペースのように写真入で貼りついていた。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcUNkH82_18AAKIiInrFwV1Ax28UD-OABmWrjxlDip1BC__QpNvoGrJnXYyBMCUC5LVrtsWxsecvc_iR35uibAO5JUDF6fAztnBLIlb11BRi0bUDaT3Dav5Mqg6XBOUPxqqHQbhFfdMyx3/s1600/20120507143531.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="221" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcUNkH82_18AAKIiInrFwV1Ax28UD-OABmWrjxlDip1BC__QpNvoGrJnXYyBMCUC5LVrtsWxsecvc_iR35uibAO5JUDF6fAztnBLIlb11BRi0bUDaT3Dav5Mqg6XBOUPxqqHQbhFfdMyx3/s320/20120507143531.jpg" width="320" /></a></div>
そこに貼りついていた写真の主は、伊香保の飲み屋の主人清吉と、彼を裏切った若妻おせい。年の離れた夫の嫉妬によって、つい先日会ったばかりの、あのおせいが殺害されたのである。<br />
<br />
この描写だけが、映像で唯一、「文学的偶然性」に頼ったシーンになっている。<br />
<br />
逆に言えば、それだけこの映画が自然な描写で繋がった、人間の心の様をリアルに綴ってきた作品になっているということである。<br />
<br />
ゆき子は、おせいのいない部屋に富岡を訪ねていく。<br />
<br />
すっかり沈み込んでいる男は、「独りにしてくれ」と女を突き放す。女は、今まで溜めに溜めてきた男に対する鬱憤を吐き出した。<br />
<br />
「そんなに忘れられないの。子供を始末して良かったでしょ?産んでくれなんて、子供のことなんか考えてもいないくせに。心にもないこと言って、本当はせいせいしているくせに。あたしが勝手にやったことにして、自分だけいい子になって、顔見たときだけ美味しいこと言って、何さ!おせいを殺したのはあんたよ!あたしが手術のやり直しを何回もして苦しんでいる時だって、あんた知らん顔だった。勝手に始末させて、そのままあたしが死んだって、あんた来もしないで、お線香一本あげに来る人じゃないわ。伊香保で心中するつもりなんて、それもあんたの出任せよ。あたしが死ぬのを見て、自分だけゆっくりその場を逃れていく人よ!」<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlLq5PJFFgx5XQsN-dFGWOqtjuBgeOO8vTZmn81Y6q4QQRJ6MSSotLPkix_YyqRjw7ZB_BanS_-_xcB2CiiPLk9MUdQWQ5_fIS4RJVyEI614yNban9h29d5X1J4TB-KPdIAEkrcaSc2ST/s1600/20110504232723.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720724359940011634" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlLq5PJFFgx5XQsN-dFGWOqtjuBgeOO8vTZmn81Y6q4QQRJ6MSSotLPkix_YyqRjw7ZB_BanS_-_xcB2CiiPLk9MUdQWQ5_fIS4RJVyEI614yNban9h29d5X1J4TB-KPdIAEkrcaSc2ST/s400/20110504232723.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 240px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 357px;" /></a><br />
女は何度、男の前で涙を見せるのだろう。<br />
<br />
二人の会話はいつもドロドロしていて、どこまでも暗鬱なのだ。救いがないのだ。<br />
<br />
こんなとき、男の反応は常に変わらない。<br />
<br />
「皆、僕が悪いんだ。僕だけが悪いんだよ」<br />
<br />
計算したような男の反応に女は愚痴を吐き出して、後は泣き崩れるだけ。<br />
<br />
アパートの暗い廊下で、子供たちが飯事遊びに興じていた。<br />
<br />
扉一つで隔たった空間に、無邪気な子供の世界と、ドロドロとした大人の世界が、見事なまでのコントラストを描き分けていた。<br />
<br />
(因みに、この場面も原作にはない。ここも映像の創作性が際立つ描写であった)その扉の内側では、泣いて泣いて泣き崩れて、もう涸れるまで涙を吐き出した女が悶えていたが、やがて女は一人、アパートを離れて行った。<br />
<br />
<br />
<br />
8 縋りつく女、拒めない男<br />
<br />
<br />
<br />
今度は、富岡がゆき子を訪ねて来た。<br />
<br />
先日の無礼を詫びに来たのではない。富岡の病弱な妻が死んで、その葬儀費用を借りに来たのだ。このとき富岡は、ゆき子が新興宗教で成功している伊庭のもとで厄介になっていることを知っていて、明らかに計算尽くで女を訪問したのである。<br />
<br />
そんな男の気持ちをとうに察知しているゆき子だが、男に頼まれたら拒むことができようがない。二人は、陽光を眩しいまでに吸収している、まだ舗装されていない土埃のする道路を、いつものような生気のない律動で歩いていく。<br />
<br />
そしていつものように、斎藤一郎の気だるい音楽が、その律動に合わせて物悲しく追い駆けていく。<br />
<br />
「ねえ、これからどうするつもりなのよ、一人で」<br />
「どうするって、ご覧の通りだ・・・・」<br />
「・・・・やっぱり、あの部屋に今でもいるの?」<br />
「ああ」<br />
「もう一度会って、ゆっくり話がしたいけど」<br />
「職を探さなきゃあ、手も足も出ない・・・・」<br />
<br />
今度の別れは、あっさりしていた。男の心を現実的な観念が支配していて、それが女からの侵入を固く塞いでいたからである。<br />
<br />
それでも、ゆき子の中に何かがまだ燻(くすぶ)っていて、それが出口を求めて動き出したのである。<br />
<br />
今度は、ゆき子からの富岡への呼び出し。<br />
<br />
その電報には、「来なかったら死ぬ」と書いてあった。<br />
<br />
小心な富岡が、そんな電報を受け取って訪ねて来ない訳がない。<br />
<br />
ゆき子は伊庭の金を持ち逃げして、旅館で男を待っていたのである。<br />
<br />
「死ぬつもりで伊庭のところを出て来た」という女の切迫感に対して、男は殆ど不感症になっている。<br />
<br />
「あんた、女だけを梯子している」とゆき子。酩酊状態だった。<br />
「君もせいぜい男を梯子するがいい」と富岡。醒めていた。<br />
<br />
女はここでも泣き崩れるしかない。男はそれを困惑気味に受け止めるだけ。いつものことだ。<br />
<br />
「嫌っているんじゃないよ。もうこの辺で、お互いに生き方を変えようって言うんだ・・・・僕たちのロマンスは終戦と同時に消えたんだ。いい年をして、昔の夢を見るのは止めた方がいい・・・・」<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBoyIcVb8vER5l7XkDfNk3LsGibj86MQrMy8WCfBcaEZeg4nNuZXyL84hH94SQzecPYN6U9IU44yh42J-HnMaRBcyvRpVKccHY3tS0FzjVrixr3VTuwa_iAatfLWVQcIeKYQSA5Q0-Ubw/s1600/800px-Forest_in_Yakushima_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBoyIcVb8vER5l7XkDfNk3LsGibj86MQrMy8WCfBcaEZeg4nNuZXyL84hH94SQzecPYN6U9IU44yh42J-HnMaRBcyvRpVKccHY3tS0FzjVrixr3VTuwa_iAatfLWVQcIeKYQSA5Q0-Ubw/s640/800px-Forest_in_Yakushima_02.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">屋久島・大株歩道(ウィキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
ここまで話した後、富岡はゆき子の傍らに座って、自分が勤務に戻ったこと、そして近々、任地先の屋久島の営林署に赴任しなければならないことを告げた。<br />
<br />
「一生そこで過ごすかも知れない」という富岡に対して、「私も一緒に連れて行って」と泣きながら、縋りつくゆき子。<br />
<br />
「伊庭のところへ帰るんだな」<br />
<br />
男は女を突き放した。<br />
<br />
「まだそんなこと言って苛めるの?・・・・二人でなんで努力しようと思わないの?まだおせいさんが忘れられないのね・・・・」<br />
<br />
女は男を責め立てるが、なお縋りつくことを止めようとしない。その間、ずっと泣き崩れている。<br />
<br />
男は逃げようとしている。しかしその緩慢な歩幅に合わせるように、後ろから女がついて来る。何も語らない。誰も泣かない。いつもの音楽が、ここでは流れないのだ。<br />
<br />
結局、男は女を伴って、おせいが住んでいたボロアパートに戻って来た。<br />
<br />
アパートの住人から、少し前に伊庭が訪ねて来たことを聞かされた富岡は、勤務先に連絡を取って、屋久島への旅立ちを早めることにした。<br />
<br />
伊庭からの連絡を求められるメモを読んで、男は今度は別の男からの逃走を決断したのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlgY9uVzmrfPIiXqRqDASMIS5l1foEbsrEpmk3KXiun9G-Gr1aJDjp7cg1jimYqzcliujil9q5PMqYQAW1r4C-i64ErYHVVZsR83uHiiHJ67oQV2hjp7tuVpaCltU9K96DLFpL-paSKH8/s1600/draft2_3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlgY9uVzmrfPIiXqRqDASMIS5l1foEbsrEpmk3KXiun9G-Gr1aJDjp7cg1jimYqzcliujil9q5PMqYQAW1r4C-i64ErYHVVZsR83uHiiHJ67oQV2hjp7tuVpaCltU9K96DLFpL-paSKH8/s400/draft2_3.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
富岡とは、何事をも引き受けない男であり、一切の厄介事から逃げることを考える男なのである。<br />
<br />
ゆき子はそんな富岡に張り付いて、とうとう屋久島に同行することになった。<br />
<br />
男は決定的なところで拒めない男でもあるのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
9 小雨に咽ぶ艀の隅で、深々と寄り添う男と女<br />
<br />
<br />
<br />
鹿児島。<br />
<br />
雨が降り続いている。屋久島への船を待っているのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5DH0IRW80DCayDbyp9Zp9WBoPd_JtFDVabEEvTWwbue5G1vmnx_1K1w3sx4gGe4oiQhz3udFReSpXc0t0M7jMiaUNGr_ezRrKD42_3sT00tP7AlY7l9A_Okh4e4yTz9Yhoc6pcnRJqQQ/s1600/e0146196_1951999.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612412758003598722" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5DH0IRW80DCayDbyp9Zp9WBoPd_JtFDVabEEvTWwbue5G1vmnx_1K1w3sx4gGe4oiQhz3udFReSpXc0t0M7jMiaUNGr_ezRrKD42_3sT00tP7AlY7l9A_Okh4e4yTz9Yhoc6pcnRJqQQ/s400/e0146196_1951999.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 329px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 239px;" /></a><br />
遠い旅の果てに辿り着いたせいか、二人は落ち着きを取り戻していた。<br />
<br />
会話の中にも毒気はあるが、さらりと流せる種類のものだった。<br />
<br />
「どうだ、帰るんならここからなら丁度いいよ」と富岡。<br />
<br />
男の表情には、珍しく笑みが浮かんでいる。<br />
<br />
「まだそんなこと言っているの」とゆき子。<br />
<br />
その表情から笑みが消えた。女はどこまでも本気なのだ。彼女は揶揄(やゆ)で反応する富岡に対して、きっぱりと言い切った。<br />
<br />
「・・・・あたし屋久島に住めなかったら、ここへ来て料理屋の女中したっていいわ。女ってそれだけのものよ。捨てられたら、また、それはそれにして、生きていくんだわ」<br />
<br />
女は覚悟を決めていた。<br />
<br />
しかしその覚悟に、女の身体がついていけなかった。ゆき子の富岡に対する覚悟の微笑みは、この言葉が最後になったのである。<br />
<br />
彼女は突然、体の変調を訴えた。心身の疲労の蓄積が、遂に飽和点に達した瞬間だった。男を独占できたとほぼ確信しつつあったそのときに、女は病魔に冒されてしまったのである。計算できない悪魔が、そこに潜んでいたのだ。<br />
<br />
そんな非日常的な状況下で、男は優しかった。<br />
<br />
屋久島行きの船を見送っても、男は女に寄り添っている。その優しさに女は頬を伝う涙で反応するが、それは、取り戻した愛を身体で反応できない女の悔しさの、精一杯の表現であったかも知れない。<br />
<br />
まもなく二人は船に乗って、屋久島に辿り着く。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2OuKfFRtA7ZZCISLteYHiiAk04RGUCGBS2qbj4COuunEtAN0lAake4FTcvgFi1obVnVnvQ2qb9-3e9FDA8FZBz3GHmGC9YYrKPbpYVQgK_YbTvKMm4B7tFjqM8PB3G5qOUKwMyeHmv-8/s1600/20090825221108.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612409241485477298" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2OuKfFRtA7ZZCISLteYHiiAk04RGUCGBS2qbj4COuunEtAN0lAake4FTcvgFi1obVnVnvQ2qb9-3e9FDA8FZBz3GHmGC9YYrKPbpYVQgK_YbTvKMm4B7tFjqM8PB3G5qOUKwMyeHmv-8/s400/20090825221108.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 244px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 348px;" /></a><br />
停泊地から艀(はしけ)に乗り換えて、波止場に着くまでの哀愁漂う描写は、二人がこれから迎える運命を象徴していて、蓋(けだ)し印象的だった。<br />
<br />
小雨が二人の寄り添う体を濡らしていく。<br />
<br />
病を得たゆき子の体を抱き寄せる富岡の優しさが、これまでの二人の澱んだ感情の交錯を浄化するようだった。<br />
<br />
<br />
艀が桟橋に着いて、病身のゆき子が迎えの男たちに担架で運ばれる描写は、あまりに痛々しかった。<br />
<br />
営林署の小屋のような部屋を充てがわれて、二人は長旅の最終地点にようやく辿り着いたのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
10 ランプに照らされた無垢な美しさ ―― 這って、這って、蹲った女の最後の疼き<br />
<br />
<br />
<br />
ゆき子の体は、湿気の多い屋久島の風土の中でますます悪化していった。<br />
<br />
ここに、二人の最後の会話がある。<br />
<br />
「あなたの傍で死ねれば本望だわ」<br />
「死ぬならいつでも死ねるさ。ここまで来て弱音を吐く奴があるか」<br />
「とうとうここまで来てしまったわね・・・・」<br />
<br />
その日は晴れていた。男は仕事で山に行くのである。<br />
<br />
「あたしも山に行けないの?」<br />
「そうはいかないよ。幾らなんでも」<br />
「あたしがいなくなれば、ホッとなさるでしょ」<br />
「ハハハ、ホッとするさ。女はどこにでもいるからね」<br />
「そうね。どんな立派な女でも、男から見れば女は女ね」<br />
「ようく喋るな、今朝は。それだけ喋れるようになったら、上等だ」<br />
「女はどこにでもいるなんて、悔しいわぁ」<br />
「悔しかったら、早く元気になることだな。元気になって、男と闘争するんだ。女の最大の武器でやるんだ」<br />
「憎らしいこと言う人ね。昔から毒舌家だったけど。婦人代議士が聞いたら怒りに来るわよ」<br />
「婦人代議士?ああ、あれは女だったのか、忘れてた。失礼しました」<br />
<br />
<br />
そんな冗談を言って、富岡は仕事に出て行った。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilTOmA7C_wBnxNhGQ8xr6Hzsq30TQ3GPHzZjae2Ouay09lSVw2Nt18O3ibGTDYtBco2Wp5urGFuIGHDR_hIxcbf1EK6l21IHvFUU1sfPO6fmTkhJN1IIbSigFlc3qT0oEzpOF6zXjv__c/s1600/20100516213323d73.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="488" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilTOmA7C_wBnxNhGQ8xr6Hzsq30TQ3GPHzZjae2Ouay09lSVw2Nt18O3ibGTDYtBco2Wp5urGFuIGHDR_hIxcbf1EK6l21IHvFUU1sfPO6fmTkhJN1IIbSigFlc3qT0oEzpOF6zXjv__c/s640/20100516213323d73.jpg" width="640" /></a></div>
ゆき子は窓越しに富岡を見ている。見続けている。<br />
<br />
一人になった。そこにお手伝いさんはいなかった。<br />
<br />
弾丸のような雨が、今にも壊れかけた家屋を激しく打ち付けている。<br />
<br />
ひと月に、35日間雨が降る島なのだ。病魔に冒された女の体に良い訳がない。<br />
<br />
それでも女はやって来たのだ。<br />
<br />
死ぬために、南海の孤島にやって来たのではない。<br />
<br />
しかし、死神は女の体の深いところに、もうすっかり棲みついてしまっていたのである。<br />
<br />
一人残された暗鬱な部屋で、女の咳が止まらない。悶えているのだ。<br />
<br />
女は布団から抜け出して這っていく。<br />
<br />
窓際に這っていく。強雨で放たれた窓を閉めるために這っていく。<br />
<br />
そこで蹲(うずくま)った。動きが止まった。女は動かなくなったのだ。<br />
<br />
ラストシーンは、営林署の者を返して天に昇ったゆき子の顔にランプを照らし、死に化粧のための口紅をつける富岡の孤独な表情を映し出して、遂に思い余って慟哭する描写で括られた。<br />
<br />
ランプに照らされたゆき子の顔は、その無垢な美しさを眩く輝かせた。それは、観る者に言いようのない哀切を誘(いざな)って止まない描写だった。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjVc6LZVcbZ2q9gbj1V0EJ98JQ3D5Pb6FK-9rU_jWrJtvsbhxHjMpEb9RArUw9kEIPKVmOjWbcXhoegQ1_seH8e8Hqo_4SfY_mImykyb9DkoufbRMxDxrvuEsSYhrrnfw0D02aiZ-ErSp8/s1600/128426844211516117420_zz18.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjVc6LZVcbZ2q9gbj1V0EJ98JQ3D5Pb6FK-9rU_jWrJtvsbhxHjMpEb9RArUw9kEIPKVmOjWbcXhoegQ1_seH8e8Hqo_4SfY_mImykyb9DkoufbRMxDxrvuEsSYhrrnfw0D02aiZ-ErSp8/s1600/128426844211516117420_zz18.jpg" /></a></div>
(付記) 成瀬巳喜男はこのような感傷的な描写で映像を括ることを嫌う監督だが、水木洋子は、どうしてもこの描写だけは削れないという脚本家としての意地を通したらしい。彼女は、一切を洗い清めるような映像表現として、悔悟と懺悔を象徴するような富岡の慟哭を切望して止まなかったのだろうか。<br />
<br />
ストーリーを最後にカタルシスで流さない成瀬作品の中で、やはり「浮雲」は異彩を放っていた。<br />
<br />
<br />
このラストシーンの評価は、観る者それぞれの固有の感じ方によって分れるだろうが、あまりに救いのない映像の繋がりの果てに、僅かな浄化を果たすこの描写の挿入は、私としては些か不満だが、それでも映像としての均衡性を壊していないことだけは事実である。<br />
<br />
かくて一代の名作が、今なお、私たちの心を捉えて放さない何ものかになっていったのである。<br />
<br />
<br />
* * * * <br />
<br />
<br />
<br />
11 「引き受けない男」の「分」と器量<br />
<br />
<br />
<br />
「浮雲」―― 世界映画史上にあって、ひと際光彩を放っているこの傑作を、どう把握したらいいのだろうか。それを考えてみたい。<br />
<br />
私はこの映画を、「投げ入れる女」と「引き受けない男」の物語であり、その両者の間に否定し難いほど生じてしまった「感情の落差」によって、そこに遣り切れないほどの関係の齟齬(そご)や擦れ違いが形成されてもなお、それでも投げ入れることを止められない女の、殆ど殉教的なまでの情愛の物語であると捉えている。<br />
<br />
その辺りから稿を起していく。<br />
<br />
「投げ入れる女」は、投げ入れるべき何者かに、何もかも投げ入れていく。<br />
<br />
投げ入れる者の思いを、その身体を、その身体が自己に刻んだ記憶を。<br />
<br />
現在の時間を、未来の時間の一切を投げ入れて、拒まれて、それでも投げ入れて、捨てていく。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJQ_EtsU-UgQ_lp1OXc5eBkakvS4PqS0F9d6ic4UPIQeQ6ewatTVlkVvghdh_eRjnKwkcTctGUPbJhxaivIAUOTw5HW8bP3UgQgcybKI9fnoDHEAM-1nG1DgiEr91_pEkYTYEaD9-CpaGX/s1600/E6B5AEE99BB29-cd48b.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJQ_EtsU-UgQ_lp1OXc5eBkakvS4PqS0F9d6ic4UPIQeQ6ewatTVlkVvghdh_eRjnKwkcTctGUPbJhxaivIAUOTw5HW8bP3UgQgcybKI9fnoDHEAM-1nG1DgiEr91_pEkYTYEaD9-CpaGX/s400/E6B5AEE99BB29-cd48b.jpg" width="400" /></a></div>
投げ入れることは、捨てていくことである。<br />
<br />
投げ入れるべき何者かに捨てていくことは、捨てることによって投げ入れるべき何者かと同化することであり、そこに投げ入れる者の一切が入り込んでいくことである。<br />
<br />
そして、「引き受けない男」は逃げる男である。<br />
<br />
逃げて、逃げて、自分に向かって投げて入れてくる女から、常に決定的な局面で逃げていく。卑下するようにして、自らを断罪するようにして、巧みにかわすようにして逃げていく。<br />
<br />
断罪することによって、投げ入れてくる女が侵入してくる入り口を塞いでしまうのだ。<br />
<br />
しかし男は単に、逃げるために逃げるのではない。引き受けることができないから逃げるのだ。<br />
<br />
それでも男はいつも逃げる訳ではない。<br />
<br />
決定的な局面を引き受けなくて済むギリギリの際(きわ)で、投げ入れる女の体液を吸って、その思いを呑み込んで、投げ入れる女と共有する記憶の幾つかを拾い上げて、シニカルに受け止める。<br />
<br />
そんな男がしばしば受け止めてくれるから、女は投げ入れることを止めないのである。<br />
<br />
そして最後に、女は命を投げ入れた。<br />
<br />
男は、その命を遂に受け止めた。それが仮の住まいであることを諭した上で受け止めた。<br />
<br />
女はそれでも本望だったのか、男はそれでも納得したのか。<br />
<br />
女にとって仮の住まいであった場所に一人残されたのは、やはり男だった。<br />
<br />
女の死体が残されて、そこに男の涙が投げ入れられた。<br />
<br />
喪ったものの大きさを、果たして男はどこまで受け入れられたか、誰も分らない。<br />
<br />
少なくとも、その後一ヶ月間ほど、男の心は定まらなかった。<br />
<br />
因みに、原作ではどうなっていたか。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgOw9I67GbfTmxpTm6hdPc1XAkOCvwJqBuaxhzejxM6WXKHEO3pppLz96oEFvy0LLPUDj6WtEyvfcxavVKpotUGoqyLWaqXVF2rDRdXYE3l2ftraYrWHJO9OySGlLxndtF5P-rV_Xlcl9GY/s1600/Fumiko_Hayashi.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgOw9I67GbfTmxpTm6hdPc1XAkOCvwJqBuaxhzejxM6WXKHEO3pppLz96oEFvy0LLPUDj6WtEyvfcxavVKpotUGoqyLWaqXVF2rDRdXYE3l2ftraYrWHJO9OySGlLxndtF5P-rV_Xlcl9GY/s1600/Fumiko_Hayashi.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">林芙美子(<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">ウィキ</span>)</span></td></tr>
</tbody></table>
「雨は一刻のゆるみもなく、荒い音をたてて、夜をこめて降りしきっている。夜更けてから、富岡は、猛烈な下痢をした。息苦しい厠(かわや)に蹲踞(しゃが)み、富岡は、両の掌(てのひら)に、がくりと顔を埋めて、子供のように、おえつして哭(な)いた。人間はいったい何であろうか。何者であろうとしているのだろう・・・・・・。色々な過程を経て、人間は、素気なく、この世から消えて行く。一列に神の子であり、また一列に悪魔の仲間である」(同上より)<br />
<br />
こんな描写もあった。<br />
<br />
「屋久島へ帰る気力もない。だが、ゆき子の土葬にした亡骸をあの島へ、たった一人置いて去るにも忍びないのだ。それかと云って、いまさら、東京に戻って何があるだろうか・・・・・・富岡は、まるで、浮雲のような、己の姿を考えていた。それは、何時、何処かで、消えるともなく消えてゆく、浮雲である」(同上より)<br />
<br />
「浮雲」と題する映像を象徴する描写があるが、これは二人の人生の関係性そのものであり、それに対する幻想をイメージする言葉だろう。<br />
<br />
恐らく男は、いつもそうしてきたように、彼なりの回路を通って復元していくであろう。こういう男は中々変わらないのだ。決して男は悪人ではない。極端に常識はずれな人格破綻者でもない。<br />
<br />
それは私であり、私の隣に住む者であり、私の周囲にウロウロする何者かである。<br />
<br />
それはこの国のある種の男の典型であるが、しかし決してその全てを代表していない。女もまた代表していない。<br />
<br />
ただそこに男と女がいて、濃密にクロスして、深々と傷付けあって、殆どそこにしか辿り着けないような航跡の果てに砕け散った。<br />
<br />
恐らく二人には、それ以外にない関係の終焉だったと思われる、そんな括り方だった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhuKw90GeYPWbOuLpOS6jHpx6TfDU_ImHwrJ7Ou5nMth39x-exqbdV6DZvvWO6TUCYJP8AZEpBWS_77Wad3ePcEFtmMoptPJdpys_drSFqftkz_8TXniOE66cEUwQmOHkDAb3jww3Alv3U/s1600/100320p1-1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhuKw90GeYPWbOuLpOS6jHpx6TfDU_ImHwrJ7Ou5nMth39x-exqbdV6DZvvWO6TUCYJP8AZEpBWS_77Wad3ePcEFtmMoptPJdpys_drSFqftkz_8TXniOE66cEUwQmOHkDAb3jww3Alv3U/s320/100320p1-1.jpg" width="314" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">水木洋子</span></td></tr>
</tbody></table>
<div style="text-align: right;">
</div>
然るに、この作品を観た者の多くは、男の甲斐性のなさとその自堕落さを厭悪(えんお)し、女の一途さと自己献身的な思いの深さに同情し、その殉教的な死に哀惜の念を覚えるに違いないだろう。<br />
<br />
例外的にフェミニストと称する連中は、男に縋って生きる女の「自立性」のなさと、女を梯子して生きる男の狡猾さを、一刀両断に斬って捨てるであろうが、果たして、この作品と客観的に付き合ったとき、そこに描かれた男は非難される対象でしかなく、逆にその男に生き血まで吸われたかのような女は、観る者の一方的な憐憫の対象に成り得ると簡単に言い切れるのか。<br />
<br />
私はそうは思わない。<br />
<br />
男女の愛情の縺(もつ)れは、複雑な感情の微妙な落差や錯綜に起因するものが多いから、単純に、この作品の男女の関係を損得論で語るのは疎(おろ)か、ましてや、それを善悪論で片付けてしまってはならないのである。<br />
<br />
確かに男は、映像を通して三人の女と関係し、あわや四人目のマセた娘とも関係しそうになったが、前者の三人に関しては、それぞれの思いを半ばにして、ある者は衝撃的に、またある者は、男に向かって這い蹲(つくば)っていくようにして斃れていった。<br />
<br />
果たして男は、彼女たちにとって「魂の殺害者」であると言えるのか。<br />
<br />
否である。<br />
<br />
その過去は知らないが、映像において男はただの一度も、例えば、伊庭という小悪人がかつてゆき子をレイプしたように、女に対する暴力的なアプローチをしていないのだ。<br />
<br />
また男は、結婚詐欺師のような確信犯的な言い寄り方をした訳ではないし、そこに狡猾な計算が含まれていても、それは日常的に展開される、男と女の打算性の範疇で了解される類のものだ。<br />
<br />
では、富岡という男は何者だったのか。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGb_zrV3PoKIGef_zjnqNdQiIXL9kyPiZ0V9ISaODTdyudhG91Wf3AGgDzLOsC9dRB9z8gG0cReKqAyOfIcadmUJt7z7_AGruTuhJiBvwNeIUuxRJdBR0d_3TOH_NZynxFtVsnK5I-01OZ/s1600/img_848353_10839529_1.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720376399880396434" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGb_zrV3PoKIGef_zjnqNdQiIXL9kyPiZ0V9ISaODTdyudhG91Wf3AGgDzLOsC9dRB9z8gG0cReKqAyOfIcadmUJt7z7_AGruTuhJiBvwNeIUuxRJdBR0d_3TOH_NZynxFtVsnK5I-01OZ/s400/img_848353_10839529_1.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 303px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 265px;" /></a><br />
彼は、「引き受けない男」であると言う以外にない。<br />
<br />
しばしば引き受けるが、それが男の「分」を越えてくるとき、その冷笑的な態度に似合わないかのようなだらしなさを見せる。<br />
<br />
妻を疾病で喪ったとき、その葬儀費用を立て替えてもらうために、決して自分からは求めていかないゆき子に会いに、あろうことか、彼女が世話になっている男の家を訪ねることも辞さなかったのである。<br />
<br />
また自分が原因で、怨恨殺人の犠牲になったおせいの夫の裁判費用を捻出しようと立ち回るが、これも結局、中途半端で投げ出している。<br />
<br />
ラストでは、ゆき子が盗んだ金を巡って留守宅に伊庭の恫喝的訪問を受け、この件(くだり)に関しては見事なまでの遁走劇で括ってしまうのだ。紛う方なく、「引き受けない男」の本領発揮の行動だったと言えるだろう。<br />
<br />
万事この調子だが、彼が事態を引き受けきれないのは、必ずしも引き受けることからいつも逃げようとしている訳ではなく、引き受ける事柄が男の器量を越えてしまうからである。<br />
<br />
紛れもなく、男は駄目人間だが、決して小悪人ではない。男の中に投げ入れられてくるものが、大抵、男の「分」と器量を上回ってしまうから、男は逃げまくる印象を晒してしまうのだ。<br />
<br />
しかし映像で観る限り、男の中に投げ入れられてくる半分以上は、男を思う女たちの異性的情念である。<br />
<br />
そこでの男と女の間に微妙な乖離が生まれるのは、女の情念がいつも男のそれを上回ってしまうため、男は常に関係の奥深い、ドロドロした感情の辺りまで引き摺り込まれ、そこで立ち往生してしまうのだ。<br />
<br />
これは、男が一方的に悪いという把握で了解できる文脈を明らかに逸脱する。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBGxr6NxhT13SgfZ0Xox7laLXZFo6TjgaHCyITOwbS6uwfvCM7KP4KFP-mCf9jhii-efKFuLkfObPJAhLORn-nQ6G5lh3CDLF_255IP5Pxl6gtEseMIbNqeCqwbIMejaQtajWpHvhI-ZM/s1600/tc1_search_naver_jp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBGxr6NxhT13SgfZ0Xox7laLXZFo6TjgaHCyITOwbS6uwfvCM7KP4KFP-mCf9jhii-efKFuLkfObPJAhLORn-nQ6G5lh3CDLF_255IP5Pxl6gtEseMIbNqeCqwbIMejaQtajWpHvhI-ZM/s400/tc1_search_naver_jp.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">おせい</span></td></tr>
</tbody></table>
なぜなら、男と女の愛情関係というものは、そこで蠢(うごめ)く感情の均衡が、いつも絶妙の状態で上手に機能しているとは限らないからだ。<br />
<br />
<br />
<br />
12 「感情の落差」について<br />
<br />
<br />
<br />
――「感情の落差」<br />
<br />
関係には大抵、こういう厄介なものが形成されてしまうのである。<br />
<br />
「感情の落差」は関係の落差である。<br />
<br />
それが恋愛関係であるならば、そこにも恋愛感情の落差というものがある。従って、その厄介な恋愛感情というものを理解する必要がある。<br />
<br />
果たして、恋愛感情とは一体何なのか。<br />
<br />
それは、数多ある愛情の一つの様態であるに違いない。<br />
<br />
では、愛情とは一体何なのか。<br />
<br />
私たちが日常的に使うこの厄介な言葉を、一体どのように把握し、定義したらいいのか。(以下、以前に書いた「愛の深さ」という拙稿から一部引用したい)<br />
<br />
「好意尺度」と「恋愛尺度」の分析で有名なルヴィン(アメリカの心理学者)によると、愛情とは、具体的には「共存感情」であり、「援助感情」であると言う。これは心理学重要実験のデータ本から得た知識だが、 私はこの分りやすい説明によって、正直眼から鱗(うろこ)が落ちる心境になった。<br />
<br />
私なりに、長くこのテーマについて考えてきて、そこで出した私の把握は単純なものである。<br />
<br />
即ち、「愛情」のコアになる感情は、「援助感情」であると結論づけたのである。<br />
<br />
<br />
<br />
13 「援助感情」という「愛」の基幹感情と、それを構成する感情について <br />
<br />
<br />
<br />
本稿のテーマとは少し離れるが、愛の核心とも言うべき「援助感情」について言及してみたい。<br />
<br />
例えば、自分にとってかけがえのない存在に映る他者Aがいるとする。Aが元気で溌剌としているときは、こちらも何となくウキウキして、愉しい気分になる。ところがAが深刻な悩みを抱えて悶々とする日々を送っていると、こちらも辛くなり、滅入ってくる。辛そうなAに対して、何かせずにいられない感情に包まれる。居ても立ってもいられなくなるのだ。<br />
<br />
そんな状況の中で、Aの消息が突然不明になったとする。<br />
<br />
時間だけが過ぎていく。こちらは全く何も手がつかず、異常な不安に襲われる。そんな中で、私は自分ができることを懸命に模索する。不安のヒットと打開策のリサーチ。それだけが私の時間となる。それ以外の時間は、私にはないのである。<br />
<br />
このときの私を中心的に支配する感情、それを私は、「特定他者を救うことが、自らの自我を安定に導く感情」と把握した。これを私は、「愛」と呼ぶことにした。<br />
<br />
この「援助感情」こそが、あらゆる愛を貫流する感情ゆえに愛の本質である、と私は考えるが、無論、愛を構成する感情はそれが全てではない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEju65RJa-MZejr_8WlOou9jMitmiUwQpuvwCwGHDWSkD9XIhxHQ7h4NMUlqmAiY-ZPFTISjOugHPm92xr1oTefYFYH129IbKX_FAqbPlcppsB0UBa_hTUSjIizktZehDj_g4Oi3DdXL0uo/s1600/6583d432b811e9b2_S.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="424" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEju65RJa-MZejr_8WlOou9jMitmiUwQpuvwCwGHDWSkD9XIhxHQ7h4NMUlqmAiY-ZPFTISjOugHPm92xr1oTefYFYH129IbKX_FAqbPlcppsB0UBa_hTUSjIizktZehDj_g4Oi3DdXL0uo/s640/6583d432b811e9b2_S.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: small;">イメージ画像・台湾観光旅行ガイド・台湾の恋愛事情より</span></td></tr>
</tbody></table>
ルヴィンの言うように、第二、第三の感情として、「共存感情」と「独占感情」がある。この二つの感情は相互作用的な感情であって、「共存感情」の強さが「独占感情」の濃度を規定すると言っていい。共存欲と独占欲は並立しやすいのである。<br />
<br />
因みに、ある種の嫉妬感情は「独占感情」が障害を受けたときの二次的感情なので、「独占感情」に常に張り付いている。独占欲が小さければ、当然、嫉妬に煩悶することもなく、そこで生じる怒りの感情は、自我のプライドライン(自尊感情)が反応したものに過ぎないであろう。<br />
<br />
そして、第四の感情は「性的感情」である。<br />
<br />
この感情が恋愛の本質であって、他の愛の形には存在しないものだ。この感情が厄介なのは、自我の抑制系を機能不全にするほどの破壊的エネルギーを、その内側に内包するからである。<br />
<br />
それはしばしば反生産的で、秩序破壊の要因に絡んでくるので、いずれの国でも、「過剰なる性」を野放しにする自由を決して保障しないのだ。それは殆ど例外なく、国家権力の重要な管掌事項の対象になっていると言っていい。<br />
<br />
以上、四つの感情が、愛を構成する感情の全てであると考える。<br />
<br />
しかし全ての愛情が、この四つの感情を内包するものではない。<br />
<br />
正確に言えば、前三者の感情が愛情の基本的感情であって、「性的感情」は恋愛感情の固有の属性的感情であり、それを他の感情と分ける必要があるが、それでもそれらの感情と脈絡する要素を持つので、しばしば「性的感情」の爆発力が、絶えず、文学や映像の題材になるほどの極限性を示すのである。<br />
<br />
恋愛感情のみが、愛情を構成する全ての感情を内包する感情なのである。だから恋愛感情は激しいのである。<br />
<br />
それは煮え滾(たぎ)っていて、それらの感情を相互に強化し合い、濃度を深めていくことで、抑制系の発動がなかなか機能しなくなるのである。<br />
<br />
自我の抑制系の機能的停滞が、男と女の関係速度を著しく高めていく。<br />
<br />
関係速度の目立った昂進が、過剰なる性急さを周囲に印象付けて、しばしばその排他的な閉鎖性が、秩序破壊の元凶のように見られたりもする。強化しあった感情が、規範を抜けるときのパワーは尋常ではないからだ。<br />
<br />
これらの四つの感情が固く繋がって、過剰なまでに自立的に強化していけば、その関係ワールドは他の如何なる秩序へのアクセスを臨む必要はないから、その感情ラインの一切が自給できてしまうのである。<br />
<br />
<br />
<br />
14 恋愛という劇薬が放つパワー<br />
<br />
<br />
<br />
感情ラインの自給によって、癒されるべき自我の問題は当面棚上げになる。だから重苦しいテーマへの想像力は枯渇する。<br />
<br />
孤独の社会的テーマからの呪縛が解かれて、そこで消費されるはずのエネルギーの過半が、恋愛という甘美なるゲームに集中的に利用されることになるのだ。<br />
<br />
恋愛の関係速度が、一種、二次関数的な上昇を記録するのは当然であるに違いない。恋は常に、疾風の如く駆け抜けるのである。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5HEwWIskYhd7aSvr5LF8UPHiWLcKZSW5lOfNF8oVzlWFHiaor9ola9AdATiTO5dvkNFQTsFpIE0gOg7bL_dCFDqlJXNOG4i234SUeflsUeEzIgeUVR5BiRGBb5NoHgEmtDO4xwv_TlTiy/s1600/img_1496970_63078266_0.jpg" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720377786846222594" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5HEwWIskYhd7aSvr5LF8UPHiWLcKZSW5lOfNF8oVzlWFHiaor9ola9AdATiTO5dvkNFQTsFpIE0gOg7bL_dCFDqlJXNOG4i234SUeflsUeEzIgeUVR5BiRGBb5NoHgEmtDO4xwv_TlTiy/s400/img_1496970_63078266_0.jpg" style="float: right; height: 311px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 270px;" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「失楽園」より</td></tr>
</tbody></table>
例えば、「失楽園」というような作品が、侵し難い純愛の聖域として恋愛至上主義の栄光の冠となって時を駆け、その劇薬を乞う人々の内側で繁殖を続けていくが、全ての恋愛が作品の男女のような嵌(はま)り方をする訳がないのである。<br />
<br />
このような恋愛を無邪気に語る者は、酔うことができる者である。<br />
<br />
酔うことができる者は、酔わすことができると信じる者である。人を酔わすと信じるから、語る者は語ることを捨てない者になる。<br />
<br />
かくて物語は完結し、不滅の光芒を放つと信じる者たちによって繋がれていく。<br />
<br />
いつの世にも、友情を誇るフラットな物語の何倍もの色懺悔が語られ、読まれ、鑑賞されていく。<br />
<br />
語られる数だけ「究極の愛」がカウントされ、カウントされた数だけ究極の人生が、それがなかったら私には何も残らないと言わんばかりに、其処彼処(そこかしこ)で自嘲のポーズ巧みに、しかし思い入れ深く放たれる。<br />
<br />
これが恋愛という劇薬が放つパワーなのだが、実際はそれほど甘美で、いつでもその芳醇に酩酊できるような肌触りの良い関係ではないことを、私たちは皆どこかで認知しているのである。<br />
<br />
詰まるところ、「純愛」という名の大いなる幻想を解き放ったら、恐らく「浮雲」の世界に逢着するはずなのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
15 恋愛感情の落差による悲哀<br />
<br />
<br />
<br />
―― ここでまた、「浮雲」に戻る。<br />
<br />
<br />
「浮雲」に描かれたドロドロの情愛を容赦なく抉(えぐ)っていくと、単純な結論に落ち着くだろう。一言で言えば、それは「感情の落差」である。或いは、「愛情の落差」であると言っていい。<br />
<br />
「浮雲」の男女のそれぞれの「愛情の落差」こそが、映画のドラマ性を成立させる中枢にあって、観る者が物語に哀切極まる感傷を、それぞれの主観的な思いによって汲み取る自由度は、そこに描かれた、殆ど「約束された悲劇」のラインの中で往来する程度のものでしかないだろう。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg501vQHH8BxxmRK4niHcM5Kk0lNI4xDdiIsP4C7cUrj-DcZ_DVIR4qhzLtb48g9W2RgGovVFhOoWLSjmHXZjNtt8vUEt50jb5HRpfQJeRt5it1a5BAFI-MCYPaNcZ5GtPvyEtkyBb6j5w/s1600/51M9MDZSHQL__SS500_.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg501vQHH8BxxmRK4niHcM5Kk0lNI4xDdiIsP4C7cUrj-DcZ_DVIR4qhzLtb48g9W2RgGovVFhOoWLSjmHXZjNtt8vUEt50jb5HRpfQJeRt5it1a5BAFI-MCYPaNcZ5GtPvyEtkyBb6j5w/s1600/51M9MDZSHQL__SS500_.jpg" /></a></div>
<br />
恐らく成瀬は、そのラインの意味するところを根柢において把握していたはずだ。だから彼は、ラストシーンでの男の慟哭の描写を加えたくなかった。<br />
<br />
それを描くことで、「失った愛の大きさ」に落涙する男への、勝手なイメージ形成を避けたかったに違いないのである。(画像は、「浮雲」を演出する成瀬巳喜男)<br />
<br />
客観的に分析すれば、富岡とゆき子の禁じられた愛は仏印で生まれ、そこで輝き、一気に頂点に昇り詰めていって、敗戦によって終焉したのである。<br />
<br />
ゆき子だけがそれを認めないのだ。<br />
<br />
だから、このストーリーは暗鬱な気分を乗せて終始し、「悲劇」で幕を下すしかなかったのである。<br />
<br />
その「悲劇」の始まりは、富岡家を初めて訪ねたゆき子に対する男の反応の冷淡さに、残酷なまでに描き出されていた。映像は、凄惨な展開を予想されるストーリーを、覚悟を括って観る者に投げ入れてきたのである。<br />
<br />
明け透けに言えば、女に対する男の愛よりも、男に対する女の愛の方が格段に上回っていて、それは最後まで変わらないのである。この「感情の落差」は、修復の余地がないほどに決定的だった。<br />
<br />
男が女に語るのは、身の上相談の需要と供給についてばかりであり、偶(たま)さか剥(む)き出しにされた感情も、突発的に生じた男の嫉妬感のゲームのような吐露でしかなかった。<br />
<br />
引き摺って、引き摺って、自らを穴倉に引き摺り込んだ女の情念は伊香保まで延長されて、そこで一時(いっとき)、心中についての危うい会話に流れ込んでいったが、結局、二人はそれを遂行しなかったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhjGaO1MMmfv_VNlRXB3F7R-gxNVj2L_xjsLLSIozd-jBqYhYHSuCORpJUBOJyf7wQKI9vfyqACpnMGJbmzsy1jVLYGYxLtUsneY23Y8mN5cFQsYoJNj0NRGfU88VVmvewpa_wXa4Baxbc/s1600/800px-Ikaho_Onsen_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="480" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhjGaO1MMmfv_VNlRXB3F7R-gxNVj2L_xjsLLSIozd-jBqYhYHSuCORpJUBOJyf7wQKI9vfyqACpnMGJbmzsy1jVLYGYxLtUsneY23Y8mN5cFQsYoJNj0NRGfU88VVmvewpa_wXa4Baxbc/s640/800px-Ikaho_Onsen_02.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><br />
<div class="MsoNormal">
<span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">伊香保温泉・みやげ物屋が並ぶ石段街(ウィキ)</span></span></div>
<br /></td></tr>
</tbody></table>
二人は、伊香保で心中すべきだったのだ。<br />
<br />
それを避けた男と女は、その純愛性を剥(は)ぎ取った関係を泥沼に浸していくばかりとなっていった。当然の帰結であるという他にない。<br />
<br />
富岡とゆき子の関係の間に横臥(おうが)していた「感情の落差」は、恋愛感情の落差であると言っていい。<br />
<br />
これまで書いてきたように、恋愛感情とは「性的感情」を本質として、そこに「援助感情」、「共存感情」、「独占感情」などによって構成される感情である。<br />
<br />
この感情の殆ど決定的な落差が、二人の間に横臥していたのである。<br />
<br />
ゆき子の中では、これら全ての感情がしばしば過剰なほど溢れていたが、富岡には、ほんの遊び程度の「性的感情」や嫉妬感情が見られるが、それもゆき子の感情と全くバランスが取れないほど貧弱なものだった。<br />
<br />
<br />
その感情に何某かの突出性が見られた訳ではなく、いつでも彼は、「引き受けない男」を演じる以外になかったのである。<br />
<br />
男との感情が、そうしなければならないと考える貧弱な理念系にいつでも追いつけないで、女と作った私的情況に翻弄される他はなかったのだ。<br />
<br />
置き去りにされた女が、いつもそこに呆然と立ち竦んでいた。<br />
<br />
<br />
<br />
16 「援助感情」の落差によって置き去りにされた女<br />
<br />
<br />
<br />
二人の関係に於いて、愛のコアと言うべき「援助感情」の落差を象徴的に示すシーンが、映像の後半にある。<br />
<br />
伊香保から帰ったゆき子が、おせいと同棲していることを知らずに、富岡をアパートに訪ねたときのことだ。<br />
<br />
おせいの存在に驚いたゆき子だが、そこで帰宅した富岡と外に出て線路沿いを歩いていく。<br />
<br />
既に富岡との子供を懐妊していたことを告げたゆき子に対して、男は「自分には子がないから産んでくれ」などと哀願した。しかし、ゆき子は富岡の子を堕胎したのである。<br />
<br />
その結果、ゆき子は一週間の入院を余儀なくされたが(原作によると)、その間、富岡から何の連絡もなかった。子供を産んでくれと言いながら、その後、一切のフォローをしない男のエゴイズムが浮き彫りにされる描写だった。<br />
<br />
ゆき子はおせいを喪った富岡をアパートに訪ねて、男の思いやりのなさを涙ながらに訴えたのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiuc4Z_qSt50B7zISwRIs_g7UvrTRll81HoeEas3yg9YgsufjPjIbaOeQxBkRu6BnwxT-1gxQEiuvBmx4Gs4Ot6j9MM1HTbxYfnkTLhqWFRbeFqz38EAiGFE_LRd9gww3R3qZa6QEBp7_0/s1600/EIGAKAN209C.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="273" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiuc4Z_qSt50B7zISwRIs_g7UvrTRll81HoeEas3yg9YgsufjPjIbaOeQxBkRu6BnwxT-1gxQEiuvBmx4Gs4Ot6j9MM1HTbxYfnkTLhqWFRbeFqz38EAiGFE_LRd9gww3R3qZa6QEBp7_0/s400/EIGAKAN209C.jpg" width="400" /></a></div>
訴えられた男は、「独りにしてくれ」としか言わない。言えないのである。それがこの男の器量でもあるが、それ以上に、男には女に対する思い入れが確実に足りないのである。<br />
<br />
涙を絞りつくした女は、雨に濡れた寂しい街路に身を投げるようにして帰路に就いた。男は追わなかったのである。<br />
<br />
更に、こんな描写もあった。<br />
<br />
このエピソードの後、暫くして、今度は富岡がゆき子を訪ねていく。<br />
<br />
元気になったゆき子の前に、悄然とする富岡が座っている。彼は妻の葬儀の費用を工面するために、ゆき子を当てにしてやって来たのだ。<br />
<br />
恐らく、今までもそうであったように、こんなときの男の振舞いは、過去の自分の行為を反省する殊勝な態度を小出しにすることで、女心を微妙に揺さぶる情動操作の術に長けている。<br />
<br />
「モテる男」の羨むべき占有権と言ってしまえばそれまでだが、こんな風に女から金を捻出させる能力だけは抜けているのである。<br />
<br />
女もまた、好きな男を援助することで、そこに、「心の貸し」を作ることができる。そこにも、当然の如く、大人の計算が働いているだろう。<br />
<br />
ゆき子にとって富岡を援助することは、愛情の担保を一つ確保することに繋がるのである。ゆき子の中の男に対する「援助感情」は、彼女の男への強い情愛の思いをベースにしているのだ。<br />
<br />
言うまでもなく、富岡の内側には、「ゆき子なら助けてくれる」という確信があった。だから男は、女が許容するギリギリのラインのところまで擦り寄っていけば、それで全て万事オーケーということになる。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhD7zs7ITrDemqrCKPT6xfh526VENzpfgOLQC9w8ULdaqDNXrnL8ywvfl1yZ-NCWvqmjgciatbPvR09NKlJCCikDoJMBXGyUP3t1HToct4qVZLBhAdzoeFrofn4KPmxnHOwUfMefs_0DsA/s1600/deko_10_1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhD7zs7ITrDemqrCKPT6xfh526VENzpfgOLQC9w8ULdaqDNXrnL8ywvfl1yZ-NCWvqmjgciatbPvR09NKlJCCikDoJMBXGyUP3t1HToct4qVZLBhAdzoeFrofn4KPmxnHOwUfMefs_0DsA/s320/deko_10_1.jpg" width="320" /></a></div>
殆どそれは、恋愛という甘美なる蜜を求める感情の落差を剥(む)き出しにした、ある種の腐れ縁的関係の人生模様という文脈で括られる何かだった。<br />
<br />
<br />
<br />
17 共存と独占を求めた女の殉教性<br />
<br />
<br />
<br />
以上のエピソードによって、二人の関係の落差を読みとることが可能だが、他の恋愛感情、例えば「共存感情」について考えた場合でも、それを常に拒む富岡に対して、ゆき子の共存への思いは圧倒的である。<br />
<br />
彼女にとって、この思いこそが最も中枢の感情であって、それを最後に実現したときの達成感は、相当感慨深かったはずである。<br />
<br />
このとき、彼女は明らかに押しかけ女房であって、色々な名目をつけて彼女を東京に戻そうとする男の、その本来的な「引き受けなさ」との対比は、そこに滑稽さを感じさせないほど写実的でありすぎた。<br />
<br />
なぜなら、彼女は病に冒されているのに拘らず、未知なる島にその全人格を預けたのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjLGsbXPn1JJ2mwZ6tc9uKTZzSjfN3xIB5KWt_M3WyszpW1b06mVTbw16An6PGm_JYl4ZdJB3d7CtvJmLrcxjOy16122MGx01bPlaMxdSehI5ZcAJ75E9S4bYP-9TNV9JXO82qu5ij2ClW2/s1600/img_848353_10839529_5.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720368752707735474" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjLGsbXPn1JJ2mwZ6tc9uKTZzSjfN3xIB5KWt_M3WyszpW1b06mVTbw16An6PGm_JYl4ZdJB3d7CtvJmLrcxjOy16122MGx01bPlaMxdSehI5ZcAJ75E9S4bYP-9TNV9JXO82qu5ij2ClW2/s400/img_848353_10839529_5.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 361px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 250px;" /></a><br />
女の死によって終焉する映像の括りは、ゆき子の側に立てば、ある意味で殉教的であり、それ自体、本望なる人生の閉じ方であったと言えるだろう。<br />
<br />
この映画は、それ以外に終焉しようがない物語の展開の必然性の内に、それぞれに噛み合わない情念が溜息をつき、呻吟し、悶え、深く傷つき、そして最後にランプに照らされた美しい死顔を置土産にして、それまでのドロドロとした感情交錯を浄化するかのような描写によって、半ば予定調和の完結に流れていったのである。<br />
<br />
それで良かったかも知れないのだ。そんな余情が残されたのである。<br />
<br />
ついでに、「独占感情」について言えば、それがゆき子の一方的な嫉妬感情として、映像の中で繰り返し表現されている。<br />
<br />
彼女の嫉妬の相手は、この映像の中だけで見る限り、伊香保温泉から始まった若い娘おせいだった。<br />
<br />
おせいの存在は、ゆき子にとって、その自我の安定の基盤を崩す最も危うい何者かであった。<br />
<br />
だから、おせいの死によって打ち拉(ひし)がれる富岡の心の空洞を埋めるために、ゆき子は動いたが、これは逆効果に終わった。 <br />
<br />
そこでゆき子が知ったのは、富岡の心に自分が入り込む余地のない寂しさだった。<br />
<br />
それでも、ゆき子は動いた。<br />
<br />
それが金銭的理由であっても、自分を訪ねる男に身も心も預けようとしたのである。<br />
<br />
その最大の理由は、富岡が妻を喪って、男やもめになったからである。<br />
<br />
それだけに過ぎないが、ゆき子にとってこのような事態の到来は、或いは、最初にして最後の「共存感情」を満たす機会だった。その結末は書くまでもないことである。<br />
<br />
詰まるところ、富岡という男の、ゆき子に対する距離の取り方は終始変わらなかったということだ。変わりようがなかったのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtuD6FSPQf28IiwbGteGag7yr1Ip7yy39l26Clr_QYhp9UI4Z-bijDT3h_OrMNlU1OBoXXVn0uVfFg9vUSWIXXHK8whf2GUC_PhyphenhyphenjLHw7XhwVRbibQROYZGoGQdPY1gWTNiy4b_Rq-5Sut/s1600/ukigumo3.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720728668980931938" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtuD6FSPQf28IiwbGteGag7yr1Ip7yy39l26Clr_QYhp9UI4Z-bijDT3h_OrMNlU1OBoXXVn0uVfFg9vUSWIXXHK8whf2GUC_PhyphenhyphenjLHw7XhwVRbibQROYZGoGQdPY1gWTNiy4b_Rq-5Sut/s400/ukigumo3.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 299px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 280px;" /></a><br />
そこには最後まで、恋愛感情の落差が埋め難いほどに存在していたからだ。<br />
<br />
恋を継続させたい女がいて、恋を継続させたくない男がそこにいるとき、その恋の結末は見えている。それはもう、どうしようもないことなのだろう。<br />
<br />
<br />
<br />
18 「メロドラマ」を超えた何ものか<br />
<br />
<br />
<br />
―― 次に稿のテーマを変えて、「『浮雲』とはメロドラマなのか」という問題に言及してみたい。<br />
<br />
<br />
大体、「メロドラマ」とは一体何なのか。<br />
<br />
その意味から把握する必要がある。分っているようで、きちんと定義し難いこの言葉の意味を辞典から起していくと、以下の説明になる。<br />
<br />
「メロスとドラマが結合した語で、元来は伴奏つきの簡単な所作劇〕恋愛をテーマとした、感傷的・通俗的な劇・映画・テレビ-ドラマ」(三省堂刊 大辞林 第二版より)<br />
<br />
もう一つの辞典によると、こう言うことだ。<br />
<br />
「メロドラマとは、音楽が入った通俗劇という意味であるが、ここから男女の恋愛や、家族の葛藤、難病など、通俗的で感傷的なテーマを扱った作品をさすようになる」(「素晴らしき哉、クラシック映画!」HP・ 「クラシック映画用語辞典」より)<br />
<br />
両方の辞典で共通しているのは、音楽を使った通俗劇という言葉である。では、そもそも「通俗」とは何か。これも念のため調べてみた。<br />
<br />
「(1)一般大衆にわかりやすく受け入れやすいこと。一般向きであること。また、そのさま。低俗。 「―に堕する」「―小説」、(2)世間一般。世間並み。「―な考え」、(3)世間一般の習俗。世俗」(三省堂刊 大辞林 第二版より)<br />
<br />
つまり「メロドラマ」とは、音楽を使って、一般大衆に分りやすく、且つ、受け入れやすい類のドラマのことであって、それは、「低俗」なる大衆劇という括りになるのだろうか。<br />
<br />
「世俗」とは言うまでもなく、一般世間の習慣とか生活という意味だから、私たちの等身大の人生、生活様態を些(いささ)か誇張を込めて、感傷的に映し出したのが「メロドラマ」ということなのか。<br />
<br />
また、こんな専門的な説明もある。<br />
<br />
「メロドラマ(melodrama)とは、扇情的かつ情緒的風合いの濃厚な、悲劇に似たドラマの形式。悲劇と違い、登場人物の行動から人生や人間性について深く考えさせるというよりは、衝撃的な展開を次々に提示することで観客の情緒に直接訴えかけることを目的とする。<br />
<br />
扇情的だがドラマの中身が薄いことを指摘する意味で、この語が侮蔑的に用いられることもある。狭義には、メロドラマは19世紀にイギリスを中心にヨーロッパやアメリカ合衆国で流行した演劇のスタイルを指す。<br />
<br />
現在では、演劇のみならず、文学や映画、テレビドラマなどにおいても、そのドラマの形式に基づき、メロドラマと謳われたり、ジャンル付けされる場合がある」(ウィキペディア「メロドラマ」より)<br />
<br />
よくぞここまで書いてくれたと思わせるような刺激的な括りだが、「扇情的だがドラマの中身が薄い」というこの挑発的な定義づけを仮に認知するならば、成瀬の「浮雲」は、決して「メロドラマ」の範疇で収まらないことは、殆ど論を待つまでもない。<br />
<br />
確かに、「浮雲」には音楽が効果的に使われている。<br />
<br />
男と女が寄り添うように歩くとき、お互いに気まずそうに一定の距離を保って、モノクロの画面の奥に消えていくのだが、あの一度聞いたら忘れられない気だるい音楽が、その叙情的文脈の中に溶け込むように、しかし一貫して、映像的主題を壊さない程度の静かな旋律を保持しつつ、「漂流」をイメージするストーリー性と見事に睦み合って、映像それ自身の存在性の内に流れ込んでいる。<br />
<br />
果たしてそれは、映像の通俗性を効果的に盛り上げるための仕掛けに過ぎないのか。<br />
<br />
否である。<br />
<br />
テーマと音楽の見事なまでの睦み合いは、明らかに、観る者に対する迎合的、且つ感傷的な「低俗性」を超えている。<br />
<br />
その静謐な短調のメロディは、時代に上手に繋がり切れないで漂流する男女の思いを汲み取っていて、決定的に効果的だった。<br />
<br />
それは、仏印ダラットを発火点にした男女の関係が継続力を失ってもなお、そこに澱んで残る情念が浄化できない哀しさを歌い続ける何ものかだった。<br />
<br />
決して、音楽が映像を支配する独善性が見られないのである。<br />
<br />
それは、「ここで感動して泣いて下さい」という卑俗な誘導効果を狙った演出とは、確実に一線を画しているのだ。<br />
<br />
以上の「音楽」についての言及で明らかなように、成瀬の映像世界は、そのごく一部の作品を除けば、「扇情的だがドラマの中身が薄い」という評価で片付けられるものでは決してない。<br />
<br />
とりわけ「浮雲」は、そこに等身大の世俗性に通底するものを当然ながら認めてもなお、「観客の情緒に訴えかけることを目的」とした作品になっていないことは、彼の映像に親しんだ者なら周知の事実と言っていい。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiV7M2sN5mDXHnooS61PzRKiYFQzxUiqcnTKM1qyNR0Y9QZMs30SGg2GpTsNg6hrQ8cWpmp-8mfwcdIweVLRPCd_Ic4kICbG6udf_SCReErC5N4QGVNxITgg0WJxjMXKeJukD-Mpa6rrQXj/s1600/img_464718_3668536_2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiV7M2sN5mDXHnooS61PzRKiYFQzxUiqcnTKM1qyNR0Y9QZMs30SGg2GpTsNg6hrQ8cWpmp-8mfwcdIweVLRPCd_Ic4kICbG6udf_SCReErC5N4QGVNxITgg0WJxjMXKeJukD-Mpa6rrQXj/s400/img_464718_3668536_2.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「おかあさん」より</span></td></tr>
</tbody></table>
大体、成瀬の作品が、「衝撃的な展開を次々に提示する」映像になっていないことは、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/52.html">おかあさん</a>」、「稲妻」、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/10/blog-post_5912.html">流れる</a>」、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2009/10/51.html">銀座化粧</a>」、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/50.html">石中先生行状記</a>」、「三十三間堂通し矢物語」等々、戦前戦後を問わない地味な作品群を観れば瞭然とする。<br />
<br />
それらの殆どが、一応完成された原作をベースにした映像作品であるにも拘らず、その原作にある過剰な扇情的表現や刺激的な状況描写を、そのまま写し撮ることをせず、そこに確信的で抑制的な演出によって、原作とは全く別の、一つの独特な映像宇宙を創り出したのが成瀬の作品群なのである。<br />
<br />
成瀬の遺作となった「乱れ雲」ならいざ知らず、「浮雲」は決して「メロドラマ」のカテゴリーに収まるものではない。それは紛れもなく、「メロドラマ」を超えた何ものかであった。<br />
<br />
思うに、「メロドラマ」とか、「女性映画」とかいうような、成瀬映画の括り方自体が根本的に間違っているのである。<br />
<br />
確かに、「流れる」は、当時の一流の女優陣が出演したオールスター作品と称されるが、しかしその映像の内実は、オールスター競演の娯楽性を遥かに超えた、深い味わいのある作品になっていることは、この作品の愛好者の間で知らない者はいないだろう。<br />
<br />
彼の作品は、主に庶民の日常性を題材に描いた一流の人間ドラマに他ならないのだ。成瀬映画について、私は今、それ以外の認識を持ち得ないのである。<br />
<br />
<br />
<br />
19 誇り高い仕事師たちの匠の世界 ―― 成瀬組の完璧なセット造形<br />
<br />
<br />
<br />
―― 稿のテーマを変える。<br />
<br />
<br />
成瀬映画の素晴らしさについて、よく言われることの一つは、彼の作品には駄作が少ないということである。<br />
<br />
殆ど全ての作品が水準以上の評価に耐え得る作品であることは、例えば、出来不出来の落差が激しかったと言われる溝口健二のそれと比べると驚きですらあるだろう。<br />
<br />
有名な作品ではないが、戦前に作った、「芝居道」などという一連の芸道ものの作品の一つですら、とても良く出来ていて、そこに描かれた人間ドラマの完成度は決して低いものではない。<br />
<br />
このような成瀬作品の安定的な水準の高さは、一般に、成瀬組と言われるスタッフのプロフェッショナルな集団に支えられていたとも言われている。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiI-hrj6uClDJBafge2aTRuhsG10Ntx6cmJNBIOs4ZHrnAKlQmKp9vaqLRmgZ5f3bBwT9xcnfKghjeL-0tUVFmM9V0r9SQlFPZJpXna0g7I2-jb4pjwaRgM4Y31IFUNL9h-m3aFzjqTARc/s1600/51FEymQCxQL__SS500_.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiI-hrj6uClDJBafge2aTRuhsG10Ntx6cmJNBIOs4ZHrnAKlQmKp9vaqLRmgZ5f3bBwT9xcnfKghjeL-0tUVFmM9V0r9SQlFPZJpXna0g7I2-jb4pjwaRgM4Y31IFUNL9h-m3aFzjqTARc/s400/51FEymQCxQL__SS500_.jpg" width="277" /></a></div>
中でも、ロケを好まない成瀬の作品の美術装置には定評がある。<br />
<br />
とりわけ、「石中先生行状記」以来、戦後の成瀬作品の美術の多くを担当した中古智(ちゅうこさとる)の手腕は伝説的ですらあるのだ。<br />
<br />
( 因みに、先の「芝居道」の美術を担当したのが彼である。それは、彼が唯一戦前に、「まごころ」と共に美術を手がけた作品として、知る人ぞ知る所である)<br />
<br />
ここに、一冊の著作がある。<br />
<br />
それは成瀬の作品批評に熱心な蓮実重彦が、美術の中古智にその苦労話についてインタビューした内容構成になっている。<br />
<br />
その著作の名は「成瀬巳喜男の設計」。<br />
<br />
そこには、ロケとも見紛うばかりの完璧なセットを造形した成瀬組のスタッフの苦労が紹介されていて、とても興味深い。<br />
<br />
<br />
「浮雲」を例にとると、未だ信じ難いのだが、伊香保温泉の階段を中心にした完璧なセットは語り草になっている。著作から引用してみよう。<br />
<br />
「―― やっぱり階段がたくさんありますね。<br />
<br />
中古 階段のセットはまた別なんですけれども、そこの曲がるところの角に飲み屋がある。そのほかに大通りの先っちょのほうをロングで、実際、昼間ロケーションで撮ってるんですが、セットで同じようなものをつくってくれという注文がでましたね。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgknBHJeYxityjwTnb1us2rqh7SrmD9Fv2k1geMehUOrpkA1kyQoU1AOHsy_NBy9_JiKd-PvxXXAu4DNqzPQkEkeTg-ZGEpfkiqDKVqqyweBdJ50Po0LG0xXX8hl5H0XC-zey-oJuV9bAY/s1600/midareruchukosan.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgknBHJeYxityjwTnb1us2rqh7SrmD9Fv2k1geMehUOrpkA1kyQoU1AOHsy_NBy9_JiKd-PvxXXAu4DNqzPQkEkeTg-ZGEpfkiqDKVqqyweBdJ50Po0LG0xXX8hl5H0XC-zey-oJuV9bAY/s400/midareruchukosan.jpg" width="257" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="color: black; font-family: "MS 明朝","serif";">銀山温泉で・中古智</span><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">(ブログより)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
ああいう建て込んだ所はすぐ太陽の翳(かげ)りが大きく出ますんで、ロケーションなんかできないんですよね。だから、どうしてもセットをということになる。ロケーションに行ってるのに何でこんなのを撮ってこないんだというような騒ぎがいろいろ多かったんです。セットづくりの下準備というのが、あの映画ほど難しい映画はなかったんですよね、ほんとに。(略)<br />
<br />
―― そして手前は何もないようなセットの階段ですか。<br />
<br />
中古 そうそう、石の階段の端の仕上げはしてあるオープン・セットですが、脇にちょっとした隙間が見えるわけです。それが手前の角の家に切られて、その中間は見えない。ただ階段の縁だけがこうなって結末がついているわけです。それで上に上がったところの右方に風呂場がある。あそこは実はクレーン撮影なんです」(「成瀬巳喜男の設計」中古智/蓮実重彦著 筑摩書房)<br />
<br />
<br />
それ以外に「浮雲」の撮影の中枢部分、例えば仏印ダラットやラストシーンの屋久島の描写が、成瀬組の美術の手腕に支えられていたことも知られている。(画像はロケ地の伊豆で、ロイヤルホテルから撮影)<br />
<br />
これも引用してみる。<br />
<br />
「(略)ところでこの映画の撮影は、とにかく仏印には行かないわけですよ。仏印ばかりじゃない、屋久島にも行かないわけです。仏印のような感じが出せそうなのは、伊豆しかない。伊豆で何とか撮れないかということをいろいろ研究して、ハンティングして、何とかして少しでもそれらしく感じを出してくれというのでやったわけです。吊り橋みたいなものがありますが、あれなど全部つくりもので、山中に吊り橋をつくった。森の中で水が流れている所をポッと渡るところ、あれは三島の自然公園という所。場所は全然違うわけですけど(笑)」(同上より)<br />
<br />
このように成瀬的映像宇宙とは、成瀬組という優秀なプロ集団による、それぞれの「分」に見合った手慣れた仕事の集合的な創作的世界であったことが分る。<br />
<br />
そしてその宇宙の中心に、成瀬巳喜男という類稀な仕事師がいた。この仕事師が作り上げた創作現場は、他の映像作家たちのそれと異なって、そこにいつも静謐で、張り詰めたような空気感が漂っていたという。<br />
<br />
それこそ、成瀬的映像宇宙の基盤を支えた一種独特の素顔の現場であった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiymTb0IgWV-RkqPuuJA7zIRtKpS6314tUHDoMWr-W2aBgCpyMi9XqSjOv0hLlsMXI7AkHoYucKS5x7qLZs2LB5sx2vySGFzSraz5yUqja1M80s5_3RSQVRX6l2O_XssUQPrPDFF9DRDeQ/s1600/dsc07546.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiymTb0IgWV-RkqPuuJA7zIRtKpS6314tUHDoMWr-W2aBgCpyMi9XqSjOv0hLlsMXI7AkHoYucKS5x7qLZs2LB5sx2vySGFzSraz5yUqja1M80s5_3RSQVRX6l2O_XssUQPrPDFF9DRDeQ/s400/dsc07546.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">ロケ地の伊豆・、ロイヤルホテルから撮影</span></td></tr>
</tbody></table>
この誇り高い仕事師たちの匠の世界から、日本及び日本人の良さも悪さも象徴するような味わい深い映像世界が、テレビという最も大衆的で、究めつけの快楽装置が出現し、それが黄金時代を迎えるほんの直前まで、長く銀幕の輝きの歴史の一画を、目立たないように占有していたのである。<br />
<br />
誇張して言えば―― 「成瀬巳喜男」、それはまさに最後の映像職人だった。<br />
<br />
「成瀬組」、それもまさに、最後の仕事師たちの匠なる集団であったということだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
20 等身大の宇宙に思いを寄せることができる親和力<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
―― 稿の最後に、成瀬映画を、「私の眼差し」で論じてみたい。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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<br />
成瀬映画とは何だったのか。<br />
<br />
いや、今でも輝きを放つそれは一体何なのか、という問題提起こそ相応しい。<br />
<br />
それを私なりの雑感で綴っていくとこうなる。<br />
<br />
人間として不可避なる死や、寄る辺ない事情による様々な別離とか、感情の微妙な行き違いや打算、裏切りによる葛藤や反目、離反、更には運命としか呼べないような人生の試練とか、偶発的にヒットしてくる不幸や、それに起因する人生の惨状、そして何よりも、一見フラットな日常性が、その内側に抱えている多くの不安や関係亀裂のさまなどを、それが私たちの通常なる人生様態であると突き放しつつも、だからこそ、そんな人生の真実の受容を何気なく迫るリアリズムの映像宇宙が、常に「いま、そこにある」ように展開している。<br />
<br />
―― それが成瀬映画である。<br />
<br />
そこには、私たちの世俗的な市井のステージで、時には寡黙に、或いは、ここぞと言うときのほど良い情感を乗せて、鋭利な緊張含みのストーリーを交えつつ、しかし一貫して淡々と描き出されていて、観る者をなぜか飽きさせないのである。<br />
<br />
なぜなら、そこに描かれている世界は、丸ごと、その時代に生きた私たちの平均的観念や思いであり、まるでキメ細かい一幅の写実に優れた創作性を加えただけの極めてミニマムな、しかしそれ故にこそ、その等身大の宇宙に思いを寄せることができる親和力が、そこに全開しているからである。<br />
<br />
そんな成瀬的映像宇宙の根柢にあるものを私なりに要約すると、「人生は思うようにならない」という、極めてシンプルなメッセージに帰結する。<br />
<br />
そんなあまりに単純なメッセージは、成瀬映画だからこそ最も相応しく、限りなく説得力を持つのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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決して声高に叫ばず、情緒の洪水に流れることなく、常に抑制的で、そこに映し出された人物たちの慌てぶりや滑稽な表現が、観る者の視線と見事に重なってしまうことで、何かある種の安堵感が生まれるのである。<br />
<br />
「これはこれでいい。自分は自分でいい。皆、同じことを悩み、同じところで躓(つまづ)き、同じように重いものを背負って生きている。だからこれでいいのだ」<br />
<br />
実際はそんな単純なものではないのだが、成瀬の作品を繰り返し観るたび、私はいつもこんな思いを抱く。<br />
<br />
その思いが振れるのは、私流に把握する成瀬のメッセージと出会えるからである。私にとって成瀬作品とは、少し元気を失ったときの漢方薬レベルの効用薬であると思っている。<br />
<br />
それは諦念ではない。絶望にも至らない。<br />
<br />
他の者よりも些か辛い日常性を送っている脊髄損傷者としての私が、そこに少しだけ、気分を変えて世俗的な風を入れたいとき、「思うようにならない人生」を生きている成瀬作品に登場する人物たちの固有の辛さに、何か自然に侵入していけるものがあるのだ。<br />
<br />
それは私の好きな親鸞聖人の厳しくも、決して辛き者を突き放さない包容力に包まれたい気分と重なるかも知れない。<br />
<br />
確かに成瀬作品は、しばしば容赦ないほど残酷である。<br />
<br />
そんな苛酷な状況でも、人は生きていく。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjECEvuPin4iR7No3Qu9FPvJW6_iA5XflmJCVJQBUl2MNBSzy55F1k_RZbQXXhExBFOlmq8fJ5wIi9q7Vz08D8WJ7HvSb4CE9Fy2Ezxsb0PqheSDL0HwzQFgIehCB5Z3bvDlhhvwVUTSDQ/s1600/img_862188_9034789_1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjECEvuPin4iR7No3Qu9FPvJW6_iA5XflmJCVJQBUl2MNBSzy55F1k_RZbQXXhExBFOlmq8fJ5wIi9q7Vz08D8WJ7HvSb4CE9Fy2Ezxsb0PqheSDL0HwzQFgIehCB5Z3bvDlhhvwVUTSDQ/s1600/img_862188_9034789_1.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「あらくれ」より</span></td></tr>
</tbody></table>
「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/57.html">あらくれ</a>」の気丈な女も、「稲妻」の自立を目指す四女も、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/60.html">秋立ちぬ</a>」の薄幸な少年も、「流れる」の年増芸者たちも、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/11/54_11.html">晩菊</a>」のぼやき続ける中年女たちも、「おかあさん」の慈母観音のような母も、それでも皆生きていく。<br />
<br />
生きていかざるを得ないのだ。簡単に死ねないからだ。<br />
<br />
人生とはそんなものなのだ。<br />
<br />
思いっ切り運に見放された男も女も、突然襲来する不幸に怯える者も、ある意味で均しく平等なのである。望むことが容易に手に入る人生など、一体どこにあるというのか。<br />
<br />
仮にそんな人生が一過的に訪れたとしても、そんな僥倖を抱え切ったまま、人生のゴールインを迎えられる訳がないと考えるのが自然である。<br />
<br />
人生は、いつでも思うようにならないものなのだ。それが人生なのである。<br />
<br />
そう考えさせる説得力が、成瀬の作品には溢れている。<br />
<br />
それこそが、私にとって、成瀬巳喜男という監督の最大の存在価値であると言っていい。<br />
<br />
独断的に言ってしまえば、私の把握に於いて、この国の映画史には、成瀬巳喜男と、それ以外の映画監督しか存在しない。<br />
<br />
人間の真実の姿を、見事なまでに自然な演出力で、抑制的に表現できる作家という基軸で評価するとき、私にはこんな括り方しかできないのである。<br />
<br />
それほどに、成瀬巳喜男とい映画監督は、私にとって特別に価値ある何かなのだ。<br />
<br />
(2006年3月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-17174904327595845532012-01-03T10:17:00.020+09:002013-05-04T22:27:55.546+09:00インビクタス/負けざる者たち('09) クリント・イーストウッド<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-0lgh5vPOGgc4Q4y66daUQ6vo-I7XIn4ssGCWcix1spHBgocx7kWe1OGs4JHaZKCg0EBm-_t8wl3TL7ucAp093u12Lzin8szT-oRyqrjlsW5beccWmME4Dyz276-BITKrUFewg5d33w1n/s1600/img_857392_8591415_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="382" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-0lgh5vPOGgc4Q4y66daUQ6vo-I7XIn4ssGCWcix1spHBgocx7kWe1OGs4JHaZKCg0EBm-_t8wl3TL7ucAp093u12Lzin8szT-oRyqrjlsW5beccWmME4Dyz276-BITKrUFewg5d33w1n/s640/img_857392_8591415_0.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「英雄」という名の未知のゾーンに搦め捕られる心理の鮮度の持つ、「初頭効果」の訴求力<br />
<br />
<br />
<br />
作品が持つ直截な政治的メッセージの濃度の高さを限りなく相対化するためなのか、ほんの少し加工するだけで、もっと面白くなる物語を比較的淡々と構成化することで、「英雄礼賛」に流れる俗流メッセージを稀釈化させたつもりなのかも知れないが、恐らく、本作を観終わった後の感懐の多くは、ネルソン・マンデラという実在人物に対する、崇拝にも近い「偉人伝」もどきの評価の高さで埋まってしまうだろう。<br />
<br />
それもまた良い。<br />
<br />
「英雄」を必要とする時代があり、「英雄」を必要とする国家に住む人々の悲哀を感傷的に理解できても、アパルトヘイトが分娩した、憎悪の連鎖から解放されない人々の心奥の集合的感情にまで届き得るには、差し当たり、パンの問題から解放された先進国の端っこに住む私たちの、その「強靭なる紐帯」への思いの情感濃度ではとうてい太刀打ちできないだろう。<br />
<br />
「英雄」を必要とする人々の心奥の集合的感情にまで容易に届くとは思えないが故に、「英雄」という名の未知のゾーンに搦(から)め捕られる心理の鮮度は、感動譚の物語の「初頭効果」の訴求力によって剝落しない情感を持つに違いないからである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhM0mLqc-VYWjiOCB8laTbfRH0-z-I4oIrKVdTEjLjytXuIsbEcejVS7WAeu1j3IxFjxRypeTE9g9K7b795eTNOY0Y7juMjFD7srL1XOYphj6qwu9e4syKS9vSSXm9yuV_4jNVm-NdN4gc/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="480" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhM0mLqc-VYWjiOCB8laTbfRH0-z-I4oIrKVdTEjLjytXuIsbEcejVS7WAeu1j3IxFjxRypeTE9g9K7b795eTNOY0Y7juMjFD7srL1XOYphj6qwu9e4syKS9vSSXm9yuV_4jNVm-NdN4gc/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
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然るに、直截な政治的メッセージの濃度の高い映画を批評する知的営為もどきの一切は、国境を越える自在性を有する「鑑賞者利得」をフル稼働させる趣味の範疇にあるので、ここでも簡単に相対思考の嗜好的快感を解き放ってみよう。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走<br />
<br />
<br />
<br />
「体系性」を生命とする思想に対して、「完成度」を生命とする芸術表現のコンテンツの一つである映像表現の「完成度」は、「映像構築力」を根幹とするという意味において、本作の「映像構築力」は決して高くないと、私は思う。<br />
<br />
その「映像構築力」は、「主題提起力」と「構成力」に支えられていると私は考える。<br />
<br />
「構成力」とは、一言で言えば、映像展開を破綻なくまとめていく技巧的力量である。<br />
<br />
さて、本作のこと。<br />
<br />
暑苦しいまでに炸裂する本作の「主題提起力」が、物語の「構成力」を押しのける勢いで最後まで貫徹されていた、というのが私の率直な感懐。<br />
<br />
決して駄作を作らないクリント・イーストウッド監督の、安定感溢れる作品群の瑕疵があるとすれば、せいぜい、凡作程度の辛口批評に留まるレベルで収まっていたことは事実。<br />
<br />
従って、本作もまた、完成度は決して高くないが、だからと言って駄作ではない。<br />
<br />
それこそが、常に3割バッターを維持し続けた感のあるクリント・イーストウッドの監督の真骨頂であるだろうが、私の本作への不満も、凡作性の物足りなさに起因すると言っていい。<br />
<br />
何より、そこで提示された主題の中枢が、「非暴力主義」という思想で人格武装した「偉大なる黒人大統領」と、その大統領の人格的求心力によって覚醒したラグビーチームのリーダーである、「誠実なる白人青年」という補完的な関係のうちに特化されていて、人たらしの達人の如き、マンデラ・マジックとも言うべき効果覿面のサポートを得た挙句、件のチームの自国開催ゆえに出場権を得たに過ぎないラグビーワールドカップ(1995年)において、世界最強のオールブラックス(ニュージーランド代表)を破る奇跡的快挙を成し遂げたという、スポ根ジャンルとは一線を画す物語の「構成力」を支配し切ってしまっていたこと。<br />
<br />
これが、私の内側にストレートに入り込んできた物語イメージである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhWT9maTDa3ONiSyBuGjVT6rQ4-egsBRREe-eT-sm4RiSYmvtDnujikSM1RcnhZxoT3pgazTGdyOb1R8THrDQ-QCJUrhpKOUru28zTf-Zjj_9eTvrDkuJTGblzYvayqiYfH6OgOmvdE84p9/s1600/091207_invictus_main.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="360" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhWT9maTDa3ONiSyBuGjVT6rQ4-egsBRREe-eT-sm4RiSYmvtDnujikSM1RcnhZxoT3pgazTGdyOb1R8THrDQ-QCJUrhpKOUru28zTf-Zjj_9eTvrDkuJTGblzYvayqiYfH6OgOmvdE84p9/s640/091207_invictus_main.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
そして、奇跡的快挙の果てに交叉した、二人の短い会話に流れていったとき、本作に対する私の違和感はピークアウトに達してしまったのである。<br />
<br />
「諸君の貢献に心から感謝する」と大統領。<br />
「祖国を変えて下さった大統領のお陰です」とリーダー青年。その名はフランソワ。<br />
<br />
仮にこの会話が事実であったとしても、殆ど外連味(けれんみ)なく、ここまで直截に挿入されたワンカットを目の当たりにして、正直言って、私は二の句が継げなかった。<br />
<br />
まさかクリント・イーストウッド監督が、ここまで露骨に、煮沸された理念系を言語化するとは思いも寄らなかったからだ。<br />
<br />
殆ど腹一杯になるほど提示され続けてきた主題、即ち、「憎悪の連鎖を断ち切って共存していこう」という基幹メッセージが連射されて、もう、膨れ上がった私の感性受容器はアウト・オブ・コントロールの状態だった。<br />
<br />
何より始末に悪いのは、基幹メッセージの全てが、観る者の思考力を奪う程の、極めて分りやすい説明的描写で映像化されてしまっていることである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjmkpTmMI6Z9RFeGjf7Y97pTXWu5A_cdKdKz-6jU-7OamoVj4iNinJtSksBi9NZyOKjvJPEsYiHM-h4oqqfTncjL9L40FgraNdFiQpiUaADL_zG08lMfG2wIrnzDAG51WHzkhjKcJU-Yjo/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjmkpTmMI6Z9RFeGjf7Y97pTXWu5A_cdKdKz-6jU-7OamoVj4iNinJtSksBi9NZyOKjvJPEsYiHM-h4oqqfTncjL9L40FgraNdFiQpiUaADL_zG08lMfG2wIrnzDAG51WHzkhjKcJU-Yjo/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="306" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
思うに、ネルソン・マンデラの思想のコアである「非暴力主義」に収斂された基幹メッセージは、ユーモア含みで描くことで、「英雄礼賛主義」に流れない程度の節度を保持していて、それが却って、マンデラの政治家としての傑出した能力を感じさせるが、それでもなお、このような会話を必要とせざるを得ない映画に昇華させたことによって、政治色の濃度の高い物語ラインが、エンドロールの「平和の賛歌」に繋がってしまうのだ。<br />
<br />
以下、その歌詞の大部を再現してみる。<br />
<br />
永遠の山々の頂きから<br />
こだまが響きわたる<br />
我ら 心を一つにして<br />
立ち上がろう<br />
自由のため 共に生きよう<br />
南アフリカ 我らの祖国で<br />
私には 大きな夢がある<br />
とても大切な すばらしい夢<br />
国々が 互いにむすびついて<br />
ひとつの世界になること<br />
あらゆる人々が 手をたずさえ<br />
ひとつの思い ひとつの心に<br />
すべての信条<br />
すべての肌の色が<br />
垣根を越えて ひとつに集まる<br />
みずからの可能性を 探りながら<br />
それぞれの力を 発揮していく<br />
勝っても 負けても<br />
引き分けても<br />
皆の心に 勝者が宿る<br />
世界の国々が <br />
互いに結びついて<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPZqJ0lRx6QGSbCScuba8IiMdwQZAkxADc75ToEVb-O_XzhqraMVj9SqtHQNuR3eSbgikaO2_N7dWy_yZnkJtqKAq2EeDXPPHrhvyZ_1-aZVhwAufHxeZx54BokscHHSQlruU9eiHIR_g/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="640" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPZqJ0lRx6QGSbCScuba8IiMdwQZAkxADc75ToEVb-O_XzhqraMVj9SqtHQNuR3eSbgikaO2_N7dWy_yZnkJtqKAq2EeDXPPHrhvyZ_1-aZVhwAufHxeZx54BokscHHSQlruU9eiHIR_g/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="520" /></a></div>
ひとつの<br />
揺るぎない世界に<br />
運命をつかもうと<br />
努力するなら<br />
新しい時代が ひらけていく<br />
険しい山を 越えようとも<br />
荒々しい海を 渡ろうとも<br />
いつか来る<br />
輝かしい日のため<br />
誇りを持って 進んでいこう<br />
持てる力を すべて出し切り<br />
共にゴールを めざすなら<br />
勝っても負けても<br />
引き分けても<br />
皆が勝利を手にする<br />
世界の国々が<br />
互いに結びついて<br />
ひとつの<br />
ゆるぎない世界に<br />
運命をつかもうと<br />
努力するなら<br />
新しい時代が ひらけていく<br />
<br />
<br />
<br />
二の句が継げないどころの話ではない。<br />
<br />
<br />
<br />
もうここまできたら、国連協会主催の「高校生の主張コンクール」の文部科学大臣賞クラスの、情感たっぷりの挿入ポエムの熱弁を聞いている錯覚がする程だ。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693213458439005010" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhUhBr7PhdbqMHlUtt1lQojQiBqHN4D9LbpJ8IXoG-_5DMpMWaYwxy9e-RvUG-rFZyLkSfieA4C4alWilAcNTTGvzaLfKTlHPsoJu-b2ALt2YC4neAP32XKTAL6E3JmTAKOGqQ0rgO7E-aU/s400/invictus1_01.jpg" style="float: right; height: 238px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 344px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">クリント・イーストウッド監督</td></tr>
</tbody></table>
以下、クリント・イーストウッド監督自身のインタビューである。<br />
<br />
「彼は27年間も刑務所で暮らしたのに、自分をそんな目に遭わせた人々を許しただけでなく、刑務所の看守たちを大統領就任式に招待までしたんだよ。そんなことができる性格の人間は、非常に少ないと思う。出所したとたんに戦争でも始めてやろうと思うほうが人間の本性に近いだろう。だが、彼はそうしなかった。そうではなく、許すことに価値を見いだした。そして、アパルトヘイトへのボイコットのせいで、もう何年も国際試合に出場していない、このラグビーチームに目を付けたんだ。彼は、自分がバルセロナ・オリンピックに行った時に、そこにいた人々が、観戦の影響で、家に帰ってからも一生懸命働こうというやる気とエネルギーを得ていた様子を目撃していたのでね。そんなアイデアを考え出すほど、マンデラはクリエイティブでもあったんだ」(e-days 映画「インビクタス/負けざる者たち」クリント・イーストウッド監督インタビュー)<br />
<br />
もう一つ紹介しよう。<br />
<br />
「ラグビーという競技の魅力、スポーツマンシップ、そして物語のシンデレラのような劇的な結末。あのような結果になるというのは皮肉なことだ。これほど『祝祭』となったスポーツの試合をほかにわたしは知らない」(シネマ トゥディ『インビクタス/負けざる者たち』インタビュー)<br />
<br />
後者は、「この物語の何がここまで興味深い話にさせているのでしょうか?」という、インタビュアーの質問に対する明快な回答だ。<br />
<br />
27年間も刑務所暮らしを強いた白人権力に対して暴力的復讐を加える行為を拒絶し、「許すことに価値を見いだした」男が大統領となり、「ラグビーという競技の魅力」(注1)に着眼した結果、肌の色の違いを無化し得る程に、「スポーツマンシップ」への情感昇華を果たすことで、「赦しによる敵対民族との和解と融和」を具現するという、それこそまさに、正真正銘の奇跡的快挙を成し遂げた現実に魅了され、マンデラの自伝をベースにした物語を構築するとき、マンデラの政治家としての傑出した能力に対する表現の帰結が、エンドロールの「平和の賛歌」に繋がってしまうのは避けられないようにも思える。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlRfWQjjYil-1tSqGrrOD-XJZI9cCTcXt3tFaIiYUQA0_-8WNUB87L0MQWqb3gKw8O-hZtmEdkraOw1JK7hQJe1nmzoT0lYRNcUHIiqsh-xlpXAix_t6gQGFk_mSonqGcNG7QpiPAzuZq/s1600/201002110835252ad.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693212999197383570" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlRfWQjjYil-1tSqGrrOD-XJZI9cCTcXt3tFaIiYUQA0_-8WNUB87L0MQWqb3gKw8O-hZtmEdkraOw1JK7hQJe1nmzoT0lYRNcUHIiqsh-xlpXAix_t6gQGFk_mSonqGcNG7QpiPAzuZq/s400/201002110835252ad.jpg" style="float: right; height: 273px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 288px;" /></a><br />
しかし、マンデラ自身の艱難(かんなん)な軌跡への描写を、関係特化された、「誠実なる白人青年」によるロベン島訪問のワンシーン(注2)で簡潔にスル―してしまって、例えば、「炎のランナー」(1981年製作)のように、主人公である「偉大なる黒人大統領」の内面描写に立ち入ることも、アパルトヘイト撤廃後の南ア黒人の生活の惨状を拾い上げることもなく、更に言えば、ワールドカップ優勝に至る苦闘の練習風景を熱心にフォローすることもなく、物語の「構成力」を押しのける勢いで、「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」を馬力にした一気の快走で突き抜けていくという手法は、些か安直ではなかったか。<br />
<br />
それが最後まで気になったのだ。<br />
<br />
<br />
(注1)「All for one One for all」=「全てのプレーヤーは一人の仲間のために、一人のプレーヤーは全ての仲間たちのために」こそ、ラグビーの基本理念であるが、その他にも、「ノーサイド」という言葉に象徴されるように、試合終了の合図を意味する有名な言葉がある。これは、両チームのプレーヤーが戦い終えたら、共に健闘を讃え合う仲間であるという精神のことで、まさに、マンデラ自身の政治信条を代弁している。<br />
<br />
(注2)この訪問でのポイントは、「いかなる罰に苦しめられようと、私は我が運命の支配者。我が魂の指揮官なのだ」というウィリアム・アーネスト・ヘンリー(英の詩人)の詩にある。「インビクタス」の一節のマンデラの回想のカットとして、この言葉は本作の中で繰り返されるが、メッセージ性が明瞭に強調されている。<br />
<br />
<br />
<br />
3 「シンデレラのような劇的な結末」に至る物語を支配した基幹メッセージの連射<br />
<br />
<br />
<br />
ラグビーワールドカップ(1995年)における、世界最強のオールブラックス(ニュージーランド代表)を破る奇跡的快挙の物語は、「マンデラ!マンデラ!」と黒人の子供たちが叫ぶ冒頭の釈放シーンから開かれた。(注3)<br />
<br />
「誰なんです?」と白人少年。<br />
「テロリストだが釈放された。覚えておけ。今日がこの国の破滅の始まりだ」と白人コーチ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiEZ5EEC73nR21fmpmYiW795jvlby7a83CgnPJG37F-aQVP-13EdOX1bNR4W9edFUsLEtOf2BhCFJIH2DwE9wvWssuCnET8Q_pGCTWvGiWbXJ5TEByRf5M7GCq9fJPKL3R3KqjQ4KA4mqiT/s1600/335400_006.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693212301408952594" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiEZ5EEC73nR21fmpmYiW795jvlby7a83CgnPJG37F-aQVP-13EdOX1bNR4W9edFUsLEtOf2BhCFJIH2DwE9wvWssuCnET8Q_pGCTWvGiWbXJ5TEByRf5M7GCq9fJPKL3R3KqjQ4KA4mqiT/s400/335400_006.jpg" style="float: right; height: 283px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 323px;" /></a><br />
その「テロリスト」であるマンデラ大統領は大統領執務室に入るや、残っている職員を集め、力のこもったスピーチを放った。<br />
<br />
「過去は過去。未来は未来だ」<br />
<br />
要点を言えば、この一言に尽きるだろう。<br />
<br />
「和解の象徴を見せるのだ」<br />
<br />
これは、前政権(デクラーク)の警護を担当した白人の公安に、引き続き自分の警護を担当させる指示を出した、マンデラ大統領の注目すべき発言で、現に、アパルトヘイト関係法の全廃に大きな役割を果たした白人のデクラークを自政権の副大統領に据えている。<br />
<br />
「赦しこそ、恐れを取り除く最強の武器なのだ」<br />
<br />
これは、側近の黒人のジェイソンに語ったもので、本作の肝に相当する重要なメッセージであると言っていい。<br />
<br />
先の警護担当の問題で、別室で待機中の白人の公安に、「警護中でも笑顔でいろ」というマディバ(マンデラの氏族の名前で、彼の愛称となっていた)の意思を伝えるジェイソン。<br />
<br />
このように、次々に連射される名言の、スクリプトに被された基幹メッセージが、本作の「主題提起力」のコアとなって物語を支配し、その物語の「シンデレラのような劇的な結末」に至るのだ、。<br />
<br />
スプリングボクスのキャプテンであるフランソワ青年を大統領執務室に呼んで、何気ない仕草による「歓待」のアプローチによって、絶妙な肯定的ストロークを提示する手腕の凄みは、「誠実なる白人青年」の心を鷲掴みにするのに充分過ぎる効果を持っていた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5nbntWcCc6Sj4soGt92_8bC8rARkVQq0uGsDj1haJeh_1T2XMAuZdZY2kdSvuFeU1dNvlm3TMG3uLca_QQZ5_eCrbvNq0MHZ30ru-4p9ALC4e6VchSaoMGRK1AQ_ppTlQxXtVMwHiGz3o/s1600/2325_Invictus_Website_Wallpaper_1024x768_JD03.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693211668038521250" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5nbntWcCc6Sj4soGt92_8bC8rARkVQq0uGsDj1haJeh_1T2XMAuZdZY2kdSvuFeU1dNvlm3TMG3uLca_QQZ5_eCrbvNq0MHZ30ru-4p9ALC4e6VchSaoMGRK1AQ_ppTlQxXtVMwHiGz3o/s400/2325_Invictus_Website_Wallpaper_1024x768_JD03.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 338px; margin: 0 0 10px 10px; width: 292px;" /></a><br />
「非暴力主義」という思想で人格武装した「偉大なる黒人大統領」との接見によって、「誠実なる白人青年」が大きく変容するエピソードは、まもなく、スプリングボクスの若者による黒人居住地区でのコーチの行為を含めて、既に、ラグビー・ワールドカップの制覇なしでも、困難な国家を率いる時代状況下での、国民の意識を平和裡に結んでいく戦略の成就を約束させるに足る、政治指導者としての辣腕を検証するものだった。<br />
<br />
従って、マンデラ大統領が傑出した政治的指導者であった事実を、「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走は、本作を貫流する基本命題であったことを認知すべきであるだろう。<br />
<br />
<br />
(注3)ラグビー日本代表が、このオールブラックス相手に17対145という、信じ難き歴史的大惨敗を喫した試合は、今も、「ブルームフォンテーンの悪夢」として語り尽くされているが、それ程までにオールブラックスが強かったということの証明である。いかに、この年の南アフリカ共和国代表が奇跡的強靭さを発揮したかが分るだろう。因みに、ブルームフォンテーンは、2012年現在、今や、党内対立や幹部による汚職疑惑に塗れている、100周年を迎えたアフリカ民族会議(ANC)の結成の「聖地」でもある。<br />
<br />
<br />
<br />
4 国民の精神的統合のパワーを有する近代スポーツの求心力<br />
<br />
<br />
<br />
思うに、英雄を必要とする国家において、近代スポーツが国民の精神的統合のパワーを有することは、それを必要とする国に住む為政者なら誰でも熟知していることである。<br />
<br />
日本人女性として五輪史上初の金メダルを獲得した前畑秀子が参加した、1936年開催のベルリンオリンピックが、「ヒトラーのオリンピック」と称されているのは周知の事実。<br />
<br />
ボイコットの意思を示していた英米を参加させるために、ユダヤ人差別政策を封印してまで敢行するに足る価値があればこそ、「ヒトラーのオリンピック」の成功が保証された訳だ。<br />
<br />
無論、ナチのプロパガンダの一つの方略であり、国威発揚の戦略の一環でもあった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693215304322673554" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjO06GqSq42_k3SDw2qCN8lvWTtbD6wJyzRGKehpKPWbwMHFVavzDEjgF-3ZuodTgVREgoZKWOl2k5e59Cssd9Hu9MwQlp1nxajvfAyokqnA7SeCsJoWm8btapwDE61FFshf-Ykp4tU69Ay/s400/20070701192036.jpg" style="float: right; height: 332px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 252px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">レニ・リーフェンシュタール</td></tr>
</tbody></table>
ゲッベルスとの確執を経て、1940年のキネ旬1位に輝いた、レニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」(1938年製作)が、その芸術性の高さから絶賛されながらも、戦後、ナチのプロパガンダ・ムービーとして糾弾されたように、「政治とスポーツ」の関係は、常にデリケートな問題であった事実を厳粛に認知すべきだろう。<br />
<br />
良くも悪くも、我が国の「なでしこジャパン」の活躍に至るまで、近代以降、スポーツが国民の意識を平和裡に結んでいくに足る、短期爆発的なパワーを有する歴史を持っていることは否定しようがないのだ。<br />
<br />
近代スポーツには、それだけの求心力があるということ。<br />
<br />
近年の変化の胎動を認知してもなお、それが近代スポーツの宿命であると言っていい。<br />
<br />
「オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。<br />
<br />
オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある」(日本オリンピック委員会の公式HPより)<br />
<br />
これは、有名な「オリンピック憲章根本原則」の一部である。<br />
<br />
「平和な社会の確立」、「平和でよりよい世界をつくる」などという文言を見ても分るように、近代スポーツが「戦争の代用品」であった事実を誰も否定しようがないだろう。<br />
<br />
困難な国家を率いる時代状況下で、人々の思いを一つにさせるという喫緊のテーマを有する国家においては、近代スポーツの戦略こそ最も有効な方法論であった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693215773210983106" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjbvAbqbMlSSkMRwLBpRPsFX8mGlNDYW5vZyaBwuP_Mf0aloC5d7uE-a4WHs0a1dda0vXJpGxCSZ2y5Y-r2275kp4suvqAPPz31rKInuAhjUN8H61IaYzP86sz5RUOaO1_BLt3KdYBxUPzV/s400/img_1130545_44306388_0.jpg" style="float: right; height: 347px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 225px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ジョンソン・サーリーフ大統領</td></tr>
</tbody></table>
近代スポーツの戦略に関する近年の話題の中で印象深いのは、「紛争ダイヤモンド」絡みの激しい内戦終結後に、リベリアの大統領になったジョンソン・サーリーフが開催したサッカー大会である。<br />
<br />
「アフリカの鉄の女」と称されるジョンソン・サーリーフは、内戦での10万人以上の敵対者同士(元兵士たち)を招集して、サッカー大会を開催することで、「憎悪の連鎖」を断ち切る努力を惜しまなかったのである。<br />
<br />
因みに、ジョンソン・サーリーフ大統領とは、「人道に対する罪」で国際戦犯法廷で戦争犯罪が問われたテーラー前リベリア大統領に代って、アフリカ初の選挙で選出された女性大統領であるが、今では、2011年のノーベル平和賞受賞者として知られるところとなっている、。<br />
<br />
そのジョンソン・サーリーフ大統領もまた、ネルソン・マンデラ大統領と同様に、近代スポーツの戦略を駆使しただけでなく、野党の政治家を閣僚に任命することで、内戦を再発させた歴史に終止符を打つべく、「憎悪の連鎖」を断ち切ろうと努めたのである。<br />
<br />
<br />
ついでに書けば、ボスニア内戦終焉後、今なお残る民族間対立を克服するために、サラエボ出身の元日本代表監督のオシムが、子供たちにサッカーを教えたりする行為などを通して、粘り強く奮闘している事実を知るとき、国家の団結を復元する方法論として、近代スポーツが有効利用されている現実を粗略にできないのである。<br />
<br />
近代の合理主義によって整備されたルールをベースに発展してきた、国民の精神的統合のパワーを有する近代スポーツの求心力。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhC0g75lkrP1_VjM0TgMe4bTIQsx8EQlzbQsX7-SNoH30cmELBfcxkreRHaoAq12wUMk50iU5mBSm7zPF4CEzlBQpWDo08OlT0X-xv3spFeh4mEM9gR_fyM28p_8aKwA8kkGF-i9JExyCuA/s1600/00034064-B.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="256" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhC0g75lkrP1_VjM0TgMe4bTIQsx8EQlzbQsX7-SNoH30cmELBfcxkreRHaoAq12wUMk50iU5mBSm7zPF4CEzlBQpWDo08OlT0X-xv3spFeh4mEM9gR_fyM28p_8aKwA8kkGF-i9JExyCuA/s320/00034064-B.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">イビチャ・オシム(ブログより)</span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
必ずしも勝敗に拘泥しない近代スポーツの多様化が分娩されつつも、なお、それを切に必要とする人々が後を絶たない国際社会の現実は、内側から腐敗し、自壊するリスクをも呑み込んでいるのである。<br />
<br />
<br />
<br />
5 「アメリカ」が軟着し切れない「多文化主義」のボトルネックへのアイロニー<br />
<br />
<br />
<br />
観る者に相応の浄化作用を保証してくれる、本作で描かれた物語の主人公に対する敬意を抱くのは当然であると言っていい。<br />
<br />
「もし~なら~だっただろう」<br />
<br />
これは、「反実仮想」という、社会科学の有名な思考実験の一つ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJ0KxGfvJ0FkybpbiXddgIfFqohABYKjDM9iLFYyrxa7N09AKUBu9_RS-bprQcBghUA7aORuAh7HeC-MyQOPmmFYimvzglkk1SYLpQLM-Rgoxl0lK8rvShkVLjWsGxYhKNMMz3QbTZ-vLG/s1600/300px-DurbanSign1989.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5697766730068573154" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJ0KxGfvJ0FkybpbiXddgIfFqohABYKjDM9iLFYyrxa7N09AKUBu9_RS-bprQcBghUA7aORuAh7HeC-MyQOPmmFYimvzglkk1SYLpQLM-Rgoxl0lK8rvShkVLjWsGxYhKNMMz3QbTZ-vLG/s400/300px-DurbanSign1989.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 362px; margin: 0 0 10px 10px; width: 240px;" /></a><br />
この「反実仮想」に則して本作を観るとき、まさにあのとき、ネルソン・マンデラという胆力のある傑出した人物が存在しなかったら、アパルトヘイトが分娩した「憎悪の連鎖」を膨張させ、それを炸裂させかねない人々の心を浄化させることは難しかったに違いない。(画像は「ダーバンビーチ条例第37節に基づき、この海水浴場は白人種集団に属する者専用とされる」と英語、アフリカーンス語、ズールー語で併記された1989年撮影の標識/Wikipediaより)<br />
<br />
私が最もい嫌いな、「偉大」とか「崇高」などという言葉とは無縁に、ネルソン・マンデラ大統領が、同様に胆力のあるジョンソン・サーリーフ大統領がそうであったように、極めて優秀な政治的指導者であるという私の評価は変わらない。<br />
<br />
しかし、そのことを認知することは、縷々(るる)述べてきたように、件の大統領をモデルにした、本作の映像構築力の高さを評価し得ないこととは無縁な何かである。(但し、ここでも相変わらず、モーガン・フリーマンの出色の演技が際立っていたことだけは言い添えておきたい)<br />
<br />
観る者に、予定調和の軟着点を初めから予約させるという、この種のシンプルな映画が負ったハンディを無化させるために、クリント・イーストウッド監督が採った手法は、物語構成のうちに「イーストウッド流スタンス」(即ち、「感涙映画」に流さないという意思を垣間見せる演出のうちに、適正な距離感覚を保持する「名人芸」とも言える手法)の挿入すら封印するかのような、シンプリズム(過度の単純化)そのものののダイレクトな投入だったということ。<br />
<br />
従って、ここまで物語構成のシンプリズムを見せつけられると、極端に分りやすいが故に、実はその克服には困難過ぎるボトルネックが詰まっているテーマを映画的に処理するなら、このようなヒューマンドラマと思しき、「主題提起力」の連射の手法の範疇でしか収斂し切れないと印象づけられる典型的な映画だったとも言える。<br />
<br />
このように、「イーストウッド流スタンス」をシンプリズムに押し込めてしまう限界を感じながらも、観る者に与える情感濃度が一定の浄化作用を随伴するならそれもいい、というレベルの感懐によってしか寄り添えなくなってしまうのだ。<br />
<br />
敢えて、観る者に与える情感濃度が一定の浄化作用を随伴するならそれもいい、と思わせる何かを内包していたと認知するなら、以下の文脈で語られるものなのか。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" height="414" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5693212678794163074" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiqjqszRZ-Tvtkx7pml-LFMBprFmG_eSt-3fzUgrMNt0xtvesY8mVIvoX_BIDWbLdNDXKe7nJI7t6-n6NvzbQBGHh5PaIJoaR_6Xu2u7bI1bb9IkviV-OBWri5yRZ0hoI5fr17HJub1LdvJ/s640/img_677941_33050204_0.jpg" style="float: right; height: 242px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 374px;" width="640" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">オールブラックス・ハカの儀式</td><td class="tr-caption" style="text-align: center;"></td></tr>
</tbody></table>
それは、オールブラックス(ニュージーランドのラグビーチーム)のハカ(<span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">戦いの前に相手を威嚇する</span></span>、先住民族であるマオリ族の伝統的な出陣の儀式)に見られるように、「多文化主義」を包摂する、「赦しによる敵対民族との融和と和解」いう基幹テーマが終始貫流されていた作品が、単なる「英雄主義」の礼賛に流れなかったことが、このような大甘な感懐を呑み込んでしまうのか。<br />
<br />
それにしても「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年製作)における、あの表現的達成力は一体何だったのか。<br />
<br />
優しさと残酷さを併せ持つ人間の内面の奥深くを描き切った「ミリオンダラー・ベイビー」が、クリント・イーストウッド監督の最高到達点であるという思いは、その後の作品をフォローしていくことで、いよいよ私の中で確信性を増幅させている。<br />
<br />
とりわけ、「非暴力主義」による少年のヒーロー譚で終わってしまった「チェンジリング」(2008年製作)や、権益を巡る日米の異文化衝突を相対的に映像化したとも言える「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」(共に2006年製作)、更に、「グラン・トリノ」(2008年製作)における「非暴力主義」と「多文化主義」の主題提示を受け、その流れが、現代の「非暴力主義」の大いなるカリスマとも言えるマンデラを主人公にすることで、どうやら、「許されざる者」(1992年製作)に代表される「厚き友情礼賛と、その敵対者への復讐劇」からの脱皮を果たしたかのような、一連の基幹メッセージは、現在の「アメリカ」が軟着し切れない「多文化主義」のボトルネックへのアイロニーであるかの如く、イーストウッド監督のライフワークを収斂させていく推進力になっているようにも見えるのである。<br />
<br />
(2012年1月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-67897063045870903112011-12-29T17:59:00.011+09:002013-10-24T10:01:53.964+09:00市民ケーン('41) オーソン・ウェルズ<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiKel06bSkCHYVAhIGRDzqXT9f0uFWdeR-70fA_xgbVhsQkGBXnXCbqGnlDONpJfyic4R_7wSelc-Jgu8VQAuf1kqK29MoyzAWtJeChcdjItS8yMLi4ZxvriSzbUudzAkIMuQT9Svy2eeY/s1600/img_1427245_61382857_3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="640" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiKel06bSkCHYVAhIGRDzqXT9f0uFWdeR-70fA_xgbVhsQkGBXnXCbqGnlDONpJfyic4R_7wSelc-Jgu8VQAuf1kqK29MoyzAWtJeChcdjItS8yMLi4ZxvriSzbUudzAkIMuQT9Svy2eeY/s640/img_1427245_61382857_3.jpg" width="494" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><幻想を膨張させていった果ての、虚構の物語の最終到達点></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 負の感情として根深く横臥する受難の歴史の実相への弾劾<br />
<br />
<br />
<br />
「私は市民の人権を守るため、容赦なく不正と戦う」<br />
<br />
これは、本作の主人公ケーンが最初に発行した新聞、「インクワイアラー」社の編集方針声明の一文。<br />
<br />
この編集方針声明の際に、心にない笑みを零したケーンの表情が印象的だった。<br />
<br />
<br />
なぜなら、ケーンの心中には編集方針への節操など全くなく、ただ儲ける手段として「大義」を掲げただけなのである。<br />
<br />
「本気で笑ってはいない。笑いというものは、そこだけを取り出されると、大いに混乱を招くことがある。あの瞬間については、一つ見極めるべき点がある。ヒントは出してないが、わたしの真意を察してほしい。というのは、ケーンが言ってること、すべて心にもない虚言なのだ。彼が味方につけたいのは、とりあえずここにいる二人だ。味方につけて二人を自分の奴隷にするためだ。だが、当人は自分のいってることを信じていない。この男は人非人だ。わたしが好んで演じ、好んで映画にする人非人どもの一人だ」<br />
<br />
<br />
これは、当時、モデルとなった実在の人物の妨害行為等々で、様々に曰くつきの本作の作り手である、オーソン・ウェルズ(画像)の回顧録的なロングインタビューでの言葉。<br />
<br />
因みに、この回顧録的な著書のインタビュアーは、青春映画の傑作・「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2010/01/71.html">ラスト・ショー</a>」(1971年製作)のピーター・ボグダノヴィッチ監督。<br />
<br />
ピーター・ボグダノヴィッチ監督は、このときのケーンの笑顔が、無理に作った笑顔であると思わなかったらしく、オーソン・ウェルズは「あの笑顔を信じられては困る」と言って、「非人どもの一人」であるケーンの、その後の破滅的人生の惨状との因果関係で、忌まわしきバックステージの内的風景を語っているのである。<br />
<br />
ともあれ、ウェルズが種明かしするケーンの心にない笑みを生んだのは、彼の親友で、主義・主張に強い拘泥を見せるリーランドが、声明を証拠書類として残しておこうと言ったことに、不安を感じたケーンが咄嗟に反応したものだった。<br />
<br />
従って、「味方につけて二人を自分の奴隷にするため」と語る「二人」とは、このリーランドと、「自分の奴隷にする」ことをケーンによって信じられたに違いない、「インクワイラー」の参謀のバーンステインだったが、遠からず、本性を露わにしていくケーンの野心と権力的横暴さに対して、主義・主張に強い拘泥を見せるリーランドが、埋めようがない関係の距離を作っていったのは必然的だったと言えるだろう。<br />
<br />
「これはハーストそのままだ。奇妙千万な ―― 一生かかって金を払い続けて手に入れた物を、見ようともしない男。こんな人物は世界の歴史にも類例がない。何でも溜め込む鳥みたいな性格の奴。彼は一切金を稼ぎ出していない。彼の大いなる新聞系列も結局は金をなくすしか能がない。どう見ても敗残者なのだ。ただもう物を集めまくり、その集めた物は梱包のまま、開けてみることがない。これは彼の実像なのだ」<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhnVdgHYu1IoHeUHrT2DGqw1RgDS8Ud5n8RY7pvXkYRhRKPvVVF_sjysPO_zjTbHmEX2OuMrV63bb9xDimT64gt3B2yRAvZxz3iJ6hXu9OZtIc0Ax06bJKMb2FJ04PIusNqUEGM3nioQbg/s1600/N0012293_l.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhnVdgHYu1IoHeUHrT2DGqw1RgDS8Ud5n8RY7pvXkYRhRKPvVVF_sjysPO_zjTbHmEX2OuMrV63bb9xDimT64gt3B2yRAvZxz3iJ6hXu9OZtIc0Ax06bJKMb2FJ04PIusNqUEGM3nioQbg/s400/N0012293_l.jpg" width="323" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">オーソン・ウェルズ監督</td></tr>
</tbody></table>
これは、ケーンの強烈な支配欲のモデルが誰であったかという、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の質問に対するウェルズの答え。<br />
<br />
「こんな人物は世界の歴史にも類例がない」とまでウェルズに言わしめた、モデルとなった実在の人物が、今や、新聞王ウィリアム・ハーストであるという事実はよく知られているが、それにしても、ここまで軽侮する男への弾劾の根柢には、自らが招来した事態とは言え、製作段階から様々に曰くつきの本作の、殆ど冒険極まる映画の製作・公開という離れ業を、本場ハリウッドで遂行し切った過程と、その後の受難の歴史の実相が、ウェルズの内側に負の感情として根深く横臥(おうが)していたであろう。<br />
<br />
<br />
<br />
2 主人公のダイイング・メッセージによって引っ張り切った物語の究極の硬着点<br />
<br />
<br />
<br />
「人非人」の象徴的人物である「市民ケーン」を、ハーマン・マンキーウィッツの秀逸な脚本を得て、25歳のウェルズが演じ、全権を委任されたウェルズが監督する。<br />
<br />
しかし、この「人非人」の人生の惨状の様態を、クロニクル風に、時系列に則してフォローしていっただけでは、映像表現性において訴求力が不足すると考えたウェルズは、本作の時系列をバラバラにし、主人公の死によって開かれるサスペンスの筆致で物語を構成していった。<br />
<br />
それ自体画期的な手法であったが、撮影技術等に関わる技術的革新性への評価への言及は語り尽くされているのでスル―して、ここでは、本作の物語の内実のみに注目していきたい。<br />
<br />
ウェルズは、主人公のダイイング・メッセージとも言えるキーワードに、「バラの蕾」という意味不明な言葉を据えているが、この隠語もどきの言葉自体(実際、主人公のモデルとなった新聞王が隠語として使用し、彼の逆鱗に触れたと言われる)が独り歩きするが如く、喧(かまびす)しい程に語り尽くされているが、こればかりはスル―できないであろう。<br />
<br />
この言葉の真相を探ること。<br />
<br />
それこそが、ケーンの人格像の核心に迫ると考えたニュース映画の製作者サイドが、その言葉の謎を追って、ケーンと関わった5人の主要人物たちへの取材を進めていく構成によって、本作が成立しているからだ。<br />
<br />
「主人公の人間像が、それを語る人物ごとにまるっきり違ってしまう、というふうにしたかった」<br />
<br />
ウェルズのこの言葉通り、5人の主要人物たちが語る主人公の人間像は微妙に食い違い、そのことによって浮き彫りにされるケーンの人格像の複雑さや、近しき者との関係濃度の相違が露わにされていく。<br />
<br />
その5人の中に、先述したリーランドやバーンステインが含まれているのは言うまでもない。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiyZYCtnq_sUOEdFgg5XhVUp3t4PONq4w2UcH9DhaPUfsmPw6AE5UN4_AxLl3lhUsVn6Wf6kIbU1Zhs-zRH4HsEXwn4vFt7X_7r7YDjN31jsCaZrT6wVul-JFMR1qGUQCkgWmxd9hu9C0I/s1600/img_1132358_16454409_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="448" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiyZYCtnq_sUOEdFgg5XhVUp3t4PONq4w2UcH9DhaPUfsmPw6AE5UN4_AxLl3lhUsVn6Wf6kIbU1Zhs-zRH4HsEXwn4vFt7X_7r7YDjN31jsCaZrT6wVul-JFMR1qGUQCkgWmxd9hu9C0I/s640/img_1132358_16454409_0.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
ニューヨークを席巻する程の、新聞王国を築いていくケーンの活力溢れる草創期を語る、バーンステインの回想と比較すると、リーランドの回想には、大統領の姪と結婚し、政界進出を目指したものの、後妻となるスーザンとの不倫によって、離婚に至るスキャンダル騒動の経緯が語られていて、そこには権力の亡者と化した男の醜悪さが印象づけられるのである。<br />
<br />
そして極め付けは、後妻となったスーザンの回想。<br />
<br />
映像は、親子ほどに年の離れたスーザンの取材の中で、彼女との破滅的な夫婦生活のエピソードを拾い上げていく。<br />
<br />
専門家の指導の元にレッスンを重ねても、素人同然のスーザンのオペラ歌手の能力の限界は、誰の目から見ても瞭然としていたが、それでも、執拗に後援し続けるケーンの振舞いの行き着く先は、「オペラの女王」への道を完結させるための巨大な劇場建設へと至る。<br />
<br />
観客の冷ややかな反応を感受したスーザンは、自分の能力の限界を早々と察知し、それがディストレス状態となって、自暴自棄になり、遂には自殺未遂を起こしてしまう。<br />
<br />
体力が回復しても、スーザンを待っていたのは、動物園付きの「ザナドゥ宮殿」への幽閉生活だった。<br />
<br />
そのスーザンの否定的感情によって語られるケーン像には、まさしく、数年にも及んで、「ザナドゥ宮殿」に閉じ込められた挙句、奴隷化され、私有物と化された惨めさを負い続けた者の怨念が噴き上がっていた。<br />
<br />
遂に、ケーンとの「権力関係」の虚しさに耐え切れず、ケーンを見限って、スーザンは「ザナドゥ宮殿」を後にした。<br />
<br />
以下、そのときの会話。<br />
<br />
「お金で私を買収しようとしてるだけじゃない!」<br />
<br />
ケーンを睨むスーザン。<br />
<br />
「愛してるさ」とケーン。<br />
「嘘よ。愛させていたいだけだわ!俺はチャールズ・ケーンだ。欲しいものは何でもやるから俺を愛せ」<br />
<br />
貯留した感情を吐き下した瞬間、ケーンから頬を打たれるが、ディストレス状態のピークアウトで噴き上がったスーザンの否定的感情は、もう止めようがなかった。<br />
<br />
「ザナドゥ宮殿」を後にしようとするスーザンに、ケーンの態度が豹変し、今や、哀願するばかりなのだ。<br />
<br />
「行かないでくれ。僕が困る」<br />
<br />
ここでも、ケーンのエゴイズムが露わにされる。<br />
<br />
「やっぱり自分のことしか考えてないじゃないの。それが嫌なのよ」<br />
<br />
これが、スーザンの捨て台詞となって、確信的に「ザナドゥ宮殿」を捨て切った女の、凛とした振舞いが身体表現されたのである。<br />
<br />
スーザンを失った男の振舞いは、女のそれと完全に切れていた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhqD2noAnS6unKh0peRMQjjW6jqOUn9Li0jRTKChSFqTXhLciyoK90wya924-qoC1_Pxa0RyB8Cbb6v3aSjCj4kqYtl1sIgxl7augSzMotccRXZ9wTuTx-YP0aV56oCVgRDRArMAxpYK5L0/s1600/f8c41a7f.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5691481248114538066" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhqD2noAnS6unKh0peRMQjjW6jqOUn9Li0jRTKChSFqTXhLciyoK90wya924-qoC1_Pxa0RyB8Cbb6v3aSjCj4kqYtl1sIgxl7augSzMotccRXZ9wTuTx-YP0aV56oCVgRDRArMAxpYK5L0/s400/f8c41a7f.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 222px; margin: 0 0 10px 10px; width: 289px;" /></a><br />
大勢の執事が見ている前で、失った女の広い部屋の中を暴れ捲り、最後にはスノーグローブを手に取って、「バラの蕾」と小さく吐き出し、転倒する男の振舞いが、権力欲を極めた果ての臨終となったのである。<br />
<br />
この惨状を回想した最後の一人は、「ザナドゥ宮殿」の執事だったが、取材者がそこで得たのが、「バラの蕾」という意味不明な言葉であったという訳だ。<br />
<br />
それは、その執事にも、「バラの蕾」の意味が不分明であったことの検証でしかなかったのだ。<br />
<br />
物語のフラッシュバックが終焉し、ファーストシーンに戻った映像がラストカットで映し出したのは、ケーンの保有する大量の私物を焼却するときに、「ROSE BUD」と書かれた、雪面を滑るための一人乗りの橇。<br />
<br />
「バラの蕾」とは、遥か昔、ケーンが児童期に愛用していた橇だったのだ。<br />
<br />
無論、本作を観る者にしか分り得ない物語構成は、最後まで、サスペンスの筆致で描き切って閉じていったのである。<br />
<br />
以下、稿を変えて言及する。<br />
<br />
<br />
<br />
3 「母のぬくもり」を喪失する恐怖がトラウマとなった児童期の陰翳感<br />
<br />
<br />
<br />
このような男の人生を取材してもなお判然としない、「バラの蕾」の言葉の不明さを解明できないまま、映像は閉じていく。<br />
<br />
しかし、映像のラストカットで映した焼却シーンの中で、観る者だけに「バラの蕾」の言葉の意味を伝えて閉じていく物語構成はインパクトがあり、恐らく、このインパクトが本作を根柢で支えていた。<br />
<br />
「バラの蕾」の言葉の意味を探る取材の中で、結果的に重要な役割を果たしたのは、銀行家のサッチャーの回想である。<br />
<br />
思わぬことから莫大な財産を手に入れたケーンの両親は、夫の暴力的振舞いの故に、極端に不仲な状態が続いていたことから離縁するに至るが、その際、未だ児童期にあるケーンの将来を案じた母は、息子の教育と財産管理のため、銀行家のサッチャーに息子の後見人になってもらうに至った。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj7UZAJ8TfJvK7-hxu0wB3-kyGzintnC9EHBQaP_ZDaOtSSUPPjxa0Fs7FI2x10h9Hh4VmmurebS11lZHCwBAW0d0d4nVE-ny6USseV3CsckkSe51IDaxSHuVPLBimXVf7pPMZSAKd_rfY/s1600/10183_002.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj7UZAJ8TfJvK7-hxu0wB3-kyGzintnC9EHBQaP_ZDaOtSSUPPjxa0Fs7FI2x10h9Hh4VmmurebS11lZHCwBAW0d0d4nVE-ny6USseV3CsckkSe51IDaxSHuVPLBimXVf7pPMZSAKd_rfY/s400/10183_002.jpg" width="306" /></a></div>
それは、サッチャーにケーンの里親(注)を引き受けてもらう行為であったが、ケーン少年にとっては、何より愛する母との別離を意味していた。<br />
<br />
事情を敏感に感じ取ったケーン少年が、実母との別離に激しく抵抗したのは、未だ児童期にある幼い少年にとって必然的だった。<br />
<br />
自我のルーツである実母との別離は、幼い自我の拠って立つ絶対的な安寧の基盤を崩されるに等しい行為であるからだ。<br />
<br />
「自分は愛されるに足る子供ではない」<br />
<br />
そう思ったかも知れない。<br />
<br />
しかし、ケーン少年には、実母の苦渋の選択の意味が理性的に認知し得なくとも、「母のぬくもり」だけは決して消し難い記憶であったに違いない。<br />
<br />
この「母のぬくもり」を喪失する恐怖を、この日、ケーン少年は全人格的に経験してしまったのである。<br />
<br />
それは、児童期にある幼い少年に与える離婚のストレッサーという、極めて心理学的なテーマでであると言える。<br />
<br />
因みに、児童発達論を専攻する米のカレン・デボード博士によると、「離婚によって子供にストレスを引き起こす原因」は、「変化への恐れ」、「愛着感の喪 失」、「見捨てられ不安」、「親達の間の敵意」の4点を指摘している。(「子どもに注目:離婚が子どもに与える影響」堀尾英範訳)<br />
<br />
何よりここで重要なのは、「見捨てられ不安」である。<br />
<br />
それはケーン少年にとっては、しばしば、「母のぬくもり」の記憶を相殺する感情であっただろう。<br />
<br />
そんなケーン少年が切望するのは、ただ一点。<br />
<br />
一般的に最も妥当性を持つ、「両親の和解」による「家族の再生」というよりも、「母のぬくもり」の記憶を再確認するための、「愛する母との恒久的な共存」である。<br />
<br />
当然そこには、暴力的な父との共存は排除されているだろう。<br />
<br />
なぜなら、サッチャーの回想の中で映し出されるワンシークエンスから、「トラウマ」、「愛情」、「尊厳」という「幼児虐待の克服課題」の深刻さが垣間見られないものの、それでも、父からの折檻の常態化が読み取れるからである。<br />
<br />
「折檻してやる」<br />
<br />
激しく抵抗するケーンに投げつけた、父の一言だ。<br />
<br />
「ぶつの?だから手放すのよ」<br />
<br />
ケーンを後ろから抱えながら放った、母の一言だ。<br />
<br />
いつまでも父を睨みつけるケーン少年のアップの表情が、サッチャーの回想による、このワンシークエンスの終焉を告げたのである。<br />
<br />
「僕を一人にしないで!」<br />
<br />
ケーン少年は、心中で、そう叫んでいるのだ。<br />
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この心中の叫びが届くことなく、自壊してしまったこと。<br />
<br />
これがトラウマとなって、「喪失した愛情」によって生まれた否定的自己像、即ち、「見捨てられた子供」という否定的自己像を内深くに封印することで保持してきた自我の歪みが、莫大な資産を背景とする「権力関係」によってしか他者との関係を結べない、言わば、自己愛性人格障害の如き男を作り上げてしまったのではないか。<br />
<br />
サッチャーの回想の中で再現された、ケーン少年の遊戯の道具である一人乗りの橇。<br />
<br />
そこに刻まれた「ROSE BUD」という文字こそが、本作で人物造形された男の心象風景を解くキーワードであった。<br />
<br />
片田舎から離されたケーンが、映像に再び登場したときには、既に、新聞王の先駆けとなっていく、馬力溢れる青年期にシフトしていたので、児童期にべったりと張り付いた、件のエピソードを起因とするトラウマの陰翳感はすっかり希釈化されていた。<br />
<br />
<br />
(注)ケーンの養育環境の変容は、日本で言えば、「要保護児童」の対象人格と看做(みな)したという意味において、児童福祉法上の制度の中の「専門里親」(虐待からの保護)のケースに最も近いだろう。<br />
<br />
<br />
<br />
4 幻想を膨張させていった果ての、虚構の物語の最終到達点<br />
<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg_g1cZtiWLeulR-FRK4KjzlnF3PRpHFzHrLT_kEOvWIRipiyHYfWW9BxeQpEjs6AxGzIAPEo_fZMVMGoBRsKBiPWNJtIukATDKokTmis3Q5eDpNq3rGWmVGGt9nLZ5vQep4vi-UbMEAdk/s1600/10183_004.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="292" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg_g1cZtiWLeulR-FRK4KjzlnF3PRpHFzHrLT_kEOvWIRipiyHYfWW9BxeQpEjs6AxGzIAPEo_fZMVMGoBRsKBiPWNJtIukATDKokTmis3Q5eDpNq3rGWmVGGt9nLZ5vQep4vi-UbMEAdk/s400/10183_004.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「ザナドゥ宮殿」にスーザンを閉じ込めて</td></tr>
</tbody></table>
「彼は、ちょっとの間、他人に忠誠を求め、あとは知らん顔で居られる、人当たりの良い、ときに好ましくさえある怪物だ。愛によってでなく、銀行によって育てられた男だということを忘れないでくれ。その種の連中の常套手段で、彼は魅力を使いこなす。だから、第一面の見出しを変えるときも、信念を示すより魅力でたぶらかす・・・チャーリー・ケーンは人食いなのだ」<br />
<br />
これも、ウェルズの言葉。<br />
<br />
前述したように、映像は、「市民ケーン」の歪んだ人格構造の本質に肉薄すべく、この児童期経験のワンシークエンスの重要性を拾い上げていた。<br />
<br />
「人非人」と罵倒した男の、破滅的な人生への容赦ない糾弾を、ただ羅列的にフォローしていくだけでは、その人格構造に肉薄出来ないと考えたウェルズにとって、「バラの蕾」という言葉が象徴する情感系の挿入によって、良くも悪くも、横暴な男の歪んだ人生の総体を炙り出そうとしたのである。<br />
<br />
その試みは、半ば成功したようにも見える。<br />
<br />
しかし、主人公のケーンの内面的葛藤を露わにする描写の不足が、最後まで私の中で不満として残ったのは事実。<br />
<br />
サスペンス仕立ての物語構成の制約が却って徒(あだ)となって、ケーンの内的風景の核心にまで迫り切れていない印象を覚えたのである。<br />
<br />
幼児虐待とは言わないまでも、父親の横暴さが起因となった両親の離婚と養子縁組という流れ方は、ケーンの内的風景を考える上で、決して粗略にできない由々しき現実である。<br />
<br />
然るに、「見捨てられた子供」という否定的自己像を内深くに封印することで保持してきた自我の歪みを認知することは、実母の愛を求める心情との矛盾する共存を必ずしも排除しないのだ。<br />
<br />
「母は、本当は僕と別れたくなかったんだ」<br />
<br />
この思いが、ケーンの人格構造を相当程度において複雑化させている。<br />
<br />
それが、時として、「魅力を使いこなす人食い」の側面を露呈する半面、「あとは知らん顔で居られる怪物」性をも垣間見(かいまみ)せてしまうのである。<br />
<br />
即ち、自らが求めた対象人格を愛し切れない人格構造の根柢には、「見捨てられた子供」という否定的自己像を騒がせる恐怖が常に潜んでいて、その恐怖が具現するとき、この男は我を失う程の惨状を晒すのだ。<br />
<br />
それが、スーザンとの関係の決定的な縺(もつ)れの中で顕在化したのである。<br />
<br />
「ザナドゥ宮殿」にスーザンを閉じ込めた心理もまた、この文脈で読めば了解しうるだろう。<br />
<br />
ケーンの人格構造の内深くに封印し切れない情動が、そこにある。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5691481126667483570" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjWySYKpsyzGukdzmJwg_Xv1X9uyq94aWHx9zdjXx5nOp8CwOL39ObN3ibkwy7bxa5byZJ5z949-L0ch1zaYBgo8JKT-FqEXbiTMib5qkrCDlllqBLWyVyCEI8EmhSr_YqaNB8h-3wkz6k_/s400/a9b4df4c3ccfe6199eb64b0051e7b46d.jpg" style="float: right; height: 247px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 372px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"> 「ザナドゥ宮殿」</td></tr>
</tbody></table>
「ザナドゥ宮殿」に閉じ込めた当のものは、スーザンという歴(れっき)とした固有の人格ではなく、「喪失した愛情」を強力に補完し得る観念的・情感的文脈なのだ。<br />
<br />
はっきり言えば、誰でも良かったのだ。<br />
<br />
ケーンはただ、「母」のみを求めて止まなかったのである。<br />
<br />
スーザンへの異常なまでの後援の心理を読み解けば、恐らく、ケーンが実母から存分に受けたかった愛情教育の代償であると言っていい。<br />
<br />
ケーンは一貫して母の愛を求め続けて、遂に報われることなく果てていった、悲哀なる男の象徴であるとも言えるのだ。<br />
<br />
無論、本作の基幹テーマはそこにない。<br />
<br />
どこまでも、本作で追求したいテーマは、ケーンという怪物の横暴なる権力的人格構造への糾弾であり、それ以外ではないだろう。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGHPzPfDjXa1B_14VQFto08yIpqhJRbrbhPxuXWo-tnoyt3A9HgF0hKUBt5R3QVXMDD0rp1rIGULwWAuKMbgOr2VoULOXyhRkKptxO5Z1kGYatwRGj6B6_ERZVy2tniEuCeZgKIM9Ys-I/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGHPzPfDjXa1B_14VQFto08yIpqhJRbrbhPxuXWo-tnoyt3A9HgF0hKUBt5R3QVXMDD0rp1rIGULwWAuKMbgOr2VoULOXyhRkKptxO5Z1kGYatwRGj6B6_ERZVy2tniEuCeZgKIM9Ys-I/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="311" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
然るに、そんな歪んだ自我を持つ男の人格構造の、奥深くに抱え込んだ情感世界を描くことによって、人間の脆弱性の本質を抉(えぐ)り出したかったのであろう。<br />
<br />
「バラの蕾」という言葉に収斂される情感的世界。<br />
<br />
それは、「見捨てられた子供」という否定的自己像と共存したであろう、「母は、本当は僕と別れたくなかったんだ」という心情との矛盾の中で、潜在下にあって揺動して止まない自我が内包する人格構造の、「ゲシュタルト崩壊」の如き人格の不統一感が、行き着く先まで流れ切っていく世界の怖さであったのかも知れない。<br />
<br />
一切は、分不相応な権力を有する悲劇的運命が分娩したものだったのか。<br />
<br />
ウェルズの言うように、ケーンが「銀行によって育てられた男」であったが故に、「喪失した愛情」によって生まれた「見捨てられた子供」という否定的自己像を補填するに足る、理性的な人格教育を施されなかったことで、金銭感覚の突出しただけのエコノミカルな合理主義が勝ち取った、イエロー・ジャーナリズムという「特化された権力」という最強の武器で、嵩(かさ)に懸かって縦横無尽に振る舞う人格構造を生み出してしまったのだろうか。<br />
<br />
「失敗は失敗のもと」<br />
<br />
この言葉こそ、本作の主人公の行動パターンのイメージに相応しい。<br />
<br />
「見捨てられた子供」という否定的自己像を封印して作り上げた虚構の物語 ―― それは、仮構した自尊心の防衛機制に深く関わるものだったので、本作の主人公は、「全てを手に入れたという錯覚」が生んだ欲望の稜線を伸ばし切って、「全てを失うに至る絶望の流砂」に呑み込まれ、その極点で自爆してしまったのだろう。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhPlgG02ilEHBvpYwoMiCO-KIZhknRnUlkQZKcc_z0l1OTudL5wvS2iIqv7a7W1LkWZqpyuC2UuuU5j0VtDCd-EnoGLXBxWs9tenARR_rX1NwwEytFJse6AtnSYEwZzSjJdJBFsaUCPpXg/s1600/William_Randolph_Hearst_cph_3a49373.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhPlgG02ilEHBvpYwoMiCO-KIZhknRnUlkQZKcc_z0l1OTudL5wvS2iIqv7a7W1LkWZqpyuC2UuuU5j0VtDCd-EnoGLXBxWs9tenARR_rX1NwwEytFJse6AtnSYEwZzSjJdJBFsaUCPpXg/s320/William_Randolph_Hearst_cph_3a49373.jpg" width="248" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">映画のモデル・ウィリアム・ハースト</td></tr>
</tbody></table>
虚構の物語を作り、そこで歯止めの効かない蕩尽の限りを尽くす。<br />
<br />
その幻想を膨張させていけば、失敗を繰り返す人生に終わりが来ないのだ。<br />
<br />
「ザナドゥ宮殿」とは、幻想を膨張させていった果ての、虚構の物語の最終到達点だったのだ。<br />
<br />
恐らく、そこだけは作り手であるウェルズの思惑から大きく脱輪して、最後の最後まで、ケーンの人格構造の根っ子にある、「見捨てられ不安」というトラウマの重量感が本作を支え切っていたのである。<br />
<br />
群盲評象(ぐんもうひょうぞう)の類の批評でしかないかもしれないが、私にはそう思われてならないのだ。。<br />
<br />
<br />
【なお、本稿でのウェルズの言葉を含めて、「オーソン・ウェルズ -その半生を語る オーソン・ウェルズ/著 ピーター・ボクダノビッチ/著 キネマ旬報社刊」を参照】<br />
<br />
(2012年1月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-28758536826436968672011-12-24T12:53:00.015+09:002013-10-24T06:59:55.441+09:00マイ・バック・ページ('11) 山下敦弘<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhDQGJCV_90rEZXGLwDHAuW7EQaO1-xs7tFa1d8eLTljff-viCwgQJxOY6PcL3Yx3ov9bkjZWklBUfWiedZW5IRew3_J2FAn7Bb-hdKilciocPmPHSgl-vbpjZ095gbyAxBI5PVbvVRqZc/s1600/57347.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhDQGJCV_90rEZXGLwDHAuW7EQaO1-xs7tFa1d8eLTljff-viCwgQJxOY6PcL3Yx3ov9bkjZWklBUfWiedZW5IRew3_J2FAn7Bb-hdKilciocPmPHSgl-vbpjZ095gbyAxBI5PVbvVRqZc/s640/57347.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><相対化思考をギリギリの所で支え切った、表現主体としての武装解除に流れない冷徹な視線の肝></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「革命」という甘美なロマンによって語られる、それ以外にない最強の「大義名分」を得て<br />
<br />
<br />
<br />
「革命」という言葉が死語と化していなかった時代を、「幸運な時代」と呼んでいいかどうか分らないが、そんな時代状況下にあって、「世界の動乱」を鋭敏に感受し得た一群の若者たちは、「自分も何かしなければ、時代に取り残される」という気分を肥大させた挙句、同様の気分を保持する者たちと状況感覚を共有することで、何とか自我の拠って立つ安寧の心理的拠点を手に入れていく。<br />
<br />
自我の拠って立つ安寧の拠点になったのが、「革命」という甘美なロマンによって語られる、それ以外にない最強の「大義名分」だった。<br />
<br />
「世界の動乱」を鋭敏に感受し得た一群の若者たちが蝟集(いしゅう)した、「革命」という名の最強の「大義名分」のうちに、「同志」と呼称する者たちと共有する、えも言われぬ心地良き気分は、「自分も何かしなければ、時代に取り残される」という、世俗の気分を遊弋(ゆうよく)させながら、なお内側に張り付き、潜在化した負の意識の集合を無化し得るばかりか、却って内側を浄化させてくれるので、その甘美なロマンに身も心も預けていくことで手に入れる快楽はいよいよ肥大化し、エンドレスの危うい昂揚感覚を膨張させていく。<br />
<br />
これが、「同志」と呼称する者たちと共有する、「革命」という甘美なロマンに縋ることで、自分が「特定的な何者か」になった幻想を間断なく分娩するから、益々、厄介なメンタリティを再生産していくのだ。<br />
<br />
特段に何者でもない者が、「特定的な何者か」であろうとするために支払ったエネルギーコストよりも、そこで手に入れたベネフィットの方が上回っていると信じられ、且つ、それが継続性を持ち得るとき、その者は自分が辿り着いたであろう、「特定的な何者か」についての物語の鮮度が保持し得る限りにおいて、その幻想に存分に酩酊し、泡立ちの森で遊弋するだろう。<br />
<br />
然るに、そこで仮構された自己についての新しい物語に、自らが馴染んでいく速度よりも、そこで立ち上げられた「特定的な何者か」に寄せる、他者からの情感的評価の速度が常に上回るとき、そこに微妙だが、しかしほぼ確実に、自己同一性に関わる不具合感を内側で合理的に処理できない、何かそこだけは、極めてセンシブルな時間を作り出すに違いない。<br />
<br />
現在のネット時代と違って、1960年代から1970年代にかけて、「特定的な何者か」に化ける手っ取り早い戦略は、「同志」と呼称する者たちと共有する心地良き気分の中で、「革命」という甘美なロマンについて語り、軽快なステップでデモに参加し、まもなく、口角泡を飛ばしてアジり捲るハイキーな昂揚感覚の中でそれをリードし、騒ぎ、暴れることだった。<br />
<br />
しかし、勘違いしてはいけない。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjj7OLo2oucZsaUO9qiGwlyCOOieLZ5lA6XfHo0WGqxNQMiNJCrtkHA8rwFCkYr2wHJ_-vbq-a_syxYxz_bNHG8tWOK5dhGW2TKfKqoHWQ1A3_ZIdOin0u9WEb-UaAEazXPwsy5irU2p43z/s1600/img_1032513_61654220_0.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5695815445800062098" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjj7OLo2oucZsaUO9qiGwlyCOOieLZ5lA6XfHo0WGqxNQMiNJCrtkHA8rwFCkYr2wHJ_-vbq-a_syxYxz_bNHG8tWOK5dhGW2TKfKqoHWQ1A3_ZIdOin0u9WEb-UaAEazXPwsy5irU2p43z/s400/img_1032513_61654220_0.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 238px; margin: 0 0 10px 10px; width: 371px;" /></a><br />
若松孝二監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2009/06/07.html">実録・連合赤軍 あさま山荘への道程</a>」(2007年製作/画像)を観ると、まるで、この国の当時の状況が「革命」前夜にあり、若者たちの多くがそんな沸騰し切った状況下にあって、「国家権力」と死闘を繰り広げていたと言わんばかりだったが、一切は、「革命」前夜にあると妄想した極左集団が、肝心の「国家権力」と死闘を繰り広げる以前に自壊していっただけで、それは彼らにとって、殆ど「予定不調和」の哀れなるトラジディでしかなかったのである。<br />
<br />
何より、当時の若者たちの多くが、「特定的な何者か」に化ける戦略に身を投じた訳ではないのだ。<br />
<br />
当時の若者たちを称して、「全共闘世代」と呼ぶ傾向がいまだに残っているが、当然ながら、いずれのセクト(「三派全学連」に象徴)にも属さないような学生を含めても、この世代の若者たちの多くは「ノンポリ」であり、学生運動に参加した者の比は、せいぜい10数パーセント程度と言われている。<br />
<br />
高度経済成長の最盛期にあった60年代から70年代初頭までの間に、この国の変貌ぶりの大きさは、以下のイベントや生活文化、レジャー等の氾濫によって検証できるだろう。<br />
<br />
東海道新幹線の開業による超高速時代の到来を嚆矢(こうし)として、自動車の普及によるモータリゼーションの本格化。<br />
<br />
東京オリンピックの開催と、それに合わせた公共交通機関などのインフラ整備。(東京モノレールの開業、首都高速道路・名神高速道路の整備、東京国際空港のターミナルビル増築・滑走路拡張など)<br />
<br />
更に、大阪万博、歩行者天国、札幌オリンピック、海外旅行の自由化、「新・三種の神器」(カラーテレビ・クーラー・カー)<br />
<br />
そしてスポーツ・文化のフィールドでは、野球、プロレス、ボウリングブームとハイセイコー旋風、林家三平に象徴される演芸ブームの到来、グループサウンズの大流行、等々。<br />
<br />
まさに、私たちの大衆消費社会は、このとき、高度成長の眩(まばゆ)いセカンドステージを抉(こ)じ開けていて、より豊かな生活を求める人々の「幸福競争」もまた、多くの場合、ピアプレッシャーに脆弱で、「横一線の原理」で動いてしまうような、「文化依存症候群」とも言うべき「民族的習性」(?)を有する国に呼吸を繋ぐ人々にとって、今や、引き返すことが困難な辺りにまで上り詰めていたのである。<br />
<br />
人々はそろそろ、「趣味に合った生き方」を模索するという思いを随伴させつつあったのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgCaQ-dJKfz_J6G0ftMnOZS2KW_fwuI1a6_p_uXL9laT9MXUeLFvl3x5BC_gmgjSSV6Gkk-Oem8PjnHnXUlWcgqNMwbRiCRIwLsp6mtjSy_4jM-2dJeEJqLjLXwnK2_lCVhuVYiX8-97E4/s1600/23836f6fac04b3c9be6b99f11224cb97.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgCaQ-dJKfz_J6G0ftMnOZS2KW_fwuI1a6_p_uXL9laT9MXUeLFvl3x5BC_gmgjSSV6Gkk-Oem8PjnHnXUlWcgqNMwbRiCRIwLsp6mtjSy_4jM-2dJeEJqLjLXwnK2_lCVhuVYiX8-97E4/s400/23836f6fac04b3c9be6b99f11224cb97.jpg" width="400" /></a></td></tr>
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<br />
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<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">明和牧場での</span>ハイセイコー・ブログより</div>
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</tbody></table>
「ノンポリ」と揶揄された多くの若者たちもまた、「革命」とは無縁に、各種イベントが次々に開催されるスタジアムに群れを成して押しかけたり、ハイセイコーの馬券を買ったりして、「青春」を存分に謳歌していたのである。<br />
<br />
ところが、いつの時代でも、「普通は嫌だ」と駄々をこねる自己顕示欲の旺盛な、「青春一直線」の「王道」を闊歩したがる若者が多くいるから、その類の連中だけが、「革命」という甘美なロマンに自己投入していくと言ったら言い過ぎか。<br />
<br />
それは、未だ、「革命」という言葉が死語と化していなかった時代のレガシーコストであったことの証左でもあった。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「特定的な何者か」であろうとする似非革命家と、「後ろめたさ」を浄化しようと足掻く青臭い男の物語<br />
<br />
<br />
<br />
本作の主人公の沢田は、「特定的な何者か」に化けられない〈私的状況〉に「後ろめたさ」(本作のキーワードとして捉えた、山下監督自身による表現)を覚えていた。<br />
<br />
時代に乗り遅れて、自分だけが安全地帯に閉じこもっていることへの自己嫌悪が、時代を拓くジャーナリストを夢想する沢田の、焦慮し、苛立ちながら閉塞する〈私的状況〉の渦中で揺動する自我を突き動かしていく。<br />
<br />
相手は多分、誰でも良かったのだ。<br />
<br />
自分の「後ろめたさ」を浄化させてくれる相手ならば、似非革命家であっても良かったのかも知れぬ。<br />
<br />
幸いにとでも言うべきか、その似非革命家が彼の前に立ち現われた。<br />
<br />
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京成安保共闘を名乗る活動家の名は、梅山(片桐)。<br />
<br />
相手の本性を鋭利に洞察できない、「純粋無垢」(人間音痴の別名)という青臭さの臭気を周囲に撒き散らすかの如き、感性オンリーの非武装性丸出しの決定的瑕疵を持つ沢田は、趣味が合うと信じる「初頭効果」の印象のみで、似非革命家の梅山に入れ込んでいくのだ。<br />
<br />
そんな二人の会話がある。<br />
<br />
「テレビで安田講堂をテレビで見て、これだと思ったんです」<br />
<br />
活動家になった契機を尋ねる沢田に対して、梅山は安田講堂事件が自分を動かしたと答えたのである。<br />
<br />
今度は、梅山が沢田に東大安田講堂事件(1969年1月)の感想を尋ねる。<br />
<br />
「俺は苦しかったな。報道側から見てたけど、自分と同じ大学の奴らがさ、負けていくのを安全地帯から黙って見ているっていうのは・・・」<br />
「沢田さんて優し過ぎますよ」<br />
<br />
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これだけの会話だが、「純粋無垢」という青臭さ全開の沢田の人となりが、観る者に簡潔に提示されたシーンであった。<br />
<br />
元より本作は、世間を騒がす事件を起こして、「特定的な何者か」であろうとする似非革命家と、その似非革命家を「思想犯」と信じ、その「思想犯」の記事を発表し、スクープをものにすることで、「自分も何かしなければ、時代に取り残される」という気分=「後ろめたさ」を浄化しようと足掻く青臭い男の物語だが、物語の重心は、「社会的に支持された規範」としての「道徳」を身につけるという意味において、「普通の社会人」に成り切れない、この世間知らずの青臭い男が、生来の「社会正義に枯渇する青臭さ」を周囲に振り撒き、猪突猛進した挙句、世間を騒がす事件を起こした似非革命家の欺瞞性に気づくまでの心理の変容に据えられているが故に、「時代」を描くという戦略的偽装性が物の見事に嵌った映画になっていた。<br />
<br />
「教えてくれよ。君らが目指したものって何なんだ?君は誰なんだ?」<br />
<br />
これは、既に「自衛官殺害事件」を起こし、指名手配中の似非革命家を庇うことに限界を感じ、梅山に問いかける沢田の追い込まれた果ての言葉。<br />
<br />
「沢田さんだって、スクープが欲しかったんでしょ。記事が出れば、僕たちは本物になれるんですよ!」<br />
<br />
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事件後の、二人の関係の破綻を告げる梅山の反論だが、「我々は今度の決起で、ようやく三島由紀夫に追いついたんです」などとも嘯(うそぶ)く、似非革命家としての梅山の本性が剥き出しになる短い会話でもあった。<br />
<br />
「時代」の「熱気」を殆ど拾い上げることがなく、ひたすら、似非革命家の欺瞞性を反面教師にした冷徹な視線による物語構成の終焉は、「革命」の本来の主役になるべき、本物の「下層労働者」(ドヤ街での潜入取材中に親しくなった男)との再会によって、生来の「社会正義に枯渇する青臭さ」を、大手のメディアに寄食する「安全圏」から離れることで脱色していくことを象徴したかの如き「嗚咽のラストカット」であり、そこにこそ、特有のオフビート感を捨てても、そこだけは失うことがなかった、共感的だが冷徹な視線の投入が検証されていたと言えるだろう。<br />
<br />
「新聞はそんなに偉いんですか?」<br />
<br />
梅山を「思想犯」と信じる沢田の、上司への異議申し立てである。<br />
<br />
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「偉いんだよ。跳ね上がりが。うちは大学新聞、作ってるんじゃねえんだぞ」<br />
<br />
<br />
この一言で黙らされてしまった、「社会正義に枯渇する青臭さ」の行き場なき残骸が露わにされていた。<br />
<br />
<br />
その残骸が、「嗚咽のラストカット」の中で共感的に拾い上げられたのである。<br />
<br />
<br />
<br />
それは同時に、似非革命家を情感的に止揚し、相対化するために、焼き鳥屋を営み、家族を養ってひた向きに生きる、本物の「下層労働者」の「生活風景」の有りようを必要とせざるを得なかったラストカットでもあった。<br />
<br />
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そして、雑誌の表紙を飾っていたモデルの女の子(倉田眞子)と沢田との絡みの重要性を、山下監督(画像)はインタビューで吐露している。<br />
<br />
「倉田というキャラクターは、当時の雑誌の表紙を飾っていたモデルの女の子なのですが、忽那さんには時代背景などを意識してほしくなかったんです。ある種、倉田は僕らの目線の代弁者なので、彼女の『嫌な感じがする』というセリフは、僕らの意見でもあるわけです」(@nifty映画 2011年5月30日)<br />
<br />
<br />
稿を変えて、ラストカットの伏線になる、その重要なシーンを再現してみよう。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
3 相対化思考をギリギリの所で支え切った、表現主体としての武装解除に流れない冷徹な視線の肝<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhll1ztRJ1yIQn6KKg4afPglBDj_dVaEHMyvfZNqi1J7PbI5rnIUXGpbPEIAdmYYm6ptYjWcA7Hp_6X1nZAb_ypRHWt48hCTpQRC_31VAeNpOZtTLhDqRPr8jUi3RmJxkXV1XbA5soklWgZ/s1600/110411_mybackpage_sub6.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5689539527296331410" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhll1ztRJ1yIQn6KKg4afPglBDj_dVaEHMyvfZNqi1J7PbI5rnIUXGpbPEIAdmYYm6ptYjWcA7Hp_6X1nZAb_ypRHWt48hCTpQRC_31VAeNpOZtTLhDqRPr8jUi3RmJxkXV1XbA5soklWgZ/s400/110411_mybackpage_sub6.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 203px; margin: 0 0 10px 10px; width: 361px;" /></a><br />
沢田が所属していた編集部に、「週刊東都」のグラビアの仕事が終了し、別れの挨拶をしに来た倉田眞子が、自分の机を片付けていた沢田と二人だけになって、形式的な会話を交した後、自ら事件について触れてきた。<br />
<br />
彼女には、テレビで報道される自衛官殺害事件の内実と同時に、事件に関与した沢田の振舞いが気になっていたのである。<br />
<br />
映画の終盤のシーンである。<br />
<br />
「やっぱり、本当なんですか?」<br />
「やっぱりって?・・・・あ、そうか・・・」<br />
<br />
最も触れられたくないものに、単刀直入に触れてきた少女への反応に戸惑った様子を隠し込んで、何とかその一言で、沢田は次の言葉を探すのに時間稼ぎをしているように見えた。<br />
<br />
反応の鈍い大人の心に、少女の方から聞き糺(ただ)していくのだ。<br />
<br />
「あれは沢田さんのこと?」<br />
「そうみたい・・・でも、うん・・・何で俺、あいつのこと信じちゃったんだろうな・・・信じたかったのかなぁ」<br />
<br />
静かな緊張を分娩した関係の距離感が、そこに長い「間」を作り出した。<br />
<br />
少女は俯き(うつむ)きながらも、ゆっくりと、自らの思いを噛み締めるように、最も肝心の言葉をきっぱりと繋いでいくのだ。<br />
<br />
「あたしはよく分らないけど、人が死んでしまったんですよね・・・何の罪もない。死ぬはずのなかった人が殺されてしまったんですよね。運動ってよく分らないけど、あたし・・・でも、賛成か反対かって言われると、賛成につきたくなるような・・・いつもそんな気がしてた・・・でも、この事件は何だか嫌な感じがする。とても嫌な感じ」(注)<br />
<br />
そう言って、沢田の表情を確かめるように二度仰ぎ見るが、全く反応できない男がそこにいた。<br />
<br />
少女と視線を合わせられず、反応する言葉を繋げずに、最後には後ろを向いて、沈黙に耐える男の心情を精緻に描き出したこの描写は出色だった。<br />
<br />
充分な「間」を確保した静寂な空間の中で放たれた少女の言葉が、本作を情緒的に流す愚に歯止めをかけるという意味において、物語で描かれた時代を伝聞の類でしか知りようがない山下敦弘監督の、本来的な相対化思考をギリギリの所で支え切っている。<br />
<br />
それは、安直に、表現主体としての武装解除に流れない冷徹な視線の肝であると言っていい。<br />
<br />
この言葉の重量感は、結局、本人の理想のイメージのうちに睦むような、「特定的な何者か」に成り損なった二人の若者の、その「敗北の青春」の様態を決定的に際立たせているという一点に尽きるだろう。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj8FpDGQZcNuqqzAR8GyhXOV-Jt6wjd0haxHPrOHhd0ZpjNte8E1_Y_Crq79snvejSMZ8NVjMKrYa4czBZHnfOUR-xsVvSs5RxSpwlQXrPtBvSQQRp3dYuqrinyT9C7WbvCay3SP2ykXD4/s1600/img_1132349_36463838_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="360" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj8FpDGQZcNuqqzAR8GyhXOV-Jt6wjd0haxHPrOHhd0ZpjNte8E1_Y_Crq79snvejSMZ8NVjMKrYa4czBZHnfOUR-xsVvSs5RxSpwlQXrPtBvSQQRp3dYuqrinyT9C7WbvCay3SP2ykXD4/s640/img_1132349_36463838_0.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
然るに、「敗北の青春」のその先に待つ、険しい人生のイメージをも予約させながらも、殺人教唆犯というラベリングを負わざるを得ない似非革命家とそこだけは切れて、大衆消費文化の時流に合わせて巧妙に方向転換した大手メディアを解雇され、初めて己が人生をサポートする何ものもない苛酷な状況に容赦なく呑み込まれることで、言葉の真の意味で、そこから開かれる未知のゾーンを切り拓き、「特定的な何者か」として自らを立ち上げていく批評精神の、その厳しくも、しかし固有なる実存的自由の価値を手に入れたと言えなくもないのだ。<br />
<br />
<br />
それ故にこそと言うべきか、事件が容易に癒されぬトラウマとして、若者のナイーブな自我に張り付くであろうことを暗示させながらも、ラストカットの深い余情によって括られる物語は、世代を越えた普遍性を持ち得たと評価し得るだろう。<br />
<br />
人間の本来的な脆弱さへの洞察力に富んだ佳作であった。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQRdR1hZfQz47LhuF8JxMCjReOBCoywHzkdHLVb0EU5UehqfGJkZhZpPQFshodRSxnJPKsG1CQwRAhIm3ZZsE5OZxYLXsMPGapMkhbJcy753PvJT4bi584Xlrq4kz0Lt32pwp2eR8IoJA/s1600/20100223_01.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="200" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQRdR1hZfQz47LhuF8JxMCjReOBCoywHzkdHLVb0EU5UehqfGJkZhZpPQFshodRSxnJPKsG1CQwRAhIm3ZZsE5OZxYLXsMPGapMkhbJcy753PvJT4bi584Xlrq4kz0Lt32pwp2eR8IoJA/s200/20100223_01.jpg" width="168" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">川本三郎</td></tr>
</tbody></table>
(注)因みに、本作のキーワードでもある「嫌な感じ」という表現は、川本三郎の原作には、以下のように記述されている。<br />
<br />
「兄は最後に『あの事件は、なんだかとてもいやな事件だ。信条の違いはあっても、安田講堂事件やベトナム反戦運動、三里塚の農民たちの空港建設反対は、いやな感じはしない。しかしあの事件はなんだかいやな気分がする』といった。私はその『いやな気分』という言葉が忘れられなかった。それは私自身もまたかすかに感じていたことだったからだ」(「マイ・バック・ページ」平凡社刊)<br />
<br />
<br />
(2012年1月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-49585843071099736932011-12-22T06:07:00.012+09:002013-10-24T10:07:39.258+09:00破戒('62) 市川崑<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjMPXUC5ikZgkye2ruQ3nXEzVsjx45lpYB3EMixORZ0YL2TpmhCTeEjana9ubxiC0BxUJ5be9PD_6De01NAUA3qQGbTKI4XxyklBkpsZcry05AuO_cK9c2zZfswVWmPhGCvE8oapM7NJs8/s1600/b0d369bb.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="310" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjMPXUC5ikZgkye2ruQ3nXEzVsjx45lpYB3EMixORZ0YL2TpmhCTeEjana9ubxiC0BxUJ5be9PD_6De01NAUA3qQGbTKI4XxyklBkpsZcry05AuO_cK9c2zZfswVWmPhGCvE8oapM7NJs8/s640/b0d369bb.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><自己ののサイズに見合った〈生〉に反転させつつ、選択的に掴み取ろうとする男の痛切な物語></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「差別的原作」を屠る印象づけによって構築された物語の、感動譚の連射の瑕疵<br />
<br />
<br />
<br />
この映画の最大の瑕疵は、物語を感動的に描き過ぎたことだ。<br />
<br />
監修者として本作に参画した「部落解放の父」・松本治一郎(初代部落解放同盟執行委員長)への過剰な配慮が災いしたためなのか、或いは、緑陰叢書(りょくいんそうしょ・藤村が興した出版社)の第一篇として自費出版した若き島崎藤村の原作が、全国水平社の圧力で遂に絶版に追い込まれたという経緯を知悉(ちしつ)するが故にか、明瞭に「差別的原作」と切れた脚色を施す物語を構築したが、どうもそこだけは市川昆監督らしくなく、観る者の情感を激しく揺さぶるような感動譚のエピソードを、「同志」である愛妻の和田夏十(わだなっと)の秀逸な脚本を得て、ある種の戦略性を持って意識的に作ったとしか思えない演出が気になったのは事実。<br />
<br />
それ故、基幹テーマ性と映像構成の不即不離の睦み合いの濃度において、映像構築力の完成度の高さのみに限定すれば、「映画作品」としての本作の評価は、私の中では決して高いものとは言えないのである。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688692724586978386" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiowZNHSWFc8xq9rZ43i52DgBLtn1FO7SVxm2OjbQrc77mAET504Z5wGwmIkKisGgYL-JV83SaZ3rm-1EL5Uw3JoMYv1983WUqx9_91Pg2mScOmRGsP6TwTtDoMGuoxfpbgZ7mMzG4jSuMP/s400/410px-Shimazaki_Toson2.jpg" style="float: right; height: 339px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 232px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">島崎藤村</td></tr>
</tbody></table>
提示された基幹テーマの深刻さを、感傷的なBGMなしでも充分感銘深かったにも関わらず、決して粗悪ではなかったにしても、観る者が予約した情感濃度に合わせるように、芥川也寸志のマイナースケールの音楽を流しっ放しにしたり、「予定調和」の軟着点のうちに自己完結するに至る、些か諄(くど)いほどの感動譚の連射は、屋上屋を架す負の効果を累加させたばかりか、「差別的原作」を屠る印象づけによって、「社会主義リアリズム」という表現方法に則した妥協性が、あからさまに垣間見えるような作品に仕上がっていたといったら言い過ぎか。<br />
<br />
それにも関わらず、私はこの作品は嫌いではない。<br />
<br />
そんな曰くつきの映画を、昔から繰り返し観ても、溢れ返る涙を抑えられない程に、本作は私の中で鮮烈な記憶に残っている一篇なのだ。<br />
<br />
個人的な好みの次元で言えば、同じ市川昆監督による、「こころ」(1955年製作)や「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2010/10/blog-post.html">炎上</a>」(1958年製作)の主人公のように、煩悶し、煩悶し、煩悶し抜く人生の断片を拾い上げる映画がたまらなく好きなので、どうしても、その類の映画を観ると、抑えても抑え切れない情感が込み上げて、不覚にも、液状のラインが頬をだらしなく騒がせてしまうのだ。<br />
<br />
私の中では、殆どそんな映画は稀有な部類に属するが、このあまりに著名な映画は、その種の典型的な作品となっている。<br />
<br />
市川昆監督の作品に限定すれば、「炎上」でもそうであったように、本作でもまた、幾分、過剰演技が鼻に付いたものの、主人公を演じる市川雷蔵の精緻な内的表現力の圧倒的な支配力が、私の胸元に突き刺さって来るほどのレベルにまで届いているからだ。<br />
<br />
雷蔵は素晴らしい。<br />
<br />
それが、私の本作に対する率直な感懐である。<br />
<br />
以下、著名な原作から離れて、ここでは、若き日に初めて観て、その後、繰り返し観返している本作についての批評を短観的にまとめていきたい。<br />
<br />
<br />
<br />
2 煩悶し、煩悶し、煩悶し抜く半生を強いられる青年教諭の防衛戦略<br />
<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688693331763791746" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhJJeITb3SI1UXn_8fdVGO2-HoSBSSSXIgpQOOryfCklyrcD8rCu07XAnLRuLqSSVcAzdbccYstODY45hPEfzGI76NjL7a7ZMqxiNUOzR5SB-BWJdqyliD0PflJ71hdqfrenlcmeKE7uWi3/s400/ichikawakon_2.jpg" style="float: right; height: 310px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 230px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">市川昆監督</td></tr>
</tbody></table>
市川昆監督の多くの映画がそうであるように、本作もまた、困難な状況に捕捉された自我の内面を精緻に描き切っていて、由々しきテーマ性の提示を包括した映像の訴求力には抜きん出るものがあった。<br />
<br />
「炎上」と同様に、このような役柄を演じさせたら、一級の表現者に成り得る力量を検証した感がある市川雷蔵が演じ切ることで、心の琴線に触れるのに充分過ぎる余情があった。<br />
<br />
仮に、この映画が猪子蓮太郎(いのこれんたろう)を主人公にしていたら、殆どその生き方において、非の打ちどころのない「部落解放の英雄」の短い人生を自己完結した、単なるスーパーマン映画に堕してしまったであろう。<br />
<br />
「お父っつぁん、丑松(うしまつ)は誓います。隠せという戒めを決して破りません。たとえ、如何なる目をみようと、如何なる人に巡り会おうと、決して身の素性を打ち明けません」<br />
<br />
これは、部落民である事実を決して誰にも話すなという、父の戒めを守り通すことを決意した、本作の主人公である瀬川丑松の言葉。<br />
<br />
瀬川丑松にとって、この誓いは、自分の弱さを隠し込む格好の防衛戦略でもあったと言える。<br />
<br />
誠実だが、ごく普通の脆弱さを有する、そんな若者が主人公であるが故にこそ、この映画の提示した由々しきテーマ性の包囲網が、観る者の心に反転する捕捉力を敷き詰めていくのである。<br />
<br />
小学校教諭であるという知識階層に属している瀬川丑松が、非差別部落民の解放を声高に唱道する猪子蓮太郎を畏敬しながらも、その崇高な思想性に感情・行動ラインのパワーが全く追いつくことが叶わない内的状況の辛さは、極端に抑圧され、圧迫されるように感受する大状況下にあって、ごく普通の脆弱さを有する己が自我を、自らが納得できるラインまで統合できない苛立ちと不安を一身に背負い込んでいるのだ。<br />
<br />
自分の弱さを隠し込んで生きる者の防衛戦略を貫徹するには、負の記号の一切を隠し切る狡猾さを欠如させる若者の誠実さが、常に厄介な障壁と化していて、生来のナイーブ過ぎるアンテナ網は却って過敏に反応してしまうのである。<br />
<br />
それは、そこにしか辿り着かないような、決定的な「破戒」への運命の行程をなぞっていくように見えた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEic1jSS1xdTTUXrm4uJtz8Dp13xKPJj3-UBa6Zumauq0MywQQd9Tg2x561yE-wJc6AtahykSyMjW8jZYD_5eRaZ5SbiGwI0p2TFv4emdd6Ly13o7z7jsTaPDrAotH-sPPEqvp3ocuyf0hhS/s1600/69b4a1a7.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688692635847933634" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEic1jSS1xdTTUXrm4uJtz8Dp13xKPJj3-UBa6Zumauq0MywQQd9Tg2x561yE-wJc6AtahykSyMjW8jZYD_5eRaZ5SbiGwI0p2TFv4emdd6Ly13o7z7jsTaPDrAotH-sPPEqvp3ocuyf0hhS/s400/69b4a1a7.jpg" style="float: right; height: 127px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 162px;" /></a><br />
誠実な若者の内側で累加された葛藤の重量感は、近未来の死を覚悟して、隠れ蓑を持たない日々を繋ぐ、崇高なるスーパーマンと物理的に最近接することで、いよいよ若者の内的状況の酷薄さを増幅させ、弥増(いやま)すばかりだった。<br />
<br />
そのような内的状況を、「自我の微分裂」という概念で把握しておこう。<br />
<br />
「自我の微分裂」とは、難しく言えば、こういう風に説明できるだろう。<br />
<br />
即ち、個人の形成的な感情のボリュームゾーンが、特定的な「問題意識」にまで成長し、その「問題意識」が知的過程に踏み込んでいった所産としての一定の「思想」と、その「思想」が生活前線に下降していくときの感情が、ほぼ矛盾なく共存し得る心理の様態と決定的に乖離しているような内的状況である。<br />
<br />
丑松の苦悩の根柢に横臥(おうが)している苛酷極まる風景は、この類の閉塞的な内的状況であり、それを私は、「自我の微分裂」と呼んでいる。<br />
<br />
言い回しの難しさで煙に巻いたかの如き、この概念が意味する現象を大袈裟に考える必要など全くない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg3C7AjdYGG8WGwUDoXzum9D6tXvYTPZGvKR4AG_yNpKPn_gHzPXs3im1K2ZgOiyYlsOQKa1UvRPY2_iGGAMO_wDIjO6APS1SLzwGTDP02gef58YPy_FMhBhtOaZ5kCHLSlUDfGGqcc9nA/s1600/hakai8.gif" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="263" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg3C7AjdYGG8WGwUDoXzum9D6tXvYTPZGvKR4AG_yNpKPn_gHzPXs3im1K2ZgOiyYlsOQKa1UvRPY2_iGGAMO_wDIjO6APS1SLzwGTDP02gef58YPy_FMhBhtOaZ5kCHLSlUDfGGqcc9nA/s400/hakai8.gif" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">苦悩する瀬川丑松</td></tr>
</tbody></table>
多かれ少なかれ、精緻な知的過程に踏み込んでいくか否かに関わらず、それが厳密な理知的世界での深刻さの多寡とは無縁に、この類の矛盾を、避けようももなく、皆どこかで「人生上の問題」として抱えているのだ。<br />
<br />
ただ、負の記号の一切を隠し込む人生を選択せざるを得なかった丑松の場合は、彼が捕捉されていた大状況の、個としての人格の総体を呆気なく押し潰す程の圧力が、当時の時代相応の、相当程度の暴力性を内包していたという由々しき事態の有りようを常識化し、常態化していたということ。<br />
<br />
これが極めて厄介だったというに過ぎないのだが、然るに、この厄介さのイメージは、プロミンの開発を認知してもなお、国民国家による強制隔離政策を廃絶しなかったという意味で、我が国の差別の前線の極北とも言える、ハンセン症者の人たちの現実の懊悩にすら届き得ないと思わせるに足る、「平和憲法があるから、戦争が起こらない」と本気で信じる時代に呼吸を繋ぐ者たちの、驚嘆すべきチャイルディッシュな発想の中からは、とうてい、そこに潜むドロドロのリアリズムの内実に肉薄し得ないだろうと言わざるを得ないのだ。<br />
<br />
主人公の瀬川丑松の苦悩には、より誠実に生きようとする者が、そのような状況に置かれたら、懊悩を深める内的惨状を晒すだろうという心理的説得力があった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688692952820956898" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgwpjl6sHqtBAwyqLHrKZGJnND8j3HS70NrowGN4jUTN_X6ShC9fT4o-vEoJOu82VVIa6O12yeVfK4Z8AW4xdCUZAHGni1e9gZ53Temp7fzEq_kaXm6Ugm0cyHQ9cjAlg4JMFFTLyaAmCq1/s400/d38e1df3.jpg" style="float: right; height: 315px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 228px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><br /></td></tr>
</tbody></table>
だから彼は、煩悶し、煩悶し、煩悶し抜く半生を強いられるに至ったのだ。<br />
<br />
しかし、この微分裂した自我の惨状は猪子蓮太郎の死によって自壊するか、それとも、ほんの僅かな跳躍によって、より統合性を有する方向に向かっていくかに関わる、蓋(けだ)し決定な局面を迎える事態を回避できなかったのである。<br />
<br />
<br />
<br />
3 自己ののサイズに見合った〈生〉に反転させつつ、選択的に掴み取ろうとする男の痛切な物語<br />
<br />
<br />
<br />
以下、蓮華寺に丑松を訪ねて来た、猪子蓮太郎の決定的に重要な長広舌。<br />
<br />
「部落民である私たちに同情を寄せて下さる方々は沢山あります。私たちはその同情を有難くお受けします。世間一般の方の中に理解者があり、同情者があることが、何にもまして、私たちを力づけてくれるものだからです。しかし、私はいつも気をつけているのです。同情を求めるあまり、乞食のように憐みを乞うような気持に成り下がることをね。そして、更に気をつけています。乞食に成り下がるのを警戒するあまりに、素直な同情心をも撥(は)ねつける、頑なな人間ににならないことをね。私は充分の上にも、充分気をつけていたのですが、またどこかで過ちを犯したようです」<br />
<br />
相手が自分の果敢な行動の「善き理解者」であると知った猪子蓮太郎の訪問によって、負の記号の一切を隠し込む人生を選択したつもりの瀬川丑松は、全てが反故にされる恐怖の前で立ち竦み、翻弄されるのだ。<br />
<br />
「寒い所をお訪ね下さいましたのに、あなたが探しておいでの人間ではなくて・・・すいません」<br />
<br />
そう言うなり、崩れいく丑松の断崖を背にした心境は、もうこれ以上、隠し込む人生を延長できない辺りにまで追い詰められていた。<br />
<br />
まもなく、政治絡みのテロに遭って、猪子蓮太郎の「闘う人生」は終焉する。<br />
<br />
猪子蓮太郎の死に震撼し、煩悶の極点に達した丑松は、それ以外にないであろう、彼の自我のサイズに合わせた行動を選択する。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEivMRuNeRNdv35QSpNvXxf12qCwhT12Pq5wQvwNnIREzHjiegdxtsP1Rvc6wiOcs8BZLvd_ZcxoJ2ngVNINXMHJaeYiqTmKa6BW9bv1vv8T98zFjoKJQF3LrG1-u4sZjPYLqj-dkr7F3ONt/s1600/f81440d4.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688693143431803058" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEivMRuNeRNdv35QSpNvXxf12qCwhT12Pq5wQvwNnIREzHjiegdxtsP1Rvc6wiOcs8BZLvd_ZcxoJ2ngVNINXMHJaeYiqTmKa6BW9bv1vv8T98zFjoKJQF3LrG1-u4sZjPYLqj-dkr7F3ONt/s400/f81440d4.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 153px; margin: 0 0 10px 10px; width: 200px;" /></a><br />
生徒の前で謝罪し、教諭を辞し、旅に出るという選択だった。<br />
<br />
なお煩悶した挙句、猪子蓮太郎の後継者になるという丑松の究極の選択的行動には、猪子の殉死が決定的な推進力になっているのは明白だったが、そこに至る内的過程は、彼の内奥での「自我の微分裂」による自死への恐怖を突き抜けるに足る、苛烈なるも、由々しき葛藤の前線を露わにするものだったと言えるだろう。<br />
<br />
その由々しき葛藤の前線において、何よりも、生徒の前で謝罪する青年教諭の裸形の相貌を身体表現するに至ったこと。<br />
<br />
それは、丑松の煩悶の内実をほんの少し浄化し得るような、自己変容に関わる決定的な身体表現だったのだ。<br />
<br />
先程の文脈で言えば、「思想」が生活の前線に下降していくときの感情が、ほぼ矛盾なく共存し得る心理の様態と決定的に乖離しているような内的状況を、彼なりに溶かし始めた果断なる振舞いだったとも言える。<br />
<br />
今井正監督による「橋のない川 第二部」(1970年製作)を糾弾し、多くの者が肝心の作品を鑑賞していなかったと言われているにも関わらず、上映阻止闘争を行使した悪しき「正義」の事例の原点とも言える、島崎藤村の原作を絶版に追い込んだ事実を誇る行為に象徴されているように、「悪いことをしていないのに、生徒の前で土下座して、謝罪する行為は許し難い」と糾弾して止まないイデオロギーによって、完全武装したと信じる者たちには、殆ど「馬の耳に念仏」と化したかの如き、「丑松思想」とラベリングした「敗北主義の宣言」にしか捉えられないだろう。<br />
<br />
しかし、人間の脆弱さを内面的に描いても、「克服史観」を前提にした、手に入れるべき思想的達成なしに、ダラダラと繋ぐようにしか見えない類の、人間の心の奥深くに潜む葛藤の表現を全否定する、「前衛」たちとの交叉は灰燼に帰すだけである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_xhafyiRq69U34rEe6jZF1p8YAqo2bV2wzTRYzNg_yRlMQMWHPPExwLjbrBeXsjDI4vzuwajCV5hyphenhyphenWAw4b7H7eBCCzXfVv7FKXAHd4WsyhwwaLm5V5Nwiexa6ltvdVDmqqNv53vfs2m5J/s1600/2a050ae9.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5688692553625368146" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_xhafyiRq69U34rEe6jZF1p8YAqo2bV2wzTRYzNg_yRlMQMWHPPExwLjbrBeXsjDI4vzuwajCV5hyphenhyphenWAw4b7H7eBCCzXfVv7FKXAHd4WsyhwwaLm5V5Nwiexa6ltvdVDmqqNv53vfs2m5J/s400/2a050ae9.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 322px; margin: 0 0 10px 10px; width: 320px;" /></a><br />
はっきり書くが、糾弾された原作のように、丑松が猪子蓮太郎の「後継者」を宣言しなくても一向に構わないし、生徒の前で土下座した後、アメリカに遁走しても一向に構わないのだ。<br />
<br />
却ってその方が、被差別部落出身者が置かれた理不尽な状況性が鮮明になると考えることも可能ではないか。<br />
<br />
大体、「差別の前線での闘争を通じて、総括的に己が思想の脆弱さが克服されていく」表現こそが唯一の芸術表現である、というような狭隘な把握自体、「社会主義リアリズム」の致命的瑕疵であると言っていい。<br />
<br />
このような表現の制約を形式的に繋いでいけば、「社会主義リアリズム」という表現方法が硬直化し、いつしかそこに、「生命の息吹」すらも喪失することは必至であるだろう。<br />
<br />
それが、芸術の自在性を許容しないプロパガンダ芸術の宿命であるに違いない。<br />
<br />
猪子蓮太郎の志を継ぐという丑松の表現は、少なくとも観念的には、断崖の際(きわ)に追い込まれた状況下での自己規定宣言であり、同様に、生徒への謝罪もまた、新たな人生を切り拓く意思を表現する分岐点と情感的に決意した男が、「自我の微分裂」による負の記号の一切を隠し切る狡猾さと訣別するための自己表現であると考えれば分りやすいだろう。<br />
<br />
彼はスーパーマンではないのだ。<br />
<br />
スーパーマンではない多くの普通の自我が、このうような苛酷なる状況下に置かれたら、その自我を微分裂されながら煩悶し、深々と懊悩する姿を、先述したような映像構成の瑕疵を内包しつつも、恐らく、戦略的な意図の元に市川昆監督は描き切ったのである。<br />
<br />
だから、そこにこそ、普遍性を持ち得る映像の力が検証でできるのである。<br />
<br />
従って私は、本作を部落差別という、特定の「差別の前線」の物語としては受け止めない。<br />
<br />
部落差別と同様に、様々な抑圧的状況に捕捉された者が、その苛酷なる状況下で内面的に懊悩し、煩悶し、煩悶し抜く時間を延長し続ける閉塞感の中でギリギリに堪え切って、そこから自己ののサイズに見合った〈生〉に反転させつつ、なお誠実に生きる人生の固有の航跡を恐々と、しかし選択的に掴み取ろうとする男の痛切な物語として受容しているからである。<br />
<br />
(2012年1月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-61931019379955123892011-12-15T09:59:00.011+09:002015-02-08T14:43:12.208+09:00Shall we ダンス?('96) 周防正行<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg1SG5nnL-cUya_JqsYExP7ND8mpO7jZ5pmKs6cvHTQ0NIoJ4zyID3IqWEb77waMwk2u5QOSje_0-06UVFLfzHLM_82ztcsBjg4oFqHQobLtz3F-NiN9mHk7aTMn7JGr2QQO72oSB9f3KAH/s1600/7470b722d81601519a379a79bb0f9e8077bc569e_77_1_12_2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg1SG5nnL-cUya_JqsYExP7ND8mpO7jZ5pmKs6cvHTQ0NIoJ4zyID3IqWEb77waMwk2u5QOSje_0-06UVFLfzHLM_82ztcsBjg4oFqHQobLtz3F-NiN9mHk7aTMn7JGr2QQO72oSB9f3KAH/s400/7470b722d81601519a379a79bb0f9e8077bc569e_77_1_12_2.jpg" height="323" width="400" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><「喪失したアイデンティティの奪回」=「アイデンティティの再構築」についての物語></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「喪失したアイデンティティの奪回」=「アイデンティティの再構築」についての物語 ①<br />
<br />
<br />
<br />
本作は、「豊かな社会」で呼吸を繋ぐ者の、「生き甲斐」探しの旅の行程が内包する困難さの様態を基本骨格にしたヒューマンドラマである。<br />
<br />
そして、「生き甲斐」探しの旅の行程である、「道修行」の退屈さをコメディラインで補完することで、娯楽映画としては長尺な物語になったが、どこまでも基幹テーマは、「豊かな社会」で呼吸を繋ぐ者の、些か厄介な「生き甲斐」探しの旅の行程の、微毒だが、決して粗略にできない、「非日常」の旅程相応の危うさに満ちた様態を射程に収めていることだけは間違いないだろう。<br />
<br />
ここで、私は改めて考える。<br />
<br />
果たして、「豊かな社会」で呼吸を繋ぐ者にとって、その固有の旅の、固有の行程を必要とするに足る「生き甲斐」とは何だろうか。<br />
<br />
狭義の意味で考えると、こういう風に言えないか。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2iScKrwDr8o9RaZRwO6uj8zTzbioDIA7Q_JFbhYr-UG58qlph48icDRn_vfZr82Zj6uGecUmNRXQH3sOH9i3WVJ91edDUNd2l9tA6qo8sMnJcjj6Eo2wO0Jikz8z_7_ynrZihlbmmwqWQ/s1600/406276-.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2iScKrwDr8o9RaZRwO6uj8zTzbioDIA7Q_JFbhYr-UG58qlph48icDRn_vfZr82Zj6uGecUmNRXQH3sOH9i3WVJ91edDUNd2l9tA6qo8sMnJcjj6Eo2wO0Jikz8z_7_ynrZihlbmmwqWQ/s400/406276-.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5692563745350542402" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 237px; margin: 0 0 10px 10px; width: 352px;" /></a><br />
即ち、「生き甲斐」とは、「生理」→「安全」→「愛情」→「尊敬」→「自己実現」という、欲求の5段階層説を説いたアブラハム・マズロー(画像)的に言えば、「生理」→「安全」→「愛情」→「尊敬」という段階に至るまで、人間の基本的欲求に決定的な欠如感が見られない日常性を、取り立てて問題なく遣り過ごしてきたにも関わらず、それでもなお充足し得ない心境下にあって、特段に目立たないが、どこかでいつも看過し難い何かが伏在する事態を認知した上で、そこで感受した心の空洞感を継続的に埋めるに足る相応の物語を確保する心的現象であり、そのプロセスを包括的に受容し得るという自己像を確保する心的現象でもある。<br />
<br />
従って、「生き甲斐」探しの旅とは、この種のプロセスの総体であるが故に、そのプロセスの総体が、自分にとって高次の自己実現欲求に結ばれるとき、その心的現象が「道修行」の様態を具現化するのは、様々に個人差があれども殆ど必至であるだろう。<br />
<br />
まして、一般論的に言えば、「飢え」と「安全」と、幸福家族の「愛情」を具現し得た、私たちの近代社会が達成した「豊かな社会」の内実は、上記の基本的欲求を充足させやすい社会なので、マズローの言うところの、高次の欲求への希求が発現しやすいが故に、その「不足感」を埋めねばならないという実感の切迫性によって、「生き甲斐」の問題は、時として深刻な状況を露わにする。<br />
<br />
これが、思春期、中年期及び、老年期に発現しやすいのは、その時期が「人生の転換点」になりやすいからだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiDEciN8djcL4UZclmZIh5NOqT_iD6b9FrGHWba9JQSjLqXAHC3oxQ5hFqODy4zCWhCF7iMQ0SRqXLyqZJDjVkKFvWRSP6ERcQ9zSExBbHp9eMQReJQowwJZK-DGXxN0bjdb0IZY__p5HkX/s1600/Erik_Erikson.png" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiDEciN8djcL4UZclmZIh5NOqT_iD6b9FrGHWba9JQSjLqXAHC3oxQ5hFqODy4zCWhCF7iMQ0SRqXLyqZJDjVkKFvWRSP6ERcQ9zSExBbHp9eMQReJQowwJZK-DGXxN0bjdb0IZY__p5HkX/s400/Erik_Erikson.png" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5692565417451479698" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 279px; margin: 0 0 10px 10px; width: 233px;" /></a><br />
例えば、E.H.エリクソン(画像)の「老年期 生き生きしたかかわりあい」(E.H.エリクソン他著、朝長正徳・梨枝子訳 みすず書房刊)によれば、混乱期にあって、「アイデンティティの獲得」を基本課題とする思春期、そして、「統合」と「絶望」という二つの内面世界の葛藤があり、その葛藤をバランス良く上手に克服して到達した、「総括的展望」としての「英知」の獲得が、「老年期」での重要な人生学的テーマになるという把握を提示していた。<br />
<br />
更に、本作に引き寄せて言えば、40歳を過ぎた主人公である杉山は、中年期の只中にあって、乗り越えるべき基本課題に直面していた。<br />
<br />
結論を性急に言えば、そこだけはE.H.エリクソンの仮説と離れて、この中年期こそ、混乱期の渦中でがむしゃらに手に入れたと信じる青年期のアイデンティティが剥離することで、自我に襲いかかって来る「アイデンティティの再構築」という、人生の至要たるテーマの渦中で立ち竦み、そこで内面的に揉み合い、せめぎ合うに至るのである。<br />
<br />
要するに、「喪失したアイデンティティの奪回」こそ、「飢え」と「安全」と、「幸福家族」という名の「愛情」を具現し得た、「豊かな社会」で呼吸を繋ぐ中年期を迎えた者の、中枢の人生論的テーマであるということ。<br />
<br />
従って、それは、「喪失したアイデンティティの奪回」=「アイデンティティの再構築」という、人生の由々しきテーマの問題に尽きると私は思う。<br />
<br />
まさに中年期こそ、「人生の転換点」の第2ステージなのである。<br />
<br />
その「人生の転換点」の第2ステージを上手に乗り越えるには、自らのサイズに見合った、徒(いたずら)に時間が累加されていくだけの退屈な日常性から、そこで発現した心の空洞感を継続的に埋めるに足る、相応の物語を確保する「非日常」への跳躍が求められるだろう。<br />
<br />
しかし、それは大袈裟に言えば、時として、未知のゾーンへの果敢なる跳躍力を要するが故に、それによって失うリスクも随伴する。<br />
<br />
なぜなら、自らのサイズに見合った「非日常」への跳躍という人間学的現象それ自身が、存分に未知のゾーンのカテゴリーに内包されるからだ。<br />
<br />
以下、その問題意識によってのみ、本作を簡潔に考えてみたい。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「喪失したアイデンティティの奪回」=「アイデンティティの再構築」についての物語②<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi14yFttNC-fSjtVM6K71eLExXZAuUJ8C_KCjnJSglEbniGBbVDvo1ZEtO7QX-V2VKxI0tp3ewbs_9bjLFX_OEmRdaC539mXUNais91MhGM3Xu9DTLdP6GslzYlZ8DXKaqaDqsFRH-wxXzB/s1600/f0102471_21205091.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi14yFttNC-fSjtVM6K71eLExXZAuUJ8C_KCjnJSglEbniGBbVDvo1ZEtO7QX-V2VKxI0tp3ewbs_9bjLFX_OEmRdaC539mXUNais91MhGM3Xu9DTLdP6GslzYlZ8DXKaqaDqsFRH-wxXzB/s400/f0102471_21205091.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5686159302283233986" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 220px; margin: 0 0 10px 10px; width: 396px;" /></a><br />
電車の中から見た「物憂げの美人」への関心を契機に、ダンス教室に通う杉山の世俗的な振舞いは、何より彼自身が、中年期のステージにあって、「生き甲斐」探しの旅を必要とするに足る、未知なる「人生の転換点」の迷妄に搦(から)め捕られていて、この迷妄を浄化し、それを上手に乗り越えるための契機を求めていたことの心的現象の顕在化であり、それは「助平心」という情動に隠し込んだ、退屈な日常性から「非日常」へのステップへの入り口に過ぎないと考える方が自然である。<br />
<br />
そして、舞という名の「物憂げの美人」もまた、「生き甲斐」探しの旅というカテゴリーに収斂し切れないほどの「危機」にあった。<br />
<br />
トラウマと言っていい。<br />
<br />
因みに、「物憂げの美人」のトラウマの根源には、ブラックプール(英北西部の海岸保養都市)での頓挫の問題が横臥(おうが)していた。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEifNJ9G5dOhq5sCoFSv5t-ZvHZcLbTutXebjC8N5fvJXOiDlIB5TnHEABUnP5d4apCXjuJONOqRiR0XtK7DUhrmXpdEIMK3YWfzlMB8QQLFxz12Z2dAZzLu9uIG66HnI4aDww_eIP6Uv3E/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEifNJ9G5dOhq5sCoFSv5t-ZvHZcLbTutXebjC8N5fvJXOiDlIB5TnHEABUnP5d4apCXjuJONOqRiR0XtK7DUhrmXpdEIMK3YWfzlMB8QQLFxz12Z2dAZzLu9uIG66HnI4aDww_eIP6Uv3E/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" height="216" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ブラックプールダンスフェスティバル</td></tr>
</tbody></table>
毎年、初夏に、このブラックプールで開催される世界最高峰の社交ダンス競技会のステージで、他の競技者と接触して転倒するアクシデントに見舞われてから、パートナーに対する信頼感を喪失してしまった舞にとって、何より看過し難かったのは、相手の男性パートナーが自分を守り切ってくれなかったこと。<br />
<br />
この由々しき体験が、若い彼女の自我を決定的に傷つけるに至ったことで、そこだけを目指して厳しい「道修行」を繋いできた彼女の繊細な自我から、「最高の夢のステージ」での「最高のパフォーマンス」という、それ以外にない、拠って立つアイデンティティの絶対的基盤を根柢から崩されてしまったのである。<br />
<br />
明るい未来に溢れているはずの才能が、彼女の実父から、血を分けた者の大人の配慮もあって、世俗感情丸出しの素人相手の、望みもしないダンス教室の教師を、半強制的に委託させられていた現実の不快感が、彼女の表情から笑みを奪っていた。<br />
<br />
これが、「物憂げの美人」の誕生の顛末。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg-iydgF2QE12w4MKy5AxYQj1RpAniTF6W-M80vTmnA1W9GTJNv8-DIWEkbFoozg2tTZRIpnGOKGCvJJzCrWFetYbD7hkkQ39VABzSEiHcuSAxSWfwYzzxnic2g8_vlaS-7lhEJIrzuITfz/s1600/sall_w.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg-iydgF2QE12w4MKy5AxYQj1RpAniTF6W-M80vTmnA1W9GTJNv8-DIWEkbFoozg2tTZRIpnGOKGCvJJzCrWFetYbD7hkkQ39VABzSEiHcuSAxSWfwYzzxnic2g8_vlaS-7lhEJIrzuITfz/s400/sall_w.jpg" height="233" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">杉山(右)と、会社の同僚・青木</td></tr>
</tbody></table>
その「物憂げの美人」の、鋭角的に停滞した人生の時間のうちに入り込んで来たのが、本作の主人公の杉山だったという訳だ。<br />
<br />
そんな男の邪心に対して、レベルの違う世界に棲んでいると信じる舞の内側で、激しい拒絶反応を抱くのは必至だったと言える。<br />
<br />
レベルの違う世界に棲んでいると信じるが故にか、ストレスコーピング(ストレスへの適切な対処法)を確保し得ない苛立ちが、いつまでも、ソフトランディングに向かえない内的時間を延長させているばかりだったのだろう。<br />
<br />
充分に膨らみ切ったディストレス状態による拒絶反応が、いつの日か炸裂するのもまた、彼女の感情文脈において回避できなかったに違いない。<br />
<br />
ここに、本作の物語の分岐点となった、「物憂げの美人」の辛辣極まる拒絶宣言がある。<br />
<br />
その拒絶宣言の哀れなる対象人格は、締まりなき野放図とは無縁に、常に理性的に振舞う、堅物の真面目人間の杉山であったのは言うまでもない。<br />
<br />
以下、「物憂げさ」故に、より累加されていった、美人教師の危うげな魅力に惹かれる一方の堅物の真面目人間が、遂に意を決して、直截にデートを誘った不相応な行為に対する、「物憂げの美人」による単刀直入な拒絶宣言。<br />
<br />
「こんな言い方失礼かも知れませんが、もし私のことが目的で、この教室にいらしているんでしたら、ちょっと困るんですけど・・・私は真剣にダンスを踊っています。教室はダンスホールじゃありません。不純な気持ちでダンスを踊って欲しくないんです」<br />
<br />
粘り込んで待ち伏せし、食事を誘った杉山への物言いは、殆ど袈裟斬りの切れ味を見せていた。<br />
<br />
ところが、この袈裟斬りの切れ味を受けた男が、この一件を契機にして能動的に変容していくのである。<br />
<br />
その後、駅のプラットホームでも、家庭でも、街路でも、ダンスのステップをする杉山が、溌剌な身体表現を駆動させていくのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjTSzkJWfrTeFgR87tWs0ShYfUZjjEgGc460djKRqB5UKJDFKRufjbAdsLRUvTCT1f6qXZ-LSVLlUj_icstv4GTbO-YPcNqeEwfcgEGq86JMu_-FTjhqY8GQZetw_6x6D4oWhscQh6Y64AS/s1600/9bb84dee5c1ad4cb9137b41022fd36f5.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjTSzkJWfrTeFgR87tWs0ShYfUZjjEgGc460djKRqB5UKJDFKRufjbAdsLRUvTCT1f6qXZ-LSVLlUj_icstv4GTbO-YPcNqeEwfcgEGq86JMu_-FTjhqY8GQZetw_6x6D4oWhscQh6Y64AS/s400/9bb84dee5c1ad4cb9137b41022fd36f5.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5686158814662794898" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 326px; margin: 0 0 10px 10px; width: 238px;" /></a><br />
杉山の真剣さを認知した「物憂げの美人」は、トラウマとなっていたダンスの世界への復元を果たしていく<br />
<br />
ここで由々しきことは、「物憂げの美人」の辛辣極まる拒絶宣言を受けても、そのことで致命的な受傷の後遺症を晒すことなく、なおダンス教室に通い続けたという杉山の行動である。<br />
<br />
その答えが、物語の終盤に待っていた。<br />
<br />
既に、相互の感情の縺れが浄化されていた関係を紡ぎ始めた頃の、「物憂げの美人」と杉山との、本音の思いを吐露する言語交通のシーンがそれである。<br />
<br />
「良い年して、こんな言い方恥ずかしいですが、毎日毎日、生きているなって感じがして。何だか疲れるのも、却って気持ちいいんです」<br />
<br />
杉山の正直な思いに、今や、「物憂げの美人」のくすんだ相貌を脱却した舞も、誠実なる男の思いに重なるように反応した。<br />
<br />
「私も。こんなにダンスに打ち込むのも久しぶり。とても気分がいいの」<br />
<br />
その後、舞は、自分の心を重く捕捉してきたブラックプールの一件を、杉山に告白するに至る。<br />
<br />
そんな舞の告白を受けて、杉山もまた、ダンス教室に通うようになった経緯を吐露していく。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiNLG3zCjpgbssESJvC01f7squQ-Jcp_CgJXoPmaJD_pF_dnv69UwJi1gRFOXr6ki7uSSjVOL-eKL2tj1cbL_3Ng7EIRqJHhtFWlqMHzsrnwO8_jW3ed87G7WYXbRwkQoM8D9Zgx3zcX3Ft/s1600/f0102471_21205091.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiNLG3zCjpgbssESJvC01f7squQ-Jcp_CgJXoPmaJD_pF_dnv69UwJi1gRFOXr6ki7uSSjVOL-eKL2tj1cbL_3Ng7EIRqJHhtFWlqMHzsrnwO8_jW3ed87G7WYXbRwkQoM8D9Zgx3zcX3Ft/s400/f0102471_21205091.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5686156551660811874" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 206px; margin: 0 0 10px 10px; width: 380px;" /></a><br />
「28歳で結婚、30歳で子供が生まれて、40を過ぎたところで、念願の家も買った。結婚、出産、マイホーム。そのために全力で働いた。正直言って、幸せな人生だと思っていた。ところが、家を買った途端に何かが変ってしまった。妻に不満がある訳ではない。子供が可愛くない訳ではない。でも、何かが変わった。今度はローンを返すために頑張ればいいのに、気持はそう思っているのに、何かが違う。そんなときに、あなたに出会った。毎日見ているうちに、あなたと一度でいいから、ダンスを踊って見たいと思うようになった」<br />
「でも、あたしがあんなひどいことを言ったのに、あなたはダンスを続けたわ」<br />
<br />
ここでも直截な舞の発問は、同時に、本作を観る者からの発問でもあった。<br />
<br />
その発問に、それまでの彼のイメージを突き抜けたかのような態度によって、杉山は凛として答えていくのだ。<br />
<br />
「随分、迷いました。だけど、ここで辞めたら、あなたの言ったことを認めることになる。・・・あんな風に言われたことはショックだった。あなたに、思い知らせてやろうと思ったんです。あなたが目的じゃない、ダンスをするために、ここに来ているんだって。でも、そうやってしゃにむに踊ってたら、本当にダンスが好きになっていた」<br />
<br />
本作を通して、最も重要な会話である。<br />
<br />
これは同時に、「人生の転換点」の第1ステージの大きな課題に頓挫し、それを一貫して引き摺っている者と、恐らく、「人生の転換点」の第1ステージを無難に通過してきた自我が、人間の基本的欲求を満たした直後から襲いかかってきた第2ステージのテーマを、内深く抱えた者との直接的な会話である。<br />
<br />
前者が、「物憂げの美人」であった舞であり、後者が、「何かが違う」という心境下で動かざるを得なかった杉山であるのは言うまでもない。<br />
<br />
要するに、杉山にとって、「人生の転換点」の第2ステージへの特別な関心の発現の現象は、「人生の転換点」の第2ステージの厄介だが、真摯に己が固有の人生を繋いでいこうとする者が、決して粗略にできない意識の顕在化であったと言えるだろう。<br />
<br />
その意味で、杉山が「物憂げの美人」との出会いを開いた基本モチーフは、「人生の転換点」の第2ステージの沸騰点を感受した心的現象の泡立ちの中で、その未知のゾーンに意を決して踏み込んだ彼の、極めて可視的で、分りやすい外気導入口であったという風に考えるべきだろう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjAQTVpXVjaTrtR8A_PNwNVn5mMz7frT-V734TGCHxnT4ijC-bmIs89BCpB4QrxStwI0Ne9ru7uSd7CQrwoKH-fxPhsKBOiNxnmWl_yEw_gZF50i8MyAsFRPAPqUeojmvuH7rMnP5kwpenn/s1600/01_spx300.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjAQTVpXVjaTrtR8A_PNwNVn5mMz7frT-V734TGCHxnT4ijC-bmIs89BCpB4QrxStwI0Ne9ru7uSd7CQrwoKH-fxPhsKBOiNxnmWl_yEw_gZF50i8MyAsFRPAPqUeojmvuH7rMnP5kwpenn/s400/01_spx300.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5686158232122309090" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 325px; margin: 0 0 10px 10px; width: 243px;" /></a><br />
私は、この二人の、このときの会話こそが、この映画のエッセンスであると把握しているので、物語の、その後の二人の展開は、殆ど予定調和のラインをなぞるものであったとしても、映画が内包したテーマ性を脱色させる、比較的上出来のスラップコメディの文脈とは全く無縁な、殆ど盤石なる娯楽映画として率直に受容している次第である。(画像は周防正行監督)<br />
<br />
要するに、本作は、「喪失したアイデンティティの奪回」=「アイデンティティの再構築」についての物語であったという風に考えているからだ。<br />
<br />
それが、本作に対する私の基本解釈である。<br />
<br />
(2012年1月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-32795427144910622612011-12-07T13:55:00.010+09:002013-05-03T21:03:49.433+09:00es [エス]('01) オリヴァー・ヒルシュビーゲル<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjeJvVXTrj02yn4_LG-bB8rXASx2jxT-yILhm-EziowokxThdGplKSuELWsWDVEUNrXjHI3v0CXiEH3ZDxH_EDJzoooYGSDay0TIml7ClYicR_zitftM8fdYCEpfaBxbW005MGSYLNCHwbt/s1600/das_experiment.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="416" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjeJvVXTrj02yn4_LG-bB8rXASx2jxT-yILhm-EziowokxThdGplKSuELWsWDVEUNrXjHI3v0CXiEH3ZDxH_EDJzoooYGSDay0TIml7ClYicR_zitftM8fdYCEpfaBxbW005MGSYLNCHwbt/s640/das_experiment.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
<span style="font-weight: bold;"><システムが作った物語の内に従属し、融合する人間の自我の脆弱性></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「スタンフォード監獄実験」をベースにした物語の概要<br />
<br />
<br />
たとえそこに、常軌を逸する暴力の介在が存在したとしても、2名の死者を含む多数の重軽傷者を出したり、女性の実験助手をレイプしたり、実験の責任教授が空気銃で撃たれたり、挙句の果ては、脱獄劇のアクション映画と思しき物語構成に流れたり等々、商品価値を高めるための相当程度の映画的加工が、物語のベースとなった、人間の本質に肉薄する「スタンフォード監獄実験」(1971年)のリアリティを損ねてしまっている部分があり、そこだけは、サイコムービー的な受容感覚を許容する看過し難い瑕疵となっていたが、それでもなお、心理学的文脈において、映画の中で末梢化されずに追求されたと思われるテーマ性が、それをモデルにした心理学実験の本質を無化する不毛さだけは脱却していた、と私は見ている。<br />
<br />
それ故に、本稿では、その完成度の高さにおいて絶賛に値するとは思えない、映画作品としての厳格な評価への思い入れの是非よりも、物語の中で追求された基幹テーマへの心理学的文脈の範疇で限定的に言及していきたい。<br />
<br />
「スタンフォード監獄実験」をベースにした物語の概要は、以下の通り。<br />
<br />
監獄内での「権力関係」の形成と変容の様態を、心理学的に調査するための実験に、前科のない、ごく普通の理性を有する20名以上の男たちが、高額の報酬や好奇心等の理由で募集に応じ、大学地下に仮設された模擬刑務所での、囚人と看守の役割を2週間にわたって演じ続ける実験過程で、2名の死者を含む多数の重軽傷者を出すという、責任教授の思惑を遥かに越えるに足る、自制困難な本物の「権力関係」の暴走を作り出してしまって、実験半ばで強制終了されるに至ったというもの。<br />
<br />
そんな本作の物語構造を羅列的に要約すると、私は以下のように把握している。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「権力関係」の過剰な暴走による、模擬刑務所の秩序の完全なる崩壊<br />
<br />
<br />
<br />
①【責任教授による役割説明】=被験者である参加者の役割への観念的受容 → 制服の着用による、役割の認知の物理的受容。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5683248197374017666" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgFQbvZs2MyBMnZuSJ8a9m9XoRAxkWw5nbrZL9XvAGEnGOfAPo4KKLPVTwOXeNFwvVFgrnRPH0zDZQ3A6DbZFaPzrujsGl_1V5Qxq0Lvr2qGIKfR8WwTSEeTT8zVSG4lqi2fr99uKLGvmAy/s400/dasexperiment4.jpg" style="float: right; height: 218px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">責任教授による実験参加の説明会</td></tr>
</tbody></table>
実験開始の段階では、笑みを浮かべる被験者たちに、責任教授が、「もし、面白半分に考えているのなら、実験は今すぐ中止します」と語る言葉に尽きる、和やかな空気に包まれていた。<br />
<br />
↓ <br />
<br />
②【囚人被験者を、看守被験者が模擬監房に移動させる任務の形式的伝達】=役割の事務的発動と、両被験者の役割の形式的遂行による役割意識の初歩的形成。<br />
<br />
この段階においても、「看守ごっこではありません。では、まず囚人たちの収監から始めて下さい」という、責任教授の注意喚起のサポートが必要だった。<br />
<br />
↓ <br />
<br />
③【食事(牛乳の飲用)における、命令系の交叉の1次的破綻と、77号の意図的挑発】=役割の形式的遂行の限界と、敵対的感情関係の成立による役割意識への自己投入現象の発生。<br />
<br />
実験の空気を変容させる契機になった、77号(囚人の認識番号・固有の人格性を剥ぎ取るために、認識番号で呼ぶことは既にルール化されていた)の意図的挑発とは、メガネのレンズに映る監獄内の状況をコンピューター再生させる刺激的効果を狙って、意図的に騒ぎを起こす危険な潜入取材であって、その目的は雑誌記者への復帰の熱望にあった。<br />
<br />
ここでは、恐らく乳糖不耐症(乳糖の消化酵素=ラクターゼの量が少ないため、下痢などの症状を起こす疾病)のため、牛乳を摂取できない囚人に加担することで、77号が看守被験者に眼をつけられていくが、何より由々しきことは、77号の振舞いが看守被験者のプライドを傷つけることによって、看守被験者の内面から被験者意識を剝落させていく契機になったことである。<br />
<br />
それは同時に、囚人被験者の意識にもまた、被験者意識を剝落させた大方の看守たちとの、由々しき敵対的感情関係の矢面に立たされていくことを意味していた。<br />
<br />
↓ <br />
<br />
④【模擬模擬監房内での騒動】=役割の形式的遂行の破綻と、役割意識の膨張的拡大による明瞭な「権力関係」の形成。<br />
<br />
77号の意図的挑発が昂じて、あろうことか、看守を監房内に閉じ込めた挙句、馬鹿騒ぎに興じる始末。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg98zCl8hWy3g8d5_E0o6Sj9tXPNZ5gLaJs2gT66yTAUUNKR-TL1y9jotdHdmZmX4m7E8HMdjxOi69tpJXgJwQASokFed6GWL9Wj77nOf2AqGX-zC5eh2B9c8d8dOOP7d8oH3M3GzjwPVz2/s1600/dasexperiment3.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5683248595308232930" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg98zCl8hWy3g8d5_E0o6Sj9tXPNZ5gLaJs2gT66yTAUUNKR-TL1y9jotdHdmZmX4m7E8HMdjxOi69tpJXgJwQASokFed6GWL9Wj77nOf2AqGX-zC5eh2B9c8d8dOOP7d8oH3M3GzjwPVz2/s400/dasexperiment3.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 215px; margin: 0 0 10px 10px; width: 335px;" /></a><br />
この騒動を収拾し得ない看守たちの不安と苛立ちの感情を処理するために、今や、リーダー的存在にのしあがったベルスが、囚人に屈辱を与える手法を仲間に提示し、それを遂行するに至る。<br />
<br />
それは、既に被験者意識を剝落させていた看守被験者たちの連帯感の強化をもたらし、同様に、被験者意識を剝落させていた囚人被験者たちを全裸にさせる行為に現れているように、彼らによるルール違反の暴走の伏線と化していく。<br />
<br />
未だ、2日目での危うい顛末を惹起させたのが、77号の意図的挑発によるものとは言え、このような秩序破壊の個人的振舞いにのみ、全ての問題を還元させる分析は合理性に欠ける面があることを留意すべきだろう。<br />
<br />
それは、拘留状態がなお延長されている事実を認知する囚人被験者の〈状況性〉にあって、現実の囚人の初期症状と酷似する様態と言えるからである。<br />
<br />
↓ <br />
<br />
⑤【模擬刑務所内での看守の抑圧的態度の身体化】=支配と服従の関係の固定化による快楽と、屈服による恐怖の空間の発生と「権力関係」の加速的な膨張。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5683248308354544818" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBa1jbVY3QQzaaNTbAQXPh-AJYVF6rbz6xM6I1P3yfJMsyk7mRcXutuqXwMvEtoRXD0NvEi78qfbpDPUC6_l56KiVWb73ONdbQjh-cDV1_TbJhFCoatJPEtzoJpzLpyNAvezHJ0ibCXlsL/s400/experiment-5.jpg" style="float: right; height: 230px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 350px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">77号(左)と同房の潜入軍人</td></tr>
</tbody></table>
これは、ベルスに眼をつけられ、バリカンで丸坊主にされるなど、特定的に甚振(いたぶ)られていった77号が、「恐怖によるパニックで過呼吸を起こしたんだ。息を浅く吸え。落ち着くんだ」と、同房の潜入軍人にサポートされる言葉や、離脱者の発生によって加速的に現象化した危険な状況である。<br />
<br />
既に、個としての人格性の剥奪の象徴でしかなかった囚人の認識番号が、まさに認識番号以上の存在価値を持たない〈状況性〉に捕捉されている現実を露わにして、監房それ自身の「模擬刑務所性」の自壊を顕在化するに至ったのである。<br />
<br />
「模擬刑務所性」の自壊とは、被験者としての模擬看守が、本物の刑務所の看守の権力を有することで、被験者としての模擬囚人が本物の刑務所の囚人との間に、本物の「権力関係」を確立した現象を意味する。<br />
<br />
何より由々しきことは、「模擬刑務所性」を仮設した実験者たちが、膨張的に拡大する一方の危険な〈状況〉をコントロールし得なくなってしまったことである。<br />
<br />
従って、この時点で、早くも囚人被験者から離脱者が出て来たのも不可避だったであろう。<br />
<br />
↓ <br />
<br />
⑤【模擬刑務所の自壊】=「権力関係」の過剰な暴走による、模擬刑務所の秩序の完全なる崩壊。<br />
<br />
被験者としての模擬看守と、模擬囚人、実験者たちとの間に確立された「権力関係」の暴走によって、多くの犠牲者が出るに及び、完全に統制不能な無秩序性がピークアウトに達したことで、暴走を駆動させた熱量の自給が繋げない〈状況〉下に、第3者の介入によって模擬刑務所の自壊が極まった。<br />
<br />
この辺りは、脱獄劇のアクション映画と思しき、暴力的刺激満載の娯楽篇という印象を拭えないので、物語の詳細な言及は避けたい。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" height="393" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5683247768173753826" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-s-JqAVOnfxecsQUuQpcOwIZn-nTIE8AzIvqq7dMSPNs2WFFhZFcT4EdJ0aBMRvJM-Gg0cLipZD6WFOWNu_PywOcRtMmAlDeegucelonA3FTmgJ8Sq_issf6LK1JNYNlJPSPQsZijKXMj/s400/das_experiment_2.jpg" style="float: right; height: 304px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 309px;" width="400" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">精神的に追い込まれる77号</td></tr>
</tbody></table>
以上、私の個人的把握に引き寄せて書けば、ここで追求されている基幹テーマは、本作で描かれたような、危うさに満ちた特定的環境をも安易に作り出す人間が、その特定的環境の中で、様々な閉鎖系の条件に搦(から)め捕られるとき、如何にその状況からの脱出が困難であるかという、私たち人間の脆弱性それ自身である。<br />
<br />
この状況脱出の困難さを反転させて言えば、役割意識を持たされた者たちが、その役割性に過剰適応したことで作り出したネガティブな〈状況〉に、まさに、過剰適応することで自己防衛する行為を容易に身体化せざるを得ない、私たち人間の心理を本質的に言い当てているものであるだろう。<br />
<br />
ここで言う人間の脆弱さとは、人間の自我の脆弱さであると言っていい。<br />
<br />
以下、この問題意識に則って、本稿の稜線を伸ばしてみたい。<br />
<br />
<br />
<br />
3 システムが作った物語の内に従属し、融合する人間の自我の脆弱性<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
</div>
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhrj7YEBhupiHp8g0naEBBn2SYSsM6zKjcCD22TgXbM-GKALktuO5iRbqvON47c9TrEVecj27Dp2FV1CzNAJhjLCHNePMvz8LFJG2ciuwbhqu9b7OH68KSucFVJsKYmiVGuFijiNsbPpkVK/s1600/Stanley_Milgram.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhrj7YEBhupiHp8g0naEBBn2SYSsM6zKjcCD22TgXbM-GKALktuO5iRbqvON47c9TrEVecj27Dp2FV1CzNAJhjLCHNePMvz8LFJG2ciuwbhqu9b7OH68KSucFVJsKYmiVGuFijiNsbPpkVK/s320/Stanley_Milgram.jpg" width="254" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ミルグラム教授・「アイヒマン実験」の責任教授</td></tr>
</tbody></table>
「アイヒマン実験」(注)を含めて、「スタンフォード監獄実験」という、由々しき二つの実験から、私たちはどのような結論を手に入れるのだろうか。<br />
<br />
言うまでもない。<br />
<br />
私たちが「理性」とか、「良心」と呼んでいるものの、そのあまりの脆弱さである。<br />
<br />
「理性」と「良心」の正体は自我である。<br />
<br />
極論を言えば、人間とは自我である、と言い換えられるかも知れない。<br />
<br />
私見によれば、自我とは、人間の生命と安全を堅固に維持し、社会的適応を充全に果たしていくための羅針盤である。<br />
<br />
それは、社会的適応にとって極めて有害な攻撃的衝動を抑え、人間に固有なる様々な欲望を上手に管理し、しばしば、それをエネルギーに換えて自己実現を図っていくという、高度な適応戦略を展開する形成的な基幹能力であると言っていい。<br />
<br />
しばしば、ドーパミン等の神経伝達物質の過剰なシャワーを浴びてたじたじにな るが、人間は自我なしに生きられないし、それによってのみ、人間は人間らしい営為を継続することが可能なのである。(因みに、著名な心理学者である岸田秀によれ ば、本能を失った人間が、その「本能の代用品」として内側に作り出したものこそ自我である)<br />
<br />
人間がしばしば犯す大きな間違いは、「本能の代用品」である人間の自我が、それに身を委ねれば殆ど大枠を外すことのない展開を示し得る「本能」に対して、その進化の様態があまりに不十分であり、およそ万全な完成形になっていないという根源的な問題に起因する。<br />
<br />
欲望を加工したり、或いは、全く異質の欲望を動員したりすることで、私たちの自我は元の欲望を制御するのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiY5XdUkxEEJOjThb9LwS8zRJgm-biUh5_h25buEqhje7SzLqaK3nOaRJwhDDS6-qp_lMLSrShOXrkkEewev2CDPmtiANXS9fGdVlRR9UZmmgPg9T4gHPdloJe6vTIrxhXfbrW1CxtR9DI/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiY5XdUkxEEJOjThb9LwS8zRJgm-biUh5_h25buEqhje7SzLqaK3nOaRJwhDDS6-qp_lMLSrShOXrkkEewev2CDPmtiANXS9fGdVlRR9UZmmgPg9T4gHPdloJe6vTIrxhXfbrW1CxtR9DI/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">岸田秀</td></tr>
</tbody></table>
欲望の制御は、本質的には自我の仕事なのだ。<br />
<br />
然るに、私たちの自我は欲望から強烈な刺激を受けて、しばしばメロメロになることもあるが、欲望を制御するためにそれを加工したり、全く異質の欲望を作り出したりことすらあるだろう。<br />
<br />
「人間とは欲望である」という命題は、従って、「人間とは、欲望を加工的に制御する自我によってしか生きられない存在である」という命題とも、全く矛盾しないのである。<br />
<br />
人間の自我の最も弱いところは、欲望のコントロールが不全であることと、それが環境に適応するときに、しばしば過剰に反応してしまうということである。<br />
<br />
とりわけ、自我が閉鎖的な環境に置かれたとき、その中での序列的な関係に呪縛され、支配されやすいということ。<br />
<br />
私たちの歴史上の誤りは、殆ど、この冷厳なる現実に関係すると思われる。<br />
<br />
人間の自我の自律性は、どこまでも社会的な関係によって規定されてしまうということ、それが問題なのだ。<br />
<br />
従って、劣化したシステ ムの下では、自我もまた、そのシステムに合わせて劣化してしまうのである。<br />
<br />
だから、人間にとって最大の問題は、それぞれの自我の自律的展開に大きく関与する環境や、それを支えるシステムの出来不出来に依拠しているということなのだ。<br />
<br />
システムの中で、私たちは、自分たちが作り出した過剰なまでに便利で、しばしば厄介な道具を、いつも万全に使いこなすことができずに狼狽(うろた)えるのである。<br />
<br />
「権力関係」が自我を支配するとき、その自我の自律性はシステムが作った物語の内に従属し、融合する。<br />
<br />
その自我が拠って立つ正義は、システムの価値観に収斂されるのだ。<br />
<br />
そのとき人間の自我の脆弱さが、情けないまでに炙り出されてくるのである。<br />
<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="margin-left: auto; margin-right: auto; text-align: center;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgWUePdJYgG9TNok5jgZgscI6PvoR6tIEFY9yuDMuBhjheGESiz7R-PH8b1HlQLMdd1xJia-pgV6uqGgPn17rh-haXkNeR7DTZAvehjF-OqWLESoI_tp6JeafDygjcHQLgYNet6DD6mgrK3/s1600/472px-Milgram_Experiment_v2.png" imageanchor="1" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="640" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgWUePdJYgG9TNok5jgZgscI6PvoR6tIEFY9yuDMuBhjheGESiz7R-PH8b1HlQLMdd1xJia-pgV6uqGgPn17rh-haXkNeR7DTZAvehjF-OqWLESoI_tp6JeafDygjcHQLgYNet6DD6mgrK3/s640/472px-Milgram_Experiment_v2.png" width="504" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「アイヒマン実験」・<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">実験者Eの指示で、「教師」Tが「生徒」Lに電気ショック(<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
<br />
ミルグラム教授によって実施された、イェール大学での「アイヒマン実験」において、65%の者がそれを加えれば死ぬかも知れない電圧のスイッチを押したということは、やはり由々しき事態と言うより外はないのだ。<br />
<br />
人間はこれほどまで簡単に、「理性」とか「良心」を稀薄化させることができる存在なのである。<br />
<br />
それ以外の選択肢がないという、閉鎖的で、退路が剥奪された苛酷な状況に人間を置かないこと。<br />
<br />
少なくとも、それだけは、人間学についての学習的な真理の一つであることは間違いないであろう。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiDyFg4WLMNrgRymml9eznnunm05k9OE3xLUz5Sa8P9dX2ul9gg7C2VtsV-aZPVFTW3sboR88EggDAPC6ROn8zDtau4baJGQZjtuHuA4plSYOSDGzkqMB2T4X6uRsANBQ-c0l1rQ7rnCqca/s1600/Adolf_Eichman_at_Trial1961.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiDyFg4WLMNrgRymml9eznnunm05k9OE3xLUz5Sa8P9dX2ul9gg7C2VtsV-aZPVFTW3sboR88EggDAPC6ROn8zDtau4baJGQZjtuHuA4plSYOSDGzkqMB2T4X6uRsANBQ-c0l1rQ7rnCqca/s320/Adolf_Eichman_at_Trial1961.jpg" width="234" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">アドルフ・アイヒマン(<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
(注)ナチス・ドイツのホロコーストの現場責任者であったアドルフ・アイヒマンが南米で逮捕され、裁判の結果処刑された翌年、狂人とされていたアイヒマンの、そ の人並みの人間性が裁判で露呈化されたことを受けて、ホロコーストに関わった者たちの精神の非狂人性を検証するための実験だった。<br />
<br />
実験はまず、心理テストに参加するごく普通の市民たちを募集することから始めた。 応募した市民たちにボタンを持たせ、マジックミラーの向こう側に坐る実験対象の人たちのミスに電気ショックを与える仕事のアシストを求める。こうして実験 はスタートするが、事前に実験者たちから、あるレベル以上の電圧をかけたら被験者は死亡するかも知れないという注意があった。<br />
<br />
それにも 拘らず、60パーセントにも及ぶ実験参加者は、被験者の実験中断のアピールを知りながら、嬉々としてスイッチを押し続けたのである。<br />
<br />
これは、学生も民間人も変わりはなかった。勿論、実験はヤラセである。電気は最初から流れておらず、被験者の叫びも演技であった。しかしこれがヤラセであると知らず、実験参加者はボタンを押したのである。このヤラセ実験の目的は、実は、「人間がどこまで残酷になれるか」という点を調査することにあった。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「疑似権力関係」の明瞭な役割を演じ切ることによって露わにされる、私たち人間の圧倒的な脆弱性<br />
<br />
<br />
<br />
本作のように、看守被験者と囚人被験者に分れて、そこに疑似的だが、紛う方なき「権力関係」を付与してしまうばかりか、この疑似的「権力関係」が発動しやすい特定化された空間、即ち、クローズド・サークルの狭隘で、閉鎖系の空間が仮構する〈状況〉に捕捉されてしまうと、役割を与えられただけに過ぎないにも関わらず、役割を演じながら生きていく人間の社会的な性格が反転し、抑制系を無化する程の暴走を惹起するということである。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5683247950359269778" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgEXDEXfdtapFTJnjJsSZcFCeFS6XS0bsbtalGsJ19JTBRgvozHsnheM79DvflJfgz0Qnb3A_jpdFRI-yQf6cXATShCUJqZyLOZZdRZ8SxafrqkkfLlUVSGhWylnTZBNkuSkOnvZxnl_Dqx/s400/200505-das-experiment-01.jpg" style="float: right; height: 257px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 388px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">看守組に実験を指導する責任教授</td></tr>
</tbody></table>
まして、そこに「疑似権力関係」の仮構の産物として、「権力関係」を発動することで得られる加虐快感という、極めて厄介な情動系がリンクすれば、疑似的に仮構したに過ぎない「権力関係」の幻想が「蜜の味」と化していくであろう。<br />
<br />
この「蜜の味」という代物が厄介なのだ。<br />
<br />
本作の主人公である、タレクという名のタクシードライバー(囚人の認識番号77号)による挑発的態度を抑圧することで、その77号に、「はい、看守さん」と言わしめることで手に入れた権力の格別な快楽は、そのレベルで抑制的に立ち止まるという現象を身体化させることなど殆どなく、先の見えない伸び切った快楽の稜線はエスカレートしていくだろう。<br />
<br />
エスカレートしていった権力という名の蜜の味は、相手が敵対的人物であれば尚更、その人物の卑屈のさまを見て愉悦する加虐の暴走によって、大抵、極限まで突き進んでいく。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiArAACmSnIoMPhfaAVur6rDCijMzgFwvPyriIP89iKLwV-eUglq3emwfFb0ljwoh-0VV7EtJG0E4_iECxRBsW45TNxQdPk1xb9kq1L8Dsj3wMjnQCwS2gP3UZGqXRqWDXYhz_conhSSoib/s1600/tc1_search_naver_jp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="261" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiArAACmSnIoMPhfaAVur6rDCijMzgFwvPyriIP89iKLwV-eUglq3emwfFb0ljwoh-0VV7EtJG0E4_iECxRBsW45TNxQdPk1xb9kq1L8Dsj3wMjnQCwS2gP3UZGqXRqWDXYhz_conhSSoib/s400/tc1_search_naver_jp.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;">女性研究者まで看守に暴行されるに至る</span><span lang="EN-US" style="mso-font-kerning: 0pt;"></span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
要するに、そこで発動された疑似権力の暴走を抑えるに足る、第三者の強力な介入がなければ、既に理不尽なる「前線」と化した、袋小路の閉塞的な特定スポットの、オーバーフローした煮沸の液状のラインの内側で、人格性を剥奪された者たちの死体の山が累加されていくばかりであるに違いない。<br />
<br />
<br />
<br />
これは元々、組織内闘争それ自身による惨劇を、全く想像だにしないで開いた連合赤軍事件での、「総括」という名の同士殺しの例を持ち出すまでもなく、多くの場合、負の条件が加速的に集合することによって惹起され得る極めて危うい事態が、袋小路の閉塞的な特定スポットの中で、ダラダラと非生産的に延長されていけば、このような〈状況〉が分娩されるリスクが高まった挙句、その〈状況〉に関与してしまった者たちの自我の崩れは一気に進み、〈状況〉を悪化させるだけの爛れ切った事態の自壊的な展開を必至にするものである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjEOeG2PE4gSVKLkKBEsWKAvIf8HwCDBQ8pLeT4Cn5udC8u1nSS76WSAE2l9K8srdJYO5yeOuiqfGDHiSU3O6A73jwFbGpWxCU4PMwVOSclUmd-aTJcFkJFQ6f20By_KzizcgBtk7QhyphenhyphenjVw/s1600/tc2_search_naver_jp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="261" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjEOeG2PE4gSVKLkKBEsWKAvIf8HwCDBQ8pLeT4Cn5udC8u1nSS76WSAE2l9K8srdJYO5yeOuiqfGDHiSU3O6A73jwFbGpWxCU4PMwVOSclUmd-aTJcFkJFQ6f20By_KzizcgBtk7QhyphenhyphenjVw/s400/tc2_search_naver_jp.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;">裸にされた囚人役の被験者</span><span lang="EN-US" style="mso-font-kerning: 0pt;"></span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
それ故、本作から私たちが学習すべきものがあるとすれば、被験者たちの全てが、ごく普通の理性的人間であった事実の重さが暗に語っているように、誰しも、このような「疑似権力関係」の中に放り込まれ、そこで偶発的に要請された「疑似権力関係」の明瞭な役割を演じ切ることによって露わにされる、私たち人間の圧倒的な脆弱性への認知以外の何ものでもないだろう。<br />
<br />
<br />
人間は、ここまで愚かになれるのであり、ここまで本来的な脆弱性を晒すのである。<br />
<br />
それは、自我によってのみ生きる人間の脆弱性であり、その自我という、不全形の何とも頼りない有りようこそ、人間の脆弱性の根源に横臥(おうが)しているのである。<br />
<br />
(2011年12月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-74500069466396358202011-12-01T14:42:00.011+09:002014-07-18T21:07:48.230+09:00インド行きの船('47) イングマール・ベルイマン<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhsl1m8tHZAr9J4Op7tJwR7ndcALzgOpv6KeT5mhsOscToaR7UG-A540DzMk5z7nI56hkUQ5F71OnPIzxStekVRLcPBwp-6kdsHHNh085AMhSy4hyphenhyphenNzK_tK6TN1zhqBNvw2xx_29d6RekWB/s1600/img_1000783_4020726_0.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhsl1m8tHZAr9J4Op7tJwR7ndcALzgOpv6KeT5mhsOscToaR7UG-A540DzMk5z7nI56hkUQ5F71OnPIzxStekVRLcPBwp-6kdsHHNh085AMhSy4hyphenhyphenNzK_tK6TN1zhqBNvw2xx_29d6RekWB/s400/img_1000783_4020726_0.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5681033131651919666" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 259px; margin: 0 0 10px 10px; width: 338px;" /></a><br />
<span style="font-weight: bold;"><大いなる旅立ちに向かう身体疾駆の内的必然性></span><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
1 「顔を強張らせて、怖い目」を身体表現する、父と子の歪んだ関係<br />
<br />
<br />
<br />
ベルイマン映像の初期の到達点と言える「不良少女モニカ」(1953年製作)に比較すれば、映像の完成度は必ずしも高くない。<br />
<br />
だから、そこから受ける感動もフラットなものでしかなかった。<br />
<br />
それでも、ベルイマン映像で繰り返し描かれていく「人間の愛憎」というテーマを、いつものように、限定された登場人物の関係の縺れの中で露わになる、人間の孤独の裸形の様態を容赦なく抉り出していくような筆致は、長編3作目である本作において鮮明になっていた。<br />
<br />
物語は簡単である。<br />
<br />
身勝手で横暴なサルベージ船の船長である、父の愛人の踊り子と恋愛関係になった息子の激しい相克と、その板挟みとなって懊悩する母の4人の物語を、踊り子との7年後の再会を約束して、長い航海へ旅立った息子の帰還による回想を通して描かれるだけ。<br />
<br />
そんな本作で拾いあげられたテーマは、殆ど救いようがない父と子の葛藤であり、その葛藤の中で露わになる人間の「人間の愛憎」と孤独の裸形の様態という、いかにもベルイマン映像らしい人間の実存的根源性を有するものであった。<br />
<br />
背中に障害を持つ息子が生まれたことに悩み、充分に愛情を注げない父に対する反発から、既に思春期前期から反抗的な態度を繰り返していく息子。<br />
<br />
その息子の名はヨハンネス。<br />
<br />
父のアレクサンデル、母のアリスと同様に、沈没船の引き揚げ作業を仕事にする、サルベージ船の仕事で身過ぎ世過ぎを繋いでいた。<br />
<br />
その辺りの事情を、アリスはサリーに吐露している。<br />
<br />
因みに、サリーとは、夫の愛人であると同時に、息子の恋人になっていく件の踊り子の名である。<br />
<br />
「あの子、よく病気したわ。死ねば良いと思った。扱いにくい子で、怒りっぽくなったわ。だから放っておいたら、すぐ家を出て、どこかに隠れて、何日も帰って来なかったわ。帰って来ると、夫はベルトであの子を殴ったの。ひどく傷ついても、あの子は泣いたりしなかったわ。ただ顔を強張らせて、怖い目をしていたの」<br />
<br />
父に嫌われる原因になったヨハンネスの障害は、「僕の背中は曲がっている」とサリーに吐露することで、年来のコンプレックスを相対化しようと努めているようにも見えたが、母の言うように、「顔を強張らせて、怖い目」を身体表現する歪んだ関係を実父との間に形成してしまっていたのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgTrBEPDBCO3o1tvkFyH_Ye2dE3pOarjTBhGYR1ttKVJGtqNDTV5xb5KXH5F_Ag8IpjPEFM2kJJEMCTrALTP_T97CE1jmNuSa2EZR0PKWn-2TUcIgTUq6LcVy69pPTEkOsSZSSL2y7XalRL/s1600/3c8adf16023f2b716ddc5928492b25c7.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgTrBEPDBCO3o1tvkFyH_Ye2dE3pOarjTBhGYR1ttKVJGtqNDTV5xb5KXH5F_Ag8IpjPEFM2kJJEMCTrALTP_T97CE1jmNuSa2EZR0PKWn-2TUcIgTUq6LcVy69pPTEkOsSZSSL2y7XalRL/s400/3c8adf16023f2b716ddc5928492b25c7.jpg" height="300" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">現代の巨大サルベージ船(イメージ画像・</span><span style="color: black; font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: "Trebuchet MS"; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: "Trebuchet MS";">ブログより</span><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;">)</span></td></tr>
</tbody></table>
青年期に入ったヨハンネスは、父母と共にサルベージの仕事に従事するが、権力的で横暴な父親との関係が円滑に推移する訳がない。<br />
<br />
愛人を船に乗せ、息子自分の部屋を貸す父に反発する息子。<br />
<br />
「すぐ甲板に戻って、仕事を続けろ。何も言うな。黙れ!」<br />
「僕は、ここから出たいだ。チャンスを取り上げるな!何もかも取り上げてる!死にたいよ・・・」<br />
<br />
息子の反発を意に介せず、非難する一方の父親。<br />
<br />
「父さんは僕をいじめて楽しんでる」<br />
「アリス、ひどい息子を産んだな。ヤクザだよ」<br />
<br />
愛人との共存を強いられた妻に、アレクサンデルの悪意が止めを刺す。<br />
<br />
「やめて!」<br />
<br />
最も惨めな心境に捕捉されたアリスの叫びが、閉塞的で狭隘な空間を劈(つんざ)いた。<br />
<br />
「自分の父親を殴りたいと思ってる。でも結局、殴らんだろうな。なぜだと思う?こいつには度胸がないんだ。腰抜けさ。父親からの仕返しが怖いんだ」<br />
「この野郎、覚えてろ!女たらしのブタめ!」<br />
<br />
ここまで愚弄されたヨハンネスは、精一杯の反撃を加えていく。<br />
<br />
「自分の父親に向かって、何て口を聞きやがる!いい加減にしろ」<br />
「くたばっちまえ!」<br />
<br />
この一言に切れた父は、息子を殴りつけた。<br />
<br />
ナイフを握ったまま、部屋を出て行く父を睨むだけのヨハンネスが、そこに置き去りにされたのである。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「人生が絶望的でも、戦うことが人間の義務だ」<br />
<br />
<br />
<br />
父と子の歪んだ関係を延長させるだけの激しい相克が、遂に、決定的な対立を生むに至る。<br />
<br />
事の発端は、女との三角関係。<br />
<br />
港町の劇場の踊り子であるサリーとの関係を知られ、父から殴られたヨハンネスは、思わず、その父に殴り返したのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja0JHDn-joVbl7TJMqFodu8zRAN73OxQRDd1-I0B-bezOhgg8NUjjs-YwMnKcx4NS7gRJRDBttoC69sCarVee-OQ04Naq5ML733vYuYp9pubKp4mlAs82R5jKEyYbIN7WpeBA9Tt82a3Ex/s1600/20080911133744.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja0JHDn-joVbl7TJMqFodu8zRAN73OxQRDd1-I0B-bezOhgg8NUjjs-YwMnKcx4NS7gRJRDBttoC69sCarVee-OQ04Naq5ML733vYuYp9pubKp4mlAs82R5jKEyYbIN7WpeBA9Tt82a3Ex/s400/20080911133744.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5681037117361335410" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 155px; margin: 0 0 10px 10px; width: 199px;" /></a><br />
若者の恋は一気に駆け走り、一気に関数的な鋭角性を描いていく。<br />
<br />
サリーと睦み合う関係を露わにしたヨハンネスに、愛人を奪われた父の憤怒を惹起させ、あろうことか、息子の命を絶とうとさえしたのである。<br />
<br />
潜水夫に代わって海に潜ったヨハンネスに、あろうことか、命を繋ぐエアーポンプを駆動させていたアレクサンデルの手が止まったのだ。<br />
<br />
この一件の後、「父さんは病気だよ」と言われても、攪乱した情動が収まらない父は自殺未遂を起こすに至る。<br />
<br />
密かに用意された秘密の部屋に閉じ籠って、絶望を一身に体現したような初老の男は、その部屋の窓から飛び降りたのである。<br />
<br />
永久に変わり得ないと思わせるような、父子の相克が行きつくところまで行ったとき、この絶望的な閉塞性を克服するために、若者は旅に出るしかなかった。<br />
<br />
それも、若者の自我を深々と覆う、くすみ切った風景を浄化し得るような、未知なる世界への大いなる旅に出るしかなかったのだ。<br />
<br />
そして実際、若者は大きな旅に打って出たのである。<br />
<br />
思えば、その旅は、失明の危機にあったアレクサンデルが、愛人の踊り子のサリーと共に打って出る冒険行でもあった。<br />
<br />
当然の如く、この冒険行は、後遺症を残したアレクサンデルの自殺未遂によって自壊するに至る。<br />
<br />
そこもまた、存分に閉塞的な愛憎の世界を相対化するかのように、感傷的なBGMを挿入した暗鬱なる物語は、未知なる世界への息子の大いなる旅を具現させていく。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjClpt2jCNgJOx8r04Ecfgb9OwnhCqR2j2Cg8VjaHTS9QBDiTMhHEmaXUSv_FHzieADR2ymvxykIV4pwqVioUWy3m-ndvQue4zLU9laIg6blZIN2dnBKI99gwvQ6-7UFDaHLUoRsEyCF5cT/s1600/800px-Caribbean_sea_-_Morrocoy_National_Park_-_Playa_escondida.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjClpt2jCNgJOx8r04Ecfgb9OwnhCqR2j2Cg8VjaHTS9QBDiTMhHEmaXUSv_FHzieADR2ymvxykIV4pwqVioUWy3m-ndvQue4zLU9laIg6blZIN2dnBKI99gwvQ6-7UFDaHLUoRsEyCF5cT/s640/800px-Caribbean_sea_-_Morrocoy_National_Park_-_Playa_escondida.jpg" height="434" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span lang="EN-US">the World (global) Ocean</span><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">(イメージ画像・<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
モノクロで写し取った暗鬱な画面が、広大な大海の、ブルースカイの空を突き抜けるようなイメージのうちに変容していくのである。<br />
<br />
そして今や、いずれかの者が物理的に消えない限り、収斂し切れない爛れ切った父と子の歪んだ関係だけが生き残されたのである。<br />
<br />
置き去りにされたのが、孤独に悩む踊り子のサリー。<br />
<br />
ヨハンネスは、そのサリーを残して、船員としての大いなる旅に打って出たのである。<br />
<br />
サリーを捨てたのではない。<br />
<br />
自分の帰還を信じて待つことを、世間の印象とは切れた、決してすれっからしではない、純朴な心を持つサリーに求めたのである。<br />
<br />
思うに、青春の一人旅の本質は「定着からの一時的な戦略的離脱」であると私は考えるが、ヨハンネスの旅は、このような甘さとは切れて、それは未知なる世界に全てを賭けていくに足る人生の自己投入以外ではないだろう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiMGPzNQe3vcoIzLXcnB_kZZ4KRXGIHuXMiSd7qES3sdoekkkc7REUwrODOvlZUDSFVdrEoIROxFrNICrWRAiiTKyjtcZJkyXf_33mIgvbnJ1fTcPAKM-0n2tKWSm2FEoW5Y25nlfv8g3qg/s1600/%2525202010-10-03%25252020-13-05.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiMGPzNQe3vcoIzLXcnB_kZZ4KRXGIHuXMiSd7qES3sdoekkkc7REUwrODOvlZUDSFVdrEoIROxFrNICrWRAiiTKyjtcZJkyXf_33mIgvbnJ1fTcPAKM-0n2tKWSm2FEoW5Y25nlfv8g3qg/s400/%2525202010-10-03%25252020-13-05.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5681033210445283282" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 191px; margin: 0 0 10px 10px; width: 311px;" /></a><br />
そして、その旅から帰還して来たヨハンネスは、サリーとの愛を復元させようと努めるが、彼女の心は深く傷ついていて、殆ど孤独の極みにあった。<br />
<br />
心の中で蟠(わだかま)る辛い真情が誰にも理解されず、相変わらず風景の変わらない閉塞的な世界に閉じこもっているばかりだったのだ。<br />
<br />
そんな彼女を救わんとするために戻って来た遠い国からの旅人だが、閉塞的な世界に閉じこもる彼女に、その旅人は明言した。<br />
<br />
「人生が絶望的でも、戦うことが人間の義務だ。戦わなければ、障害はどんどん大きくなり、あとは窓から身投げだ」<br />
<br />
紛れもなく、若きベルイマンのメッセージである。<br />
<br />
ヨハンネス=ベルイマンのメッセージが刻まれた後、その力強いメッセージに誘(いざな)われるようにして、未知なる世界に旅立つ二人。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjZSNOisaFJ9eewhGrrN5vNXZ1mm6zu-iGlwzbcIEVQGhFL3sqdsUwoGFEqWT5uSOzEHbjImitPeRkPox_FojVjwE8mmZotQZ66K9xRAvGKFWnx_yRSlJw14j46tEAvNpG5-t4sG88P9Dho/s1600/Ingmar_Bergman_Smultronstallet.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjZSNOisaFJ9eewhGrrN5vNXZ1mm6zu-iGlwzbcIEVQGhFL3sqdsUwoGFEqWT5uSOzEHbjImitPeRkPox_FojVjwE8mmZotQZ66K9xRAvGKFWnx_yRSlJw14j46tEAvNpG5-t4sG88P9Dho/s400/Ingmar_Bergman_Smultronstallet.jpg" height="400" width="380" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">39歳のときのベルイマン(<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
未知なる世界に旅立つ二人をイメージさせるカットが、映像の括りとなったのは言うまでもない。<br />
<br />
<br />
<br />
3 大いなる旅立ちに向かう身体疾駆の内的必然性<br />
<br />
<br />
<br />
大いなる旅への希望のイメージで閉じた映像の余韻は、その後のベルイマン映像の、容赦ない愛憎の描写と切れものであったが、それでもベルイマンには、このような物語を映像化せねばならない内的必然性があったのだろう。<br />
<br />
それはまるで、ビレ・アウグスト監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/87.html">ペレ</a>」(1987年製作)や、ダニエル・ベルイマン監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/12/92.html">日曜日のピュ</a>」(1992年製作)で描かれたように、代々の牧師であったが故にか、厳格な父エーリックに育てられたベルイマンの、雄々しき自立への旅立ちを告げるマニフェストだったと言えるものであった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJ655ig0sNzo2xX-gZk1ztsmOKuC_C2hSj1YTY3RB5GHVp48KyX4awiDzghP_h3jRZq28JdKx5I2TUc9-SRixICpV5f47ROC2dZZm0SGYDTx_iktr64tQe41aHwmEQY2pQrdbI4HpQ0bIQ/s1600/faald03.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJ655ig0sNzo2xX-gZk1ztsmOKuC_C2hSj1YTY3RB5GHVp48KyX4awiDzghP_h3jRZq28JdKx5I2TUc9-SRixICpV5f47ROC2dZZm0SGYDTx_iktr64tQe41aHwmEQY2pQrdbI4HpQ0bIQ/s400/faald03.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5681037571863212626" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 155px; margin: 0 0 10px 10px; width: 378px;" /></a><br />
映像イメージとしては、「ファニーとアレクサンデル」(1982年製作/画像)を彷彿させるような、典型的ブルジョワ家庭で育った母と、自立心が強く、苦労して北欧最古の大学(ウプサラ大学)で、神学を学んで優秀なる牧師になった父との関係に亀裂が入り、その両親の不和を絶えずセンシティブに感受していた幼児期のベルイマンにとって、多くの男の子がそうであるように、母親に対する深い同情心が、悪さをしたら衣装部屋に閉じ込められるというような体罰を辞さない父への反発を必至にし、それが自我の確立運動の中で憎悪に転じていったと思われる。<br />
<br />
具体的には、ベルイマンのシュトルム・ウント・ドラングとも言うべき、果敢な青年期に踏み込んでも、演劇の世界に入ることを父に拒まれ、その父が最も嫌ったはずの女性関係の縺(もつ)れなどで、積年の反発感情が炸裂した挙句、直接対決の修羅場を作り出してしまうに至った。<br />
<br />
若きベルイマンは、梃子でも信念を変えない頑固一徹な父を殴り倒し、家出を敢行したのである。<br />
<br />
その後のベルイマンのシュトルム・ウント・ドラングについては、本来の才能を開花させていく精神疾駆によって語られる通りである。<br />
<br />
以上の経緯を見ていく限り、ベルイマンの精神疾駆には、狷介(けんかい)とも思えるような、梃子(てこ)でも信念を変えない厳格な父との、ダイレクトな葛藤と相克なしに生まれなかったとも言えるのである。<br />
<br />
ここで重要なのは、父エーリクは厳格であっただけで、ミヒャエル・ハネケ監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/08/09.html">白いリボン</a>」(2009年製作)の牧師のように、偽善・欺瞞的な人間ではなかったということだ。<br />
<br />
まさにその事実こそが、思春期のベルイマンの自我を、出口なしのダブルバインドで捕捉してしまうような、歪んだ自我を作らせなかった決定的な要因であるように思われるのである。<br />
<br />
それ故、ベルイマンもまた、本作の主人公のように、横暴な父の暴力に対して殴り返すことで社会的自立を意味するだろう、大いなる旅立ちを可能にしたのである。<br />
<br />
ベルイマンにとって、殴り返した後、大いなる旅立ちに向かうという身体疾駆を、「人生が絶望的でも、戦うことが人間の義務だ」という印象的なメッセージで、この映画を括り切る必要があったのだろう。<br />
<br />
その意味で本作は、自立に向かった若き映像作家が、通過儀礼の如く、越えなければならない障壁と対峙し、それを克服していく思いが深く滲み出ていた一篇だったと言える。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh4Tmc8soYjPZvVNTVRNZ3EpRc4N_-Gwzn3xt8uWZ1UKQUmfj-KOe-adoh9XNY1If_nMvczxLVgb_Q6023_CsXwNYhpIaBVtirMMplDRGmch_QRmRZfT3MHFju6EKVcA8JvLYu6Ay40EXcP/s1600/imga4e21bcdzik5zj.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh4Tmc8soYjPZvVNTVRNZ3EpRc4N_-Gwzn3xt8uWZ1UKQUmfj-KOe-adoh9XNY1If_nMvczxLVgb_Q6023_CsXwNYhpIaBVtirMMplDRGmch_QRmRZfT3MHFju6EKVcA8JvLYu6Ay40EXcP/s400/imga4e21bcdzik5zj.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5689253248021088850" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 225px; margin: 0 0 10px 10px; width: 351px;" /></a><br />
そんな本作は、台詞の応酬だけで物語をまとめていく、ベルイマン流の物語世界がフル稼働していたが、そこもまた、本来のベルイマン(画像)らしい内面的掘り下げが脆弱な瑕疵が目立ってしまっていた印象を拭えないのである。<br />
<br />
しかし、父親との直接対決の修羅場で、殴り返して旅立っていくという映画を作らなければならない内的必然性があるという思いは、ひしと伝わってきた作品だった。<br />
<br />
「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2010/07/78.html">秋のソナタ</a>」(1978年製作)と同様の文脈において、若きベルイマンの内的必然性が、このようなドロドロの相克を描き切る表現に結ばれた映画だったと私は見ている。<br />
<br />
(2011年12月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-67970340693578241712011-11-26T13:38:00.011+09:002013-05-03T20:45:52.105+09:00恋する惑星('94) ウォン・カーウァイ<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhIuY5jttWuyn1TkYafT3MfxEXi4aOnWteRLO9dPzPheAK2XC_pvW1SDTfOfsNE5-9s4zKLFMZxBINi25uX0QFB84EYEe3GP96pIBQKk2dPdGOhnpLE5FbzJLSGq4b-zpvo-uRHbmqjbn6E/s1600/20100623121322a19.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhIuY5jttWuyn1TkYafT3MfxEXi4aOnWteRLO9dPzPheAK2XC_pvW1SDTfOfsNE5-9s4zKLFMZxBINi25uX0QFB84EYEe3GP96pIBQKk2dPdGOhnpLE5FbzJLSGq4b-zpvo-uRHbmqjbn6E/s640/20100623121322a19.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
<span style="font-weight: bold;"><女性によって支配された「恋の風景」の、お伽話として括り切った映像の訴求力></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 ギリギリのところで掬い取られた、「失恋の王道」を行く者が占有し切れない物語の哀感<br />
<br />
<br />
<br />
大人の恋を精緻な内面描写によって描いた「花様年華」(2000年製作)と異なって、「恋の風景」を描いた映画の中で、これほど面白い映画と出会う機会もあまりないと思わせる本作を、一貫して支配しているのは女性である。<br />
<br />
本作の風景を、より正確に言えば、失恋に懊悩する男か、それに近い心理の渦中にある男に対して、雑踏の街の只中で自由に呼吸を繋ぐ女たちが物理的、或いは、心理的に最近接したことで仮構された「恋の風景」の物語である。<br />
<br />
物語の風景の根柢を作る女たちが、男の心理的風景を翻弄し、突き動かしていくという「恋の風景」の変容の微妙な様態が、件の男たちの心理的風景を支配し切っているのである。<br />
<br />
「雑踏ですれ違う見知らぬ人々の中に、将来の恋人がいるかも知れない」<br />
<br />
これは、物語の前半の主人公であった、若い刑事モウの冒頭のモノローグ。<br />
<br />
25歳の若い刑事モウは、彼が切望する「恋の風景」の幻想を置き去りにした女に支配され、「恋の風景」に関わる中枢の物語を最後まで占有し切れないのだ。<br />
<br />
<br />
若い刑事モウが負った、殆ど絶望的な失恋の痛手が辿り着いた先に待機していたのは、自分の誕生日が賞味期限となる1か月間にわたって、パイ缶を買い続けるというチャイルディッシュだが、このような精神状態に搦(から)め捕られたら相応の説得力を持つと思わせる、験担(げんかつ)ぎを止められない行為に象徴される、「恋の賞味期限」という切実な心理的風景だった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfQBVSyzEkpLNWnCTZQztMtj_uA-ELftSlb9NcssxGWRUNEc2EmNoBnz7uJuiNeOLxFPhbeGusvhxw_f0hpZy75iyt1dygrK5UHazPZGvbeqD9q8OjTf1o7ozlF2rRt5VvOgwhm1lflXJk/s1600/125137384891416230170.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5679181225458725170" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfQBVSyzEkpLNWnCTZQztMtj_uA-ELftSlb9NcssxGWRUNEc2EmNoBnz7uJuiNeOLxFPhbeGusvhxw_f0hpZy75iyt1dygrK5UHazPZGvbeqD9q8OjTf1o7ozlF2rRt5VvOgwhm1lflXJk/s400/125137384891416230170.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 332px; margin: 0 0 10px 10px; width: 309px;" /></a><br />
そんな自棄的な男の行動を惹き寄せるように最近接したのは、金髪にサングラスという出で立ちを有するドラッグ・ディーラーの女。<br />
<br />
ところが彼女は、男の切望する「恋の風景」と全く重なり合うことのない、「生きるか死ぬか」といった、ダークサイドな物理的風景の渦中を遊泳しているから、蠱惑(こわく)的な「恋の風景」の芳香を自給することはない。<br />
<br />
そんな女に翻弄された挙句、一人寂しくホテルを退散する若い刑事の「恋の風景」には、その心の空洞を埋めるに足る何ものもないペシミズムが漂っていた。<br />
<br />
当然ながらと言うべきか、「恋の風景」の幻想から置き去りにされたバックラッシュで、「将来の恋人」との出会いをギャンブルにしてしまった男と物理的に最近接しながらも、相互の心理的風景は全く折り合うことのない陰惨さを晒して見せたのである。<br />
<br />
それでも、見事な袈裟切りに遭って、「失恋の王道」を行く若者には、麻薬密売で裏切られ、殺人事件を犯して逃走中の、件の「悪女の深情け」のサービス精神に縋るしかなかったというオチが、最後に待っていたのが、前半部の物語を貫流する「恋の風景」の陰翳感を相対化するシーン。<br />
<br />
若い刑事モウが、今や使用価値なきポケベルを捨てたとき、格好のタイミングで飛び込んできた、「誕生日おめでとう」という金髪女からのメッセージ。<br />
<br />
それは、「失恋の王道」を行く若者にとって、「恋の賞味期限」という切実な心理的風景に、一陣の涼風を呼び込む心地良きメッセージだった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjWJPOdyIxdrTcBMTc9xxh5djy0otUeoN7bhIEu_Bg_peS2gTkH-uizztP9fasCcbe70cDGyrq9ApkaPfPUEormY60GruMH-WoIr2OASrwu_KG0w3bFUzGHqYAlrOrse77ahZu7olKnJTp_/s1600/b34e97710d141200a1c74a6b5dfdd2a3.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5679181132178408162" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjWJPOdyIxdrTcBMTc9xxh5djy0otUeoN7bhIEu_Bg_peS2gTkH-uizztP9fasCcbe70cDGyrq9ApkaPfPUEormY60GruMH-WoIr2OASrwu_KG0w3bFUzGHqYAlrOrse77ahZu7olKnJTp_/s400/b34e97710d141200a1c74a6b5dfdd2a3.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 216px; margin: 0 0 10px 10px; width: 239px;" /></a><br />
思うに、前半部の「恋の風景」を支配したのは、不在なる失恋相手であったが、その若者の心の空洞を埋めたのが、ダークサイドな物理的風景の渦中を遊泳している金髪女であったというオチこそ、「失恋の王道」を行く者が占有し切れない物語を、ギリギリのところで掬い取るものだったのだ。<br />
<br />
この一陣の涼風の漂流感が、本作で描かれた「恋の風景」が、より鮮明な意志を持って、後半部の物語の中に引き継がれていく。<br />
<br />
従って、映像構成の変容は、「恋の風景」を明るく彩ることで、男と女の恋に纏(まつ)わる微妙な心理の機微がユーモア含みに拾われていくのである。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「恋の風景」の物語の漂流感が脱色されていない男の鈍感さ<br />
<br />
<br />
<br />
物語は、若い刑事モウが立ち寄る小食店を拠点に、マイナースケール(短音階)基調の前半部の物語と切れて、全く衣裳を代えたメジャースケール(長音階)の「恋の風景」に繋がっていく。<br />
<br />
後半部の物語では、同様に、そこに投入した感情のスケールダウンを露わにする、「予約確定の恋」の病に悩みながらも、見事な袈裟切りに遭う「失恋の王道」という、絶望的な無残さを晒すにまで至らない若い警官が主人公であるが故に、後半部の「恋の風景」は、明らかに、陰翳感漂う前半のヘビーなリアリティと切れて、ユーモア含みの風景を開いていくのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhQzXJs-CdMa4zlAXJo0ziRPHMzVbVCAvJWQiEoEZ3DoVMB7JP2NW3wP1jOP8vJ0kcTq8DvvObWr4MQVfR3KS9fXWbcVq8eOTLMu_g4oV7lOP7hpVu_JGollDNRiA2vZd7QaK62iXrDhKAf/s1600/20081006151146.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5679181020479309026" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhQzXJs-CdMa4zlAXJo0ziRPHMzVbVCAvJWQiEoEZ3DoVMB7JP2NW3wP1jOP8vJ0kcTq8DvvObWr4MQVfR3KS9fXWbcVq8eOTLMu_g4oV7lOP7hpVu_JGollDNRiA2vZd7QaK62iXrDhKAf/s400/20081006151146.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 211px; margin: 0 0 10px 10px; width: 375px;" /></a><br />
<br />
<br />
ここでは、若い警官に好意を寄せる、ショートカットの女の子が物語を支配していく。<br />
<br />
<br />
女の子の名はフェイ。<br />
<br />
<br />
小食店の新入りの店員である。<br />
<br />
<br />
<br />
彼女は若い警官の留守宅に忍び込んでは、部屋の風景を変えていくのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj-CWDaknBKgmn_PwZ8-SrxvaKQ2jINXIaTs1zJvxBJM-SOJLD21aw59c6GFG7DyOjULSTfQL-vRR4jiZf7bQccegLRcMpJSAIxVOp-JgNxoc4MMqaAhWnrDT9q35HG6BmdKWS3QMbv7WY2/s1600/1107034195.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5679180891717606562" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj-CWDaknBKgmn_PwZ8-SrxvaKQ2jINXIaTs1zJvxBJM-SOJLD21aw59c6GFG7DyOjULSTfQL-vRR4jiZf7bQccegLRcMpJSAIxVOp-JgNxoc4MMqaAhWnrDT9q35HG6BmdKWS3QMbv7WY2/s400/1107034195.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 361px; margin: 0 0 10px 10px; width: 272px;" /></a><br />
フェイによって警官の部屋の物理的風景が少しずつ、しかし確実に、明るく健康的なタッチで変容していくが、鈍感な男は気がつかない。<br />
<br />
物理的風景の変容が心理的風景の変容を予約し、そこに、「恋の風景」の鮮度の高い関係が作り出した物語が提示されていく。<br />
<br />
以下、この鮮度の高い「恋の風景」の変容の様態を、物語の中から拾っていく。<br />
<br />
「彼女が戻ったような予感がした」<br />
<br />
件の警官のモノローグである。<br />
<br />
彼には、スチュワーデスの恋人が忘れられずに、未練を引き摺っているのだ。<br />
<br />
あろうことか、走って帰宅してみると、部屋は水浸し。<br />
<br />
慌てて、雑巾で拭きとって、バケツに処理していく。<br />
<br />
「部屋も感情を表し始めた。部屋は相当な泣き虫だった。部屋が泣き出すと、始末に負えない」<br />
<br />
少しずつだが、確実に変容していく自分の部屋にあって、未だ認知し得ない〈状況〉の様態を、若い警官は、このように表現した。<br />
<br />
偶然手に入れた警官の部屋の鍵を持って、不法侵入するフェイには、このような距離感覚の中でこそ、惚れた男の部屋の模様替えを愉悦する気分が弾けていくのだろう。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEisGfaFLhgrQ8lvBV1Z7mWfBKnVjStwbixc6FdiMQkEBFo90JFmfmUHiyXmaTMxeWMfEhUBv_sVb2ynKrtGS_aXVa8YtO2OJvKIC-FSe7Kgr7DGpzmxznWq09Sz8q1XSRLU5iroRxBNfo8/s1600/c4e3460c.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="262" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEisGfaFLhgrQ8lvBV1Z7mWfBKnVjStwbixc6FdiMQkEBFo90JFmfmUHiyXmaTMxeWMfEhUBv_sVb2ynKrtGS_aXVa8YtO2OJvKIC-FSe7Kgr7DGpzmxznWq09Sz8q1XSRLU5iroRxBNfo8/s400/c4e3460c.jpg" width="400" /></a></div>
しかし、このような事態が継続力を持ち得る訳がない。<br />
<br />
若い警官は、金魚を買って、いつものポップな気分で戻って来たフェイと鉢合わせしてしまうのである。<br />
<br />
「何でここに?」とフェイ。<br />
<br />
慌てふためくフェイの狼狽ぶりが可笑しい一言だ。<br />
<br />
「俺の家だ」と警官。<br />
<br />
フェイの狼狽ぶりを目視した警官は、まるでサポートするように会話を繋ぐ。<br />
<br />
「何が怖い?」<br />
「あなたに会ったのが怖いの・・・帰るわ」<br />
「帰るなら、帰れよ」<br />
「脚が動けば帰ってるわ」<br />
「攣(つ)ったのか?」<br />
「こんなの初めて」<br />
<br />
冗談とも思えないフェイの反応に拍子抜けしたように、警官は、ここで明瞭なサポートをするのだ。<br />
<br />
「休んでいけよ」<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXWbZ9B5JuQVzTfhtHvG8BQSDsyQcPvpLhiFwPtf0SzX-wB_ck6nw8Koaul-7Sua7SRKjScAGo8A_jFINJpJP255O4ATex7E_w9zI7TcWonxSO5fkfmkI5-ARR_5Sovvoxzs5ih-wmVJo/s1600/20120327160346.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="243" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXWbZ9B5JuQVzTfhtHvG8BQSDsyQcPvpLhiFwPtf0SzX-wB_ck6nw8Koaul-7Sua7SRKjScAGo8A_jFINJpJP255O4ATex7E_w9zI7TcWonxSO5fkfmkI5-ARR_5Sovvoxzs5ih-wmVJo/s400/20120327160346.jpg" width="400" /></a></div>
フェイが小食店の店員であることを知悉(ちしつ)している警官には、馴染みやすさも手伝って、こんな反応が言語化されるのだろう。<br />
<br />
「スチュワーデスの彼女の脚もマッサージした。女の脚は柔らかい。触れるのは久し振りだ」<br />
<br />
これは、フェイの脚をマッサージしながらの、警官のモノローグ。<br />
<br />
相変わらず、彼にはスチュワーデスの恋人が忘れられないのだ。<br />
<br />
男の感触が記憶した女の肌の温もりは、袈裟切りに遭う程の「失恋の王道」を経験するまでには至っていないが故に、いつもどこかで中途半端な感情を随伴させてしまうのであろう。<br />
<br />
なぜなら、この時点でも、男は、スチュワーデスから返還された鍵の事実を知らないのである。<br />
<br />
「帰るわ」<br />
<br />
恐々と洩らしたフェイの言葉である。<br />
<br />
「もう少し休んでいけよ。音楽でも」<br />
<br />
ここでも、優しい警官の言葉が添えられた。<br />
<br />
彼は、フェイの好きなママス&パパスの「カリフォルニア・ドリーム」を選択して、それを、一人暮らしの男の部屋には充分な広さを持つ空間に響き渡るように流していく。<br />
<br />
「好きな曲?」とフェイ。<br />
「彼女が好きだった曲だ」と警官。<br />
<br />
すっかり、元恋人が好きだった曲であると信じ込んでいるのか、それとも、フェイの家宅侵入の事実に気がつかない鈍感さが言わせた言葉なのか、一切不分明だが、少なくともフェイだけは知っている。<br />
<br />
「私が置いていったCDよ。思いは伝わらないのね」<br />
<br />
そんな彼女のモノローグである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjxFF0-YaK9nAA5btBMlN2EJe4_-a2KzSBiJA1C9PZcPWlTte4PRIpqhW4sXT_4W6LY_Xba_14rzkRkiVkcEeZ60U41IZ0rxQPZyZm4kp-RNLnm3Csi8IVhgd1mx1eY5x5EmjcOTDNWb0Q/s1600/32225bb44ce8bd522a052c43d25912fa.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjxFF0-YaK9nAA5btBMlN2EJe4_-a2KzSBiJA1C9PZcPWlTte4PRIpqhW4sXT_4W6LY_Xba_14rzkRkiVkcEeZ60U41IZ0rxQPZyZm4kp-RNLnm3Csi8IVhgd1mx1eY5x5EmjcOTDNWb0Q/s400/32225bb44ce8bd522a052c43d25912fa.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
ところがフェイは、その直後、不覚にも居眠りし、いつしか、ソファベッドで二人で添い寝する風景が映し出されるのだ。<br />
<br />
惚れた男と物理的に最近接したことで仮構された、「恋の風景」の物語の漂流感に自己投入しつつも、なお思いが伝わらない苛立ちよりも、今や、物理的な近接に馴染んだ彼女の心の緊張感が解き放たれたのだろう。<br />
<br />
「俺も随分、変わったようだ。日頃、気にしていなかったことが気になり出した」<br />
<br />
これは、日付を変えても、未だ事態の劇的変容を認知し得ない男の滑稽過ぎるモノローグ。<br />
<br />
「最近、色んなものが奇麗に見える」<br />
<br />
そんな独言を洩らす男にとって、物理的風景の変容が心理的風景の変容を顕在化させつつある現実に鈍感であるのは、元の恋人によって支配されている、「恋の風景」の物語の漂流感が脱色されていないからである。<br />
<br />
<br />
<br />
3 女性によって支配された「恋の風景」の、お伽話として括り切った映像の訴求力<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEisoXkoATaVHs5zG5NiM_gc5ih4bITaoOZ8YlCivrRYVuWHkdVP2VXNbB5o2Bf98JxOC2ZNVo52Nuh-v_XExcChYveTt7_EsPW8qir5qVX6RguQuZr6JbtgupuCnL1_crQ1Wq2yVZ5hpVw/s1600/982_5.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="358" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEisoXkoATaVHs5zG5NiM_gc5ih4bITaoOZ8YlCivrRYVuWHkdVP2VXNbB5o2Bf98JxOC2ZNVo52Nuh-v_XExcChYveTt7_EsPW8qir5qVX6RguQuZr6JbtgupuCnL1_crQ1Wq2yVZ5hpVw/s640/982_5.jpg" width="640" /></a></div>
事態の劇的変容は、殆ど予約されたかのようにやってきた。<br />
<br />
一切が判然とするに至ったからである。<br />
<br />
昨日もそうであったように、警官の部屋に忍び込んだフェイが、またしても警官と鉢合わせしてしまうのである。<br />
<br />
このような突然のインパクトに脆弱なフェイは、警官の追走を振り払って、一目散に逃げ出してしまうのだ。<br />
<br />
それは、全ての事情を察知した警官が心理的風景を変容させていく瞬間だった。<br />
<br />
明瞭な想いを秘めて、フェイの店を訪ね、デートに誘う男。<br />
<br />
有頂天な気分の中、密かに内側の世界で舞い上がる女。<br />
<br />
デートの日は大雨の夜。<br />
<br />
しかし、待ち合わせの店に彼女は現れなかった。<br />
<br />
「彼女は来ない。諦めな。別の相手を探せ。カリフォルニアに行くそうだ」<br />
<br />
フェイが働く店のオーナーの言葉である。<br />
<br />
「お店に行ったわ。あの晩は大雨。窓の外に雨のカリフォルニアが。本当のカリフォルニアに行きたくなって。そして1年が経った。今夜も同じ大雨。でも、心には彼のことだけが」<br />
<br />
これは、1年後、「本当のカリフォルニア」から戻って来たフェイのモノローグ。<br />
<br />
この日、スチュワーデス姿のフェイが現れたのは、元の店だったが、そのシャッターを開けて出て来たのは、店を買い取った警官だったというオチがついてくる。<br />
<br />
「こんな“搭乗券”で乗れるか?日付は今日。行き先が読めない」<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjjh5QPO6-gg5_VHqHW7F_mTNq29U5vUq7r-owZzrB5v3rd5-DoCGoiGGGtBtIcSDdsSlQmi4ocQFkz6gkd8E7bxgNXWl44m3vZcGhQoCxYqKxuEmqEsYUI4ay2RBrpIDgP43pVyKnHOFM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="235" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjjh5QPO6-gg5_VHqHW7F_mTNq29U5vUq7r-owZzrB5v3rd5-DoCGoiGGGtBtIcSDdsSlQmi4ocQFkz6gkd8E7bxgNXWl44m3vZcGhQoCxYqKxuEmqEsYUI4ay2RBrpIDgP43pVyKnHOFM/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="320" /></a></div>
男は、フェイが残していった手紙に添えられた、雨に滲んで特定できない塔乗券を彼女に見せて、行き先を教えてくれと求めた。<br />
<br />
フェイは、紙ナプキンを持って来て、男に尋ねた。<br />
<br />
「どこ、行きたい?」<br />
「君の好きな所へ」<br />
<br />
それが男の答えだった。<br />
<br />
それは同時に、予定調和のラストショットでもあった。<br />
<br />
印象深い映像の括りは、何より洗練された映画空間を、自在に跳躍するショットのうちに閉じていったのである。<br />
<br />
それにしても、訴求力の高いフェイの表現の躍動感の溌剌さ。<br />
<br />
自分の思いが、惚れた男の思いの中枢に届いたことを確信したとき、彼女の中の「恋の風景」の漂流感というゲームの愉悦は、恐らく、そこでピークアウトに達したのだろう。<br />
<br />
それが、彼女の距離感覚なのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhwOzbO7mnrnqzsqXuEv6kXTGBZuLI2OZdKicn-eBNRKm8FAQJQD_6QXw1JnmOOMVtjfcC7U3oLkgAeHTPdIH7AnkXelJHdZyD02TYmqwU7JdC6zWWaRA7s-UCHfGoSxNs7EAd-ksRi5X-P/s1600/Cannes+2008+Ashes+Time+Redux+Photocall+6cCV5yg25PJl.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhwOzbO7mnrnqzsqXuEv6kXTGBZuLI2OZdKicn-eBNRKm8FAQJQD_6QXw1JnmOOMVtjfcC7U3oLkgAeHTPdIH7AnkXelJHdZyD02TYmqwU7JdC6zWWaRA7s-UCHfGoSxNs7EAd-ksRi5X-P/s400/Cannes+2008+Ashes+Time+Redux+Photocall+6cCV5yg25PJl.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"> ウォン・カーウァイ監督</td></tr>
</tbody></table>
どこまでも自由人であり続けるキュートな女の子は、「夢のカリフォルニア」に旅立つことで、それまでのゲームを相対化して見せたのである。<br />
<br />
そして、キュートな女の子が支配する「恋の風景」の自在な世界では、男と女の微妙な交叉がドロドロの肉感的風景に浸かっていくことがなく、「恋の風景」の物語を漂流する多くの者たちの狭隘な展開に収斂されず、どこまでも、ライトサイジングの相応感の中で軽快に絡み合った後、惚れた男との再会を果たすのだ。<br />
<br />
当然ながらと言うべきか、極めてスタイリッシュな映像は、ハッピーエンドの小さな自己完結を予約するイメージの中で閉じていく。<br />
<br />
結局、最後まで女性によって支配された、「恋の風景」の物語の中で語られた心理的文脈には、見知らぬ男女が最近接し、そこで開かれる微妙な感情の機微をリアルに拾い上げつつも、それを一篇のお伽話として括り切った映像の訴求力は、出色のパワーを検証して見せたのである。<br />
<br />
(2011年12月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-47717419804360002292011-11-19T15:38:00.015+09:002013-10-24T10:26:57.803+09:00ロード・トゥ・パーディション('02) サム・メンデス<img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676598979743569426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjjuJZ6OiQxPtqZTjp38DHMrNw-3LYSEJ8rLoylRTz48vG7Ue5yfgLxDrQd5m6hyphenhyphenwvib1gcNGJvbYP1DIU11unjePGiSGeGvaxD9dNp7v3oRWCF36kEFLMWK8TLlPmiHreycNT2ZJQUB_G6/s400/61JE58XDN9L.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 290px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /><br />
<span style="font-weight: bold;"><「復讐」と「救済」という、困難な二重課題を負った男の宿命の軌跡></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 絵画的空間とも思しき映像が構築した完璧な様式美<br />
<br />
<br />
<br />
闇の世界の内側で生きる者たちの、その内側のドロドロとした情感系の奥深くまで描き切った、フランシス・フォード・コッポラ監督による「ゴッド・ファーザー」(1972年製作)と比べて、本作が映画的インパクトが相対的に不足しているように見えるのは、派手なアクションを惜しげもなく供給するハリウッドの「殆ど全身エンタメ系」の、賞味期限限定の映画に馴れ過ぎてしまっているという理由もあるが、それ以上に、この映画が「<a href="http://zilgz.blogspot.jp/2012/02/72.html">ゴッド・ファーザー</a>」という極北的映像が内包した、「普遍的な家族の有りよう」というテーマ性と重なる部分がありながらも、そのテーマ性の掘り下げが、ヒューマンドラマのそれに近い映像構成をとっているからである。<br />
<br />
感傷的なBGMの連射や、準ヒーローとなっている子供の命だけは必ず救済するなど、ストーリーの先読み可能なハンデを、構図の全てが絵になる程の、美し過ぎる映像が構築した様式美によって強力に補完しつつも、毒気含みの前作(「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/01/99_09.html">アメリカン・ビューティー</a>」)の表現世界を、更に突き抜けていくという冒険を回避したかの如く、なおハリウッド的な甘さから解き放たれない印象を残した本作の基幹メッセージを読み取るとすれば、ラストシークエンスに集約される、父と子のロードムービー的な物語の、ほぼ予約された「半身軟着点」が包含する描写のうちに収斂されるだろう。<br />
<br />
決して粗悪な作品ではなかったが、絵画的空間とも思しき映像が構築した完璧な様式美の、相当に強力な補完に救われたという印象が拭えなかったのも事実だった(注)。<br />
<br />
以下、この把握をベースにした批評を繋いでいきたい。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEggv7nZOxnV4BvXQC4BWvoJw5WuvYNBNR9rwiwwXAp31O4aDwzqGMaVsqPj0Kdcf2CbwriUsVq8PpCwU5R7xuok8aMYE9JMMnDl4wiNsrjvOAtPvYeqJf5Iomo3vvJhhcZN31xJ9K52o1V4/s1600/N0018639_l.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="318" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEggv7nZOxnV4BvXQC4BWvoJw5WuvYNBNR9rwiwwXAp31O4aDwzqGMaVsqPj0Kdcf2CbwriUsVq8PpCwU5R7xuok8aMYE9JMMnDl4wiNsrjvOAtPvYeqJf5Iomo3vvJhhcZN31xJ9K52o1V4/s400/N0018639_l.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">サム・メンデス監督①</td></tr>
</tbody></table>
(注)以下、サム・メンデス監督と見事なタッグを見せ、前作と共にアカデミー撮影賞を受賞した、本作の撮影監督(コンラッド・ホール)との仕事が成し得た絵画的空間の成就を証明するトム・ハンクスの言葉。<br />
<br />
「これほど美しいギャング映画は、初めて観ました」というインタビューアーに対して、「それは同感だね。サム・メンデス監督と撮影監督のコンラッド・ホールは絶対的な信頼関係にあって、ほとんど夫婦のようで(笑)」とトム・ハンクスはジョーク含みで答えていた。(映画.com トム・ハンクス インタビュー2002年10月2日)<br />
<br />
<br />
<br />
2 秘密性を帯びた立ち居振る舞いを必然化した男と、「枷」という意識を延長させていた男<br />
<br />
<br />
<br />
早くして父を喪ったために、闇の世界でしか〈生〉を繋げなかった一人の男が、その世界で得た収入によって、一見、普通の家庭と思しき日常生活を送ってきた。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" height="388" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676599477460861314" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg0BPWvFXIj7Gya4ndrC6l5DKkbbiONMdJ57GQe8sjlfphsELcm53hnYO4vFEvkRz0h0joCVIUdGhPn49qWDcGKloiqh-h1ZXvh0TjiBUyH_WLmLuLxT2hnQmqWHYoq5edL0lPW6CbfG0YF/s400/20080929144002.jpg" style="float: right; height: 293px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 302px;" width="400" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">マイケル・サリヴァン</td></tr>
</tbody></table>
その男の名は、マイケル・サリヴァン。<br />
<br />
サリヴァンには二人の息子がいたが、未だ幼い次男の心優しき幼児的な性格と切れて、既に、思春期前期に踏み込みつつあった12歳のマイケルの性格は、父親の中で内包された防衛的自己像(=暗黒街で生きる者の虚しさ故に、それを相対化し得る「幸福家族」を繋いでいくというイメージ)に最近接する不安を長男に感じ取ったとき、父親は難しい年頃にあるマイケルとの関係構築を閉ざすしかなかった。<br />
<br />
それは、決して自分と同じ道を歩ませてはならないという、父親としてのサリヴァンの決意でもあった。<br />
<br />
この決意が、家庭での閉鎖系を特徴づけたサリヴァンの立ち居振る舞いを必然化していくが、いつしか、父から疎外されたという意識を有するマイケルの疑心暗鬼が沸点に達する時期と相俟(あいま)って、殆ど約束された物語の展開をなぞるように、父子の関係は決定的な破綻を露呈するに至る。<br />
<br />
殺し屋である父の裸形の人格像を、息子であるマイケルが目撃してしまったからである。<br />
<br />
あってはならない顛末の心理的推進力が、父親の秘密性を帯びた立ち居振る舞いへの、年来からの疑心暗鬼の感情に伏在していた必然性を身体化させたのだ。<br />
<br />
具体的に言えば、父親の「仕事」の内実を知りたいという好奇心が、「仕事」の現場に行く父親の車内の後部シートの下に潜み、その結果、あってはならない凄惨な現場を目視してしまったのである。<br />
<br />
その直後の、アイランド系マフィアのボスであるルーニーと、件のサリヴァンとの短い会話が、既にこの映画の核心とも言えるテーマを顕在化させていた。<br />
<br />
以下、そのときの会話。<br />
<br />
「マイケルの様子は?」とルーニー。<br />
「話をしました。分ったようです」とサリヴァン。<br />
<br />
この事件の経緯は、実父であるルーニーとの父子関係との形成過程において、屈折した自我を晒すことで、脆弱で情緒不安定な性格を露呈させていたコナーが、ルーニーに不満を抱く組織の幹部を殺したことで、サリヴァンが敵側の連中にマシンガンを乱射するに至り、この凄惨な現場をマイケルが目撃したという由々しきもの。<br />
<br />
「初めて見たのだからショックだったろう。お前は乗り越えた・・・子供を守りたくとも、いつかは知られてしまうのだ。自然の掟だ。息子は父親の枷となるために生まれてくるのだ」<br />
<br />
これが、ルーニーの実感的な反応だった。<br />
<br />
その直後のシーンが映し出したのは、教室で喧嘩し、相手を力いっぱい殴っているマイケルの自暴自棄の行為。<br />
<br />
それは、明らかに自己の情動系を抑制し切れない、思春期前期に踏み込みつつある12歳の少年の、通過儀礼と呼ぶには、あまりにその許容域を逸脱している迷路に搦(から)め捕られたかの如く、行方の見えない内部氾濫を露わにするものだった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiu7t9Ry7uEKWa-wBFYwTyojtSb8qza0S3kuA_wJYehCUqsU8CedQZOmXdlkK1wLfEXNyJxJKgmLDO1H49g6DjA52ho9oVsplo28uD-0wY5UK99V_0IQdYDy9c3fsPM9uHeA5tQF7gL3KVr/s1600/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89~1.JPG" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiu7t9Ry7uEKWa-wBFYwTyojtSb8qza0S3kuA_wJYehCUqsU8CedQZOmXdlkK1wLfEXNyJxJKgmLDO1H49g6DjA52ho9oVsplo28uD-0wY5UK99V_0IQdYDy9c3fsPM9uHeA5tQF7gL3KVr/s400/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89~1.JPG" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">コナー</td></tr>
</tbody></table>
一方、組織の幹部会議で、父から小っ酷く怒鳴られ、謝罪を求められて、それに服従するコナーは、会議が終わっても、一人、父と対面する位置に座る椅子から離れられず、屈辱の極みを全身で露わにしていた。<br />
<br />
暗黒街のボスもまた、自分と同じ道を歩んでもなお、自分の支配下にあって、敬意の念を含む畏怖心より、遥かに危害感情を乗せた恐怖心に近い意識を内在させた脆弱さを晒す息子に対して、「枷」という意識を延長させていたのである。<br />
<br />
ボスのルーニーにとって、血縁のないサリヴァンの方が、より親愛感情をベースにした親子関係のそれに近い関係を構築していたが、これは、アイランド系の葬式の場で、ルーニーとサリヴァンとのピアノの連弾のシーンの中に象徴的に拾われていた。<br />
<br />
しかし、この義理の親子の睦みのピークは、この連弾のシーンを機に決定的に暗転していくに至る。<br />
<br />
<br />
<br />
3 非日常下の狭隘なスポットで溶融した、父と子の特別な時間の中で<br />
<br />
<br />
<br />
ルーニーの息子のコナーがサリヴァンに抱いた嫉妬が、累加された憎悪感情に転じていて、それが凄惨な現場をマイケルに目撃されたことで、闇の世界のイメージを意図的に希釈させ、静謐な雰囲気を繋いできた物語が加速的に変容していく。<br />
<br />
マシンガンを乱射する父の姿を目撃したマイケルの情感系は、多感な少年の許容の範疇を遥かに超えて、パニックの恐怖に竦み、完全に凍てついてしまうのである。<br />
<br />
前述したように、翌日、学校での殴り合いの喧嘩を惹起させ、自己をコントロールできないマイケルは、喧嘩の反省のため学校に残されたことで、遅い帰宅の途に就いた。<br />
<br />
帰宅したマイケルが自宅で目撃したものは、あろうことか、母と弟のピーターが殺害されている最悪の現実の凄惨さ。<br />
<br />
二度に及ぶ、常軌を逸する事態の視認によって、児童期後期の自我は完全に凍てついてしまったのだ。<br />
<br />
コナーによる犯罪だった。<br />
<br />
例の乱射事件に関わったサリヴァンと、それを目撃したマイケルの殺害を図ったのだが、運悪く、次男のピーターが誤殺されてしまったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiA6TLiXgD0KS5t-PAB9EwPtpwNocfPhfA75UjIdXQFqeWPp8myJkRNLdIMO3R3VAweyveGYuAA_ekWQfYKqiNhasWjCGXRm71o5io2Na_OEtfYM9D9VmaYMN3mkNqJDVvLCvbuG94K_wNY/s1600/photo_11.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="263" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiA6TLiXgD0KS5t-PAB9EwPtpwNocfPhfA75UjIdXQFqeWPp8myJkRNLdIMO3R3VAweyveGYuAA_ekWQfYKqiNhasWjCGXRm71o5io2Na_OEtfYM9D9VmaYMN3mkNqJDVvLCvbuG94K_wNY/s400/photo_11.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">孤高の男の復讐劇が開かれて</td></tr>
</tbody></table>
そして、コナーによる妻子殺害事件を機に、孤高の男の復讐劇が開かれていく。<br />
<br />
コナーの抹殺を決意したサリヴァンは、ボスによる2万5000ドルの金銭による条件的和解の提示を拒絶し、アイルランドに逃げろというメッセンジャーの申し出に対して、コナーの隠れ場所を秘匿する相手を射殺するに至る。<br />
<br />
<br />
それが、「枷」の極点を晒したコナーを庇うルーニーへの答えだった。<br />
<br />
<br />
復讐の鬼と化したサリヴァンは、せめて、運良く生き残った長男のマイケルを助けるために、息子を連れ立ってのシカゴへの逃避行に打って出ていくのだ。<br />
<br />
<br />
しかし、イタリア系マフィアのカポネが支配する、シカゴの街に身を寄せようとしたサリヴァンは、彼の元のボスに身を寄せようとしたが、叶わなかった。<br />
<br />
元のボスは、既にコナーを保護していたからだ。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" height="270" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676599785338009778" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi253A2z33ToBbxeQwkpHo_y25dQoZ2NdH0DW34hkWAvGMud4PfbANA_bUaFN9buYctnPuyRvS7mxvyfNfKJJM_bEeWIOhmBafJEQAioQ0gsSaM9vTI51xqcbexILcA2-N-ut2mZrWxuqIf/s400/perdition2.jpg" style="float: right; height: 243px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 360px;" width="400" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">マグワイア</td></tr>
</tbody></table>
逆に、元のボスは、サリヴァン父子の殺害を、殺しのプロで、死体の写真を撮ることで〈生〉を実感するという偏執狂のマグワイアに依頼したのである。<br />
<br />
銀行強盗を働きながらの危険な逃避行の中で、そのマグワイアとの死闘の挙句、サリヴァンは重傷を負った。<br />
<br />
マグワイアに左腕を撃たれて、親切な農場で休ませてもらって、自ら銃弾を抜き取る手当をした夜に、父と子は初めて語り合った。<br />
<br />
「ピーターの方が好きだった?」<br />
「いや、そんなことはない。同時に愛してた」<br />
「でも、何だか接し方が違っていた」<br />
「そう思う?」<br />
「・・・」<br />
「それは多分、ピーターが素直な子だったからだ」<br />
<br />
父の眼を、じっと見詰めるマイケル。<br />
<br />
「・・・それに比べると、お前は俺似だった。だが、俺に似て欲しくなかった・・・差別するなんて、そんな気は・・・」<br />
<br />
ゆっくりと噛み締めるように放たれた拙い言葉の中に、情感を込めた父の思いが伝わってきて、それまでの閉鎖系の関係を穿つ力が、非日常下の不安な時間を溶かし、それを浄化していった。<br />
<br />
「分った」<br />
<br />
狭隘なスポットで溶融した、父と子の特別な時間を内化した児童期後期の自我が、それを求めて止まない安寧の境地に達した実感は、この一言のうちに閉じていった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgvOU0LkInkdm0S7RLIsISuJWvWOIA_NiiifXFWuCKQF2BhMLUhkiXhBAkMVjGArT8XQaAReyLREw40CnjXms8dBi2viSdfyHdsC6wW4qnbiIBJov-2fOHP9WSx933ei633cDBAqGYrmPBL/s1600/9.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676598069890448914" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgvOU0LkInkdm0S7RLIsISuJWvWOIA_NiiifXFWuCKQF2BhMLUhkiXhBAkMVjGArT8XQaAReyLREw40CnjXms8dBi2viSdfyHdsC6wW4qnbiIBJov-2fOHP9WSx933ei633cDBAqGYrmPBL/s400/9.jpg" style="float: right; height: 279px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 340px;" /></a><br />
父の体に身を預けたマイケルは、この日ばかりは、深い眠りに潜り込んでいったに違いない。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「ロード・トゥ・パーディション」の散り方を具現した悲哀の極点<br />
<br />
<br />
<br />
覚悟を決めて、ルーニーに会いに行ったサリヴァンは、コナーが死人名義で口座を作って、ルーニーの金を盗んでいた事実を突き付けた。<br />
<br />
教会の地下での、ルーニーとサリヴァンの会話である。<br />
<br />
「息子に制裁を下せと?」とルーニー。<br />
「裏切り者だ」とサリヴァン。<br />
「知ってるよ。よく聞け。お前が国を出ないので、仕方なく必要な手を打った。お前は、私には息子同然だ。もう一度頼む。命ある間に国を出ろ」<br />
<br />
何もかも認知していたルーニーには、不肖の息子を守るしか術ががないと括っているのだ。<br />
<br />
シチリア系の「オメルタ」(沈黙の掟)とは切れて、深い情愛で契りを結んできたサリヴァンとの義理の父子関係よりも、血縁で結ばれた父子関係を選択したルーニーにとって、なお引き摺る情愛の対象人格の命を奪うことの辛さが、このような物言いになって顕在化したのである。<br />
<br />
「だが、今はともかく、あんたが死んだ後は?どっちみち、コナーは厄介者として消される」<br />
<br />
情愛の対象人格であるサリヴァンの覚悟には、微塵の揺らぎもなかった。<br />
<br />
「かも知れん。だが、私にはできない。お前に息子の部屋の鍵を渡し、“息子を殺せ”と言うことはな」<br />
「妻子は殺された」<br />
「お前も私も人を殺してきた。マイク、分らんのか!これが、我々が選んだ道だ。私がお前に約束できることは一つ。天国へは行けない」<br />
「マイケルは行ける」<br />
「じゃあ、あの子が行けるように、できる限りのことをしろ。頼む。今すぐ発つんだ」<br />
「その後は?」<br />
「その後は、喪った息子のことを想い、悲しみに浸ろう」<br />
<br />
そう言い捨てて、去って行くルーニー。<br />
<br />
「天国へは行けない」<br />
<br />
この言葉は、本作の基幹メッセージであると言っていい。<br />
<br />
闇の世界で生きる者たちが、どれほど教会に身を運ぼうとも、その運命は「ロード・トゥ・パーディション」(地獄への道)しかないという重いメッセージである。<br />
<br />
しかし、マイケルだけは違う。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxSVKtNVG0RodRoYtsmx4GEAbZIbSiCRN1oYPa03t-D7meuUpEjehBOFkik56auri_ccOJGgjY9cWEIQVYAuX69Y09YOf9R2587peFculY4bNoZjHUzTz4N-taKQ91R2tRsp_HWnTXMsmJ/s1600/8.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676598368144469618" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxSVKtNVG0RodRoYtsmx4GEAbZIbSiCRN1oYPa03t-D7meuUpEjehBOFkik56auri_ccOJGgjY9cWEIQVYAuX69Y09YOf9R2587peFculY4bNoZjHUzTz4N-taKQ91R2tRsp_HWnTXMsmJ/s400/8.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 303px; margin: 0 0 10px 10px; width: 355px;" /></a><br />
この少年だけは、「ロード・トゥ・パーディション」の世界に引き摺り込んではいけないのだ。<br />
<br />
その思いを、サリヴァンもルーニーも共有する。<br />
<br />
だからルーニーは、サリヴァンに対して、彼らの自我のルーツであるアイルランドへの逃亡を求めた。<br />
<br />
サリヴァンがアイルランドでの人生の再生に頓挫し、地獄に堕ちてもいいが、そんな父親を持ったマイケルの不幸を浄化させる手立てだけは怠るな。<br />
<br />
そう言っているのだ。<br />
<br />
この辺りに、裏切った肉親をも殺害する、「ゴッドファーザーPART II」(1974年製作)の物語の文脈と切れる分岐点になっていると言っていい。<br />
<br />
相当に大甘な印象を免れ得ない本作は、どこまでも、「ロード・トゥ・パーディション」の危うさから、12歳への少年を解放させるための物語なのだ。<br />
<br />
そのために、我が子の致命的な不始末を一身に負ったルーニーは、殆ど覚悟した者の生き方を認知しつつ、自爆するようにして地獄に堕ちていくに至る。<br />
<br />
それは、我が子を、闇の世界に引き摺り込んだ愚行への、贖罪の如き死であったと言えるだろう。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" height="378" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676600092605284002" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhszzbnF7hl0QVFQ3_nXJtixG3hOuHVAmgo_xOg-JISbuv_Fjk3mKyuwkk3yKiuZ1wLyi73dYC3q2lR8UikoGLabB9N2LL0HOSmNrJKxiZGLuS3ZOS-WbennsGVRwKovjsUaOkMjPwbTZ3m/s400/20080929143937.jpg" style="float: right; height: 293px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 310px;" width="400" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ルーニー</td></tr>
</tbody></table>
だからルーニーは、同様に「天国へは行けない」と括っている、その情愛の対象人格からマシンガンを乱射されて果てていった。<br />
<br />
ルーニーにとって、それ以外にない「ロード・トゥ・パーディション」の散り方だったのだ。<br />
<br />
そのシーンだけは、マシンガンの音を激しく炸裂させた映像効果が、何より、その究極の悲哀を物語っている。<br />
<br />
ルーニーを殺害した男の人生の閉じ方もまた、この一つのシーンの中で決定付けられたのである。<br />
<br />
<br />
<br />
5 「ロード・トゥ・パーディション」の運命を自己完結した男と、その男の〈生〉の軌跡を相対化し切った少年<br />
<br />
<br />
<br />
サリヴァン父子を追うマグワイアとの、苛烈な死闘が延長されていた。<br />
<br />
この辺りのシークエンスが、鮮烈なラストシーンにまで繋がっていく。<br />
<br />
闇の世界から、義姉が住んでいた湖畔の家に辿り着いたサリヴァン父子。<br />
<br />
陰翳深き映像が開いて見せた陽光眩き世界の構図は、そこで手に入れるだろう、父子の睦みによる新しき世界への希望に満ちていた。<br />
<br />
しかし、「美しいギャング映画」という、カテゴリー破壊とも思しき信じ難き絵画的空間を繋いできた映像は、至福のイメージに酔っていたサリヴァン父子の、そんな過分な思いを一瞬にして打ち砕くものだった。<br />
<br />
陽光眩き世界の最終到達点である湖畔の家の中枢で、マグワイアの銃弾に崩れ落ちるサリヴァン。<br />
<br />
またしても、あってはならない光景を目撃したマイケルは、例によって、鮮血を染め抜いた床に倒れているサリヴァンの「死体」の撮影を始めている。<br />
<br />
マイケルが、醜悪なまでに偏執狂のマグワイアに銃を向けたのは、そのときだった。<br />
<br />
その銃を奪うために、マイケルに近づくマグワイア。<br />
<br />
銃丸を放てないマイケル。<br />
<br />
その瞬間、マグワイアが大きく崩れ落ちた。<br />
<br />
後方から、虫の息の中で放ったサリヴァンの銃撃だった。<br />
<br />
「撃てなかった」<br />
<br />
床に倒れている父に走り寄ったマイケルが、小さく洩らした言葉である。<br />
<br />
「分ってる・・・」<br />
<br />
それは、そのため故に、最後の「仕事」を遂行した父にとって、自らが屠ったルーニーと同様に、「ロード・トゥ・パーディション」の運命を自己完結したことの、それ以外にない簡潔な表現だった。<br />
<br />
「父さん・・・」<br />
「許してくれ・・・許してくれ・・・」<br />
<br />
絶命する、ほんの一瞬の間に、我が子が自分と同じ道を辿る恐怖を、その父が絶ち切ったのである。<br />
<br />
かつて世話になった農場に赴く少年の、雄々しき姿を映し出した後、ファーストシーンのモノローグが、ここで繋がっていく。<br />
<br />
「父が何より恐れていたのは、僕が同じ道に入ること。銃に触れたのは、あれが最後だ」<br />
<br />
これが、本作の基幹ラインとなって、厳しい時代の制約下にあって、マフィアの世界でしか呼吸を繋げなかった、父の〈生〉の軌跡を相対化し切っているのだ。<br />
<br />
それでも、マイケルの思いの中に復元したのは、「父と子だ」というラストカットのモノローグ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg29zobG0Bzr8SrWsa0gWAh8A9EaxI_MSJeMmZ0O7_FaxvU8BANg9b8ht1hrpPfrVPdJhRfcTTyBYXYAMJVKfl0nyXw1r3nyew7f1DY883IbC0haFMW5-mRaXR_PA0EeElgHTTPLd3OqsZo/s1600/road-to-perdition.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5676597736028423058" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg29zobG0Bzr8SrWsa0gWAh8A9EaxI_MSJeMmZ0O7_FaxvU8BANg9b8ht1hrpPfrVPdJhRfcTTyBYXYAMJVKfl0nyXw1r3nyew7f1DY883IbC0haFMW5-mRaXR_PA0EeElgHTTPLd3OqsZo/s400/road-to-perdition.jpg" style="float: right; height: 273px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 369px;" /></a><br />
「僕は6週間、彼と旅をした。これは、僕と彼の物語だ」というオープニングのモノローグによって開かれた映像は、以下のモノローグのうちに閉じられたのである。<br />
<br />
「マイク・サリヴァンは“いい男”だったか、“根っからの悪” だったか、僕の答えは決まっている。簡単な答えだ。“彼は僕の父でした”」<br />
<br />
このラストカットのモノローグで語られているように、カテゴリー破壊とも思しき「美しいギャング映画」を、その手法の狡猾さを指弾される覚悟に対して、サム・メンデス監督が顕著なまでに鈍感であったか否かについては一切不分明だが、本作を最後まで観る限り、どうやら本気で作ってしまったようなのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
6 「復讐」と「救済」という、困難な二重課題を負った男の宿命の軌跡<br />
<br />
<br />
<br />
繰り返し言及しているように、そんな本作の基幹メッセージは、以下の把握に尽きるだろう。<br />
<br />
妻子を殺害されたことで、サリヴァンの防衛的自己像は決定的に破綻するに至ったが、それでも、難を逃れた長男のマイケルだけは救ってやらなければならなかった。<br />
<br />
自分のDNAをそっくり受け継ぐと信じるマイケルを救うことなしに、妻子の復讐を含めた、自分の最後の「仕事」は完遂し得ないのだ。<br />
<br />
従って、「復讐」と「救済」という、困難な二重課題を負ったサリヴァンの逃避行は、マイケルに武器を握らせないための旅でもあったが故に、「復讐」に向かう彼は、「極道」の情感体系に生きてきた者の、「力の論理」による「男の観念」の遂行者であると同時に、それを履行する過程で惹起される、生命の危機を共有させてしまったマイケルの人格の、父としての根源的な救済者でなければならなかったのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEij4Jjz-C1NGdPqvF1UIxW5saX4A6IKhM99ZPd-532-JhnpF2E0hsl1r2XwJVP2ACNt7il7_icMuOoQ681ry7szu2a4CyBmc4h_20NndfM1pHLqbh9o9mDQkRQSzxrtyIEtqT8jKHETsMGW/s1600/road_to_perdition_1.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" height="378" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEij4Jjz-C1NGdPqvF1UIxW5saX4A6IKhM99ZPd-532-JhnpF2E0hsl1r2XwJVP2ACNt7il7_icMuOoQ681ry7szu2a4CyBmc4h_20NndfM1pHLqbh9o9mDQkRQSzxrtyIEtqT8jKHETsMGW/s640/road_to_perdition_1.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
かくて、困難な二重課題を果たし得たという安堵を手に入れたサリヴァンが、物語の最終ステージで破壊されるに至ったのは、ルーニーと同様に、それ以外にない「ロード・トゥ・パーディション」の散り方をなぞるものだった。<br />
<br />
「天国へは行けない」<br />
<br />
一切がこの言葉に収斂されるように、「ロード・トゥ・パーディション」の散り方こそ、闇の世界で生きてきた者の宿命だったのである。<br />
<br />
そんな散り方をなぞったサリヴァンにとって、困難な二重課題の遂行だけが、マイケルの人生を、「ロード・トゥ・パーディション」の危険な航跡を断ち切る「仕事」だった。<br />
<br />
困難な二重課題の遂行は、ルーニー父子の自壊的な人生の対極をイメージする文脈であるように見えるが、しかしコナーの姦計によって、不毛なる闇の仕事を送ってきたサリヴァンの人生もまた、自壊的な本質性を抱えるものであった。<br />
<br />
それは、闇の世界で生きる者の人生には、所詮、自壊していく運命を免れ得ないというメッセージであると言えるだろう。<br />
<br />
それ故にこそと言うべきか、過剰で、刺激的な暴力シーンが極力省かれていた本作は、単に、闇の世界で生きる者たちの、絶望的な不毛さを提示した映画であったと考えられなくもない。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5685909490504180274" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiOy0CmtDrq4r3mCVxf2snVaZJ2OW69tmxciPG0Ugm_aSSbiYEmllrO12WF8RO-ig670SSB45Nrq35kTGDsIVEDc3ZiLqZUiYAMQwhB06x8VyCl-led4uT7jMLQu_RQwCxB4NWKljvUoDUS/s400/20100409114013_02_400.jpg" style="float: right; height: 360px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 270px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">サム・メンデス監督②</td></tr>
</tbody></table>
その手法が合理性を持つか否かは別にして、サム・メンデス監督は、暴力の世界の不毛さを、「美しいギャング映画」というカテゴリー破壊とも思しき、スタイリッシュな表現技巧を際立たせた映像のうちに、まさに、その不法なる暴力の世界に身を置く者の悲劇を通して描きたかったのか。<br />
<br />
だから絶対に、マイケルに銃を使用させてはならなかった。<br />
<br />
子供に銃を持たせてはならないのだ。<br />
<br />
「ぼくの俳優としての仕事は、脚本に書かれている父と息子との関係を、いかにスクリーンに投影するかということだけだった」(前掲インタビュー)というコメントを直截に斟酌すれば、その辺りに、本作に込めた作り手の、身も蓋もないようなメッセージが貫徹していると思われなくもないからだ。<br />
<br />
虫の息の中で、息子に銃丸を放つことを阻止することによって、もう一つの人生の可能性を提示させた男の物語は、その男によって「救済」されたと信じる辺りにまで、心理的に最近接し得なかったが、それでも、“彼は僕の父でした”というラストカットの括りのうちに、絶望的に隔たっていた父子の再生をテーマに包含することで、限りなくヒューマンドラマに近い、「美しいギャング映画」の物語を構築した映像構成には、観る者に与えた映画的インパクトの不足の問題を含むにせよ、特段の破綻が見られなかったと言えるだろう。<br />
<br />
(2011年12月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-35633942595445227142011-11-13T11:52:00.017+09:002013-05-05T06:40:15.810+09:00十三人の刺客('10) 三池崇史<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMe3XsJNeyBMWjnFf5DOtmw3uv80V4caC_BogFUGncbEINFwBzzy0N8zh5LVBwJ3Rk_Qduab7NFWjzcHHVin45s2I9zoqmg568QTaltixMu8UzsxQgbWZ-sDwEilsqOokxQNnmb2fS857v/s1600/juusan.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMe3XsJNeyBMWjnFf5DOtmw3uv80V4caC_BogFUGncbEINFwBzzy0N8zh5LVBwJ3Rk_Qduab7NFWjzcHHVin45s2I9zoqmg568QTaltixMu8UzsxQgbWZ-sDwEilsqOokxQNnmb2fS857v/s640/juusan.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><てんこ盛りのメッセージを詰め込んだ娯楽活劇の「乱心模様」></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「戦争」の決意→「戦争」の準備→「戦争」の突沸という、風景の変容の娯楽活劇<br />
<br />
<br />
<br />
この映画は良くも悪くも、物語をコンパクトにまとめることを嫌い、エンターテイメントの要素をてんこ盛りにすることを大いに好む映画監督による、力感溢れる大型時代劇の復権を目途にしたと思われる娯楽活劇である。<br />
<br />
だから長尺になった。<br />
<br />
最も描きたいと思われる、立場の異なる侍たちによる、「戦争」の壮絶なシークエンスをクライマックスに持っていくためである。<br />
<br />
そんな娯楽活劇を、私は単純に、三つの風景によって成る物語構成で分けてみた。<br />
<br />
「戦争」の決意→「戦争」の準備→「戦争」の突沸(とっぷつ)である。<br />
<br />
この風景の変容は、「陰」→「陽」→「『陰』と『陽』の情感的止揚による炸裂と爆轟(ばくごう)」という具合に流れていく。<br />
<br />
「陰」を主調音にする、凄惨な描写を含む、映像としての凛とした構図によって繋がれる「戦争」の決意の風景の中で、「全身闘争者」が立ち上げられる。<br />
<br />
冷厳なリアリズムが貫流する風景には殆ど破綻がなく、力感溢れる大型時代劇の復権を、観る者に期待させるのに充分な映像構成だったと言える。<br />
<br />
ところが、「陽」を主調音にする「戦争」の準備の風景の中で立ち上げられた「全身闘争者」たちの、「戦争」への果敢な継続力が劣化することない好テンポに水を差す、ユーモア含みのエピソードが挿入されるに及んで、本作の物語の骨格が、物語をコンパクトにまとめることを嫌い、エンターテイメントの要素をてんこ盛りにすることを大いに好む映画監督による、過剰なまでの訴求力の高さを狙った娯楽活劇であることが判然としてくるのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgG1L-zhPq-2xL35aPreHrfOwH_rCFA-FmMQyoLJYdTOc1lL49quTbrMTob27RoP6DN3-FAqMI7Wc0EW8-NzKik4A3o1LRxNPMcPc-NDOPzqQ6kbnVqDFqrxjPhgGfmASvFb_vbvVAZAGKE/s1600/E58D81E4B889E4BABAE381AEE588BAE5AEA201.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674310783884971842" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgG1L-zhPq-2xL35aPreHrfOwH_rCFA-FmMQyoLJYdTOc1lL49quTbrMTob27RoP6DN3-FAqMI7Wc0EW8-NzKik4A3o1LRxNPMcPc-NDOPzqQ6kbnVqDFqrxjPhgGfmASvFb_vbvVAZAGKE/s400/E58D81E4B889E4BABAE381AEE588BAE5AEA201.jpg" style="float: right; height: 261px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
これは、13人目の刺客となった「山の民」の、「戦争」への自己投入によって、「全身闘争者」たちの「戦争」の準備の風景に、価値観の異なる彩色を施すことで、一気に「陽」を主調音にする風景の変容を具現して見せるのだ。<br />
<br />
但し、そこには、訴求力の高さを狙った娯楽活劇への固執ばかりとは言えない要素をも読み取れる。<br />
<br />
即ち、「山の民」の「戦争」への自己投入の意味は、「全身闘争者」たちによる、地味な「戦争」の準備の風景を、観る者に飽きさせずに保持させようとする作り手の意図であると同時に、価値観の異なる「全身闘争者」たちの「戦争」の、その本来的な目途を相対化させる役割性を担っているとも言えるだろう。<br />
<br />
寧ろ、後者の役割性こそ、「全身世俗者」としての「山の民」の人物造形の本質であるに違いない。<br />
<br />
かくて、「戦争」の決意→「戦争」の準備に移行する風景の変容は、「陰」→「陽」への主調音の変容を特徴づけながら、「全身闘争者」の立ち上げ→「全身闘争者」の継続力という流れをも包括して、「『陰』と『陽』の情感的止揚による炸裂と爆轟を主調音にする「戦争」の突沸という、それ以外にない決定的な風景に流れ込んでいくのである。<br />
<br />
もっとも、「全身闘争者」の継続力と形容しても、ごく短期間のスパンなので、件の「全身闘争者」たちの継続力の強化は必然的に保証される。<br />
<br />
この国の闘争者は、短期爆発的な決起なら相当程度、その能力を身体表現することが可能であるからだ。<br />
<br />
ところが、元禄赤穂事件のように、同志を1年9カ月間も待たせてしまうと、「全身闘争者」としてのリアリティが世俗との往還の中で脱色され、脱盟者が続々と出て来てしまうのは、「最後まで戦い抜く心」を本質にする「闘争心」において相対的に欠落する、この国の人々の農耕民的メンタリティが露呈されてしまうからである。<br />
<br />
だから、一気の勝負に賭けた闘争にこそ、この国の人々には最も相応しい「散り方」なのである。<br />
<br />
その致命的なリスクが、本作の決起では回避されたのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiT6bjFS5TcrEQxdHhj7Qcm5esEB4zqrWKRCsU6xrk7idYc7cfjietqwZ1dhLk3fXC97HpCkTt0jei56buFbF5eFxYP99VngYqIu4oNHOK46G89RSOgBIjIQ9SACeqW4_-vJTkiQYODK4qq/s1600/photo_2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="640" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiT6bjFS5TcrEQxdHhj7Qcm5esEB4zqrWKRCsU6xrk7idYc7cfjietqwZ1dhLk3fXC97HpCkTt0jei56buFbF5eFxYP99VngYqIu4oNHOK46G89RSOgBIjIQ9SACeqW4_-vJTkiQYODK4qq/s640/photo_2.jpg" width="457" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">木賀小弥太(山の民)</td></tr>
</tbody></table>
その辺りが、本作での「全身闘争者」の強さの精神的骨格であったと言っていい。<br />
<br />
だから彼らの闘争には、世俗に塗(まみ)れた「日常性」という、極めて厄介な「間」が侵入する余地がなく、一気呵成(いっきかせい)に、「戦争」の突沸のうちに自己投入することが可能だったのだ。<br />
<br />
その中で、一際(ひときわ)異彩を放つ、「山の民」だけは存分に世俗を吸収し、それをマキシマムに愉悦するのである。<br />
<br />
「全身闘争者」との決定的な対比によって炙り出される、「全身世俗者」としての「山の民」の〈生〉の有りようが、「戦争」の準備に移行する風景の変容の中で鮮烈に印象付けられるのだ。<br />
<br />
この男にとって、「死に場所」を求める侍たちの虚構の一切を相対化し切ること ―― それが、「全身世俗者」としての「山の民」の存在価値であり、作り手のメッセージでもあるだろう。<br />
<br />
それでも、「戦争」の突沸のうちに自己投入する「山の民」の情感世界を支配したのは、単に、「痛快なる命取りのゲーム」への好奇心をそそられることで、愚かなる侍たちが仮構した大仰な戦場を、一大ゲームセンターに変換させる快楽を、位相の異なる世界で占有したいという欲望だったのである。<br />
<br />
その類の解釈も含めて、不死身なる男の妖怪性の造形は、エンターテーメントの要素をふんだんに注入せねば済まない作り手の、極限まで描き切る快楽を簡単に手放せない、作家性の濃厚な性癖であると読む方が的を射ているだろう。<br />
<br />
「全身世俗者」としての「山の民」の、〈生〉の有りようによって壊されたリアリズムの価値に対して、特段の拘泥を見せない作り手の映画空間とは、恐らく、作り手のイメージの激情的氾濫のうちに収斂される何かでしかないのだ。<br />
<br />
それ故に、「それもあり」という風に了解する以外にないだろうが、それにしても、スノッブ効果(他人との差別化によって希少価値性を追求する現象による効果)に呼吸を繋ぐ、何とも破天荒な映画監督であることか。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「陰」の映像が決定的に印象づけられた、「全身闘争者」たちによる「戦争」の決意表明<br />
<br />
<br />
<br />
「戦争」の決意→「戦争」の準備という流れを経て開かれた、「全身闘争者」による「戦争」の突沸は、彼らの身体表現するに足る格好の戦場になっていくが、ここでは、「全身世俗者」を含む「全身闘争者」の「戦争」参加へのモチベーションと、それを吸収した人間学的展開の様態について言及してみよう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjTIZbCBtp9S9zuuP9aPws9pVtjoia3pJ4hzotL-h9RIXO6BqGPeA-N_swM3VzlmQN5RIlTIP79NI7whl3vfgIazn5SbUABwhCkNenKBg_xp0FROChxJSFIwbRRuX_YAFXgemvEtppwB64y/s1600/20100925223238703.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674310122531815426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjTIZbCBtp9S9zuuP9aPws9pVtjoia3pJ4hzotL-h9RIXO6BqGPeA-N_swM3VzlmQN5RIlTIP79NI7whl3vfgIazn5SbUABwhCkNenKBg_xp0FROChxJSFIwbRRuX_YAFXgemvEtppwB64y/s400/20100925223238703.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 181px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
立場の異なる侍たちによる「戦争」を描くこの物語は、それまでの多くの娯楽時代劇がそうであったように、見事なまでに善悪二元論に峻別され、大袈裟に言えば、200人の「絶対悪」に挑む13人の「絶対善」なる男たちが集合し、「斬って、斬って、斬りまくれ!」という首領の合図の元に、「主君押込」(行跡が悪いとされる藩主を、家老らの合議による決定により、強制的に監禁する行為のこと・ウイキより)の支配力を突き抜けた、極北的ポジションを占有する「絶対悪」(明石藩藩主・松平斉韶)を屠(ほふ)っていくのだ。<br />
<br />
<br />
配下の御徒目付組頭、御小人目付組頭、御小人目付、御徒目付、足軽、居候の居合抜きの剣豪、剣豪推薦の槍の名手、そして「戦争」のリーダーの甥、等。<br />
<br />
「戦争」の突沸という一大プロジェクトに集合した、「全身闘争者」たちの心理的推進力になった者たちの主力メンバーを仔細に見ていくと、それぞれが、極めて存在論的な心象風景を内在させていることが分る。<br />
<br />
彼らは、その内側に、様々な形で自我同一性の問題を抱えているのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhQizXfD7RBpFZVLlKAH90ySErkIerFrhYXkcGxa7Pa-1Jnu4x7_jRDwJudXuYPLWX3uEOqb7nqhe-VlrYiFMMdRHz2Jdrd9fXw-8E1rXfRMzzDqK5pfJt14DWQE_Poo66ZEskii9WWWRMl/s1600/fc36d930.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="425" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhQizXfD7RBpFZVLlKAH90ySErkIerFrhYXkcGxa7Pa-1Jnu4x7_jRDwJudXuYPLWX3uEOqb7nqhe-VlrYiFMMdRHz2Jdrd9fXw-8E1rXfRMzzDqK5pfJt14DWQE_Poo66ZEskii9WWWRMl/s640/fc36d930.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">島田新六郎</td></tr>
</tbody></table>
ある者は、侍としての自分の〈生〉の有りようを疑問視し、博打三昧の生活に逃避する。<br />
<br />
彼は、特権階層としての侍の存在それ自身を相対化しているのである。<br />
<br />
妻を喪って生き甲斐を失った鑓の名手は、生き甲斐を見つけられない社会を相対化し、その自我の空洞感を一大プロジェクトへの自己投入によって昇華させ得ると考えた。<br />
<br />
また、その佇まいの魅力を周囲に放ち、侍としての「死に場所」を待ち続ける居合いの名手は、頽廃的な世俗を嘆き、武士道精神を失ったと信じる侍の有りようを相対化するのだ。<br />
<br />
更に前述したように、13人目の刺客となった「山の民」(木賀小弥太)に至っては、虚勢ばかりの侍の特権性の一切を剥ぎ取る愉悦のうちに、「敵味方論」を突き抜けて、アンチテーゼとしての武士階級の存在そのものを根柢的に相対化し切るのである。<br />
<br />
先走って書いてしまうならば、それ故にこそ、博打三昧の生活に逃避し、「全身闘争者」たちの心理的推進力において微妙に乖離していた、「戦争」のリーダーの甥(島田新六郎)を含めて、武士階級の存在そのものを相対化し切る立場を保持した件の二人(あと一人は、言うまでもなく「山の民」)だけが、「戦争」の突沸という一大プロジェクトの遂行の果てに生き残ったのは偶然などではなく、そこにこそ、武士道精神の具現と信じ、「死に場所」を待望した者たちが逝く中にあって、力感溢れる大型時代劇の復権を目途にしたと思われる、差別化し得た娯楽活劇を構築した三池崇史監督のメッセージ性が読み取れるだろう。(これについて後述する)<br />
<br />
だからこれは、絶対的な規範が揺らぐ時代状況下にあって、主に侍の存在の有りように関わる根源的問題に立ち竦み、それを相対化せざるを得ない者たちが集合し、そこに個人的差異があろうとも、その自我に穿(うが)たれた空洞を埋めるに足る物語によって、「戦争」の突沸の坩堝(るつぼ)の内側から、全人格の炸裂と爆轟に自己投入していった男たちの映画でもあった。<br />
<br />
そして、自我に穿たれた空洞を埋めるに足る物語を必要とする、そんな男たちの魂を集合させた決定的推進力こそ、「戦争」を決意させた稀有な求心力を有するリーダーの存在と、そのリーダーの堅固な意志によって鼓吹された大義名分だったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi79sP0-PlQI6UrX5DYh0z5iy8JubWyWrI9VDkIlmmuQlVCrOJSDowsnJak-qyS3haIYV7cXcz_N6lo7GkDwZLzz0fizonqmzoyAtNNaTqeQXlX4nMJTRvA3OAf31vnognKNTJZnH0h02j5/s1600/film02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi79sP0-PlQI6UrX5DYh0z5iy8JubWyWrI9VDkIlmmuQlVCrOJSDowsnJak-qyS3haIYV7cXcz_N6lo7GkDwZLzz0fizonqmzoyAtNNaTqeQXlX4nMJTRvA3OAf31vnognKNTJZnH0h02j5/s400/film02.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">工藤栄一監督の秀作・「十三人の刺客」</td><td class="tr-caption" style="text-align: center;"></td></tr>
</tbody></table>
従って、その映像構成の基幹の骨格において、13対53騎の「戦争」であった、1963年製作の工藤栄一監督による作品と殆ど切れていたと思える本作は、大義名分を手に入れることによってのみ、観念としての〈死〉の「非日常」に最近接した、「全身闘争者」たちによる、「絶対悪」である「敵対勢力」に対する、テロもどきの自己実現の映画であった。<br />
<br />
この映画で繰り返し語られる大義名分によって、屠られねばならない「絶対悪」が仮構される物語の純度は、「勧善懲悪」の純度と同義であることによって、「全身闘争者」である男たちが作り出した、突沸の坩堝たる「戦争」の渦中のうちに、男たちの「絶対善」としての「正義」のテロが、一貫して映像を支配するのだ。<br />
<br />
だから本作は、「戦争」の決意を描く前半の物語の流れが、最も重要な伏線となっていく。<br />
<br />
それは、以下のエピソードによって決定的になったと言っていい。<br />
<br />
幕府の老中である土井利位(どいとしつら)が、御目付の島田新左衛門を屋敷に呼んで、「絶対悪」である松平斉韶(まつだいらなりつぐ)の悪行の数々について説明し、次の老中職が内定されている斉韶暗殺の密命を下す有名なシーンでのこと<br />
<br />
その土井が、島田新左衛門の前に、一人の女を招いた上で、その悲劇の顛末を語っていく。<br />
<br />
農民一揆の首謀者の娘であった彼女が、明石藩主・松平斉韶に両腕をもがれ、両膝を落とされ、斉韶の「慰み者」として領国に連れられたが、飽きて山中に捨てられたと言う。<br />
<br />
驚愕する新左衛門の前で、女は舌を千切られた全裸の姿形を見せられ、更に、口に咥(くわ)えた筆で、身内の者が「みなごろし」にされたと書いた和紙を見せたのである。<br />
<br />
「捨ておけば、災いは万民に及ぶのだ」<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlnhA0n5UkBOlkNNmWon701rDBdilH0-SVVFq0bfI8GZ1ZZ29UCFnLk1AKSG69avvshAOKinTHHjOQ02oQF8AY8dsiYONdRJe7kBjaOszhvEXnMlbqadGkUf9ikEc31-Og_0QRZ9yqsoDd/s1600/132016132896413127987_13nin-sikaku-bn2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlnhA0n5UkBOlkNNmWon701rDBdilH0-SVVFq0bfI8GZ1ZZ29UCFnLk1AKSG69avvshAOKinTHHjOQ02oQF8AY8dsiYONdRJe7kBjaOszhvEXnMlbqadGkUf9ikEc31-Og_0QRZ9yqsoDd/s400/132016132896413127987_13nin-sikaku-bn2.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">御目付・島田新左衛門(左)と老中・土井利位(右)</span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
幕府老中・土井の言葉だ。<br />
<br />
「拙者、この太平の世に、侍として善き死に場所を探し続けておりました。それがここに及んで、手の震えが収まりません・・・お望みの儀、見事成し遂げて御覧に入れましょう」<br />
<br />
これが、幕府御目付役・島田新左衛門の答え。<br />
<br />
将軍の弟である明石藩主の暗殺を目途にした、「戦争」の決意が語られた瞬間である。<br />
<br />
このエピソードが、本作の男たちの、滾(たぎ)らせた情感系を収斂させていく決定力と化したのは言うまでもない。<br />
<br />
それは同時に、島田新左衛門の求心力に誘(いざな)われた男たちを、「全身闘争者」に立ち上げた瞬間でもあった。<br />
<br />
彼らの彷徨う魂は、異議申し立ての余地なき、この「平和のための捨て石」となるだろう、「絶対善」としての大義名分のうちに集約され、強化されていくのだ。<br />
<br />
「全身闘争者」たちによる「戦争」の準備は、この伏線の延長上に開かれて、そこに前半の主調音である「陰」の映像が決定的に印象づけられたのである。<br />
<br />
件の「全身闘争者」たちを惹き付ける幕府御目付役の島田新左衛門の人間的魅力について、本作は比較的丁寧に描いていたが、私にとって最も印象深かったのは、若き日に同門で競い合った仲であったにも関わらず、今や、「絶対悪」である松平斉韶の腹心となっていた鬼頭半兵衛の鋭利な観察眼であった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg9HMC2ujtxcBu9DoaK7xuKUhHp4GujIAeOv_Cq4g802jjKWiDiZ_3AmpavAoaGLYvkrWA3eu4vY1Uzf_97V8nRrB5E3hZXoqb06ToZEVyV4C4NSSAU-JfFQtBCy8yC9m3_l9gih7aywj3Q/s1600/128620302441816223328_photo_l_018.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg9HMC2ujtxcBu9DoaK7xuKUhHp4GujIAeOv_Cq4g802jjKWiDiZ_3AmpavAoaGLYvkrWA3eu4vY1Uzf_97V8nRrB5E3hZXoqb06ToZEVyV4C4NSSAU-JfFQtBCy8yC9m3_l9gih7aywj3Q/s400/128620302441816223328_photo_l_018.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">明石藩御用人・鬼頭半兵衛(右)</span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
「何があろうと殿を守る」<br />
<br />
これが、鬼頭半兵衛の絶対規範であると同時に、今や「攻撃的大義」を手に入れ、幕府御目付役(実質的に老中のブレーンであり、徒目付、小人目付を配下に置き、旗本、御家人の監視など幕府中枢の政務を担う)にまで出世した島田新左衛門への、「防衛的忠義」のうちに隠し込んだ屈折した競争意識による、それ以外にない表現であった。<br />
<br />
その半兵衛が、家来から島田新左衛門について問われるシーンがあった。<br />
<br />
「できますか、この男」<br />
<br />
この問いに対する半兵衛の答えは、新左衛門の本質を衝くものだった。<br />
<br />
「切れるという訳ではない。恐ろしく強い訳ではない。だが負けぬ。無理に勝ちに行かず、押し込まれても中々動かず、最後には少しの差で勝つ。そういう男だ」<br />
<br />
まさに、「闘争のリアリズム」に徹する「全身リアリスト」をイメージさせる人格像が、その簡潔な言葉のうちに垣間見えたのである。<br />
<br />
「最後には少しの差で勝つ」という「全身闘争者」としての人格像が、「絶対善」としての大義名分を持ち得たとき、その穏健な人柄の求心力に誘(いざな)われた男たちを、「全身闘争者」に立ち上げていく物語の流れには殆ど破綻がなかった。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjntlwyDjqd9zs1Edt92wQQ0ttHzv8vfc6v7EIMqpkudnXSz7Rvo-1biGr0ZWbGl4jFLqeOxRPNoxyUIGZ0kbiPuNXtjYjmh9CaQEzuatu2pwZjUmTp-y5vd5OkaxYJA2Te7zRr8oWoQLU/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjntlwyDjqd9zs1Edt92wQQ0ttHzv8vfc6v7EIMqpkudnXSz7Rvo-1biGr0ZWbGl4jFLqeOxRPNoxyUIGZ0kbiPuNXtjYjmh9CaQEzuatu2pwZjUmTp-y5vd5OkaxYJA2Te7zRr8oWoQLU/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
その辺りを評価するが故に、その後の物語の展開に愕然とするばかりだったのである。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
3 心理的緊張感・恐怖感が希釈化された「戦場のリアリズム」の大騒ぎ<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「戦争」の決意→「戦争」の準備という流れについては前述した通りだが、後者の「陽」の主調音を支配した、精力絶倫の「山の民」のエピソードの中で、相手をする女の不足を、まもなく「戦争」の前線と化す、落合宿の庄屋で間に合わせるという件(くだり)は、紛う方なく、スケールアップさせたエンターテーメントの要素をふんだんに注入せねば済まない作り手の性癖であるとと言っていい。<br />
<br />
<br />
かくて迎えたクライマックス。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEifEHsDim6K0FNyEFnRT28rn62RX_WumuBnoSjxbA44HfR1sorc6f2iPGyvPpS71kNEnujxhCchWyfTTvEruJZTw85MzOh3IRVo05kjTCXNGjtUXPSJV9WNtoaVzAek_yDzpNyqj0thFkgE/s1600/20101024000013.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674311570986996706" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEifEHsDim6K0FNyEFnRT28rn62RX_WumuBnoSjxbA44HfR1sorc6f2iPGyvPpS71kNEnujxhCchWyfTTvEruJZTw85MzOh3IRVo05kjTCXNGjtUXPSJV9WNtoaVzAek_yDzpNyqj0thFkgE/s400/20101024000013.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 240px; margin: 0 0 10px 10px; width: 360px;" /></a><br />
50分間に及ぶ「戦争」の突沸である。<br />
<br />
物語の最後の風景である、「戦争」の突沸のシークエンスを要約してしまえば、テレビ時代劇の剣劇の立ち回りとしての「チャンバラ」以外の何ものでもなかった。<br />
<br />
辺り一面に血飛沫(ちしぶき)が飛び散る中で、俳優の渾身の演技によって表現された「全身闘争者」たちの形相の凄みを、カラーフィルムに張り付ける技巧でカモフラージュさせただけで、「戦場のリアリズム」が分娩するに足る心理的緊張感・恐怖感が、観る者にまるで伝わって来ないからである。<br />
<br />
敢えて下品な苦言を呈すれば、ミヒャエル・ハネケ監督の「ファニーゲーム」(1997年製作)という、バイオレンスへのアイロニーによって無化されたように、致命的打撃を執拗に受けても決して斃れない、ハリウッドムービーの粗悪さが集中的にダダ洩れてしまったかの如く、単に、長尺記録を狙ったとも思える50分間のシークエンスでしかなかったということだ。<br />
<br />
凄惨な描写を含む前半の重苦しい主調音を台無しにした、このクライマックスの長尺なシークエンスが露わにしたのは、テレンス・マリック監督の「シン・レッド・ライン」(1998年製作)がそうであったように、命と命が限界状況下の恐怖の中で激突し合う、全き「戦場のリアリズム」の致命的な欠落であった。<br />
<br />
それは、巧みな殺陣さばきを誇示する武士や、件の戦場をゲームセンターに変えた男を含む、「全身闘争者」たちの「チャンバラ」ごっこであり、13人対53人という、合理性を持つ「戦争」の突沸をクライマックスに据え、リアリズム時代劇に徹し切った工藤栄一監督のマスターピースとの比較を無化し得るだろう、超ド級の、過剰なだけの馬鹿騒ぎ以外の何ものでもなかったという辛辣な批評をも添えたい程だ。<br />
<br />
この「戦争」の突沸のシークエンスを、最大の見せ場と把握する作り手によって達成された表現の本質は、単なる娯楽活劇の範疇に予定調和的に収斂されていく、そこだけは特段にスケールアップさせた「命取りのゲーム」であったと断じていい。<br />
<br />
勿論、「それもあり」だが、しかし本篇を以(も)って、「完全無欠のエンターテーメント」の達成を果たしたと自負するならば、それもまた主観の相違でしかないだろう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiFUSEQzfGS4cgqofZX7vT80zqXK6PZBZh0D9HPy9EnmZLOUF85JPyKUYJQuMPA__xAsNFdrF7Dh6RHKSbwt8qOZtR7k_ugkM1GFJ_ZzACnzceO_66OxkgyQM1UN40pl3dIv-BLoblnv2U8/s1600/story2photo.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674311208021210978" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiFUSEQzfGS4cgqofZX7vT80zqXK6PZBZh0D9HPy9EnmZLOUF85JPyKUYJQuMPA__xAsNFdrF7Dh6RHKSbwt8qOZtR7k_ugkM1GFJ_ZzACnzceO_66OxkgyQM1UN40pl3dIv-BLoblnv2U8/s400/story2photo.jpg" style="float: right; height: 234px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 370px;" /></a><br />
要するに、三池崇史監督は、「戦争」のリーダーである島田新左衛門の、「斬って斬って斬りまくれ!」という号令一下、「戦争」の突沸のシークエンスの中に、「全身闘争者」たちの体力の限界を遥かに超えた、スーパーマン的パフォーマンスを全面展開させるに足る、超ド級で過剰な描写をベッタリと張り付けることで、作る者も観る者も殆ど偏差のないマキシマムなカタルシスを手に入れる快楽のうちに、「時代劇の決定打」を存分に放ったつもりなのだろう。<br />
<br />
「全身闘争者」たちの中にあって、参謀役の御徒目付組頭を演じた松方弘樹による、殆どそれだけで完璧な構図を構成し得るような見事な殺陣に象徴されるように、存分に剣劇の大立ち回りを楽しんで手に入れられるマキシマムなカタルシスに浸ればいいではないか。<br />
<br />
その辺りが、三池崇史監督の直截(ちょくさい)な思いであることが分っていても、なお残る、「戦場のリアリズム」の徹底的な欠落。<br />
<br />
然るに、件の大御所役者による見事な殺陣が最も抜きん出ていたことで、「戦場に殺陣は似合わない」と考える私から見れば、却って、そこで失ったリアリティもまた、少なくとも看過し難い何かなのだ。<br />
<br />
そんなに堅苦しく考えるな、と言う向きも多いだろう。<br />
<br />
無論、その辺りの感懐を否定すべくもない。<br />
<br />
一切が好みの問題に尽きるからだ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXDAcytu5FqIonVprH7De-w7JAF2CHHKtNLFaN4DIYttqlaCIGqKk5hsb1-7uk85DZdTf3Q4-Qe13cjTpwfoHHxB2BowNayNmpn9FtQIzV3qR2ll5PkyBT_fNz5HENDBNcpipSzQnjg94/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXDAcytu5FqIonVprH7De-w7JAF2CHHKtNLFaN4DIYttqlaCIGqKk5hsb1-7uk85DZdTf3Q4-Qe13cjTpwfoHHxB2BowNayNmpn9FtQIzV3qR2ll5PkyBT_fNz5HENDBNcpipSzQnjg94/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
但し、心理的緊張感・恐怖感を随伴することのない映像からは、本物のリアリズムが分娩されようがないということ ―― それだけは確かである。<br />
<br />
<br />
<br />
4 力感溢れる大型時代劇の、その雄々しい立ち上げの映画空間を支配した歌舞伎もどきの世界の遊び方<br />
<br />
<br />
<br />
リアリズムの問題から離れて、ここで考えてみたい。<br />
<br />
テーマ性についてである。<br />
<br />
相当程度において面白い映画を構築した三池崇史監督のメッセージを、本作から拾うことがあるとすれば、本作の中で執拗に語られた、「天下万民のために起つ」という胡散臭いまでの、「絶対善」としての大義名分の連射である。<br />
<br />
この連射の留めは、ラストシークエンスにおいて炸裂した。<br />
<br />
仲間たちを次々に喪っても、なお生き残った島田新左衛門は、「みなごろし」と書かれた例の和紙に象徴される、「民の苦衷」を救う集団としての「全身闘争者」たちを糾合し、その「戦争」の突沸の括りを収斂させる戦場の中枢で、それ以外にない大義名分を放って見せるのだ。<br />
<br />
「天下の御政道のため、我らはこの無謀な戦いに参画した」<br />
<br />
これが、そのときの大口上。<br />
<br />
200人以上の敵を相手にする「戦争」の突沸の中で、いつしか、「何があろうと殿を守る」と言い切った鬼頭半兵衛を筆頭に、僅か数人しか家来を随伴していない松平斉韶の前に、毅然と立ち塞がった島田新左衛門の口上である。<br />
<br />
口上の手順通りと言うべきか、殆ど間髪を容れず、「絶対悪」である松平斉韶に忠義に殉じる鬼頭半兵衛と、「絶対善」としての大義名分に殉じる島田新左衛門の対決が開かれるが、所詮、防衛一方の剣客は、攻勢一方の剣客に敵うはずもなく、そこもまた予定調和的に収斂されていく。<br />
<br />
「絶対悪」への忠義が、「絶対善」としての大義名分を持つ「全身闘争者」の気迫と対等に渡り合うには、主君の人格に張り付く「最も愚かな為政者」=「絶対悪」という認知を超克する以外にないのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjs1BCRgLi6S-7AcfmZHWRKxaQgugkd4LlUe2JGNKD_z2lj5KVlJoWXDW3tCjMIZOcbTFKGvwsoFLrl9BziXQUHW21SVvglDr7_qC8QnNAT2Ab3Pi9ZiJGZNRVWGtGvRbS2OtqD2skcLtJA/s1600/1285918707.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674309736756600578" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjs1BCRgLi6S-7AcfmZHWRKxaQgugkd4LlUe2JGNKD_z2lj5KVlJoWXDW3tCjMIZOcbTFKGvwsoFLrl9BziXQUHW21SVvglDr7_qC8QnNAT2Ab3Pi9ZiJGZNRVWGtGvRbS2OtqD2skcLtJA/s400/1285918707.jpg" style="float: right; height: 266px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
要するに、元禄赤穂事件がそうであったように、件の認知を擯斥(ひんせき)し得てもなお、「防衛的忠義」は多くの場合、「攻撃的大義」の前でひれ伏すしかないのである。<br />
<br />
だから、この対決の帰趨は予約済みだったと言う外にない。<br />
<br />
そこに残った二人の男。<br />
<br />
「絶対善」という大看板を担う島田新左衛門と、「絶対悪」というラベリングを「全身闘争者」たちから張り付けられた松平斉韶である。<br />
<br />
かくて、命と命が限界状況下の恐怖の中で激突し合う、全き「戦場のリアリズム」の渦中に、殆ど歌舞伎の世界が開かれたのである。<br />
<br />
敢えて解釈すれば、大義名分なしにテロもどきの「戦争」を合理化し得ないが故に放った口上であるだろう。<br />
<br />
だから、「絶対善」としての大義名分に対して、同様に、己が立場の大義名分を誇示する口上が放たれた。<br />
<br />
「政(まつりごと)とは、政を行う者のみ都合よく、万民はその下僕として生きるしかない」<br />
<br />
これは、「絶対善」によって仮構された、「絶対悪」である松平斉韶の口上だが、なお口上返しが繋がった。<br />
<br />
「たとえ仕組みがそうであろうとも、下僕が下僕として歯向かうときがある。下が支えて初めて上であることが、まだお分りになりませんか」<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgRAdvbDuqRjhDisSmKpmlEWCNaGJCeDWK4aM_IMVS_6qUs00v-nmLwvFEiLWqiJAY0ka2Vcghr-lLEy4j1bOh2bRX0r9JANAIrUB9qLNbdlUbtoO6Us6LGOTAt_J0GE2ySGdD6cv-Ip9s/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="257" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgRAdvbDuqRjhDisSmKpmlEWCNaGJCeDWK4aM_IMVS_6qUs00v-nmLwvFEiLWqiJAY0ka2Vcghr-lLEy4j1bOh2bRX0r9JANAIrUB9qLNbdlUbtoO6Us6LGOTAt_J0GE2ySGdD6cv-Ip9s/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
ジョーク含みで言えば、ほぼ完璧に歌舞伎もどきの世界が、力感溢れる大型時代劇の、その雄々しい立ち上げの映画空間を支配するのである。<br />
<br />
当然、そこには、「滅びの美学」に殉じる者たちに寄せる作り手のメッセージが読み取れる。<br />
<br />
ただ、私には納得し切れないのだ。<br />
<br />
このような大見栄を切る説明的な台詞のうちに、力感溢れる大型時代劇の、その娯楽活劇の文脈を包括するのは自由だが、この一連の「戦争」の突沸の果てに待機させていたのが、恐らく、「現代社会の閉塞感」に引き寄せたかの如く、歌舞伎の世界とも思しき予定調和の大団円であるとするならば、あまりに牽強付会(けんきょうふかい)であり、短絡思考であると言えないか。<br />
<br />
以下、本作にたいする私の率直な感懐を包含させつつ、稿を変えて論評したい。<br />
<br />
<br />
<br />
5 てんこ盛りのメッセージを詰め込んだ娯楽活劇の「乱心模様」<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjYu9Hvvml5FyttgVjitTozEY-Ti8eryBpzm41j2vGK7s9NLQc7yVhoIavXZ36tytkHgLI6oRlWYBO3hMCtdc33d8v6tCOCA7IMlawZabLLsTu_PYxXkklXO5EjOWfEG_viLhh_If091dwB/s1600/1285918363.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674309445684890002" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjYu9Hvvml5FyttgVjitTozEY-Ti8eryBpzm41j2vGK7s9NLQc7yVhoIavXZ36tytkHgLI6oRlWYBO3hMCtdc33d8v6tCOCA7IMlawZabLLsTu_PYxXkklXO5EjOWfEG_viLhh_If091dwB/s400/1285918363.jpg" style="float: right; height: 266px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 364px;" /></a><br />
この映画を単純に考えるならば、「諌死」という名の武士道の「滅びの美学」の開示を見せたファーストシーンと、どこまでも虚構の観念系でしかない武士道を、その階級を代表する者の拠って立つ精神的基盤と信じる文脈を完全に相対化し切った感のある、ラストシーンの二人の男たち(山田孝之演じる島田新六郎、伊勢谷友介演じる木賀小弥太)の、無傷の生還との対比的な脈絡で把握することで、ほぼ了解し得るラインとなっている。<br />
<br />
即ち、吹石一恵(2役)演じる芸妓お艶の笑顔を映し出したラストカットに象徴される、島田新六郎の世俗への生還という構図のうちに収斂されるのは、結局、「天下万民のために起つ」という大義名分を張り付けたテロルが包括する意味を、恰も根柢的に屠っているかのような残像に読み取れる、三池崇史監督の基幹メッセージもどきであった。<br />
<br />
ところが、過剰なまでの本篇の映像で拾われたメッセージの中には、明らかに、「死に場所」を求めることにのみ意味を持つと信じる武士道を無前提に礼賛しているとまでは言わないが、しかし、そこに垣間見えるのは、「死に場所」を求めてダウジングした戦場に殉じる、「全身闘争者」たちの勇猛な闘争に対して、相応の思い入れを寄せて、「滅びの美学」のうちに自己完結を果たした彼らの、全人格的な身体表現によるテロルを限定的に受容している印象が拭えないのである。<br />
<br />
「戦争」を求めて止まない男たちのモチベーションを、キラーコンテンツの格好のセールスとして成就し、上手に掬い取った感のある本作に張り付くメッセージの混乱が、そこに透けて見えるのだ。<br />
<br />
武士道の「滅びの美学」に殉じた、「全身闘争者」たちの自己完結点まで完璧に描き出す本作の情感世界が、取って付けたようなメッセージの浮遊感覚をも食い潰しているのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjElIA0nTP-EB_SJf1mrRCR6VFA8LWehlm8foGlQNg4_NbCN8EqMwvjJeLUXvlCnM419NEpUQtzVvQadFCqyzxkkdxtXMJKuJ7KInec2H66PdvPShUC7McR_t38hgVSeLzvtvdKpkotSPeX/s1600/img_939908_27440065_2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjElIA0nTP-EB_SJf1mrRCR6VFA8LWehlm8foGlQNg4_NbCN8EqMwvjJeLUXvlCnM419NEpUQtzVvQadFCqyzxkkdxtXMJKuJ7KInec2H66PdvPShUC7McR_t38hgVSeLzvtvdKpkotSPeX/s640/img_939908_27440065_2.jpg" width="640" /></a></div>
しかも厄介なことに、「最も愚かな為政者」の「蛮行」を、恰も斃されるべき「絶対悪」として仮構することで手に入れた、泣く子も黙る「最強」の大義名分が放つ心理的推進力は、このような「最も愚かな為政者」を生み出した社会の崩壊を必然化するという文脈の中で、そこだけは明瞭に、「現代性」を包括させたメッセージとして連射されてきたことだ。<br />
<br />
そうでなければ、「これは、広島長崎に原爆が投下される百年前の日本の物語である」などという、冒頭のキャプションの意味不明な解釈を引き寄せることはできないであろう。<br />
<br />
原爆投下という、大量殺戮を象徴させる歴史的事件を敢えて挿入させたキャプションは、どう考えても「反戦」のイメージしか想起し得ない何かであろう。<br />
<br />
それとも、大義名分に関わる疑義についての問題提示を、原爆投下と本作のテロの遂行という両者にリンクさせているとも考えられるが、とても、そこまでのメタメッセージの斟酌を深読みする次元に誘導しているとは思えないので、一切は不分明であるとしか言えないのだ。<br />
<br />
不分明でありながらも、本作で描かれたテロの限定的正当性をも掬い取ることで、この作り手は、「報復的正義」のうちにバイオレンスを吸収した究極の有りようを描き出したかのようにも解釈できるのである。<br />
<br />
その解釈のうちに、「死に場所」を求める虚構の観念系が収斂されることで、「完全無欠のエンターテーメント」を目指したとしか思えないのである。<br />
<br />
「『テロを起こすのは、天下万民のため』という大義名分が、観客にとって嘘に聞こえればいいなというのはありました。もちろん、彼らは動くためにはそう言わなければならないのですが、『それだけじゃない』という臭いが、作品から出てくると良いとは思っていました」(完全無欠のエンターテインメントを求めて -『十三人の刺客』三池崇史監督)<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi-RgFhEPANv3ePTdNCkcrlRSRK9VeoK9Fme1hVlRyK3fDLoy2vyo-7NRjv6624QGcU4bdhl54fHRmHeR_1exjvpaCkGtDSlwXikeJz6qsP4YzrQURBPYULfD-bCW1w_RLGc2FKXVVuso-6/s1600/A0002714-00.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5674310382182199218" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi-RgFhEPANv3ePTdNCkcrlRSRK9VeoK9Fme1hVlRyK3fDLoy2vyo-7NRjv6624QGcU4bdhl54fHRmHeR_1exjvpaCkGtDSlwXikeJz6qsP4YzrQURBPYULfD-bCW1w_RLGc2FKXVVuso-6/s400/A0002714-00.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 304px; margin: 0 0 10px 10px; width: 380px;" /></a><br />
これは、インタビューに答えた三池崇史監督(画像)の言葉。<br />
<br />
決して声高ではないが、それでも、「『それだけじゃない』という臭い」という思いに集約される文脈の中に、「今、生きているこの時代」でこそ、「報復的正義」の正当性の検証が具現されるという理念系が漂流しているとも読めるだろう。<br />
<br />
残念ながら、「侍とは面倒なものよ」と言って死んだとしても、私が眼を通した限り、「社会を下支えする若者達へのメッセージ」というブログの言葉に象徴されるように、「天下万民のために起つ」という大義名分によって惹起された「戦争」のの突沸のうちに、相応のカタルシスを手に入れた数多の観客にとって、そこで繰り返し叫ばれた大義名分は、別段、過剰に塗り込められた虚空の叫喚には聞こえなかったようである。<br />
<br />
当然である。<br />
<br />
明らかに作り手は、稲垣吾郎のキャスティングが見事に嵌った感のある、「戦のある時代を作りたい」などと言い放つ、「最も愚かな為政者」=極悪非道な「絶対悪」のダーティ・ヒーローの退路を断ち切って、その前に毅然と対峙した「全身闘争者」の首領が放つ大口上によって開かれた、「最後に待機させた、決定的な命取りの戦争」の描写に娯楽活劇の勝負を賭けたにに違いないからだ。<br />
<br />
かつての任侠映画と同質の構造を持つに足る、「絶対悪」のダーティ・ヒーローを屠って、屠って、屠り抜くシーンの挿入なしに手に入れられない大カタルシスが、まさにそれを存分に保証することで、観客の情動を騒がせる映画を作りたかったと思われるからである。<br />
<br />
「腐った政治を洗濯するヒーローがいつも出てくる」(『十三人の刺客』役所広司 インタビュー)<br />
<br />
これは、「時代劇の面白さとは何でしょう?」という問いに応えた主演俳優の、あまりに直截な言葉。<br />
<br />
「絶対善」という大看板を担う島田新左衛門を演じた役所広司は、本作のテロリストとも思しき「全身闘争者」たちを、きっぱりと「ヒーロー」と形容したのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjHaOlCNJ2W13OX5BrYJ34l437BLlGKSi9yaUJdLrCgHczhtBdTtkrSuvsdRB1gDtvXuz6cmmPU7sNCZ40NeQ52QE2y1POubV9JwEJAhyphenhyphentiOwXdi0eWjPvAWv588f4KTTbileYVQvMEIz3W/s1600/vlcsnap-2012-06-12-22h24m56s170.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="388" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjHaOlCNJ2W13OX5BrYJ34l437BLlGKSi9yaUJdLrCgHczhtBdTtkrSuvsdRB1gDtvXuz6cmmPU7sNCZ40NeQ52QE2y1POubV9JwEJAhyphenhyphentiOwXdi0eWjPvAWv588f4KTTbileYVQvMEIz3W/s640/vlcsnap-2012-06-12-22h24m56s170.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「絶対悪」としての「最も愚かな為政者」の象徴的人物・松平斉韶</td></tr>
</tbody></table>
と言うより、このような言葉を言わせるに足る、「報復的正義」によって炸裂する「全身闘争者」たちのヒーロー性を雄々しく立ち上げるためにのみ、恐らく、幕藩体制を基本骨格にする武家社会の支配のシステムの限界を認知し得たが故に、殆ど「自爆心理」を隠し込んだ、加虐的な振舞いによってのみアイデンティティーを手に入れられなかった人格障害を有する、「絶対悪」としての「最も愚かな為政者」の人物造形を、過剰なまでに仮構したと解釈する方が正しいだろう。<br />
<br />
そうでなければ、何の罪もない「敵対組織」の家臣たちを、「斬って、斬って、斬りまくれ!」というテロルの正当性が手に入らないからである。<br />
<br />
やはり、これは「報復的正義」を遂行する「ヒーロー」たちの物語であって、罷(まか)り間違っても、「報復的正義」の自己完結によって、基幹テーマのうちに、「空洞感」や「殺し合うことの虚しさ」を吸収し得る物語を、そこだけを特化して謳い上げた作品とは思えないのだ。<br />
<br />
少なくとも、情感的には、そのようなネガティブな印象を特定的に汲み取るのは無理なのである。<br />
<br />
そうであるならば、ラストカットによって無化された、女を抱くことで愉悦する日々を繋ぐ世俗主義の堂々した立ち上げは、件のメッセージによって相殺されてしまうのではないか。<br />
<br />
何のことはない。<br />
<br />
ここもジョーク含みで言えば、ハリウッド映画と同質の基本骨格を持つ、てんこ盛りのエンターテーメントであるばかりか、てんこ盛りのメッセージをも詰め込んだ娯楽活劇の、腹一杯の「乱心模様」が露呈されるばかりだったのである。<br />
<br />
だからこそと言うべきか、浮薄なメッセージの余計な連射など最後まで蹴飛ばして、徹底して娯楽活劇の極北を目指せば良かったのではないのか。<br />
<br />
私にとって、そんな印象しか持ち得ない映画だった。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-24532326857822756552011-11-05T14:29:00.012+09:002013-10-24T10:37:03.913+09:00マンハッタン('79) ウディ・アレン<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhYRsQglfI-l1JjU1yRQKK3z6cEHKfJE1logtCUqIeqpjPssSgCTtbOj88lfcFxqB0gGuArg3CW9BJV9MSndlnsIVoPepq-1yDBEqn0Yid5Fb9_Zx6ci8tQWxDpM1vl-ljQUt4YiDVO8bOR/s1600/f0009381_932670.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="382" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhYRsQglfI-l1JjU1yRQKK3z6cEHKfJE1logtCUqIeqpjPssSgCTtbOj88lfcFxqB0gGuArg3CW9BJV9MSndlnsIVoPepq-1yDBEqn0Yid5Fb9_Zx6ci8tQWxDpM1vl-ljQUt4YiDVO8bOR/s640/f0009381_932670.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><「おとぎ噺の世界」と、中年男の人生のリアリティの溶融のうちに、人生の哀感を表現し切った傑作></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 成人女性への潜在的恐怖感を埋めるに足る、ローリスク・ローリターンの「恋」の終焉<br />
<br />
<br />
<br />
小心で神経質、コンプレックスが強く、臆病でありながら、人一倍の見栄っ張り。<br />
<br />
そんな男に限って、自分が「何者か」であることを求めている。<br />
<br />
件の男が主人公の本作もまた、「小説家を目指しているシナリオライター」という自己像が張り付いていて、勢い余って、テレビ局との関係を切ってしまった。<br />
<br />
虚栄と同居する小心さを持つ男は、このときばかりは前者の推進力によって駆動したのだろう。<br />
<br />
どこにでもいそうな、そんな喰えない男が、人生の中で、2度に及ぶ結婚生活に破綻を来たした。<br />
<br />
それだけだったら特段の問題も出来しないが、2度目の妻との離婚理由が看過し難かった。<br />
<br />
最初の妻がドラッグ中毒であったことも、男のプライドを傷つけたのだろうが、2度目の妻の場合は、相手が同性愛の女性であったからだ。<br />
<br />
この現実は、その妻との間に子を儲けていながら、男の自我に相当のダメージを与えたに違いない。<br />
<br />
男には、この忌まわしき経験が、トラウマと言うべきネガティブな何かになっていく。<br />
<br />
そのトラウマの根源には、紛う方なく、バイセクシャルの性癖を具有する前妻が、人生の伴侶に「男」である自分よりも、同性の「女」を選んだことが横臥(おうが)しているだろう。<br />
<br />
そのことは、男の「男性性」が否定されたことにあると、男は考えたに違いない。<br />
<br />
男の自我に貯留された憤怒の感情が、前妻の不倫を疑った男がスパイ中に知った事実にショックを受け、前妻の不倫相手への女性を轢き殺そうとした行為に現れていた。<br />
<br />
「何で、僕より彼女の方が良いんだ?」<br />
<br />
あまりに端的な、男の感情表出である。<br />
<br />
加えて、その前妻が自伝を出版すると知った男は、自分の性体験や「奇行」が暴露されることに不安を持ち、繰り返し、前妻の元に抗議に行くが、逆に、レズ相手を轢き殺そうとしたことを難詰(なんきつ)される始末。<br />
<br />
そんな男にとって、前妻から否定された「男性性」の魅力を取り戻すためなのか、最もリスクが少なそうな相手を選び、彼女を自分の恋人にした。<br />
<br />
「男性性」であることを証明することは、自分が「何者か」であることを求めている男にとって、自我アイデンティティに関わる人生の一大事なのである。<br />
<br />
そう思わざるを得ないのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjMA3GwoEonM8J-sZraIOYHnTId9uKCLTnMM1d5ajNow5ov0m41ro6JeXhINbLlGegUOBsGlv-Z9Y2mre3wQAiFWsAILMdIH7MKAA1Yi5ikYW5rOnk0gyI-QDlsyZ1tI9b9mzv2nRrBqqll/s1600/99752fe9.gif" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5671387195815083074" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjMA3GwoEonM8J-sZraIOYHnTId9uKCLTnMM1d5ajNow5ov0m41ro6JeXhINbLlGegUOBsGlv-Z9Y2mre3wQAiFWsAILMdIH7MKAA1Yi5ikYW5rOnk0gyI-QDlsyZ1tI9b9mzv2nRrBqqll/s400/99752fe9.gif" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 191px; margin: 0 0 10px 10px; width: 180px;" /></a><br />
男の名はアイザック。<br />
<br />
「不惑」とは無縁な、小説家を目指している42歳のシナリオライターだった。<br />
<br />
そのアイザックが恋人にした「リスクが少なそうな相手」とは、自分の娘のように年の離れた17歳の女子学生。<br />
<br />
その名はトレーシー。<br />
<br />
この42歳と17歳のカップルは、寧ろ、後者の方が、父に近い男に恋をする関係を保持しているのだ。<br />
<br />
この関係様態は、男にとって好都合であると同時に、17歳の女子学生とのセックスを介して、崩されかけた男のアイデンティティを相応に復元したであろう。<br />
<br />
だからと言って、過去に付き合った男が3人もいたと言うトレーシーは、異性関係に無防備なふしだらな不良少女でもなく、そのキャラは「純粋無垢」のイメージに近い。<br />
<br />
「愛してるのはあなただけ」<br />
<br />
そんなことを吐露するトレーシーの存在こそ、アイザックの崩されかけたアイデンティティを埋めるに相応しい「パートナー」だった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhBGzu3DvudQcJPvuUquh2zrTUo8BTL0wE0inEWsgWFDZ3ezX5DiUEw8NkD6r_7HPelnV_OaNajoXmsenH3jp-1NxXyRs0s66_-ddq0GHOsRgvmyEnKe-XYmxfq1JYx-Pg3ffCcjY3c5glq/s1600/2007-03-10.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5671386876421556050" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhBGzu3DvudQcJPvuUquh2zrTUo8BTL0wE0inEWsgWFDZ3ezX5DiUEw8NkD6r_7HPelnV_OaNajoXmsenH3jp-1NxXyRs0s66_-ddq0GHOsRgvmyEnKe-XYmxfq1JYx-Pg3ffCcjY3c5glq/s400/2007-03-10.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 189px; margin: 0 0 10px 10px; width: 270px;" /></a><br />
まさに、最もリスクが少なそうな「パートナー」だったのだ。<br />
<br />
決してロリコン趣味ではないが、アイザックの内側に、どこかで、2度にわたる離婚のアブノーマルな経緯によって、成人女性への潜在的恐怖感が寝そべっているのだろう。<br />
<br />
「僕みたいな人間は回り道だと思わなきゃ」<br />
<br />
そんなことを言う42歳の中年男は、当面の「パートナー」として特段の不足がないが故に、以下のような気障(きざ)な文句を、17歳の女子学生に放つのである。<br />
<br />
「君はヨブへの神の答えだ。神が『私は試練も与えるが、いい女も造れる』と言うと、ヨブが『恐れ入りました』」<br />
<br />
男にとって無垢で、人を疑うことを知らない少女の存在は、性を処理し、心を一時(いっとき)癒すに足る希少価値であったかも知れないが、どこかでいつも消化不良の気分が残っていた。<br />
<br />
深い教養に満ちた話題の不足感。<br />
<br />
そして何より、恋をしたときの「ときめき」の感情が希薄だからだ。<br />
<br />
そんな男が、一人の成人女性と知り合うに至る。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhAZbqSi_oznW74A9FR6lW-XB7OM12HR7gcol-PmTEDoU0uuX_zMkpfRZzVPD-INof12MlQtlR5LNcU5oiZDLovby-3jtpT6uHCj2_Rmdd8S8uQkFNNi2v-hWV-hnOMWyzjnsZISA94sIw/s1600/mann4.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="231" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhAZbqSi_oznW74A9FR6lW-XB7OM12HR7gcol-PmTEDoU0uuX_zMkpfRZzVPD-INof12MlQtlR5LNcU5oiZDLovby-3jtpT6uHCj2_Rmdd8S8uQkFNNi2v-hWV-hnOMWyzjnsZISA94sIw/s400/mann4.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">メリーとアイザック</td></tr>
</tbody></table>
<br />
親友の大学教授であるエールの不倫の相手で、その名はメリー。<br />
<br />
雑誌編集者のキャリアウーマンである。<br />
<br />
ところが、初対面で「優秀な編集者」を自慢するメリーから、あろうことか、アイザックが尊敬するベルイマンをけなされて、彼女に悪印象しか受けなかった。<br />
<br />
それでも、生意気でペダンチックながらも、話題を共通に持つ同世代の女性と出会ったことで、男の心は揺れ動き、見る見るうちに男女の関係にまで最近接していったのである。<br />
<br />
それは、成人女性への潜在的恐怖感を埋めるに足る、ローリスク・ローリターンの女子学生との「恋」の終焉を意味していた。<br />
<br />
<br />
<br />
2 成人女性への潜在的恐怖感を希釈化させていく感覚の氾濫の狡猾さ<br />
<br />
<br />
<br />
アイザックとメリーの、ロマンチックなデート。<br />
<br />
夜のマンハッタンの散歩の終わりは、マンハッタン島に架かるクイーンズボロ橋(マンハッタンとクイーンズを結んでいる橋)の下のベンチだった。<br />
<br />
「きれいね」とメリー。<br />
「夜明けの光が美しい」とアイザック。<br />
「うっとりよ」とメリー。<br />
「実に偉大な街だ。魂を奪われてしまう」とアイザック。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQS-r-O-7Y-MlZSUEXU3peaoACShiK4AtrVp_b9zoL4yjiCS-miEm15SIu2ermOY_xCyF3rYdUuFCNDtE0Os0i3yLghuV8PfBpJwh5zRbvGL-k6p1d0I_gNmPduXDzZRWfZ4cKe1wOwtJ-/s1600/031cb0f1.gif" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5671385807087195826" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQS-r-O-7Y-MlZSUEXU3peaoACShiK4AtrVp_b9zoL4yjiCS-miEm15SIu2ermOY_xCyF3rYdUuFCNDtE0Os0i3yLghuV8PfBpJwh5zRbvGL-k6p1d0I_gNmPduXDzZRWfZ4cKe1wOwtJ-/s400/031cb0f1.gif" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 252px; margin: 0 0 10px 10px; width: 200px;" /></a><br />
これだけの会話だが、程なく、「あなたは子供を産んでみたい人よ」と告白するメリーに、アイザックは、「電気消して、子供を産もう」と反応するまでの関係に発展していく。<br />
<br />
ダンスする二人。<br />
<br />
ボートに乗る二人。<br />
<br />
成人女性への潜在的恐怖感を、どこかで張り付けているかのような男だったが、それでもなお、異性を求めざるを得ないアイザックの、恋多き人生には終わりが見えないようだった。<br />
<br />
成人女性への潜在的恐怖感が加速的に希釈化されていく感覚の氾濫は、まもなく、恋多き中年男の狡猾さを露わにしていく。<br />
<br />
17歳の女子学生との恋の、殆ど予約されたかのような決定的破綻である。<br />
<br />
常に、自分が「何者か」であることを求めている男には、幼い思考を脱却できないトレーシーとの関係は、時間潰しのゲームであったかのようだった。<br />
<br />
「もう、会わない方がいい」とアイザック。<br />
「なぜ?」とトレーシー。<br />
「僕にイカレ過ぎている」<br />
「私は愛しているのよ」<br />
「違うだろ。まだ子供だ。愛なんて分らない」<br />
「でも、楽しいわ。セックスもいいし」<br />
「まだ17だ。21までには男性関係も増える」<br />
「愛してないの?」<br />
「実は他の女を・・・」<br />
「ホント?」<br />
「君とは一時的なものと言っただろ」<br />
「会ってるの?」<br />
「僕より年下だけど、同世代の女だ」<br />
「面白くないわ」<br />
「深入りしちゃダメだ。人生の間口を広げた方がいい」<br />
「逃げたいくせに、お為ごかしだわ」<br />
「いじけた考え方をするな。僕は42だ。髪は薄いし、右の眼は遠い」<br />
「私より好きな人なんて・・・」<br />
「怨めしそうに言うな。同世代の男と付き合え」<br />
<br />
嗚咽するトレーシー。<br />
<br />
「泣かないでくれ」とアイザック。<br />
「ほっといて」<br />
<br />
そこには、「君はヨブへの神の答えだ」と放ったアイザックの言葉さえも、お為ごかしのように思える乾いた毒気があった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMKP_9uC4zoSRGa5S5pUirJkDwj9wkoohAORqLWzmNVlGlM_FYSY6IdMpXoVzPZrTD7Bl5jxIROiOIWO84r10VbR9FSC1MPVU2ivAEG275aDo2nLBTcPaRRaExA4MKKEes54P8JZNp-6E/s1600/Hamilton_Park,_Jersey_City.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="444" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMKP_9uC4zoSRGa5S5pUirJkDwj9wkoohAORqLWzmNVlGlM_FYSY6IdMpXoVzPZrTD7Bl5jxIROiOIWO84r10VbR9FSC1MPVU2ivAEG275aDo2nLBTcPaRRaExA4MKKEes54P8JZNp-6E/s640/Hamilton_Park,_Jersey_City.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">マンハッタン島①(ウ<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;">ィ</span>キ)</td></tr>
</tbody></table>
それは、「快楽の落差」についての「賞味期限」を計算して動いた男のエゴイズムとは切れていたが、「賞味期限」の計算すらも無頓着な少女との心理的距離は埋め難い何かでもあった。<br />
<br />
<br />
<br />
3 恋のタイトロープの終焉が露わにした男の哀感<br />
<br />
<br />
<br />
身勝手な男の恋のタイトロープは、呆気ない形で終焉するに至った。<br />
<br />
話題を共通に持つと信じる同世代の女性との関係幻想が、袈裟斬りに遭った者の悲哀を晒したのである。<br />
<br />
アイザックの親友の不倫相手だったメリーは、男の親友への愛を告白し、男から離れていったのだ。<br />
<br />
「ショックだ」<br />
<br />
怒りを真っ向勝負で激発できない内向性の故か、全てを失った男は、そう吐露するに留まった。<br />
<br />
既に、前妻が出版した、「結婚 離婚 そして自己」という表題の「暴露本」によって、すっかり傷ついた男には、反発力の欠片を当人への抗議で晴らす熱量しか残っていなかった。<br />
<br />
「深く巧みな女性との愛の行為で悟った.夫との体験の虚しさ」<br />
<br />
「彼は突如、ユダヤ的進歩主義。男性優位主義。人間不信の発作に襲われた。私の恐怖を悲劇的に語るものの自己陶酔に過ぎない」<br />
<br />
そんな言葉が書かれてある「暴露本」の中で、「人間不信」という言葉に反応した元夫の心理を読み解けば、それが男の性格の本質を言い当てているからだろう。<br />
<br />
全てを失ったような心境下で、今や、男は「何者」でもなくなったのか。<br />
<br />
心に穿たれた空洞感を埋めるべく、42歳の中年男は、アイデンティティークライシスに陥った者の如く瞑想に耽っていく。<br />
<br />
「不必要な精神問題を、次々に作り出すマンハッタンの人々。それは解決不能な宇宙の諸問題を逃れるため。楽天的に考え、人生は生きるに値するか。生きがいは確かにある・・・」<br />
<br />
アイザックの瞑想は、しばしば溜息をつきながらも、広がりを持ちつつ延長されていく。<br />
<br />
「そう、僕にとっては、まずはグルーチョ・マルクス(注1)…それからウィリー・メイズ(注2)、それから……交響曲ジュピターの第二楽章(注3)、それから、ええと……ルイ・アームストロングがレコーデイングした『ポテト・ヘッド・ブルース』……もちろんスウェーデン映画……フローベールの『感情教育』……ええと、マーロン・ブランドにフランク・シナトラ……それからセザンヌが描いたあの素晴らしい林檎と梨……それからサム・ウー(注4)の蟹…」<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj1tDroK77ZR069e-MwY5yRbqLv38Tfp5E5UIqByUWV9S21jIhnCP7t8knlXi7Rschj5mZe1-7MeCbKYZuJ5x2Aoe9DdzsxZMdEfYCKEoGDRxD55ayzUMmzzZ0bTNMdBgdnNqo0j8CzFMM/s1600/mari2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="279" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj1tDroK77ZR069e-MwY5yRbqLv38Tfp5E5UIqByUWV9S21jIhnCP7t8knlXi7Rschj5mZe1-7MeCbKYZuJ5x2Aoe9DdzsxZMdEfYCKEoGDRxD55ayzUMmzzZ0bTNMdBgdnNqo0j8CzFMM/s320/mari2.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">トレーシー</td></tr>
</tbody></table>
ここまで広がったアイザックの瞑想が辿り着いたのは、「トレーシーの顔・・・」だった。<br />
<br />
ここで、42歳の中年男の迷妄が一瞬固まった。<br />
<br />
「トレーシーと別れたのはバカだった。一番気の置けない関係は、あの子だけだ。でも若いからね」<br />
<br />
これは、親友の妻に吐露した言葉。<br />
<br />
縋り着きたい何かを求める男にとって、「これだけは失いたくないもの」に逢着したとき、その短躯を駆動させる熱量を自給するのに充分な行為に繋ぐのだ。<br />
<br />
マンハッタンの街の中枢を走って、走って、走り抜くアイザック。<br />
<br />
トレーシーに会いに行くためだ。<br />
<br />
ロンドンの演劇学校へ行く準備で忙しいトレーシーとの、間一髪の再会を果たしたアイザックは、自分の思いを吐露する。<br />
<br />
「行かないで」<br />
<br />
トレーシーに正直な思いを懇願しても、彼女の意思は固かった。<br />
<br />
半年の留学と聞き、必死に止めるアイザック。<br />
<br />
「愛があれば問題ないでしょう」<br />
「君は変わる。半年で別人になる」<br />
「そういう経験を積めと言ったのはあなたよ」<br />
「でも、今変わるのは嫌だ」<br />
「変わらない人もいるわ。」<br />
<br />
既に、この会話の中に、「失恋」して初めて、「大人の世界」の狡猾さを学習し得たトレーシーの成長が垣間見えていた。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEio67r-Egl4duWlkzfpH0hhac8q6eUIklfM6lsP3eXOLFMctvRqWeHSZv0FWiWVMVhr_Go-yjwdKipOUlGJbz0lVH4D92-jiez5wUxfvEgeHqpDLVhLyLQyJLvH5DmM3M1mwsVOPnRKli8/s1600/800px-NYC_wideangle_south_from_Top_of_the_Rock.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="368" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEio67r-Egl4duWlkzfpH0hhac8q6eUIklfM6lsP3eXOLFMctvRqWeHSZv0FWiWVMVhr_Go-yjwdKipOUlGJbz0lVH4D92-jiez5wUxfvEgeHqpDLVhLyLQyJLvH5DmM3M1mwsVOPnRKli8/s640/800px-NYC_wideangle_south_from_Top_of_the_Rock.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;">マンハッタン島②(ウィキ)</span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
<br />
トレーシーの旅立ちは、まさに、彼女自身の本来のアイデンティティーを獲得するための自立行でもあったのだ。<br />
<br />
恐らく、ロンドンへの彼女の旅は、一向に変わり得ない42歳の中年男を置き去りにするものになるだろう。<br />
<br />
中年男にも、その辺りの心理の機微は把握できている。<br />
<br />
だから男は、必死に懇願したのだ。<br />
<br />
懇願する以外にない男の哀感だけが、そこに露わにされていたのである。<br />
<br />
小心でシャイで臆病でありながら、人一倍見栄っ張りのアイザック以外の「何者」でもない男は、今や「ときめき」よりも、「安らぎ」を求めるばかりだったのだ。<br />
<br />
人は最も辛いとき、自我の拠って立つ心の安寧だけを求めるだろう。<br />
<br />
一時凌ぎのセックスの快楽よりも、遥かに継続力を持つ心の安寧こそが、幸福のイメージに近い何かである。<br />
<br />
なぜなら、幸福とは、「持続的な充足感情」であるからだ。<br />
<br />
特別の「何者か」でなくてもいいのだ。<br />
<br />
自分の適正サイズに合った幸福の実感さえ手に入れられれば、それでいいではないか。<br />
<br />
存分に軽薄なように見える男にとって、己がアイデンティティに関わる、真剣な人生の一大事を、男なりに動き、漂流し、傷ついた果てに置き去りにされたが、それもまた、男の変わり得ない人生の宿命であるだろう。<br />
<br />
この辺りが、滋味深い本作から直截(ちょくさい)に受けた私の感懐である。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「おとぎ噺の世界」と、中年男の人生のリアリティの溶融のうちに、人生の哀感を表現し切った傑作<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjuWJ7PFS41C6zxQX8HnlRtfhwE4KrCfneQTJhhrj4Quc_WSXzGuMCo0xxemLNuCoz5P6buB3OD38cgOjOjAN0IdZqF2hVM6p2R5nnsGcto-_jTUB-LAuI-9sfu1V38JFzCSYb-_6z6Nr4/s1600/manhattan0133.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="153" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjuWJ7PFS41C6zxQX8HnlRtfhwE4KrCfneQTJhhrj4Quc_WSXzGuMCo0xxemLNuCoz5P6buB3OD38cgOjOjAN0IdZqF2hVM6p2R5nnsGcto-_jTUB-LAuI-9sfu1V38JFzCSYb-_6z6Nr4/s400/manhattan0133.jpg" width="400" /></a></div>
どこにでもいそうな男の人生の断片を、ダッチロールする「恋模様」をテーマに描いた本作の等身大の「普通さ」こそ、ニューヨークの中枢であるマンハッタンをこよなく愛する、ウディ・アレンの真骨頂であった。<br />
<br />
「彼はマンハッタンに惚れていた。街の雑踏で育ったのだ」<br />
<br />
これは、映像冒頭で紹介された、「小説家を目指しているシナリオライター」という自己像を持つ42歳の中年男の、その小説の草稿の中の言葉である。<br />
<br />
マンハッタンの街の雑踏を愛する中年男は、そのままウディ・アレン自身の思いでもあるだろう。<br />
<br />
<br />
本稿の最後に、そのウディ・アレンの映画空間を理解するには、打って付けの「お宝本」の中の興味深い言葉を引用して、擱筆(かくひつ)したい。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgnu4O2Cdc9ceAkZZ9jXF7xYY0k03a1gjm3oNPO8pcSRVNLXxKJwUf5XQIDFwqqC10S05kfVM06b-Taut8PcQrl7GLR2UmD-LUurvXj2MM7eYvPPR4QzBFeRcQiaQPUmrVS2Rvl0fZgUm0Z/s1600/IMG.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5671389764952999394" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgnu4O2Cdc9ceAkZZ9jXF7xYY0k03a1gjm3oNPO8pcSRVNLXxKJwUf5XQIDFwqqC10S05kfVM06b-Taut8PcQrl7GLR2UmD-LUurvXj2MM7eYvPPR4QzBFeRcQiaQPUmrVS2Rvl0fZgUm0Z/s400/IMG.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 285px; margin: 0 0 10px 10px; width: 381px;" /></a><br />
その近刊書の表題は、「ウディ・アレンの映画術」(注5)。<br />
<br />
「これまでの映画で何か狙いどおりにできたことってありますか。<br />
<br />
WA●―ときにはあるよ。これはほんとたまたま気づいたんだけど、『マンハッタン』を作ったあとで僕は、ニューヨークをすっごく魅力的に見せたいっていう強い思いが自分になくなっているのに気づいたんだ。いまだってニューヨークを撮るときは魅力的に撮るよ。でも、あくまでもストーリーのほうが優先なんだ。昔の僕にはニューヨークを夢の国のように撮りたいっていう強い願望があったんだけど、その思いは『マンハッタン』で完全に満たされたんだよ」(「ウディ・アレンの映画術」エリック・ラックス 清流出版 井上一馬訳)<br />
<br />
ここでウディ・アレンは、「ニューョークを夢の国のように撮りたいっていう強い願望」が、「『マンハッタン』で完全に満たされたんだよ」と語っているのだ。<br />
<br />
この著書の中で、ウディ・アレン自身は、想定外の評価を受け、映画監督としての地位を決定付けた「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2009/11/77.html">アニー・ホール</a>」(1977年製作)や「マンハッタン」等の初期の作品よりも、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2010/08/84.html">カメレオンマン</a>」(1983年製作)、「<a href="http://zilgz.blogspot.jp/2013/02/85_27.html">カイロの紫のバラ</a>」(1985年製作)、「夫たち、妻たち」(1992年製作)、「マンハッタン殺人ミステリー」(1993年製作)、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2009/12/94.html">ブロードウェイと銃弾</a>」(1994年製作)、そして近年の、「マッチポイント」(2005年製作)などの中期以降の作品の方が気に入っていると語っているが、私も含めて大方の観客に絶賛された、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の導入によって開かれる、「マンハッタン」というモノクロ画面(カラーを脱色させた表現技巧)に漂う、そこはかとない人生の哀感に共感したのは、紛う方ない事実であるだろう。<br />
<br />
まさに、本作は「夢の国」という「おとぎ噺の世界」と、恋に生き、恋に敗れる中年男の人生のリアリティの溶融のうちに、そこはかとない人生の哀感を的確に表現し切った傑作である。<br />
<br />
少なくとも私にとって、小品ながら、そのような解釈で納得し得る、何とも滋味深い作品だった。<br />
<br />
<br />
(注1)アメリカの代表的コメディアンであるマルクス兄弟の三男で、「我輩はカモである」のイカレた宰相役を演じた。<br />
<br />
(注2)サンフランシスコ・ジャイアンツ(MLB)のスラッガーで、660本のホームランを量産した。<br />
<br />
(注3)モーツァルトの最後の交響曲で、第2楽章はアンダンテの回顧的な楽想。<br />
<br />
(注4)中華料理のレストラン。<br />
<br />
(注5)以下、たいそう厚味がある、「ウディ・アレンの映画術」についての清流出版の説明文案を紹介する。<br />
<br />
「著者は、実に36年間の長きにわたり、折々にウディ・アレンのインタビューを行ない、ウディ・アレン映画のアイデアから脚本、監督業、キャスティング、撮影、音楽、そして映画人生まで、すべてを忌憚なく明らかにしている。いわばウディ・アレンの人生の半分以上が納められたアルバムのようなものである。新米監督時代から世界有数の映画監督へと変貌していく彼の人生と、その途上で彼が学んだ事柄が、あたかも低速度撮影された写真のように、鮮やかに描き出されている。映画ファン待望の必読書である」<br />
<br />
(2011年12月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-12789140680407949412011-10-31T18:00:00.017+09:002013-05-03T20:39:43.899+09:00秋刀魚の味('62) 小津安二郎<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
</div>
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjzyPgn3bF5SV6QtzL85T4uwwHY-inPvmNai-xVdr_t9q4UGa99F7pXmwIZzDdw-tniBc5rQk14xXF2MJ5H690J2VO0-5BVJE3j6T3BF6AQvbo9gEdFf40n6QhGSEaaX7Xk477m_oVoNlc/s1600/1153.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="460" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjzyPgn3bF5SV6QtzL85T4uwwHY-inPvmNai-xVdr_t9q4UGa99F7pXmwIZzDdw-tniBc5rQk14xXF2MJ5H690J2VO0-5BVJE3j6T3BF6AQvbo9gEdFf40n6QhGSEaaX7Xk477m_oVoNlc/s640/1153.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><成瀬的残酷さに近い、マイナースケールの陰翳を映し出した遺作の深い余情></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「小津的映画空間」を閉じるに相応しい残像を引き摺って<br />
<br />
<br />
<br />
死を極点にする「非日常」を包括する「日常性」を、様式美の極致とも言える極端な形式主義によって、そこもまた、根深い「相克」や、「祭り」の「喧騒」、「狂気」を内包する「騒擾」を削り取ることで、永久(とわ)に続くと信じるこの国の、「穏和」と「ユーモア」が溶融する、極めてミニマムな「映像宇宙」の中に、パーソナル・エリアを最近接した者たちと、「日常性」という「安寧の時間」を「共有」してもなお生き残される、「絶対孤独」という「無常感」の「儚さ」。<br />
<br />
この「儚さ」を、様式化された「構図」の中に詰め込んで、それを破壊しないレベルで、そこはかとなく漂う心象風景を特定的に切り取った「映像宇宙」 ―― それが、「小津的映画空間」である。<br />
<br />
小津安二郎監督にとって、この「映画空間」を具現するに相応しいジャンルこそ「ホームドラマ」であった。<br />
<br />
そこで表現される「ホームドラマ」のミニマムな世界で、小津監督は、映画作家として様々な試行の果てに培って、そこで到達したと信じる一切を自己投入していったのである。<br />
<br />
しかし、小津監督の構築した「ホームドラマ」が普遍性を獲得するには、「時代」との相応の睦みが保証されていなければならなかった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjyUcdaqXrZfwVRbWL3WpPAIvEamEpLYiwX6Olsvv0CcvCgPwKM9_jZzRaz8yrKZr5RwMpuYMbsWQvEz8PpWFi97kiM_r4cIpXj3X3Y3YQ9kd5Jj83a_1cHXVRdMeMrosnJnx4rb2NS_P-o/s1600/m_img_1200998_34382144_0.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5669586976579997522" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjyUcdaqXrZfwVRbWL3WpPAIvEamEpLYiwX6Olsvv0CcvCgPwKM9_jZzRaz8yrKZr5RwMpuYMbsWQvEz8PpWFi97kiM_r4cIpXj3X3Y3YQ9kd5Jj83a_1cHXVRdMeMrosnJnx4rb2NS_P-o/s400/m_img_1200998_34382144_0.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 263px; margin: 0 0 10px 10px; width: 350px;" /></a><br />
この「時代」との睦みが保証されるには、小津監督が欲したであろう、この国の「古き、善き原風景」の生命力が決して安楽死しないと信じられる、絶対規範とも呼ぶべき何かが必要だった。(画像は小津安二郎監督)<br />
<br />
ところが、「時代」の目まぐるしい変遷は、小津監督の欲したイメージを遥かに超えていた。<br />
<br />
本作の中で、長男の幸一夫婦の会話が、時代を映す鏡のように描かれていたことが印象深い。<br />
<br />
ゴルフクラブを購入したい夫と、それを贅沢と詰(なじ)る妻もまた、自分の消費欲求を口に出すシーンである。<br />
<br />
このシーンに象徴されているように、目眩(めくるめ)く変容を遂げていく時代は、「より豊かに、より快楽に溢れた文化」を作り出してしまったのである。<br />
<br />
それが、東京オリンピック(1964年製作)の開催を間近に控えた、この国の大衆社会の不可避な自己運動であったからだ。<br />
<br />
「晩春」(1949年製作)と殆どテーマを同じにする、この遺作の時代背景には、「晩春」が作られた時代よりも、「三種の神器」に象徴される高度経済成長という、大衆消費文明の自己運動が遥かに剥き出しになっていて、小津監督が構築した「ホームドラマ」のイメージの理念系を置き去りにする尖りが内包されていたのである。<br />
<br />
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だから、白無垢の嫁入り衣裳のカットを挿入した、この遺作で語られる主人公の孤独の境地には、「晩春」での父娘の、インセストの如き「睦みの美学」を、呆気なく壊すに足るような「置き去り感」が張り付いていた。<br />
<br />
この時期、図らずも、最愛の実母を喪ったトラウマが、小津監督の胸裏を必要以上に騒がせていたか否かについては不分明である。<br />
<br />
然るに、詳細は後述するが、哀感の極みのようなラストカットの「無常感」は、「小津的映画空間」を閉じるに相応しい残像を引き摺っていたことだけは否定し難いのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「小津ルール」の縛りを解いて、没個性のボトルネックを突き抜けていく「全身表現者」の面目躍如<br />
<br />
<br />
<br />
3度目の遺作の鑑賞であったが、最後まで馴染めなかった「小津ルール」。<br />
<br />
全く違和感がない「ローポジション」の問題は例外として、「相似形の構図」や「イマジナリーラインの無視」程度のルールなら我慢できるが、野田高梧との共同脚本による、執拗な「台詞の反復」と「表情を殺した演技」だけは、何度観ても、どうしても馴染めないのである。<br />
<br />
「使ってるわよ、使ってるじゃない」、「よしちゃえ、よしちゃえ」(必ず、使用される台詞で、私は「ちゃえちゃえ語」と呼んでいる)、「煩い、煩い」、「ダメ、ダメ」、「そうかな、そうかな」、「買うわよ、本当に買っちゃうから」、「いいの、今のままでいいの」、「いいですよ。あの男ならいいですよ」、「言いました。言ったよ」、「いいの。そんならいいの」等々。<br />
<br />
「台詞の反復」のほんの一例である。<br />
<br />
様式美の極致とも言える、極端な形式主義によって成る「小津的映画空間」の表現技巧は、小津監督のイメージの中にのみ根を張っている映像宇宙の律動感と、それを具象化した構図こそが、俳優の演技よりも遥かに決定的な「美学」の検証であるが故に、観る者の受容感度の是非が、「評価」や「好悪」の基準を決めることになるだろう。<br />
<br />
それでいいと確信する巨匠の、アーチストとしての拘泥は、小津組の出演俳優ばかりか、観る者の受容感度の「適正化」をも暗に求めて止まない、「自信満々居士」の臭気を放つ「厄介」なる何ものかであったのか。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhKORu2p1r3cTKTttDjBKhQchmahKW0kP5QCvPiu8UwbX3RfMO5XmLjp_iL7ZueWiaL2TyR12-BGq9wcWvZFQMi5xxHW1wRUyKNAe3CSZU4WAB2xBw10jfBKaFeuLNLY-omW75N3Dn1qmia/s1600/img_1561256_50732787_0.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5678846094896830114" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhKORu2p1r3cTKTttDjBKhQchmahKW0kP5QCvPiu8UwbX3RfMO5XmLjp_iL7ZueWiaL2TyR12-BGq9wcWvZFQMi5xxHW1wRUyKNAe3CSZU4WAB2xBw10jfBKaFeuLNLY-omW75N3Dn1qmia/s400/img_1561256_50732787_0.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 329px; margin: 0 0 10px 10px; width: 307px;" /></a><br />
かくて、軽演劇で鍛えたハイテンポで、アドリブ自在な森繁久彌の演技は、ただ一回の出演でダメ出しをされ(「小早川家の秋」)、小津組の助手を経験した今村昌平(画像)に至っては、「生きている人間の有りよう」を感受させない不満が昂じて、小津組との縁を切った。<br />
<br />
両者共に、「譲れないもの」を持つ「表現者」だったのだ。<br />
<br />
俳優の個性を敢えて破壊する演出によって構築したと信じる、「小津的映画空間」の信奉者か、或いは、「絶対者」としての「映画監督」との間で形成された、「権力関係」への背馳(はいち)を恐れる「従順」な「常連俳優」のみが、今や、「世界的名匠」という高みまで上り詰めたアーチストを囲繞していったようにも見える。<br />
<br />
「常連俳優」には、「表現」が堅固に統一された世界への自己投入を躊躇(ためら)うはずがなかったのか。<br />
<br />
相互の会話の「間」を、反復的な台詞で埋められてしまうから、いつでもそこに、力動感に欠ける「堅苦しい表情」だけが生き残されるのである。<br />
<br />
それが、小津監督の把握の中では、「自然な演技」という範疇に収斂される「表現」だったのか。<br />
<br />
はっきり書くが、本作で最も重要な役柄(長女の路子)を演じた岩下志麻の「眼」は、映像前半において死んでしまっているのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-jtVY6raPk9GNm7gcY7JFA9hukyQa1GL6kdz8qByE6P2NmIkl_0ZNkzLw7JZ2JuRdb6XjqkHI4iA55_V2f59K_A218HKo9YE82kLHqOZeylise9bmTCA3umPvfPWNeFUY0Y3JRnbl3MP6/s1600/o0492036911520939960.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5669587716538542066" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-jtVY6raPk9GNm7gcY7JFA9hukyQa1GL6kdz8qByE6P2NmIkl_0ZNkzLw7JZ2JuRdb6XjqkHI4iA55_V2f59K_A218HKo9YE82kLHqOZeylise9bmTCA3umPvfPWNeFUY0Y3JRnbl3MP6/s400/o0492036911520939960.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 287px; margin: 0 0 10px 10px; width: 298px;" /></a><br />
岩下志麻の「眼」の死が、嫁入りする際の、眩い輝きを強調するための計算された演出とは思えないのは、私の中の「厄介」な疑心暗鬼の視線が反応してしまうからで、図らずも、そんな狭隘なるマインドセットが蠢(うごめ)いてしまって、そこだけは偏見居士と化した者の如く、何とも浄化し切れない違和感が反応してしまうのである。<br />
<br />
新人女優には、どだい、「小津ルール」の縛りの中で、「生きた眼」を表現することなど無理な要求というものであるが、それを含めて、包括的に「オンリーワン」に固執する態度を一貫した作家性に脱帽する他にないとも言えるのか。<br />
<br />
加東大介、杉村春子、東野英治郎、中村伸郎などのように、全身で演技を表現し切る「全身表現者」のみが、「小津ルール」の縛りを解いて、没個性のボトルネックを突き抜けていくのだろう。<br />
<br />
例えば、こういう会話があった。<br />
<br />
「軍艦マーチ」を耳にしながら、飲み屋で、主人公の周平と、周平の海軍時代の部下であった坂本との会話である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhMWPJzCrfNn5cbh6I_meBTRZG0Ap2GrO3LaGMj9RngpGW56ZkiZm1PMZjzPWQ-modtZrSHqLi9-Noon5vJuh4BTmvVmoyZWdc8UYLrQwrNo0pOlkokIJX0Tcjv2LWtSVOKexjXqtALQf1x/s1600/20111023225006.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5669586356616880018" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhMWPJzCrfNn5cbh6I_meBTRZG0Ap2GrO3LaGMj9RngpGW56ZkiZm1PMZjzPWQ-modtZrSHqLi9-Noon5vJuh4BTmvVmoyZWdc8UYLrQwrNo0pOlkokIJX0Tcjv2LWtSVOKexjXqtALQf1x/s400/20111023225006.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 306px; margin: 0 0 10px 10px; width: 387px;" /></a><br />
坂本を演じる加東大介の、「全身表現者」としての面目躍如たる演技が眩く輝いていて、周平を演じた笠智衆の抑えた演技をも呑み込んでいた。<br />
<br />
「ねえ、艦長。どうして日本負けたんすかね」と坂本。<br />
「ううん、ねえ・・・」と周平。<br />
「お陰で、苦労しやしたよ。帰って見ると、家は焼けているし、喰い物はねえし、それに物価はどんどん上がりやがるしね。・・・そこへいくと艦長なんか、何にもご苦労なかったでしょうけどね」<br />
「いやいや、私も苦労しましたよ」<br />
「でも艦長。これでもし、日本が勝っていたら、どうなったんすかね」<br />
「さあねえ・・・」<br />
「勝ったら艦長。今頃、あなたも私もニューヨークだよ。パチンコ屋じゃありませんよ」<br />
「そうかね」<br />
「そうですよ。負けたからこそね、今の若(わけ)え奴ら、向こうの真似しやがって、レコードかけて、ケツ振って踊ってますけどね、これが勝っててごらんなさい。目玉の青い奴が丸髷(まるまげ)なんか結っちゃって、チューインガム噛み噛み、三味線弾いてますよ。ざまあみろってんだ」<br />
「けど、負けて良かったじゃないか」<br />
「そうですかねえ。ううん、そうかも知れねえな。バカな野郎が威張らなくなっただけでもね」<br />
<br />
明らかに、アジア太平洋戦争への批判を込めた、とても生き生きした素晴らしい会話である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiSHZ1jGf7_Xt3mjkcIZQM4U6_cjAt5ldKCrKrDv1A2gqa7YH4W6yyFSvIIdag1HhFTB_1WxgQyu9AWac94vK2eXjHvbuBPbkRvjJbFe3BpAXQ0rOy9KEEPzQX8kuh0Ah9zuu5YNEPtPgfl/s1600/ozu_ht1.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5679039734671577570" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiSHZ1jGf7_Xt3mjkcIZQM4U6_cjAt5ldKCrKrDv1A2gqa7YH4W6yyFSvIIdag1HhFTB_1WxgQyu9AWac94vK2eXjHvbuBPbkRvjJbFe3BpAXQ0rOy9KEEPzQX8kuh0Ah9zuu5YNEPtPgfl/s400/ozu_ht1.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 293px; margin: 0 0 10px 10px; width: 391px;" /></a><br />
それは同時に、「小津的映画空間」に背馳せず、そこに上手に溶融し得た「全身表現者」のみが、「小津ルール」の縛りを解いて、没個性のボトルネックを突き抜けていくという典型例でもあった。<br />
<br />
<br />
<br />
3 小さい嗚咽を洩らす老人の後ろ姿を映し出した、ラストカットの哀感<br />
<br />
<br />
<br />
「寂しいんじゃ、哀しいよ。結局、人生は一人ぽっちですわ。わたしゃ、失敗した。つい、便利に使(つこ)うてしもうた。娘をねえ、つい便利に使(つこ)うてしもうて、嫁の口もないじゃなかったが、なんせ、家内がおらんのでねえ。失敗しました。つい、やりそびれた」<br />
<br />
これは、かつて「ヒョータン」と揶揄(やゆ)された、中学時代の恩師である佐久間の言葉。<br />
<br />
クラス会での宴席で、箸置きの下にあった現金入りの紙袋の礼に、かつての生徒たちと、再び宴席を設けたときのことだ。<br />
<br />
中学校教諭を定年退職し、今はラーメン屋を営んでいるが、妻を亡くしたため、一人娘を家政婦兼従業員代りに育ててしまったことを、佐久間は悔いているのだ。<br />
<br />
婚期を逃し、娘を「行かず後家」にしてしまった責任を、教え子との宴席の場で吐露する中学時代の恩師の嘆きを、直截(ちょくさい)に受け止める周平。<br />
<br />
周平もまた、佐久間が置かれた状況と変わらない心的風景をなぞっているのである。<br />
<br />
「寂しいんじゃ、哀しいよ。結局、人生は一人ぽっちですわ」<br />
<br />
佐久間の吐露には、それを経験した者でなければ分らない哀感が深々と滲み出ていて、そこだけは、周平の情感に喰い刺さっていったのである。<br />
<br />
「娘の嫁入り」という、「日常性」と地続きにある人生の大きな節目を目の当たりにして、揺れ動く父親の心境もまた、回避できない宿題を突き付けられた者の、名状し難い寂寞感を晒すのだ。<br />
<br />
それ以前のカットにおいて、一人でラーメン屋の店の片隅に佇む佐久間の姿が、ローアングルのフィックスで撮られていたが、「人生は一人ぽっち」という老境の哀感漂う名場面だった。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6nzDV33AEysdxbOI3r12FqEeKXLMuM5G6dBjEzJfa96yUjR5TBeq_iz8DjOavzzoViHwV001pI5hq2g5TOVy3oNTQy_efybQqD0WVSlwS1AtGtcRYEDXptORXFnc9XGF_iQflcNjVIdQ/s1600/r0012404.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="302" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6nzDV33AEysdxbOI3r12FqEeKXLMuM5G6dBjEzJfa96yUjR5TBeq_iz8DjOavzzoViHwV001pI5hq2g5TOVy3oNTQy_efybQqD0WVSlwS1AtGtcRYEDXptORXFnc9XGF_iQflcNjVIdQ/s400/r0012404.jpg" width="400" /></a></div>
この構図が、娘の路子を嫁入りさせた周平の老境を、いつものように丁寧に描くラストシーンの伏線となっていて、観る者に、否が応でも感情移入させる静謐(せいひつ)な絵画的空間を作り出していくのである。<br />
<br />
その有名なラストシーン。<br />
<br />
「俺も寝ちゃったぞ。明日、また早いんだぞ。俺がめし炊いてやるから」<br />
<br />
<br />
路子を嫁入りさせた父の孤独の心境を案じる次男が、一人で台所にいて、酔っている父に声をかけるのだ。<br />
<br />
<br />
「ん、やあ、一人ぽっちか・・・」<br />
<br />
<br />
そう言って、軍歌を歌いい始めるが、途中で止め、一人でやかんの水を汲んで、音もなく飲む周平。<br />
<br />
小さい嗚咽を洩らす老人の後ろ姿を映し出したラストカットの括りは、実に見事な閉じ方だったという他にない。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi0wXNNuEhngQCsUdcjT50-nYi1reChlU4Pj0zwdOrcZBnDw5uvmF2teznc-7meM-JeFeZloj7MOF0jguUOjur5638AMrRnxlTHEA4_cF923yQ7nt4GcJzQ2ruWfhJvaiT9f2bD1BcZXgI/s1600/20111023235428.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="296" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi0wXNNuEhngQCsUdcjT50-nYi1reChlU4Pj0zwdOrcZBnDw5uvmF2teznc-7meM-JeFeZloj7MOF0jguUOjur5638AMrRnxlTHEA4_cF923yQ7nt4GcJzQ2ruWfhJvaiT9f2bD1BcZXgI/s400/20111023235428.jpg" width="400" /></a></div>
返す返す思うに、余情を残すラストカットで閉じる本作は、老境にある者にとって、何より大切なのが、「生きがい」というよりも、「居がい」であり、「居場所」の問題であることを示唆した映画でもあった。<br />
<br />
以上、縷々(るる)、批判的な一文をも添えたが、それもまた、「小津的映画空間」への部分的だが、私にとっては看過し難い馴染みにくさ故のものであって、その思いも含めて、「小津映画」を包括的に理解した上で受容するというスタンスだけは変えるつもりはない。<br />
<br />
だから私は、「好みの問題」で片づけることにしているが、明らかにテーマを処理できずに失敗した「風の中の牝どり」(1948)と、高峰秀子の本来の個性を全く生かし切れなかった「宗方姉妹」(1950)に関しては、とうてい許容し得る映画ではなかったことだけは言い添えておこう。<br />
<br />
以上の言及に沿った、「小津的映画空間」に対する、私なりの正直な感懐を添えることで、以下、本稿を閣筆(かくひつ)したい。<br />
<br />
<br />
<br />
4 成瀬的残酷さに近いマイナースケールの陰翳を映し出した遺作の深い余情<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcn1XqrGr_cQ-fROgeE9ZxRr7BY1mbtYR5e7-epktsl5YNxMP0AQXcbTADh95aLF2Eh2d8ZodQ9NYc9sx5yiH8vs2CZBnOUjv3ZLVHYyAvs8m5XmUeX7egSlmsj00QLZikhq9N5mxfXYY/s1600/E7A78BE58880E9AD9AE381AEE591B3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="298" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcn1XqrGr_cQ-fROgeE9ZxRr7BY1mbtYR5e7-epktsl5YNxMP0AQXcbTADh95aLF2Eh2d8ZodQ9NYc9sx5yiH8vs2CZBnOUjv3ZLVHYyAvs8m5XmUeX7egSlmsj00QLZikhq9N5mxfXYY/s400/E7A78BE58880E9AD9AE381AEE591B3.jpg" width="400" /></a></div>
単に、その時代に生きる「中流階層」の人々の、淡々とした「日常性」を描いただけなのに、ここまで「美しい日本の、美しい心の風景」を、「そこだけは捨ててはならない堅固な信念」のうちに、特定的に拾い上げる執着心を理解し得るとしても、「人間の、或いは、日本人の醜悪な様態」が、まるでどこにも存在しないもののように描かれること、即ち、「冷厳なリアリズム」を擯斥(ひんせき)してしまう「小津的映画空間」に、恐らく、今村昌平もそうであったと同様の文脈において、私もまた全く馴染めないのである。<br />
<br />
それにも関わらず、本作に対する私の感懐には、それまでのような、「美しい日本の、美しい心の風景」への拘泥が希釈化されている印象を拭えないのだ。<br />
<br />
それは、昔の教え子に対する中学時代の恩師である佐久間の、何か封印し切れない卑屈さと、その恩師に対する昔の教え子たちの態度の軽侮の念が、そこもまた、封印し切れない露骨さの中で表現され過ぎていた点に集約されるだろう。<br />
<br />
こんな残酷な描写を、小津監督は映像化したのである。<br />
<br />
それは断じて、小津流のユーモアの範疇で収斂されない描写だった。<br />
<br />
まるで、私の最も愛好する成瀬映画を観るようでもあった。<br />
<br />
成瀬的残酷さを包括する老境の孤独の様態のイメージが、そこにべったりと張り付いていたのだ。<br />
<br />
それ故に、佐久間の人物造形の意味が際立ったのである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgtwC-cim7oBK3FdBI7uxU4JgdaIHBnAkHFPak_hlZPmLH05g3LjH7xCSGP-ssdbOaPTa1XKU8q4b1_V4_n4-Une7cJXvQKZOk_6QQkZVyEi3l2iS9N1ohX519mNRux3h_PejhaQg3CRpM/s1600/a0152454_21575871.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="265" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgtwC-cim7oBK3FdBI7uxU4JgdaIHBnAkHFPak_hlZPmLH05g3LjH7xCSGP-ssdbOaPTa1XKU8q4b1_V4_n4-Une7cJXvQKZOk_6QQkZVyEi3l2iS9N1ohX519mNRux3h_PejhaQg3CRpM/s400/a0152454_21575871.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">佐久間</td></tr>
</tbody></table>
老境の孤独を、これほど感じさせるキャラクターであったからこそ、ラストシーンでの周平の老境の孤独が深い余情を醸し出したのだ。<br />
<br />
或いは、本作こそ、「小津映画」の最高到達点ではないのかと思わせる何かが、そこに凝縮されていたのである。<br />
<br />
思えば、周平の老境の孤独と言っても、近隣のアパートに住む長男夫婦がいて、未だ我が家には次男が同居しているのだ。<br />
<br />
このような家族の形態は、今、「インビジブル・ファミリー」と呼称されている。<br />
<br />
既に成人化した子供たちが近隣に住んでいて、精神面という幹の部分で支え合っている、このような家族は「擬似同居家族」とも呼ばれているそうだ。<br />
<br />
よくよく考えてみれば、本作の主人公である周平にとって、我が家をほんの少し空洞化させしめたのは、単に、長女を嫁入りさせたに過ぎないのである。<br />
<br />
それにも関わらず、思いの外、深い余情を残すラストカットの風景の孤独感を醸し出すのは、目眩(めくるめ)く変容を遂げていく時代に置き去りにされるイメージを張り付けているからだろう。<br />
<br />
「女性の社会進出」に対する違和感が相対的に希釈化されていった時代状況下にあって、娘を「我が家」に拘束したことを悔いる男の悲哀が、ユーモア含みの本作の基調音を、成瀬的残酷さに近いマイナースケール(短音階)の陰翳を映し出してしまったのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLc4eW2t1KgPX5VINbpYCrBoGZhLci1aJYc26fyfYsCCjQ_87RZOMrspNK8l5GewmA-4mXxAs7Yoc_UqqL0nEj5uJOG869et6D0AqdUL-seoKYGYUXwsY8aiLVS8rmuRuRXh2rFY2Tal0m/s1600/%E6%99%A9%E6%98%A5%E3%83%8D~1.JPG" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="282" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLc4eW2t1KgPX5VINbpYCrBoGZhLci1aJYc26fyfYsCCjQ_87RZOMrspNK8l5GewmA-4mXxAs7Yoc_UqqL0nEj5uJOG869et6D0AqdUL-seoKYGYUXwsY8aiLVS8rmuRuRXh2rFY2Tal0m/s400/%E6%99%A9%E6%98%A5%E3%83%8D~1.JPG" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「晩春」より</td></tr>
</tbody></table>
あっさりと嫁に行き、それをあっさりと、「擬似同居家族」が認知する。<br />
<br />
明らかに、「晩春」の、ネチネチした父娘の睦みの深さと分れているのだ。<br />
<br />
だからこそと言うべきか、私にとって、本作は印象深い一篇となったのだろう。<br />
<br />
そう思わせる遺作だった。<br />
<br />
敢えて補足すれば、その「小津的映画空間」のうちに一片の「欺瞞性」を感受させないのは、そこに、確固たる「小津的映画空間」の独自の映画文法が堂々と屹立しているからであろう。<br />
<br />
だから、決して唾棄すべき映画作家ではないということ。<br />
<br />
それだけは紛れもない事実である。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-36129328169908624542011-10-27T15:32:00.019+09:002013-10-24T12:47:28.494+09:00ウエスト・サイド物語('61) ロバート・ワイズ ジェローム・ロビンス<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdzWKu2oNrhF8z1Jqu9XclpAIFcdLLqi9pDguYhva1KoE2_c6y2Vj0oW3sT-CZvpD45XxA0FF_9S5qyyzbvqn9A0ACcQjG0VqYyjKkKl7WzWvPo7BcUgs21di47HIdsOrrvkSRS1nYdAqK/s1600/8d6398dd.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="478" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdzWKu2oNrhF8z1Jqu9XclpAIFcdLLqi9pDguYhva1KoE2_c6y2Vj0oW3sT-CZvpD45XxA0FF_9S5qyyzbvqn9A0ACcQjG0VqYyjKkKl7WzWvPo7BcUgs21di47HIdsOrrvkSRS1nYdAqK/s640/8d6398dd.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><個性的なアートとしての「ミュージカル」の「表現の外発性」></span><br />
<br />
<br />
<br />
序 凝ったオープニングシーンから開かれる本作の、時代相応にフィットした「ミュージカル」としての完成度<br />
<br />
<br />
<br />
NYのマンハッタン島の超高層ビルから始まった説明的な鳥瞰ショットが、ストリートギャング紛いの不良少年グループの溜り場であるスラム街にシフトしていく、凝ったオープニングシーンから開かれる本作の、時代相応にフィットした、「ミュージカル」としての完成度は高いものと言えるだろう。<br />
<br />
しかし本稿では、本作への「映画評論」をするつもりはない。<br />
<br />
結局、「好みの問題」にしか落とし所のない類の批評を繋いでも、殆ど意味がないと思うからだ。<br />
<br />
「心の風景」への投稿にこそ相応しいと思われる本稿で触れたいのは、この映画を初めて観た青年期の「心地悪き思い出」と、そこに張り付く「人生論的」な言及に尽きるだろう。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi2AT3E3nguW_dqJR0f8dyJw8oiWJ3CH4hNGq860g43wE5Q0dXWTZ_EZDEqnx70FMhh1NZ-bqCIb3VsLKvOZKrO-6lvfeChNHyGibRHusD7gKcjfXuquZqtZxGo2TM3eYL2WehESrQlRu0/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="392" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi2AT3E3nguW_dqJR0f8dyJw8oiWJ3CH4hNGq860g43wE5Q0dXWTZ_EZDEqnx70FMhh1NZ-bqCIb3VsLKvOZKrO-6lvfeChNHyGibRHusD7gKcjfXuquZqtZxGo2TM3eYL2WehESrQlRu0/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
以下、その問題意識に則して起筆していく。<br />
<br />
<br />
<br />
1 乾き切った心の土手っ腹に、ストレートに侵入してきた形而上学的な文脈の凄み ―― ウナムーノという、「苦悩と実存」の哲学者との出会いの中で<br />
<br />
<br />
<br />
20代の初め頃、私はかつてないような深いペシミズムに襲われていた。<br />
<br />
自分の〈生〉をどのように転がしていっていいか、全く分らなくなってしまったのである。<br />
<br />
それまで辛うじて保持し得ていた、〈大状況〉との関係の継続性が覚束なくなって、まるで野に放たれた老犬のように、輝きを失った空洞の冥闇(めいあん)の森の中で彷徨していたのだ。<br />
<br />
「これ以上、この状態が続いたら危ないな」<br />
<br />
そんな、追い詰められた心境下で、私は内側に貯留された僅かな熱量で自己を駆動させていくしかなかった。<br />
<br />
当時の私にとって、「観念としての死」は甘美なものでは決してなかった。<br />
<br />
9歳の頃に発病した、二度に及ぶ癲癇発作の際に、毎夜、魘(うな)されるように見た悪夢の風景こそが、震撼すべき「死後の世界」であると考えていたので、爾来、私は死に対して異常な恐怖感を持っていたのである。<br />
<br />
ここでは、とうてい書けないような、愛憎渦巻く「全身世俗」の個人的体験のトラウマもあって、死にたくても死ねない〈生〉を引き摺って生きていくこと ―― それが、何より厄介なまでに圧迫されるような、 胸苦しい苦悩の全てだった。<br />
<br />
苦しくて、苦しくて、なお苦しい日々が永久に続くという生物学的な感覚は、〈生〉を引き摺って生きていく現実の恐怖そのものだった。<br />
<br />
そんな私が、僅かな自給熱量を推進力にして読書と学習三昧の世界にのめり込んでいったのは、それ以外の〈生〉の転がし方を知らなかったからだ。<br />
<br />
22歳から24歳までの2年間、そのときよりも遥かに厳しい、肉体の崩壊の危機を日常下している現在から追想してもなお、信じ難い日常性を繋いでいたのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg291MZE00ty7Sptn7PEqcS5iRKSsrBlbl171gs9ZLJQ5WfBuM1eGd85Wuf7u9LwYq5oY3vldevIQMvE3xxw2Ty6oqoUN-1mkPTxzeJaWNNSwaiaPug1kFDY08Nz3EsY7jQPPN2MQkw1D6M/s1600/photo_11.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5668060845596132306" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg291MZE00ty7Sptn7PEqcS5iRKSsrBlbl171gs9ZLJQ5WfBuM1eGd85Wuf7u9LwYq5oY3vldevIQMvE3xxw2Ty6oqoUN-1mkPTxzeJaWNNSwaiaPug1kFDY08Nz3EsY7jQPPN2MQkw1D6M/s400/photo_11.jpg" style="float: right; height: 254px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 278px;" /></a><br />
「全身無頼派」の坂口安吾(画像)が、5時間の睡眠時間で1年間を過ごしたという話を聞き知った私は、「5時間睡眠」の生活規範を設定し、残りの殆ど全ての時間を、読書と学習三昧の世界に集中しようと自らに課し、そして、ほぼそのルール通りに実践躬行(きゅうこう)していった。<br />
<br />
正確には5時間すらも切っていたと思うが、「5時間睡眠」の実践躬行に自己投入すれば、〈生〉を引き摺って生きていく現実の恐怖を相対化できると考えたのである。<br />
<br />
私の「地下生活者」の生活の最初の試行によって犠牲にされたもの ―― それは、父親が不治の疾病に罹患しているのに、それを十全にサポートし、「善き介護者」として自己を普通に立ち上げる倫理的な態度であった。<br />
<br />
その疚しさが、精一杯、我が家の家計に最低限の仕送りを継続させていったが、「半身エゴイスト」の私は、それで「地下生活者」の権利を得たと勝手に解釈した訳だ。<br />
<br />
かくて、ビルの夜間警備員の仕事を探しては、転々とする日々が続く。<br />
<br />
誰もいないビルの地下の狭隘なスポットこそ、私の「地下生活者」としての継続を保証するのに最も相応しい空間だったのである。<br />
<br />
ありとあらゆる世界中の文学、哲学、心理学、宗教書などを片っ端から濫読していって、その度に、ノートに感想を書き、日記もつけていく。<br />
<br />
その日記の表題は、「飛翔と侵蝕」。<br />
<br />
「飛翔」するか、「侵蝕」されるか、、一か八かの生活風景を淡々と繋いでいったのだ。<br />
<br />
「何のためにこんなことをやっているのだ」<br />
<br />
しばしば、こんな思いが内側から噴き上がってきて、その度に、「まだ死にたくないからだ」と自問自答していた、精神的圧迫感に押し潰されるような重苦しい日々。<br />
<br />
読書ばかりでなく、ありとあらゆる映画を観たのもこの時期だった。<br />
<br />
しかし、私の心にフィットした映画は、フレッド・ジンネマン監督による「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/10/blog-post_28.html">真昼の決闘</a>」(1952年製作)と、イングマール・ベルイマン監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/11/57.html">野いちご</a>」(1957年製作)<br />
のみ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiEOYdijmZydg48DYy49ZqCs3Zm1FRoupEQaOQaQWzeRX-lJt65wC3I_zw_XAwIPUexlOmgCoCA3S4nEnl5oHWC1VyY4dNIFYcg87VUMuwWmqgyO7tXMJPDCEoFunyJNhW-h5eP4LKH_yhF/s1600/mahiru.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5675841256309606354" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiEOYdijmZydg48DYy49ZqCs3Zm1FRoupEQaOQaQWzeRX-lJt65wC3I_zw_XAwIPUexlOmgCoCA3S4nEnl5oHWC1VyY4dNIFYcg87VUMuwWmqgyO7tXMJPDCEoFunyJNhW-h5eP4LKH_yhF/s400/mahiru.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 262px; margin: 0 0 10px 10px; width: 247px;" /></a><br />
前者は、共に闘う仲間を求めて、一度は捨てた町を彷徨い歩く、苦悩する孤独な元保安官(画像)。<br />
<br />
この「苦悩する孤独な元保安官」を演じたゲイリー・クーパーに、脆弱な自分を重ねていたのだろう。<br />
<br />
後者は、老境の孤独の極みを描き切った大傑作。<br />
<br />
この世に、これほどの映像を構築する映画監督が存在するのかと驚嘆した。<br />
<br />
かくて、イングマール・ベルイマン監督は、私にとって最も重要な映像作家になっていった。<br />
<br />
そして、文学と言えば、ドストエフスキーと椎名麟三。<br />
<br />
この二人だけだった。<br />
<br />
それもまた、「苦悩」というキーワードの共通性があった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgN4BIHfVMDd3WFOMdUfcKN4h2LcqsvFe_qcnl_7PSTsLqxAZWlNEGHSUevgEVL2TYBK-QDVpZcuK075O3ttBS7hPr9QYDApPFa2Z8s0kX-1AX5sxJk4UR3OdO1bLAEEz6E0HIXFpi7rE25/s1600/faa0297k_l.png" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5675872029054107794" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgN4BIHfVMDd3WFOMdUfcKN4h2LcqsvFe_qcnl_7PSTsLqxAZWlNEGHSUevgEVL2TYBK-QDVpZcuK075O3ttBS7hPr9QYDApPFa2Z8s0kX-1AX5sxJk4UR3OdO1bLAEEz6E0HIXFpi7rE25/s400/faa0297k_l.png" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 298px; margin: 0 0 10px 10px; width: 310px;" /></a><br />
とりわけ、ドストエフスキーの「悪霊」(画像は、アンジェイ・ワイダ監督による「悪霊」より)。<br />
<br />
腰が抜けるほどの衝撃を受けた、唯一の文学だ。<br />
<br />
文学の世界の中の虚構の物語とは言え、「全身思索家」のキリーロフの孤独な生き方は、作者のドストエフスキーと同様に癲癇患者であったことに我が身を重ねても、「人神思想」という究極の体系に殉教する壮絶さに弾かれるばかりだった。<br />
<br />
後にも先にも、これほどの衝撃を越える文学と出会ったことはない。<br />
<br />
哲学では、キルケゴールとウナムーノ、そして、「弁証法の根源と結果とには構想力がなければならぬと言い得るだろう」(現代仮名使いに直す)という言葉で結んだ、「構想力の論理」を上梓した三木清。<br />
<br />
この三人だけである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiO7Irj5KC8W9RRUl1Ujw86C5fxWjMZD5Cs7JXonLlSeoyyCve2Wedr6_x6mhpr24GsGAWuYCfSjts0HvyNDNB6KogrqNUIYBUUToqXNjOKPW4fu-dMHZP14j9bdH9CGcjTi123RFVIieIv/s1600/miguel-de-unamuno-25B15D.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5668060149576037730" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiO7Irj5KC8W9RRUl1Ujw86C5fxWjMZD5Cs7JXonLlSeoyyCve2Wedr6_x6mhpr24GsGAWuYCfSjts0HvyNDNB6KogrqNUIYBUUToqXNjOKPW4fu-dMHZP14j9bdH9CGcjTi123RFVIieIv/s400/miguel-de-unamuno-25B15D.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 264px; margin: 0 0 10px 10px; width: 210px;" /></a><br />
中でも、ミゲル・デ・ウナムーノ(画像)の存在は決定的だった。<br />
<br />
まさに、「苦悩と実存」の哲学者だったからだ。<br />
<br />
当時、「生の悲劇的感情」という、ウナムーノの主著の名をどうして知ったか全く覚えていないが、その刊行が待ち切れず、戦前の1941年版の「理想主義者の悲劇」(進藤遠訳/「生の悲劇的感情」の邦訳)という古い本があることを知って、どうしても読みたくなった私は、矢も楯もたまらず国会図書館に赴き、一か月という期限付きで借用し、眼の色を変えて貪り読んだ記憶だけは、今でも脳裏に焼きついている。<br />
<br />
「苦悩は生命の実現であり、人格性の基礎である」<br />
「苦悩することの可能なくしては、享楽することの可能は不可能である」<br />
<br />
「生の悲劇的感情」の中で眼にした、これらの簡潔な言葉に、雷に打たれたようなインパクトを受け、およそ経験したことがないような名状し難い精神状態に陥ったほど。<br />
<br />
更に、ウナムーノは書いている。<br />
<br />
「苦悩を癒す方途は無意識を意識の衝撃にまでもたらすことであり、決して無意識の裡に沈潜させることではなくして、意識にまで自らを昂揚し、而もよりいっそう苦悩することである。(略)苦悩の悪は、より大なる苦悩によって、より高次の苦悩によって癒える」<br />
<br />
この決定的な一文に接したとき、私の精神状態は殆どピークアウトに達したと言っていい。<br />
<br />
23歳の冬だった。<br />
<br />
自分の乾き切った心の土手っ腹に、ストレートに侵入してきた形而上学的な文脈に、衝撃と興奮と感動が入り混じった情感世界の騒擾の坩堝の中で、私は只々打ち震えていた。<br />
<br />
この世に、「この本によって救われた」と言う人がいるが、大袈裟に言えば、私の場合も、それに当て嵌まっていた。<br />
<br />
凄い表現だった。<br />
<br />
苦しくて、苦しくて、なお苦しい日々が恒久に続くだろう、〈生〉を引き摺って生きていく、己が恐怖との厄介な共有が許容された思いだったのだ。<br />
<br />
「苦悩、それは死ぬまでつきまとって来るでしょう。でも誰かが言ったではありませんか、苦しむためには才能が要るって」<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEggkbjkrDGpNQku7ZskrKi39szXzspFQ9utqKkS8voc3IfX2eL9ltxiNeg3_eh_lPxPItaL4kkWIKVj5k4bigY95aNgjZh4Qjt0Tvaet5uBPvBnNFbghZbNULVQHQT_MjznbFwL9qwOQiEi/s1600/photo5.gif" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5668073566968092162" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEggkbjkrDGpNQku7ZskrKi39szXzspFQ9utqKkS8voc3IfX2eL9ltxiNeg3_eh_lPxPItaL4kkWIKVj5k4bigY95aNgjZh4Qjt0Tvaet5uBPvBnNFbghZbNULVQHQT_MjznbFwL9qwOQiEi/s400/photo5.gif" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 299px; margin: 0 0 10px 10px; width: 245px;" /></a><br />
これは、奇しくも23歳で逝った北條民雄(画像)の名作、「いのちの初夜」の中のラストで、主人公の尾田(北條民雄)に放った佐柄木の言葉。<br />
<br />
「癩者に成りきって、さらに進む道を発見してください」<br />
<br />
佐柄木は、そこまで言い切ったのだ。<br />
<br />
癩者に成りきらない限り、癩者が、その死に至るまで食(は)まれ続けるだろう、無間地獄への負のスパイラルを断ち切ることができないと言うのだ。<br />
<br />
「死ぬまでつきまとって来る」苦悩を、己が脆弱なる自我に引き受けて、引き受け切って、なお引き受け切って、息絶えろ。<br />
<br />
「より高次の苦悩によって癒える」まで、苦悩の奥深い闇を突き抜けていけ。<br />
<br />
「意識にまで自らを昂揚し、而もよりいっそう苦悩」の奥深い闇の彷徨から、見え透いた方便を使い捨てて、安直に逃げるなかれ。<br />
<br />
そう言っているのだ。<br />
<br />
いつもの風景と明らかに異なる、この特別な時間の中で、私の内側に巣食っていた、得体の知れない異界の刺客の恐怖を相対化できたと、私は信じた。<br />
<br />
信じねばならなかった。<br />
<br />
そこだけは、信じない訳にはいかなかったのだ。<br />
<br />
そんな心境を手に入れた信じることによってしか、私は救われなかったのである。<br />
<br />
この〈生〉と〈死〉の危ういタイトロープの中で、偶(たまさ)か、私が観た映画が「ウエスト・サイド物語」だった。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEigC0KEGLtpPXh36g2IhyphenhyphenycEZBrMelLjRU4FKp-XFnmoJWr0SinEtQJ4Ruow0oJZp_afcjA0FQWY0ns8IF0EKftR4cEl70bA4KnlvyotUN5upKeaphAhgcyimsEMk1EdbTOIWck2towUCU/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="512" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEigC0KEGLtpPXh36g2IhyphenhyphenycEZBrMelLjRU4FKp-XFnmoJWr0SinEtQJ4Ruow0oJZp_afcjA0FQWY0ns8IF0EKftR4cEl70bA4KnlvyotUN5upKeaphAhgcyimsEMk1EdbTOIWck2towUCU/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
それは、私にとって最悪のクロスだったと言っていい。<br />
<br />
<br />
<br />
2 個性的なアートとしての「ミュージカル」の「表現の外発性」<br />
<br />
<br />
<br />
〈生〉と〈死〉の危ういタイトロープの中で、「より高次の苦悩によって癒える」まで、苦悩の奥深い闇を突き抜けていけというゴールデンルールを手に入れたと信じる私にとって、「愛と友情と、敵意が生んだ苦悩」を、歌い、踊りながら描いた映画の浮薄な感傷など、全くどうでもいい何かだった。<br />
<br />
しかも、不良同士の愚劣な自己顕示の顛末を、一端(いっぱし)の社会派ぶった視線を投入して、最後まで暑苦しく描き続けた過剰なる「ミュージカル」は、殆ど「全身娯楽映画」の本質を隠し込む欺瞞の極致だった。<br />
<br />
何が、「現代のロミオとジュリエット」だ。<br />
<br />
笑わせるな。<br />
<br />
死にたければ勝手に死ね。<br />
<br />
これを、延々150分も見せつけられた私は、空疎な気分になった心地悪さの中で、見るからに重い帰途に就いた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjR7EV_oY06BTTEPW9FZ9IRPqXrxmIR9-4J9zopsXIKHpXD0id760msMYrTtf0cGyeWj5oMg7kklyU2l8SNsfjaMlM86CarpM633lxRYjeF1O2psUvWHVauyTIEqI44UVsYX6GQneWMfhZ4/s1600/img_1009096_45335926_0.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5668059441854089858" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjR7EV_oY06BTTEPW9FZ9IRPqXrxmIR9-4J9zopsXIKHpXD0id760msMYrTtf0cGyeWj5oMg7kklyU2l8SNsfjaMlM86CarpM633lxRYjeF1O2psUvWHVauyTIEqI44UVsYX6GQneWMfhZ4/s400/img_1009096_45335926_0.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 270px; margin: 0 0 10px 10px; width: 319px;" /></a><br />
元々、日本大学芸術学部出身の「元祖ジャニーズ」の面々が本作に憧憬していた程に、伝説化していた本作を観る気になったのは、既に、「砲艦サンパブロ」(1966年製作)を感動的に観ていた私が、巷間で、「ジョージ・チャキリスは格好良い」などという薄気味悪い雑音が入って来ても、ロバート・ワイズ監督(画像)なら駄作にはならないだろうと考えたからだ。<br />
<br />
しかし、完璧に裏切られた。<br />
<br />
と言うより、そこで描かれた物語のアホらしさに辟易してしまったのである。<br />
<br />
あまりにアホらしい映画空間に幻滅して、「苦悩」という、純粋に内的な風景とは縁遠い物語を唾棄したのだ。<br />
<br />
要するに、歌とダンスが俳優の演技と溶融し、それらが非独立的に最適熱量を自給する運動を繋ぐ関係の中で、映画空間での劇的効果を高めあげていく、「ミュージカル」という個性的なアートに対する基本的理解が皆無だったのである。<br />
<br />
「表現の内発性」と「表現の外発性」という概念を、ここに提示したい。<br />
<br />
自我の内部から惹起するものにのみ「価値」を措定した私が、「苦悩」という特別な概念に象徴される「表現の内発性」だけが由々しき何かだった。<br />
<br />
外部刺激によらずに揺動されない自我の構築だけが、私の関心領域の全てだったからだ。<br />
<br />
人間の〈生〉の根源的問題である「不安」が、厄介で不気味な継続力を持ち、その浄化が困難な内的風景を晒していった末に「苦悩」に結ばれたとき、それが表現に変換されるときの、極めて人間学的現象こそが「表現の内発性」の様態である。<br />
<br />
「脆弱性」という本質的瑕疵から逃れられない人間の〈生〉にとって、この「苦悩」に耐え切る力こそが、人間の「強さ」のギリギリの様態なのだ。<br />
<br />
そんな認識を持つ私の、「表現の内発性」への短絡的な拘泥が、「現代のロミオとジュリエット」を軽侮した根っこにあるものだったに違いない。<br />
<br />
「ミュージカル」という個性的なアートは、多くの場合、外的な刺激に振れていく、「表現の外発性」の様態を描くことを身上とするものであるだろう。<br />
<br />
その辺りの論理的過誤を犯した私の、恥ずべき偏頗(へんぱ)な狭隘さ。<br />
<br />
何のことはない。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi9lWzFehnRYxkwGMhPm30xLsQJY3TepgO0F3y_RxUIlq0A0At0hhumG3p9IFivljhz9nUWPA-jaikkwlij9N8sWMlHX_vYKpbLTdXs5AnkJQJTdhLMDqzyFd7NNf7nvFuDS41IeVQUIOM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="258" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi9lWzFehnRYxkwGMhPm30xLsQJY3TepgO0F3y_RxUIlq0A0At0hhumG3p9IFivljhz9nUWPA-jaikkwlij9N8sWMlHX_vYKpbLTdXs5AnkJQJTdhLMDqzyFd7NNf7nvFuDS41IeVQUIOM/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
私自身の青臭さを棚に上げて、自らが、外見的なものにキャーキャー騒ぐ浮薄さを軽侮していたのである。<br />
<br />
それほどまでに乖離してしまった、己が内的風景を突き進めれば、世俗から切れた孤独の〈生〉を、なおも継続的に転がしていくしかなかった。<br />
<br />
それは、それで良かったのだろう。<br />
<br />
それ以外に、「飛翔」と「侵蝕」の危うい綱渡りを突破し得なかったからだ。<br />
<br />
それが、己が〈生〉の本来的な有りようだと信じていたこと。<br />
<br />
それで良かったのだ。<br />
<br />
これほどまでに、突っ張っていかなければならないほどの何かがそこにあり、それによって救われたと信じる自我を作り上げてしまったこと。<br />
<br />
それで良かったのだと、切に思う。<br />
<br />
「激情的習得欲求」に自己投入せねば、簡単に壊れてしまう自我をを作り上げていたからである。<br />
<br />
だから、30代になって、極めて個性的な私塾を開くまでの数年間という時間の内実は、特定のイデオロギーに拠って立つ自己像に、必要以上にのめり込む内的風景を繋いでいくばかりだったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
3 初見時同様の違和感を覚えた、「気障で、格好つけただけの」ダンスや台詞回しへの違和感<br />
<br />
<br />
<br />
そして今、特定のイデオロギーから解き放たれた自分が、ここにいいる。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi7Y7gR1G7quVI-5wun9gfNbIpJSwzcAlxiDpTPbw0GtFHSQUwmUwQ6UuyyuBaKpOYdrRKiYnLBXu3dGvSDtmvsihW596q8XwhVVu_gb1WsIfx4pkmxJVvp5Ku0QP0yeqgA3SzHR8wJYbg/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi7Y7gR1G7quVI-5wun9gfNbIpJSwzcAlxiDpTPbw0GtFHSQUwmUwQ6UuyyuBaKpOYdrRKiYnLBXu3dGvSDtmvsihW596q8XwhVVu_gb1WsIfx4pkmxJVvp5Ku0QP0yeqgA3SzHR8wJYbg/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
<br />
そんな私が、40年ぶりに観た「ウエスト・サイド物語」。<br />
<br />
さすがに、初見時の愚かな印象を払拭し切れていたが、正直、相変わらず馴染めなかった。<br />
<br />
「気障で、格好つけただけの」ダンスや台詞回しに、初見時同様の違和感を覚えたのである。<br />
<br />
「ミュージカル」が、そういうアートであると認知し得ていても、ダメなものはダメなのだ。<br />
<br />
誤解を避けるために書くが、「ミュージカル」としての本作の完成度は極めて高い。<br />
<br />
ロバート・ワイズ監督の力量にも脱帽する。<br />
<br />
それでも、人種問題や貧困の問題を絡めた、社会派的メッセージを拾い上げた映画として受容するには、相当程度無理があると思っている。<br />
<br />
或いは、単に私の趣味に合わないだけなのかも知れないが、それでも、単なる「ミュージカル」の娯楽映画として一級品であって、それ以上でもそれ以下でもない作品であるという評価は変わりようがないだろう。<br />
<br />
改めて、全ては「好みの問題」であることを、つくづく感じさせる映画だったという外にないのだ。<br />
<br />
とりわけ、「現代のロミオとジュリエット」を演じた若い二人が、愛を込めて歌う有名なシーンには、その表現の意図が充分に理解し得ていても、とうてい受容し得なかった思いだけは、「好みの問題」の典型的描写であったことを言い添えておこう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfyPGVLhrfkY7mE-ubryy5h5XCEnR9q4VxCTM8_i6nc_jveIXN-7gEZBVhfzcVMBvNea1HcYMnG-TuVnCdqfORUFYb0SWhR0k8HCfrAsiw6RzxTSUFntEttSMmBcjGD6h2L4Rvbq27BZcb/s1600/img_1011132_29472859_2.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5668058606720515234" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgfyPGVLhrfkY7mE-ubryy5h5XCEnR9q4VxCTM8_i6nc_jveIXN-7gEZBVhfzcVMBvNea1HcYMnG-TuVnCdqfORUFYb0SWhR0k8HCfrAsiw6RzxTSUFntEttSMmBcjGD6h2L4Rvbq27BZcb/s400/img_1011132_29472859_2.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 378px; margin: 0 0 10px 10px; width: 252px;" /></a><br />
殺人事件を犯した「ロミオ」と、その「ロミオ」に自分の兄も殺されているのに愛を交歓する「ジュリエット」が、「恋は永遠に(Somewhere)」を歌う有名なシーンである。<br />
<br />
以下、その歌詞の一部分を書いておく。<br />
<br />
二人だけの場所へ<br />
どこか僕らだけの所へ<br />
静かな安らぎと青い空が<br />
僕たちが待つ場所へ<br />
(トニー=「ロミオ」の歌)<br />
<br />
私たちの時が<br />
いつの日か来る<br />
二人で分かち合う時が<br />
見つめ合い<br />
触れ合う時がいつの日か<br />
(マリア=「ジュリエット」の歌)<br />
<br />
今、眼の前にいる「一目惚れ」の恋人によって、自分の兄を殺された女が愛を交歓するシーンの中では、一向に「葛藤」の描写が削られているのだ。<br />
<br />
心理描写に拘泥する私にとって、たとえそれがブロードウェイ仕込みの「ミュージカル」であろうとも、一貫してシリアスな「物語」のラインを捨てていない映画であるならば、このシーンだけは看過し難かった。<br />
<br />
正直言って、ここで私は強制終了し、一度は「人生論的映画評論」の本稿の起筆を断念した。<br />
<br />
しかし、その思いを翻意して、自分の過去の青臭い日々との関連で、本作への正直な感懐を残しておこうと考えたのである。<br />
<br />
それが、本稿のモチベーションの全てである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEixTiQxLes2bfr20de3O4XUjMVkPlpvIwVFjStVvW91uh15vfRmylz_4Rm2klodgyoDV3XmkzxKjVfpwMwIwfiKuUqvDn2r6fTKnMHgL6XC_CXXihXPeXF0FnHAm7tB3J4CgRyTaOeD0bG2/s1600/e0034633_1452121.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5675842183597911362" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEixTiQxLes2bfr20de3O4XUjMVkPlpvIwVFjStVvW91uh15vfRmylz_4Rm2klodgyoDV3XmkzxKjVfpwMwIwfiKuUqvDn2r6fTKnMHgL6XC_CXXihXPeXF0FnHAm7tB3J4CgRyTaOeD0bG2/s400/e0034633_1452121.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 220px; margin: 0 0 10px 10px; width: 333px;" /></a><br />
<br />
結局、私は、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2010/11/62_04.html">冬の光</a>」(1962年製作/(画像))のように、「苦悩」する人間が無惨に曝す「脆弱性」を容赦なく描き切る、イングマール・ベルイマン監督のような映像としか、心底から睦み合えないのだ。<br />
<br />
そんな私が、「ミュージカル」をうんざりするほど観て来たのも、「教養の幅」を広げる範疇でしかなかったのである。<br />
<br />
そのことをも痛感させる、今回の映画鑑賞だった。<br />
<br />
「ヘビーなミュージカル」を狙った、ラース・フォン・トリアー監督による「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/09/00.html">ダンサー・イン・ザ・ダーク</a>」(2000年製作)は例外だったが、もう二度と、この種の「ミュージカル」を観ることはないだろう。<br />
<br />
「教養の幅」を広げるための映画鑑賞を繋ぐほど、私には残り時間の余裕がないからである。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-22989305367549300412011-10-25T04:48:00.011+09:002013-10-24T12:56:06.755+09:00深夜の告白('44) ビリー・ワイルダー<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj8XQ45tEcm4GvnqWXotyvYg0CzS81YSjjEAJHljX6z4sEGdwyYwa32ZdsqMABaV7GfNlfWwqpuSuJnR0GI7h_WojlAG6gPRkc_WF8Q5Yej6tqpipz2iJX3a4aKIzqkNUTAUumFrSwHhQaE/s1600/ph.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5667151331850131538" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj8XQ45tEcm4GvnqWXotyvYg0CzS81YSjjEAJHljX6z4sEGdwyYwa32ZdsqMABaV7GfNlfWwqpuSuJnR0GI7h_WojlAG6gPRkc_WF8Q5Yej6tqpipz2iJX3a4aKIzqkNUTAUumFrSwHhQaE/s400/ph.jpg" style="float: right; height: 260px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
<span style="font-weight: bold;"><「袋小路の閉塞感」の表現力を相対的に削り取ることで希釈化された、ダークサイドの陰鬱感漂う「フィルム・ノワール」></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 澱みのないセリフの応酬による饒舌な筆致の瑕疵<br />
<br />
<br />
<br />
「男を破滅させる女」 ―― このような女を、「ファム・ファタール」と言う。<br />
<br />
ここに、ラストシーン近くに用意された短い会話がある。<br />
<br />
「俺を愛してたのか?」<br />
「人を愛したことなどないわ」<br />
<br />
これが、ハリウッド史上に「ファム・ファタール」=「悪女」の誕生を告げる有名なシーンだ。<br />
<br />
尋ねたのは、ネフ。<br />
<br />
保険会社の有能な営業マンであったが、女のアンクレットに誘(いざな)われて、まんまと、そのハニ―トラップ(「蜜の罠」)網に搦(から)め捕られたアホな男である。<br />
<br />
そして、この無意味な問いに答えたのが、「ファム・ファタール」である実業家の後妻。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjpL7QakZ5jk-xQ5y04rclpPXsCVJ9bp8VBXcuYWU55r6UFtlIi7EauapI5Mb1W9DxjKk9cC9FlPokH3mTE6B_cbAmn6iwY_n2n_qQkQDA6wSuTzyPlBvlCFmPasiLqCOaYg7gaA_7ca_4/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="318" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjpL7QakZ5jk-xQ5y04rclpPXsCVJ9bp8VBXcuYWU55r6UFtlIi7EauapI5Mb1W9DxjKk9cC9FlPokH3mTE6B_cbAmn6iwY_n2n_qQkQDA6wSuTzyPlBvlCFmPasiLqCOaYg7gaA_7ca_4/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
その名は、フィリス。<br />
<br />
ともあれ、このフィリスと共謀して、保険金目当てで夫を殺害するという、ハリウッドの「フィルム・ノワール」のネガティブなストーリーは、当然の如く、「ヘイズ・コード」(後述)のターゲットにされたとされる曰くつきの作品。<br />
<br />
松葉杖をつきながら、モノクロの闇の画面の中枢に、そこだけスポットが当たるように出現する、いかにもノワールらしい映像の導入である。<br />
<br />
「これは自供のようなものだ。私は君の眼の前で不正を働いていた・・保険金殺人事件をやったのは、この私だ。しかも、金と女の両方も手に入らなかった」<br />
<br />
この言葉は、左肩辺りに銃弾を受け、重傷を負った男が会社の自分のオフィスに戻った直後、徐(おもむ)ろにディクタホン(ボイスレコーダー)を手に持ち、自らが犯して頓挫した事件の全貌を告白する男の切り出しだ。<br />
<br />
これが、冒頭のシークエンス。<br />
<br />
この冒頭のシークエンスので判然とするように、「フィルム・ノワール」の本作は、最初から犯人が登場する倒叙形式(最初に真犯人が出て来て、犯行過程が明かされていく推理小説の一つの形式)の手法によるハンディを、狭隘な映画空間で展開される人間の心の闇に焦点を当てた、相応の「心理サスペンス」という装飾を施している。<br />
<br />
しかし本作は、その後の物語のサスペンスフルな展開に、観る者の好奇の感情を抱かせる映像構成の技巧によって、この導入は相当程度成就しているだろう。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh6WTx9WKaL3CxOnJ30UMa7EmyCZmeyB7iDe386h62FuWp4zMinzgD2mqyGEz22y4F6gNgH3U7QoQ39jTAEDVmi3fVAD4dVuR-HAakjHa5XZFFhijtHhXyYeot3CbctYclRFwhBCT09x10/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="336" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh6WTx9WKaL3CxOnJ30UMa7EmyCZmeyB7iDe386h62FuWp4zMinzgD2mqyGEz22y4F6gNgH3U7QoQ39jTAEDVmi3fVAD4dVuR-HAakjHa5XZFFhijtHhXyYeot3CbctYclRFwhBCT09x10/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
あとは、物語のサスペンスフルな展開の内実のみということになるが、その肝心なストーリー展開もまた、心憎い程の構築力を見せていくが、それにも拘らず、私が気になったのは、以下の点に尽きる。<br />
<br />
そこだけは特段に拘泥して欲しかった、「フィルム・ノワール」特有のニヒリズム・ペシミズム・シニシズム・デカダンス等々の、ダークサイドの陰鬱感漂う空気の澱みや、ドイツ表現主義的な「袋小路の閉塞感」が精緻に表現されていなかったこと。<br />
<br />
これは、私の映像感性から言えば、看過し難い何かであった。<br />
<br />
その理由は簡単である。<br />
<br />
一点目。<br />
<br />
1944年製作という時代状況の制約と、この場面が回想シーンであると把握できていても、ワイルダー流のテンポの速さを抑制し切れなかったのか、不必要なまでの、澱みのないセリフの応酬による饒舌な筆致が気になったのだ。<br />
<br />
要するに、本作もまた、数多のジャンクなるハリウッド映画同様に、精緻を極めた心理描写の決定的欠如が目立つのである。<br />
<br />
それは、この回想シーンで描かれる男女の保険偽装殺人事件のプロセスが、あまりにお座成りで、且つ、粗雑・拙劣であり、それはまるで、突拍子もなく思い付いたように、スーパーの強盗を強行する軽量感に近い何かなのだ。<br />
<br />
以下、稿を変えて言及する。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「袋小路の閉塞感」の表現力を相対的に削り取ることで希釈化された、ダークサイドの陰鬱感漂う「フィルム・ノワール」<br />
<br />
<br />
<br />
「ファム・ファタール」の女と2度目に会ったとき、保険会社の有能な営業マンの勘が働いたのか、フィリスの思惑を認知したネフは、相手にせずに帰宅した。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjb3eyojIepCaU8q1QTzNV0vtJ2Cui_rFR5OSUbtupLRZ0rTwqfrvJGN00CwfzO0MWBqmr-zfB5zkh8S1sMhJ9rg4uzlr8Qaa-PBYhWbJTUy-g86OG61gxDxkNFgK3EbAVIxHYbYf-eeTzC/s1600/double_indemnity.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5667150837741531234" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjb3eyojIepCaU8q1QTzNV0vtJ2Cui_rFR5OSUbtupLRZ0rTwqfrvJGN00CwfzO0MWBqmr-zfB5zkh8S1sMhJ9rg4uzlr8Qaa-PBYhWbJTUy-g86OG61gxDxkNFgK3EbAVIxHYbYf-eeTzC/s400/double_indemnity.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 290px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
そのネフの部屋を、フィリスが訪ねて来た。<br />
<br />
その行動を予想できなかったネフは、その日のうちに、フィリスのハニ―トラップ網に搦め捕られ、女の夫への保険金殺人の計画を練っていくのだ。<br />
<br />
「もう、後戻りはできないのだ」<br />
<br />
これは、その夜のネフのモノローグだが、以前から、プランニングとして想定することがあったとしても、それは営業マンとしての防衛戦略の一環であった。<br />
<br />
保険金殺人への心理プロセスが削り取られている根拠が、蠱惑(こわく)的な女の強力なハニ―トラップの故であると言うなら身も蓋もないが、それにしても、あまりに単純な心理の変容ではなかったか。<br />
<br />
二点目。<br />
<br />
今でも進化論を否定(一説には、国民の約50パーセント)する「宗教国家」としてのアメリカらしい、「ヘイズ・コード」(猥褻や極端なインモラルを規制する、保守派の映画製作倫理規定)の縛りから巧みに解き放つためなのか、本作の主人公の上役でもあり、実質上の探偵役となるキーズの人物造形による、ノワール感の希釈化。<br />
<br />
冒頭のシークエンスでの「深夜の告白」の対象人格となった、キーズのパーソナリティが醸し出す、その本来的な闊達さ・明朗さ・哀感によって希釈化されたノワール感によって、狭隘な映画空間で展開される人間の心の闇に焦点を当てたはずの本作を、限りなくフラットなヒューマンドラマに近い、「そこそこに良くできた」サスペンス・ムービーに変容させてしまったのだ。<br />
<br />
「殺人の共犯は特急列車と同じだ。終点の墓場まで、誰も下車できない」<br />
<br />
これは、そのキーズの言葉。<br />
<br />
保険金殺人の計画が遂行し、上首尾に終わっても、鋭利な頭脳の主であるキーズを恐れるネフが、切っ先鋭く受け止めた言葉である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-fOw_fTNKY4wRxfNTmHe3LVGuEu27mM5eJi3sXYtBo94DmmJJVv9bR5fVKjSJgU0KurPH1VVeOM9AAIfvZ8xV52pdcT6wdRCzUZvH3DGnA3Gwsu0-j_UB0RrGlrelLyMQjpV8rSmwNy-c/s1600/12_1.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5667149991241910002" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-fOw_fTNKY4wRxfNTmHe3LVGuEu27mM5eJi3sXYtBo94DmmJJVv9bR5fVKjSJgU0KurPH1VVeOM9AAIfvZ8xV52pdcT6wdRCzUZvH3DGnA3Gwsu0-j_UB0RrGlrelLyMQjpV8rSmwNy-c/s400/12_1.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 268px; margin: 0 0 10px 10px; width: 360px;" /></a><br />
松葉杖をついていたのに、フィリスの夫が傷害保険を請求しない行為に疑問を持つキーズ(画像右)は、紛う方なく刑事コロンボだったという訳だ。<br />
<br />
明朗闊達な、この刑事コロンボの存在感の大きさこそ、本作のノワール感を希釈化させた最大の因子だったと言っていい。<br />
<br />
それほど印象深いキーズの人物造形であった。<br />
<br />
<br />
<br />
三点目。<br />
<br />
<br />
女の人物造形の脆弱さ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBPfWiXxO24y0_8Dw-XcChO3YxHoHRy8_v3UwvCQEuNXbfFepM2yVf9qQamV216brOwPAAIxPNN1mD5iKZvAtAVRhLdZRlBhuA_tvx8vx8wV2CVHgcoPLtgoljCuDuZihLuoKxDasrsLWu/s1600/9_1.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5667149675939704578" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBPfWiXxO24y0_8Dw-XcChO3YxHoHRy8_v3UwvCQEuNXbfFepM2yVf9qQamV216brOwPAAIxPNN1mD5iKZvAtAVRhLdZRlBhuA_tvx8vx8wV2CVHgcoPLtgoljCuDuZihLuoKxDasrsLWu/s400/9_1.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 279px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
ただ単に、悪女ぶりを際立たせたイメージのみが浮き上がってしまっていて、金髪のかつらを着用した「ファム・ファタール」のハニ―トラップの威力は、その蠱惑性を相当程度中和させてしまったであろう。<br />
<br />
以上、3点について言及したが、これらが、「フィルム・ノワール」のダークサイドの陰鬱感が希釈化された因子だったと、私は考えている。<br />
<br />
それが良いか悪いかについては、観る者の受け取り方次第であることを認知してもなお言い添えるならば、ノワール感の希釈化は陰鬱感ばかりか、「袋小路の閉塞感」の表現力を相対的に削り取ることで、前述したように、本作を限りなくフラットなヒューマンドラマに近い、「そこそこに良くできた」サスペンス・ムービーに変容させてしまったのである。<br />
<br />
「そこそこに良くできた」サスペンス・ムービーが希釈化させたものは、サスペンスの本質である、心の安寧の拠り所を失った自我の防衛機構が過剰に反応する「緊張感」であるだろう。<br />
<br />
この「緊張感」が、クリティカルポイントにまで追い詰められるときの限界状況の心理が、少なくとも、私にはあまり伝わってこなかったのだ。<br />
<br />
それは、前述したノワール感を希釈化させた因子の故である。<br />
<br />
ビリー・ワイルダーは「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/08/50.html">サンセット大通り</a>」(1950年製作)や「情婦」(1957年製作)を例にとっても、畢竟(ひっきょう)するに饒舌すぎるのだ。<br />
<br />
語ることが止められない映像作家なのである。<br />
<br />
だから私は、中々、この個性的な巨匠の、器用であるが故にか、技巧先行のように印象付けられてならない映画空間に馴染めないのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjXjlEcpCdUTNfXfFfCUfYm2itUm4W8LM-qLgK3_0rLFAmFdkbEZNRREQJK3NwW4fYAhLJUEL7mY2TSkFv5WDueOtltLef-x1COzzpi-IBAcLu8iQHyZNLNJsTM-lKBHMaxD7Ea9mXoW_A/s1600/20120325_3083053.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjXjlEcpCdUTNfXfFfCUfYm2itUm4W8LM-qLgK3_0rLFAmFdkbEZNRREQJK3NwW4fYAhLJUEL7mY2TSkFv5WDueOtltLef-x1COzzpi-IBAcLu8iQHyZNLNJsTM-lKBHMaxD7Ea9mXoW_A/s400/20120325_3083053.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ビリー・ワイルダー監督</td></tr>
</tbody></table>
それなしに物語が成立し得ない「必要な語り」と、それなしに物語が成立する「不必要な語り」があるとすれば、多くのハリウッド映画がそうであるように、ビリー・ワイルダーには「不必要な語り」が多過ぎるのだ。<br />
<br />
それが、器用貧乏なストーリーテラーの宿命なのか否か、私には分らない。<br />
<br />
ただ、本物の心理サスペンスには、「驚かしの技巧」とは無縁の、それ以外にない「間」が不可避であるだろう。<br />
<br />
この「間」が、心の安寧の拠り所を失った自我の、その防衛機構が過剰に反応する「緊張感」を作り出す。<br />
<br />
これが、観る者の「緊張感」をも掻き立てていく。<br />
<br />
クリティカルポイントにまで追い詰められるときの限界状況の心理描写の、整合性を壊さない物語と睦み合って、完成度の高いサスペンスを構築するのである。<br />
<br />
本作は極めて瑕疵の少ない佳作であったが、サスペンス・ムービー特有の「緊張感」を、ひしひしと醸し出す映像というイメージには結びつかない、フラットなヒューマンドラマのカテゴリーに近い何かであった。<br />
<br />
増して、「フィルム・ノワール」というカテゴリーとは、相当に乖離した一篇だった。<br />
<br />
それが、本作に対する私の批評のエッセンスである。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-86357120389055128872011-10-24T15:30:00.009+09:002013-10-24T13:02:06.674+09:00第9地区('09) ニール・ブロンカンプ<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMe67ZD6cjk0Vy6j5eDKpwQEqlQMi894TsRNkmZCm9I8njMQvWt8ZwCPG6czlb6pb-EAQByKE_tcGARl41PbmbmuJLAx4hisMLsThto_C__pOWqSa1AZLvK31WWhJZD8taDI8GeGrOQJpD/s1600/51q%252BWNpQc0L.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666943960285207330" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgMe67ZD6cjk0Vy6j5eDKpwQEqlQMi894TsRNkmZCm9I8njMQvWt8ZwCPG6czlb6pb-EAQByKE_tcGARl41PbmbmuJLAx4hisMLsThto_C__pOWqSa1AZLvK31WWhJZD8taDI8GeGrOQJpD/s400/51q%252BWNpQc0L.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 345px; margin: 0 0 10px 10px; width: 361px;" /></a><br />
<span style="font-weight: bold;"><突貫精神の屈託のなさを全開させた、視覚情報効果のアナーキーな「初頭効果」のインパクト></span><br />
<br />
<br />
1 視覚情報のみを掻き立てる訴求力の高いコンテンツを供与した、「初頭効果」の戦略性が見事に嵌った映画<br />
<br />
<br />
<br />
手を変え品を変え、より刺激的に視覚情報を与え続けることによってしか成立しなくなったハリウッドムービーが、遂に、このような形によってしか需要者に商品提示できなくなったことを証明する一篇でもあった。<br />
<br />
<br />
それが、より心地良い快楽を求め続ける娯楽の本質であることを認知している私としては、言うまでもなく、「それもあり」と考えている。<br />
<br />
従って、「音声解説」での監督の思いは理解できる。<br />
<br />
<br />
ただ私が気になるのは、次稿で引用する「アパルトヘイト世界とSFの融合こそが、“第9地区”の狙いである」という言葉にある。<br />
<br />
「融合」という概念を使うには、位相の違う両者が、作り手の中で「等価値」であるか、それに近いものとして把握されているということだろう。その場合、SFは映像表現の手段であり、フィールドでもある。<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgpyaIstF2zLCOkl15EKqjW0ciAc6VPG6G-KwCGlYjl3QXpMGWoEuo1kv-lNGrPu1y1jI80VAdOesp2QzUpXbqw6ZsRBuf6atrKub_iBhTeOk0a-vX6sCmgggpJlXnNwWE39XBIJb4FETQ/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="568" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgpyaIstF2zLCOkl15EKqjW0ciAc6VPG6G-KwCGlYjl3QXpMGWoEuo1kv-lNGrPu1y1jI80VAdOesp2QzUpXbqw6ZsRBuf6atrKub_iBhTeOk0a-vX6sCmgggpJlXnNwWE39XBIJb4FETQ/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
当然ながら、そのフィールドの俎上に乗るのは、「融合」という言葉に象徴される、「アフリカの貧困者・被抑圧民・難民」というテーマ性であることに間違いないだろう。 <br />
<br />
即ち、SFを物語のフィールドにして、後述するように、「アフリカの圧政権力」=「それを放置する先進国家」⇔「アフリカの貧困者・被抑圧民・難民」=(或いは、「格差で遺棄される先進国家の貧困者」)という、包括的なテーマ性を持った映像の構築を目指したということであると言っていい。<br />
<br />
しかし、決して長尺でない100分間の映像を観る限り、このテーマに関わる描写の挿入がふんだんに含まれてはいるが、観る者がこのテーマを正確に咀嚼し、受容し得る映像になっていたかについては相当に疑問が残るのである。<br />
<br />
夫婦愛あり、エイリアンの親子愛あり、件の「心優しきエイリアン」の友情への哀感あり、過激なアクションシーンあり、等々のごった煮の物語を、本作の中で最も感情移入し得る対象として描かれた、クリストファー親子(件のエイリアン)の誠実で、前向きな振舞いによって相対化されたのは、「差別する者」=「悪」なる「人類」ばかりでなく、悪戯に時間を浪費するばかりの他のエイリアンたちであった。<br />
<br />
この一連のエピソードの挿入が、恐らく本作を、「ヒューマンドラマ」に近いSF作品のうちに、限りなくイメージされた何かに昇華させる推進力になっているに違いない。<br />
<br />
そこに、作り手が言わんとする、ネガティブで凄惨な「アフリカの貧困者・被抑圧民・難民」の現実を、より照射させる効果を認知するのに吝かではない。<br />
<br />
ならば、なぜ、目まぐるしくテンポの速い物語を、最初はドキュメンタリータッチで、そして半ば辺りから、ハリウッド的な効果音を執拗に垂れ流し、最後は、そこもまた、殆ど予約済みのハリウッド的カタルシスを保証せねばならなかったのか。<br />
<br />
そのように、加速的にヒートアップした物語の、超ハイテンポなノリによってて失うものは、観る者の「半身思考停止」の様態であると言わざるを得ないのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBLTCeYS1T3P4TgvVDfxQVlStZxfaiDYY-ADOLyAWDNMXiNsJKAFdSx6bUfciRzvEon2KV4FRvDOzyu9MGVpXjJTSzpIz26-cbJ1fiQwXYoXozpNQxURRZOPYLjdvuAp08Dp_6WAZjfgQ/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="362" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBLTCeYS1T3P4TgvVDfxQVlStZxfaiDYY-ADOLyAWDNMXiNsJKAFdSx6bUfciRzvEon2KV4FRvDOzyu9MGVpXjJTSzpIz26-cbJ1fiQwXYoXozpNQxURRZOPYLjdvuAp08Dp_6WAZjfgQ/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
要するに本作は、単に「面白いだけの娯楽」としての商品価値を、パワード・スーツ(筋力強化のためのロボットスーツ)の如き、文明の極北の産物等の利器を駆使することで、初監督作品としてのビギナーズラックを目途にし、相当にクレバーな戦略性を保持し得た、巧みな商品価値性を獲得するに足る、相応のクオリティーを内包した娯楽ムービー以上ではないという感懐を持たざるを得ないのである。<br />
<br />
確かに、「それもあり」だが、私としては、「アパルトヘイト世界とSFの融合こそが、“第9地区”の狙いである」という監督のコメントに接したことで、どうしても、ある種の戦略的で、低強度(緩やかな、という意味のアイロニー)の欺瞞的映像の印象から解き放たれないのだ。<br />
<br />
「初頭効果」(第一印象効果)の戦略性が見事に嵌った映画を作りながらも、前述したように、視覚情報のみを過剰に掻き立てる訴求力の高いコンテンツを供与したに過ぎないのである。<br />
<br />
私にとって、それ以上でも、それ以下の映像でもなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
2 突貫精神の屈託のなさを全開させた、視覚情報効果のアナーキーな「初頭効果」のインパクト<br />
<br />
<br />
<br />
「差別する者たち」が「差別される者たち」の異界の存在体に変容していくことによって視認し得た、自らが「差別する者たち」であったゾーンで馴染んだ風景は、その者が「差別する者」であったときには気づき得なかった、言語に絶する「弱肉強食」の凄惨な現実だった。<br />
<br />
「差別する者」=「悪」なる「人類」⇔「差別される者」=「善・弱者」なる「宇宙人」(或いは、「組織性」を解体された悲哀なる「宇宙人」)という二項対立の構図を仮構する。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiYe4YNhdt_jb3LohdF4IxFiDACyL1C8aMj8zO0_EID5rITZCSiBGPXPYaaj6W1FufSP3I2-vfORd5Sx-Ztepnymair39afGuW-lqPlhVhyphenhyphenuqZyOsBhiuWl6jdztnmySjsqRLBxQdFnJnqQ/s1600/C2E89C3CFB6E8A1A2A3B2%2528C%2529200920District20920Ltd_20All20Rights20Reserved_.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666944058667075090" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiYe4YNhdt_jb3LohdF4IxFiDACyL1C8aMj8zO0_EID5rITZCSiBGPXPYaaj6W1FufSP3I2-vfORd5Sx-Ztepnymair39afGuW-lqPlhVhyphenhyphenuqZyOsBhiuWl6jdztnmySjsqRLBxQdFnJnqQ/s400/C2E89C3CFB6E8A1A2A3B2%2528C%2529200920District20920Ltd_20All20Rights20Reserved_.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 267px; margin: 0 0 10px 10px; width: 365px;" /></a><br />
具体的イメージとしては、前述したように、前者が「アフリカの圧政権力」=「それを放置する先進国家」、後者が「アフリカの貧困者・被抑圧民・難民」=(或いは、「格差で遺棄される先進国家の貧困者」)という二項対立の構図に拡大させていく。<br />
<br />
この基幹的な問題意識を、後者に収斂される政治的映画で真っ向勝負することなく、どこまでも、前者の枠内で処理していけば、当然の如くSF映画になるだろう。<br />
<br />
しかし、この映画の作り手は、「アパルトヘイト世界とSFの融合」という、かつてない「物語設定の斬新さ」の構築を目指したらしいのである。<br />
<br />
それこそが、“第9地区”の狙いであったのだ。<br />
<br />
以下、この映画の作り手の不必要なまでの自作のレクチャー、と言うより、過剰な長広舌の、そのほんの一部分である。<br />
<br />
「・・・これらの映像が示すものは“外国人嫌悪”なのだ。実際のスラム居住者に多く見られる意識だ。アレクサンドラやソウェトの一部など、ヨハネスブルクの全居住区でね。ここ数年、南アで外国人嫌悪が広がっているんだ。貧窮したジンバブエ人が、良い暮らしを求め南アに来た。でも南アの国民も貧困に喘いでいて、同じく良い暮らしを求めている。だから、乱入して来たエイリアンに嫌悪感を抱いた。貧困に喘ぐ第三世界を描きつつ、SFの要素を重ねたんだ。エイリアンが象徴するのは、ジンバブエ人やナイジェリア人だ。(略)僕はこの初監督作品を政治的な映画にするつもりはなかった。当時の状況をカメラに収めただけだ。それが今、より一層深刻な問題となった。真剣に扱わざるを得ない重大な問題だ。(略)間違いなくこの映画には、南アの生きた現実が示されていると言える。人々の心に潜む意識が顕在化されているし、僕が幼い時に見た史実も含まれている。アパルトヘイト世界とSFの融合こそが、“第9地区”の狙いである」(「ニール・ブロンカンプ監督による音声解説」より)<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhvNvTE8-2DWPXlRkk8n7HMgBNx7KzqMZUak5J4TDh4YMkig2qnlREC6nQaXG9JOOhBQNi_YRJZsQEZLpUahazyKRORYKXTvIrBomErm0UeNDa909AGOkZUzgHts8JpZ4WJ4VXpEfPDK-8/s1600/%25E7%2584%25A1%25E9%25A1%258C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhvNvTE8-2DWPXlRkk8n7HMgBNx7KzqMZUak5J4TDh4YMkig2qnlREC6nQaXG9JOOhBQNi_YRJZsQEZLpUahazyKRORYKXTvIrBomErm0UeNDa909AGOkZUzgHts8JpZ4WJ4VXpEfPDK-8/s400/%25E7%2584%25A1%25E9%25A1%258C.png" width="317" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">ニール・ブロンカンプ監督(<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウィキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
厚顔にも、よくぞ、ここまで語って見せてくれたものである。<br />
<br />
思いは充分に了解し得るが、コモディティ化への懸念を払拭し、下振れリスクの一切の不安を完膚無きまでに粉砕した、「娯楽映画」としての商品価値のグレードアップに成就するという自信に漲(みなぎ)っている若者像を、殆ど厭みなく、その心理的風景のうちに見る思いだ。<br />
<br />
ともあれ、この作り手は、本作を政治映画にするつもりはなかったと言い訳しながらも、このようにDVDの特典映像で、滔々と、「今、アフリカで起こっている凄惨な現実」を語ってみせるのだ。<br />
<br />
そんな青年監督(1979年生まれ)が作った本作の中に、この作り手の基幹メッセージ、と言うより、イメージ喚起性が容易に感受されるように作られてはいるが、しかしこの映画は、本質的に「娯楽映画」の範疇にしか収まらない物語構成を成している。<br />
<br />
天の邪鬼な私には、ゲームセンターで響き続ける雑音のようにしか聞えない、ハリウッド的な効果音の不断の連射と、そこもまた永遠に変わり得ないだろう、後半の大部分を占有する、陳腐の極致とも言える、愚かなまでのアクションシーンの過剰な氾濫に辟易するばかりなのだ。<br />
<br />
そんな本作に思い入れする鑑賞者の中には、「娯楽作品とは一線を画した映画」(ユーザーレビュー)などという、訳知り顔の「深読み」を自己顕示して見せるが、さすがに、この類のレビューに接すると、その説得力ある論理的根拠を求めたい思いに駆られたが、一切は観る者の自由だから、己が突っ込みのアホらしさに失笑を禁じ得なかった。<br />
<br />
閑話休題。<br />
<br />
異形の如き外見や相貌の「醜悪さ」は、人間が未知の他人を受容する最も大きな障壁になっているという、有名な「メラビアンの法則」(注)という仮説を想起させる程に、一見しただけで「生理的嫌悪感」を抱いてしまいそうな「宇宙人の造形」を、戦略的に設定した突破力のないエイリアンたちの中にあって、「心優しきエイリアン」であるクリストファー親子の「人格造形」は、本作の肝であると言っていい。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiq-84qA0e1PIrSuyquylCfxlo_EGcnnkPPZcSQJfwZXI5EiTi7ER0lqZcOlEhXEF_XrNexytfhQSNUPJ6Z9e71559CQs1ASdGyGTSR_pjfnTO0Kk8F3vQKY_Stekxv246d-XS0tU0HxIqZ/s1600/C2E89C3CFB6E8A1A2A3B5%2528C%2529200920District20920Ltd_20All20Rights20Reserved_.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666944158223524786" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiq-84qA0e1PIrSuyquylCfxlo_EGcnnkPPZcSQJfwZXI5EiTi7ER0lqZcOlEhXEF_XrNexytfhQSNUPJ6Z9e71559CQs1ASdGyGTSR_pjfnTO0Kk8F3vQKY_Stekxv246d-XS0tU0HxIqZ/s400/C2E89C3CFB6E8A1A2A3B5%2528C%2529200920District20920Ltd_20All20Rights20Reserved_.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 264px; margin: 0 0 10px 10px; width: 360px;" /></a><br />
その「心優しきエイリアン」であるクリストファー親子との「異文化溶融」を、まさに、その異文化に棲むエイリアンに変容した、主人公の英雄譚もどきの振舞いで閉じる予定調和のカタルシスを用意することで、観る者の多くは、その主人公と連携した「心優しきエイリアン」の、「ヒューマン」な一挙手一投足に情感投入することで、作り手の基幹メッセージを呆気なくスル―するか、或いは、形式的に納得したつもりになって、ほんの少し目先を変えただけの、「独創性」、「斬新性」という名の、エンドレスなまでに刺激的で、マキシマムな視覚情報効果のアナーキーな突貫精神の屈託のなさと睦み合う、多様なる映像文化のコンテンツ供与の方図なきトラップに嵌っていくばかりだろう。<br />
<br />
これは同様に、政治的映画を作ることを拒みながらも、物語を決して娯楽映画のカタルシスに流さないことによって、充分に基幹メッセージが観る者に伝わってくるミヒャエル・ハネケ監督の構築的映像と比較すれば、その完成度の高さの決定的な差異は否めないのだ。<br />
<br />
それにしても、視覚情報効果のアナーキーな、突貫精神の屈託のなさを全開させた感のある本作が、第84回(2010年度)キネマ旬報ベストテンの3位の評価を得たとは驚きであった。<br />
<br />
どう見ても、その完成度の高さから言えば、この年に公開された外国映画のNo.1を得ると信じる、ミヒャエル・ハネケ監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/08/09.html">白いリボン</a>」(2009年製作)が、本作より下位の評価(第4位)であった事実に拍子抜けするばかり。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
そのことは、およそ凡作にしか思えなかった、クリント・イーストウッド監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/03/08.html">グラン・トリノ</a>」(2008年製作)が、ポン・ジュノ監督の「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/02/09.html">母なる証明</a>」((2009年製作)より高評価(2008年製作/第1位)を得たときの思いにも重なるが、このケースを見る限り、必ずしも、「娯楽性」の濃度の有無と無縁であることの証左でありながらも、本作の高評価の因子が、そこに含まれていたであろう、蛇足的とも誤読し得るメッセージ性でなかったとしたら、トップランナー紛いの「初頭効果」のインパクトによって決定付けられたと揶揄していいだろうか。<br />
<br />
無論、私の独断的評価の偏頗(へんぱ)性を認知しつつ、出稿した一文であることは百も承知。<br />
<br />
もっと揶揄するならば、予定調和のカタルシスに流れることで、時には、「肝」の辺りを劣化させる事態への問題意識や、適正サイズの抑制系を持ち得ないような青年監督の、内側に隠し込んだ切っ先を、ほんの少し揺らさせて見せただけで相応の効果を持つと信じる、作者限定の切り売りのナルシズムだけが際立つ映像だった。<br />
<br />
少なくとも本作は、私にとって、その類のインプレッションしか受容し得なかったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhc2ZYa42JlNmckelW0jsEhox7mwGCT1Ovex6W4CnWpTgg-XExiZIAgcuWoOlK3h54mnq9ii4Oa3yLMPv6y0JkZG0kNdiKZ9LNTQ0OWd3ExC6WbeXYiSp0aXWXwlHHCs-qqQNDVuX5KjTA/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="232" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhc2ZYa42JlNmckelW0jsEhox7mwGCT1Ovex6W4CnWpTgg-XExiZIAgcuWoOlK3h54mnq9ii4Oa3yLMPv6y0JkZG0kNdiKZ9LNTQ0OWd3ExC6WbeXYiSp0aXWXwlHHCs-qqQNDVuX5KjTA/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">アルバート・メラビアン</td></tr>
</tbody></table>
(本稿で、敢えて本作の簡潔な梗概にすら言及しなかったのは、その気を起こさせる感情すら惹起しなかったからである)<br />
<br />
<br />
(注)アルバート・メラビアン(米国の心理学者)が提示した有名な仮説だが、俗流解釈の横行で通俗的な議論にまで流布されているが、件の研究者には申し訳ないと思いながらも、ここでは敢えて、その俗流解釈の一端を書いておこう。それによれば、「外見」、「態度」、「話し方」、「話の内容」という「四つの壁」が、他人を受容する最も大きな障壁になっているということ。(以上、「ブログ ビジネス心理学」参照)<br />
<br />
このことを考えるとき、男女の恋愛感情を惹起しやすい最大の要件が、表面的には判断し得ない「人間性」よりも、「相手の異性の外見」であるという、心理学の各種のデータを裏付けるとも言えるだろう。従って、本作のエイリアンに対する差別感情には、根拠のない「生理的嫌悪感」であることが判然とするのである。「生理的嫌悪感」という言葉を多用することの怖さについて、私たちはもっと自覚的でなければならないのだ。<br />
<br />
その意味で、クリストファー親子の「人格造形」は、「外見」よりも「人格」の中身こそ重要であるという作り手のメッセージだろう。そんなシンプルな把握でOKということか。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-12152565306038998552011-10-22T05:42:00.012+09:002015-01-25T13:41:23.307+09:00やわらかい手('07) サム・ガルバルスキ<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh9WTgT68tCB4XDBBr45PavfqULC2Aj_HXNakBhkZaS-OmkPrORAzhEFcSWCLSjGiwGeotJDj3zpVKt93ixLTP4MEKSkSFDsCvdTGWJL_ZlsVwofJHNO8pLj6IcecKPM6-G6WhNGwiACsI/s1600/original.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh9WTgT68tCB4XDBBr45PavfqULC2Aj_HXNakBhkZaS-OmkPrORAzhEFcSWCLSjGiwGeotJDj3zpVKt93ixLTP4MEKSkSFDsCvdTGWJL_ZlsVwofJHNO8pLj6IcecKPM6-G6WhNGwiACsI/s640/original.jpg" height="426" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「感動譚」を成就させる推進力として駆動させた文化としての「風俗」<br />
<br />
<br />
<br />
難病と闘う孫を、その孫を愛する祖母が助ける。<br />
<br />
「あの子のためなら何でもするわ。後悔なんて少しもよ。家くらい何なの」<br />
<br />
冒頭シーンで、既に家を手放した祖母が、息子に吐露した言葉だ。<br />
<br />
祖母の名は、マギー。<br />
<br />
ロンドン郊外の町に住んでいる。<br />
<br />
この冒頭シーンで、予備情報を持たない観客は、本作が在り来たりの「感動譚」であるというイメージを想念するだろう。<br />
<br />
大抵、この類の「感動譚」の物語構成は、「無償の愛」という犠牲的精神をフル稼働させて、その「無償の愛」によって救われる「心優しき愛の受給者」と、「心優しき愛の供給者」という関係性の枠内で安直に処理されるケースが多いからだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg8DXJl_8vYBfKO3J7Si9TV8vTUysL7qf_zdlqh0XQYMYX4HXJsyfWI4aC2EMLL1tCTM87hPoawT0zdijhIwLSMgc_-DgEDNdW_T6rCtQW8cmeUDaXoYF5o0WJhvu2SclKFu1HwC49OD74Y/s1600/350.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg8DXJl_8vYBfKO3J7Si9TV8vTUysL7qf_zdlqh0XQYMYX4HXJsyfWI4aC2EMLL1tCTM87hPoawT0zdijhIwLSMgc_-DgEDNdW_T6rCtQW8cmeUDaXoYF5o0WJhvu2SclKFu1HwC49OD74Y/s400/350.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666052275818500258" style="float: right; height: 197px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 350px;" /></a><br />
そんな安直な設定だけでも感涙に咽ぶ「物語の需要者」が、この世にごまんと存在するが故に、いつしか「物語の供給者」も、マンネリ化した「感動譚」を過剰に垂れ流す不埒な戦略に鈍感になっていく。<br />
<br />
挙句の果てに、「物語の需要者」にも飽きがきて、この類の「感動譚」の連射も頭打ちになっていく運命を免れなくなるだろう。<br />
<br />
ところが、「感動譚」の定番の如き虚飾と欺瞞に満ち満ちた話を、この映画は、観る者が思わず赤面するような直球勝負で描かないのだ。<br />
<br />
あろうことか、この「感動譚」を成就させる推進力として駆動させたもの ―― それは、およそ「感動譚」とは無縁な文化としての「風俗」であったこと。<br />
<br />
そこが、この映画の最も面白いところでもあった。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「ゴッド・ハンド」を持つ「イリーナ・パーム」の立ち上げ<br />
<br />
<br />
<br />
何かと問題が多い、「NHS」(英国の国営医療サービス事業)の制度によって、一応、治療費は無料だが、難病の故、可愛い孫の治療はオーストラリアでしか実施し得ないので、地理的に離れたオーストラリアまで、遠路遥々、出向かねばならず、宿泊代等を含めた費用たるや6000ポンドの大金を捻出せねばならなかった。<br />
<br />
難病と闘う孫を助けるために、祖母のマギーが窮余の一策として選択した職業が、何と性風俗店でのアルバイトだった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg0cs2JVhdohPaCY577Lywbeiygc0tUPdkHiLUk-rcoPsBTIkkVY-LhlvAjCAfqxGJaX1QQuaSNIYvBmz7pg71mGT2bo1xaEr0XHaCSfRVMVnKOzgRpq3L1cA5Hdrgl0XbT6JIOgiGKmXgk/s1600/irina.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg0cs2JVhdohPaCY577Lywbeiygc0tUPdkHiLUk-rcoPsBTIkkVY-LhlvAjCAfqxGJaX1QQuaSNIYvBmz7pg71mGT2bo1xaEr0XHaCSfRVMVnKOzgRpq3L1cA5Hdrgl0XbT6JIOgiGKmXgk/s400/irina.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5670296066997668002" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 268px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
ロンドンの歓楽街として有名な、ソーホーの一角にある性風俗店でのマギーの「仕事」 ―― それは、壁に穿たれた小さな穴の向こうに立つ男たちのペニスを「手コキ」することで、男たちのザーメンを放出させてあげるという、ある意味で実に簡単な「仕事」だった。<br />
<br />
壁の向こうの「美女」を想像しながら、列を作って居並ぶ男たちを射精させる技術は容易ではないと思われるが、その辺りをスル―した物語で描かれていくのは、当然の如く、世間擦れしていないマギーが、最初は嫌がっていたこの「仕事」に馴れることで、店一番の「達人」ぶりを発揮していくという顛末と、そのことが彼女の人間関係に与える余波である。<br />
<br />
何はともあれ、「風俗」の「仕事」に対するマギーの抵抗感を要約すれば、その「仕事」が「道徳」に背馳するということだろう。<br />
<br />
ここで、この想定外の物語構成について考えてみよう。<br />
<br />
要するに、社会的に支持された規範を「道徳」と呼ぶなら、この「道徳」という規範体系もどきの文化フィールドと隔たった距離にあるだろう、インモラルなイメージが被された「風俗」に、「無償の愛」の一念で驀進(ばくしん)する「心優しき愛の供給者」をリンクさせることで、その「無償の愛」の「善行」=「高い道徳性の表現」にさざ波を立ててしまう物語構成が、この映画の基幹の骨格を形成しているのだ。<br />
<br />
そればかりではない。<br />
<br />
「無償の愛」によって、勇気を持って自らを立ち上げた、世間擦れしていない「心優しき愛の供給者」の、その人生の本来的な有りようにまで肉迫していくのである。<br />
<br />
物語を続ける。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhrYbMXW4LoSRv0ZwoGxmd6XvvHZuLvFFO_rqMfzsYlpxSoY2YJOaT8XBGR6D4DA3yEn7JLB7YWla32450W9b4vf3C0Vbm4etlffNmyp8C562Ju-Bz8p4D5bzD3Cyh-M43r6wc8_bRMA1l7/s1600/123165121323516418118_yawarakaite01.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhrYbMXW4LoSRv0ZwoGxmd6XvvHZuLvFFO_rqMfzsYlpxSoY2YJOaT8XBGR6D4DA3yEn7JLB7YWla32450W9b4vf3C0Vbm4etlffNmyp8C562Ju-Bz8p4D5bzD3Cyh-M43r6wc8_bRMA1l7/s400/123165121323516418118_yawarakaite01.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666052764641052610" style="float: right; height: 177px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 246px;" /></a><br />
いつしか、大胆なまでの変容を遂げていく「心優しき愛の供給者」。<br />
<br />
マギーは、「風俗」の店内に絵や花を飾ったりして、自室のような雰囲気を出すのである。<br />
<br />
マギーの「やわらかい手」が「ゴッド・ハンド」であったためか、彼女の目当ての客ばかりが増えていくのだ。<br />
<br />
お陰で、稼げない従業員が馘首(かくしゅ)される現実もまた、「性風俗」の業界の習わしなのか、今や、「イリーナ・パーム」という源氏名を持つマギーだが、友人のルィーザが解雇されるに及んで、深く心を痛める。<br />
<br />
「SEXY WORLD」のオーナーのミキに、マギーは陳情した。<br />
<br />
そのときの会話。<br />
<br />
「客はお前が目当てだ。お前には居てもらう」<br />
「私が辞めたら呼び戻す?」<br />
「借金が、あと8週分ある。それを返したら辞めてもいい。関係がなくなる」<br />
「私はそれだけの存在なの?商売だけの・・・」<br />
<br />
自分の存在感の感触に鈍感な反応を見せるミキに不満を漏らすほど、マギーは、「性風俗」の世界に入れ込んでいたのである。<br />
<br />
その後、マギーは馘首されたルイーザを訪ねるが、けんもほろろに追い返されるのだ。<br />
<br />
「私たち、友達じゃないの?」とマギー。<br />
「友達よ。なのにあなたは・・・」とルイーザ。<br />
「私は何も・・・」<br />
「客を奪ったのよ。さっさと消えて」<br />
<br />
悄然とするマギーに、降って湧いたように、別の「風俗」の店から引き抜きの話が舞い込んできて、彼女の借金も返済すると言うのだ。<br />
<br />
その件をミキに話すと、引き留められ、喜ぶマギー。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjQ9uCNN3zOQm47c8tEUJYAedRT7kQOSLf18u-U0GIiOuiYxiAh9qnW3SoLNf7AXh4N85dPJDv57RpWZ8VB5UC1Jp5qWK6O-27rv5vRrYe2hhBO6KhZof0-iIt6r-b5zAtZcyhoTLCkAOfZ/s1600/10040024442.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjQ9uCNN3zOQm47c8tEUJYAedRT7kQOSLf18u-U0GIiOuiYxiAh9qnW3SoLNf7AXh4N85dPJDv57RpWZ8VB5UC1Jp5qWK6O-27rv5vRrYe2hhBO6KhZof0-iIt6r-b5zAtZcyhoTLCkAOfZ/s400/10040024442.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666053137150424226" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 213px; margin: 0 0 10px 10px; width: 360px;" /></a><br />
このとき以来、二人はプライベートな事情を話し合い、加速的に最近接していく。<br />
<br />
翌日、オシャレして店に出るマギーが、そこにいた。<br />
<br />
ミキと満面の笑みを交歓するマギーは、今や、「ペニス肘」になるまで稼ぎ続ける「プロ」に変貌していくのである。<br />
<br />
<br />
<br />
3 自我関与する「軽侮される母親」への後ろめたさの、爆発的な反転感情の行方<br />
<br />
<br />
<br />
難病と闘う孫の命を救うために、自らを犠牲にしたはずの「心優しき愛の供給者」は、単に、「無償の愛」の手段でしかなかった「風俗」の渦中に自己投入しながら、そこに、近所の主婦連との井戸端会議の世俗文化の次元では、とうてい手に入れられない自我アイデンティティを獲得するという流れを意志的に作ってみせるのだ。<br />
<br />
作ってみせた主体は、無論、本作の「ヒロイン」である中年の寡婦マギー(「心優しき愛の供給者」)である。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
だからと言って、マギーは、自らの「無償の愛」によって救われる「心優しき愛の受給者」の存在を、一時(いっとき)でも忘れることがない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXUO0s5Vs1aauW-P3E_og0cXxUpwrgrFgOFzyz2DZk1w_RQ-6HwFZ8m3UAuEAqkFgDxXVHlAoQ_KQZGiyVRDX4TffBivMegWAFPtNRVkzt-AetGlCSRCyZ2vb5EfEtLluVPaEmmK5fTnM/s1600/e38284e3828fe38289e3818be38184e6898b02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhXUO0s5Vs1aauW-P3E_og0cXxUpwrgrFgOFzyz2DZk1w_RQ-6HwFZ8m3UAuEAqkFgDxXVHlAoQ_KQZGiyVRDX4TffBivMegWAFPtNRVkzt-AetGlCSRCyZ2vb5EfEtLluVPaEmmK5fTnM/s1600/e38284e3828fe38289e3818be38184e6898b02.jpg" height="248" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: 12.8000001907349px;">ミキとマギー</span></td></tr>
</tbody></table>
マギーにとって、「心優しき愛の受給者」である難病の孫の存在は、殆ど絶対的に無限抱擁の対象人格なのである。<br />
<br />
しかし、そこだけは、このような映画の定番の如き、お決まりのエピソードを挿入する。<br />
<br />
マギーの秘密が、息子に露見してしまうのだ。<br />
<br />
母のマギーが、6000ポンドの費用を捻出したことに訝しがったからである。<br />
<br />
その日、マギーの息子が母の後をつけ、「SEXY WORLD」の店内に入って、母の外貌を目視してしまうのである。<br />
<br />
全てが発覚し、指弾される母。<br />
<br />
「分って欲しいの」<br />
「分らないね。世の中謎だらけさ。母親が売春婦になった理由も」<br />
「売春婦じゃないわ」<br />
「あの金は全て返す!あんな汚れた金なんて!あんたは薄汚れた女だ!もう一生汚れたままだ!」<br />
「無理よ」と息子の妻。<br />
「指図するな!」と息子。<br />
<br />
怒鳴られて、息子の嫁は部屋を出ていく。<br />
<br />
彼女には、「性風俗」の世界に入ってまで、孫の命を救おうとする義母の思いに感謝の念が深いのである。<br />
<br />
「私は後悔していないわ。二度と売春婦と呼ばないで」<br />
<br />
「売春婦じゃないわ」というマギーの反駁の中に、「そこまで堕ちていない」というマギーの意地が窺えるが、それは取りも直さず、売春婦を軽侮する中年の寡婦の差別意識が露わになっている事実を検証するものだった。<br />
<br />
そういう心理をもきちんと拾いあげる作り手の、欺瞞を擯斥(ひんせき)するリアリズムへの拘泥は心地良い。<br />
<br />
何より、息子にとって、母親の存在は己が自我のルーツであって、罷(まか)り間違っても、「女」ではないのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjGK1ttrSPOiyrTsSOCMgc9xkZaOQY-MJF1H7CvcRe5N616YMXmBbMoPPqiaxHEBN_aWwtnls95ZzuMgyoSJhhPNNapC3KSmswikz-8tS7S2070-ce0AxjqpO5jL_i0RJ5T-xOuT8v77z-u/s1600/10040017674.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjGK1ttrSPOiyrTsSOCMgc9xkZaOQY-MJF1H7CvcRe5N616YMXmBbMoPPqiaxHEBN_aWwtnls95ZzuMgyoSJhhPNNapC3KSmswikz-8tS7S2070-ce0AxjqpO5jL_i0RJ5T-xOuT8v77z-u/s400/10040017674.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666052180783575906" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 242px; margin: 0 0 10px 10px; width: 342px;" /></a><br />
息子の憤怒の本質は、深々と自我関与する「軽侮される母親」への後ろめたさの、爆発的な反転感情であって、それ以外ではないのである。<br />
<br />
そこが、己が自我のルーツではない息子の嫁の反応と別れるところだが、無論、孫の命を救おうとする母の献身的行為が理解できない訳がない。<br />
<br />
この、「軽侮される母親」への後ろめたさの、爆発的な反転感情を身体表現せずして収斂され得ない、自我関与する者の反応は、一時(いっとき)、激発させることで、多くの場合、それ以外にない軟着点に流れ込んでいくのである。<br />
<br />
それ故に、母との和解を果たすという物語の流れには、特段の違和感がなかったと言える。<br />
<br />
その意味で、予定調和の括りのうちに閉じていく物語構成の基幹ラインは、このような難しい題材を選択した作り手にとって、殆ど必至であったと了解せざるを得ないのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう<br />
<br />
<br />
<br />
「『やわらかな手』の中で、マギーは“大いなる旅”をします。何も成し遂げた事が無く、洗練もされていない人間から、自分自身について、そして人生において何が大切かを、これまでよりも確信するひとりの女性へと成長するのです。とても若くして結婚し、平凡な人生を過ごしてきた、信じられないくらい世間ずれしていない女性として、最初、彼女は私たちの前に登場します。病気の孫のために、彼女は自分の家までも犠牲にしてしまいます。孫の医療費を工面しなければならないという責任を彼女はあえて引き受けるのです。この気の毒な女性は、多くのことを我慢する人生を送ってこなくてはならなかったけれど、それが何故なのかがわかっていません。しかし、偶然 “セクシー・ワールド”に足を踏み入れた日、彼女の人生は思いがけなく変わり始め、最後には、愛へと導かれるのです。<br />
<br />
マギーは、秘密の仕事を誰かに見つかるのではないかと、とても神経質になっています。彼女は、他人がどう思うか、非常に気にして心配しています。これを乗り越える事が、彼女の“旅”の全てです。映画のラストでは、彼女はくだらない噂話や批判的な意見を、もはや気にしません。マギーは、人々が言う事は重要ではない、ということを学ぶのです。本当に重要なことは、あなたがあなた自身をどう考えるか、ということなのです。私は、このことを、因習になど全くとらわれないクールな両親から常に学んできました。しかし、それでも、人生を振り返れば、私が人々にどう思われているかということで動揺した時代もありました。しばらくの間悲嘆にくれましたが、私はそれを乗り越えたのです」(「マリアンヌ・フェイスフル・インタビュー オリジナルプレスより」)<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhse-iVqY5rIiwGi89bHGN1qj6DjHNsmebXwMvVReb__i8Xf48xOfNa_METW40IdcXFZlLRSMeGDSdSYlmj0ZPBTxfC3v5FHg6tMztdSkev9XQd2yYxkBBsVuojDnPRG02Xmi3z9_EXnrI/s1600/450px-MF-2007.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhse-iVqY5rIiwGi89bHGN1qj6DjHNsmebXwMvVReb__i8Xf48xOfNa_METW40IdcXFZlLRSMeGDSdSYlmj0ZPBTxfC3v5FHg6tMztdSkev9XQd2yYxkBBsVuojDnPRG02Xmi3z9_EXnrI/s400/450px-MF-2007.jpg" height="400" width="300" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><!--[if gte mso 9]><xml>
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<br />
<div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">マリアンヌ・フェイスフル(<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span><span lang="EN-US" style="mso-font-kerning: 0pt;"></span></div>
<div align="left" class="MsoNormal" style="mso-margin-bottom-alt: auto; mso-margin-top-alt: auto; mso-pagination: widow-orphan; text-align: left;">
<br /></div>
</td></tr>
</tbody></table>
これは、マギーを演じたマリアンヌ・フェイスフル自身の言葉。<br />
<br />
このインタビューから、本作が、「何も成し遂げた事が無く、洗練もされていない人間から、自分自身について、そして人生において何が大切かを、これまでよりも確信するひとりの女性へと成長する」人間の物語であることが判然とするだろう。<br />
<br />
この言葉の持つ意味は、極めて重要である。<br />
<br />
「人々にどう思われているかということ」ということよりも、「人生において何が大切かを、これまでよりも確信する」ことによって、「SEXY WORLD」のオーナーとの再会を果たすという、「大人の愛」へと導かれるラストカットを必然化するに至ったからだ。<br />
<br />
これは、サム・ガルバルスキ監督の、以下の言葉と重なるものである。<br />
<br />
「風俗ビジネスの醜い面のルポルタージュを作るつもりはありませんでした。マギーは純粋で正直なキャラクターなので、彼女の仕事を慎みや羞恥心をもって撮影しようと決心しました」<br />
<br />
この文脈の中で、「純粋で正直なキャラクター」のマギーの「内的闘争」の様態を把握し得るだろう。<br />
<br />
「純粋で正直なキャラクター」のマギーは、難病と闘う孫の命を救うために、自らを犠牲にしたはずの風俗ビジネスの最前線に自己投入することで、いつしか、「くだらない噂話」を好む近所の主婦連との表面的な関係を、自らの強い意志で壊してしまうのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLgK0EDzDMF1jNio_8nvnnB8oLBWriWaqX3hDdotGptQfYsaROye97nPg5DDw7UpC5jX__56O3HQztED7N3iLRUZ9rNfwipavIyQZVQZXJvoVOL1BBasSP9bDfkBunaS_Xy_T7zraKRbF9/s1600/a0037414_20424097.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLgK0EDzDMF1jNio_8nvnnB8oLBWriWaqX3hDdotGptQfYsaROye97nPg5DDw7UpC5jX__56O3HQztED7N3iLRUZ9rNfwipavIyQZVQZXJvoVOL1BBasSP9bDfkBunaS_Xy_T7zraKRbF9/s400/a0037414_20424097.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5666052514790648946" style="float: right; height: 230px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 250px;" /></a><br />
何より彼女は、「性風俗」に密かな関心を抱きながらも、「性風俗」の存在を、社会的に支持された規範を逸脱する、卑しいインモラルな何かとしてしか軽侮し得ない近所の主婦連の差別の視線を突き抜けて、堂々と、根性の座った「大人物」の如き振舞いを身体化し、「今の〈生〉」を、より輝かせる時間に加工することで、それまでの「ぼんやりした〈生〉」の一切を相対化し切って、歓楽街の中枢に自己投入していったのである。<br />
<br />
そこが、この映画の肝であることを認知せざるを得ないのだ。<br />
<br />
「私は、友人の脚本家・フィリップ・ブラスバンドが考えた、政治的でないロマンティックな悲喜劇を作ろうというアイディアが気に入りました。しかし、後にこれは資金調達が非常に難しいプロジェクトだということに気付かされます。このプロジェクト実現には長い時間がかかりました。(略)皆がオリジナルの脚本を探しているのに、実際それを持って行くと、彼らは怖じ気づいてしまうのです」(「サム・ガルバルスキ監督・インタビュー オリジナルプレスより」)<br />
<br />
このサム・ガルバルスキ監督のインタビューで表現されている言葉は、相当に重い。<br />
<br />
「怖じ気づいてしまう」ほどの脚本であるが故に、「資金調達が非常に難しいプロジェクト」を具現したガルバルスキ監督の突破力に、改めて敬意を表したい。<br />
<br />
なぜなら、真に「健全な社会」とは、「性風俗」のような、厄介なる犯罪の温床と切れた、適度な「不健全な文化」を包括するからこそ保持し得ているということを、今更のように想起させてくれる本作の問題提示には、大いに価値があると思うからだ。<br />
<br />
「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう。<br />
<br />
これが、私の率直な感懐である。<br />
<br />
(2011年11月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-46913308673891648442011-10-19T10:40:00.012+09:002013-10-24T13:06:40.686+09:00サウンド・オブ・ミュージック('64) ロバート・ワイズ<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiUPjXyf_n8rKEUavObSxpQDQU0aWpVJM1cY6_8uQEYvnuNu_qMe0o7JbPC5L5MmfkpHQyVtBqCWZWL7xhz-dkMgupo0qyO0Uhn8_RSmAEwAoeNneu3_PzCWOCI1XxoiseBUG7YtqltNaew/s1600/2010-12-20_3.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665012819460021282" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiUPjXyf_n8rKEUavObSxpQDQU0aWpVJM1cY6_8uQEYvnuNu_qMe0o7JbPC5L5MmfkpHQyVtBqCWZWL7xhz-dkMgupo0qyO0Uhn8_RSmAEwAoeNneu3_PzCWOCI1XxoiseBUG7YtqltNaew/s400/2010-12-20_3.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 212px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
<span style="font-weight: bold;"><訴求力を決定的に高めて成就した「内的清潔感」という推進力></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 訴求力を決定的に高めて成就した「内的清潔感」という推進力<br />
<br />
<br />
<br />
本作を根柢において支えているもの ―― それは、ジュリー・アンドリュース演じる修道女マリアの人物造形が、眩いまでに放つ「清潔感」である。<br />
<br />
「素直で、健全な若者育成映画」、「観ると心が洗われる」という多くのユーザーレビューに典型的に現れているように、マリアの人物造形がに放つ「清潔感」とは、私の把握で言えば、以下のようなファクターの集合であると言っていい。<br />
<br />
そのファクターを列記してみよう。<br />
<br />
その1。<br />
<br />
透き通るような高音を、響き合う旋律の中で、高らかに歌う「美しい音楽」。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilAsbCHtf1xlKehxc_g2Gd-vhVuD9JW_zOq5iMeHEK0OGGcTzURP6NrTPBnhTUKeRgZumjZUqnsiyTzSCmt3bB5CVNfAHcOoN3qWAiCcQJBg4q3XHP3jdi4IlT6GeQYHBdB-5-1Bs52_G8/s1600/57.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665013620083615474" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilAsbCHtf1xlKehxc_g2Gd-vhVuD9JW_zOq5iMeHEK0OGGcTzURP6NrTPBnhTUKeRgZumjZUqnsiyTzSCmt3bB5CVNfAHcOoN3qWAiCcQJBg4q3XHP3jdi4IlT6GeQYHBdB-5-1Bs52_G8/s400/57.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 135px; margin: 0 0 10px 10px; width: 315px;" /></a><br />
その2。<br />
<br />
子供と素朴に戯れ、歌い、教育することを全く厭わない「純粋無垢」のメンタリティ。<br />
<br />
その3。<br />
<br />
〈性〉をイメージさせない「純愛志向」の愛情観。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgRace8d67gOxfjchDLU-9okPkmrGyYpQlR-0xblxECcERoLiG36bOxORrionqnXtouG6EKnom-8khIzMIqTWsBhUrvUp9X8aizUVvOxJkRLyNcVCdfPNVFNNxmtZeF1EAn38rfhwVntluZ/s1600/The%252520Sound%252520of%252520Music.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665013051300089938" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgRace8d67gOxfjchDLU-9okPkmrGyYpQlR-0xblxECcERoLiG36bOxORrionqnXtouG6EKnom-8khIzMIqTWsBhUrvUp9X8aizUVvOxJkRLyNcVCdfPNVFNNxmtZeF1EAn38rfhwVntluZ/s400/The%252520Sound%252520of%252520Music.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 323px; margin: 0 0 10px 10px; width: 316px;" /></a><br />
その4。<br />
<br />
アルプス山麓の美しく、壮大な風景から開かれるシーンに集約される「自然への愛着」の深さ。<br />
<br />
その5。<br />
<br />
修道院(理解力のある修道院長のサポートも手伝っていたが)や、トラップ家の「絶対規範」を相対化するメンタリティ。<br />
<br />
以上、この5つのファクターの集合が、マリアの人物造形がに放つ「清潔感」を体現させていると、私は考えている。<br />
<br />
この中で、5つ目のファクターである、修道院やトラップ家の「絶対規範を相対化するメンタリティ」とは、「絶対規範」の遵守によって、知らずのうちに作られる「濁り」の空気感を相対化し、それを弾くことで、「自在性」を手に入れるメンタリティのことである。<br />
<br />
それは本質的に言えば、世界観、人生観を狭隘なイデオロギーよって固めないことでもあるだろう。<br />
<br />
ここで、私は改めて考える。<br />
<br />
一体、「清潔感」とは何なのか。<br />
<br />
普通に定義すれば、「清潔感」とは、「異物への拒否感」である。<br />
<br />
思うに、「清潔感」についてこの定義は、私たち日本人の感覚に最もフィットするものだろう。<br />
<br />
なぜなら、多くの日本人にとって、「清潔感」とは、「異臭」を嫌う我が国の、「物理的清潔感」のイメージに近い何かであるからだ。<br />
<br />
従って、殆ど「生理的嫌悪感」という欺瞞的言辞を被せた、この「物理的清潔感」は、「外的清潔感」という概念に置きかえられるものと言っていい。<br />
<br />
ところが、マリアの人物造形がに放つ「清潔感」は、「異臭」を嫌う我が国の「物理的清潔感」=「外的清潔感」に収斂されるものではないのだ。<br />
<br />
それは、「内的清潔感」とも言える概念に最も近いだろう。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjn-V9o1W0svnNuIXqG_g9oV3vgRRP0fHti2rt7l1BlOVgzWk7VpXQS34m79xE7L_jUrF0Vv1fY2hz5lS6tFop3Kuh_v1LNJsXO5VUrwXBWMLURtP_nKHv0bZheK-f_pkjsSCE1AQciDhI/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjn-V9o1W0svnNuIXqG_g9oV3vgRRP0fHti2rt7l1BlOVgzWk7VpXQS34m79xE7L_jUrF0Vv1fY2hz5lS6tFop3Kuh_v1LNJsXO5VUrwXBWMLURtP_nKHv0bZheK-f_pkjsSCE1AQciDhI/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="279" /></a></div>
本作は、修道女マリアの人物造形が放った「内的清潔感」の推進力によって、観る者への訴求力を決定的に高めて成就したミュージカルである。<br />
<br />
これが、本作についての、私の基本的把握である。<br />
<br />
<br />
<br />
2 寸分のノスタルジアを感受し得ない、賞味期間限定の「感動譚」を予約したエンターテイメント<br />
<br />
<br />
<br />
「山が誘うままに、私は登りました。その山の上で私は歌います」<br />
<br />
これは、我が子を笛で呼び出すという、7人の子供たちへの厳格な躾を実践躬行(きゅうこう)する、資産家であるトラップ家への家庭教師の派遣の際に、ザルツブルクにある修道院長に悪びれることなく釈明したマリアの言葉である。<br />
<br />
「試練は神の恵みです」<br />
<br />
そう言い切る院長の強い要請で、同じ街に屋敷を構えるトラップ家に向かうマリアは、透き通るような高音を辺り一帯に響かせながら、一貫して前向きな態度で、「神の恵み」としての「試練」に臨んでいくのである。<br />
<br />
「今、冒険を前に、私は恐れている。後戻りができない。未来に向かわねば」<br />
<br />
こんな思いを高らかに歌いながら、マリアはトラップ家の屋敷に前に立ったのだ。<br />
<br />
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かくて、家庭教師の派遣の度に繰り返していただろう子供たちの悪戯を、ポケットに蛙を入れられたマリアもまた「受難」するが、その手痛い「受難」を、父であるトラップ大佐の前で秘匿したことで、小さな子供たちが泣き出したエピソードに象徴されるように、本来的に明るく、子供好きのマリアは、アルプス山麓の壮大な風景に抱かれて、子供たちに「美しい音楽」を身を以て教え、子供と素朴に戯れ、歌い、教育することを全く厭わない「純粋無垢」のメンタリティを全開させていったのである。<br />
<br />
トラップ大佐の遺伝を受け継いだのか、マリアの自然な導きによって、あっという間に、音楽の魅力に憑かれていく7人の子供たち。<br />
<br />
そして、子供と素朴に戯れ、歌い、教育することの「逸脱性」によって、束の間、大佐の不興を買いながらも、「美しい音楽」の響き合う旋律が推進力になることで、トラップ家の「絶対規範」を相対化させて見せたマリアの振舞いは、遂には大佐の心を掴み、〈性〉をイメージさせない「純愛志向」の愛情の様態が、トラップ大佐との絡みの中で表現されるに至るのだ。<br />
<br />
大佐の婚約披露のパーティでの場違いな空気の中で、大佐と踊るマリアの視線が交叉し、それを受容する大佐との心理的距離を最近接させたとき、頬を赤らめる修道女の内側で、経験したことのない感情が沸き起こったのである。<br />
<br />
この出来事で修道院に戻ったマリアは、禁断の世界に侵入した現実に身震いするが、その行為自身が、既に、「強いられた者」の「純愛志向」の愛情の様態の範疇を逸脱し得ない規範の文脈であったものの、その後の展開が見せた風景は、マリアの「純愛志向」が、彼女の本来的なパーソナリティーのうちに収斂される何かであるというイメージを壊さないものだった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhlcYaRVsbL6VgkFd4tkFoAFOQpN9VGWl9bjWegzodtd8zoj5Iu2m9HP8UjrkzpQrs7b4ELbbCXgGI5S49ZJ0IBwTNz_X7JklOCGnLbyYT4RY2FYmPTE2Hi14FVR7qs7_AJ1aWnPsh3AZ7U/s1600/2010-12-20_5.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665012913045827682" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhlcYaRVsbL6VgkFd4tkFoAFOQpN9VGWl9bjWegzodtd8zoj5Iu2m9HP8UjrkzpQrs7b4ELbbCXgGI5S49ZJ0IBwTNz_X7JklOCGnLbyYT4RY2FYmPTE2Hi14FVR7qs7_AJ1aWnPsh3AZ7U/s400/2010-12-20_5.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 272px; margin: 0 0 10px 10px; width: 392px;" /></a><br />
このような一連の物語のプロセスで、マリアの人物造形がに放つ「内的清潔感」が、観る者の心を浄化させていくという流れは必至であるだろう。<br />
<br />
要するに、「サウンド・オブ・ミュージック」の訴求力の高さは、「内的清潔感」を存分に表現し切ったマリアの人物造形の魅力によって支えられているのである。<br />
<br />
敢えて、独断と偏見を交えて言えば、「サウンド・オブ・ミュージック」を深く愛好する日本人が、「物理的清潔感」=「外的清潔感」との心理的共存を、必ずしも擯斥(ひんせき)するとは思えないが、少なくとも、マリアの人物造形の中で表現された「内的清潔感」に敏感に反応し、そこに、人畜無害のノスタルジアを感受するメンタリティを自己確認する心地良さを生み出しているに違いない。<br />
<br />
その意味で、「物理的清潔感」=「外的清潔感」どころか、辛うじて、「自然への愛着」や、「絶対規範を相対化するメンタリティ」以外のファクターとは無縁で、あらゆるものを美しく描き過ぎる本作とは違って、人間の醜悪で脆弱な側面を執拗に描く、イングマール・ベルイマンやミヒャエル・ハネケの映像を深く愛好する、私のような天の邪鬼には、「サウンド・オブ・ミュージック」の「内的清潔感」は、あまりに敷居が高過ぎるのである。<br />
<br />
それは、ミュージカルという極上の娯楽が、観る者の「感動譚」を予約したエンターテイメントのファクターの集合であるが故に、「描写のリアリズム」を無視することが認知していても変わり得ないものである。<br />
<br />
思えば、この名高いミュージカルを含めて、「革命」などという言葉に、恥じらいもなく、そこだけは堂々と酔っていた青臭い時期に、うんざりするほど観た数多の情感的な映画から受けた賞味期間限定の感銘に、もはや寸分のノスタルジアを感受し得ないほど、「リアリズム」の厳しい洗礼を被浴した現在、もう、この類の映画と睦み合えなくなっているということ。(この点については、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/10/61.html">ウエストサイド物語</a>」の「評論」の中で、「人生論的」に言及するつもりでいる)<br />
<br />
それだけのことである。<br />
<br />
(2011年10月)<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-72224969176750731782011-10-17T17:57:00.014+09:002013-05-03T10:36:20.163+09:00お引越し('93) 相米慎二<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
</div>
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiXlvZJmJyPclW4-q17nwu6nGfQBAUPZxX2ZagnJZGAE2V7o_ShwWkRunzaWBYaxBaSlUwPfp-SJNciL8twVk8DTZivhRNMxxkHJNpSW7t5MsKzteSqFSKkgt0oW3sAUQOJiOSo5lwdUADD/s1600/so10main.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="438" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiXlvZJmJyPclW4-q17nwu6nGfQBAUPZxX2ZagnJZGAE2V7o_ShwWkRunzaWBYaxBaSlUwPfp-SJNciL8twVk8DTZivhRNMxxkHJNpSW7t5MsKzteSqFSKkgt0oW3sAUQOJiOSo5lwdUADD/s640/so10main.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><他律的な児童期自我から自律的な思春期自我への「お引越し」の物語></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「変化への恐れ」、「愛着感の喪失」、そして「親達の間の敵意」というリスクに搦め捕られた少女<br />
<br />
<br />
<br />
極めて情緒的な映像に仕上がっている本作は、思春期前期にある12歳の少女が、両親の別居・離婚という「非日常」の状況下で、未だ幼い自我が蒙る複雑で様々な不安感情を自分なりに浄化させ、解決していくことによって、ラストカットに繋がる「セーラー服を着た中学生」に象徴される「自立」するプロセスを描き切った秀作である。<br />
<br />
思春期前期にある12歳の少女が、それまで拠って立っていた自我の安寧の基盤である、「幸福家族の物語」に破綻が生じたとき、少女の「日常性」は加速的に安定感を失っていく。<br />
<br />
本来、「日常性」とは、その存在なしに成立し得ない、衣食住という人間の生存と社会の恒常的な安定の維持をベースにする生活過程である。<br />
<br />
恒常的な安定の維持をベースにする生活過程であるが故に、「日常性」には、それを形成していくに足る一定のサイクルを持つ。<br />
<br />
その「日常性のサイクル」は、「反復」→「継続」→「馴致」→「安定」という循環を持つというのが、私の仮説であるが、しかし実際のところ、「日常性のサイクル」は、常にこのように推移しないのだ。<br />
<br />
恒常的な「安定」の確保が、絶対的に保証されていないからである。<br />
<br />
逆に言えば、「安定」に向かう「日常性のサイクル」が、「非日常」という厄介な時間のゾーンに搦(から)め捕られるリスクを宿命的に負っているからでもある。<br />
<br />
もし、この「非日常」という厄介な時間のゾーンに搦め捕られた主体が、思春期前期にある12歳の少女であって、「非日常」の内実が両親の別居・離婚という由々しき事態であったなら、そこに生じる「非日常」の様態が、未だ「親」の管理を脱して形成され得ない、非自立的な一次的自我に与える負の影響力は看過し難いだろう。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhHzwLlsHZPuH9LplXndlU-UDiDh24MGyfsrv3wfTWbiEdTiWxQaLpUPY1wKucHdM16DiHm1vHjvtdC9mGH6oCNw8KOCzbGkAJhouBMKyYEymBpGs1wrSTNGOTFRP-Qie-W9N4RjkOwSWU/s1600/%E3%81%8A%E5%BC%95%E8%B6%8A~1.JPG" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="208" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhHzwLlsHZPuH9LplXndlU-UDiDh24MGyfsrv3wfTWbiEdTiWxQaLpUPY1wKucHdM16DiHm1vHjvtdC9mGH6oCNw8KOCzbGkAJhouBMKyYEymBpGs1wrSTNGOTFRP-Qie-W9N4RjkOwSWU/s320/%E3%81%8A%E5%BC%95%E8%B6%8A~1.JPG" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">中央がレンコ</td></tr>
</tbody></table>
鋭角的な三角形のテーブルが巧みに象徴しているように、両親の別居・離婚という由々しき事態によって、少女の自我が蒙るストレスは、或いは、少女のその後の人生に決定的な負荷になるかも知れないのだ。<br />
<br />
因みに、児童発達論を専攻する米のカレン・デボード博士によると、「離婚によって子供にストレスを引き起こす原因」は、「変化への恐れ」、「愛着感の喪失」、「見捨てられ不安」、「親達の間の敵意」の4点を指摘している(「子どもに注目:離婚が子どもに与える影響」堀尾英範訳)。<br />
<br />
本作において、少女が蒙ったストレスの中で、最も重大な課題であったのは、「変化への恐れ」、「愛着感の喪失」と「親達の間の敵意」の3点であろう。<br />
<br />
しかし、この4点の指摘の中で、本作の少女に当て嵌まらないのは「見捨てられ不安」である。<br />
<br />
なぜなら、少女は両親から嫌われていないことを確信しているからだ。<br />
<br />
だから、この少女が切望するのは、ただ一点。<br />
<br />
「両親の和解」による「家族の再生」。<br />
<br />
それのみである。<br />
<br />
それのみであるが、「親達の間の敵意」の感情が、深い憎悪の極限にまで尖ったものに爛れ切っていなかったが、「両親の和解」の事態の復元の困難さを、映像は存分に露わにしていくのである。<br />
<br />
しかし、映像を観る者には把握し得ることが、12歳の少女には不分明なのだ。<br />
<br />
だから少女は、「両親の和解」による「家族の再生」を求めて、健気なまでに必死に動いていく。<br />
<br />
これが、映像前半を貫流する物語の流れであった。<br />
<br />
<br />
<br />
2 子供の「見捨てられ不安」から解放させるに足る、甘えが許容される親子関係の力<br />
<br />
<br />
<br />
少女の名は、レンコ。<br />
<br />
小学6年生の、闊達(かったつ)な少女である。<br />
<br />
そのレンコは、「両親の和解」を具現すべく、様々な身体表現を重ねていく。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiF64wr8o2rSgnGox9e9gQDJfdC3m_idbIZ6wJDRvLd9YeNXoJ9-2kr0m3WCYfZ4v-r80EmCYRTk6OyszBxVnhcHz6e2bhc3bUonaH1Kf5EUJxFGVTI9OlrVN4715R-yB03vsvYl-9aQGU/s1600/img_1265289_37493441_1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="228" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiF64wr8o2rSgnGox9e9gQDJfdC3m_idbIZ6wJDRvLd9YeNXoJ9-2kr0m3WCYfZ4v-r80EmCYRTk6OyszBxVnhcHz6e2bhc3bUonaH1Kf5EUJxFGVTI9OlrVN4715R-yB03vsvYl-9aQGU/s400/img_1265289_37493441_1.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
父が別居するための、「お引っ越し」の日。<br />
<br />
タンスの中を出入りしているレンコが、そこにいた。<br />
<br />
「何してるんや?」と父。<br />
「あるとき突然な、ここと私の押し入れの部屋が超常現象で繋がってしまうんや」<br />
<br />
そう言うや、父をタンスに閉じ込めるレンコ。<br />
<br />
「親達の間の敵意」の中で、「変化への恐れ」と「愛着感の喪失」に翻弄されるだけの12歳の少女が、健気なまでに必死に動いているのだ。<br />
<br />
父の「お引っ越し」が終わった午後、母に報告するレンコ。<br />
<br />
「あんな、あんな。お父さんとこ、ウチよりボロいで。あんなんやったら、すぐゴミに埋もれてしまうで」<br />
<br />
息急き切って下校するや、父の転居先について話すのだ。<br />
<br />
「今日は二人の門出やないの。外でパーといこう、パーといこう」<br />
<br />
そう言って、外食に誘う母。<br />
<br />
「門出?」と反応するレンコ。<br />
<br />
外食先の店で、母は苗字を元に戻すことを告げ、その苗字を書いた紙をレンコに渡した。<br />
<br />
「そんなん、離婚した人みたいやんか?」<br />
「したら困るか?」<br />
「家が2つ。それでええやんか」<br />
<br />
未だ、父のサインのない離婚届けを確認するレンコだった。<br />
<br />
親たちの勝手な判断で、「変化への恐れ」と「愛着感の喪失」に翻弄されるレンコのストレスが、遂に沸点に達する事態が出来した。<br />
<br />
理科の実験の授業で、レンコは小火(ぼや)騒ぎを起こしてしまったのだ。<br />
<br />
その事実を知って、動顛する母だが、娘のストレスを浄化し得ない現実に、今度は形式的な夫婦であった両親が翻弄されていく。<br />
<br />
そんな娘と会って、即答しにくい問いをストレートに受ける父。<br />
<br />
「何で、別々がええの?昔は仲良くしてたやんか。私はお父さんとお母さんが喧嘩しても我慢したよ。そやのに、何でお父さんらは我慢できんの?」<br />
<br />
このレンコの正攻法の詰問に、即答できない父。<br />
<br />
父は、大人の知恵で、この問いへの答えを「宿題」にすると約束したのである。<br />
<br />
それでも、「両親の和解」による「家族の再生」を果たせない現実に苛立つばかりのレンコが、父からの「宿題」の答えを受けるシーンが印象的に描かれていた。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4LejGlrYyUARwPE82igh3IFKXG1bzteJaA9B042ckizoGqvgxRzYHHz1hGNIvIdOMGVhE4P48FTvoSD3S0r5gxnetOHA48qlcdcTbgTWI-uEXRMTwPWDfh-KiVp3LOadECUz_TQugUVA/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="480" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4LejGlrYyUARwPE82igh3IFKXG1bzteJaA9B042ckizoGqvgxRzYHHz1hGNIvIdOMGVhE4P48FTvoSD3S0r5gxnetOHA48qlcdcTbgTWI-uEXRMTwPWDfh-KiVp3LOadECUz_TQugUVA/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><!--[if gte mso 9]><xml>
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以下、母と琵琶湖のホテルに行ったときに、待っていた父との会話である。<br />
<br />
「縄を回してるの、疲れてしもうたんや。3人やったら、一人だけ休むわけにいかんしな」<br />
「そんなこと、そんなアホなこと言いに来たんか」<br />
「宿題やったしな」<br />
「最低や」<br />
「最低言われたってな、それしか言えへんのや。最初はちょこっと夢見てるだけやった。それが段々抑え切れんようになってな。一人で生きたい。そう思った。」<br />
「お父さん、あたしのこと好きか?」<br />
「ああ好きや、大好きや」<br />
<br />
なお親子の絆を継続させている者同士が、肝心の問題から逃避せず、対等に話し合っているのだ。<br />
<br />
離婚による子供のストレスを浄化するには、親子が直截(ちょくさい)に話し合うことが決定的に大事な事柄なのである。<br />
<br />
まして、12歳の少女なら、それが充分に可能なのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEin-Zi1ST9RnLD45blLtY1uEflKK23rk3rZUAobMTFq2vJUT5jYyUDYbgyesuhdQcA4blzd6g3AjaA98w9umiGknr1lz4-MhK5SL7g03y4Xpb17l_ilAQpylvoFUoGuERLk111BnTvEBtI/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEin-Zi1ST9RnLD45blLtY1uEflKK23rk3rZUAobMTFq2vJUT5jYyUDYbgyesuhdQcA4blzd6g3AjaA98w9umiGknr1lz4-MhK5SL7g03y4Xpb17l_ilAQpylvoFUoGuERLk111BnTvEBtI/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
娘が父に「最低や」と言い放っても、「お父さん、あたしのこと好きか?」と尋ねる娘の心情には、相手の反応に対する確信なくして問えない発問であることを理解し得ているが故に、当然の如く、そこに甘えが内包されている。<br />
<br />
しかし、この類の甘えが許容される親子関係の力こそが、両親の離婚によって生じる、子供の「見捨てられ不安」から解放させるに足る何かだったのである。<br />
<br />
<br />
<br />
3 他律的な児童期自我から自律的な思春期自我への「お引越」の物語<br />
<br />
<br />
<br />
前述したような一連のプロセスを経て、少女はいつしか現実に向き合い、それを受容していく。<br />
<br />
これは、琵琶湖の森を散策する少女のシークエンスの中で、極めて情感的に描かれていた。<br />
<br />
「もうええの。そんなん、もうどうでもええのや。なあ、お母さん。私、早く大人になるからね」<br />
<br />
愛する娘に対して自己の無責任さを謝罪する母への、少女レンコの、それ以外にない決め台詞である。<br />
<br />
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謝罪する母の所に戻らず、森を散策するという、「思春期彷徨」の果てに射程に収めた夏祭りの光景。<br />
<br />
少女の眼に映ったのは、かつて円満だった両親と自分が、湖の中で戯れている幻想の風景だった。<br />
<br />
「おめでとうございます!」<br />
<br />
海老一染之助・染太郎の名台詞を、湖の中で、自分の心境に引き寄せて、繰り返し叫ぶ少女。<br />
<br />
湖の中から出て、焚き火に当たる少女。<br />
<br />
そこに母が現れたとき、既に、「自立」に向かう小さな意志を固めた明るさが、眩いまでに輝いていた。<br />
<br />
「篭城作戦」に見られる、多分に他律的な児童期自我から、「森の彷徨」に見られる、自律的な思春期自我への「お引越し」を象徴する、この言葉こそが本作の全てであると言っていい。<br />
<br />
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思春期彷徨の果てに掴み得た自立への歩みの中で、少女は現実を受容し、本来あるべき自我の揺籃のかたちを立ち上げていくのだ。<br />
<br />
短期間だったが、この一連の騒動の中で、「非日常」の負のスパイラルのリスクを自分なりに消化することで、内側が存分に鍛えられ、加速的な成長を遂げるに至ったのである。<br />
<br />
それは、「負の因子」を「正の因子」に変えるプロセスでもあったのだ。<br />
<br />
良くも悪くも、「負の因子」を「正の因子」に変える強い自我を作ってくれた、少女の両親の存在価値が、そこに垣間見えるだろう。<br />
<br />
常に、子供の一次的自我を作るのは、その子供に最近接する大人以外ではないからである。<br />
<br />
本稿の最後に一言。<br />
<br />
よく言われていることだが、児童の研究の中で判明しているのは、両親の離婚が子供の甚大なストレッサーになりながらも、「親達の間の敵意」の感情が溶解しない限り、形式だけの家族を延長させる行為が、却って子供の成長の阻害要因にしかならないという現実の重さである。<br />
<br />
従って、離婚の選択が正解のケースも多いということだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjA75j821qjMupKMKCuPf2i1tZA9oD77AhTBGDqkfbMOQhhBP0aIqnn_m2tiyRJoU_D0TnLxqqJ1iQKYROwQUx-8eIDQ5pJqDx6Zwiil1gPV3BV89KNcnaGA2d7pZLoTrB83pnzYi4CU_M/s1600/sodir.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjA75j821qjMupKMKCuPf2i1tZA9oD77AhTBGDqkfbMOQhhBP0aIqnn_m2tiyRJoU_D0TnLxqqJ1iQKYROwQUx-8eIDQ5pJqDx6Zwiil1gPV3BV89KNcnaGA2d7pZLoTrB83pnzYi4CU_M/s320/sodir.jpg" width="252" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">相米慎二監督</td></tr>
</tbody></table>
緊要なのは、離婚後も二人の親との間で、深い情愛による関係が継続されていること。<br />
<br />
これに尽きるだろう。<br />
<br />
それ故、本作のケースにおいて、無理に離婚状態を解消せずに閉じていった結論の選択は、決して誤っていなかったということである。<br />
<br />
本作のヒロインは、その肝の部分を感覚的に把握し得たからこそ、あの印象深いラストカットに繋がったのである。<br />
<br />
<br />
ともあれ、中二階からユキオと恋人の喧嘩を見ながら、正面に対峙しているのにレンコの存在に気づかないカップルや、学校で放火事件を起こし、母に追い駆けられたレンコだけが、バスに乗車するというシーン等々、相変わらず作家精神の迸(ほとばし)る作り手は、「展開のリアリズム」どころか、「描写のリアリズム」を蹴飛ばしてしまうカットが随所に挿入されながらも、12歳の少女が「負の因子」を「正の因子」に変える自立への歩みの物語を、そこに存分の情感を込めて、相米慎二監督は構築したのである。<br />
<br />
(2011年10月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-54039443408386448652011-10-11T13:42:00.009+09:002013-10-24T13:17:32.868+09:00ハート・ロッカー('08) キャスリン・ビグロー<br />
<span style="font-weight: bold;"><「戦場のリアリズム」の映像的提示のみに収斂される物語への偏頗な拘泥></span><br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<span style="font-weight: bold;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_boGLgRwcqFsdhfOJQrofimRIrbRIw3H3c0pI1T3VPCc9OKMIq5zXPtQY-E4ERF8ctNcm_x-AwbP-IbQ4Jopa3DmQr6pc0clZBF25whdoqt1esvOmtrhyPpwUzAPbNbCR_MKrnsOO7Io/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="468" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_boGLgRwcqFsdhfOJQrofimRIrbRIw3H3c0pI1T3VPCc9OKMIq5zXPtQY-E4ERF8ctNcm_x-AwbP-IbQ4Jopa3DmQr6pc0clZBF25whdoqt1esvOmtrhyPpwUzAPbNbCR_MKrnsOO7Io/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></span></div>
<br />
<br />
<br />
<br />
1 「ヒューマンドラマ」としての不全性を削り取った「戦争映画」のリアルな様態<br />
<br />
<br />
<br />
テロの脅威に怯えながらも、その「非日常」の日常下に日々の呼吸を繋ぎ、なお本来の秩序が保証されない混沌のバグダッドの町の一角。<br />
<br />
そこに、男たちがいる。<br />
<br />
米陸軍の爆発物処理班の男たちだ。<br />
<br />
この日もまた、いつものように、彼らがカメラ付きの軍用ロボットの遠隔操作によって発見したIED(即製爆発装置)を処理するため、再び、軍用ロボットを向かわせた。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
</div>
ところが、舗装されていないガラクタ道のため、軍用ロボットの車輪が外れ、故障してしまうに至った。<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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ここで、およそ45kgの重量がある防爆スーツに身を包んだ爆発物処理班のリーダーが、手動でIEDの処理に向かい、何とか無事にセットした。<br />
<br />
件のリーダーの任務を援護する処理班の二人は安堵し、束の間ジョークを交わし合うが、遠方に携帯を持ったイラク人と思しき男を、処理班の若い技術兵が視認することで緊張が走る。<br />
<br />
恐らく、それもまた、殆どルーティン化された、彼らの「非日常」の日常の様態なのだろう。<br />
<br />
<br />
「携帯を捨てろ!」と叫ぶ技術兵。<br />
「そいつを撃て!早く撃て!」と処理班の軍曹。<br />
<br />
逃げる男を追う技術兵。<br />
<br />
「撃てない!」と技術兵。<br />
<br />
狙いが定められないのか、射殺する行為に躊躇しているのか定かではない。<br />
<br />
その時間の一瞬の空隙に爆発が起こった。<br />
<br />
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大地が盛り上がるほどの砂塵が舞った。<br />
<br />
別の携帯のスィッチを押した白人による犯行だった。<br />
<br />
ドキュメンタリー映画のような手持ちカメラは、一瞬、その相貌を写しただけだった。<br />
<br />
無論、逃げる男との絡みは不分明である。<br />
<br />
分明であるのは、防爆スーツに身を包んだ爆発物処理班のリーダーが吹き飛ばされ、絶命したという現実だけ。<br />
<br />
以上、この10分間に及ぶ冒頭のシークエンスに、本作のエッセンスが詰まっていると言っていい。<br />
<br />
即ち、この映画で確信的に捨てられているものが、そこに凝縮されているのだ。<br />
<br />
この映画で確信的に捨てられているもの ―― それは、テーマ性を内包した「戦争映画」に付きものの「政治」であり、「友情」「愛」などという「感動譚」である。<br />
<br />
敢えて言うなら、「ヒューマンドラマ」としての不全性を覚悟してまで、そこで削り取った「戦争映画」のリアルな様態が執拗に描き出されるのである。<br />
<br />
だから、「戦争映画」に付きものの「政治」=「暑苦しい反戦の主張」や、「友情」「愛」などという「感動譚」を本作に求める者は、爆発物処理班のリーダーの「戦死」の代りに派遣されて来た「命知らずの男」による、爆発物処理の描写を繰り返し見せつけられることで、すっかり置き去りにされた気分になるに違いない。<br />
<br />
支払った「木戸銭」に見合わない映画を、130分間も見せつけられたストレスが昂じて、本作に「糞映画」紛いの酷評を加える心理は理解できなくもないが、しかし、それは大袈裟なキャッチコピーに乗せられた応分の報いとも言えるだろう。<br />
<br />
独断的主観に基づき、敢えて書く。<br />
<br />
この映画が、イラク戦争に辟易するアメリカ人の厭戦気分にマッチした作品に仕上がっていたり、或いはその真逆で、昂揚感を高める効果に結び付くものであったり、等々の見方を仮定しても、必ずしも、「アメリカ映画の祭典」の結晶としての「アカデミー作品賞」に相応しい完成度の高い秀作であるか否かについては、相当程度、疑問の余地があるかも知れないが、それにも拘らず、本作がイラク戦争肯定のプロパガンダ・ムービーと見るのは、明らかに誤読であるか、それとも「論理的過誤」を心理的ベースにした、濃密なマインドセットに起因する曲解である。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
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</tbody></table>
それ故、一見、訳知り顔の、ナイーブなまでに青臭い、センチメンタルな反米主義に拠って立つ数多の批判の放射は、完全に的外れであると言わざるを得ないだろう。<br />
<br />
以下、私なりの簡潔な批評を加えていきたい。<br />
<br />
<br />
<br />
2 アディクション性向が巣食っている男の、内側深くで特化された「戦場のリアリズム」<br />
<br />
<br />
<br />
「政治」の空白や、「ヒューマンドラマ」としての不全性によって炙り出されるもの ―― それは、「戦争は麻薬である」という冒頭のキャプションを体現したような男の、そこだけは抜きん出たプロフェッショナルの仕事の内実だった。<br />
<br />
このキャプションの前には、「戦闘での高揚感は、時に激しい中毒となる」という、ピューリッツアー賞受賞の「ニューヨーク・タイムズ」紙記者である、クリス・ヘッジスの明瞭な反戦的メッセージが張り付いていたが、そのキャプションの挿入によってインスパイアーされる必要も特段にないし、正直言って、こうした類のキャプション自体が不要である。<br />
<br />
仮に、キャプションに込められた物言いが相応のメッセージ性を包含していたとしても、そこに屋上屋を架す説明を張り付ける、あまりに分りやす過ぎる映画は過剰なサービス精神ですらなく、観る者の想像力の広がりを遮断する行為と化すのだ。<br />
<br />
物語に入っていこう。<br />
<br />
ここに、一人の男がいる。<br />
<br />
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その名は、ジェームズ二等軍曹(画像)。<br />
<br />
ジェームズ二等軍曹は、爆発物処理という任務を累加させてきた結果、今や、873個の爆弾を処理し、それがいつしか、「爆弾処理班は必要だ」と言う男の誇り得る「勲章」になっているのだ。<br />
<br />
「でも知ってるか。年を取ると、好きだったものも、それほど特別じゃなくなる。このオモチャも、ただのブリキとぬいぐるみだと気づく。そして大好きなものを忘れていく。パパの年になると、残るのは1つか2つ。今は1つだけだ・・・」<br />
<br />
これは、帰国したジェームズ二等軍曹が、まだ言葉を発し得ない、赤ん坊の我が子に吐露した言葉。<br />
<br />
「今は1つだけ」というのが、何を指しているかは自明である。<br />
<br />
再び、前線に出て行く男のラストシーンは、恐らく、それなしに括り切れない映像の、予約された着地点であった。<br />
<br />
男にとって、最も死亡率が高いとされる特殊任務の存在は、殆ど感覚鈍磨した男の自我を安寧に導くに足る、唯一のアイデンティテイ以外ではなくなっているのだ。<br />
<br />
だから男には、今や、任務の遂行を継続させる意味の内化すら劣化しているのである。<br />
<br />
本作のクライマックスシーンである、ジェームズ二等軍曹の爆弾処理における任務の頓挫の後、彼の爆弾処理を補佐するサンボーン軍曹との会話がある。<br />
<br />
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帰路の軍用車内での会話である。<br />
<br />
「お前は、よくやれるな。危険を賭けて」とサンボーン(画像)。<br />
「さあな、俺は・・・何も考えていない・・・」とジェームズ。<br />
「皆、気づいている。現場に出れば、生きるか死ぬか。サイコロを振り、あとは分らない。知ってるはずだ」<br />
「知ってるさ・・・だが、分らない。何で、俺はこうなんだ・・・」<br />
<br />
ここで、イラクの少年たちに投石される軍用車内のカットが挿入されるが、ジェームズ二等軍曹の反応の曖昧さこそ、彼の自我機能を劣化させている因果を的確に言い当てているのだ。<br />
<br />
「数え切れない命を救う たった一つの命を賭けて」(本作のキャッチコピー)という浮薄な言辞に集約されるに足る心的風景、即ち、高い死亡率であるが故に、それによって得られる特段のヒロイズムが張り付くインセンティブの大きさによって、既に彼の内側深くに、それ以外にないアディクションの性向が存分に巣食っていたのである。<br />
<br />
このことは、男にとって、爆弾処理における任務は、まさに彼の人生そのものであることを意味するだろう。<br />
<br />
前述したように、そんな男の、命を賭けた「麻薬」のような任務=アディクション性向を執拗に描く物語には、もう青臭い社会派濃度の高い「政治」や、「友情」、「愛」などという、万人受けのする「感動譚」の「ヒューマンドラマ」が入り込む余地すらないのだ。<br />
<br />
然るに、そのことが却って、本作を「反戦映画」の濃度を高める効果を持ち得てしまったのである。<br />
<br />
なぜなら、青臭い社会派濃度の高い「政治」や、「感動譚」の「ヒューマンドラマ」を極力削り取った物語の中で描かれるのは、爆弾処理の任務に特化された「戦場のリアリズム」以外ではなくなってしまうからだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgd2vrkxozKD3OnVKllw9p-4SGpLQQjptd0tYsVK7EbrW6uirKuibkRHKtDBpwbNNZeHktsz3TWwnE9Mvd752669gwtjCroncfSsVttvh2DfTBbKbz7n_tdVNdkaF5gHi6vaa0B28e1dowz/s1600/a1258e45-s.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5662091289818967842" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgd2vrkxozKD3OnVKllw9p-4SGpLQQjptd0tYsVK7EbrW6uirKuibkRHKtDBpwbNNZeHktsz3TWwnE9Mvd752669gwtjCroncfSsVttvh2DfTBbKbz7n_tdVNdkaF5gHi6vaa0B28e1dowz/s400/a1258e45-s.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 224px; margin: 0 0 10px 10px; width: 398px;" /></a><br />
その「戦場のリアリズム」が、どこまで描き切れていたかについては意見が分れるところだろうが、終盤に用意された、爆弾を巻かれたイラク人への爆弾処理のシーンを観る限り、一定の表現達成を得たと言っていいだろう。<br />
<br />
以下、本作のテーマを集約させた感のある、その問題のシーンのみを再現することで、作り手の基本モチーフを確認し得るだろう。<br />
<br />
<br />
<br />
3 「戦場のリアリズム」の内実の、その身体性の懐ろに肉薄しようとしたシークエンス<br />
<br />
<br />
<br />
爆弾を体に巻き付けられた男が、ジェームズ二等軍曹に救いを求めた。<br />
<br />
「悪党じゃない」と通訳のイラク人。<br />
「俺たちを巻き込む気だ」とサンボーン軍曹。<br />
「任せろ。ゆっくりシャツを広げて、中を見させろ」<br />
<br />
そう言って、爆弾を体に巻き付けられた男に近づくジェームズ二等軍曹。<br />
<br />
爆弾を見せる男。<br />
<br />
「75メートル以内に誰も近づけるな。跪(ひざまず)いて、手を上げさせろ」<br />
<br />
ジェームズの指示だ。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj_jBlH35wUuwXpEiHQ4TnopTb3GZ8BbiX79veOeDkPi_rHewj__Uh01JEq8rHfaSGnjeFpUDZ3eRSIrG5wkhpL5UIBhJqKfwmpDaAkzSn1mhcx1gM4_tKMX31C6lfBCtIwCE1WWkZLdDM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="508" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj_jBlH35wUuwXpEiHQ4TnopTb3GZ8BbiX79veOeDkPi_rHewj__Uh01JEq8rHfaSGnjeFpUDZ3eRSIrG5wkhpL5UIBhJqKfwmpDaAkzSn1mhcx1gM4_tKMX31C6lfBCtIwCE1WWkZLdDM/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
手を上げ、跪く男。<br />
<br />
「よし。無線をよこせ」とジェームズ。<br />
「撃っちまおう」とサンボーン。<br />
「ダメだ」とジェームズ。<br />
「彼は悪くない。助けて欲しいんだ」と通訳のイラク人。<br />
「いいから、お前も後ろに下がってろ」<br />
<br />
サンボーンに指示するジェームズ。<br />
<br />
「早く!」と通訳のイラク人。<br />
「俺たちは、よく喧嘩した。色んなことで。だが、全て水に流す。これは自殺だ」<br />
<br />
サンボーンの言葉だ。<br />
<br />
「だから自爆と言う。行くぞ」<br />
<br />
ここで、防爆スーツで完全武装したジェームズ二等軍曹は無線を持って、男の傍らに立った。<br />
<br />
「手を挙げていろ」とジェームズ。<br />
「家族がいる。助けて」と男。<br />
<br />
恐怖に怯える男の感情もピークに達しつつある。<br />
<br />
「お前が騒いでいると、爆弾も探せない」<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiO49F4dV-dIxyhQK7wJNBptFZS-i0DNtTBYpLBJYD75MG_ILcq_fAZFap9BCaxzUj86FQcFhTL9JAWsOIGc29O8nlcEFW5YhPbx_RkiZIYtvSsVWN5gMF98Pj4pLQAOVg6md2MYdPuffI/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="213" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiO49F4dV-dIxyhQK7wJNBptFZS-i0DNtTBYpLBJYD75MG_ILcq_fAZFap9BCaxzUj86FQcFhTL9JAWsOIGc29O8nlcEFW5YhPbx_RkiZIYtvSsVWN5gMF98Pj4pLQAOVg6md2MYdPuffI/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></div>
拳銃を男に向けるジェームズ。<br />
<br />
「手を頭の後ろへ。さもないと撃ち殺す」<br />
<br />
通訳との無線連絡で指示し、即座に通訳させた。<br />
<br />
その言葉を、通訳が大声で伝える。<br />
<br />
「いいか、分ったか」<br />
<br />
男の額に銃を突き付けたジェームスは、そう言って男を了解させた。<br />
<br />
「どうなってる?」とジェームズ。<br />
「家族が4人いる」と男。<br />
<br />
ジェームズの具体的な問いに応えず、救いを乞うだけの男。<br />
<br />
「ダメだ。タイマーが付いている。ワイヤーも。悪いが、力を貸せ」<br />
<br />
男に巻き付いている爆弾を点検したジェームスは、サンボーンに無線で連絡する。<br />
<br />
「何が必要だ?」とサンボーン。<br />
<br />
男の表情は恐怖感で引き攣っている。<br />
<br />
「カッターだ。2分で届かないと終わりだ」<br />
「30秒で持っていく」とサンボーン。<br />
「頼む。家族がいる」<br />
<br />
男の悲痛な思いを、通訳が代弁する。<br />
<br />
通訳も必死なのだ。<br />
<br />
「分った」とジェームズ。<br />
「見捨てないで」と通訳の声。<br />
<br />
ここで、男は祈り始めた。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg0l6VM7ETEyl2Y0W5riBf3_VYLziU4xBQCjNtILOVuXuPR9tU2h_WR-vOn-eu5YDJUJSLOmasdBbZCfDNYqgRjwQF0Hqze1HEAGH16y2ExzvCjpGC-2esjn_ahuM9HSGTaHdASP52o9QM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg0l6VM7ETEyl2Y0W5riBf3_VYLziU4xBQCjNtILOVuXuPR9tU2h_WR-vOn-eu5YDJUJSLOmasdBbZCfDNYqgRjwQF0Hqze1HEAGH16y2ExzvCjpGC-2esjn_ahuM9HSGTaHdASP52o9QM/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="308" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span lang="EN-US" style="font-family: "Century","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-font-family: "MS 明朝"; mso-fareast-language: JA; mso-font-kerning: 0pt;"> IED</span><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-font-kerning: 0pt; mso-hansi-font-family: Century;"></span></td></tr>
</tbody></table>
サンボーン軍曹は、走ってカッターを持って来た。<br />
<br />
「ヤバイ。鉄鋼製だ」とジェームズ。<br />
<br />
作業が捗らない現実に、焦りが生じた。<br />
<br />
「バーナーで焼き切る」とジェームズ。<br />
「バ―ナーはない。おしまいだ」とサンボーン。<br />
<br />
その間、男に拳銃を向けるサンボーン。<br />
<br />
「ダメだ。サンボーン。時間が足りない。鍵を切るしかない」とジェームズ。<br />
「あと、1分半だ。早く離れよう」とサンボーン。<br />
「お前は行け!すぐに行け!俺は防爆スーツを着てる!サンボーン、あと45秒だ、早く行け!」<br />
「死んじまうぞ!」<br />
「行け!」<br />
「皆、下がれ!」<br />
<br />
サンボーン軍曹はそう言って、走り去って行く。<br />
<br />
ここで、ジェームズ二等軍曹は、鉄鋼製の鍵を一個切り取ったが、それ以上の作業は困難になった。<br />
<br />
「鍵が多過ぎる!もう無理だ!外せない。無理だ。すまない」<br />
<br />
遂に断念したジェームズ二等軍曹は、男に英語で説明するが、英語が分らない男は助けを乞うばかり。<br />
<br />
「すまない!」<br />
<br />
そう言って、走り去って行くジェームス二等軍曹。<br />
<br />
爆弾が激しく炸裂したのは、救いの道を絶たれた男が祈る瞬間だった。<br />
<br />
この間、7分。<br />
<br />
被弾による瓦礫の洗礼を受けたジェームズ二等軍曹は、防爆スーツで守り切る際どい距離を保持し得ていて、辛うじて命拾いしたのである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjg6PNqAg62KS5U1PpSmeuf_l7kGdGxZ7bRtCJMIsmeckwk6K9jq18zfpygn0LXT1ND9WGa8f9LPsnSv7zSms1ESEM1XDd4-aPzAYjKFeWEyMEkXi4htWXWHqhE2xIHhfw8PNK7hosiHag/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="450" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjg6PNqAg62KS5U1PpSmeuf_l7kGdGxZ7bRtCJMIsmeckwk6K9jq18zfpygn0LXT1ND9WGa8f9LPsnSv7zSms1ESEM1XDd4-aPzAYjKFeWEyMEkXi4htWXWHqhE2xIHhfw8PNK7hosiHag/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
MRAP(IEDの攻撃から兵士を守るための重装甲車)のイラクへの投入以前、戦場の恐怖と地続きの只中で呼吸を繋ぐ特殊任務の下士官兵にとって、IEDがどこに仕掛けられているか一切不分明であるという戦場の有りようこそ、「戦場のリアリズム」以外ではないだろう。<br />
<br />
どこに仕掛けられているか一切不分明であるIEDへの恐怖が、遂に、強制的に「爆弾ベスト」(注)を着用させられた〈状況〉と本質的に変わらない恐怖の現実を描き出すのだ。<br />
<br />
この7分間のシークエンスこそ、まさに「戦場のリアリズム」そのものであった。<br />
<br />
世間に知られることの少ない男たちの特殊任務を描き切ることで、戦争の内実の、その身体性の懐ろに肉薄しようとした本作のエッセンスが、このシークエンスのうちに凝縮されていると見るのが自然であり、恐らく、それ以上でもないし、それ以下でもないだろう。<br />
<br />
訳知り顔の解釈を無効にする、本作の基本モチーフが抱え込んでいるものから、特段の深読みを要請し得るメタファーを拾い上げる何ものもなく、極めてシンプルな基本モチーフの裸形の様態を感受するだけで括り切るような、ただ単に、そういう映画だったのだ。<br />
<br />
私はそう思う。<br />
<br />
<br />
(注)「イラクの首都バグダッド北東65キロのバクバで24日、爆弾ベストを着た15歳の少女が自爆攻撃を行おうとしたところを拘束される事件があった。地元警察当局がAFPに明らかにしたところによると、少女は母親も自爆攻撃を計画していたと自供したという。また、ベストを少女に届けた親類の女も同時に逮捕されたが、自爆攻撃を計画したのは女の夫だったという」(「AFPBB News 2008年08月30日付け」より)<br />
<br />
<br />
<br />
4 「戦場のリアリズム」の映像的提示のみに収斂される物語への偏頗な拘泥<br />
<br />
<br />
<br />
「フィルムメーカーとして自分にできることは、判断を下すことで、自分の意見を押し付けることではなく、無数の人間の命を犠牲にしている終わりの見えない戦争の一部を見る人に体感してもらうということなの。結果、それぞれが自分なりの意見を見つけてくれば、それでいいのよ」(「映画.com キャスリン・ビグロー監督インタビュー/取材・文:中島由紀子」より)<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg25gK30oyIz8cIFZzeD6G2PxEVleyURezmyD2LAcmEpmS6ocJVzq0MbCXA5_kCHWXQJ8zFhtiblW_JfJwtbtIvfUNQYzotydt22wUO5gamhs261Sq9gxFNO5tWWKwUuDUuY8hGFr_SHot6/s1600/hurtlocker2_01.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5662091408454532594" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg25gK30oyIz8cIFZzeD6G2PxEVleyURezmyD2LAcmEpmS6ocJVzq0MbCXA5_kCHWXQJ8zFhtiblW_JfJwtbtIvfUNQYzotydt22wUO5gamhs261Sq9gxFNO5tWWKwUuDUuY8hGFr_SHot6/s400/hurtlocker2_01.jpg" style="float: right; height: 227px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
これが、作り手(画像)の、あまりに素っ気ない言葉。<br />
<br />
「戦争の一部を見る人に体感してもらう」という言葉の意味は、本作の基本モチーフが「戦場のリアリズム」の映像的提示にあることの証左であると言っていい。<br />
<br />
「戦場のリアリズム」の映像的提示を体現したのが、ジェームズ二等軍曹という人物造形であるのは自明だ。<br />
<br />
軍用ロボットに頼らず、煙霧を吹き上げる目くらましを放ちながら、爆弾に近づくことで勇気を顕示するかのような男にとって、既に、危険な戦場の緊張感にこそ快感を覚える過剰なパーソナリティを立ち上げていた。<br />
<br />
「面白かった」<br />
<br />
これは、危険な爆弾を処理した後の男の呟きだ。<br />
<br />
それが、ジェームズ二等軍曹という、過剰なパーソナリティを有する男の人物造形だった。<br />
<br />
男はいつしか、自己防衛のための適応が昂じて、戦争に過剰適応していったのだ。<br />
<br />
戦争への過剰適応は、戦場への過剰適応と同義である。<br />
<br />
戦場への過剰適応することで保持し得る自我が、拠って立つ安寧の拠点に搦(から)め捕られたとき、搦め捕られたものが手に入れたアイデンティテイを簡単に捨てることなどあり得ない。<br />
<br />
それ以外にないアディクションの性向を形成し切ってしまう怖さを持つほどに、私たちの自我の抑制系は脆弱であるということだ。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh81sYqwDAbw_BMMQkIwfOg7nIu8KHL-m_lwONHI9sjEm86Y_k8rxb8Ljg6owgBeIuGJiOD4Bqu8bNnqEX9po7TMbD5Aui5beU_rGhZ5mlXWCw07edYwIaCq8I4AQ9bp2u28FdNMUD24Yw/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="305" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh81sYqwDAbw_BMMQkIwfOg7nIu8KHL-m_lwONHI9sjEm86Y_k8rxb8Ljg6owgBeIuGJiOD4Bqu8bNnqEX9po7TMbD5Aui5beU_rGhZ5mlXWCw07edYwIaCq8I4AQ9bp2u28FdNMUD24Yw/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「地獄の黙示録」より</td></tr>
</tbody></table>
これは、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/11/79f.html">地獄の黙示録</a>」(1979年製作)における、ウイラード大尉と酷似する精神構造であると言っていい。<br />
<br />
但し、過剰適応して感覚鈍磨させた主人公が、なお残るヒューマンな情動を攻撃的に展開する振舞い(例えば、知っている子供の体内に埋め込まれた爆弾を取り出すことで、情動的な行為にのめり込んでいったり、シャワー室で嗚咽したり、等々)を抑制し得ない崩れ方を描くエピソードを挿入することによって、ヒューマンな情動系の文脈と切れたかのようなウイラード大尉との人格構造と別れるところと言えるだろう。<br />
<br />
しかし、自ら解体処理した爆弾の回数に拘泥したり、その爆弾を蒐集したりする行為が垣間見せるのは、まさに、爆弾処理という任務が彼の人生の軌跡の証であって、そんな男の、命を賭けた「麻薬」のような任務=アディクション性向の呪縛性の様態であった。<br />
<br />
それこそ、戦場に過剰適応した人格構造の偏頗(へんぱ)性を示す何かであり、そこに、アディクション性向に捕捉されやすい人間の脆弱性の一端を見ることが可能となるに違いない。<br />
<br />
そういう意味で、本作は、その行為がアディクション性向を露わにする、人間の脆弱性の偏頗な様態の一端であるにも関わらず、勇敢にも(?)、長期に及ぶ前線に赴くラストシーンを誤読させかねない描写の挿入に象徴されるように、その脆弱性を見えにくくさせる現実もまた、私たち人間の脆弱性の様態であることを包括的に印象づけられる作品であった。<br />
<br />
それは、「数え切れない命を救う たった一つの命を賭けて」(本作のキャッチコピー)という浮薄な言辞が、ナイーブなまでに青臭い、センチメンタルな反米主義に拠って立つ者を、決定的な誤読に導くトラップでもあったとも言えるからだ。<br />
<br />
それ故に、本作がヒューマンドラマとしては不完全であったのは、前述したように、元々、本作が「友情」や「愛」などという、万人受けのする「感動譚」に収斂させる物語の構築を志向していなかったからであって、ただ単に、「戦場のリアリズム」の映像的提示のみに収斂される物語への偏頗な拘泥だけが、本作の基本モチーフであることが判然とするであろう。<br />
<br />
〈生〉と〈死〉の辺りに身を置くことなしに、〈生〉を実感し得ないほど過剰適応し切った人間の脆弱性を分娩するもの ―― それこそ、「戦場のリアリズム」の真の怖さである。<br />
<br />
恐らく、この辺りが作り手の着地点であったに違いない。<br />
<br />
感情移入できない映画はアウトと決め付ける人たちに共通するように、だから本作は、「面白くない映画」であるとも言えるし、まさに同様の文脈で、それ故に、「腑に落ちる映画」であるとも言えるのだ。<br />
<br />
私の場合、「戦場のリアリズム」の映像的提示の文脈が了解し得ていたとしても、それだけで「撮り逃げ」したかのような本作への評価は決して高いものではなかった。<br />
<br />
130分もの長尺であるにも関わらず、最後まで物足りなさを感じたのは、その辺りが看過し難い荊棘(けいきょく)になっていたからである。<br />
<br />
それだけの映画だった。<br />
<br />
<br />
(2011年10月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-41968090293851357092011-10-09T15:30:00.015+09:002013-10-24T13:13:48.107+09:00隠された記憶('05) ミヒャエル・ハネケ<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJtvK2ovYUq0izCJ2oONe63SGL92vL_iMXTpw7hW9QvI5y8JwS1fp9nulJ_uqb9Wxmia2P-HmD25YEnBc9H2zDnl7D-bl50Hczzi6dK0BjFu53wnuQmGYjj05ZLoaZm_Bp36TDt9PkGjc/s1600/cache.jpgp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="384" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJtvK2ovYUq0izCJ2oONe63SGL92vL_iMXTpw7hW9QvI5y8JwS1fp9nulJ_uqb9Wxmia2P-HmD25YEnBc9H2zDnl7D-bl50Hczzi6dK0BjFu53wnuQmGYjj05ZLoaZm_Bp36TDt9PkGjc/s640/cache.jpgp.jpg" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><メディアが捕捉し得ない「神の視線」の投入による、内なる「疚しさ」と対峙させる映像的問題提示></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 個人が「罪」とどう向き合っているかについての映画<br />
<br />
<br />
<br />
「私たちはメディアによって操作されているのではないか?」<br />
<br />
この問題意識がミヒャエル・ハネケ監督の根柢にあって、それを炙り出すために取った手法がビデオテープの利用であった。<br />
<br />
覗き趣味に堕しかねないビデオテープを、「メディアの真実性を問う」ツールとして巧みに活用し、ミステリー映画として立ち上げることで生み出したものは、今や、「何を伝えたか」という視座ではなく、「何を伝えなかったか」という鋭利な視座が問われている、高度な科学文明の現状を包括している状況を見れば、既にメディアの欺瞞性を問うというテーマの帰趨が鮮明化されている事態をも超えて、ビデオテープによって捕捉された対象人格が、ごく普通に遣り過ごしている虚飾と欺瞞の意識体系の奥深くに封印する「闇の記憶」であった。<br />
<br />
それは、テレビ局という代表的なマスメディアに勤める、人気キャスターの家屋の外貌が、一台の定点カメラで映し出される冒頭のシーンによって開かれた物語の中で、じわじわと執拗に炙り出されていく。<br />
<br />
同様に出版社というメディアに勤務する妻を持つ、件の人気キャスターの心中で封印している「疚しさ」を、「闇の記憶」から炙り出し、追い詰めて、相対的に安定した日常性を破綻させていくのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4A-T5Te14yXdQZdb9Mu1p3wf4CvkxwrZkCW965zoWNjgUUowRenxSpwggeqH8ZAKBkyR2xVog0b7SJxfzzMCyp5R4iUfadMtEobC6xTErU-S3lB5EmfSbQfvhP0JYfy48UAfL7KDImVCf/s1600/20090513180531_06_400.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663626948630765842" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4A-T5Te14yXdQZdb9Mu1p3wf4CvkxwrZkCW965zoWNjgUUowRenxSpwggeqH8ZAKBkyR2xVog0b7SJxfzzMCyp5R4iUfadMtEobC6xTErU-S3lB5EmfSbQfvhP0JYfy48UAfL7KDImVCf/s400/20090513180531_06_400.jpg" style="cursor: hand; float: right; height: 324px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 243px;" /></a><br />
それに近い同義の文脈を持って、ミヒャエル・ハネケ監督(画像)は語るのである。<br />
<br />
然るに、その〈生〉の包括的な内実の中で、そこに様々な意識の有りようの差異があろうとも、「疚しさ」を持たない人間など、果たしてどこにいるだろうか。<br />
<br />
私自身のことを考えても、それが「犯罪」でなくとも、封印したい「疚しさ」の記憶が少なからずある。<br />
<br />
それらは、人間の脳の基本的機能の一つである、「記憶」として鮮明であるものが大半だから、張り巡らせた防衛機制によって、単に個人的問題の軽微な何かとして処理され、現在の〈生〉を脅かすに足るものになっていないだけである。<br />
<br />
その意味で、「疚しさ」の希釈化の問題は、意識の内部で惹起した矛盾を、「認知的不協和理論」などで合理化する自己防衛機能の発現であることと同義の文脈であると言っていい。<br />
<br />
ただ、この「疚しさ」が、個人的問題の軽微な何かとして処理されない毒性を持ち、じわじわと現在の〈生〉を脅かしていったらどうなるか。<br />
<br />
ハネケ監督は、まさにこの類の「疚しさ」が内包する問題に注目し、それをミステリーの体裁を仮構する戦略的映像のうちに立ち上げたのである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg046IlEYixMP4dw4pwsKEY3clqzlmbFKCecMaMAdpA-SgoiROgZnJGjfyaBD5yo869MhFo-jwQfTBxgXe25g3IfjozE2GZW2ZV2_o0WwU_G11HlfyVx5Wr3DrxuYQFDc1jwCuPvXjO_sA/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="224" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg046IlEYixMP4dw4pwsKEY3clqzlmbFKCecMaMAdpA-SgoiROgZnJGjfyaBD5yo869MhFo-jwQfTBxgXe25g3IfjozE2GZW2ZV2_o0WwU_G11HlfyVx5Wr3DrxuYQFDc1jwCuPvXjO_sA/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">ファーストシーン</td></tr>
</tbody></table>
何より、ハネケ監督にとって、この類の「疚しさ」 が内包する問題とは、「個人の罪と集団(国家)の罪が重なり合う事態」となったときに惹起された心の攪乱であり、それによる、拠って立つ自我の安寧の基盤の破綻の問題でもあった。<br />
<br />
「先進国で生きるわれわれは絶対に後進国や貧しい人々を犠牲にして高い生活水準を保っている」ことの罪悪感を、ハネケ監督は厳しく問うのだ。<br />
<br />
然るに、「政治的なメッセージを込めた映画」を嫌うハネケ監督は、その由々しきテーマを、いつものように、「個人が『罪』とどう向き合っているかについての映画」に変えていく。<br />
<br />
人間の心理学的洞察に抜きん出たハネケ監督には、その得意分野を駆使した手法が最も有効性を持ち得るのだろうが、それにも関わらず、豊かさを占有することに鈍感過ぎると断じる先進国の既得権者(豊かな中産階級者)たちに対して、最低限の「疚しさ」を感受させ、その意識を極限まで突き詰め、己が〈生〉の根源的問題のうちに反芻させることによって、自足的な既得権を持ち得ない後進国の人々が捕縛されている様々な困窮の問題の、その負のイメージを炙り出していくという本作の物語構成それ自身が、既に、鋭利な政治的メッセージになっている事実だけは認知せざるを得ないのである。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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その辺りに、典型的な階級社会であるフランス等の国家に呼吸を繋ぐ、一部の知識人たちの憤怒を感じ取ることができるだろうが、格差の弊害が指弾されつつも、件の階級社会の袋小路の状況性から相対的に解放され、「パラダイス鎖国」の如き印象をなお脱色し得ない、我が国に呼吸を繋ぐ大方の人々から見れば、ハネケ監督の憤怒の熱源の有りように想像力が及ばないのもまた、由々しき現実であるのだろうか。<br />
<br />
それ故にこそと言うべきか、ハネケ監督は、ポップコーン・ムービーの乗りで自作を観る者たちへの、適度な警鐘を打ち鳴らす「悪意」を存分に込めて、このような厳しい映像を突き付けてきたに違いない。<br />
<br />
従って、適度な警鐘を打ち鳴らされたであろう鑑賞者は、このような映像作家による、このような厳しい映像と向き合うとき、何よりも、作り手の基幹の主張と、肝心のマスメディアの多くがスル―しかねない、その背景となっている時代の見えにくい風景への最低限の情報の確保による理解・把握が、切に求められるのもまた否定できないのだ。<br />
<br />
それなしには、本作で描かれた主人公の「疚しさ」の根源的問題に迫り得ないだろう。<br />
<br />
そう思わざるをない映像を、ハネケ監督は構築したのである。<br />
<br />
では本作において、「集団(国家)の罪」とは、具体的に何を指しているか。<br />
<br />
以下、この由々しきテーマを包括させながら、どこまでも、「疚しさ」に関わる、主人公のジョルジュの内面の振幅の様態に焦点を当てた物語を追っていこう。<br />
<br />
<br />
<br />
2 攻撃的に張り巡らしたつもりの、防衛機制のバリアの空洞感が露わにされた醜悪さ その①<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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<br />
差出人不明のビデオテープが届く事態に不安を募らせていく、テレビ局の人気キャスターの夫と、出版社に勤務する妻。<br />
<br />
夫の名は、ジョルジュ。<br />
<br />
妻の名は、アンヌ。<br />
<br />
そこに送付されていた、子供が血を吐く拙い絵。<br />
<br />
更に、今や介護者と共に暮らす実母が住む、ジョルジュの生家を写すビデオテープが届くに及んで、ジョルジュは忘れていた遠い昔の記憶を想起する。<br />
<br />
そのビデオテープと共に送付されていた拙い絵に描かれていたのが、鶏の頸を切って、鮮血が迸(ほとばし)るものだったからだ。<br />
<br />
生家に出向くジョルジュ。<br />
<br />
自慢の息子の珍しい訪問を歓迎しながらも、深刻な事情を察知した母は直截に聞いていく。<br />
<br />
「どうしたの。悩みでもありそうだね?」<br />
「何でもないよ」<br />
<br />
映像で初めて見せるジョルジュの穏やかな表情には、最も聞きたいことがあっても、母に心配をかけまいとする配慮が窺えるのだ。<br />
<br />
「どこか変だよ。心配になってきた。話してごらん」<br />
「何でもないよ」<br />
<br />
結局、近況報告に終始した母子の会話だった。<br />
<br />
最も聞きたいこと ―― それは、6歳のとき、養子にしていたマジッドについてのことである。<br />
<br />
養子にしていたマジッドを孤児院に送り込んだ過去が、差出人不明のビデオテープの事件に絡んでいると確信したから、ジョルジュは生家に出向いて来たのだ。<br />
<br />
「思い出したくもないね」<br />
<br />
母の一言で、息子はマジッドの件に触れずに話を切り上げ、眠りに就いた。<br />
<br />
その夜、悪夢を見て、うなされるジョルジュ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgHSXJeDOeVKloxUE7Sli7qcE1dTtBClFd20im0_rConYfoaNixu2c1xuFgHQYAwj9p7O-qOz7xAsdNqNoBindk-SKna2phrjykvCq0Fs53KRk-nSyMF8CJLvzrmCSdbNe3NL_CSAm-5Ag/s1600/cache.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgHSXJeDOeVKloxUE7Sli7qcE1dTtBClFd20im0_rConYfoaNixu2c1xuFgHQYAwj9p7O-qOz7xAsdNqNoBindk-SKna2phrjykvCq0Fs53KRk-nSyMF8CJLvzrmCSdbNe3NL_CSAm-5Ag/s400/cache.jpg" width="400" /></a></div>
鶏の頸を切断した一人の少年が、傍にいた別の少年に斧を手に向ってくる悪夢である。<br />
<br />
前者の少年がマジッドであり、後者の少年がジョルジュであることは、やがて物語の中で判然とするが、ここでは、「過去の忌まわしい記憶」に呪縛されているジョルジュの恐怖の片鱗が描かれているだけだった。<br />
<br />
帰宅したジョルジュが、次に送られたビデオテープを、妻のアンヌと共に見ている。<br />
<br />
これが、その直後の映像だ。<br />
<br />
今度は、ストリートと集合住宅が写されたビデオである。<br />
<br />
警察に相談しようという妻の意見を擯斥(ひんせき〉して、「思い当たる人がいる」と答えるジョルジュ。<br />
<br />
彼は、その集合住宅の部屋にマジッドが住んでいると確信しているのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPqKK5cAQLDkqJ43zQdDsUkeKBPahEvI2cgFHS0qlAtS5NddPsURKtqVVub_2RsSgB0NdLgaD2WHXxA2sJc7LDcn-fKo3xgYEDorO1oJst3UKMAPaucbL1zsRfTot4_8YRctqJpLt3bbbJ/s1600/cache1.jpg"><img alt="" border="0" height="251" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663592915891637106" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPqKK5cAQLDkqJ43zQdDsUkeKBPahEvI2cgFHS0qlAtS5NddPsURKtqVVub_2RsSgB0NdLgaD2WHXxA2sJc7LDcn-fKo3xgYEDorO1oJst3UKMAPaucbL1zsRfTot4_8YRctqJpLt3bbbJ/s400/cache1.jpg" style="float: right; height: 226px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 360px;" width="400" /></a><br />
しかし、妻にも言えない秘密を持つ彼は、肝心な情報を共有できない妻との間に隙間ができ、これが夫婦の信頼関係の破綻に繋がっていくが、彼には自分の中でのみ封印せねばならない秘密を、なお隠し込んでおく必要があったのだ。<br />
<br />
翌日、彼はその集合住宅に出向いて行った。<br />
<br />
「驚いたな」と部屋の住人。<br />
「君は誰だい?」とジョルジュ。<br />
<br />
訪問者であるジョルジュが相手に尋ね、尋ねられた相手が訪問者を特定したのである。<br />
<br />
「何が望みだ?金か?」<br />
<br />
途方に暮れるような攻撃性に、言葉を失う部屋の住人。<br />
<br />
それには答えない部屋の住人=マジッドは、逆にジョルジュに問い返した。<br />
<br />
「よく俺を捜し当てたな?」<br />
<br />
ジョルジュも、それには答えず、「この悪だくみの目的は?」などと畳みかけていく。<br />
<br />
「何のことだか分らない」とマジッド。<br />
<br />
相手の反応によって、既に相手がマジッドであることを確信したジョルジュは、その相手にいきなり、ぶしつけな発問を加えるばかりの不毛な時間が流れていく。<br />
<br />
会話が成立しないのだ。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg8h3T1_9c5G0n2Ewi-Vt-ZbWOveKagciGpZRajdGagoQBvjMyjjuMKy8xRv0dP9DJr08kI61fKDBuowz6gGCGd1ZkT9BKJMGU4OmI0m8FbdjFzO5_KyLPuvoWgFEQUijH7MKcIqAQ2nvM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg8h3T1_9c5G0n2Ewi-Vt-ZbWOveKagciGpZRajdGagoQBvjMyjjuMKy8xRv0dP9DJr08kI61fKDBuowz6gGCGd1ZkT9BKJMGU4OmI0m8FbdjFzO5_KyLPuvoWgFEQUijH7MKcIqAQ2nvM/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">マジッドとジョルジュ</td></tr>
</tbody></table>
マジッドに例の拙い絵を見せて、相手の反応を窺うジョルジュ。<br />
<br />
そのジョルジュに、マジッドは、自分の思いを静かな口調で語るのだ。<br />
<br />
「いつかはお前に会うと思ってた。俺が死ぬまえにな・・・偶然、テレビを見たんだ。数年前だ、ゲストたちと椅子に座り、顔を近づけて、連中と話していた。確信はなかった。だが、不快な気分になった。不思議だよな。訳も分らず、吐きたくなった。最後に名前を見て、理解できた・・・お前から何を盗ると言うんだ。突然来て、俺が脅迫してると言う。昔と同じだな」<br />
<br />
40年ぶりに会って、相手にそこまで言われても、脅迫を止めろという反応しか返せないジョルジュ。<br />
<br />
最後まで、会話が成立しないのだ。<br />
<br />
相手が金銭目当てで脅迫してくると一方的に決めつけ、自分の思いのみを押し付ける男だからこそ脅迫されるに足る偏見居士であるという、歪んだ自我を自覚し得ない脆弱性が、そこにたっぷりと曝されていた。<br />
<br />
それは、攻撃的に張り巡らしたつもりの、防衛機制のバリアの空洞感が露わにされた醜悪さであると言っていい。<br />
<br />
<br />
<br />
3 攻撃的に張り巡らしたつもりの、防衛機制のバリアの空洞感が露わにされた醜悪さ その②<br />
<br />
<br />
<br />
まもなく、ジョルジュとマジッドだけしか知り得ない、このときの二人の会話のビデオテープが送られてきた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgs9U94fFlfBWJlr10yxd_2SWpjxkhU6NiwSr0SICBVgumSYf4917-oSAn42A_Vp-IMCDmHCKQduiwn_tad43trxatug7HrrcK9PtWmAktNFNxT4rv_bzn2x3U_0je8VUWxbA2Wz8PLRlSu/s1600/photo_14_hires.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663593107308367186" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgs9U94fFlfBWJlr10yxd_2SWpjxkhU6NiwSr0SICBVgumSYf4917-oSAn42A_Vp-IMCDmHCKQduiwn_tad43trxatug7HrrcK9PtWmAktNFNxT4rv_bzn2x3U_0je8VUWxbA2Wz8PLRlSu/s400/photo_14_hires.jpg" style="float: right; height: 270px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 366px;" /></a><br />
そこでは、ジョルジュが去った後に、マジッドが嗚咽するカットが添えられていたのだ。<br />
<br />
このシーンが演技ではないことを指摘する妻のアンヌは、この事実を隠していた夫を責め立てていく。<br />
<br />
「一体、何があったの?」<br />
<br />
ここで、観る者はアンヌに感情移入するだろう。<br />
<br />
それほど、マジッドの嗚咽のカットは観る者の心を揺さぶるからだ。<br />
<br />
BGMなしの、たった一つのカットの挿入が、ミステリー仕立ての映像の空気を変える力を持ってしまうのである。<br />
<br />
その辺りのハネケ監督の力量に、驚かされることもない。<br />
<br />
既に私たちは、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/09/97.html">ファニーゲーム</a>」(1997年製作)における、約9分間に及ぶシークエンスに及ぶ長廻しの中で、「クローズドサークル」(出口なしのミステリー)の極限状況に捕捉された夫婦の心理描写の、その圧倒的なリアリティに最近接する「虚構の映像の破壊力」の凄みを知っているからだ。<br />
<br />
物語に戻る。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjoCr5P2y0m91ZMogR3QjY8HW6kYUVGUrvy1nvsMHosDGHStVpwmEmoPSx6sv8XlfC6l-CpWKM0rXLgoAmRXc4gBdD-hOAaXy8xkhpOjV6gWzGAuQ6kXbNCcRQ9HgYgQ-K4-cDyLaN2TS1R/s1600/18838420_jpg-r_760_x-f_jpg-q_x-20070907_044656.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663592822300397778" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjoCr5P2y0m91ZMogR3QjY8HW6kYUVGUrvy1nvsMHosDGHStVpwmEmoPSx6sv8XlfC6l-CpWKM0rXLgoAmRXc4gBdD-hOAaXy8xkhpOjV6gWzGAuQ6kXbNCcRQ9HgYgQ-K4-cDyLaN2TS1R/s400/18838420_jpg-r_760_x-f_jpg-q_x-20070907_044656.jpg" style="float: right; height: 210px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 390px;" /></a><br />
観念した夫は、妻に、マジッドとの関係について吐露していく。<br />
<br />
「彼の両親が家で働いていた。働き者だったよ。61年10月17日、民族解放戦線がアルジェリア人にパリでのデモを呼び掛けた。当日、警視総監のパポンは、約200人のアルジェリア人を溺死させた(注)。マジッドの両親も2度と戻って来なかった。パパが捜しに行くと、“黒いのがいなくなって喜べ”と言われたとか」<br />
「それから?」とアンヌ。<br />
「マジッドを養子に迎えることになった。理由は知らない。責任を感じたんだろう」<br />
「それから?」とアンヌ。<br />
「僕は家に入れたくなかった。でも、6歳の僕と同じ部屋に住んだ」<br />
「彼に何をしたの?」<br />
「嘘を告げ口しただけだ」<br />
「ご両親に?」<br />
<br />
肯くジョルジュ。<br />
<br />
「それだけ?」<br />
「ああ」<br />
「それが復讐の遠因?」<br />
「そのようだ」<br />
<br />
ジョルジュの妻への最初の「告白」である。<br />
<br />
しかし、事態は更に暗転していく。<br />
<br />
息子のピエロの家出騒動が出来したのである。<br />
<br />
これをマジッドによる誘拐事件と断定したジョルジュは、警察に連絡し、マジッドが住む集合住宅に赴き、そこにいたマジッドと、彼の息子を逮捕する事態に発展したのである。<br />
<br />
拘留されて、大声で喚き続けるマジッド親子。<br />
<br />
事態が容易に収束し得ないこの夜、思わず、ジョルジュは、一人で嗚咽する。<br />
<br />
ジョルジュの自我もまた、クリティカルポイントに達しつつあるのだ。<br />
<br />
彼のみが、その内側で必死に秘匿し続ける、過去の暗い記憶に耐え切れなくなったのである。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidecsny6AWv8WipTuhABR43PtOBUDxwyOLWuLhM_FxVGEusANSh_BzVpx0OEIq7iKKEgH1T2W7Ty8DJ-yM1UxHFHxfKFVezEKTuNQm8Xrb35VZegKVO4237tBpwUhEli4sKI3DabKMyuk/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidecsny6AWv8WipTuhABR43PtOBUDxwyOLWuLhM_FxVGEusANSh_BzVpx0OEIq7iKKEgH1T2W7Ty8DJ-yM1UxHFHxfKFVezEKTuNQm8Xrb35VZegKVO4237tBpwUhEli4sKI3DabKMyuk/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「アルジェの戦い」より</td></tr>
</tbody></table>
翌朝、友人の母に伴われて、ピエロは帰宅する。<br />
<br />
まもなく、ピエロの家出騒動は終息するに至る。<br />
<br />
親に内緒で、友人の家に無断外泊していたのである。<br />
<br />
一連の盗撮騒動によって3人家族に亀裂が入り、感じやすい思春期のピエロが起こした偽装家出だった。<br />
<br />
何より由々しきこと ―― それは、マジッド親子が「誘拐事件」とは無縁だったという事実である。<br />
<br />
そして、マジッド親子を拘留した警察と、彼らの逮捕・拘留を求めたジョルジュの差別意識が顕在化されたのである。<br />
<br />
この一件は、最も忌まわしい事態を出来させるに至る。<br />
<br />
マジッドがジョルジュを呼び出したのである。<br />
<br />
「何のつもりだ?」とジョルジュ。<br />
<br />
相変わらず、防衛機制のバリアを攻撃的に張るだけの男が、そこにいる。<br />
<br />
「私とビデオは関係ない。お前にこれを見せたくて呼んだ」<br />
<br />
そう言うや、剃刀で自分の喉笛を掻き切って、その場に斃れるマジッド。<br />
<br />
一瞬の出来事だった。<br />
<br />
血飛沫(ちしぶき)が鮮血の赤に染めていく小さなスポットで、その場で立ち竦んで、放心状態のジョルジュ。<br />
<br />
夜の街を彷徨(さまよ)い、深夜に帰宅するや、ジョルジュは寝室に籠ってしまう。<br />
<br />
客がいることを知って、妻に連絡した。<br />
<br />
「客を追い返してくれ。寝室にいる。恐ろしいことが起きた」<br />
<br />
灯りを消した寝室で、客を返した妻を待つ。<br />
<br />
その間、殆ど静音状態。<br />
<br />
妻が入室して来た。<br />
<br />
灯りを点けた妻に、再び消灯させた。<br />
<br />
マジッドの自殺について話す夫。<br />
<br />
動顛(どうてん)する妻。<br />
<br />
「彼に何をしたの?」<br />
<br />
二人の関係の根柢にあるものを、今度こそ、妻は問い糺(ただ)すのだ。<br />
<br />
観念したジョルジュは、妻アンヌへの、事の真相に触れた「告白」が開かれたのである。<br />
<br />
ジョルジュの、誰にも語ることなく秘匿し続けた、真相の「告白」。<br />
<br />
言うまでもなく、6歳のときの「マジッド追放」の顛末の真相である。<br />
<br />
「血を吐いた、とママに言った。信じなかったよ。一応医者に診せたが、何でもない。老いぼれのじいさんで、掛り付けの医者だ。今度は奴に、パパが鶏を殺せと言ったと嘘を。怒りっぽい鶏で、いつも僕らに向かってきた。それで奴が、首を刎ねて殺した。胴だけで刎ねていた。僕を怖がらせたと告げ口した。だから、喉を裂いたんだ。イカれたユーモアだよ・・・」<br />
<br />
決して忘れ得ない顛末の記憶を封印していたはずの男の自我が、闇のスポットで怯(おび)え、震えているのだ。<br />
<br />
ジョルジュの内面の振幅の様態は悲哀にも見え、内面的に追い詰められたエゴイストの煩悶のようにも見えるが、一貫して変わらないのは、攻撃的に張り巡らしたつもりの防衛機制のバリアの空洞感が露わにされた醜悪さだが、それが、このような立場に置かれた者の振舞いの中で、益々曝され続けていくのである。<br />
<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjM34MGg1yy_xB_N3Ta458PME_yOjAOF2L98UwQdbov2PBxxBlbr8rL00v2a0-iLlByu7vUwI40CCU7oRx5BLYP9cU87AdH3aAywtg0ug8Se7ClMFvThEjSw1rNSGLKa3w6c13gTF4VT-w/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="432" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjM34MGg1yy_xB_N3Ta458PME_yOjAOF2L98UwQdbov2PBxxBlbr8rL00v2a0-iLlByu7vUwI40CCU7oRx5BLYP9cU87AdH3aAywtg0ug8Se7ClMFvThEjSw1rNSGLKa3w6c13gTF4VT-w/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><!--[if gte mso 9]><xml>
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<br />
(注)この事件は、アルジェリア戦争下の仏のパリで、1961年10月17日、アルジェリア民族解放戦線(FLN)が行ったデモを解散させるにあたって、フランスの警察がパリに住む約200人のアルジェリア人を虐殺した事件のこと。詳細は以下の通り。<br />
<br />
「多数のアルジェリア人がフランス警察の銃撃を受け、それを逃れようとする多くの人が、セーヌ川に身を投げて亡くなりました。また数多くの人が、フランスの拘置所で虐待を受けて命を落としました。フランス司法省、パリ市警察、パリ検察庁の公文書保管所の資料によれば、1961年10月17日の夜、200人のアルジェリア人が死亡、200人が行方不明となった他、およそ1万2000人が逮捕されました。逮捕されたアルジェリア人のうち、2000人は、当時フランスの植民地下にあったアルジェリアの収容所に送られました。この事件の後、当時の内務大臣は、こともなげに、『パリでの衝突の死者は3人、負傷者は64人だった』と発表したのです。<br />
<br />
フランスのメディアは、この事件に関する報道を禁じられ、その後30年間、フランス政府はこの事件に関する全ての資料を未公開のまま保管し続けましたが、1991年、フランス人作家ジャン=リュック・エノディが、この事件に関する本を出版しました。この本の中で、エノディは、パリに住むアルジェリア人の大量虐殺に関する事実を明らかにしました。アルジェリアの歴史家は、この事件について、『これは政府による組織的な犯罪で、全ての国際法規を無視したものだった』と語っています。多くのアルジェリア人は、この事件が、アルジェリアの独立を早めることになったと考えており、この事件の数ヵ月後の1962年1月、アルジェリアは独立を果たしました。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhHlEqFHRYHrWkqKVIRhDwI4pc-oVph_YUD59UOvJTg6xnj5vwqIHlNoCcdRfRPHlBmcTqUoNK2M1spmFj-B_i0E7rW6qJgyqBlqcalVEQ6jjmt2EZmcmfbf0-awIf3t0U9-dv-rteCe_E/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="578" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhHlEqFHRYHrWkqKVIRhDwI4pc-oVph_YUD59UOvJTg6xnj5vwqIHlNoCcdRfRPHlBmcTqUoNK2M1spmFj-B_i0E7rW6qJgyqBlqcalVEQ6jjmt2EZmcmfbf0-awIf3t0U9-dv-rteCe_E/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></td></tr>
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</tbody></table>
現在、アルジェリアの人々は、フランスに対し、この犯罪への謝罪を求めています。しかしフランスのサルコジ大統領は、このような要請を拒否すると共に、『祖先がしたことを、現代の人間が謝罪する必要はない』としています」(「IRIB WORLD SERVICE 2010年 10月18日 エレクトリーク解説員」)(画像は、1961年1月、アルジェリア戦争下の「バリケードの1週間」)<br />
<br />
<br />
<br />
4 重苦しくも、そこから抜け出すことが困難な「クローズドサークル」の心理劇のインパクト<br />
<br />
<br />
<br />
マジッドの息子がテレビ局に訪ねて来た。<br />
<br />
しかし、長身の青年と話し合おうとしないジョルジュ。<br />
<br />
益々曝され続けていく、内面的に追い詰められたエゴイストの醜悪さ。<br />
<br />
ジョルジュの態度に不満を持ち、マジッドの息子はエレベーターに乗り込み、その狭隘なスポットで、ただひたすら対象人格を睨み続けるのだ。<br />
<br />
異様な空気が漂っても、身体暴力を加えないマジッドの息子の鋭利な凝視が、無言の圧力となって、気の弱い男の自我を食い潰そうとしているようだった。<br />
<br />
因みに、入念な準備を重ねて臨んだという、ステディカム(カメラの手振れを防御する装置)使用による、このエレベーター・シーンの映像表現の中で、ハネケ監督が狙ったのは、一連の事件に深く関与していると決め付ける対象人格から攻撃的に睥睨(へいげい)され、圧倒されるジョルジュの心理の捕捉であるが、この表情がミラーに映し出されるショットの迫真性は抜きん出るものがあった。<br />
<br />
既に、二人の心理的権力関係は、このエレベーター内の閉塞した狭隘なスポットの中で形成されていたのだ。<br />
<br />
その直後の映像は、執拗に食い下がる長身の青年の存在に迷惑がったジョルジュが、青年をトイレに呼び出して、「ビデオを送るのは止めろ」と言うばかりのカット。<br />
<br />
一連の事件の中で最も肝心な対象人格と対峙し得ないばかりか、必死に退路を探る防衛的心理が曝されて、男の脆弱さが際立ってしまったのである。<br />
<br />
「僕じゃない。あなたが僕の父の教育の機会を奪った。施設で育った父が僕を育ててくれた。あなたのお陰で」<br />
<br />
それが、長身の青年の反応だった。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEirTQLyqO6SvEUQk3gUPzwAsWX8SNxnH2pySpRQMUtqJARwQW3X93rQ4L27q_Pe3fS4AL7_bOgoOp-vro-VjZm6q1k3wxeJ4re4bJrfNjlOcSRQnaJwBSjwWucu_Fcv5yrr3mTKI1-1Wwk/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEirTQLyqO6SvEUQk3gUPzwAsWX8SNxnH2pySpRQMUtqJARwQW3X93rQ4L27q_Pe3fS4AL7_bOgoOp-vro-VjZm6q1k3wxeJ4re4bJrfNjlOcSRQnaJwBSjwWucu_Fcv5yrr3mTKI1-1Wwk/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="382" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「アルジェの戦い」より</td></tr>
</tbody></table>
攻撃的に張り巡らしたつもりの、防衛機制のバリアの空洞感がすっかり露わにされた男にとって、そこまで言われても返す言葉もなく、その場を去るしかなかった。<br />
<br />
「待って下さい」<br />
「殴り合いでもしたいか?」<br />
「お望みなら」<br />
「イカれてる。父親と同じだ。何を吹き込まれたか知らないが、言っておく。僕は後悔などしない。彼の人生が苦しかったとしたって、僕のせいじゃない。そうだろう?謝って欲しいのか?」<br />
<br />
この男には、常に防衛機制のバリアを張り巡らしたつもりの、このような物言いしかできないのだ。<br />
<br />
「誰にですか?僕に?」<br />
「何が望みなんだ?」<br />
<br />
同じ言葉を返された長身の青年は、一貫して変わらない男の防衛機制の過剰さに触れて、丸ごとイメージ通りの感情を惹起させ、それ以外にない言語に変換させていく。<br />
<br />
「何もないです。疚しさとは何かと思ってた。これで分りました」<br />
<br />
男の「疚しさ」の有りようを見届けた青年には、もう、それ以上の言語は不要だった。<br />
<br />
その日、早々と帰宅した男は、妻の会社に電話し、疲弊し切っていることを告げ、「今から寝るから起こさないでくれ」と伝言した。<br />
<br />
睡眠薬を飲み、ガウンを羽織り、いつものように寝室のカーテンを閉め切って、ベッドに潜り込んだ。<br />
<br />
その直後の映像は、6歳のときの、最も思い出したくない出来事の夢だった。<br />
<br />
無論、早々とベッドに潜り込んだ男の夢である。<br />
<br />
「逃げないで!」<br />
「嫌だ!放して!行きたくない!」<br />
<br />
ジョルジュの生家の中庭で、マジッドが孤児院の二人の大人に強制的に連れて行かれる悪夢なのだ。<br />
<br />
最後は、大きな男が逃げるマジッドを担いで、強引に車に押し込んでいく。<br />
<br />
車内でも暴れて、抵抗するマジッド。<br />
<br />
そんな少年を乗せて、発車する車。<br />
<br />
映像の最後に映し出した男の夢は、突き付けられ、問い詰められ、追い詰められた男が、長く封印してきた記憶のコアの部分を鮮明に噴き上げるものだった。<br />
<br />
それは、自分の告げ口によって、両親を虐殺された孤児を施設に送ることで、そのダークサイドな生涯を予約させた決定的な出来事だった。<br />
<br />
悪夢の中で分娩された男の「疚しさ」が、悪夢からほんの少し解かれた日常性にどこまで繋がっていくか、一切不分明である。<br />
<br />
ただ、男の自我が張り巡らしたつもりの防衛機制のバリアが、いよいよ空洞化されつつある内的状況下で、男がそれまでと同じ日常性を継続させていく保証など全くないのだ。<br />
<br />
ミヒャエル・ハネケ監督は、この一連のシークエンスの中で、「疚しさ」に最近接する男の自我の振幅を肯定的に描き切る物語を、恐らく、最後まで観る者に提示していない。<br />
<br />
それにも関らず、この一連のシークエンスの中で、内面的に追い詰められた男の「精神の焼け野原」とも言うべき、その惨状の様態を描き出したことだけは間違いないのだ。<br />
<br />
妻への最初の男の「告白」から、「真相告白」を含んで、ラストカットの直前までの、この重苦しいシークエンスこそ、本作の生命線であると言っていいだろう。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcep73SMdLexoqRPyQCOQ1DO9QRbtiwY_LiaUTs9cgqnwK32M0b8-WMUtua6x3PMDdeyG9jgkg5xY22f22jULtUu8mjdJA4JpzvOG0wgbVP5siSjm_OnmLoipLymL9XH_zOUfclSBR2DMN/s1600/img_1489355_47349586_2.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5667233181264651762" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcep73SMdLexoqRPyQCOQ1DO9QRbtiwY_LiaUTs9cgqnwK32M0b8-WMUtua6x3PMDdeyG9jgkg5xY22f22jULtUu8mjdJA4JpzvOG0wgbVP5siSjm_OnmLoipLymL9XH_zOUfclSBR2DMN/s400/img_1489355_47349586_2.jpg" style="float: right; height: 246px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 283px;" /></a><br />
そこに記録された、「疚しさ」に関わるジョルジュの内面の振幅の様態の描写こそ、本作の真骨頂なのだ。<br />
<br />
「肝心なのは、ジョルジュの内面の振幅の様態を、『歴史の証人』として見届けること」<br />
<br />
追い詰める男が、それを加速させるほど、追い詰められる内面の振幅の様態を描き切った本作の要諦(ようてい)をこそ見逃すな。<br />
<br />
ミヒャエル・ハネケ監督は、そう言っているようでもあった。<br />
<br />
従って、ピエロとマジッドの息子の「共犯性」を暗示させるラストカットの曖昧さは、「ミステリー映画としての、説得力のある軟着点を深追いしても意味がない」という、ハネケ監督のメタメッセージとして読解することも可能である。<br />
<br />
或いは、ラストカットでも判然とする通り、ピエロとマジッドの息子による「共犯性」の強調によって、独立を求めるアルジェリア人への虐殺事件を起こしながら、人権を説く政治家や、その事実をきちんとフォローしないメディアに象徴される先進国の欺瞞性と、かつて同時代に生きながら罪悪感を持たない、「先進国で生きるわれわれ」への指弾を、次世代の若者たたちが使命感を持って継承していくという文脈で読み解くこともまた可能であるだろう。<br />
<br />
ミステリー映画に特段の関心のない私だが、本作に限って、テーマと重厚に絡むと思われるので、以下、稿を変えて、私のイメージラインを書いておきたい。<br />
<br />
<br />
<br />
5 メディアが捕捉し得ない「神の視線」の投入による、内なる「疚しさ」と対峙させる映像的問題提示<br />
<br />
<br />
<br />
何より、ラストカットをどう読み解くかという問題がある。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh3nn-cPErapSenF9RXObEMfYqea19HCdf3m6jPC4HC1BBJbtOoGaBYx3sXlHNnOLdD6D8HuMaTmQISScjXXyO6gn4bAU_PzvoBoPVbm6lRgoxJTEZVBXeIEODd07xVKgyEyoqYe09vdpoI/s1600/cashe_last.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5664059983338780002" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh3nn-cPErapSenF9RXObEMfYqea19HCdf3m6jPC4HC1BBJbtOoGaBYx3sXlHNnOLdD6D8HuMaTmQISScjXXyO6gn4bAU_PzvoBoPVbm6lRgoxJTEZVBXeIEODd07xVKgyEyoqYe09vdpoI/s400/cashe_last.jpg" style="float: right; height: 154px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
もし、ピエロとマジッドの息子が左端に写っているラストカットの構図が、第三者による「悪意の視線」(即ち、「真犯人」)によるものと仮定するなら、本作は際限ないミステリーのゲームになってしまうだろう。<br />
<br />
基幹テーマから安直に逸脱するはずがないハネケ監督が、ミステリーを勝手に独歩させたりしないだろうと思われるのだ。<br />
<br />
だから私は、このラストカットの意味は、鋭いメディア批判を重ねてきたハネケ監督の意図が内包された何かであると考えたい。<br />
<br />
即ちそれは、先進国の大都市にあって、人それぞれ自由な生活を謳歌しているが、常にそこには、メディアが捕捉し得ない「神の視線」が濃密に介在しているのだというメタメッセージである。<br />
<br />
定点ショットの如きラストカットの構図の意味を、そのような文脈で把握した上で、以下、シンプルな私の見方を、主に心理学的アプローチに則って記述しておきたい。<br />
<br />
まず、ラストカットで暗示されているように、恐らく、主犯はマジッドの息子であるだろう。<br />
<br />
彼は、父マジッドとの共同生活の中で、日常的に差別される者の視線を感受してきて、それに対して憤怒の感情を抱いていた。<br />
<br />
既に、父から40年前の出来事について知らされていた件の息子には、どうしても遂行せねばならない「仕事」があった。<br />
<br />
その「仕事」とは、テレビというマスメディアを介して、知りたくもない不快な情報を得てしまったジョルジュという人間の、その偽善・欺瞞性への「許し難さ」に発した行為 ―― それは、もしかしたら、長年の下積み労働が昂じて、重篤な疾病等によって死期が近づいていたのかも知れない父の無念を晴らす行為である。<br />
<br />
然るに、その行為の内実は、先進国がかつて後進国に加えてきた露骨な暴力的攻撃ではなく、遥かに精神的な意味合いを持った何かだった。<br />
<br />
直截(ちょくさい)に言えば、ジョルジュの「疚しさ」の有りようを確認すること。<br />
<br />
それに尽きるだろう。<br />
<br />
ただ、それだけの理由で、マジッドの息子は動いたのではないか。<br />
<br />
そして、社会的正義感溢れる息子の、そのような企みに関知しない父に、ジョルジュ本人を直接的に対峙させる方略を思いつき、遂行するに至ったのではないか。<br />
<br />
そこで彼は、ジョルジュの息子であるピエロに接近し、その思いの丈を吐露していく。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidC-ts1fbSh8wmdRYzX9Jqj5F3KW9O90kMIdChyphenhyphenw9Xi0b_dyMblyfcm6yyFUrMZg_NW4KCJK_kKTwQR5WkwAIltVJrOrAtb3dpGddWlM4BZqcPTQBRYEu9QkxiXTehe2u9BA3phfgCzrzH/s1600/02.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663592661727537298" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidC-ts1fbSh8wmdRYzX9Jqj5F3KW9O90kMIdChyphenhyphenw9Xi0b_dyMblyfcm6yyFUrMZg_NW4KCJK_kKTwQR5WkwAIltVJrOrAtb3dpGddWlM4BZqcPTQBRYEu9QkxiXTehe2u9BA3phfgCzrzH/s400/02.jpg" style="float: right; height: 225px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
12歳という最も感じやすい年頃にあるピエロもまた、マスメディアに勤務しながら不倫する母や、キャスターとして偽善的言辞を吐き散らしている父に対して、全く馴染めない感情が育まれていた。<br />
<br />
そこには、悪戯半分の思いもあったかも知れない。<br />
<br />
しかし、少なくとも、マジッドの息子だけは本気だったのだ。<br />
<br />
そして、実現した40年ぶりの、マジッドとジョルジュの再会。<br />
<br />
その模様を隠しカメラで収録するという、アクティブな仕掛けを施すマジッドの息子は、後にこのビデオを見て、憤怒の感情をマキシマムに噴き上げていったに違いない。<br />
<br />
若い彼は、父を訪問するジョルジュの言葉の中に、「疚しさ」の有りようを実感し得るに足る淡い思いを抱懐していたのだろう。<br />
<br />
ところが、そのオプチミスティック期待は完全に裏切られる。<br />
<br />
ジョルジュは父に謝罪するどころか、父の知らない盗撮行為の犯人呼ばわりしたばかりか、あろうことか、「金が目的か」などという許し難い言辞を吐いたのである。<br />
<br />
だから私は、この二人の再会のシーンこそが、本作の肝であると考えている。<br />
<br />
もしここで、ジョルジュがマジッドの父に、「疚しさ」の感情の片鱗を柔和に表現したならば、恐らく、その後の展開は変わっていただろう。<br />
<br />
二人の再会シーンは、それほど重要な設定だったのだ。<br />
<br />
ジョルジュの攻撃的で、差別意識丸出しの反応に激しい憤怒を覚えたマジッドの息子は、そのことをピエロに話す。<br />
<br />
その事実を知らされ、衝撃を受けるピエロが選択した行動は、「家出」の偽装だった。<br />
<br />
恐らく、単独行動だったのだろう。<br />
<br />
だからこそ、その直後の映像が、遣り切れない物語を極限まで暗転させていく展開になっていくのだ。<br />
<br />
ピエロの誘拐の犯人扱いされた、パリに住むアルジェリア人の父子は、大した証拠もなく、所轄の警察署に逮捕され、留置されるに至ったのである。<br />
<br />
留置所で、遣り場がない憤怒を噴き上げるマジッド親子。<br />
<br />
その結果、意を決したように、マジッドはジョルジュを呼び寄せ、自死するに至るのだ。<br />
<br />
この展開は、当然の如く、マジッドの息子やピエロの想像の埒外(らちがい)にあった。<br />
<br />
もう、ここまできたら直接対決するしかなかった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiKq0EByCjqGHODfZCfMpP-Ju8i7lshcv6l3l4s6IDWj_ZEs1rL_SgIckpTe6XsgbS1lYxRK3CsO06UaW1_7hQPKKXs32EafCL0fSkq0K9X8Vnaz1An0H7t_2mcWnCHoksyOpKJBF-ajuUO/s1600/photo_16_hires.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5663593017623537938" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiKq0EByCjqGHODfZCfMpP-Ju8i7lshcv6l3l4s6IDWj_ZEs1rL_SgIckpTe6XsgbS1lYxRK3CsO06UaW1_7hQPKKXs32EafCL0fSkq0K9X8Vnaz1An0H7t_2mcWnCHoksyOpKJBF-ajuUO/s400/photo_16_hires.jpg" style="float: right; height: 223px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
それが、テレビ局でのエレベーターシーンから、トイレでの二人の会話に繋がったのである。<br />
<br />
そして、その結果、そこだけはマジッドの息子が想像しなかった現実を引き出したのだ。<br />
<br />
即ち、ラストカット直前の、あの由々しきカットの映像である。<br />
<br />
40年前に出来した、施設へのマジッドの強制連行事件である。<br />
<br />
意に反した結果を目の当たりにした二人の青少年は、残念ながら、ジョルジュの悪夢について認知していない。<br />
<br />
それにも関わらず、二人の青少年が引き出したジョルジュの悪夢。<br />
<br />
それこそ、「疚しさ」の映像的具現と言えるのかも知れないのだ。<br />
<br />
しかし、現実は甘くない。<br />
<br />
裕福な自分の家庭を破綻に追い込むリスクを負うだろう、ピエロの遣り場のなさと、最後まで、最も欲していたはずの、「疚しさ」の言辞を本人から引き出すことができなかったと信じるマジッドの息子。<br />
<br />
映像は、この二人の青少年に対しても、ペナルティを加えたのか。<br />
<br />
その二人が、ラストカットで談笑してるかのようかのような構図の意味は、「君らの振舞いをも、神は見ているんだぞ」という、意地悪な作り手のメタメッセージだったのかも知れないのだ。<br />
<br />
これが、由々しきテーマへの逸脱を許さない、ハネケ映像のミステリーラインについての私の解釈である。<br />
<br />
閑話休題。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhBA60s4lOdwQF-bu2Dii9168-NOWhbyp6lO8uCwCGfr18aDGovr69-mVqAktJs911lhcIvW35oTOKhI9gez5jpx429yjPCWvSygIG6z0gfBOfJjDdxAfJJMlomObw8iwJ8HMeH1dRmBKA/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="425" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhBA60s4lOdwQF-bu2Dii9168-NOWhbyp6lO8uCwCGfr18aDGovr69-mVqAktJs911lhcIvW35oTOKhI9gez5jpx429yjPCWvSygIG6z0gfBOfJjDdxAfJJMlomObw8iwJ8HMeH1dRmBKA/s640/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="640" /></a></div>
以上の私の解釈とは無縁に、恐らく本作は、永遠に答えの出ない犯人探しによって、本作を観る「先進国で生きるわれわれ」に、内なる「疚しさ」と対峙させることが最大のモチーフとなった映像なのだ。<br />
<br />
この重苦しくも、そこから抜け出すことが困難な「クローズドサークル」の心理劇のインパクトこそ、犯人探しのミステリーゲームを根柢において相対化し切る何かだった。<br />
<br />
そう把握する以外にないラストカットだったのである。<br />
<br />
それにしても、ミヒャエル・ハネケ監督。<br />
<br />
とてつもなく凄い映像を作ってくれたものだ。<br />
<br />
「神の視線」の投入によるラストカットを、DVDで繰り返し観ながら、その構築力の高さに言葉を失う程だった。<br />
<br />
何より、半ば空洞化されつつも、防衛機制を必死に張り巡らせるジョルジュの揺動する自我の、その奥深い辺りまで、深々と描き切った映像の凄みに震えが走った程だ。<br />
<br />
ジョルジュを演じ切ったダニエル・オートゥィユ。<br />
<br />
彼の内的表現力なくして成立し得ない難しい役どころを、見事に演じ切ったプロ魂に敬意を表したい。<br />
<br />
<br />
【なお、本稿のミヒャエル・ハネケ監督の言葉は、「映画.com ミヒャエル・ハネケ監督インタビュー/聞き手:北小路隆志 2006年4月25日」、「DVDの付録にある特典映像での監督インタビュー」より引用】<br />
<br />
(2011年10月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-43029590607308717232011-10-07T18:21:00.020+09:002013-10-24T13:29:24.978+09:00日本暗殺秘録('69) 中島貞夫<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiyrCFoxgQR4eHS5a3QC6HAJLI1Vz6pnh4rMbWcziPl7u7Q2wuIDc53xMJTNoSbIUmusNBXVpmm-YOw26sjJqOHbOWfjeBAM7hfytaYFFWY9Ec3GI-jSaunYq6Jb4XiBSC5k16OXGgKDm7s/s1600/20040423202615.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5660682087134505106" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiyrCFoxgQR4eHS5a3QC6HAJLI1Vz6pnh4rMbWcziPl7u7Q2wuIDc53xMJTNoSbIUmusNBXVpmm-YOw26sjJqOHbOWfjeBAM7hfytaYFFWY9Ec3GI-jSaunYq6Jb4XiBSC5k16OXGgKDm7s/s400/20040423202615.jpg" style="float: right; height: 400px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 264px;" /></a><br />
<span style="font-weight: bold;"><ストレス発散映画としての本領を発揮した情感系暴走ムービーの短絡性、或いは、「やる」ことが全てである者たちの「甘えの心理学」></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「純粋動機論」のロールモデルとしての「心優しきテロリスト」<br />
<br />
<br />
<br />
この映画は本質的に、1960年代半ば以降、他の映画会社を圧倒し、数多の「ヤクザ映画」を占有した感のある、東映の「任侠路線映画」の延長線上にある作品と言っていい。<br />
<br />
この映画に登場するテロリストの多くは、当時の任侠スターの面々であり、またテロリストによって殺される俳優は、さしずめ、「任侠映画」の中で「悪徳ヤクザ」を演じる相貌の主であるからだ。<br />
<br />
当時、この「悪徳ヤクザ」の理不尽な振舞いに対して、我慢に我慢を重ねた末、「死んでもらいます」と言って、日本刀を手に「決起」したヒーローを描く「任侠映画」が、全共闘運動の全盛期の新左翼の若者に頗(すこぶ)る支持されたように、本作もまた、この類の物語の構造性を逸脱するものになっていない。<br />
<br />
ところが、それまでの「任侠映画」と違うのは、本作の中に「政治」が入り込んでいることである。<br />
<br />
ただ、「政治」がに入り込んでいると言っても、そこで描かれるテロの借景レベルのナレーションや会話が挿入されるだけで、当然の如く、詳細な歴史的検証の視座による、テロの背景となる複雑な社会的・経済的背景への言及はスル―しているから、物語のシンプルな枠組みが「任侠路線映画」のカテゴリーに収斂されている構造には特段の変容はない。<br />
<br />
そこで描かれているのは、「政治権力の腐敗と、欲望の限りを尽くす財閥の横暴」⇔「窮乏化する民衆の塗炭の苦しみ」という、階級社会における「権力関係」の矮小化した図式と、この理不尽な関係を「革命」によって打破せんとする者たちの単純な提示であって、それ以外ではないのだ。<br />
<br />
この単純な提示の中で、「悪徳ヤクザ」に模した「政治権力の腐敗と、欲望の限りを尽くす財閥の横暴」に対して、我慢に我慢を重ねた末に、「もう、待てん」と憂慮する青年たちの焦りや不安、そして、彼らへのテロに至るまでの内面的風景の暑苦しいまでの活写こそ、この映画の全てであると言っていい。<br />
<br />
かくて、「今の荒廃した社会は許せない」という一点のみで、際物映画でもある本作は、右翼の活動家たちにも大ウケする映画になり得たのである。<br />
<br />
何のことはない。<br />
<br />
極右も極左も、拠って立つイデオロギーの推進力となる理念に差異があろうとも、それ以上に、テロルを回避できないと括る肝心要のモチベーションにおいて決定的な乖離が見られないのである。<br />
<br />
そこに、極右と極左の、薄気味悪い程の親和関係が見い出せるのだ。<br />
<br />
その親和関係を決定付けるフレーズは、唯一つ。<br />
<br />
「何をしたかによってではなく、何をしようとしたか」という問題こそ重要であるとする「純粋動機論」である。<br />
<br />
そして、この映画がそのような文脈において成功を収めたとするならば(因みに、本作は1969年の興行成績の9位であった)、映画の大半を占める「血盟団事件」による、「一人一殺」の「心優しきテロリスト」を主人公に据えたことである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjj5kUUI2EHRCuLubndxYfZJPa3y0_7HtHPSLH0CmCMdFTUqoLb5ObMGjTJ-BlPjNqOTszPCBJp0qo1LflNtEFasSHPNqzQy3SSNwQiP4D3_xZiGUsTPVteHFNGLc-DHmamq06xBrPmJmaq/s1600/008_2.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5660682198454135506" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjj5kUUI2EHRCuLubndxYfZJPa3y0_7HtHPSLH0CmCMdFTUqoLb5ObMGjTJ-BlPjNqOTszPCBJp0qo1LflNtEFasSHPNqzQy3SSNwQiP4D3_xZiGUsTPVteHFNGLc-DHmamq06xBrPmJmaq/s400/008_2.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 260px; margin: 0 0 10px 10px; width: 400px;" /></a><br />
その名は小沼正。<br />
<br />
彼こそまさに、「純粋動機論」のロールモデルと言っていい。<br />
<br />
以下、その苦労多き青春期の軌跡を、稿を変えて簡潔に書いておこう。<br />
<br />
<br />
<br />
2 ストレス発散映画としての本領を発揮した情感系暴走ムービーの短絡性<br />
<br />
<br />
<br />
小学校を首席で通しながら、父の死と実家の事業の破綻によって、やむなく進学を断念した小沼は、父の遺言で大工の修行や洋服店を経て、故郷の茨城県(那珂郡平磯町)を出て上京し、銀座の染物屋に丁稚奉公するが、脚気になり実家に戻る。<br />
<br />
18歳のときだった。<br />
<br />
その後、従業員に冷淡な染物屋に戻ることなく、東京の兄の紹介でカステラ屋に勤務するが、そこで、警察に袖の下をを握らせることをしなかった主人は、高利貸の強引な督促を強いられ、倒産の憂き目に会って、再び実家にリターンするに至る。<br />
<br />
このカステラ屋での労働と栄養不足が原因で喀血した小沼は、同様に、肺病を病んだ娘と恋に落ちるが、貧農出身の彼女の病死を看取った衝撃で、故郷である平磯の海に身を投げ入れ、自殺を図ったが未遂に終わった。<br />
<br />
そこで思わず口にしたのが、「南無妙法蓮華経」という七文字の題目だった。<br />
<br />
法華経のお題目である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgbKNJl6Ea59GA1JXvAlJK50xJ4d2jfzGmdCxhWxw6xFqztFpbQ1u1_aywBRy0u5BzMItaHPdm8RJrdQzfB7gtjUv3MGV_f0C1BottX32tx7tDITG42ZzOuMgr8S21HJCeLns4GN4lQmrmX/s1600/012_2.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5660682334962017010" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgbKNJl6Ea59GA1JXvAlJK50xJ4d2jfzGmdCxhWxw6xFqztFpbQ1u1_aywBRy0u5BzMItaHPdm8RJrdQzfB7gtjUv3MGV_f0C1BottX32tx7tDITG42ZzOuMgr8S21HJCeLns4GN4lQmrmX/s400/012_2.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 224px; margin: 0 0 10px 10px; width: 331px;" /></a><br />
貧しさが奪ったロマンスの破綻によって、自暴自棄に陥った純粋な青年の自我を救ったのが、茨城県大洗町の立正護国堂の住職になっていた、末法思想(終末論にあらず)に立脚し、法華経を説く日蓮宗の僧侶の井上日召だった。<br />
<br />
まもなく、波涛(はとう)逆巻く大洗海岸に面する井上日召の立正護国堂に住み込みし、日常の世話をすることで精神的に最近接していく。<br />
<br />
このように、社会的正義感も強く、純粋で誠実な男が、井上日召という日蓮宗僧侶と邂逅することで思想的にインスパイアされ、それまでの不満の捌け口の一切を、「正義」の名において、政治的実践者=テロリストへの劇的変容のうちに「昇華」していくのである。<br />
<br />
映画の大半は、「純粋動機論」のロールモデルに相応しい青年の心象風景を、そこもまた、「決起」の前の「任侠映画」のヒーローの如く、不必要なまでに情感的に描き出し、その感傷過多な語り口の中で、観る者が容易に感情移入できるような人格像の立ち上げへの軌跡をフォローするのだ。<br />
<br />
小沼を演じた千葉真一の渾身の演技を評価するには吝かではないが、まさに、その渾身の演技のうちに体現された人格像は、「もう、待てん」と嘆いて決起した2.26将校の心理的文脈と重なって、「ゲバルトの時代に、敢えて東映が問う。暗殺は是か非か」という、キャッチコピー自身が既に答えとなっている問いに象徴されるように、短期爆発型の日本人のテロリスト像を美化するのに充分過ぎる際物映画に結ばれたのである。<br />
<br />
「君は、なぜ死のうと思ったんだね? 」 <br />
「それは・・・世の中に絶望したからです」 <br />
「なぜ?」 <br />
「それは・・・自分が真面目に働いてみても、それに体も、いえ、自分だけではなく、真面目に一生懸命働く者がバカをみる世の中だということで、なぜ、生きるのか分らなくなったんです」 <br />
「現在の日本には、あまりにも不正が蔓延(はびこ)っていると?」 <br />
「はい」 <br />
「じゃあ、君の絶望は、その不正がなくなるまで続く訳だな」<br />
<br />
これは、本作の中での、小沼正と井上日召との会話の一部であるが、自ずから、キャッチコピーの答えを提示したような短絡的な問答である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjUYsIIuL0jsRGWZ2KOrIiW1oHpJWBTrNuDwnluV2A7LBOPPRPm4V9cxv2_n1CNE_BttDcFMMCNJrZFgR2ioZBZdAlxXlrXAXqERG2NMPXDLTAzONsfxyQn7fuDiimbpz5pggRvpYbvsykL/s1600/5059toei00091.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5660682455605060930" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjUYsIIuL0jsRGWZ2KOrIiW1oHpJWBTrNuDwnluV2A7LBOPPRPm4V9cxv2_n1CNE_BttDcFMMCNJrZFgR2ioZBZdAlxXlrXAXqERG2NMPXDLTAzONsfxyQn7fuDiimbpz5pggRvpYbvsykL/s400/5059toei00091.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 150px; margin: 0 0 10px 10px; width: 200px;" /></a><br />
井上日召にインスパイアされた小沼や、立正護国堂に屯(たむろ)する青年将校が唱導する「正義」が、「悪徳ヤクザ」(ここでは腐敗する政治家・財界人)と対峙し、その極悪非道の罪を剔抉(てっけつ)し、屠ってしまう「任侠ヤクザ」のイメージのうちに収斂されていくのは間違いない。<br />
<br />
加えて、政治が入り込むことによって、本作が「任侠映画」の範疇をも突き抜けて、「ゲバルトの時代」に擦り寄った、「暴虐の資本主義打倒」という、極めて完成度の低いプロレタリア・ムービーとして立ち上げていたのは、作り手の思想性の影響でもあるだろう。<br />
<br />
それにも拘らず、「日本暗殺秘録」という名のプロパガンダ性の強い映画が、我慢の限界の末、「死んでもらいます」と言って、「悪徳ヤクザ」を懲らしめるために「決起」した、多くの「任侠映画」の情感系のエキスを存分に吸収し得る格好の娯楽として、充分にストレス発散映画になっている本質だけは見逃してはならない。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhUpXImz1uwf7QpCiQnBMIoSvUeupHOVVsuwkVwEYQMEUHV6nA30aRipvPHVBX63Z_EM7RXa9_MpuBLuelu8FWgHJMPL9hf3ZKumBb_n9Ws6UTpTz28gjclxvy_-wyCenfQkDEH3XQBgp2W/s1600/nakajima.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665066728486141890" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhUpXImz1uwf7QpCiQnBMIoSvUeupHOVVsuwkVwEYQMEUHV6nA30aRipvPHVBX63Z_EM7RXa9_MpuBLuelu8FWgHJMPL9hf3ZKumBb_n9Ws6UTpTz28gjclxvy_-wyCenfQkDEH3XQBgp2W/s400/nakajima.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 324px; margin: 0 0 10px 10px; width: 220px;" /></a><br />
ストレス発散映画としての本領を発揮したこの短絡性こそ、それまでの「任侠映画」のカテゴリーに収斂されていくに足る、情感系暴走ムービーの全てであると言っていい。(画像は中島貞夫監督)<br />
<br />
それ故にと言うべきか、完成度の低いプロレタリア・ムービーを吸収した、ごった煮の「任侠映画」への批評は、ここで閉じたい。<br />
<br />
従って、ここからは、この大衆読み切りコミックのような際物映画から離れて、「日本人と闘争心」という私の問題意識について言及していきたい。<br />
<br />
題して、「この国の『闘争心』の形」。<br />
<br />
なお、以下の拙稿は、些か長いが、「<a href="http://www.freezilx2g.com/2009/03/blog-post.html">心の風景・この国の『闘争心</a>』の形」からの部分的引用であるが、若干、補筆している。<br />
<br />
<br />
<br />
3 「やる」ことが全てである者たちの「甘えの心理学」<br />
<br />
<br />
<br />
二.二六事件。<br />
<br />
「雪の二.二六」などという形容のうちに、既に過剰な感傷が詰まっている。<br />
<br />
私にはもうそれだけで悪寒がして、 この事件に思い入れる人々の精神構造からは、少しでも離れていたいと念じて止まないのだ。<br />
<br />
少しずつ時間をかけて変えていくことを簡単に馬鹿にしたり、複雑な政治課題の困難さを克服する手法として、「あれか、これか」という二項対立に単純化させてしまったりという粗略な態度なら、まだ「知的洗練度のレベルの問題」という風に割り切ることができるだろう。<br />
<br />
然るに、貧しい民衆の窮状が構造的に存在するという事実を、政府要人へのテロに直結させる短絡さ、そして、その短絡さが内側に抱え込んだ過剰な感傷や思い込み、加えて、「派手なことをやって名を残す」という類の感情傾向などが、内側に厄介な澱 みをプールしてしまっていて、其処彼処(そこかしこ)で勝手に喚いて、勝手に怒号する精神構造を見るに至っては、もう殆ど「甘えの心理学」の世界と解釈する他 はない。<br />
<br />
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陸軍少将である軍務局長(永田鉄山)を斬殺したその足で、転勤先の植民地に赴任しようと考える発想(相沢三郎陸軍中佐による「相沢事件」)に端的に象徴される軍部の甘え ―― それは不況下にあった当時においても、殆ど病理の様相を呈していた。(画像は相沢三郎陸軍中佐)<br />
<br />
青年将校たちの行動は、軍部全体の甘えの集中的表現であり、人生経験が乏しく、世俗的な感覚と切れていた分だけ、その行動の脳天気さは留まるところを知らな かった。<br />
<br />
現実的な渉外能力は皆無に等しく、大臣告示に翻弄されて右往左往する様は、およそ「革命家」に似つかわしくない態度である。<br />
<br />
その態度は、半ば強制的に駆り出され、不本意にも参加した一揆農民の「激発的直情性」というものと比べて、際立って決定的な差異があるとは思えないような何かを示していて、そのさまに失笑を禁じ得ないほどである。<br />
<br />
その決起の急進性と、「緒戦」での激甚なるインパクトに比して、事態が膠着したときの将校たちの、あの異様なまでの喪失感は尋常ではない。<br />
<br />
そこには、ごく 普通のレベルの戦略的知性の片鱗すら見られず、寧ろ、内側に封印できない焦燥感を安易に曝け出すという印象を拭えないのである。<br />
<br />
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陸軍大将、真崎甚三郎や荒木貞夫の「寝返り」や、「皇軍」の断固たる意思表示に対する将校たちの動揺は覆い難いものがあり、それは恰も、普段は過保護な親に珍しく殴られたときの我がまま児童の動揺にも似ていて、そこでは既に、行動の一貫性が切れているのだ。(画像は真崎甚三郎陸軍大将)<br />
<br />
その自我の様態は最早、「革命家」のカテゴリーにはなく、「捨て石にならん」と秘かに覚悟していたはずの殉教者的精神からも切れているように見えるのである。<br />
<br />
詰まる所、彼らは果敢なる闘争者を貫徹できないのである。<br />
<br />
なぜなら、そこにズブズブの甘えが浮遊しているからだ。<br />
<br />
「我々はここまでやった。あとは誰かが何とかしてくれ!」<br />
<br />
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その誰かとは、彼ら皇道派のカリスマであった真崎甚三郎や荒木貞夫である。(画像は荒木貞夫陸軍大将)<br />
<br />
しかし、この狡猾なる陸軍大将たちは動かない。<br />
<br />
とりわけ真崎の場合、事件を「反乱」 と認知し得ずに動こうとしてみたが、遂に動かないのだ。<br />
<br />
動けないのである。<br />
<br />
天皇の意志を知ったからだ。<br />
<br />
当然である。<br />
<br />
そういう機構を、彼らの先輩たちが気の遠くなるような時間をかけて、苦労しながらも創り上げてしまったのである。<br />
<br />
将軍連を怨むには当らない。<br />
<br />
練り上げた戦略を持たない決起のお粗末さこそ恥じるべきである。<br />
<br />
そこに彼らの甘えがある。<br />
<br />
然るに、彼らの甘えは構造的なものであるだろう。<br />
<br />
そこにのみ、一縷(いちる)の同情の余地はあると言える。<br />
<br />
将校の甘えを加速する因子が皇軍の中に蔓延していて、時局を憂うる先鋭な放談を繋いでいけば、一人前の「憂国の志士」を気取ることができるか ら、巷間の民間右翼を含めて、其処彼処(そこかしこ)に「志士」が徘徊していたのである。<br />
<br />
極端に主観的で煮沸した空気が、際限なく尖った意識を分娩していく勢いは、今や止めようがなかったのだ。<br />
<br />
甘えは甘えを生む。<br />
<br />
既に張作霖爆殺事件に際し、犯人が特定できていても、田中義一首相は処罰もしなかったし、三月事件、満州事変、十 月事件においても厳罰に処せず、五.・一五事件に先立つ血盟団事件(1932年に起きた連続テロ)だけが、民間人による犯行故に、井上日召、小沼正、菱沼五郎といった実行犯、教唆犯が処罰されるが、それでも8年後には、恩赦によって娑婆への帰還が許されるという顛末に言葉を失うほどだ。<br />
<br />
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五.・一五の主役の実行犯である三上卓、古賀清志海軍中尉に至っては、死刑の求刑に対して、判決は禁固15年。(画像は三上卓海軍中尉)<br />
<br />
全国からテロリストへの減刑嘆願が相次ぎ、あろうことか、彼らにプロポーズした女性が出現するという悪乗りぶり。<br />
<br />
まるでスターを扱うような空気が、遍(あまね)く国民階層の間で醸成されていたのである。<br />
<br />
更に1935年には、「天皇機関説」を封じ込める流れの中で出来した民間右翼や、在郷軍人会(現役を離れた軍人組織)などの圧力によって、時の政府(岡田内閣)が、「我が国体における統治権の主体が天皇にましますことは我が国体の本義にして帝国臣民の絶対不動の信念なり」という文脈で語られた、例の「国体明徴声明」(天皇機関説を否定する政府声明)を二度にわたって宣言するに至った政治的事件も惹起し、軍部の政治力強化を具現する運動を既成事実化していっ たのである。<br />
<br />
この澱み切った空気が、二・二六の将校を丸ごと包み込んだとしても不思議ではない。<br />
<br />
当時にあって、決起に対して慎重なスタンスをキープしていた同僚将校(新井勲)は、「日本を震撼させた四日間」(文春文庫)の中で、決起将校の甘えを指摘している。<br />
<br />
それによると、決起参加を決めていながら、蜂起寸前に二将校が結婚に踏み切ったのは、実は官憲の眼を誤魔化すための陽動作戦などでは決してなく、事件そのものを彼らが甘く見ていたことの表れだったと断じている。<br />
<br />
つまり青年将校の決起は、少なからず、テロリストである自分たちの身柄が無事の生還を果たすという、暗黙の了解を前提とした決起であったということだ。<br />
<br />
青年将校たちのこの状況認識の甘さは、決起者としての最も重要な勝負勘を哀しいまでに鈍らせて、確信犯としての自立の基盤をも根柢的に揺さぶった。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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彼らは、僅か四日間で人生の悲哀を舐め尽くすのである。<br />
<br />
求愛し、ようやく婚約に漕ぎ着けたと思ったら、絶望的な破談の通告。<br />
<br />
おまけに自分たちが信じていた親からも見放され、遂には石を持って追われる始末。<br />
<br />
これだけの経験をすれば大抵懲りるものだが、「反乱軍」というレッテルを張られた末に収監されてもなお、出所後の祝賀会のことを考えているのだから、彼らの甘さも度を越していると言わざるを得ないだろう。<br />
<br />
「それでも、彼らは純粋無私だった」―― こんな摩訶不思議な「総括」によって、何もかも自己完結してしまう精神風土が、この国に巣食っているようなのだ。<br />
<br />
彼らには、「やる」ことが全てであり、「やらない」者たちは有無を言わせず排除する。<br />
<br />
それだけだった。<br />
<br />
そして彼らの脳裏には、海軍青年 将校が先鞭を切って成功したと信じる直接行動主義の、必ずしも心から喜べないモデルが記憶されていたのだ。<br />
<br />
軍人が先鞭を切って政治の腐敗を糺すという直接行動主義の本質的な危うさへの認知の欠如 ―― それは、政治の困難さを大局的見地から合理的に把握する思考の欠如であった。<br />
<br />
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少なくとも、その辺の困難さを理解し得る能力を持つ安藤輝三のような存在は、直情径行的な他の青年将校から見れば、単に臆病で、優柔不断な将校という固定的なイメージのうちに把握される何かであったと言えるだろう。(画像は安藤輝三大尉)<br />
<br />
国際政治の困難な状況を広角的な視野を持って把握し得る、過不足なく透徹したリアリズム精神の決定的な欠如 ―― それは殆ど病理の様態を晒していた。<br />
<br />
いつもどこかで少しずつ、しかし確実に不足していくものが累積されていって、その不足を常に補填する何かが内側に要請されていくとき、そこに過剰だが、それ 故に若い自我が抱えた鬱積を払拭するに足る、極めて形而上学的な文脈が分娩されていったのである。<br />
<br />
「昭和維新」という心地良き言葉が放つラインに収斂され ていく、確証バイアス(注)の濃度の深い精神主義的な文脈である。<br />
<br />
そこで分娩された、「やる」ことだけが全てであるという観念的文脈のうちに、特徴的な感情傾向の形成を見ることができるだろう。<br />
<br />
「起(た)ったら還るな」という、片道切符の特攻精神がそれであり、それがまもなく、捕虜になることをも拒む玉砕思想に下降・収斂されていって、しばしば 「滅びの美学」というレトリックを纏(まと)うことにもなる。<br />
<br />
この上意下達的なエートスは、実際のところ、「武士道」という幻想的な理念系にも届かない、「葉 隠」精神の残滓(ざんし)を強引にリンクさせた文脈以外ではないだろう。<br />
<br />
大体、この国の人々は、闘争心というものを誤解しているようだ。<br />
<br />
それは発火して、激烈に燃える心などではない。<br />
<br />
私の定義だと、闘争心とは「最後まで戦い抜く心」なのである。<br />
<br />
すぐカッとなって暴れ狂う性格は、総じて、闘争心とは無縁である。<br />
<br />
冷静に燃える心なくして、闘争者の持続は容易ではないのだ。<br />
<br />
激しく奮い立つのは悪くない。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQSG6znhIp9tdNtcIppA8rIlXzcBOLQ4BTYovPXgBxt0_NtTQhILcTTT-3sfmTv1IhhIjClBX5EAp2cg5iyyvqEmXmtSJz8409RtJijd_WArXaMdwgr0wNAE6oGwv0fNoI-DlRYWRDlBM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgQSG6znhIp9tdNtcIppA8rIlXzcBOLQ4BTYovPXgBxt0_NtTQhILcTTT-3sfmTv1IhhIjClBX5EAp2cg5iyyvqEmXmtSJz8409RtJijd_WArXaMdwgr0wNAE6oGwv0fNoI-DlRYWRDlBM/s320/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="320" /></a></td></tr>
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<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">秩父事件・音楽寺</span></div>
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相手の一挙手一投足までもが捕捉されてしまう闘争のシーンでは、相手に見透かされてしまったら、その分だけ、闘争の対象人格に過分の余裕を与えてしまうからだ。<br />
<br />
では、激しく奮い立った者は、その心を如何に持続させていくか。<br />
<br />
それが厄介なテーマなのだ。<br />
<br />
激しく印象的に立ち上げていった者ほど、このテーマの貫徹が厄介なのだ。<br />
<br />
蓋(けだ)し、最強の闘争者とは、闘争を持続させる者であり、その持続を支えるエネルギーを内側で再生産できる者であり、それらを可能づける堅固な物語を絶対的に有する者である。<br />
<br />
その意味で言えば、この国の人々の闘争心は、その本質において際立った脆弱性を体現しているという印象が強いのである。<br />
<br />
<br />
(注)自分にとって都合のいい情報だけを集めることで、自己の観念系の主観的文脈を正当化するという、認知心理学の仮説。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「取得のオプチミズム」と「喪失のペシミズム」<br />
<br />
<br />
<br />
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二・二六事件は、やはりどこまでも短期爆発者の叛乱であった。(画像は二・二六事件)<br />
<br />
事件をクーデターとして固められなかった、そのドロドロの甘さが、結局、彼らの命取りになったのだ。<br />
<br />
栗原康秀という、28歳の中尉に代表される最急進派の振幅の大きさは、そのメンタリティの中に、「取得のオプチミズム」と「喪失のペシミズム」が、背中合わせに張りつくさまを検証するものになったのである。<br />
<br />
「取得のオプチミズム、喪失のペシミズム」―― それは、この国の人々の危機反応の様相を端的に把握する概念として、私が作った造語である。<br />
<br />
それは、こういうことだ。<br />
<br />
大陸に住む人々なら様々に苦労しなければ手に入らないような価値、例えば、「安全」とか、「自由」、「自然の恵み」、「生活保障」等々が、この国では低コ ストで取得できるので、その価値の本当の有り難さが認知できないのにも拘らず、価値が生活の内に溶融してくると、それを取得することの本来的困難さに到達できぬまま、価値内化の行程が自然に完了してしまうことになる。<br />
<br />
そこに、現実的理性によるシビアな把握が媒介しないから、視線は何となく微睡(まど ろ)んでしまうのだ。<br />
<br />
これが、「取得のオプチミズム」である。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5kLFeeC783lrdhsWepuxzBMl6_M5x1liCwJxAJQKGo7AhN8VcWPmCE0g9C-HNj94I08aluwUXFzU6kItl07RZpCoZ-9qRjaS8SIZoxHfQjgVUGA2ZwLOP4q3JU2IY_Po7jTpaitNxbhM/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5kLFeeC783lrdhsWepuxzBMl6_M5x1liCwJxAJQKGo7AhN8VcWPmCE0g9C-HNj94I08aluwUXFzU6kItl07RZpCoZ-9qRjaS8SIZoxHfQjgVUGA2ZwLOP4q3JU2IY_Po7jTpaitNxbhM/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="278" /></a></td></tr>
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<br />
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<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">相沢事件・永田鉄山</span></div>
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</tbody></table>
だから価値に裂け目が生じてきても、人々の安心感に動揺を与えるまでには相当の時間を要するのだ。<br />
<br />
人々が素朴に拠っていた、安定的な日常性の維持が立ち行かなくなったとき、人々の意識に波動が生じるようになる。<br />
<br />
安心感の動揺が生まれても、そこに合理的補正を加える訓練の不足が、危機の突発事態を阻む能力の脆弱さを、容赦なく晒すことになるのである。<br />
<br />
これが、危機の現出を常に突発的なイメージでしか捉えられなくなってしまうのだ。<br />
<br />
その分だけ、人々は喪失感覚が極大化されてしまって、事態への反応を過剰にさせていく。<br />
<br />
ハルマゲドン感覚を目前の危機からもらってしまうのである。<br />
<br />
これが、「喪失のペシミズム」である。<br />
<br />
結局、価値をその本来的な内実までも汲み取って、入念に育て上げてこなかった付けが、最も肝心な状況で現出してしまうのである。<br />
<br />
そして、人々の反応の過剰さと為政者の過剰さが結合して、これが、ウルトラ・ラジカリズムを生むという最悪の事態の招来のリスクを高めてしまうのだ。<br />
<br />
なぜなら、「喪失のペシミズム」の止揚は、それを破壊させたと思わせるような極端な展開を開く以外にないかも知れないからだ。<br />
<br />
事態が突き付けてきた本当の怖さは、ボディーブロー のように、ここからじっくり効いてくる。<br />
<br />
そして、予約されたかの如き、決定的な破滅に至るのである。<br />
<br />
二・二六事件は、「世界は軍を中心に回っている」という倣岸な発想を根柢にし、この発想を支える広範な時代の空気のサポートを受けたと信じる無邪気な革命幻想が、狡猾な軍部官僚の防衛的リアリズムによって蹴散らされ、 更に、その発想を決定的に固め上げていった、その歴史の決定的な転回点だった。<br />
<br />
その発想が生み出した厄介なる「取得のオプチミズム」、例えば、「軍が動けば一切が収まる」という独善的な天下主義の破綻を、まず無邪気な若者たちに学習させたのも、二・二六事件だったということだ。<br />
<br />
心理学的に、もう一点だけ補足する。<br />
<br />
詰まる所、相手を見くびる心は、自己を冷厳に相対化する能力の欠如に由来するということだ。<br />
<br />
現実の悲惨な展開の中で、闘争心の持続が弱く、勝気(強気ではなく、そこに濃密に見栄が媒介し、知人の前で単に恥を晒したくない感情)なだけの民族は負け方にも格好をつけようとするので、一時的に相手から恐れられ、 それが却って不幸を増強させるのである。<br />
<br />
勝気の強がりは、実は自壊感覚の否定の自己確認である。<br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
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強がりの奥に広がる「喪失のペシミズム」が、遂に玉砕戦という禁じ手の封印を解く。(画像は、硫黄島での摺鉢山の戦い)<br />
<br />
「砕けて散る」ことは、早く楽になる戦術であるばかりか、格好も付けられる。<br />
<br />
これは、相手を畏怖させる絶大の効果を持つばかりか、味方を奮起させるだろう。<br />
<br />
恐らく、この味方に対する見栄こそが、玉砕戦の心理のコアにあるということだ。<br />
<br />
<br />
<br />
5 「短期爆発」的な闘争への「清算的跳躍」と切れた、「ごく普通のサイズの闘争心による武装」の不可避性<br />
<br />
<br />
<br />
島国であるということ、それ故に、他国の侵略的恐怖の実感を恒常的に持ち得なかったこと。<br />
<br />
そして、どちらかと言えば、欧米人と比較すれば脂肪摂取量が少ないことによって、相対的に闘争心の不足を常態化したこと。<br />
<br />
また、鎖国体制下の江戸時代に構築し得た平和的で、循環型社会に近い自立的な生産圏が形成されたことで秩序が安定化したこと。<br />
<br />
そこで確立された階層内秩序の中で、能力主義の発現が一定程度認知され、それぞれの階層内での教育が浸透していたことで、努力の価値が相応に反映する文化を作り得ていたように思われること。<br />
<br />
そんな平和的秩序の継続性の中で、恐らく、本来的なオプチミズムをより強化できたこと。<br />
<br />
それは、「葉隠」に紹介されたエピソードにあるように、男たちの脈が女たちのそれと同じになったと嘆かれるほどに、「化粧する男たちの文化」(今で言えば、「メトロセクシャル」=都会の男の化粧)が普通に現出していた現象の基盤になったとも思われる。 <br />
<br />
このような現象は、男たちのテストステロンの劣化を裏付けるものかも知れないとも考えられるが、当然、定かではない。<br />
<br />
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それでも、この国が蒙った自然災害は圧倒的であり、和辻哲郎の「風土」にも言及されているように、「暴風や洪水として人間を脅かすというモンスーン的風土の、従って人間の受容的・忍従 的な存在の仕方の二重性格の上に、ここにさらに熱帯的・寒帯的・季節的・突発的というごとき特殊な二重性格が加わってくる」という指摘が説得力を持ち得るような、「忍従の内に封印された反抗のメンタリティ」が形成されたと見ることも可能であるだろう。(画像は和辻哲郎)<br />
<br />
一過的な台風災害や地震などによる家屋の倒壊、焼失の危険性への対応として、「忍従の内に封印された反抗のメンタリティ」が、時として激発的に現出するが、台風一過のように冷めるのも呆気ないほど早い心的現象は、恨みは永久に忘れないという類のメンタリティと完全に切れていると言えるのだろうか。<br />
<br />
この国の「短期爆発」的なメンタリティの心理的背景について、以上のような様々な考察が可能であっても、残念ながら、殆どの説明は「ためにする議論」とは言わないまでも、付け焼刃的な擦り合わせの印象が残ってしまうのである。<br />
<br />
然るに、近年のこの国の人々の「内こもり」、「外こもり」、「パラダイス鎖国」、「競争圧からの逃避」、「闘争心の欠如」、「ピアプレッシャーの過剰」等々の現象を俯瞰すると、どうもこの国の人々は、一貫して一定の秩序が確保されているという条件下にあっても、高度成長期のような突出した時代の澎湃(ほうはい)が終焉した後、相応の安定的な生活基盤が確保されながらも、成長の鈍化による長期停滞傾向が現出し、その中で不平等感や、周囲からの視線の尖 りを感受させるような時代の空気に呑み込まれてしまうと、その空気に対して必要以上に「閉塞感」を嗅ぎ取ってしまうらしい。<br />
<br />
その心理的背景を考えるとき、過剰なまでの平等信仰と、「鋭角的闘争回避の精神」が相互にリンクしながら、人々の心の内に張り付いているという把握が可能になるのではないか。<br />
<br />
永く延長されていた「平等な貧しさ」を、高度成長によって一歩抜け切った後に訪れたであろう、「不平等な豊かさ」の継続力が薄皮の被膜を剥ぐように崩され かけていくという実感が、いよいよ抜き難いリアリティを持ってしまったとき、この国の人々の心に「閉塞感」という名の、殆ど合理的な説明困難な心的現象が一気に広がっていってしまったのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg-UtiYXVIIgrzNO3FQ4J1Gn8pGcLc2Uq6F8JBG3l3SIYhR5Nlp1xixCelKhGuZQ3TCAN0d84oDv6jUwTaTb9qpsuS84hk9dgHVUgD0sRIrdesdsvPXaFnpW568fycYELJTYc8AnjcnRibp/s1600/1243310928_photo.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5665094199514652386" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg-UtiYXVIIgrzNO3FQ4J1Gn8pGcLc2Uq6F8JBG3l3SIYhR5Nlp1xixCelKhGuZQ3TCAN0d84oDv6jUwTaTb9qpsuS84hk9dgHVUgD0sRIrdesdsvPXaFnpW568fycYELJTYc8AnjcnRibp/s400/1243310928_photo.jpg" style="float: right; height: 230px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 303px;" /></a><br />
その結果、少なからぬ人々は、「『閉塞感』の漂う『格差社会』の理不尽性」からの逸脱を願って、「日本を降りる若者たち」(下川裕治著・講談社刊)に象徴される世界にその身を預けたのだろうか。(画像は下川裕治)<br />
<br />
それがクレバーな選択であるか否かという評価を下すことなく、その方略の本質を見るならば、それは紛う方なく、自我防衛の一つの様態であると把握すること が可能である。<br />
<br />
この国の現在は、一群の人々に状況逃避的な自我防衛を必要とさせるほど、「『閉塞感』の漂う『格差社会』の理不尽性」を顕在化させてしまっ ているようなのだ。<br />
<br />
様々な意味で、今、この国の人々の状況逃避の有りようが問われているように思われてならないのである。<br />
<br />
「競争圧からの逃避」と「闘争心の欠如」が常態化したかのようなメンタリティを持つ人々の、その向こうに見える未来のイメージは、あまりに冥闇(めいあん)に満ちている。<br />
<br />
果たして、それで良かったのか。<br />
<br />
まさに今こそ、ごく普通のサイズの闘争心による武装が求められて、その普通の武装の体裁を、ごく普通のリアリズムの感覚で時間に繋ぐこと。<br />
<br />
それだけのことだが、そのリアリズムの感覚による武装でさえも困難ではないか思えてしまうペシミズム ―― それが私の内側で、無化し得ない感情ラインとなって常に漂流 しているのである。<br />
<br />
そんな私の宿痾(しゅくあ)の如き厄介なペシミズムの浮遊の切れ目を縫って、小さく住み分けるかのようなリアリズムが感受する思いが、なお言語に繋ぐ文脈は一つだけだ。 <br />
<br />
「ごく普通のサイズの闘争心による武装」 ―― それだけである。<br />
<br />
それは、この国に特徴的な「短期爆発」的な闘争への「清算的跳躍」ではなく、この国の人々が苦手とする透徹したリアリズムに則った戦略による、そこだけは凛とした身体表現の前線の構築であるだろう。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiC4jp2TEZkVQwDbdEvafUseR-leFz-bbqDt2yuXybDjT5eFrL9V6RilnajBk7WZwFYMCpVIQm0XJwH7QeT7alBowt2OhkOx7m9MsFItxi1XsDD88GHqo6iz8RDCdwDFJOPFexngancdXk/s1600/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="215" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiC4jp2TEZkVQwDbdEvafUseR-leFz-bbqDt2yuXybDjT5eFrL9V6RilnajBk7WZwFYMCpVIQm0XJwH7QeT7alBowt2OhkOx7m9MsFItxi1XsDD88GHqo6iz8RDCdwDFJOPFexngancdXk/s400/%E7%84%A1%E9%A1%8C.png" width="400" /></a></td></tr>
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<br />
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<span style="font-family: "MS 明朝","serif"; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">映画・「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2008/11/54_17.html">叛乱</a>」より</span></div>
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</tbody></table>
「立ったら、逃げるな」<br />
<br />
それは、この国のスポーツ、文化、政治、外交、経済、そして個々の自我の固有な展開の様態等々、詰まる所、人々が呼吸を繋ぐあらゆるフィールドにおいて必要とされるメンタリティではないか。<br />
<br />
厳しい時代だからこそ、まさにそのような前線を構築するメンタリティこそが求められているということだ。<br />
<br />
厳しい時代であるが故に、自我を安寧な砦に閉じ込 めておくという方略の有効性が簡単に無化されてしまうのである。<br />
<br />
そのことの認知こそ、何より決定的なテーマではないのか。<br />
<br />
切にそう思うのだ。<br />
<br />
(2011年10月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-50517721311094436842011-10-04T12:06:00.020+09:002013-05-03T05:30:16.941+09:00泥の河('81) 小栗康平<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhSRsVWLIMtYg7ZbidB2-NBvKt_35JszAsUyn62Hoeyq3861PwBv2zYDA6qVw5kJYPlweFSQUwiR8mV9Xcq0ijH3SPEM4YhMORazPQvSKSHvsWwLJTwqClv4Mh8ZfAImZEMsKYvxOv1X2wN/s1600/%E6%B3%A5%E3%81%AE%E6%B2%B3~1.JPG" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="460" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhSRsVWLIMtYg7ZbidB2-NBvKt_35JszAsUyn62Hoeyq3861PwBv2zYDA6qVw5kJYPlweFSQUwiR8mV9Xcq0ijH3SPEM4YhMORazPQvSKSHvsWwLJTwqClv4Mh8ZfAImZEMsKYvxOv1X2wN/s640/%E6%B3%A5%E3%81%AE%E6%B2%B3~1.JPG" width="640" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><差別された者たちの、拠って立つ共有幻想の時間の悲哀を訴える映像構築力></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「橋の下」に住む二つの家族の交叉の中で<br />
<br />
<br />
<br />
「もはや戦後ではない」<br />
<br />
これは、1956年の経済企画庁編纂の「経済白書」の表題である、「日本経済の成長と近代化」の中で使われた有名な記述。<br />
<br />
流行語にもなったこの言葉の背景には、高度経済成長の嚆矢(こうし)となった神武景気が発現し、「三種の神器」に象徴される時代の幕が開かれていった。<br />
<br />
そんな活気ある時代状況下にあって、高度経済成長の澎湃(ほうはい)たる波動に乗れないでいる、二つの家族がある。<br />
<br />
それが、本作で描かれた家族である。<br />
<br />
一方は、バラック立てのような「橋の下」でうどん屋を営む、父母と息子の三人家族。<br />
<br />
もう一方は、その家族の対岸に停泊している宿舟に住む、母と姉弟の三人家族である。<br />
<br />
共に、「橋の上」の世俗世界で、時代相応の日常を繋ぐ一般庶民の生活レベルと比較すれば、相対的に貧困の濃度が高い家族と言っていい。<br />
<br />
「橋の下」という概念には、高度成長に乗り切れない貧困家庭の生活風景の象徴性という意味が内包されている。<br />
<br />
「橋の下」のうどん屋の亭主は、一貫して、「戦後」を引き摺って生きてきているからだ。<br />
<br />
これは、冒頭のシーンにおける、荷馬車引きの事故死のエピソードに象徴されていた。<br />
<br />
「あんな惨たらしいい死に方するんやったら、戦争で死んどった方が、生きてるもんかて、諦めがつくちゅうもんや。今になって、戦争で死んどったほうが楽だと思うとる人、ぎょうさんおるやろな・・・・長いことば、人の死に目にばっかりおうて来た。そこへひょっこり、信雄が生まれてきよった。それも40過ぎて、初めてワイの子がでけた・・・」<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659502712510518498" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg-DTHQXepL7GNFOlg2ZmlT12DIfS7sHas38Dvm7YOoRR2JAbsZTLraOpNTTXLHc5KbJedsU8TpIdvDiUbY-Tgki2BOIC2Arscn-gXj_7Xy19ahlZYGI6TMHLpU0FTJzR3XM5I7kX0FpfI/s400/pht_title.jpg" style="float: right; height: 200px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 317px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">信雄の両親</td></tr>
</tbody></table>
戦争で右耳を破損した、荷馬車引きの「オッチャン」の事故死の夜、うどん屋の亭主は、駆け落ちして逃げた若い女房に、そう吐露した。<br />
<br />
その父のきつい言葉を、隣の部屋で、一人っ子の信雄は狸寝入りしながら聞いている。<br />
<br />
そんな家庭にあっても、さすがに若いのか、それとも、この国の多くの女たちの強さの故なのか、亭主の妻には「戦後」の翳(かげ)りが全くなく、前向きに生きる努力家の印象を与えていた。<br />
<br />
だから、この夫婦の程良い均衡感が、息子の信雄の、ナイーブで心優しい性格に引き継がれているようだった。<br />
<br />
そんな信雄が、偶然、出会った一人の少年がいる。<br />
<br />
土砂降りの雨の日、放置された荷馬車引きの荷物を盗もうとしていた喜一少年である。<br />
<br />
この喜一こそ、対岸の宿舟で生活する家族の息子であり、礼儀正しい振舞いを見せる姉と、「丘では生活できない」と吐露する母と共に、学校に通うこともなく水上生活を繋いでいた。<br />
<br />
喜一にとって、学校に通うことは、宿舟生活を否定して、丘の住人のコミュニティに加わることであった。<br />
<br />
それは、宿舟生活者が特定的に差別され、排除されていく屈辱を累加させていくこと以外ではなかったのだ。<br />
<br />
元より、喜一の母が丘で生活できなくなったのは、船頭であった夫が逝去したことに因る。<br />
<br />
この時代、女手一つで家族を養う苦労は計り知れないものがあり、姉弟もまた、そんな母の苦労と心理的・生活的に共有する関係を作っていた。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhLr5rWJTeCrcPTpnLheekkcUeYMRDneTaTfUxpku9oxVFgw5JEelYjqcXg4wwBzQxBJDsLgL903MevK3mPxc69fHOMlI8Jx1gTPhCDCs-AUWTB7MHTGeP72SeJW9beI2_EZDbLCVcRq9q4/s1600/img_785863_35155931_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="206" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhLr5rWJTeCrcPTpnLheekkcUeYMRDneTaTfUxpku9oxVFgw5JEelYjqcXg4wwBzQxBJDsLgL903MevK3mPxc69fHOMlI8Jx1gTPhCDCs-AUWTB7MHTGeP72SeJW9beI2_EZDbLCVcRq9q4/s320/img_785863_35155931_0.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">信雄と喜一の母</td></tr>
</tbody></table>
「いつも波に揺られてんと、生きているような気がせんようになってしもうたんよ」<br />
<br />
これは、初めて会った喜一の母から、信雄が吐露されたときの言葉。<br />
<br />
喜一の母は、夫が死んだショックから、丘に上がって、身過ぎ世過ぎを繋ごうとしても無理だったと言うのだ。<br />
<br />
喜一の母の生き方は、この国での〈生〉の絶対規範である「定着」の否定であり、「移動」への逃避であったが、同時にそれは、なお不安定な、「戦後」を引き摺って生きてきていることの開き直りでもあった。<br />
<br />
それが、「揺られてんと、生きているような気がせん」という言葉のうちに表現されていたのである。<br />
<br />
丘で生活できなかった母は、今や「廓舟」と蔑称され、夜毎、ヤクザ紛いの男を相手に、体を売る娼婦によって身を立てている。<br />
<br />
しばしば、姉の銀子と共に喜一もまた、母の客引きをしているという噂も立っていて、この「廓舟」の家族が地域に溶け込めずに差別されている現実が、要所要所で描かれていく。<br />
<br />
当然ながら、喜一の家族の根っこにあるものを認知し得ない信雄は、喜一と付き合うことによって、それまでの友だちを失う羽目になるが、そんな経験を介して、少年の心情には、喜一の家族が放つ「異臭」の如き「いかがわしさ」が想像できていた。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhZwCx3XKvKSz-tr79kQI7GIQ4D9p_r2iu20qDdMlR9lDFI0cqmownNMRnRPdtapMRKljzIS795LmgLWp64kRUVa9OFAEh0-v8IjsgEjKyzhQVH3HK7CIGyncTHUa6FFE198kI7gJMvGh4I/s1600/doronokawa2sss.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="246" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhZwCx3XKvKSz-tr79kQI7GIQ4D9p_r2iu20qDdMlR9lDFI0cqmownNMRnRPdtapMRKljzIS795LmgLWp64kRUVa9OFAEh0-v8IjsgEjKyzhQVH3HK7CIGyncTHUa6FFE198kI7gJMvGh4I/s400/doronokawa2sss.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">左から銀子、信雄と喜一</td></tr>
</tbody></table>
引っ込み思案で繊細な信雄にとって、親しい友だちとと交わり、その関わり合いを大切にするという児童期の発達課題は、自分にはないものを持つ喜一との出会いの中で具現されていったのである。<br />
<br />
「遊びに来たんか?遊びに来たんやろ」<br />
<br />
信雄を誘う喜一の言葉である。<br />
<br />
公園の水を汲みに行く生活を普通に繋ぐ喜一にとっても、差別的振舞いをしない信雄の存在は、初めて経験する心地良き何かだったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
2 丘との禁断の越境を果たした「友情」の形成と、その破綻<br />
<br />
<br />
<br />
「夜は、あの船、行ったらあかんで」<br />
<br />
これは、信雄の父の言葉。<br />
<br />
いつの時代でも、我が子に見せてはならない世界があり、なお継続的に、その世界を隠し込むことで守られる秩序の維持によって、相対的な安寧を手に入れる何かが存在するのだ。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjs0WoHSSHsToS__kGd6s62U22AlMGg8xH6Hbmv7li91WqSLx8UoLuf28Orlv4nWaowNdXyB0he8SkhzGuIC7a002lWiW8GjCRGbv3XsHF82jmxSj7fH17QWGvPNG9TFwHfAucwLMGbSKqy/s1600/2011-09-19.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="209" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjs0WoHSSHsToS__kGd6s62U22AlMGg8xH6Hbmv7li91WqSLx8UoLuf28Orlv4nWaowNdXyB0he8SkhzGuIC7a002lWiW8GjCRGbv3XsHF82jmxSj7fH17QWGvPNG9TFwHfAucwLMGbSKqy/s320/2011-09-19.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">信雄の両親と銀子、信雄と喜一</td></tr>
</tbody></table>
<br />
それでも、心優しい父は、姉弟をうどん屋に招いて歓待するのである。<br />
<br />
死んだ父が酔ったときに歌っていたという喜一が、「戦友」をフルコーラスで歌い、それを悦に入って聞き入る信雄の父。<br />
<br />
「生きとっても、スカみたいにしか生きられないのかな、ワイら」<br />
<br />
姉弟が帰った後に、女房に吐露したこの言葉を含めて、彼の自我には、「戦後」を引き摺って生きる心的風景が張り付いているのだ。<br />
<br />
そんな男が、もっと苛酷ながらも、似たような風景を繋ぐ宿舟生活者への差別意識なしに、姉弟を歓待する優しさを体現していく。<br />
<br />
そんな男だからこそ、「廓舟」と蔑称するうどんやの客が、姉の銀子に代って、弟が「客引き」することを洩らしたとき、烈火の如く怒って、件の客を店から追い出したのである。<br />
<br />
うどんやの客に暴露され、言葉を失う弟の喜一。<br />
<br />
暗い表情の姉の銀子。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgAfRyJKGYUMPhX3DmY8Pu1OUwtjVwaLep1yMxLZTdeDOzGwDi4wt-lq1h6-g7JR3f9Fg5ssBkBKj6I_PScjxngs5voheAxL-1Gsv9ff_Ee0-sBkUuk82KtfEsygYnfmvw6BCawuiYY_a4h/s1600/doro_hp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="303" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgAfRyJKGYUMPhX3DmY8Pu1OUwtjVwaLep1yMxLZTdeDOzGwDi4wt-lq1h6-g7JR3f9Fg5ssBkBKj6I_PScjxngs5voheAxL-1Gsv9ff_Ee0-sBkUuk82KtfEsygYnfmvw6BCawuiYY_a4h/s400/doro_hp.jpg" width="400" /></a></div>
重い空気を変えるように、姉弟の前で手品を見せて、明るく振舞う信雄の父。<br />
<br />
「楽しかったわ。ご馳走様でした。喜っちゃん、帰ろう」<br />
<br />
そこだけは意図して、最後まで礼儀正しさを崩さない銀子。<br />
<br />
「信ちゃんのお母さん、石鹸の匂いがするなぁ」<br />
<br />
これも、帰路、信雄に放った銀子の言葉。<br />
<br />
<br />
信雄の母からもらった服を着て満足しながらも、自分の母への遠慮からか、それを返した女の子が、最近接した信雄の母の匂いを表現する小さなエピソードだった。<br />
<br />
しかし、信雄と喜一の運命的な友情は、ある出来事を契機に劇的に破綻していく。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjttEJpSgaoTegxp3IGW1S_12VPqJIc885_2mxuaIGnY6bdUmKAJfUmJVfACNUKi2QQZPbOo2rqjEzf-cQfE6-FIKJlCCahuT_Fh6av0hfpgixKIw6P4iHcoS1F3ODl8S1ShXSLL1dRcL19/s1600/800px-Tenjinmatsuri.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjttEJpSgaoTegxp3IGW1S_12VPqJIc885_2mxuaIGnY6bdUmKAJfUmJVfACNUKi2QQZPbOo2rqjEzf-cQfE6-FIKJlCCahuT_Fh6av0hfpgixKIw6P4iHcoS1F3ODl8S1ShXSLL1dRcL19/s400/800px-Tenjinmatsuri.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><div class="MsoNormal">
<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">天神祭り・どんどこ船(イメージ画像・ウィキ)</span></div>
</td></tr>
</tbody></table>
大阪天満宮の天神祭りの日だった。<br />
<br />
今度は喜一が、信雄の母からもらった金を落としたことで、少年なりの申し訳なさから、信雄を楽しませてやろうと宿舟に誘ったのである。<br />
<br />
このときの信雄の心情は複雑だ。<br />
<br />
なぜなら、その場所は、夜間に訪ねてはならない「禁断のスポット」だったからだ。<br />
<br />
それ故に、ナイーブな少年の常と言うべきか、そこに「いかがわしさ」のイメージを感受した少年の未形成の自我は、自然に抑制的に働いていたのである。<br />
<br />
信雄が、喜一の誘いに快く乗れなかったのはそのためだった。<br />
<br />
宿舟の片側には喜一の母が、終の栖(すみか)にしているような特化されたスポットだったが故に、そこに触れたくなかったからである。<br />
<br />
誘われても断れない信雄は、喜一の後ろについて、夜の宿舟の狭いスポットの中に吸い込まれていく。<br />
<br />
夜の宿舟で、喜一が為した行為 ―― それは、自分で飼っている蟹をランプのアルコールに漬けて、火を点けるという遊びだった。<br />
<br />
信雄の目前で残酷な遊びをする喜一は、少なくとも、優しい少年の許容範囲を越えるものだった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659502170611371554" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjCLOTZfkjw6ofgfkWmL5bzbHmkC9S0PuMqVHI97t0CIhnZKbCk99qTBUnctF01EXxwdce7PNY_athDCmPB4i5ZtHrcNl8niKZH8ZzuwzlYiF-R1p_cnH91dATqoeaIcCotiEq39qflvPo/s400/4f8ce4211d2bf096a71d6bde341dfeea.png" style="float: right; height: 166px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 210px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">信雄と喜一</td></tr>
</tbody></table>
信雄を悦ばせようとする喜一の遊びに、眼に涙を溜めた信雄は衝動的に反発する。<br />
<br />
「可哀想や。やめとき」<br />
<br />
そう言うなり、自ら炎を消していく信雄。<br />
<br />
光る涙。<br />
<br />
炎を消していきながら、舟の縁を伝わって、喜一の母のいるスポットまでゆっくり進んで行く。<br />
<br />
「禁断のスポット」の内側で、入れ墨男と情交中の喜一の母親と、視線が合ってしまったのは、まさにそのときだった。<br />
<br />
未だ、信雄の眼には涙が光っている。<br />
<br />
気まずさを感受しつつも、動けない。<br />
<br />
衝撃のあまり、体が凍りついてしまったようだった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhDTs9KAk5Oo8niGwAvBtzOCNs59rWdhPx8NkBCF9_HdTMBOVfhzZaKKhqdcZKm4icBwaSQz_JxYrIegIH0ZWkodEyaZC87v4TrWpT-LZoOn1nJMyoHejqwwz-mUiTB3UyKfOwuEQLmj7p7/s1600/TS3O1463-e1335632389233-300x225.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhDTs9KAk5Oo8niGwAvBtzOCNs59rWdhPx8NkBCF9_HdTMBOVfhzZaKKhqdcZKm4icBwaSQz_JxYrIegIH0ZWkodEyaZC87v4TrWpT-LZoOn1nJMyoHejqwwz-mUiTB3UyKfOwuEQLmj7p7/s320/TS3O1463-e1335632389233-300x225.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">喜一の母親</td></tr>
</tbody></table>
眼の前で展開されている情景こそ、ナイーブな少年の自我に張り付いている「いかがわしさ」のイメージの正体であることを知ったからだ。<br />
<br />
喜一のいる位置にまで這い戻った少年は、もう言葉に出す何ものもなかった。<br />
<br />
二人の少年は、一瞬、見詰め合う。<br />
<br />
信雄の眼から光る涙は、なお消えることがない。<br />
<br />
このときの喜一の表情は、余りにも切なかった。<br />
<br />
言葉に出す何ものもない信雄は、そのまま去っていくのだ。<br />
<br />
たった一人の友人を見詰めるだけの、喜一の表情の哀切さ。<br />
<br />
それは、映像で記録された子供たちの表情の中で、最も哀切を極めた印象的な表情であると言っていい。<br />
<br />
絶対に見られてはならないものを見られてしまったときの、どうしようもない遣り切れなさであり、哀しさであり、耐えられなさであったに違いない。<br />
<br />
それは同時に、失ってはならないものを失っていく不安と恐怖の感情が張り付く何かであった。<br />
<br />
宿舟に戻って来た姉の銀子が、そこに立っていた。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgP46dO6zyYaLhutG5r1ygryMVDBsD01cBEXD8Q4xD0SAOJpFlx_0tfV0Djs4C7CpbeVB1b-5ACwJhDLVnA_fX5XDj8600mchfnVFtcy-380Ap1E0pSh-4MBcW11Cg9MgmeYfaKfd9WUJNu/s1600/ane-sister.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="316" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgP46dO6zyYaLhutG5r1ygryMVDBsD01cBEXD8Q4xD0SAOJpFlx_0tfV0Djs4C7CpbeVB1b-5ACwJhDLVnA_fX5XDj8600mchfnVFtcy-380Ap1E0pSh-4MBcW11Cg9MgmeYfaKfd9WUJNu/s400/ane-sister.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">信雄を見詰める銀子</td></tr>
</tbody></table>
信雄を見詰める少女。<br />
<br />
ここにも言葉がない。<br />
<br />
言葉に結ばせる感情が貯留していても、その感情を言葉に変えていく技術がないのだ。<br />
<br />
言葉に変えていく技術を学ぶに足る経験が、未だ圧倒的に不足しているのだ。<br />
<br />
銀子を見詰める信雄は、光る涙を捨てていくしかなかったのである。<br />
<br />
銀子の傍らを通り過ぎ、走り去っていく信雄。<br />
<br />
いつまでも、それを見詰める銀子。<br />
<br />
全てが終焉した瞬間だった。<br />
<br />
それは、丘との禁断の越境を果たした「友情」の決定的破綻を示すものだった。<br />
<br />
<br />
<br />
3 差別された者たちの、拠って立つ共有幻想の時間の悲哀を訴える映像構築力<br />
<br />
<br />
<br />
ここで、信雄の涙の意味について考えてみよう。<br />
<br />
信雄は喜一から去り、姉の銀子を遣り過ごし、うどん屋に帰宅しても涙が止まないのだ。<br />
<br />
家族の心配をよそに、身の置き所のない少年は二階に上がって、対岸に停泊する宿舟を、眼を凝らして見詰め続ける。<br />
<br />
それほど遠くない過去に、姉弟をうどん屋に招いたとき、喜一が死んだ父から教わったという、「戦友」の歌が思い起こされて、信雄の頬を幾筋もの液状のラインが濡らしていく。<br />
<br />
今、自分の眼で見てきたものから受ける衝撃が、只事ではない現実の重量感に押し潰されそうなのだ。<br />
<br />
それは、最も大切な何かを失ったという現実の重量感であると言ってもいい。<br />
<br />
思うに、少年の内側には、「禁断のスポット」に我が身を踏み入れたとき、どこかで予感していた不安感情が高鳴っていた。<br />
<br />
その不安が現実のものと化したのだ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgtJvdqabgLkHMblOnKxib2k7UKXygEW42sspYcGlZyXM6g1DVjyCFkZ4FZQU5Zl5Hgje9OUhGemem_OTrNBwROsQODjiV6T9Y-UOaOC09_yb1JfJ60jQR20ieyrCZcdpJZrZXfNxyGjuGk/s1600/kani-wo-moyasu.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="296" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgtJvdqabgLkHMblOnKxib2k7UKXygEW42sspYcGlZyXM6g1DVjyCFkZ4FZQU5Zl5Hgje9OUhGemem_OTrNBwROsQODjiV6T9Y-UOaOC09_yb1JfJ60jQR20ieyrCZcdpJZrZXfNxyGjuGk/s400/kani-wo-moyasu.jpg" width="400" /></a></div>
少年の繊細な自我に衝撃が走った。<br />
<br />
元より、信雄の涙の起動点は、喜一の残酷極まる遊びだった。<br />
<br />
虐待するためにのみ飼っていた蟹を甚振(いたぶ)ることが、信雄を喜ばせると信じた喜一の発想それ自身に、何より信雄はショックを受けたであろう。<br />
<br />
喜一の遊びに共感できない思いが、信雄の幼い自我を捕捉し、一気に支配したとき、心優しい両親に育てられたシャイな少年には、このとき、とうていコントロールし得ない、濡れた瞳を露わにする身体表現によってしか反応できなかったのだ。<br />
<br />
ナイーブであるが故に、自分の最も親しい友だちが、どこかで密かに恐れていた負のイメージをなぞるように、突然、親愛感情のうちに包括した自分のパーソナルエリアから離脱して、自分が支配し切れない世界にまで行ってしまう寂しさ・哀しさ。<br />
<br />
そして、丘に住む者たちが、宿舟の家族を軽侮する理由がどこにあるかという、忌まわしい現実を知ったことそれ自身が放つ衝撃の大きさ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgf-t0E9C2w52Cz-hOLDGPTt6izUhxrQQzfMbUsc0LNjzuyQcQxl9AbS1LqPLSLKQ6pe9vl-25ZKURC1a-pBmFHBUK-ZFPzcdRAraH17CAf-jr1rAHjmqK5PSoGhCJAQJhsKs4yeiqEszG9/s1600/10109969007.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="448" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgf-t0E9C2w52Cz-hOLDGPTt6izUhxrQQzfMbUsc0LNjzuyQcQxl9AbS1LqPLSLKQ6pe9vl-25ZKURC1a-pBmFHBUK-ZFPzcdRAraH17CAf-jr1rAHjmqK5PSoGhCJAQJhsKs4yeiqEszG9/s640/10109969007.jpg" width="640" /></a></div>
同様に、その現実をひた隠しにして生きてきた、掛け替えのない友だちへの憐憫の情にも似た、子供ながらの遣る瀬ない感情。<br />
<br />
その寂しさ・哀しさ・遣る瀬ない感情を作り出した大人の支配する関係文脈を、少年なりに理解できたとき、少年の内側に、子供の力ではどうすることもできない喪失感を生み出したのだろう。<br />
<br />
この一連の心理の絡みの中で、少年の涙が分娩されたのである。<br />
<br />
何より、この夜に被弾した苛酷なまでに激しい衝撃が、二人の少年の友情を破綻させていくのだ。<br />
<br />
翌日、別れも告げずに、宿舟は去っていった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgjMtPNxfiSpeWx-s-jtDf9FopjG0g02l_sAq9QybwNuwcZYarlcnoQ8CVA8jTkGa3Su_XVqDawHfCRU_d2AI16baI9epejTqf8cojGmmTvf6fqpZTOiDoAxxfPfA1kTulJwCVuhrL7V7Q/s1600/200910121213433e3.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659502326068023762" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgjMtPNxfiSpeWx-s-jtDf9FopjG0g02l_sAq9QybwNuwcZYarlcnoQ8CVA8jTkGa3Su_XVqDawHfCRU_d2AI16baI9epejTqf8cojGmmTvf6fqpZTOiDoAxxfPfA1kTulJwCVuhrL7V7Q/s400/200910121213433e3.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 155px; margin: 0 0 10px 10px; width: 203px;" /></a><br />
全てを察知した父の目配りが契機になって、その宿舟を追っていく信雄。<br />
<br />
どこまでも追っていく。<br />
<br />
走って、走って、走り抜いて、最近接した橋の上から、少年は叫ぶ。<br />
<br />
「喜っちゃん!」<br />
<br />
しかし、宿舟からの反応はなかった。<br />
<br />
あれだけ、自分の姿形を曝け出しているのに、宿舟からの反応がないのは、その狭隘なスポットの中で、何某かの感情表現を表出する行為を禁じる心理的圧力が働いていたのだろう。<br />
<br />
恐らく、姉弟の母から、「だから丘の子と遊んじゃダメだって言ったでしょ」などということを、とりわけ、喜一は言われていたに違いない。<br />
<br />
それが現実となったとき、宿舟を追って走って来る信雄を視認しても、宿舟から顔を見せられない空気を突き抜けなかった要因ではないか。<br />
<br />
結局、姉の銀子と同様に、丘での生活圏と切り離された喜一もまた、未だ児童期の半ばという年齢制約の故に、それ以外に身を寄せられない母との、既存の心理的・生活的共有の時間を延長させる以外になかったのだろう。<br />
<br />
差別された者たちの、拠って立つ共有幻想の時間の悲哀を、切々と観る者に訴えるこの力こそが、紛れもなく本作の生命線である。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh_zE5mAM3-MFO4bhQW1ts5IqvURsPzRDwbB9Ni31fDtsYcyWjpXjrNP1Lx0s5c42cRvdB76nbDP49cRmlhSlJxw_QwcYHZamaLsGlbaoIY7D1jy_iXi_fdEzN6uLy67L7hAgvUbQLHDtY/s1600/photo_2.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659502846829840578" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh_zE5mAM3-MFO4bhQW1ts5IqvURsPzRDwbB9Ni31fDtsYcyWjpXjrNP1Lx0s5c42cRvdB76nbDP49cRmlhSlJxw_QwcYHZamaLsGlbaoIY7D1jy_iXi_fdEzN6uLy67L7hAgvUbQLHDtY/s400/photo_2.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 187px; margin: 0 0 10px 10px; width: 263px;" /></a><br />
これが、5分間にも及ぶラストシークエンスの内実だった。<br />
<br />
最後に、稿を変えて、それについて簡潔に言及してみる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
4 情感効果をマキシマムに高める映像を構築した戦略性の瑕疵<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi1rn4vtbE-TBPlDYCax49WpNY_FQDOdyGVaNpua78n-IFA5gsHP9UuGe4NMg_dvckwcxGCKzdfm4dulZ-P1AZhBFa63OJb_eD6-i9Lyn3045Etqm8GTVOGUvq69PyiqrnLbVczrs_9jQE/s1600/doronokawa-012-wl.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659502431729316162" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi1rn4vtbE-TBPlDYCax49WpNY_FQDOdyGVaNpua78n-IFA5gsHP9UuGe4NMg_dvckwcxGCKzdfm4dulZ-P1AZhBFa63OJb_eD6-i9Lyn3045Etqm8GTVOGUvq69PyiqrnLbVczrs_9jQE/s400/doronokawa-012-wl.jpg" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 186px; margin: 0 0 10px 10px; width: 241px;" /></a><br />
5分間にも及ぶラストシークエンス。<br />
<br />
感覚的には、充分に了解し得る。<br />
<br />
映画としては、実に丁寧に描かれているだろう。<br />
<br />
だが、相当に感傷過多な内容だったことは否めないのだ。<br />
<br />
5分間のラストシークエンスに勝負を賭けた作り手の思いは、観る者にひしひしと伝わってくるが、敢えて、「別離の感動譚」を大袈裟にしない巧みな技巧の導入によって、その情感効果をマキシマムに高める映像を構築した戦略性の瑕疵を、そこに感じない訳にはいかないのである。<br />
<br />
だから、この5分間は、親友との別離のセレモニーを果たせなかった哀感を描き切るために、主人公の少年を執拗に走らせる必要があったのだ。<br />
<br />
走り続けた少年が最近接した、橋の上からの一方通行の叫びのうちに収斂させるためである。<br />
<br />
殆ど予約していたに違いない、観る者の情感効果をマキシマムに高める決定的描写のインサートによって、その予約ラインの許容範囲のイメージの履行を果たすかのように、観る者の涙腺を緩めるに足る、それ以外に供出し得ない最大の見せ場として、この5分間が戦略的に構築されたと思わざるを得ないのである。<br />
<br />
しかし、5分間は長過ぎるのだ。<br />
<br />
とうてい、映像の勝負を賭けた描写が先読みされるハンディキャップの認知への鈍感さが、観る者の予約ラインの許容範囲のイメージのうちに、物語の自然な流れとして収斂されていくラストシークエンスの内実だったとは思えないのである。<br />
<br />
どうして、もっと淡々と切り上げられなかったのか。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5659503429435605842" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiQZpk-2QJ2QXmp63tDZKwLwWHJrv_1pzT1w61liChER91-0f5zEdtUDnZhk_BRKOpbKQnLlXFAi4R4C6yp0z6dvaQPcSxrqqcsH8mYqYzulINT2kLXnYKrqnIVOmsQtXYuYs4_FDClhSuM/s400/main.jpg" style="float: right; height: 328px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 269px;" /></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">小栗康平監督</td></tr>
</tbody></table>
私としては不満が残る一篇だったが、だからと言って、本作が相当に完成度の高い映像という評価には変わらない。<br />
<br />
<br />
ただ、この年の全ての賞を独占するに足るほどの映像であったかについては、今でも疑問が残る一篇だったと思っている。<br />
<br />
それでも、処女作品に全力を傾注する若手監督の思いの強さだけは、ひしひしと伝わってきたのは紛れもない事実。<br />
<br />
頗(すこぶ)る「善き映画」とだけ書いておこう。<br />
<br />
(2011年10月)<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com1tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-76359722712103158322011-09-27T12:38:00.013+09:002015-01-25T16:26:26.232+09:00ダンサー・イン・ザ・ダーク('00) ラース・フォン・トリアー<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhCIifsNaU-zXFicW_jqQebPrMLVVZEBEbbUTgQOEXTqFmD3MfpkotdPh8ZFJyDU6WjS4EdGmSnvwvIs4SrVdg24GHVHmCGm2M-fDRsO_n70XF0waCmzLM01NXplRhd7Qx4NeCWEUEMPX0/s1600/img_1027644_31073505_11.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhCIifsNaU-zXFicW_jqQebPrMLVVZEBEbbUTgQOEXTqFmD3MfpkotdPh8ZFJyDU6WjS4EdGmSnvwvIs4SrVdg24GHVHmCGm2M-fDRsO_n70XF0waCmzLM01NXplRhd7Qx4NeCWEUEMPX0/s640/img_1027644_31073505_11.jpg" height="640" width="424" /></a></div>
<span style="font-weight: bold;"><「殉教者なら死ななければならぬ」 ―― 確信的に創出された「愛の殉教者」のラストシークエンスの破壊力></span><br />
<br />
<br />
<br />
1 「人の琴線を震わせる何か」を狙った「ヘビーなミュージカル」の毀誉褒貶<br />
<br />
<br />
<br />
少年時代に、コミュニストであった両親が、「カス」だと嘲笑していたミュージカルを好きだった男がいる。<br />
<br />
しかし、彼が観たミュージカルは、「涙にむせぶようなヘビーなもの」ではなく、軽い内容のオペラであるオペレッタの範疇に入るものだった。<br />
<br />
そんな男が後に、ニューヨークを舞台にして少年ギャング団の移民同士の抗争を描いた「ウエストサイド物語」(1961年製作)を観て、大きな感動を受けた。<br />
<br />
それは、男女の愛と死を描いたものでありながら、ドラマチックな内容の濃い物語に仕上がっていて、いつしか男は、シリアスなミュージカルを映像化したいという夢を膨らませていった。<br />
<br />
そのモチベーションが推進力になって、その映像描写の極端さに物議を醸すなど毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばしながらも、明らかにオペレッタと切れた、「ヘビーなミュージカル」としての評価の高い本作に繋がったのである。<br />
<br />
「人の琴線を震わせる何か」<br />
<br />
それが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だった。<br />
<br />
<br />
従って、男は、「ミュージカル・シーンとドキュメンタリー的なシーンの2種類で構成されている」映画の骨格を作り出すことで、深いドラマを描くことが可能であると信じて、「ヘビーなミュージカル」に結ばれる実験的映像に挑んだのである。<br />
<br />
目的は、作品を情感豊かな映像に仕上げることだった。<br />
<br />
<br />
「エモーションと音楽のミックス」による実験的映像は、ハリウッドのミュージカルに馴染んでいた多くの観客の心を不快にさせ、しばしば、完全否定される俗流ムービー扱いを受けるに至ったが、男はそれをも承知で、自分なりの「ヘビーなミュージカル」の創作に自信を深めていった。<br />
<br />
それは、本作がカンヌを制したこととは無縁な何かだった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgUAUn_9z-TQPP-gm0YKkvcQ1ZcIprYrDIBk64zWmD0qJNp7chL6epB7IOs-9in-GV_dN8gDaKwg0uUaGR51i9Y7Ydp4Kuue_zwml8C_SNNrIn8yD1BzCYB0twC4jdxIwjK6a-50st3Lqea/s1600/516ZM9KN9CL__SL500_.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgUAUn_9z-TQPP-gm0YKkvcQ1ZcIprYrDIBk64zWmD0qJNp7chL6epB7IOs-9in-GV_dN8gDaKwg0uUaGR51i9Y7Ydp4Kuue_zwml8C_SNNrIn8yD1BzCYB0twC4jdxIwjK6a-50st3Lqea/s320/516ZM9KN9CL__SL500_.jpg" height="289" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「ドッグヴィル」より</td></tr>
</tbody></table>
男の映像世界が一流のアートとして認知されるには、「床に白い枠線と説明の文字を描いて建物の一部をセットに配しただけの舞台で撮影され」(Wikipedia)、簡単に権力関係を作ってしまう人間の脆弱さを極限まで突き詰めていった、「ドッグヴィル」(2003年製作)という、カテゴリー破壊とも言うべき実験的映像の製作・公開までの時間を必要としたとも思えるが、本作をリアルタイムで高く評価し得た批評家も少なくなかった。<br />
<br />
ドキュメンタリー的なシーンを際立たせるダッチロールの如き映像によって、「ドグマ95」のゴールデンルールが検証されるに至ったとされるが、実際の所、本作は、「1台のカメラでひとつのシーンを撮るのではなく、固定式のカメラを数多く用意して撮影を行った」のである。<br />
<br />
何と、そこで使用されたカメラは100台を優に越えていたのだ。<br />
<br />
広大なスタジオ内にあって、クレーンショットを多用するミュージカルの正統派路線ではなく、そこだけは、限界状況の辺りにまで心理的に捕捉された、ヒロインの特化されたエモーションを拾い上げるべく、ミュージカル・シーンに浄化されて、それを多くの固定カメラで記録するという表現技巧によって質の高い映像を作り出したと、男は信じて止まなかった。<br />
<br />
恐らく、男の意図は成就したのだろう。<br />
<br />
因みに、男が本作の舞台をアメリカにしたのは、アメリカのミュージカルに対する挑発的意図を持っていたのではなく、ミュージカルの発祥の地としてのアメリカを尊重したからに他ならないのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBXL5CU8hH9Lo09Q27iB2iOTSFie1bGE8sRWk8zNPWMka7ml2h_RCJ_WB4njrJUP1f1PWnH8YlG2x7AVHy_IjflxZu8cMMH0fQK9n_WziKkQT7aaPV7HUR1d3sHHS77aVXEziUVO2t5OVZ/s1600/kafka001-2.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBXL5CU8hH9Lo09Q27iB2iOTSFie1bGE8sRWk8zNPWMka7ml2h_RCJ_WB4njrJUP1f1PWnH8YlG2x7AVHy_IjflxZu8cMMH0fQK9n_WziKkQT7aaPV7HUR1d3sHHS77aVXEziUVO2t5OVZ/s400/kafka001-2.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5662884753492673170" style="cursor: hand; cursor: pointer; float: right; height: 322px; margin: 0 0 10px 10px; width: 223px;" /></a><br />
故郷を追放されたドイツ人少年が異国の地を放浪する様態を、実存的作風で描く未完の作品として著名な、フランツ・カフカ(画像)の「アメリカ」(1914執筆で、原題は「失踪者」)を例に出して、カフカ同様にアメリカの地を踏んだことのない男が、「自由の女神像」に象徴される件の国を「神話の国」とさえ呼ぶ、「何でもあり」のアメリカという帝国的な国民国家の存在の深い内懐ろには、男にとって、容易に否定し難い程に魅力的な文化が混淆しているらしいのだ。<br />
<br />
だから、本作が「アンチ・ハリウッド」という短絡的なラベリングで括るのは、多分に「勝手読み」の愚を免れないと言えるだろう。<br />
<br />
ただ男は、物語の中に唐突に侵入してくる、多くのハリウッド製ミュージカルの軽薄さとは完全に切れた、人生の重量感を拾い上げる「ヘビーなミュージカル」を構築したかったのである。<br />
<br />
それだけのことだった。<br />
<br />
<br />
<br />
2 「アート」という、現実逃避よりももっと崇高なもの<br />
<br />
<br />
<br />
人生の重量感を拾い上げる「ヘビーなミュージカル」の構築を目指した映像は、観る者の情動を激しく揺さぶるものだった。<br />
<br />
エミリー・ワトソンのエモーションの独壇場の感のある、「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/06/96.html">奇跡の海</a>」(1996年製作)でもそうであったように、男が構築する映像の推進力になっているものは、必要以上の「勝手読み」を置き去りにするエモーショナルな直接性に満ちていて、そこに共通するのは、理屈を捏(こ)ねくり回すだけの形而上学的なメタファー抜きの、観る者の情動への直球勝負を厭わない沸騰し切ったメンタリティである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_FOSSWxEixtxmX3uJDLfgbspnc0-AONeFAFkoZKTqdTLzCSRwVLkpMI_vFSGDzhtcuLG8uvyc3ZfJx8hUP4FfTdbwkW7pqeI7PFjml1yB3fR_We4ijmWzWlVgh2i9uVfOlKKsoZmh2xQ/s1600/dancer-in-the-dark.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi_FOSSWxEixtxmX3uJDLfgbspnc0-AONeFAFkoZKTqdTLzCSRwVLkpMI_vFSGDzhtcuLG8uvyc3ZfJx8hUP4FfTdbwkW7pqeI7PFjml1yB3fR_We4ijmWzWlVgh2i9uVfOlKKsoZmh2xQ/s400/dancer-in-the-dark.jpg" height="272" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5656882192368459826" style="float: right; height: 272px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 400px;" width="400" /></a><br />
そのメタファー抜きの直球勝負を厭わないメンタリティから分娩されたのが、「セルマ」という、抜きん出て愛情豊かな人物像であった。<br />
<br />
ここに、そのセルマと、トレーラーハウスを安く貸与してくれていた、隣人の大家である警察官のビルとの、印象深い会話がある。<br />
<br />
恐るべき疾病に捕縛されたセルマの、告白的な会話だ。<br />
<br />
「最初から分ってたの。私の眼が遺伝すると・・・なのに産んだのよ」<br />
「強い人だ」とビル。<br />
「強くないわ。耐えられなくなると、ゲームをするのよ。工場で働いていると、機械が色んなリズムを刻み始める。すると夢の世界になって、音楽が始まるの」<br />
<br />
セルマは、その後、ゲームと呼ぶミュージカルの話に触れて、その思いを吐露していった。<br />
<br />
「最後の曲は聞きたくないわ。ラストの合図は嫌。子供の頃に思い着いたの。最後から二曲目が始まると映画館を出てしまうの。そしたら、映画は永遠に続くでしょ」<br />
<br />
こんなセルマの生き方を、「愚昧」であると決め付けられるのか。<br />
<br />
「現実に耐えられなくなったとき、生に耐える手段」として、「ほんの1、2分、ミュージカルに出ていると空想する」だけの特化された彼女の行為を、果たして、訳知り顔なモラルの視座で現実逃避と嘲罵(ちょうば)して、切り捨てられるのか。<br />
<br />
その行為は、かつて「サウンド・オブ・ミュージック」を演じることになっていた練習と時を同じくして、「人生最大の目的」に辿り着こうとしている、「夢と現実の交差地点」であるとは言えないのか。<br />
<br />
「セルマは過酷な現実世界で、ささやかな喜びを見いだし、それを抱きしめる」<br />
<br />
苛酷な現実世界をゲームに内化する能力を持つ彼女は、充分に、人生のアーティストであるとは言えないのか。<br />
<br />
紛れもなく、この能力の発現は、それ以外にない、彼女なりの適正サイズの自己防衛戦略のリアルな様態であるだろう。<br />
<br />
仮に、その個性的な防衛戦略の発現を現実逃避と言うなら、なぜ、現実逃避することが指弾されねばならないのか。<br />
<br />
大体、苛酷な現実世界の不断の攻勢からギリギリに耐えている自我が、それを破壊されずに済ますに足る唯一の手立てを発見し、その戦略的な具現化を延長させている時間を現実逃避と指弾するほど、私たちの自我は鎧の如く堅固であると考えているのか。<br />
<br />
それこそ、人間の根源的脆弱さを認知し得ない度し難きオプチミズムではないのか。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJbMEr-FcRBrvpI_7vgsrnc2I0Isthivnxkwq_Wr1pwRHz-4j0XG8vyr7pnO51adQ_ysBPHvpyDxbdSKnLN-2FEpytW1HmvKUHL7pF4fHETkwIp789F1_N0PtVteGrAqZlCpPaZr6um54/s1600/img_1027644_31073505_6.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJbMEr-FcRBrvpI_7vgsrnc2I0Isthivnxkwq_Wr1pwRHz-4j0XG8vyr7pnO51adQ_ysBPHvpyDxbdSKnLN-2FEpytW1HmvKUHL7pF4fHETkwIp789F1_N0PtVteGrAqZlCpPaZr6um54/s640/img_1027644_31073505_6.jpg" height="408" width="640" /></a></div>
「音楽、歌、そしてダンスで構成される虚構の世界への思慕と、現実の世界への思いやりを併せ持っていることである」<br />
<br />
このように、彼女が創り出すミュージカルは、他のミュージカルと全く違って、「映画から拾い集めたメロディ、セリフ、ダンスを現実世界の中に見い出して、融合させる」のだ。<br />
<br />
だから、これは現実逃避ではない。<br />
<br />
それよりもっと崇高なもの。<br />
<br />
アートである、と言っていい。<br />
<br />
これは人生と渡り合っていくため、そして、「人生を自らの中に取り込むためにセルマの精神が求めた手段なのである」<br />
<br />
「ヘビーなミュージカル」の構築を目指した男は、そのような文脈の中で確信を深めるに至ったのである。<br />
<br />
<br />
<br />
3 融通の効かない「幼稚な大人」の、捨ててはならない黄金律<br />
<br />
<br />
<br />
ヒロインのセルマは、日常の風景を自らの中に取り込むので、彼女の空想による、「ミュージカルシーン以外はリアルでなければならなかった」ということ。<br />
<br />
この設定が重要だった。<br />
<br />
つまり、「現実世界の不完全さや醜悪さが映画の甘美な世界をさらに輝かせている」のである。<br />
<br />
本作では、この二つの危うい世界がパラレルに描かれていた。<br />
<br />
彼女のミュージカルは、「伝統と本質が衝突するパンク・ロック」であると言えるだろう。<br />
<br />
それは「伝統の破壊ではなく、基本に立ち返る動きであるが故に、彼女が許容する唯一の暴力だった」のだ。<br />
<br />
だから、彼女の感情の迸(ほとばし)りは、音楽のみで表現されることを必至にする。<br />
<br />
「歌はセルマにとって自己の内面との会話なのだ」<br />
<br />
ヒロインの日常的光景を、極度にリアルに描く「スーパーリアリズム」に徹したため、ロケを敢行し、「小道具」の使用もなかった。<br />
<br />
更に、リアル感を出すため、ロジックを跳ばしたのも計算づく。<br />
<br />
「人間の行為は理屈通りにいかないのだ」<br />
<br />
男は、そう言い切って止まなかった。<br />
<br />
当然過ぎる把握である。<br />
<br />
従って、ミュージカルのシーンに移るのは、ヒロインのセルマが苛酷な状況に置かれたときに限られていた。<br />
<br />
それまでの文脈で言えば、異論はない。<br />
<br />
一つ一つ、例証していこう。<br />
<br />
<br />
まず、視力の劣化が進んで、工場でミスを重ねて注意されたとき。<br />
<br />
これが、一度目。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
</div>
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg49f7Xt5ZHPy4pzgXU-39LhefsOJLRoVSQ98lyMihStMxuONTMht7AWZDN_1lB3D_S9anrgbegUP8RrS4lIQD5ye8XDdzWGqJFgPuQR6i4dWNTbynV3MyG5L1z_OBT8mfzS0hgeYs2Roc/s1600/img_1027644_31073505_7.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg49f7Xt5ZHPy4pzgXU-39LhefsOJLRoVSQ98lyMihStMxuONTMht7AWZDN_1lB3D_S9anrgbegUP8RrS4lIQD5ye8XDdzWGqJFgPuQR6i4dWNTbynV3MyG5L1z_OBT8mfzS0hgeYs2Roc/s1600/img_1027644_31073505_7.jpg" height="264" width="640" /></a></div>
二度目は、遂に工場を解雇され、ジェフと共に線路沿いを歩いていて、「見えないのか」と聞かれて追い詰められた心境下にあったとき。<br />
<br />
「彼女は走り去る列車の貨物台をステージに見立て、心の中でミュージカルを唄い踊っていた」<br />
<br />
そして、帰宅した彼女が、手切れ金とも言える給与を、秘密の貯金箱である缶の中に入れようとしたとき、あろうことか、缶の中は空っぽだった。<br />
<br />
彼女の秘密を知る唯一の人物である、大家でもある警察官のビルが犯人だったのだ。<br />
<br />
因みに、先の会話の中で、妻の浪費によって金欠状態であるビルとの、「秘密の共有」が結ばれていたが、この「秘密の共有」に拘泥するセルマの心象風景については本作の胆なので、後述する。<br />
<br />
ともあれ、ビルの家を訪ね、愛児ジーンの眼の手術費用を取り返すために、混乱の中でビルを誤殺してしまうセルマ。<br />
<br />
理性が抑制機能を喪失した彼女の、このときの限界状況下で現出したのが、三番目のミュージカル・シーン。<br />
<br />
「何もかも悪い方にいく。バカなセルマ。時間を下さい。涙を流すだけの。心臓の鼓動が乱れるだけの。それだけの時間があれば許されるでしょうか。心から悔いています。私は仕方なくやっただけ」<br />
<br />
苦衷(くちゅう)に喘ぐセルマのミュージカルの風景は、男が「自己の内面との会話」と呼ぶには、あまりに痛々しいものだった。<br />
<br />
「母さんは仕方なくやっただけ」<br />
<br />
そこに、母を想うジーンが、買ってもらったばかりの自転車を乗り回すシーンが挿入されていく。<br />
<br />
そして、四番目のミュージカル・シーン。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgXbjhXpeZgqofHIc3muFonKfOF7cku78aQ6oIWKx9MzPBZNDdMTcmC9KxWEYIkJ3vpEXYEOs-Z7bLZmTlsa-L41LABRM_7Wx9DyGcwexxewdi3PDO5lmSN8mr7b6Bp3cAo2jB1oL9z-xE/s1600/img_1027644_31073505_10.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgXbjhXpeZgqofHIc3muFonKfOF7cku78aQ6oIWKx9MzPBZNDdMTcmC9KxWEYIkJ3vpEXYEOs-Z7bLZmTlsa-L41LABRM_7Wx9DyGcwexxewdi3PDO5lmSN8mr7b6Bp3cAo2jB1oL9z-xE/s640/img_1027644_31073505_10.jpg" height="276" width="640" /></a></div>
それは、法廷で不利な状況になり、セルマに死刑判決が出る直前のシーンである。<br />
<br />
自分に不利な状況下になるのが分っているのに、なお、真実を語ろうとしない女が法廷にあって、口を噤(つぐ)んでいるのだ。<br />
<br />
「秘密です」<br />
<br />
そう言って、彼女はビルとの間で交した「秘密の共有」を守り通そうとするのである。<br />
<br />
真実を話すことで、ビルの妻に与えるインパクトを防ぎたかったのか。<br />
<br />
そうではないだろう。<br />
<br />
ただ単に、彼女は、「秘密の共有」を守り通すという絶対規範に忠実に従っているだけなのだ。<br />
<br />
それらの規範は、彼女にとって捨ててはならない黄金律なのである。<br />
<br />
最低限の「損得原理」を弁(わきまえ)ず、融通の効かない「幼稚な大人」のように見える、セルマというヒロインを、一体どう見るべきなのか。<br />
<br />
以下の稿で、それを考えてみよう。<br />
<br />
<br />
<br />
4 「殉教者なら死ななければならぬ」 ―― 確信的に創出された「愛の殉教者」のラストシークエンスの破壊力<br />
<br />
<br />
<br />
まず、先のビルとの会話の中で、妻の浪費によって金欠状態である彼との間で、「秘密の共有」が結ばれていた。<br />
<br />
これが、ビルの妻が証言する法廷で真実を述べなかった理由とされるが、思うに、この極端な人物造形は、「神の愛」=「脊髄損傷患者となった夫への愛」を遂行するために、娼婦となって息絶えるベスを描いた、「奇跡の海」のヒロインの「殉教」のメンタリティと同質の構造性を持つと言っていい。<br />
<br />
要するに、本作の作り手である男は、ここでも、「愛への殉教」を惜しまない人物造形を構築しているのである。<br />
<br />
そう考えない限り、説明できないのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjHl0xLFrtOvX6rZzblLsgSAMtM_3wlQ3zmIRcO8aaPI45qdmOV3KnE9cl2mWqXP_LnYEqloKnyr0ZxMzFxsGf24xbKkx9kCcZ8bIdP1D2ZdOZWKoxgglXXqzzkuK11fUxO9k9K5XgCpyo/s1600/20110403222213.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjHl0xLFrtOvX6rZzblLsgSAMtM_3wlQ3zmIRcO8aaPI45qdmOV3KnE9cl2mWqXP_LnYEqloKnyr0ZxMzFxsGf24xbKkx9kCcZ8bIdP1D2ZdOZWKoxgglXXqzzkuK11fUxO9k9K5XgCpyo/s400/20110403222213.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5656882108085342338" style="float: right; height: 247px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 396px;" /></a><br />
ここで、観る者は、この極端な人物造形の設定をフラットなリアリズムの視座でフォローしていくと、「感情移入できない」などという心境下で、一種の思考停止状態のトラップに陥り、自分の情感濃度に引き寄せられない歯痒さによるオイストレスを解消するために、本作を「駄作」扱いする批評家のコメントに相乗りすることで、自我の小さな安寧を手に入れるかも知れない。<br />
<br />
然るに、敢えて書きたい。<br />
<br />
この作り手である男は、「愛の殉教者」としてヒロインの〈生〉の有りようを極限まで描き切る映像を、ほぼ確信的に創出しているのである。<br />
<br />
このことは、絞首刑を延期しようと思えば可能だったのに、新たな弁護費用にジーンへの手術代を充当せねばならないという現実を知ったセルマが、冤罪を晴らす一切の努力を放棄する重い決断を経て、理不尽な死への107歩を、優しい女性看守のサポートを受けつつ、震えながら歩んでいくラストシークエンスのうちに検証できるものだった。<br />
<br />
ここでもまた、彼女は、苛酷な現実世界の限界状況下で、殆ど自壊の危機に瀕した自我が、それを破壊されずに済ますに足る、唯一の手立てである世界のうちに自己投入していったのだ。<br />
<br />
ミュージカルである。<br />
<br />
しかし、言語に絶するほどに、苦衷(くちゅう)に喘ぐ彼女のミュージカルの風景は、マキシマムに達した空想を摂取する情動の噴出だった。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja1RsDh2fqY8altSaGodtQAzLoI5nR2xZoNwBQxGH5fAlYk5lN7ZwtEFCENVufagPXaGjrBymv6tzwiwTmExiJOO_iGXrjgsm0ZRw7cjkQUEF8NI9rSQcMaccYraqz92jALHqFwyqtHdM/s1600/128279970927816325019.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja1RsDh2fqY8altSaGodtQAzLoI5nR2xZoNwBQxGH5fAlYk5lN7ZwtEFCENVufagPXaGjrBymv6tzwiwTmExiJOO_iGXrjgsm0ZRw7cjkQUEF8NI9rSQcMaccYraqz92jALHqFwyqtHdM/s320/128279970927816325019.jpg" height="200" width="320" /></a></div>
五番目のそれは、絞首刑寸前のシーンへと繋がる最後のミュージカルだからだ。<br />
<br />
そこで、冒頭の「序曲」でもあった、「The Next-to-last Song」のテーマが唄われるのである。<br />
<br />
以下の歌詞の通り。<br />
<br />
いとしいジーン<br />
あなたは私のそばにいる<br />
だからもう怖くないわ<br />
<br />
早く気づけばよかった<br />
私は独りぼっちじゃない<br />
<br />
これは最後の歌じゃないの<br />
バイオリンは奏でない<br />
コーラスも歌わないし<br />
誰も踊ってないわ<br />
これは“最後から二番目の曲”<br />
それだけよ<br />
<br />
母さんの言ったことを忘れないで<br />
パンはきちんと包むのよ<br />
ベッドも毎朝直しなさい<br />
<br />
これは最後の歌じゃないの<br />
バイオリンは奏でない<br />
コーラスも歌わないし<br />
誰も踊ってないわ<br />
これは“最後から二番目の曲”<br />
それだけよ<br />
<br />
<br />
この「The Next-to-last Song」を、ヒロインに唄わせることの意味は何か。<br />
<br />
なぜ、冤罪のヒロインが、これほどまでに追い詰められ、煩悶し、震え慄き、絞首刑の瞬間の構図に至るまでのカットを、木戸銭を払った観客に観せなければならないのか。<br />
<br />
「殉教者なら死ななければならぬ」<br />
<br />
それだけのことだ。<br />
<br />
男の言葉である。<br />
<br />
「刑罰というより復讐の色合いが濃い」死刑制度に対して、反対の立場を鮮明にする男にとって、「処刑シーンは神が監督に与えた贈り物」だった。<br />
<br />
男は、そう言い切ったのだ。<br />
<br />
「冤罪」という位相の異なる問題とは峻別して、「復讐の色合いが濃い」刑罰だからこそ、法で守護されている被告に対する個人の癒されぬ思いの束を、主権の拠って立つ国民国家が代行してくれるが故に、死刑制度の存在意義があると信じる私と違って、男は死刑制度の「残酷さ」を容赦なく炙り出していく。<br />
<br />
だが、本作は死刑制度の是非を問う映像ではない。<br />
<br />
どこまでも、苛酷な現実世界の限界状況下に拉致された、「愛の殉教者」の〈生〉の有りようを描いた物語である。<br />
<br />
「殉教者なら死ななければならぬ」という、〈生〉の有りようをなぞって人物造形されたヒロインは、「奇跡の海」のベスと同様に、男によって確信的に創出された「愛の殉教者」であり、それ以外ではなかった。<br />
<br />
好むと好まざるとにかかわらず、男は、そういう映像を構築したのである。<br />
<br />
「殉教者なら死ななければならぬ」限り、そこだけは過剰に長い、破壊力のあるラストシークエンスの描写を不可避としたということだ。<br />
<br />
それだけのことである。<br />
<br />
<br />
<br />
5 底知れない情動を噴き上げて生き抜き、それ以外にない硬着陸点を選択することで死に抜き、昇天していった女の物語<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHb5lc-ge9Prroo5FrptoC1Apo22fVDBMJCSQiPZVLwuE_i-M59l4iL5SiZNaLdK9hVVWVbDhfxN1lZWbfSubBdOJedULkVmixTq2QVio6F4WosFkWzglbxgRgNxUyjTfQ0wOJYkty1Y0/s1600/110406triers_large.jpg" onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}"><img alt="" border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHb5lc-ge9Prroo5FrptoC1Apo22fVDBMJCSQiPZVLwuE_i-M59l4iL5SiZNaLdK9hVVWVbDhfxN1lZWbfSubBdOJedULkVmixTq2QVio6F4WosFkWzglbxgRgNxUyjTfQ0wOJYkty1Y0/s400/110406triers_large.jpg" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5656882758267127746" style="float: right; height: 274px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 257px;" /></a><br />
男の名は、言うまでもなく、ラース・フォン・ トリアー(画像)。<br />
<br />
コペンハーゲン出身の、しばしば物議を醸す発言を繰り返す、極めて発信力の高いデンマーク映画界の奇才である。<br />
<br />
自分の精神が病んでいることを隠さない男は、まさに「アート」のフィールドでこそ、その才能を開花させたと言えるのか。<br />
<br />
それがたとえ、本人の愚かさや愚直さに起因していたとしても、苛酷な状況に置かれた人間の心理を中途半端に済ますことなく、それを極限まで追い詰めていくときの臨界点まで描き切る、その類稀な作家精神だけは認知せざるを得ないのだ。<br />
<br />
多分に厄介なメロドラマ的な感傷が張り付いていながらも、内面的掘り下げが希薄な「感涙映画」と切れている本作は、挑発的で、毒気含みの作家精神の極点にまで届くに足る一篇だった。<br />
<br />
そんな本作の中に、こんな印象深い会話があった。<br />
<br />
「なぜジーンを産んだ?遺伝すると知りながら」<br />
<br />
セルマに常に寄り添うジェフの、厳しい発問だ。<br />
<br />
「赤ちゃんを抱きたかったの。この腕に」<br />
<br />
これが、セルマの答え。<br />
<br />
我が子に対する強い責任意識となったであろう、セルマのこの切実な想いが、単にミュージカル好きな彼女をして、「愛の殉教者」に変容させた心理の根柢に横臥(おうが)している、と私は思う。<br />
<br />
苛酷な状況に置かれた人間の心理を中途半端に済ますことなく、それを極限まで追い詰めていく映像作家であるラース・フォン・ トリアー監督が、現代の「愛の殉教者」を、奇麗事だけで立ち上げて、奇麗事だけのカットで済ます訳がないのだ。<br />
<br />
ヒロインをサディスティックなまでに苛め抜いた挙句、マキシマムに達した空想を摂取する情動の噴出の中で殉教させる。<br />
<br />
容赦ないのだ。<br />
<br />
それが現実でもあると同時に、究極の理念系の落とし所なのか。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh9hJF3t0wzPj5NuQMGHUiEzLedm25qiIK7bVOhBbjokgoEgOI4VMc7e3l43c8-bZFEdmzFfwEgBsj468ctgvB6vFMicxCKLy5k5SmJ3VCkxqJ-oX3NCtjIaooHzYhaUcm2UN6k8FsnTudW/s1600/800px-William_Blake_007.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh9hJF3t0wzPj5NuQMGHUiEzLedm25qiIK7bVOhBbjokgoEgOI4VMc7e3l43c8-bZFEdmzFfwEgBsj468ctgvB6vFMicxCKLy5k5SmJ3VCkxqJ-oX3NCtjIaooHzYhaUcm2UN6k8FsnTudW/s400/800px-William_Blake_007.jpg" height="293" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">ヨブに襲い掛かるサタン</span><span style="font-family: "Century","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-font-family: "MS 明朝"; mso-fareast-language: JA;"> </span><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: 10.5pt; mso-ansi-language: EN-US; mso-ascii-font-family: Century; mso-bidi-font-family: "Times New Roman"; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-language: JA; mso-hansi-font-family: Century;">(ウィリアム・ブレイク・<span style="mso-font-kerning: 0pt;">ウイキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
悪魔に教唆されて、ヤハウェ(旧約聖書中の唯一神)によって試され続けた挙句、その罪の在り処すら分らず、家族や財産を失うに至る「ヨブ記」の主人公のように、それでも、絶望的苦悩のうちにあってなお神を求め、その強靭な信仰によって、喪失した一切のものが復元される壮絶な受難の物語と異なって、神への信仰薄き時代に呼吸を繋ぐセルマには、苛酷な試練を受けるに足る個人的理由があり、本人もまた、その重量感を知悉(ちしつ)していたに違いないのだ。<br />
<br />
言語を絶する理不尽な試練に対して全人格的に耐え抜くヨブと違って、セルマの場合、自己防衛戦略の最強のツールとしてのミュージカルのうちに自己投入していくことで、自壊の危機に瀕した自我を絶対状況の際(きわ)から反転させ、鮮度を高めて復元させるのである。<br />
<br />
特定他者への「愛の殉教者」であることによって、セルマは底知れない情動を噴き上げて生き抜き、そして、それ以外にない硬着陸点を選択することで死に抜き、昇天していったのである。<br />
<br />
確かに、そこにはエゴが存分に張り付いているだろう。<br />
<br />
しかし、そのエゴを指弾できるほど、私たちは崇高なのか。<br />
<br />
気高いのか。<br />
<br />
トリアー監督は、日常の中に溢れる雑音を音楽に変容させていく能動的才能によって、限界状況を突破し得るような極端な人物造形をすることで、自らが招来させた苛酷な状況による、自縄自縛に陥った魂の極限性を、「何かを作るのではなく、既にそこにあるものを探っていく」という強い思いのうちに、まるでそこだけはドキュメンタリー的な筆致で描き切っていたのだ。<br />
<br />
それこそが、内面的掘り下げが希薄な「感涙映画」と決定的に切れている所以なのである。<br />
<br />
少なくとも、トリアー監督にとって、本作が「<a href="http://zilge.blogspot.jp/2011/06/96.html">奇跡の海</a>」と同様に重要な映像であることだけは確かだろう。<br />
<br />
<br />
【なお本稿は、鉤括弧の多くの部分を含めて、トリアー監督自身の言葉を引用しつつ、検証的に批評している。因みに、参考文献は、(「ダンサー・イン・ザ・ダーク」ラース・フォン・トリアー著 石田泰子訳 杉山緑訳 2000年12月 角川書店刊)である。】<br />
<br />
(2011年10月)Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-2343810558691864415.post-31869006675958451302011-09-20T22:34:00.000+09:002013-04-01T20:08:18.280+09:00浮雲('55) 成瀬巳喜男<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<br /></div>
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcoLSUvxnEqSg-qfCVWmdF7nBDxET-kuzW7f9BveWR7nz7FTvYvda_NJPpuUGjDBNFzCmsDs4_XdmWd-dzluLj_yw90K1tdBrPZsGzp-ZGXgoYOmK1WppSn7wsH5XjDdMy_29ehqHDQ3g/s1600/img_1506953_60087687_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhcoLSUvxnEqSg-qfCVWmdF7nBDxET-kuzW7f9BveWR7nz7FTvYvda_NJPpuUGjDBNFzCmsDs4_XdmWd-dzluLj_yw90K1tdBrPZsGzp-ZGXgoYOmK1WppSn7wsH5XjDdMy_29ehqHDQ3g/s400/img_1506953_60087687_0.jpg" width="333" /></a></div>
<b><投げ入れる女、引き受けない男></b><br />
<br />
<br />
<br />
序 成瀬巳喜男との、偶然性の濃度の稀薄な邂逅が開かれて<br />
<br />
<br />
<br />
映画を観に行くことが最大の娯楽であった時期が、私にもあった。<br />
<br />
その経験は青少年期の記憶の内に深々と灼きついていて、そこで得た様々に刺激的な情報は、今でも私を新鮮にしてくれる何ものかになっている。<br />
<br />
私の映画三昧の生活は、脳内のアドレナリンを分泌させた、あの東京オリンピックをリアルタイムで観た1960年代半ばに始まった。高校時代だった。<br />
<br />
それまでも、祖父が地元の場末の映画館で清掃夫の仕事をしていた関係で、小さい頃から私は子供が普通に熱狂する類の娯楽映画に親しんでいた。<br />
<br />
その中心は、何と言っても東映時代劇。中村錦之助、大川橋蔵といった花形スターがスクリーン狭しと暴れまわる格好良さに、殆ど釘付けの状態だった。<br />
<br />
<br />
映画と言えば、ハッピーエンドの娯楽劇しか知らない私の内側に、風穴を開けるような衝撃が走った。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
二本の映画が、私の内面深くを突き刺してきたのである。<br />
<br />
その映画の名は、「動乱のベトナム」(注1)と「日本列島」。<br />
<br />
そこに描かれた世界は、私の日常と完全に乖離していた。<br />
<br />
だからそのインパクトが大きかったのである。<br />
<br />
世はまさに、ベトナム反戦のグローバルなうねりが時代を呑み込みつつあった頃だ。<br />
<br />
それまでテレビで、「判決」、「七人の刑事」、「人間の条件」などのシリアス・ドラマを好んでいた私は、社会に対する問題意識の萌芽があったので、映画の衝撃はストレートに突き刺さってきた。<br />
<br />
私も「何かやらなくてはならない」などと思いつつも、何をしていいのか分らなかった。<br />
<br />
だから暫くは単なるノンポリで、無教養な少年でしかなかった。<br />
<br />
観る映画も娯楽と社会派のごった煮で、何でもありだった。<br />
<br />
<br />
(注1)1965年に、新理研映画社が製作し、大映が配給した長編記録映画。ベトナム戦争の只中で、サイゴンを舞台に記録した映像の中身は、仏教徒の焼身自殺やアメリカ大使館爆破、ベトコンに対する壮絶な暴力や殺戮など、刺激的な内容に溢れていた。監督は赤佐正治。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
(注2)1965年、日活。吉原公一郎の原作(「小説日本列島」)を、当時デビュー二作目となる熊井啓が脚色、監督した反米プロパガンダ色の強い社会派ムービー。キネマ旬報第二位の評価を受けた。<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgDDDS08AGUOPdL7_c_D6GQgq86DN7DA7ZMJZr6WdvXfRPt4W0mJYGC9q8RCk_EO_IlwriVfI4PMUBLMlUaacOMcweNaWp_ofaTF3UqUIw2iMUZym6qfN-tyO-mYz-zdseUS93JfdQHZBM/s1600/img_1480448_44921643_0.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgDDDS08AGUOPdL7_c_D6GQgq86DN7DA7ZMJZr6WdvXfRPt4W0mJYGC9q8RCk_EO_IlwriVfI4PMUBLMlUaacOMcweNaWp_ofaTF3UqUIw2iMUZym6qfN-tyO-mYz-zdseUS93JfdQHZBM/s1600/img_1480448_44921643_0.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「日本列島」より</span></td></tr>
</tbody></table>
そして私の観念もやがて左傾化していくが、それでもごった煮の映画三昧は変わらなかった。<br />
<br />
私が「浮雲」という映画と最初に出会ったのは、ちょうどそんな時だった。<br />
<br />
成瀬巳喜男という名も、その作品の名も知っていたが、しかしその知識は、当時、他の多くの映画愛好者がそうであったように、「『浮雲』の成瀬巳喜男」という範疇での理解を越えるものではなかった。<br />
<br />
しかし映画の内容は、ズブズブの大人の恋を経験したことがない私にとっても感銘深いものであった。その映画のどこに感動したか、今となっては不分明だが、とにかく心に残る印象深い作品であったことは間違いない。しかしそこまでだった。<br />
<br />
まもなく私の網膜には、「通俗映画」を遮断する幾重ものバリアが築かれて、そんな狭隘な社会的感性が認知する映像は、当然の如く、「社会派」作品に限定されるに至ったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhp9iF86Vm2C7wuuLH8jrYfMhzFDN1h_m5So01keA42DPrylQ5qvh1x88ENS0uxZRUNbRSNAb9HUYpRPMmUSrKwsx6bkvak5gG0-BZfbNCwqZ-KZl2OLS1JIeXgZ73PS_3-_AUbqjKrWre3/s1600/395px-Kim_Il_Song_Portrait-2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhp9iF86Vm2C7wuuLH8jrYfMhzFDN1h_m5So01keA42DPrylQ5qvh1x88ENS0uxZRUNbRSNAb9HUYpRPMmUSrKwsx6bkvak5gG0-BZfbNCwqZ-KZl2OLS1JIeXgZ73PS_3-_AUbqjKrWre3/s320/395px-Kim_Il_Song_Portrait-2.jpg" width="211" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">金日成の公式肖像画<span style="color: black; font-family: "MS 明朝","serif";">(<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">ウィキ</span>)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
「金日成伝」(白峯著 雄山閣刊)という分厚く赤い本(無論、当時、この手の著作が「トンデモ本」の類であることを知る由もない)を愛読する当時の私には、東映のヤクザ映画や大映の「座頭市」映画は許容できても、小津や溝口の映画は通俗の極み以外の何ものでもなかったのだ。<br />
<br />
そんな私がアルバイトを続けながら、30代に入ってなお企業への就職を厭悪(えんお)して、東京練馬区の片隅で補習塾を細々と経営する生活に入ったが、そこで経験した様々な事柄が、私の中に澱んでいた奇麗事の観念を払拭するに至ったのである。<br />
<br />
そこで何かが壊れ、何かが修正されつつ、未だ「確信」に届き得ないという不快な気分を延長させた状態で、自分の内側に温存されていった。<br />
<br />
それでも、壊れたものは内実がなく、無力なるイデオロギーであり、温存されたものは、それでも捨てられない人間学的、且つ、実存的な思いの束だったに違いない。<br />
<br />
30代半ばになって、私は再び映画三昧の生活に入っていった。<br />
<br />
しかし、今度は逆に娯楽映画を観ることができなくなってしまった。単に時間潰しだけの、面白いだけの映画に私の心は全く振れなくなってしまったのだ。<br />
<br />
それと同時に、それまで「通俗映画」と観念的に片付けていた作品の中に、珠玉のような輝きを放つ映画が存在することを知って、私は自分の中で何かが大きくシフトする流れを感じ取ったのである。<br />
<br />
成瀬巳喜男との、偶然性の濃度の稀薄な邂逅が開かれた。衝撃的だった。言葉に出せないほどだった。<br />
<br />
小津や黒澤は嫌というほど観てきたが、成瀬についての情報が表面的なものでしかなく、しかも「浮雲」以外の作品を観ていない自分の不明を恥じたほどである。<br />
<br />
素晴らしかった。観たものを人に話さざるを得ないような、名状し難い感動が私の中に溜まっていったが、それを話す相手がいなかった。<br />
<br />
成瀬について多くのことを知りたくて文献を求めたが、それもなかった。信じられなかった。当時、誰も成瀬のことを多く語っていなかったし、その作品を観る者も少なかったのである。<br />
<br />
そんなときに出会った一冊の本。<br />
<br />
「成瀬巳喜男 日常のきらめき」(キネマ旬報社)。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhu_OEaXuBt23L4zjF-ZDCfjDQKJfxm-M4Q4eS52tupPkPBmfXnWt6AfCyOlul72sAE0bSrmoRN-CzeFvXm6_nF2F8CkfKFLGFpziLFJ3dobc77C9WSB9soZ3VxrJbCD0x0yc0cSBvl-f7u/s1600/susanne.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhu_OEaXuBt23L4zjF-ZDCfjDQKJfxm-M4Q4eS52tupPkPBmfXnWt6AfCyOlul72sAE0bSrmoRN-CzeFvXm6_nF2F8CkfKFLGFpziLFJ3dobc77C9WSB9soZ3VxrJbCD0x0yc0cSBvl-f7u/s1600/susanne.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">スザンネ・シェアマン</span></td></tr>
</tbody></table>
その著者はスザンネ・シェアマン。<br />
<br />
日本在住のオーストラリアの研究者だった。それにも驚いた。しかし、私の行きつけの市内の図書館では、結局、この本しか置いていなかったのである。<br />
<br />
これほどの映像作家の解説本の少なさに、正直、驚きを禁じ得なかった。<br />
<br />
その理由が全く分らなかった。私は意地になって、成瀬の作品を繰り返し繰り返し観続けた。舐めるようにして、吟味するようにして観続けた。<br />
<br />
「井の中の蛙」とはよく言ったもので、私は知らなかったが、成瀬の再評価は当時既に始まっていて、都内の各館でも彼の作品の上映会が地味ながらも継続していたようだ。私は少し安堵した次第である。<br />
<br />
成瀬との出会いがなかったら、私はこの国の50年代映画の隠れた傑作と出会えなかったかも知れない。まして、戦前のサイレント映画まで鑑賞の対象を広げようとは思わなかったはずである。それもまた、成瀬の「夜ごとの夢」という作品のお陰である。<br />
<br />
<div style="text-align: right;">
</div>
成瀬は私にとって最高の映像作家であり、その作品は、私の曲線的な人生の、その細(ささ)やかなる糧になっていると断言できる。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHNFeNynjl5YuAvSGU4DaWDvnjIWlAkcBvz2-oy5NHmYcrHK2-ylbIxmZ2uPn6gX-XuHNULsUDkSL12HiicmHc6tk3p1m5CKwVsFXK39YuPg_lzSFUHnm2jRf3PIc32JeLSn1VlSWT3yo/s1600/o0579040010421943033.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="221" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiHNFeNynjl5YuAvSGU4DaWDvnjIWlAkcBvz2-oy5NHmYcrHK2-ylbIxmZ2uPn6gX-XuHNULsUDkSL12HiicmHc6tk3p1m5CKwVsFXK39YuPg_lzSFUHnm2jRf3PIc32JeLSn1VlSWT3yo/s320/o0579040010421943033.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「稲妻」より</span></td></tr>
</tbody></table>
中でも、「浮雲」は、「稲妻」とともに私が最も愛好する作品である。<br />
<br />
その作品の完成度の高さに於いては、「流れる」という抜きん出た傑作に及ばないと私は勝手に思っているが、好みから言えば、私には「浮雲」しかないのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
1 終りが来ない滅入るような描写の連射 ―― その天晴れな表現宇宙<br />
<br />
<br />
<br />
―― 長い前置きになったが、その「浮雲」についての雑感から書いていくことにする。<br />
<br />
<br />
「浮雲」―― それは多分に諧謔性を含んだ一連の成瀬作品と明らかに距離を置くような、男と女の過剰なまでに暗鬱なる情念のドラマである。<br />
<br />
大体、ここまで男と女の心の奥の襞(ひだ)の部分まで描き切った映画が他にあっただろうか。<br />
<br />
時代がどのように移ろうと、男を求める女の気持ちが変わらないばかりに、時には冷笑し、弄(もてあそ)び、突き放し、惰性に流されていく小心で凡俗な男に縋りつくことを止められず、どこまでも狂おしいそんな自我を曝(さら)して生きた、痛々しいまでに哀切な女の振幅の記録。<br />
<br />
映像の大半は、この男と女の遣る瀬無い表情と、発展性のない会話に埋め尽くされる。<br />
<br />
滅入るような描写の連射に終りが来ないのだ。そんな天晴れな表現宇宙に脱帽する外なかった。<br />
<br />
<br />
女の死によって初めて知る女への深い愛、という安直な解釈で括るのは止めよう。<br />
<br />
男はただ、どこかで予期していた女の突然の死に狼狽(うろた)えただけなのかも知れぬ。<br />
<br />
男はいつもどこかで降りたかった物語の呆気ない結末に安堵しつつ、集中的に襲ってきた女へのノスタルジーに慟哭したのだろうか。<br />
<br />
一切が真実であるとも言えるし、何もかも幻想であるとも言えるのだ。<br />
<br />
時代の多少の制約を受けつつも、男と女の問題の闇の深さは限りなく普遍的だ。<br />
<br />
この映画は特別な人間の、特別な展開と軌跡を映し撮ったものではない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBrZLsKPWVU96anOxflZrNe_L62RdABpaOGuG4sUlvVG1nehd-1Buc6bKRKF-uq_-S-Y0Ee4AqZoI1N0WYMad3DBTGnYzA2FKCXSmN00E0W_9vtbTcEXwSeXN_vFUV-uvQWYm5TFwV_Jrf/s1600/012750.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="282" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgBrZLsKPWVU96anOxflZrNe_L62RdABpaOGuG4sUlvVG1nehd-1Buc6bKRKF-uq_-S-Y0Ee4AqZoI1N0WYMad3DBTGnYzA2FKCXSmN00E0W_9vtbTcEXwSeXN_vFUV-uvQWYm5TFwV_Jrf/s400/012750.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">仏印での富岡</span></td></tr>
</tbody></table>
或いは、富岡とゆき子は私であり、あなたであり、その友人であるに違いない。<br />
<br />
だからこそ、多くの者は了解し得るであろう。愛はときめきである以上に、しばしば最も苦しくストレスフルなものであることを。<br />
<br />
ゆき子の哀しさにどこまで迫れるか。<br />
<br />
それは観る者の人生の色彩と、その微妙な濃度の差異によって決まるだろう。<br />
<br />
完成度の高さは別にして、この映画に対する評価はゆき子への感情移入の度合いによって分れるとも言える。<br />
<br />
少なくとも私にとって、この映画は世界でナンバーワンの超一級の作品である。<br />
<br />
ゆき子を演じた高峰秀子の演技は完璧すぎて、他の追随を許さない。<br />
<br />
全篇を通して流れる気だるさ含みの叙情的音楽もまた、映画の完成度を高めている。<br />
<br />
この日本映画史上の最高傑作を、私はこれからも幾たび観ることになるだろうか。<br />
<br />
繰り返し観ていく中で何かを新鮮にし、何かを補っていく。それはもう、殆ど私の趣味である。<br />
<br />
<br />
<br />
2 泣き崩れる女、俯く男<br />
<br />
<br />
<br />
―― 私の心の襞(ひだ)に永遠に灼きつくであろう「浮雲」のストーリーを、詳細に追っていこう。<br />
<br />
<br />
昭和21年初冬。<br />
<br />
一人の女が仏印(仏領インドシナ=現在のベトナム)から単身引き揚げて来た。<br />
<br />
まもなく女は、代々木上原にある男の家を訪ねていく。<br />
<br />
焼け跡の東京の風景は、この国の他の都市の多くがそうであったように、あまりに荒涼としていた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6863d6cwoQqHwboOn2NPyLDI2hKPwF1OnhqI8gjOU1BRqKay-7wlI0iPjWAxR9eQH7YYlc564n68s1EOuJIKAujKOX7wzV-Wh4Rnyl1j2F0uoPPkPb4fSsrigbKtjxVdAQOsYDfJP7N0/s1600/c0179469_7242712.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612408907538773826" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj6863d6cwoQqHwboOn2NPyLDI2hKPwF1OnhqI8gjOU1BRqKay-7wlI0iPjWAxR9eQH7YYlc564n68s1EOuJIKAujKOX7wzV-Wh4Rnyl1j2F0uoPPkPb4fSsrigbKtjxVdAQOsYDfJP7N0/s400/c0179469_7242712.jpg" style="float: right; height: 254px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 337px;" /></a><br />
そこだけが何とか戦災から逃れたらしい、古寂(ふるさび)れた木造の一軒の平屋の前に女が立ち、玄関を開けるのを躊躇(ためら)う気持ちを振り切って、女はどの硝子にも筋交(すじか)いにテープの貼ってある格子戸を開け、「富岡さんいらっしゃいますか」と、玄関に出て来た50年配の上品な女性に向かって尋ねた。<br />
<br />
「ちょっと、お待ち下さいませ」<br />
<br />
言葉遣いも上品な婦人に促されて出て来たのは、これも上品だが、地味な出で立ちの30過ぎの印象を与える女性だった。<br />
<br />
明らかに、着の身着のままで訪問した女とはコントラストの外観を際立たせているが、映像に映し出された相手の女の生気のない印象は、この女の色気のなさを露呈しているようでもあった。<br />
<br />
その作った笑顔から鈍く光る金歯の造型が、いかにも婦人の年輪を感じさせるものがあったからだ。<br />
<br />
映画の冒頭のこの訪問シーンを、林芙美子の原作から検証してみよう。<br />
<br />
「電車で見る窓外の景色は大半が焼け野原で、何も彼も以前の姿は崩れ果ててしまっているような気がした。<br />
<br />
やっとその番地を探しあてて富岡の名刺の張りつけてある玄関を眼の前にして、ゆき子は妙に気おくれがしてならなかった。同居しているらしく、別の名札が二つばかり出ていた。荒れ果てた家で、どの硝子にも細かいテープでつぎたしてあった。<br />
<br />
夜来の雨で表われた矢竹が、箒(ほうき)のように、こわれた板塀に凭(もた)れかかっている。細君に顔をあわせるのが厭(いや)であったが、電報を打っても返事が来ないところをみると、自分で尋ねていくより方法がない。<br />
<br />
ゆき子は思い切って硝子のはまった格子戸を開け、農林省からの使いだと案内を乞うた。五十年配の品のいい老婦人が出て来て、すぐ奥へ引っこんだが、思いがけなく着物姿の背の高い富岡がのっそり玄関へ出て来た。富岡はさほど驚いた様子もなく、下駄をつっかけて外へ出ると、黙ってゆっくり歩き出した。ゆき子も後を追った」(「浮雲」林芙美子集 新潮日本文学より/筆者ルビ・段落構成)<br />
<br />
実は原作には、このとき富岡夫人は玄関に現れない。<br />
<br />
映像の中で、ここに夫人を登場させたのは、恐らく夫人の生気のない印象を観る者に、ストーリーの伏線として与えるためだろう。<br />
<br />
閑話休題。<br />
<br />
訪問した女の名は、幸田ゆき子。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLSSowUl466oU1BiDuZq5ZJtOAY467tE-Mv-sQILSAGsCbTR56BxRx9r8C1f5N1RmRqzGZlhrk14Nudy8iyB5dOi5FXrm_xoFwkI9EtLXDtsFgLi2LnpSQ4Wp3mkdsJrp3CU_wdo_g-LNW/s1600/8e585e29a174248e54b364d0063834a9.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="245" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgLSSowUl466oU1BiDuZq5ZJtOAY467tE-Mv-sQILSAGsCbTR56BxRx9r8C1f5N1RmRqzGZlhrk14Nudy8iyB5dOi5FXrm_xoFwkI9EtLXDtsFgLi2LnpSQ4Wp3mkdsJrp3CU_wdo_g-LNW/s320/8e585e29a174248e54b364d0063834a9.jpg" width="320" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">幸田ゆき子</span></td></tr>
</tbody></table>
彼女は戦時中富岡の愛人であり、「妻と別れて君を待っている」という言葉を信じて、男を訪ねて来たのである。<br />
<br />
世紀末のようなまるで生命の律動を感じない風景の中を、二人はその律動に合わせるかのように、ゆっくりと、寄り添って歩いていく。<br />
<br />
映像全体を象徴する、いかにも気だるい音楽が、二人の後姿を包み込むように追い駆けていく。<br />
<br />
成瀬の映画音楽を担当した斎藤一郎のエキゾチックだが、しかし叙情的なメロディが、ここではまさに一級の「メロドラマ」の雰囲気を漂わせて、作品の中に完璧にフィットしていた。<br />
<br />
「元気だね。仏印のことを思うと内地は寒いだろう」<br />
「電報着いて?なぜ、返事くださらないの?」<br />
「どうせ東京に出てくると思った」<br />
<br />
男はわざわざ自分を訪ねてきた女に対して、初めからかわしていく態度を覗かせる。<br />
<br />
男が着替えに戻っている間、女は全く人いきれのない寂れた風景の中で、仏印で富岡と最初にあった日のことを思い出していた。<br />
<br />
二人は、今度は闇市のごった返した雑踏を潜り抜けて安ホテルに落ち着いた。<br />
<br />
「内地も変わったわねぇ。こんなに変わっているとは思わなかったわ」<br />
「敗戦だもん。変わらないのがどうかしてるさ」<br />
「遥々(はるばる)、引き揚げて来て・・・・」<br />
「君だけじゃないよ。引揚者は」<br />
「男はいいわ」<br />
「呑気だよ、女は」<br />
<br />
ゆき子は、まじまじと富岡の突き放したような表情を覗くだけ。<br />
<br />
そこには、明らかに愛し合った、ほんの少し前の関係との隔たりを感じさせる寂しさが映し出されていた。一切は幻想だったのか。<br />
<br />
「いつまでも、昔のこと考えても仕方がないだろう」<br />
「昔のことが、あなたと私には重大なんだわ。それを失くしたら、あなたも私もどこにもないんじゃないですか」<br />
<br />
終戦が、二人の関係を切ってしまった。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi05Car1zbnDuSLolvteIlhD24Gp-XjZ-tUJnqY9oLzHPWA1BmmBfatIY-N9ize2X5Un6fPgDzoiKTZ4tBTvTyE4L-QUyPASH8Z9qpNSJGbvl_67OKCh1-BD7mymqljqvuRolqMbVy7VOs/s1600/37440f2fe95b89cac37fff1c4ee5a06b.jpg" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612408398453895986" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi05Car1zbnDuSLolvteIlhD24Gp-XjZ-tUJnqY9oLzHPWA1BmmBfatIY-N9ize2X5Un6fPgDzoiKTZ4tBTvTyE4L-QUyPASH8Z9qpNSJGbvl_67OKCh1-BD7mymqljqvuRolqMbVy7VOs/s400/37440f2fe95b89cac37fff1c4ee5a06b.jpg" style="float: right; height: 242px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 322px;" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">仏印でのロマンス</span></td></tr>
</tbody></table>
仏印での出来事は、富岡にとってどこまでも旅先でのゲームであり、日本に戻った生活こそが現実そのものの世界に他ならない。<br />
<br />
ゆき子には、それが心のどこかで理解できていたとはいえ、やはりどうしても消すことができない大切な記憶に他ならなかった。<br />
<br />
彼女には旅という観念がなく、それ以上に終戦という未曾有の歴史的出来事で、時間を区切っていく観念が全くなかったのである。<br />
<br />
富岡はそんなゆき子に、現金を包んだ封筒を徐(おもむろ)に差し出した。<br />
<br />
「いや!いらないわ。逃げてくの?私を捨てるつもりなのね。あなたに会いたい一心で戻って来たのに」<br />
<br />
「君に気の毒だと思うからだよ。正直に言えば、僕たちはあの頃夢を見ていたのさ。こんなこと言うと、君は怒るだろうが、日本へ戻って丸っ切り違う世界を見ると、家の者たちをこれ以上苦しめるのは酷だと思ったんだ。とにかく戦時中をだな、僕を待っていた者に、ひどい別れ方はできなくなってしまったんだよ。別れるより、仕方ないよ」<br />
<br />
「嫌よ!それじゃあ、あなたたちさえ良ければ、私のことはどうなってもいいの?そんな簡単なものなの」<br />
「君は疲れているんだ。自分のこと、よぅく考えてごらん」<br />
<br />
「初めっから、家や奥さんが大事なら、真面目に通したらいいのよ!・・・・・・別に奥さんを追い出したいなんて思わないけど、君が帰るまでにはきちんと解決して、奥さんとも別れて、さっぱりして君を迎えるなんて。そんなら玄関で会ったとき、奥さんたちとの前で、はっきり宣言したらいいのよ。日雇い人夫をしてでも二人で生きようだなんて!帰ってみれば虫けらのように、叩き捨てられるのね。勝手なもんだわ!」<br />
<br />
女はここで泣き崩れた。<br />
<br />
男は終始無言で、俯(うつむ)いているだけ。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhq1otFR3aePZtgN0_fIvwSvfmth6oJQdlzRKZu-ouIYohxCw7hyphenhyphenQD1aDeeruWS-JBHQxGt1m_iZNF9cRL8fkMEgveOu_Sml-FKPtS8lyu2_-XsA0RqOOuqS8h3jjfTqhCoxzrUxmPDGMhR/s1600/101006_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhq1otFR3aePZtgN0_fIvwSvfmth6oJQdlzRKZu-ouIYohxCw7hyphenhyphenQD1aDeeruWS-JBHQxGt1m_iZNF9cRL8fkMEgveOu_Sml-FKPtS8lyu2_-XsA0RqOOuqS8h3jjfTqhCoxzrUxmPDGMhR/s400/101006_02.jpg" width="400" /></a></div>
ここに、男の側から別れを言い出したときの定番的な会話がある。<br />
<br />
捨てられることを予感しつつも、女の側からなお身を投げ入れていくどうしようもない感情のうねりがあって、男はただこの一時(いっとき)を耐えればいいという身勝手な思いによって、女の前でひたすら恭順するように座り続けているのだ。<br />
<br />
こんなとき、男の心中では大抵、他のことを考えることで遣り過ごしている。<br />
<br />
遣り過ごすことだけが、男にとって今、最も不可避なる態度であるからだ。<br />
<br />
その態度を陰鬱な表情を添えて、女の前に見せていればそれで済むことなのだ。<br />
<br />
重い債務的なものを引き受けない男の典型が、ここで存分に映し出されていた。<br />
<br />
<br />
<br />
3 男を追う女、皮肉を捨てる男 <br />
<br />
<br />
<br />
富岡と別れたゆき子は、生活のために娼婦になっていた。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIVA3Esxf0YW4IUeU8IkCe_eiuDOgCQSx9tNEuMG17Jciv1mP5ePKDEihHUs9h_aVOk0vrM2NlA_f1J-w1GIHfPnFActyFh9dg002-4Fsf-HSHpP-oLbtGuRUheDQnuWvs0ZoPO_2iyTY/s1600/a6f86704.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIVA3Esxf0YW4IUeU8IkCe_eiuDOgCQSx9tNEuMG17Jciv1mP5ePKDEihHUs9h_aVOk0vrM2NlA_f1J-w1GIHfPnFActyFh9dg002-4Fsf-HSHpP-oLbtGuRUheDQnuWvs0ZoPO_2iyTY/s400/a6f86704.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
それでも彼女は男を忘れられないでいた。ゆき子からの手紙を受け取った富岡は、外見的に殆ど娼婦と見間違えることのないゆき子を、そのバラック建ての粗末な造りの家に訪ねた。<br />
<br />
「幸福そうだね」<br />
「そう見える?」と睨むように言った後、「日干しにならなかったっていうだけね」と続けた。<br />
「羨ましいなあ」<br />
<br />
これも男の言葉。その言葉の内には、屈折した思いが隠されている。<br />
<br />
「何言ってんのよ。何が羨ましいの?こんな暮らしのどこが羨ましいの」<br />
<br />
当然、女は反発する。<br />
<br />
「・・・・何もかも上手くいかないとね、惨めに人の暮らしだけ羨ましくなるんだ」<br />
「人を馬鹿にしてる。男って勝手なもんだわ」<br />
<br />
自分の暮らし向きの不調を訴えながら、男はここでもまた、何とか工面した金を渡そうとするのだ。<br />
<br />
「もう遅いわ」<br />
<br />
女は男に視線を合わせずに、そう答えた。<br />
<br />
「ダラット(注3)に残って、あっちで一緒に暮らすんだったね」<br />
<br />
男はそれとなく未練を残すような反応をした。そこに、ゆき子のパトロンのような米兵が訪ねて来て、ゆき子は相手を中に入れずに、大男を抱えるようにして街路に消えて行った。<br />
<br />
富岡はそこに一人残されて、女の帰りを待っている。<br />
<br />
まもなく女が戻って来て、暗い室内に蝋燭(ろうそく)を灯して、米兵との経緯を話した。「どうして知り合ったんだ」という富岡の、未練を含むような問いかけがあったからだ。<br />
<br />
その米兵がまもなく帰国することを女が話したとき、男の反応には毒気があった。<br />
<br />
「また、次を探すんだね」<br />
<br />
ゆき子から、その米兵が如何に「いい人」であるかということを聞かされた富岡の皮肉は、明らかに嫉妬感の裏返しだった。<br />
<br />
「あなたって、そういう人よ」<br />
<br />
ゆき子には、そんな富岡のニヒルな態度の奥にあるものが透けて見える。そんな男に魅かれる自分の気持ちの説明し難さもまた、百も承知である。<br />
<br />
「今夜、泊まってもいいかい?」<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPoQgG-_RLcAlC89L9BP1h7aab1z4S0IdbBCMS_gNem0EedQtw2ah_jjCWVrM5WkNgDQmvgxjr4E0wA7XrTz56qFdfehS2wSwWjSyMNbz_EGzK9woEPw0nAaLq9Gb-y8YFcKNe5DD4UhLa/s1600/img_137897_12748286_8.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="189" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiPoQgG-_RLcAlC89L9BP1h7aab1z4S0IdbBCMS_gNem0EedQtw2ah_jjCWVrM5WkNgDQmvgxjr4E0wA7XrTz56qFdfehS2wSwWjSyMNbz_EGzK9woEPw0nAaLq9Gb-y8YFcKNe5DD4UhLa/s320/img_137897_12748286_8.jpg" width="320" /></a></div>
この男が本音に近いところを剥(む)き出しにするのは、常に関係が作る空気を測って得た時宜に嵌った場面に於いてである。<br />
<br />
男はいつもどこかで計算しているのだ。女もそれを分っているから、相手の誇りを傷つけない程度の皮肉で返していく。<br />
<br />
しかし今、女は内側でプールされた感情を吐き出さざるを得ない心境にあった。<br />
<br />
「泊まるつもりで来たんじゃなかったの」<br />
「そのつもりさ」<br />
<br />
「嘘言ってる。急に泊まりたくなったんでしょ。分るわ。あたし一つ利口になった。あなたってやっぱりそんな人だったんだわ。あたしをすっかり眩(くら)ましたつもりで、女を甘く見ちゃいけないわ。まるで何一つできもしないで、あたしを馬鹿にしないでちょうだい。自分の都合のいいことばかり考えて、その程度で女をどうにかする気持ちって、貧弱なもんだわ」<br />
<br />
「君は逞しいさ。敬服するよ」<br />
「あなたの力じゃどうにもならないんでしょ。あたしと一緒に暮らすことができなければ、あたしの生活はあたしでやっていくんだから、そのつもりでいて下さいね」<br />
「邪魔はしないさ。邪魔はしないが、時々は遊びに来てもいいんだろ?」<br />
「いや!そんなの!」<br />
<br />
女はもう、それ以外にない激しい感情を返していく。 <br />
<br />
「営業妨害かね?」<br />
<br />
相手はどこまでも喰えない男なのだ。 <br />
<br />
「まあ・・・それがあなたの本心なのね」<br />
<br />
気まずい沈黙の後、男はそっと立ち上がり、静かに女の前から姿を消した。女は恐らくここまで言うつもりはなかったのだが、しかしその心の奥にあるものを、このときばかりは吐き出さざるを得なかったのである。<br />
<br />
それでも、女は男が恋しい。だから女は男を追った。急いで追った。しかし、そこに男はいなかった。女の表情に悔いの念が刻まれていた。<br />
<br />
<br />
(注3)フランス人によって開発されたベトナムの観光的な高原都市で、今や避暑地となっている。<br />
<br />
<br />
<br />
4 時代と接続しない男と女<br />
<br />
<br />
<br />
まもなく別れた男から連絡があり、女は嬉々として男を待った。<br />
<br />
千駄谷の駅前である。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhP3TZdz9Y2-XWP26Y9FtbYiTLFcQPNVC0LUFBPPI8cqHYXrQu-Vc3qm2PwzEpUVUPlTygADiY00ooklO3s2PuUh5QtOaeQ4RQ7173d86klzWT-fyjJr6LW1WFQgmxtXJSvpTNy4kYDFf8/s1600/14-3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhP3TZdz9Y2-XWP26Y9FtbYiTLFcQPNVC0LUFBPPI8cqHYXrQu-Vc3qm2PwzEpUVUPlTygADiY00ooklO3s2PuUh5QtOaeQ4RQ7173d86klzWT-fyjJr6LW1WFQgmxtXJSvpTNy4kYDFf8/s400/14-3.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">赤旗の行進・(イメージ画像・沖縄「5・15平和行進」)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
そこに赤旗を掲げた労働者たちの、まるで魂を解き放ったかのような力強い行進が列を組んで進んでいく。画面に収まり切れないエネルギーが駅前を澎湃(ほうはい)し、うねりを上げて空間を支配しているようだ。<br />
<br />
しかし全く時代と接続しない男と女が、その隊列を横切るように物憂げに歩いていく。<br />
<br />
世界がどれほど変わろうと、時代がどれほど移ろうと、その流れにクロスできない男と女。自分の内側に抱えた澱んだ感情に翻弄されて、二人は眩いばかりの陽光を背に浴びながら、そここだけは舗装されてある道路の定まったラインの上を、凭(もた)れるようにして歩いている。<br />
<br />
因みに、赤旗の行進の描写は原作にはない。<br />
<br />
しかしこの描写こそ、映像を通して最も印象的なシーンの一つであると言っていい。映像の固有の表現力が際立つ描写だった。<br />
<br />
「ねえ、どこまで歩くのよ」<br />
「渋谷にでも出てみようか」<br />
「あたしたちって、行くところがないみたいね」<br />
「そうだな・・・・どこか遠くへ行こうか」<br />
<br />
毒気をお互いに意識的に抜いた何気ない会話の中に、既に二人の関係の有りようを見事に映し出していた。<br />
<br />
「行くところがない」二人の関係世界だったが、取り敢えず、二人は旅に出た。<br />
<br />
<br />
<br />
5 空疎な浮遊感の中に ―― 置き去りにされた女、世俗と切れない男 <br />
<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4KT7m2AuatmRpge_xtbYErjErahyphenhyphenkJtLDF_KQbhI0X9oMtL9Yh6_IDZx3K5Cu-z04aqTHgdIMTQXXJVFBV_qM3c6Jradc6O3bb3ex5YCOdRaL1-A0z4-sMe5vFfzny6exLc4y_GfwxVA/s1600/20110607110522.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="287" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi4KT7m2AuatmRpge_xtbYErjErahyphenhyphenkJtLDF_KQbhI0X9oMtL9Yh6_IDZx3K5Cu-z04aqTHgdIMTQXXJVFBV_qM3c6Jradc6O3bb3ex5YCOdRaL1-A0z4-sMe5vFfzny6exLc4y_GfwxVA/s400/20110607110522.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
群馬県伊香保温泉。<br />
<br />
それが彼らが選択した「遠く」の世界だった。<br />
<br />
特急列車も満足に走っていないこの頃の人々にとって、伊香保への旅は、それなりに世俗と切れる精一杯のユートピアだったのだろうか。<br />
<br />
しかし二人は、どこへ行っても世俗とは切れなかったのである。<br />
<br />
伊香保温泉。正月である。<br />
<br />
しかし、二人がこもった部屋には、正月の厳粛な空気とは無縁な空疎な浮遊感があった。<br />
<br />
「・・・・あたし諦めちゃったの。気が向いたときがあったら、こうして会ってもらえばいいことよ」<br />
<br />
それには答えず、富岡はゆき子に切り出した。<br />
<br />
「・・・・君は死ぬとしたら、どんな方法がいいの?」<br />
「そうねぇ。青酸カリが一番楽なんでしょうね」<br />
「僕は君と榛名にでも登って、死ぬことを空想していたんだがね」<br />
「偶然だわ。あたしもそんなこと、この間考えたことあったのよ」<br />
<br />
一瞬、富岡はゆき子の顔をまじまじと見て、眼を逸(そ)らし、沈んだ表情で酒を飲み注いだ。<br />
<br />
「あなたそれで来たの?ここへ」<br />
<br />
冗談交じりに反応していたゆき子は、男の沈鬱さを前に表情を強張(こわば)らせた。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEinisQjfdkpJ1XIwvInWmh6i8eEeJ3sm1Fdffd8-tCN3yrKw8ifusylANt25wx316prpFW_Lne1CcfejbvxJcxDdS0_mdhT_n8lnGWYDHP1kupoSGQJBad4VCZa5eJQq3UWYOh1SsLINdE/s1600/f0147840_23594629.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612441725685425458" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEinisQjfdkpJ1XIwvInWmh6i8eEeJ3sm1Fdffd8-tCN3yrKw8ifusylANt25wx316prpFW_Lne1CcfejbvxJcxDdS0_mdhT_n8lnGWYDHP1kupoSGQJBad4VCZa5eJQq3UWYOh1SsLINdE/s400/f0147840_23594629.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 251px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 315px;" /></a><br />
伊香保の温泉の湯に、二人は浸(つ)かっていた。<br />
<br />
「ねえ、あたし、あなたをもっと生きさせてあげたいのよ。いっそお正月をここで暮らしていかない?」<br />
「明日帰るよ。君とは死ねないよ。もっと美人じゃなくちゃ駄目だ」<br />
<br />
帰るつもりの富岡は、偶然出会った飲み屋の主人、清吉に時計を買ってもらって、おまけに主人の誘いでもう一晩温泉に泊まることになった。<br />
<br />
富岡はここで、清吉の年の離れた女房のおせいと知り合って、忽ちの内に男女の関係に発展してしまう。<br />
<br />
上京してダンサーになることを願うおせいにとって、富岡の存在は東京に誘ってくれる使者でもあった。<br />
<br />
ゆき子には、そんな関係の展開は疾(と)うに見透かしている。全て分っていても、男を恋うるゆき子は、そんな自堕落な男の前で嗚咽してしまうのだ。<br />
<br />
「どうしたんだい」<br />
「どうもしないわ」<br />
「疑っているのか・・・・少し歩いてみようか・・・・僕は神経衰弱なんだよ。寂しいんだ。どうにも遣り切れなくなるんだ」<br />
「・・・・あなたって大変な方なんだから」<br />
<br />
<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxq9dVzdPXY5D8iRVPKBozPUMZ1VV1ZkaQuymKiXvZlI04bq7afryF19JpHUKNg3o4h5Sq77QzoyUy5lEovyd6HpWLWoeeAj8kAiGQt28cF5wSN-mM8YS3D6EYnT-5VBFxmjHeU1aap2w/s1600/naruseukigumo6.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgxq9dVzdPXY5D8iRVPKBozPUMZ1VV1ZkaQuymKiXvZlI04bq7afryF19JpHUKNg3o4h5Sq77QzoyUy5lEovyd6HpWLWoeeAj8kAiGQt28cF5wSN-mM8YS3D6EYnT-5VBFxmjHeU1aap2w/s400/naruseukigumo6.jpg" width="383" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">おせい(左)</span></td></tr>
</tbody></table>
ゆき子の涙は最後まで止まらない。既に諦めている。<br />
<br />
<br />
<br />
6 暗い線路沿いの道を、夫婦のような歩調を刻む男と女<br />
<br />
<br />
<br />
結局、二人は伊香保での滞在を切り上げて帰郷した。<br />
<br />
「まだ気にしているのか」と男は、ゆき子の粗末な家で、その引き摺っている思いを確かめる。<br />
「あなたって怖い人だわ。自分のことばかり可愛いんでしょ」<br />
「可愛いいから生きるのに未練があるんだ。死ぬのは痛いからな。もうそんな勇気もないね」<br />
「しょうがない人ね。それで他人にはよく見えるんだからいいわ。見栄坊で、移り気で、そのくせ気が小さくて、酒の力で大胆になって、気取り屋で・・・・」<br />
「気取り屋か、それからまだあるだろ?悪いところが」<br />
「ええ、人間の狡さは一杯持って、隠している人なのよ。そのくせ、事業の方にはてんで頭が働かないところはお役人的なんでしょ」<br />
<br />
こんな気だるい会話しか、二人は繋げない。<br />
<br />
それでも別れられない。男の感情も捨てられてないが、女のそれはもっと捨てられてないからだ。伊香保に残したおせいへの嫉妬感も、当然捨てられていない。<br />
<br />
そこに女が触れたとき、男はきっぱりと言った。<br />
<br />
「もう遅い。捨ててきた。人生は別れ際と勘定時が大切だからな」<br />
<br />
しかし、男はおせいと別れていなかった。<br />
<br />
上京したおせいはアパートを借りて、そこに富岡も同棲していたのである。<br />
<br />
何もかも分っているゆき子だが、それでも浮気者たちの仮の巣を訪ねていく。おせいはそこにいた。<br />
<br />
富岡が留守であることを知って、部屋で待たせてもらうというゆき子の態度に、おせいはきっぱりと言い切った。<br />
<br />
「あの人、奥様の方にお帰りになってるんです。昨日いらしたばっかりだから、当分ここにはいらっしゃらないんですけど。奥様もお具合が悪いもんですから」<br />
<br />
そんな若い娘の嘘を見抜いたゆき子は、外出したおせいに入れ替わるように、一人寂しく他人の部屋で待っていた。裏切られてもなお諦めきれない感情が、女の中で哀しいまでに澱んでいる。<br />
<br />
その女の心に合わせるように、男は部屋に戻って来た。<br />
<br />
「いつ来たの?」<br />
<br />
男は、いつものように全く驚く素振りを見せない。<br />
<br />
「おせいさんに会いましたわ」<br />
<br />
拗(す)ねるように帰ろうとした女を、男は引き留めた。この状況では、それ以外にないという嗅覚のような判断で、常に男は女とクロスしてきたに違いない。<br />
<br />
女もそれを分っている。それでも男の話を聞いてしまうのだ。<br />
<br />
「君は僕を嫌な奴だと思っているだろう」<br />
「ええ」<br />
「しかし伊香保から帰った日、君とはもう・・・・」<br />
「そうよ。どうせあたしは捨てられたんだから。何も方々探し回ってくる必要はなかったのよ」<br />
<br />
グダグダと言い訳をする男に対して、女は自分が富岡の子を宿していることを告げた。子供のいない男はそれを聞いたとき、懐妊している子を是非産んでくれ、と女に頼んだのである。女は迷っているようでもあった。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIWGvLAmwp0nCoHUCsIjqjCdaOHqdsIQomEgWEyHxzsHvupHQ7Y1MxdlqtkMXhTb0VB8kjNaYZaNqX6Doa_kkNbzctUDOsjKrwn1A8DahXrRBM5bYF0vGqwjOA1h50324yRyx3KE0lvdI/s1600/201101081651479dd.gif"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612413956740382962" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIWGvLAmwp0nCoHUCsIjqjCdaOHqdsIQomEgWEyHxzsHvupHQ7Y1MxdlqtkMXhTb0VB8kjNaYZaNqX6Doa_kkNbzctUDOsjKrwn1A8DahXrRBM5bYF0vGqwjOA1h50324yRyx3KE0lvdI/s400/201101081651479dd.gif" style="float: right; height: 314px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 264px;" /></a><br />
暗い線路沿いの道を二人は、まるで夫婦のような歩調で歩いていく。<br />
<br />
声高の会話のない静かな律動が、まるで予定調和のストーリーで流れていくような印象的なシーンである。<br />
<br />
自分の子を産んでくれと再び頼む男の思いが、女の心に優しく寄り添っているからであろう。<br />
<br />
<br />
<br />
7 無邪気な子供の世界と、ドロドロとした大人の世界の、その見事なコントラストの構図<br />
<br />
<br />
<br />
ゆき子の心は決まっていた。<br />
<br />
彼女は新興宗教を立ち上げて荒稼ぎしている義兄の伊庭(いば)を訪ねて、金を借りたのだ。<br />
<br />
伊庭はゆき子の最初の男であり、帰国直後、彼の留守宅を間借りしていた経緯もある。<br />
<br />
かつて自分をレイプした憎むべき男だが、ゆき子にはこんな男しか頼るべき伝手(つて)がなかったのだ。<br />
<br />
ゆき子は富岡との子供を堕した病院のベッドの上に、暗鬱な気分で沈んでいた。<br />
<br />
この女の虚ろな視界に、突然侵入してきた衝撃的な情報。<br />
<br />
女の眼に映った新聞の片隅に、「女給殺しの夫自首」という記事が、そこだけが独立したスペースのように写真入で貼りついていた。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcUNkH82_18AAKIiInrFwV1Ax28UD-OABmWrjxlDip1BC__QpNvoGrJnXYyBMCUC5LVrtsWxsecvc_iR35uibAO5JUDF6fAztnBLIlb11BRi0bUDaT3Dav5Mqg6XBOUPxqqHQbhFfdMyx3/s1600/20120507143531.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="221" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcUNkH82_18AAKIiInrFwV1Ax28UD-OABmWrjxlDip1BC__QpNvoGrJnXYyBMCUC5LVrtsWxsecvc_iR35uibAO5JUDF6fAztnBLIlb11BRi0bUDaT3Dav5Mqg6XBOUPxqqHQbhFfdMyx3/s320/20120507143531.jpg" width="320" /></a></div>
そこに貼りついていた写真の主は、伊香保の飲み屋の主人清吉と、彼を裏切った若妻おせい。年の離れた夫の嫉妬によって、つい先日会ったばかりの、あのおせいが殺害されたのである。<br />
<br />
この描写だけが、映像で唯一、「文学的偶然性」に頼ったシーンになっている。<br />
<br />
逆に言えば、それだけこの映画が自然な描写で繋がった、人間の心の様をリアルに綴ってきた作品になっているということである。<br />
<br />
ゆき子は、おせいのいない部屋に富岡を訪ねていく。<br />
<br />
すっかり沈み込んでいる男は、「独りにしてくれ」と女を突き放す。女は、今まで溜めに溜めてきた男に対する鬱憤を吐き出した。<br />
<br />
「そんなに忘れられないの。子供を始末して良かったでしょ?産んでくれなんて、子供のことなんか考えてもいないくせに。心にもないこと言って、本当はせいせいしているくせに。あたしが勝手にやったことにして、自分だけいい子になって、顔見たときだけ美味しいこと言って、何さ!おせいを殺したのはあんたよ!あたしが手術のやり直しを何回もして苦しんでいる時だって、あんた知らん顔だった。勝手に始末させて、そのままあたしが死んだって、あんた来もしないで、お線香一本あげに来る人じゃないわ。伊香保で心中するつもりなんて、それもあんたの出任せよ。あたしが死ぬのを見て、自分だけゆっくりその場を逃れていく人よ!」<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlLq5PJFFgx5XQsN-dFGWOqtjuBgeOO8vTZmn81Y6q4QQRJ6MSSotLPkix_YyqRjw7ZB_BanS_-_xcB2CiiPLk9MUdQWQ5_fIS4RJVyEI614yNban9h29d5X1J4TB-KPdIAEkrcaSc2ST/s1600/20110504232723.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720724359940011634" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdlLq5PJFFgx5XQsN-dFGWOqtjuBgeOO8vTZmn81Y6q4QQRJ6MSSotLPkix_YyqRjw7ZB_BanS_-_xcB2CiiPLk9MUdQWQ5_fIS4RJVyEI614yNban9h29d5X1J4TB-KPdIAEkrcaSc2ST/s400/20110504232723.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 240px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 357px;" /></a><br />
女は何度、男の前で涙を見せるのだろう。<br />
<br />
二人の会話はいつもドロドロしていて、どこまでも暗鬱なのだ。救いがないのだ。<br />
<br />
こんなとき、男の反応は常に変わらない。<br />
<br />
「皆、僕が悪いんだ。僕だけが悪いんだよ」<br />
<br />
計算したような男の反応に女は愚痴を吐き出して、後は泣き崩れるだけ。<br />
<br />
アパートの暗い廊下で、子供たちが飯事遊びに興じていた。<br />
<br />
扉一つで隔たった空間に、無邪気な子供の世界と、ドロドロとした大人の世界が、見事なまでのコントラストを描き分けていた。<br />
<br />
(因みに、この場面も原作にはない。ここも映像の創作性が際立つ描写であった)その扉の内側では、泣いて泣いて泣き崩れて、もう涸れるまで涙を吐き出した女が悶えていたが、やがて女は一人、アパートを離れて行った。<br />
<br />
<br />
<br />
8 縋りつく女、拒めない男<br />
<br />
<br />
<br />
今度は、富岡がゆき子を訪ねて来た。<br />
<br />
先日の無礼を詫びに来たのではない。富岡の病弱な妻が死んで、その葬儀費用を借りに来たのだ。このとき富岡は、ゆき子が新興宗教で成功している伊庭のもとで厄介になっていることを知っていて、明らかに計算尽くで女を訪問したのである。<br />
<br />
そんな男の気持ちをとうに察知しているゆき子だが、男に頼まれたら拒むことができようがない。二人は、陽光を眩しいまでに吸収している、まだ舗装されていない土埃のする道路を、いつものような生気のない律動で歩いていく。<br />
<br />
そしていつものように、斎藤一郎の気だるい音楽が、その律動に合わせて物悲しく追い駆けていく。<br />
<br />
「ねえ、これからどうするつもりなのよ、一人で」<br />
「どうするって、ご覧の通りだ・・・・」<br />
「・・・・やっぱり、あの部屋に今でもいるの?」<br />
「ああ」<br />
「もう一度会って、ゆっくり話がしたいけど」<br />
「職を探さなきゃあ、手も足も出ない・・・・」<br />
<br />
今度の別れは、あっさりしていた。男の心を現実的な観念が支配していて、それが女からの侵入を固く塞いでいたからである。<br />
<br />
それでも、ゆき子の中に何かがまだ燻(くすぶ)っていて、それが出口を求めて動き出したのである。<br />
<br />
今度は、ゆき子からの富岡への呼び出し。<br />
<br />
その電報には、「来なかったら死ぬ」と書いてあった。<br />
<br />
小心な富岡が、そんな電報を受け取って訪ねて来ない訳がない。<br />
<br />
ゆき子は伊庭の金を持ち逃げして、旅館で男を待っていたのである。<br />
<br />
「死ぬつもりで伊庭のところを出て来た」という女の切迫感に対して、男は殆ど不感症になっている。<br />
<br />
「あんた、女だけを梯子している」とゆき子。酩酊状態だった。<br />
「君もせいぜい男を梯子するがいい」と富岡。醒めていた。<br />
<br />
女はここでも泣き崩れるしかない。男はそれを困惑気味に受け止めるだけ。いつものことだ。<br />
<br />
「嫌っているんじゃないよ。もうこの辺で、お互いに生き方を変えようって言うんだ・・・・僕たちのロマンスは終戦と同時に消えたんだ。いい年をして、昔の夢を見るのは止めた方がいい・・・・」<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBoyIcVb8vER5l7XkDfNk3LsGibj86MQrMy8WCfBcaEZeg4nNuZXyL84hH94SQzecPYN6U9IU44yh42J-HnMaRBcyvRpVKccHY3tS0FzjVrixr3VTuwa_iAatfLWVQcIeKYQSA5Q0-Ubw/s1600/800px-Forest_in_Yakushima_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBoyIcVb8vER5l7XkDfNk3LsGibj86MQrMy8WCfBcaEZeg4nNuZXyL84hH94SQzecPYN6U9IU44yh42J-HnMaRBcyvRpVKccHY3tS0FzjVrixr3VTuwa_iAatfLWVQcIeKYQSA5Q0-Ubw/s640/800px-Forest_in_Yakushima_02.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">屋久島・大株歩道(ウィキ)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
ここまで話した後、富岡はゆき子の傍らに座って、自分が勤務に戻ったこと、そして近々、任地先の屋久島の営林署に赴任しなければならないことを告げた。<br />
<br />
「一生そこで過ごすかも知れない」という富岡に対して、「私も一緒に連れて行って」と泣きながら、縋りつくゆき子。<br />
<br />
「伊庭のところへ帰るんだな」<br />
<br />
男は女を突き放した。<br />
<br />
「まだそんなこと言って苛めるの?・・・・二人でなんで努力しようと思わないの?まだおせいさんが忘れられないのね・・・・」<br />
<br />
女は男を責め立てるが、なお縋りつくことを止めようとしない。その間、ずっと泣き崩れている。<br />
<br />
男は逃げようとしている。しかしその緩慢な歩幅に合わせるように、後ろから女がついて来る。何も語らない。誰も泣かない。いつもの音楽が、ここでは流れないのだ。<br />
<br />
結局、男は女を伴って、おせいが住んでいたボロアパートに戻って来た。<br />
<br />
アパートの住人から、少し前に伊庭が訪ねて来たことを聞かされた富岡は、勤務先に連絡を取って、屋久島への旅立ちを早めることにした。<br />
<br />
伊庭からの連絡を求められるメモを読んで、男は今度は別の男からの逃走を決断したのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlgY9uVzmrfPIiXqRqDASMIS5l1foEbsrEpmk3KXiun9G-Gr1aJDjp7cg1jimYqzcliujil9q5PMqYQAW1r4C-i64ErYHVVZsR83uHiiHJ67oQV2hjp7tuVpaCltU9K96DLFpL-paSKH8/s1600/draft2_3.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjlgY9uVzmrfPIiXqRqDASMIS5l1foEbsrEpmk3KXiun9G-Gr1aJDjp7cg1jimYqzcliujil9q5PMqYQAW1r4C-i64ErYHVVZsR83uHiiHJ67oQV2hjp7tuVpaCltU9K96DLFpL-paSKH8/s400/draft2_3.jpg" width="400" /></a></div>
<br />
富岡とは、何事をも引き受けない男であり、一切の厄介事から逃げることを考える男なのである。<br />
<br />
ゆき子はそんな富岡に張り付いて、とうとう屋久島に同行することになった。<br />
<br />
男は決定的なところで拒めない男でもあるのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
9 小雨に咽ぶ艀の隅で、深々と寄り添う男と女<br />
<br />
<br />
<br />
鹿児島。<br />
<br />
雨が降り続いている。屋久島への船を待っているのだ。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5DH0IRW80DCayDbyp9Zp9WBoPd_JtFDVabEEvTWwbue5G1vmnx_1K1w3sx4gGe4oiQhz3udFReSpXc0t0M7jMiaUNGr_ezRrKD42_3sT00tP7AlY7l9A_Okh4e4yTz9Yhoc6pcnRJqQQ/s1600/e0146196_1951999.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612412758003598722" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg5DH0IRW80DCayDbyp9Zp9WBoPd_JtFDVabEEvTWwbue5G1vmnx_1K1w3sx4gGe4oiQhz3udFReSpXc0t0M7jMiaUNGr_ezRrKD42_3sT00tP7AlY7l9A_Okh4e4yTz9Yhoc6pcnRJqQQ/s400/e0146196_1951999.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 329px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 239px;" /></a><br />
遠い旅の果てに辿り着いたせいか、二人は落ち着きを取り戻していた。<br />
<br />
会話の中にも毒気はあるが、さらりと流せる種類のものだった。<br />
<br />
「どうだ、帰るんならここからなら丁度いいよ」と富岡。<br />
<br />
男の表情には、珍しく笑みが浮かんでいる。<br />
<br />
「まだそんなこと言っているの」とゆき子。<br />
<br />
その表情から笑みが消えた。女はどこまでも本気なのだ。彼女は揶揄(やゆ)で反応する富岡に対して、きっぱりと言い切った。<br />
<br />
「・・・・あたし屋久島に住めなかったら、ここへ来て料理屋の女中したっていいわ。女ってそれだけのものよ。捨てられたら、また、それはそれにして、生きていくんだわ」<br />
<br />
女は覚悟を決めていた。<br />
<br />
しかしその覚悟に、女の身体がついていけなかった。ゆき子の富岡に対する覚悟の微笑みは、この言葉が最後になったのである。<br />
<br />
彼女は突然、体の変調を訴えた。心身の疲労の蓄積が、遂に飽和点に達した瞬間だった。男を独占できたとほぼ確信しつつあったそのときに、女は病魔に冒されてしまったのである。計算できない悪魔が、そこに潜んでいたのだ。<br />
<br />
そんな非日常的な状況下で、男は優しかった。<br />
<br />
屋久島行きの船を見送っても、男は女に寄り添っている。その優しさに女は頬を伝う涙で反応するが、それは、取り戻した愛を身体で反応できない女の悔しさの、精一杯の表現であったかも知れない。<br />
<br />
まもなく二人は船に乗って、屋久島に辿り着く。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2OuKfFRtA7ZZCISLteYHiiAk04RGUCGBS2qbj4COuunEtAN0lAake4FTcvgFi1obVnVnvQ2qb9-3e9FDA8FZBz3GHmGC9YYrKPbpYVQgK_YbTvKMm4B7tFjqM8PB3G5qOUKwMyeHmv-8/s1600/20090825221108.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5612409241485477298" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEj2OuKfFRtA7ZZCISLteYHiiAk04RGUCGBS2qbj4COuunEtAN0lAake4FTcvgFi1obVnVnvQ2qb9-3e9FDA8FZBz3GHmGC9YYrKPbpYVQgK_YbTvKMm4B7tFjqM8PB3G5qOUKwMyeHmv-8/s400/20090825221108.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 244px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 348px;" /></a><br />
停泊地から艀(はしけ)に乗り換えて、波止場に着くまでの哀愁漂う描写は、二人がこれから迎える運命を象徴していて、蓋(けだ)し印象的だった。<br />
<br />
小雨が二人の寄り添う体を濡らしていく。<br />
<br />
病を得たゆき子の体を抱き寄せる富岡の優しさが、これまでの二人の澱んだ感情の交錯を浄化するようだった。<br />
<br />
<br />
艀が桟橋に着いて、病身のゆき子が迎えの男たちに担架で運ばれる描写は、あまりに痛々しかった。<br />
<br />
営林署の小屋のような部屋を充てがわれて、二人は長旅の最終地点にようやく辿り着いたのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
10 ランプに照らされた無垢な美しさ ―― 這って、這って、蹲った女の最後の疼き<br />
<br />
<br />
<br />
ゆき子の体は、湿気の多い屋久島の風土の中でますます悪化していった。<br />
<br />
ここに、二人の最後の会話がある。<br />
<br />
「あなたの傍で死ねれば本望だわ」<br />
「死ぬならいつでも死ねるさ。ここまで来て弱音を吐く奴があるか」<br />
「とうとうここまで来てしまったわね・・・・」<br />
<br />
その日は晴れていた。男は仕事で山に行くのである。<br />
<br />
「あたしも山に行けないの?」<br />
「そうはいかないよ。幾らなんでも」<br />
「あたしがいなくなれば、ホッとなさるでしょ」<br />
「ハハハ、ホッとするさ。女はどこにでもいるからね」<br />
「そうね。どんな立派な女でも、男から見れば女は女ね」<br />
「ようく喋るな、今朝は。それだけ喋れるようになったら、上等だ」<br />
「女はどこにでもいるなんて、悔しいわぁ」<br />
「悔しかったら、早く元気になることだな。元気になって、男と闘争するんだ。女の最大の武器でやるんだ」<br />
「憎らしいこと言う人ね。昔から毒舌家だったけど。婦人代議士が聞いたら怒りに来るわよ」<br />
「婦人代議士?ああ、あれは女だったのか、忘れてた。失礼しました」<br />
<br />
<br />
そんな冗談を言って、富岡は仕事に出て行った。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilTOmA7C_wBnxNhGQ8xr6Hzsq30TQ3GPHzZjae2Ouay09lSVw2Nt18O3ibGTDYtBco2Wp5urGFuIGHDR_hIxcbf1EK6l21IHvFUU1sfPO6fmTkhJN1IIbSigFlc3qT0oEzpOF6zXjv__c/s1600/20100516213323d73.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="488" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEilTOmA7C_wBnxNhGQ8xr6Hzsq30TQ3GPHzZjae2Ouay09lSVw2Nt18O3ibGTDYtBco2Wp5urGFuIGHDR_hIxcbf1EK6l21IHvFUU1sfPO6fmTkhJN1IIbSigFlc3qT0oEzpOF6zXjv__c/s640/20100516213323d73.jpg" width="640" /></a></div>
ゆき子は窓越しに富岡を見ている。見続けている。<br />
<br />
一人になった。そこにお手伝いさんはいなかった。<br />
<br />
弾丸のような雨が、今にも壊れかけた家屋を激しく打ち付けている。<br />
<br />
ひと月に、35日間雨が降る島なのだ。病魔に冒された女の体に良い訳がない。<br />
<br />
それでも女はやって来たのだ。<br />
<br />
死ぬために、南海の孤島にやって来たのではない。<br />
<br />
しかし、死神は女の体の深いところに、もうすっかり棲みついてしまっていたのである。<br />
<br />
一人残された暗鬱な部屋で、女の咳が止まらない。悶えているのだ。<br />
<br />
女は布団から抜け出して這っていく。<br />
<br />
窓際に這っていく。強雨で放たれた窓を閉めるために這っていく。<br />
<br />
そこで蹲(うずくま)った。動きが止まった。女は動かなくなったのだ。<br />
<br />
ラストシーンは、営林署の者を返して天に昇ったゆき子の顔にランプを照らし、死に化粧のための口紅をつける富岡の孤独な表情を映し出して、遂に思い余って慟哭する描写で括られた。<br />
<br />
ランプに照らされたゆき子の顔は、その無垢な美しさを眩く輝かせた。それは、観る者に言いようのない哀切を誘(いざな)って止まない描写だった。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjVc6LZVcbZ2q9gbj1V0EJ98JQ3D5Pb6FK-9rU_jWrJtvsbhxHjMpEb9RArUw9kEIPKVmOjWbcXhoegQ1_seH8e8Hqo_4SfY_mImykyb9DkoufbRMxDxrvuEsSYhrrnfw0D02aiZ-ErSp8/s1600/128426844211516117420_zz18.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjVc6LZVcbZ2q9gbj1V0EJ98JQ3D5Pb6FK-9rU_jWrJtvsbhxHjMpEb9RArUw9kEIPKVmOjWbcXhoegQ1_seH8e8Hqo_4SfY_mImykyb9DkoufbRMxDxrvuEsSYhrrnfw0D02aiZ-ErSp8/s1600/128426844211516117420_zz18.jpg" /></a></div>
(付記) 成瀬巳喜男はこのような感傷的な描写で映像を括ることを嫌う監督だが、水木洋子は、どうしてもこの描写だけは削れないという脚本家としての意地を通したらしい。彼女は、一切を洗い清めるような映像表現として、悔悟と懺悔を象徴するような富岡の慟哭を切望して止まなかったのだろうか。<br />
<br />
ストーリーを最後にカタルシスで流さない成瀬作品の中で、やはり「浮雲」は異彩を放っていた。<br />
<br />
<br />
このラストシーンの評価は、観る者それぞれの固有の感じ方によって分れるだろうが、あまりに救いのない映像の繋がりの果てに、僅かな浄化を果たすこの描写の挿入は、私としては些か不満だが、それでも映像としての均衡性を壊していないことだけは事実である。<br />
<br />
かくて一代の名作が、今なお私たちの心を捉えて放さない何ものかになっていったのである。<br />
<br />
<br />
* * * * <br />
<br />
<br />
<br />
11 「引き受けない男」の「分」と器量<br />
<br />
<br />
<br />
「浮雲」―― 世界映画史上にあって、ひと際光彩を放っているこの傑作を、どう把握したらいいのだろうか。それを考えてみたい。<br />
<br />
私はこの映画を、「投げ入れる女」と「引き受けない男」の物語であり、その両者の間に否定し難いほど生じてしまった「感情の落差」によって、そこに遣り切れないほどの関係の齟齬(そご)や擦れ違いが形成されてもなお、それでも投げ入れることを止められない女の、殆ど殉教的なまでの情愛の物語であると捉えている。<br />
<br />
その辺りから稿を起していく。<br />
<br />
「投げ入れる女」は、投げ入れるべき何者かに、何もかも投げ入れていく。<br />
<br />
投げ入れる者の思いを、その身体を、その身体が自己に刻んだ記憶を。<br />
<br />
現在の時間を、未来の時間の一切を投げ入れて、拒まれて、それでも投げ入れて、捨てていく。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJQ_EtsU-UgQ_lp1OXc5eBkakvS4PqS0F9d6ic4UPIQeQ6ewatTVlkVvghdh_eRjnKwkcTctGUPbJhxaivIAUOTw5HW8bP3UgQgcybKI9fnoDHEAM-1nG1DgiEr91_pEkYTYEaD9-CpaGX/s1600/E6B5AEE99BB29-cd48b.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiJQ_EtsU-UgQ_lp1OXc5eBkakvS4PqS0F9d6ic4UPIQeQ6ewatTVlkVvghdh_eRjnKwkcTctGUPbJhxaivIAUOTw5HW8bP3UgQgcybKI9fnoDHEAM-1nG1DgiEr91_pEkYTYEaD9-CpaGX/s400/E6B5AEE99BB29-cd48b.jpg" width="400" /></a></div>
投げ入れることは、捨てていくことである。<br />
<br />
投げ入れるべき何者かに捨てていくことは、捨てることによって投げ入れるべき何者かと同化することであり、そこに投げ入れる者の一切が入り込んでいくことである。<br />
<br />
そして、「引き受けない男」は逃げる男である。<br />
<br />
逃げて、逃げて、自分に向かって投げて入れてくる女から、常に決定的な局面で逃げていく。卑下するようにして、自らを断罪するようにして、巧みにかわすようにして逃げていく。<br />
<br />
断罪することによって、投げ入れてくる女が侵入してくる入り口を塞いでしまうのだ。<br />
<br />
しかし男は単に、逃げるために逃げるのではない。引き受けることができないから逃げるのだ。<br />
<br />
それでも男はいつも逃げる訳ではない。<br />
<br />
決定的な局面を引き受けなくて済むギリギリの際(きわ)で、投げ入れる女の体液を吸って、その思いを呑み込んで、投げ入れる女と共有する記憶の幾つかを拾い上げて、シニカルに受け止める。<br />
<br />
そんな男がしばしば受け止めてくれるから、女は投げ入れることを止めないのである。<br />
<br />
そして最後に、女は命を投げ入れた。<br />
<br />
男は、その命を遂に受け止めた。それが仮の住まいであることを諭した上で受け止めた。<br />
<br />
女はそれでも本望だったのか、男はそれでも納得したのか。<br />
<br />
女にとって仮の住まいであった場所に一人残されたのは、やはり男だった。<br />
<br />
女の死体が残されて、そこに男の涙が投げ入れられた。<br />
<br />
喪ったものの大きさを、果たして男はどこまで受け入れられたか、誰も分らない。<br />
<br />
少なくとも、その後一ヶ月間ほど、男の心は定まらなかった。<br />
<br />
因みに、原作ではどうなっていたか。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgOw9I67GbfTmxpTm6hdPc1XAkOCvwJqBuaxhzejxM6WXKHEO3pppLz96oEFvy0LLPUDj6WtEyvfcxavVKpotUGoqyLWaqXVF2rDRdXYE3l2ftraYrWHJO9OySGlLxndtF5P-rV_Xlcl9GY/s1600/Fumiko_Hayashi.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgOw9I67GbfTmxpTm6hdPc1XAkOCvwJqBuaxhzejxM6WXKHEO3pppLz96oEFvy0LLPUDj6WtEyvfcxavVKpotUGoqyLWaqXVF2rDRdXYE3l2ftraYrWHJO9OySGlLxndtF5P-rV_Xlcl9GY/s1600/Fumiko_Hayashi.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">林芙美子(<span style="font-family: "MS 明朝","serif";">ウィキ</span>)</span></td></tr>
</tbody></table>
「雨は一刻のゆるみもなく、荒い音をたてて、夜をこめて降りしきっている。夜更けてから、富岡は、猛烈な下痢をした。息苦しい厠(かわや)に蹲踞(しゃが)み、富岡は、両の掌(てのひら)に、がくりと顔を埋めて、子供のように、おえつして哭(な)いた。人間はいったい何であろうか。何者であろうとしているのだろう・・・・・・。色々な過程を経て、人間は、素気なく、この世から消えて行く。一列に神の子であり、また一列に悪魔の仲間である」(同上より)<br />
<br />
こんな描写もあった。<br />
<br />
「屋久島へ帰る気力もない。だが、ゆき子の土葬にした亡骸をあの島へ、たった一人置いて去るにも忍びないのだ。それかと云って、いまさら、東京に戻って何があるだろうか・・・・・・富岡は、まるで、浮雲のような、己の姿を考えていた。それは、何時、何処かで、消えるともなく消えてゆく、浮雲である」(同上より)<br />
<br />
「浮雲」と題する映像を象徴する描写があるが、これは二人の人生の関係性そのものであり、それに対する幻想をイメージする言葉だろう。<br />
<br />
恐らく男は、いつもそうしてきたように、彼なりの回路を通って復元していくであろう。こういう男は中々変わらないのだ。決して男は悪人ではない。極端に常識はずれな人格破綻者でもない。<br />
<br />
それは私であり、私の隣に住む者であり、私の周囲にウロウロする何者かである。<br />
<br />
それはこの国のある種の男の典型であるが、しかし決してその全てを代表していない。女もまた代表していない。<br />
<br />
ただそこに男と女がいて、濃密にクロスして、深々と傷付けあって、殆どそこにしか辿り着けないような航跡の果てに砕け散った。<br />
<br />
恐らく二人には、それ以外にない関係の終焉だったと思われる、そんな括り方だった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhuKw90GeYPWbOuLpOS6jHpx6TfDU_ImHwrJ7Ou5nMth39x-exqbdV6DZvvWO6TUCYJP8AZEpBWS_77Wad3ePcEFtmMoptPJdpys_drSFqftkz_8TXniOE66cEUwQmOHkDAb3jww3Alv3U/s1600/100320p1-1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="320" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhuKw90GeYPWbOuLpOS6jHpx6TfDU_ImHwrJ7Ou5nMth39x-exqbdV6DZvvWO6TUCYJP8AZEpBWS_77Wad3ePcEFtmMoptPJdpys_drSFqftkz_8TXniOE66cEUwQmOHkDAb3jww3Alv3U/s320/100320p1-1.jpg" width="314" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">水木洋子</span></td></tr>
</tbody></table>
<div style="text-align: right;">
</div>
然るに、この作品を観た者の多くは、男の甲斐性のなさとその自堕落さを厭悪(えんお)し、女の一途さと自己献身的な思いの深さに同情し、その殉教的な死に哀惜の念を覚えるに違いないだろう。<br />
<br />
例外的にフェミニストと称する連中は、男に縋って生きる女の「自立性」のなさと、女を梯子して生きる男の狡猾さを、一刀両断に斬って捨てるであろうが、果たしてこの作品と客観的に付き合ったとき、そこに描かれた男は非難される対象でしかなく、逆にその男に生き血まで吸われたかのような女は、観る者の一方的な憐憫の対象に成り得ると簡単に言い切れるのか。<br />
<br />
私はそうは思わない。<br />
<br />
男女の愛情の縺(もつ)れは、複雑な感情の微妙な落差や錯綜に起因するものが多いから、単純に、この作品の男女の関係を損得論で語るのは疎(おろ)か、ましてや、それを善悪論で片付けてしまってはならないのである。<br />
<br />
確かに男は、映像を通して三人の女と関係し、あわや四人目のマセた娘とも関係しそうになったが、前者の三人に関しては、それぞれの思いを半ばにして、ある者は衝撃的に、またある者は、男に向かって這い蹲(つくば)っていくようにして斃れていった。<br />
<br />
果たして男は、彼女たちにとって「魂の殺害者」であると言えるのか。<br />
<br />
否である。<br />
<br />
その過去は知らないが、映像において男はただの一度も、例えば、伊庭という小悪人がかつてゆき子をレイプしたように、女に対する暴力的なアプローチをしていないのだ。<br />
<br />
また男は、結婚詐欺師のような確信犯的な言い寄り方をした訳ではないし、そこに狡猾な計算が含まれていても、それは日常的に展開される、男と女の打算性の範疇で了解される類のものだ。<br />
<br />
では、富岡という男は何者だったのか。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGb_zrV3PoKIGef_zjnqNdQiIXL9kyPiZ0V9ISaODTdyudhG91Wf3AGgDzLOsC9dRB9z8gG0cReKqAyOfIcadmUJt7z7_AGruTuhJiBvwNeIUuxRJdBR0d_3TOH_NZynxFtVsnK5I-01OZ/s1600/img_848353_10839529_1.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720376399880396434" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhGb_zrV3PoKIGef_zjnqNdQiIXL9kyPiZ0V9ISaODTdyudhG91Wf3AGgDzLOsC9dRB9z8gG0cReKqAyOfIcadmUJt7z7_AGruTuhJiBvwNeIUuxRJdBR0d_3TOH_NZynxFtVsnK5I-01OZ/s400/img_848353_10839529_1.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 303px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 265px;" /></a><br />
彼は、「引き受けない男」であると言う以外にない。<br />
<br />
しばしば引き受けるが、それが男の「分」を越えてくるとき、その冷笑的な態度に似合わないかのようなだらしなさを見せる。<br />
<br />
妻を疾病で喪ったとき、その葬儀費用を立て替えてもらうために、決して自分からは求めていかないゆき子に会いに、あろうことか、彼女が世話になっている男の家を訪ねることも辞さなかったのである。<br />
<br />
また自分が原因で、怨恨殺人の犠牲になったおせいの夫の裁判費用を捻出しようと立ち回るが、これも結局、中途半端で投げ出している。<br />
<br />
ラストでは、ゆき子が盗んだ金を巡って留守宅に伊庭の恫喝的訪問を受け、この件(くだり)に関しては見事なまでの遁走劇で括ってしまうのだ。紛う方なく、「引き受けない男」の本領発揮の行動だったと言えるだろう。<br />
<br />
万事この調子だが、彼が事態を引き受けきれないのは、必ずしも引き受けることからいつも逃げようとしている訳ではなく、引き受ける事柄が男の器量を越えてしまうからである。<br />
<br />
紛れもなく、男は駄目人間だが、決して小悪人ではない。男の中に投げ入れられてくるものが、大抵、男の「分」と器量を上回ってしまうから、男は逃げまくる印象を晒してしまうのだ。<br />
<br />
しかし映像で観る限り、男の中に投げ入れられてくる半分以上は、男を思う女たちの異性的情念である。<br />
<br />
そこでの男と女の間に微妙な乖離が生まれるのは、女の情念がいつも男のそれを上回ってしまうため、男は常に関係の奥深い、ドロドロした感情の辺りまで引き摺り込まれ、そこで立ち往生してしまうのだ。<br />
<br />
これは、男が一方的に悪いという把握で了解できる文脈を明らかに逸脱する。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBGxr6NxhT13SgfZ0Xox7laLXZFo6TjgaHCyITOwbS6uwfvCM7KP4KFP-mCf9jhii-efKFuLkfObPJAhLORn-nQ6G5lh3CDLF_255IP5Pxl6gtEseMIbNqeCqwbIMejaQtajWpHvhI-ZM/s1600/tc1_search_naver_jp.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBGxr6NxhT13SgfZ0Xox7laLXZFo6TjgaHCyITOwbS6uwfvCM7KP4KFP-mCf9jhii-efKFuLkfObPJAhLORn-nQ6G5lh3CDLF_255IP5Pxl6gtEseMIbNqeCqwbIMejaQtajWpHvhI-ZM/s400/tc1_search_naver_jp.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">おせい</span></td></tr>
</tbody></table>
なぜなら、男と女の愛情関係というものは、そこで蠢(うごめ)く感情の均衡が、いつも絶妙の状態で上手に機能しているとは限らないからだ。<br />
<br />
<br />
<br />
12 「感情の落差」について<br />
<br />
<br />
<br />
――「感情の落差」<br />
<br />
関係には大抵、こういう厄介なものが形成されてしまうのである。<br />
<br />
「感情の落差」は関係の落差である。<br />
<br />
それが恋愛関係であるならば、そこにも恋愛感情の落差というものがある。従って、その厄介な恋愛感情というものを理解する必要がある。<br />
<br />
果たして、恋愛感情とは一体何なのか。<br />
<br />
それは、数多ある愛情の一つの様態であるに違いない。<br />
<br />
では、愛情とは一体何なのか。<br />
<br />
私たちが日常的に使うこの厄介な言葉を、一体どのように把握し、定義したらいいのか。(以下、以前に書いた「愛の深さ」という拙稿から一部引用したい)<br />
<br />
「好意尺度」と「恋愛尺度」の分析で有名なルヴィン(アメリカの心理学者)によると、愛情とは、具体的には「共存感情」であり、「援助感情」であると言う。これは心理学重要実験のデータ本から得た知識だが、 私はこの分りやすい説明によって、正直眼から鱗(うろこ)が落ちる心境になった。<br />
<br />
私なりに長くこのテーマについて考えてきて、そこで出した私の把握は単純なものである。<br />
<br />
即ち、「愛情」のコアになる感情は、「援助感情」であると結論づけたのである。<br />
<br />
<br />
<br />
13 「援助感情」という「愛」の基幹感情と、それを構成する感情について <br />
<br />
<br />
<br />
本稿のテーマとは少し離れるが、愛の核心とも言うべき「援助感情」について言及してみたい。<br />
<br />
例えば、自分にとってかけがえのない存在に映る他者Aがいるとする。Aが元気で溌剌としているときは、こちらも何となくウキウキして、愉しい気分になる。ところがAが深刻な悩みを抱えて悶々とする日々を送っていると、こちらも辛くなり、滅入ってくる。辛そうなAに対して、何かせずにいられない感情に包まれる。居ても立ってもいられなくなるのだ。<br />
<br />
そんな状況の中で、Aの消息が突然不明になったとする。<br />
<br />
時間だけが過ぎていく。こちらは全く何も手がつかず、異常な不安に襲われる。そんな中で、私は自分ができることを懸命に模索する。不安のヒットと打開策のリサーチ。それだけが私の時間となる。それ以外の時間は、私にはないのである。<br />
<br />
このときの私を中心的に支配する感情、それを私は、「特定他者を救うことが、自らの自我を安定に導く感情」と把握した。これを私は、「愛」と呼ぶことにした。<br />
<br />
この「援助感情」こそが、あらゆる愛を貫流する感情ゆえに愛の本質である、と私は考えるが、無論、愛を構成する感情はそれが全てではない。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEju65RJa-MZejr_8WlOou9jMitmiUwQpuvwCwGHDWSkD9XIhxHQ7h4NMUlqmAiY-ZPFTISjOugHPm92xr1oTefYFYH129IbKX_FAqbPlcppsB0UBa_hTUSjIizktZehDj_g4Oi3DdXL0uo/s1600/6583d432b811e9b2_S.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="424" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEju65RJa-MZejr_8WlOou9jMitmiUwQpuvwCwGHDWSkD9XIhxHQ7h4NMUlqmAiY-ZPFTISjOugHPm92xr1oTefYFYH129IbKX_FAqbPlcppsB0UBa_hTUSjIizktZehDj_g4Oi3DdXL0uo/s640/6583d432b811e9b2_S.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif"; font-size: small;">イメージ画像・台湾観光旅行ガイド・台湾の恋愛事情より</span></td></tr>
</tbody></table>
ルヴィンの言うように、第二、第三の感情として、「共存感情」と「独占感情」がある。この二つの感情は相互作用的な感情であって、「共存感情」の強さが「独占感情」の濃度を規定すると言っていい。共存欲と独占欲は並立しやすいのである。<br />
<br />
因みに、ある種の嫉妬感情は「独占感情」が障害を受けたときの二次的感情なので、「独占感情」に常に張り付いている。独占欲が小さければ、当然、嫉妬に煩悶することもなく、そこで生じる怒りの感情は、自我のプライドライン(自尊感情)が反応したものに過ぎないであろう。<br />
<br />
そして、第四の感情は「性的感情」である。<br />
<br />
この感情が恋愛の本質であって、他の愛の形には存在しないものだ。この感情が厄介なのは、自我の抑制系を機能不全にするほどの破壊的エネルギーを、その内側に内包するからである。<br />
<br />
それはしばしば反生産的で、秩序破壊の要因に絡んでくるので、いずれの国でも、「過剰なる性」を野放しにする自由を決して保障しないのだ。それは殆ど例外なく、国家権力の重要な管掌事項の対象になっていると言っていい。<br />
<br />
以上、四つの感情が、愛を構成する感情の全てであると考える。<br />
<br />
しかし全ての愛情が、この四つの感情を内包するものではない。<br />
<br />
正確に言えば、前三者の感情が愛情の基本的感情であって、「性的感情」は恋愛感情の固有の属性的感情であり、それを他の感情と分ける必要があるが、それでもそれらの感情と脈絡する要素を持つので、しばしば「性的感情」の爆発力が、絶えず、文学や映像の題材になるほどの極限性を示すのである。<br />
<br />
恋愛感情のみが、愛情を構成する全ての感情を内包する感情なのである。だから恋愛感情は激しいのである。<br />
<br />
それは煮え滾(たぎ)っていて、それらの感情を相互に強化し合い、濃度を深めていくことで、抑制系の発動がなかなか機能しなくなるのである。<br />
<br />
自我の抑制系の機能的停滞が、男と女の関係速度を著しく高めていく。<br />
<br />
関係速度の目立った昂進が、過剰なる性急さを周囲に印象付けて、しばしばその排他的な閉鎖性が、秩序破壊の元凶のように見られたりもする。強化しあった感情が、規範を抜けるときのパワーは尋常ではないからだ。<br />
<br />
これらの四つの感情が固く繋がって、過剰なまでに自立的に強化していけば、その関係ワールドは他の如何なる秩序へのアクセスを臨む必要はないから、その感情ラインの一切が自給できてしまうのである。<br />
<br />
<br />
<br />
14 恋愛という劇薬が放つパワー<br />
<br />
<br />
<br />
感情ラインの自給によって、癒されるべき自我の問題は当面棚上げになる。だから重苦しいテーマへの想像力は枯渇する。<br />
<br />
孤独の社会的テーマからの呪縛が解かれて、そこで消費されるはずのエネルギーの過半が、恋愛という甘美なるゲームに集中的に利用されることになるのだ。<br />
<br />
恋愛の関係速度が、一種、二次関数的な上昇を記録するのは当然であるに違いない。恋は常に、疾風の如く駆け抜けるのである。<br />
<br />
<table align="center" cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5HEwWIskYhd7aSvr5LF8UPHiWLcKZSW5lOfNF8oVzlWFHiaor9ola9AdATiTO5dvkNFQTsFpIE0gOg7bL_dCFDqlJXNOG4i234SUeflsUeEzIgeUVR5BiRGBb5NoHgEmtDO4xwv_TlTiy/s1600/img_1496970_63078266_0.jpg" style="margin-left: auto; margin-right: auto;"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720377786846222594" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi5HEwWIskYhd7aSvr5LF8UPHiWLcKZSW5lOfNF8oVzlWFHiaor9ola9AdATiTO5dvkNFQTsFpIE0gOg7bL_dCFDqlJXNOG4i234SUeflsUeEzIgeUVR5BiRGBb5NoHgEmtDO4xwv_TlTiy/s400/img_1496970_63078266_0.jpg" style="float: right; height: 311px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 270px;" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;">「失楽園」より</td></tr>
</tbody></table>
例えば、「失楽園」というような作品が、侵し難い純愛の聖域として恋愛至上主義の栄光の冠となって時を駆け、その劇薬を乞う人々の内側で繁殖を続けていくが、全ての恋愛が作品の男女のような嵌(はま)り方をする訳がないのである。<br />
<br />
このような恋愛を無邪気に語る者は、酔うことができる者である。<br />
<br />
酔うことができる者は、酔わすことができると信じる者である。人を酔わすと信じるから、語る者は語ることを捨てない者になる。<br />
<br />
かくて物語は完結し、不滅の光芒を放つと信じる者たちによって繋がれていく。<br />
<br />
いつの世にも、友情を誇るフラットな物語の何倍もの色懺悔が語られ、読まれ、鑑賞されていく。<br />
<br />
語られる数だけ「究極の愛」がカウントされ、カウントされた数だけ究極の人生が、それがなかったら私には何も残らないと言わんばかりに、其処彼処(そこかしこ)で自嘲のポーズ巧みに、しかし思い入れ深く放たれる。<br />
<br />
これが恋愛という劇薬が放つパワーなのだが、実際はそれほど甘美で、いつでもその芳醇に酩酊できるような肌触りの良い関係ではないことを、私たちは皆どこかで認知しているのである。<br />
<br />
詰まるところ、「純愛」という名の大いなる幻想を解き放ったら、恐らく「浮雲」の世界に逢着するはずなのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
15 恋愛感情の落差による悲哀<br />
<br />
<br />
<br />
―― ここでまた、「浮雲」に戻る。<br />
<br />
<br />
「浮雲」に描かれたドロドロの情愛を容赦なく抉(えぐ)っていくと、単純な結論に落ち着くだろう。一言で言えば、それは「感情の落差」である。或いは、「愛情の落差」であると言っていい。<br />
<br />
「浮雲」の男女のそれぞれの「愛情の落差」こそが、映画のドラマ性を成立させる中枢にあって、観る者が物語に哀切極まる感傷を、それぞれの主観的な思いによって汲み取る自由度は、そこに描かれた、殆ど「約束された悲劇」のラインの中で往来する程度のものでしかないだろう。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg501vQHH8BxxmRK4niHcM5Kk0lNI4xDdiIsP4C7cUrj-DcZ_DVIR4qhzLtb48g9W2RgGovVFhOoWLSjmHXZjNtt8vUEt50jb5HRpfQJeRt5it1a5BAFI-MCYPaNcZ5GtPvyEtkyBb6j5w/s1600/51M9MDZSHQL__SS500_.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg501vQHH8BxxmRK4niHcM5Kk0lNI4xDdiIsP4C7cUrj-DcZ_DVIR4qhzLtb48g9W2RgGovVFhOoWLSjmHXZjNtt8vUEt50jb5HRpfQJeRt5it1a5BAFI-MCYPaNcZ5GtPvyEtkyBb6j5w/s1600/51M9MDZSHQL__SS500_.jpg" /></a></div>
<br />
恐らく成瀬は、そのラインの意味するところを根柢において把握していたはずだ。だから彼は、ラストシーンでの男の慟哭の描写を加えたくなかった。<br />
<br />
それを描くことで、「失った愛の大きさ」に落涙する男への、勝手なイメージ形成を避けたかったに違いないのである。(画像は、「浮雲」を演出する成瀬巳喜男)<br />
<br />
客観的に分析すれば、富岡とゆき子の禁じられた愛は仏印で生まれ、そこで輝き、一気に頂点に昇り詰めていって、敗戦によって終焉したのである。<br />
<br />
ゆき子だけがそれを認めないのだ。<br />
<br />
だから、このストーリーは暗鬱な気分を乗せて終始し、「悲劇」で幕を下すしかなかったのである。<br />
<br />
その「悲劇」の始まりは、富岡家を初めて訪ねたゆき子に対する男の反応の冷淡さに、残酷なまでに描き出されていた。映像は、凄惨な展開を予想されるストーリーを、覚悟を括って観る者に投げ入れてきたのである。<br />
<br />
明け透けに言えば、女に対する男の愛よりも、男に対する女の愛の方が格段に上回っていて、それは最後まで変わらないのである。この「感情の落差」は、修復の余地がないほどに決定的だった。<br />
<br />
男が女に語るのは、身の上相談の需要と供給についてばかりであり、偶(たま)さか剥(む)き出しにされた感情も、突発的に生じた男の嫉妬感のゲームのような吐露でしかなかった。<br />
<br />
引き摺って、引き摺って、自らを穴倉に引き摺り込んだ女の情念は伊香保まで延長されて、そこで一時(いっとき)、心中についての危うい会話に流れ込んでいったが、結局、二人はそれを遂行しなかったのである。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhjGaO1MMmfv_VNlRXB3F7R-gxNVj2L_xjsLLSIozd-jBqYhYHSuCORpJUBOJyf7wQKI9vfyqACpnMGJbmzsy1jVLYGYxLtUsneY23Y8mN5cFQsYoJNj0NRGfU88VVmvewpa_wXa4Baxbc/s1600/800px-Ikaho_Onsen_02.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="480" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhjGaO1MMmfv_VNlRXB3F7R-gxNVj2L_xjsLLSIozd-jBqYhYHSuCORpJUBOJyf7wQKI9vfyqACpnMGJbmzsy1jVLYGYxLtUsneY23Y8mN5cFQsYoJNj0NRGfU88VVmvewpa_wXa4Baxbc/s640/800px-Ikaho_Onsen_02.jpg" width="640" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><br />
<div class="MsoNormal">
<span style="font-size: small;"><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">伊香保温泉・みやげ物屋が並ぶ石段街(ウィキ)</span></span></div>
<br /></td></tr>
</tbody></table>
二人は、伊香保で心中すべきだったのだ。<br />
<br />
それを避けた男と女は、その純愛性を剥(は)ぎ取った関係を泥沼に浸していくばかりとなっていった。当然の帰結であるという他にない。<br />
<br />
富岡とゆき子の関係の間に横臥(おうが)していた「感情の落差」は、恋愛感情の落差であると言っていい。<br />
<br />
これまで書いてきたように、恋愛感情とは「性的感情」を本質として、そこに「援助感情」、「共存感情」、「独占感情」などによって構成される感情である。<br />
<br />
この感情の殆ど決定的な落差が、二人の間に横臥していたのである。<br />
<br />
ゆき子の中では、これら全ての感情がしばしば過剰なほど溢れていたが、富岡には、ほんの遊び程度の「性的感情」や嫉妬感情が見られるが、それもゆき子の感情と全くバランスが取れないほど貧弱なものだった。<br />
<br />
<br />
その感情に何某かの突出性が見られた訳ではなく、いつでも彼は、「引き受けない男」を演じる以外になかったのである。<br />
<br />
男との感情が、そうしなければならないと考える貧弱な理念系にいつでも追いつけないで、女と作った私的情況に翻弄される他はなかったのだ。<br />
<br />
置き去りにされた女が、いつもそこに呆然と立ち竦んでいた。<br />
<br />
<br />
<br />
16 「援助感情」の落差によって置き去りにされた女<br />
<br />
<br />
<br />
二人の関係に於いて、愛のコアと言うべき「援助感情」の落差を象徴的に示すシーンが、映像の後半にある。<br />
<br />
伊香保から帰ったゆき子が、おせいと同棲していることを知らずに、富岡をアパートに訪ねたときのことだ。<br />
<br />
おせいの存在に驚いたゆき子だが、そこで帰宅した富岡と外に出て線路沿いを歩いていく。<br />
<br />
既に富岡との子供を懐妊していたことを告げたゆき子に対して、男は「自分には子がないから産んでくれ」などと哀願した。しかし、ゆき子は富岡の子を堕胎したのである。<br />
<br />
その結果、ゆき子は一週間の入院を余儀なくされたが(原作によると)、その間、富岡から何の連絡もなかった。子供を産んでくれと言いながら、その後、一切のフォローをしない男のエゴイズムが浮き彫りにされる描写だった。<br />
<br />
ゆき子はおせいを喪った富岡をアパートに訪ねて、男の思いやりのなさを涙ながらに訴えたのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiuc4Z_qSt50B7zISwRIs_g7UvrTRll81HoeEas3yg9YgsufjPjIbaOeQxBkRu6BnwxT-1gxQEiuvBmx4Gs4Ot6j9MM1HTbxYfnkTLhqWFRbeFqz38EAiGFE_LRd9gww3R3qZa6QEBp7_0/s1600/EIGAKAN209C.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="273" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiuc4Z_qSt50B7zISwRIs_g7UvrTRll81HoeEas3yg9YgsufjPjIbaOeQxBkRu6BnwxT-1gxQEiuvBmx4Gs4Ot6j9MM1HTbxYfnkTLhqWFRbeFqz38EAiGFE_LRd9gww3R3qZa6QEBp7_0/s400/EIGAKAN209C.jpg" width="400" /></a></div>
訴えられた男は、「独りにしてくれ」としか言わない。言えないのである。それがこの男の器量でもあるが、それ以上に、男には女に対する思い入れが確実に足りないのである。<br />
<br />
涙を絞りつくした女は、雨に濡れた寂しい街路に身を投げるようにして帰路に就いた。男は追わなかったのである。<br />
<br />
更に、こんな描写もあった。<br />
<br />
このエピソードの後、暫くして、今度は富岡がゆき子を訪ねていく。<br />
<br />
元気になったゆき子の前に、悄然とする富岡が座っている。彼は妻の葬儀の費用を工面するために、ゆき子を当てにしてやって来たのだ。<br />
<br />
恐らく、今までもそうであったように、こんなときの男の振舞いは、過去の自分の行為を反省する殊勝な態度を小出しにすることで、女心を微妙に揺さぶる情動操作の術に長けている。<br />
<br />
「モテる男」の羨むべき占有権と言ってしまえばそれまでだが、こんな風に女から金を捻出させる能力だけは抜けているのである。<br />
<br />
女もまた、好きな男を援助することで、そこに、「心の貸し」を作ることができる。そこにも、当然の如く、大人の計算が働いているだろう。<br />
<br />
ゆき子にとって富岡を援助することは、愛情の担保を一つ確保することに繋がるのである。ゆき子の中の男に対する「援助感情」は、彼女の男への強い情愛の思いをベースにしているのだ。<br />
<br />
言うまでもなく、富岡の内側には、「ゆき子なら助けてくれる」という確信があった。だから男は、女が許容するギリギリのラインのところまで擦り寄っていけば、それで全て万事オーケーということになる。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhD7zs7ITrDemqrCKPT6xfh526VENzpfgOLQC9w8ULdaqDNXrnL8ywvfl1yZ-NCWvqmjgciatbPvR09NKlJCCikDoJMBXGyUP3t1HToct4qVZLBhAdzoeFrofn4KPmxnHOwUfMefs_0DsA/s1600/deko_10_1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="240" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhD7zs7ITrDemqrCKPT6xfh526VENzpfgOLQC9w8ULdaqDNXrnL8ywvfl1yZ-NCWvqmjgciatbPvR09NKlJCCikDoJMBXGyUP3t1HToct4qVZLBhAdzoeFrofn4KPmxnHOwUfMefs_0DsA/s320/deko_10_1.jpg" width="320" /></a></div>
殆どそれは、恋愛という甘美なる蜜を求める感情の落差を剥(む)き出しにした、ある種の腐れ縁的関係の人生模様という文脈で括られる何かだった。<br />
<br />
<br />
<br />
17 共存と独占を求めた女の殉教性<br />
<br />
<br />
<br />
以上のエピソードによって、二人の関係の落差を読みとることが可能だが、他の恋愛感情、例えば「共存感情」について考えた場合でも、それを常に拒む富岡に対して、ゆき子の共存への思いは圧倒的である。<br />
<br />
彼女にとって、この思いこそが最も中枢の感情であって、それを最後に実現したときの達成感は、相当感慨深かったはずである。<br />
<br />
このとき、彼女は明らかに押しかけ女房であって、色々な名目をつけて彼女を東京に戻そうとする男の、その本来的な「引き受けなさ」との対比は、そこに滑稽さを感じさせないほど写実的でありすぎた。<br />
<br />
なぜなら、彼女は病に冒されているのに拘らず、未知なる島にその全人格を預けたのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjLGsbXPn1JJ2mwZ6tc9uKTZzSjfN3xIB5KWt_M3WyszpW1b06mVTbw16An6PGm_JYl4ZdJB3d7CtvJmLrcxjOy16122MGx01bPlaMxdSehI5ZcAJ75E9S4bYP-9TNV9JXO82qu5ij2ClW2/s1600/img_848353_10839529_5.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720368752707735474" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjLGsbXPn1JJ2mwZ6tc9uKTZzSjfN3xIB5KWt_M3WyszpW1b06mVTbw16An6PGm_JYl4ZdJB3d7CtvJmLrcxjOy16122MGx01bPlaMxdSehI5ZcAJ75E9S4bYP-9TNV9JXO82qu5ij2ClW2/s400/img_848353_10839529_5.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 361px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 250px;" /></a><br />
女の死によって終焉する映像の括りは、ゆき子の側に立てば、ある意味で殉教的であり、それ自体、本望なる人生の閉じ方であったと言えるだろう。<br />
<br />
この映画は、それ以外に終焉しようがない物語の展開の必然性の内に、それぞれに噛み合わない情念が溜息をつき、呻吟し、悶え、深く傷つき、そして最後にランプに照らされた美しい死顔を置土産にして、それまでのドロドロとした感情交錯を浄化するかのような描写によって、半ば予定調和の完結に流れていったのである。<br />
<br />
それで良かったかも知れないのだ。そんな余情が残されたのである。<br />
<br />
ついでに、「独占感情」について言えば、それがゆき子の一方的な嫉妬感情として、映像の中で繰り返し表現されている。<br />
<br />
彼女の嫉妬の相手は、この映像の中だけで見る限り、伊香保温泉から始まった若い娘おせいだった。<br />
<br />
おせいの存在は、ゆき子にとって、その自我の安定の基盤を崩す最も危うい何者かであった。<br />
<br />
だから、おせいの死によって打ち拉(ひし)がれる富岡の心の空洞を埋めるために、ゆき子は動いたが、これは逆効果に終わった。 <br />
<br />
そこでゆき子が知ったのは、富岡の心に自分が入り込む余地のない寂しさだった。<br />
<br />
それでも、ゆき子は動いた。<br />
<br />
それが金銭的理由であっても、自分を訪ねる男に身も心も預けようとしたのである。<br />
<br />
その最大の理由は、富岡が妻を喪って、男やもめになったからである。<br />
<br />
それだけに過ぎないが、ゆき子にとってこのような事態の到来は、或いは、最初にして最後の「共存感情」を満たす機会だった。その結末は書くまでもないことである。<br />
<br />
詰まるところ、富岡という男の、ゆき子に対する距離の取り方は終始変わらなかったということだ。変わりようがなかったのである。<br />
<br />
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtuD6FSPQf28IiwbGteGag7yr1Ip7yy39l26Clr_QYhp9UI4Z-bijDT3h_OrMNlU1OBoXXVn0uVfFg9vUSWIXXHK8whf2GUC_PhyphenhyphenjLHw7XhwVRbibQROYZGoGQdPY1gWTNiy4b_Rq-5Sut/s1600/ukigumo3.jpg"><img alt="" border="0" id="BLOGGER_PHOTO_ID_5720728668980931938" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjtuD6FSPQf28IiwbGteGag7yr1Ip7yy39l26Clr_QYhp9UI4Z-bijDT3h_OrMNlU1OBoXXVn0uVfFg9vUSWIXXHK8whf2GUC_PhyphenhyphenjLHw7XhwVRbibQROYZGoGQdPY1gWTNiy4b_Rq-5Sut/s400/ukigumo3.jpg" style="cursor: pointer; float: right; height: 299px; margin: 0px 0px 10px 10px; width: 280px;" /></a><br />
そこには最後まで、恋愛感情の落差が埋め難いほどに存在していたからだ。<br />
<br />
恋を継続させたい女がいて、恋を継続させたくない男がそこにいるとき、その恋の結末は見えている。それはもう、どうしようもないことなのだろう。<br />
<br />
<br />
<br />
18 「メロドラマ」を超えた何ものか<br />
<br />
<br />
<br />
―― 次に稿のテーマを変えて、「『浮雲』とはメロドラマなのか」という問題に言及してみたい。<br />
<br />
<br />
大体、「メロドラマ」とは一体何なのか。<br />
<br />
その意味から把握する必要がある。分っているようで、きちんと定義し難いこの言葉の意味を辞典から起していくと、以下の説明になる。<br />
<br />
「メロスとドラマが結合した語で、元来は伴奏つきの簡単な所作劇〕恋愛をテーマとした、感傷的・通俗的な劇・映画・テレビ-ドラマ」(三省堂刊 大辞林 第二版より)<br />
<br />
もう一つの辞典によると、こう言うことだ。<br />
<br />
「メロドラマとは、音楽が入った通俗劇という意味であるが、ここから男女の恋愛や、家族の葛藤、難病など、通俗的で感傷的なテーマを扱った作品をさすようになる」(「素晴らしき哉、クラシック映画!」HP・ 「クラシック映画用語辞典」より)<br />
<br />
両方の辞典で共通しているのは、音楽を使った通俗劇という言葉である。では、そもそも「通俗」とは何か。これも念のため調べてみた。<br />
<br />
「(1)一般大衆にわかりやすく受け入れやすいこと。一般向きであること。また、そのさま。低俗。 「―に堕する」「―小説」、(2)世間一般。世間並み。「―な考え」、(3)世間一般の習俗。世俗」(三省堂刊 大辞林 第二版より)<br />
<br />
つまり「メロドラマ」とは、音楽を使って、一般大衆に分りやすく、且つ、受け入れやすい類のドラマのことであって、それは、「低俗」なる大衆劇という括りになるのだろうか。<br />
<br />
「世俗」とは言うまでもなく、一般世間の習慣とか生活という意味だから、私たちの等身大の人生、生活様態を些(いささ)か誇張を込めて、感傷的に映し出したのが「メロドラマ」ということなのか。<br />
<br />
また、こんな専門的な説明もある。<br />
<br />
「メロドラマ(melodrama)とは、扇情的かつ情緒的風合いの濃厚な、悲劇に似たドラマの形式。悲劇と違い、登場人物の行動から人生や人間性について深く考えさせるというよりは、衝撃的な展開を次々に提示することで観客の情緒に直接訴えかけることを目的とする。<br />
<br />
扇情的だがドラマの中身が薄いことを指摘する意味で、この語が侮蔑的に用いられることもある。狭義には、メロドラマは19世紀にイギリスを中心にヨーロッパやアメリカ合衆国で流行した演劇のスタイルを指す。<br />
<br />
現在では、演劇のみならず、文学や映画、テレビドラマなどにおいても、そのドラマの形式に基づき、メロドラマと謳われたり、ジャンル付けされる場合がある」(ウィキペディア「メロドラマ」より)<br />
<br />
よくぞここまで書いてくれたと思わせるような刺激的な括りだが、「扇情的だがドラマの中身が薄い」というこの挑発的な定義づけを仮に認知するならば、成瀬の「浮雲」は、決して「メロドラマ」の範疇で収まらないことは、殆ど論を待つまでもない。<br />
<br />
確かに、「浮雲」には音楽が効果的に使われている。<br />
<br />
男と女が寄り添うように歩くとき、お互いに気まずそうに一定の距離を保って、モノクロの画面の奥に消えていくのだが、あの一度聞いたら忘れられない気だるい音楽が、その叙情的文脈の中に溶け込むように、しかし一貫して、映像的主題を壊さない程度の静かな旋律を保持しつつ、「漂流」をイメージするストーリー性と見事に睦み合って、映像それ自身の存在性の内に流れ込んでいる。<br />
<br />
果たしてそれは、映像の通俗性を効果的に盛り上げるための仕掛けに過ぎないのか。<br />
<br />
否である。<br />
<br />
テーマと音楽の見事なまでの睦み合いは、明らかに、観る者に対する迎合的、且つ感傷的な「低俗性」を超えている。<br />
<br />
その静謐な短調のメロディは、時代に上手に繋がり切れないで漂流する男女の思いを汲み取っていて、決定的に効果的だった。<br />
<br />
それは、仏印ダラットを発火点にした男女の関係が継続力を失ってもなお、そこに澱んで残る情念が浄化できない哀しさを歌い続ける何ものかだった。<br />
<br />
決して、音楽が映像を支配する独善性が見られないのである。<br />
<br />
それは、「ここで感動して泣いて下さい」という卑俗な誘導効果を狙った演出とは、確実に一線を画しているのだ。<br />
<br />
以上の「音楽」についての言及で明らかなように、成瀬の映像世界は、そのごく一部の作品を除けば、「扇情的だがドラマの中身が薄い」という評価で片付けられるものでは決してない。<br />
<br />
とりわけ「浮雲」は、そこに等身大の世俗性に通底するものを当然ながら認めてもなお、「観客の情緒に訴えかけることを目的」とした作品になっていないことは、彼の映像に親しんだ者なら周知の事実と言っていい。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiV7M2sN5mDXHnooS61PzRKiYFQzxUiqcnTKM1qyNR0Y9QZMs30SGg2GpTsNg6hrQ8cWpmp-8mfwcdIweVLRPCd_Ic4kICbG6udf_SCReErC5N4QGVNxITgg0WJxjMXKeJukD-Mpa6rrQXj/s1600/img_464718_3668536_2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="266" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiV7M2sN5mDXHnooS61PzRKiYFQzxUiqcnTKM1qyNR0Y9QZMs30SGg2GpTsNg6hrQ8cWpmp-8mfwcdIweVLRPCd_Ic4kICbG6udf_SCReErC5N4QGVNxITgg0WJxjMXKeJukD-Mpa6rrQXj/s400/img_464718_3668536_2.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「おかあさん」より</span></td></tr>
</tbody></table>
大体、成瀬の作品が、「衝撃的な展開を次々に提示する」映像になっていないことは、「おかあさん」、「稲妻」、「流れる」、「銀座化粧」、「石中先生行状記」、「三十三間堂通し矢物語」等々、戦前戦後を問わない地味な作品群を観れば瞭然とする。<br />
<br />
それらの殆どが、一応完成された原作をベースにした映像作品であるにも拘らず、その原作にある過剰な扇情的表現や刺激的な状況描写を、そのまま写し撮ることをせず、そこに確信的で抑制的な演出によって、原作とは全く別の、一つの独特な映像宇宙を創り出したのが成瀬の作品群なのである。<br />
<br />
成瀬の遺作となった「乱れ雲」ならいざ知らず、「浮雲」は決して「メロドラマ」のカテゴリーに収まるものではない。それは紛れもなく、「メロドラマ」を超えた何ものかであった。<br />
<br />
思うに、「メロドラマ」とか、「女性映画」とかいうような、成瀬映画の括り方自体が根本的に間違っているのである。<br />
<br />
確かに、「流れる」は、当時の一流の女優陣が出演したオールスター作品と称されるが、しかしその映像の内実は、オールスター競演の娯楽性を遥かに超えた、深い味わいのある作品になっていることは、この作品の愛好者の間で知らない者はいないだろう。<br />
<br />
彼の作品は、主に庶民の日常性を題材に描いた一流の人間ドラマに他ならないのだ。成瀬映画について、私は今、それ以外の認識を持ち得ないのである。<br />
<br />
<br />
<br />
19 誇り高い仕事師たちの匠の世界 ―― 成瀬組の完璧なセット造形<br />
<br />
<br />
<br />
―― 稿のテーマを変える。<br />
<br />
<br />
成瀬映画の素晴らしさについて、よく言われることの一つは、彼の作品には駄作が少ないということである。<br />
<br />
殆ど全ての作品が水準以上の評価に耐え得る作品であることは、例えば、出来不出来の落差が激しかったと言われる溝口健二のそれと比べると驚きですらあるだろう。<br />
<br />
有名な作品ではないが、戦前に作った、「芝居道」などという一連の芸道ものの作品の一つですら、とても良く出来ていて、そこに描かれた人間ドラマの完成度は決して低いものではない。<br />
<br />
このような成瀬作品の安定的な水準の高さは、一般に、成瀬組と言われるスタッフのプロフェッショナルな集団に支えられていたとも言われている。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiI-hrj6uClDJBafge2aTRuhsG10Ntx6cmJNBIOs4ZHrnAKlQmKp9vaqLRmgZ5f3bBwT9xcnfKghjeL-0tUVFmM9V0r9SQlFPZJpXna0g7I2-jb4pjwaRgM4Y31IFUNL9h-m3aFzjqTARc/s1600/51FEymQCxQL__SS500_.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiI-hrj6uClDJBafge2aTRuhsG10Ntx6cmJNBIOs4ZHrnAKlQmKp9vaqLRmgZ5f3bBwT9xcnfKghjeL-0tUVFmM9V0r9SQlFPZJpXna0g7I2-jb4pjwaRgM4Y31IFUNL9h-m3aFzjqTARc/s400/51FEymQCxQL__SS500_.jpg" width="277" /></a></div>
中でも、ロケを好まない成瀬の作品の美術装置には定評がある。<br />
<br />
とりわけ、「石中先生行状記」以来、戦後の成瀬作品の美術の多くを担当した中古智(ちゅうこさとる)の手腕は伝説的ですらあるのだ。<br />
<br />
( 因みに、先の「芝居道」の美術を担当したのが彼である。それは、彼が唯一戦前に、「まごころ」と共に美術を手がけた作品として、知る人ぞ知る所である)<br />
<br />
ここに、一冊の著作がある。<br />
<br />
それは成瀬の作品批評に熱心な蓮実重彦が、美術の中古智にその苦労話についてインタビューした内容構成になっている。<br />
<br />
その著作の名は「成瀬巳喜男の設計」。<br />
<br />
そこには、ロケとも見紛うばかりの完璧なセットを造形した成瀬組のスタッフの苦労が紹介されていて、とても興味深い。<br />
<br />
<br />
「浮雲」を例にとると、未だ信じ難いのだが、伊香保温泉の階段を中心にした完璧なセットは語り草になっている。著作から引用してみよう。<br />
<br />
「―― やっぱり階段がたくさんありますね。<br />
<br />
中古 階段のセットはまた別なんですけれども、そこの曲がるところの角に飲み屋がある。そのほかに大通りの先っちょのほうをロングで、実際、昼間ロケーションで撮ってるんですが、セットで同じようなものをつくってくれという注文がでましたね。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgknBHJeYxityjwTnb1us2rqh7SrmD9Fv2k1geMehUOrpkA1kyQoU1AOHsy_NBy9_JiKd-PvxXXAu4DNqzPQkEkeTg-ZGEpfkiqDKVqqyweBdJ50Po0LG0xXX8hl5H0XC-zey-oJuV9bAY/s1600/midareruchukosan.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgknBHJeYxityjwTnb1us2rqh7SrmD9Fv2k1geMehUOrpkA1kyQoU1AOHsy_NBy9_JiKd-PvxXXAu4DNqzPQkEkeTg-ZGEpfkiqDKVqqyweBdJ50Po0LG0xXX8hl5H0XC-zey-oJuV9bAY/s400/midareruchukosan.jpg" width="257" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;"><span style="color: black; font-family: "MS 明朝","serif";">銀山温泉で・中古智</span><span style="font-family: "MS 明朝","serif";">(ブログより)</span></span></td></tr>
</tbody></table>
ああいう建て込んだ所はすぐ太陽の翳(かげ)りが大きく出ますんで、ロケーションなんかできないんですよね。だから、どうしてもセットをということになる。ロケーションに行ってるのに何でこんなのを撮ってこないんだというような騒ぎがいろいろ多かったんです。セットづくりの下準備というのが、あの映画ほど難しい映画はなかったんですよね、ほんとに。(略)<br />
<br />
―― そして手前は何もないようなセットの階段ですか。<br />
<br />
中古 そうそう、石の階段の端の仕上げはしてあるオープン・セットですが、脇にちょっとした隙間が見えるわけです。それが手前の角の家に切られて、その中間は見えない。ただ階段の縁だけがこうなって結末がついているわけです。それで上に上がったところの右方に風呂場がある。あそこは実はクレーン撮影なんです」(「成瀬巳喜男の設計」中古智/蓮実重彦著 筑摩書房)<br />
<br />
<br />
それ以外に「浮雲」の撮影の中枢部分、例えば仏印ダラットやラストシーンの屋久島の描写が、成瀬組の美術の手腕に支えられていたことも知られている。(画像はロケ地の伊豆で、ロイヤルホテルから撮影)<br />
<br />
これも引用してみる。<br />
<br />
「(略)ところでこの映画の撮影は、とにかく仏印には行かないわけですよ。仏印ばかりじゃない、屋久島にも行かないわけです。仏印のような感じが出せそうなのは、伊豆しかない。伊豆で何とか撮れないかということをいろいろ研究して、ハンティングして、何とかして少しでもそれらしく感じを出してくれというのでやったわけです。吊り橋みたいなものがありますが、あれなど全部つくりもので、山中に吊り橋をつくった。森の中で水が流れている所をポッと渡るところ、あれは三島の自然公園という所。場所は全然違うわけですけど(笑)」(同上より)<br />
<br />
このように成瀬的映像宇宙とは、成瀬組という優秀なプロ集団による、それぞれの「分」に見合った手慣れた仕事の集合的な創作的世界であったことが分る。<br />
<br />
そしてその宇宙の中心に、成瀬巳喜男という類稀な仕事師がいた。この仕事師が作り上げた創作現場は、他の映像作家たちのそれと異なって、そこにいつも静謐で、張り詰めたような空気感が漂っていたという。<br />
<br />
それこそ、成瀬的映像宇宙の基盤を支えた一種独特の素顔の現場であった。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiymTb0IgWV-RkqPuuJA7zIRtKpS6314tUHDoMWr-W2aBgCpyMi9XqSjOv0hLlsMXI7AkHoYucKS5x7qLZs2LB5sx2vySGFzSraz5yUqja1M80s5_3RSQVRX6l2O_XssUQPrPDFF9DRDeQ/s1600/dsc07546.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiymTb0IgWV-RkqPuuJA7zIRtKpS6314tUHDoMWr-W2aBgCpyMi9XqSjOv0hLlsMXI7AkHoYucKS5x7qLZs2LB5sx2vySGFzSraz5yUqja1M80s5_3RSQVRX6l2O_XssUQPrPDFF9DRDeQ/s400/dsc07546.jpg" width="400" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">ロケ地の伊豆・、ロイヤルホテルから撮影</span></td></tr>
</tbody></table>
この誇り高い仕事師たちの匠の世界から、日本及び日本人の良さも悪さも象徴するような味わい深い映像世界が、テレビという最も大衆的で、究めつけの快楽装置が出現し、それが黄金時代を迎えるほんの直前まで、長く銀幕の輝きの歴史の一画を、目立たないように占有していたのである。<br />
<br />
誇張して言えば―― 「成瀬巳喜男」、それはまさに最後の映像職人だった。<br />
<br />
「成瀬組」、それもまさに最後の仕事師たちの匠なる集団であったということだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
20 等身大の宇宙に思いを寄せることができる親和力<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
―― 稿の最後に、成瀬映画を、「私の眼差し」で論じてみたい。<br />
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgZcuI3T7zdbBmPVGceYM1UPMBuwz_GygSOINbkAwHwE_-lwTZ07OdKs3mz5fwAcTDtEJAVMk9TsTUAA2IdFfrzKqbhD9aVwifQswL-7GL-N7miDqvEtqZYmyJAhwFCJx3gOOzhRwgPLms/s1600/naruse2.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="426" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgZcuI3T7zdbBmPVGceYM1UPMBuwz_GygSOINbkAwHwE_-lwTZ07OdKs3mz5fwAcTDtEJAVMk9TsTUAA2IdFfrzKqbhD9aVwifQswL-7GL-N7miDqvEtqZYmyJAhwFCJx3gOOzhRwgPLms/s640/naruse2.jpg" width="640" /></a></div>
<br />
成瀬映画とは何だったのか。<br />
<br />
いや、今でも輝きを放つそれは一体何なのか、という問題提起こそ相応しい。<br />
<br />
それを私なりの雑感で綴っていくとこうなる。<br />
<br />
人間として不可避なる死や、寄る辺ない事情による様々な別離とか、感情の微妙な行き違いや打算、裏切りによる葛藤や反目、離反、更には運命としか呼べないような人生の試練とか、偶発的にヒットしてくる不幸や、それに起因する人生の惨状、そして何よりも、一見フラットな日常性が、その内側に抱えている多くの不安や関係亀裂のさまなどを、それが私たちの通常なる人生様態であると突き放しつつも、だからこそ、そんな人生の真実の受容を何気なく迫るリアリズムの映像宇宙が、常に「いま、そこにある」ように展開している。<br />
<br />
―― それが成瀬映画である。<br />
<br />
そこには、私たちの世俗的な市井のステージで、時には寡黙に、或いは、ここぞと言うときのほど良い情感を乗せて、鋭利な緊張含みのストーリーを交えつつ、しかし一貫して淡々と描き出されていて、観る者をなぜか飽きさせないのである。<br />
<br />
なぜなら、そこに描かれている世界は、丸ごと、その時代に生きた私たちの平均的観念や思いであり、まるでキメ細かい一幅の写実に優れた創作性を加えただけの極めてミニマムな、しかしそれ故にこそ、その等身大の宇宙に思いを寄せることができる親和力が、そこに全開しているからである。<br />
<br />
そんな成瀬的映像宇宙の根柢にあるものを私なりに要約すると、「人生は思うようにならない」という、極めてシンプルなメッセージに帰結する。<br />
<br />
そんなあまりに単純なメッセージは、成瀬映画だからこそ最も相応しく、限りなく説得力を持つのである。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcx1IU5r-dIRmdlwTpYfx9n9cQ2_PIPvgQ3Yd7AqCy7xU_3dT__O68xYcUl0hcjDLmCMvNxeGVRNZs8hV-RmlGphqZA-abJrBt4wX2XJAARx7eVywieGNxXWIr96A02EHzLyafU0UG6zI/s1600/f0009381_21351728.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; float: right; margin-bottom: 1em; margin-left: 1em;"><img border="0" height="269" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgcx1IU5r-dIRmdlwTpYfx9n9cQ2_PIPvgQ3Yd7AqCy7xU_3dT__O68xYcUl0hcjDLmCMvNxeGVRNZs8hV-RmlGphqZA-abJrBt4wX2XJAARx7eVywieGNxXWIr96A02EHzLyafU0UG6zI/s320/f0009381_21351728.jpg" width="320" /></a></div>
決して声高に叫ばず、情緒の洪水に流れることなく、常に抑制的で、そこに映し出された人物たちの慌てぶりや滑稽な表現が、観る者の視線と見事に重なってしまうことで、何かある種の安堵感が生まれるのである。<br />
<br />
「これはこれでいい。自分は自分でいい。皆、同じことを悩み、同じところで躓(つまづ)き、同じように重いものを背負って生きている。だからこれでいいのだ」<br />
<br />
実際はそんな単純なものではないのだが、成瀬の作品を繰り返し観るたび、私はいつもこんな思いを抱く。<br />
<br />
その思いが振れるのは、私流に把握する成瀬のメッセージと出会えるからである。私にとって成瀬作品とは、少し元気を失ったときの漢方薬レベルの効用薬であると思っている。<br />
<br />
それは諦念ではない。絶望にも至らない。<br />
<br />
他の者よりも些か辛い日常性を送っている脊髄損傷者としての私が、そこに少しだけ、気分を変えて世俗的な風を入れたいとき、「思うようにならない人生」を生きている成瀬作品に登場する人物たちの固有の辛さに、何か自然に侵入していけるものがあるのだ。<br />
<br />
それは私の好きな親鸞聖人の厳しくも、決して辛き者を突き放さない包容力に包まれたい気分と重なるかも知れない。<br />
<br />
確かに成瀬作品は、しばしば容赦ないほど残酷である。<br />
<br />
そんな苛酷な状況でも、人は生きていく。<br />
<br />
<table cellpadding="0" cellspacing="0" class="tr-caption-container" style="float: right; margin-left: 1em; text-align: right;"><tbody>
<tr><td style="text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjECEvuPin4iR7No3Qu9FPvJW6_iA5XflmJCVJQBUl2MNBSzy55F1k_RZbQXXhExBFOlmq8fJ5wIi9q7Vz08D8WJ7HvSb4CE9Fy2Ezxsb0PqheSDL0HwzQFgIehCB5Z3bvDlhhvwVUTSDQ/s1600/img_862188_9034789_1.jpg" imageanchor="1" style="clear: right; margin-bottom: 1em; margin-left: auto; margin-right: auto;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjECEvuPin4iR7No3Qu9FPvJW6_iA5XflmJCVJQBUl2MNBSzy55F1k_RZbQXXhExBFOlmq8fJ5wIi9q7Vz08D8WJ7HvSb4CE9Fy2Ezxsb0PqheSDL0HwzQFgIehCB5Z3bvDlhhvwVUTSDQ/s1600/img_862188_9034789_1.jpg" /></a></td></tr>
<tr><td class="tr-caption" style="text-align: center;"><span style="font-size: small;">「あらくれ」より</span></td></tr>
</tbody></table>
「あらくれ」の気丈な女も、「稲妻」の自立を目指す四女も、「秋立ちぬ」の薄幸な少年も、「流れる」の年増芸者たちも、「晩菊」のぼやき続ける中年女たちも、「おかあさん」の慈母観音のような母も、それでも皆生きていく。<br />
<br />
生きていかざるを得ないのだ。簡単に死ねないからだ。<br />
<br />
人生とはそんなものなのだ。<br />
<br />
思いっ切り運に見放された男も女も、突然襲来する不幸に怯える者も、ある意味で均しく平等なのである。望むことが容易に手に入る人生など、一体どこにあるというのか。<br />
<br />
仮にそんな人生が一過的に訪れたとしても、そんな僥倖を抱え切ったまま、人生のゴールインを迎えられる訳がないと考えるのが自然である。<br />
<br />
人生は、いつでも思うようにならないものなのだ。それが人生なのである。<br />
<br />
そう考えさせる説得力が、成瀬の作品には溢れている。<br />
<br />
それこそが、私にとって、成瀬巳喜男という監督の最大の存在価値であると言っていい。<br />
<br />
独断的に言ってしまえば、私の把握に於いて、この国の映画史には、成瀬巳喜男と、それ以外の映像作家し存在しない。<br />
<br />
人間の真実の姿を、見事なまでに自然な演出力で、抑制的に表現できる作家という基軸で評価するとき、私にはこんな括り方しかできないのである。<br />
<br />
それほどに、成瀬巳喜男という映像作家は、私にとって特別に価値ある何かなのだ。<br />
<br />
(2006年3月)Unknownnoreply@blogger.com0